姫ギルに転生しましたが、どうやらFate世界では無いようです。   作:Shohei Hayase

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アイドル? え、俺が?

中学生になった……とは言ったが、大して何かが変わるものではない。

 

強いて言うなら、働けるようになった。学業をさほど苦にしてはいないので、それが一番大きい。

 

……というわけで、お小遣いから出した一万円を元手に、FX取引で100万円まで増やしてみた。

 

働けって?

 

うんまぁ、正直その通りだ。認めよう。俺は今すごい楽をしている。

 

それもこれもギルガメッシュの持つ能力のせいだ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()……それを表したスキル「黄金律」、ギルガメッシュのランクはAランク。一生金には困らないとされるこの能力はもはや呪いに近い。

 

それに未来を視る千里眼と合わせれば、ぽこじゃかお金が増える。どの時点で売れば最も金が増えるのかわかっているので、限界までレバレッジを効かせても全く問題がない。

 

王の財宝に収蔵している宝石類はとてもでは無いが売れたもんじゃないので、地道にコツコツ稼ぐ必要があるのだが……中学生がバイトで稼げる賃金なぞたかが知れている。

 

俺の当座の目標としては、大学へ進学すること、18になったら施設を出なければいけないので、それからの費用が必要になる。

 

さらに今生ではアイの面倒も見る必要がある。さすがにあそこまで勉強を叩き込んでおいてポイッと放り出すのは人の心がない。

 

こちらがあまり時間を取らずに大量に稼げるやり方となると、俺の頭ではFX取引くらいしか思い付かなかったのだ。

 

本当に本当の最終手段で、頭にヤの付く自営業をぶっ飛ばしてカツアゲするというのもあったのだが、お礼参りが怖くてやめた。

 

……それはさておいて。

 

先日、二人で街を歩いていたら、金髪を短く切りそろえた髭面の男に声を掛けられた。

 

チャラ男かヤクザの回し者にも見えたが、サングラス越しの瞳はやけに誠実で、話だけは聞いてやろうということになった。

 

「苺プロダクション……?」

 

差し出された名刺には、『苺プロダクション代表取締役 斎藤壱護』と書かれている。

 

(聞かない名前だな。隠れ大手……って訳じゃない)

 

本物の弱小プロダクションのようだ……失礼な言い方だが。

 

頼んだコーラフロートには口を付けず、男の言葉を待った。

 

「あぁ。君たち二人に、お願いがある。 ……アイドルに、なってみないか?」

 

「アイドル?」

 

アイドルというと、アレか。歌って踊って握手会したりライブしたりするアレか。

 

ゾワッと体中に鳥肌が立つ。前世と合算して40近い男がそんな振る舞いをする想像に俺の精神が悲鳴を上げる。

 

だが落ち着け、落ち着け俺。

 

「……なぜ私達なのですか?」

 

気取られないように慎重に、されど十分に驚愕の心持ちを残したまま、俺は斎藤社長の言葉を待った。

 

「君たち二人は原石だ。磨けば光る。 ……そう感じたからだ」

 

正直に答えた斎藤社長に好感度を少し上げて、ちらりとアイの横顔を盗み見る。

 

身長こそ小柄だが、大人びた顔立ちのアイは確かにアイドルとして十分通用するであろう見た目をしている。

 

だが二人? 二人と言ったか社長さん。

 

「私も……ですか?」

 

「え、玲奈はアイドルにならないの?」

 

自分の姿の評価としては、ルックスはまぁまぁ、身長はデカい、仏頂面のトリプルコンボをキメているので、そもそも俺がアイドルになれるのかという点から疑問に思っている。

 

そしてなぜアイはそんなに意外そうな顔をするのか、コレガワカラナイ。

 

「ならないよ。私はアイドルには向いてないし……アイはどう?」

 

彼女は視線を落とし、ポツリポツリと言葉を零す。

 

「……私は、愛がわからないの。子供の頃は愛が全てだった。お母さんを愛すれば、お母さんは私を愛してくれた。けどある時に裏切られて、それから私は、愛という感情をまるで信じられない」

 

それは、今まで誰にも話した事のない、彼女の過去の話。

 

「私は嘘つきだよ。居場所を求めて、自分にも、他人にも嘘を吐いてきた。そんな自分が、誰かを愛せる訳がない。私も、アイドルには向いてないよ」

 

暫しの沈黙は、社長の声によって破られた。

 

「……アイドルになれば、『愛してる』って言葉は山程言う。だが、嘘でも良いんだ。アイドルは上辺を整えるモノだ。裏がどうなっていようがファンは興味を持たない。それはアイドルに求められない。それに……」

 

一度言葉を切る。彼の瞳は、アイを真っ直ぐに射抜いていた。

 

「嘘から出た真、という言葉もある。お前が「愛」を伝え続けることで、それが本当になることもあるかも知れない」

 

社長は淀みなくそう言い切り、アイは大きく体を仰け反らせて伸びをする。

 

「……アイドルになれば、私は「愛」を知れるのかな」

 

「気の持ちようだ。愛は求めるものじゃない。自分から与えるものだ。それが分かってるんなら、案外直ぐかもな」

 

社長の答えは素っ気ない物だったが、アイにはそれで十分なようだった。

 

「分かったよ。私、アイドルになる」

 

「そうか。 ……君はどうするんだ?」

 

社長が私に視線を移す。

 

(んー……アイがアイドルになるっていうんなら、メンタルケア的にも俺が近くに居たほうが良いか? 流石に芸能界の経験はないから、前世知識含めても手探りになる。一度体験しておくのも悪くはない。ただ……)

 

アイドルだけは嫌だ。

 

頭の中で様々な思考を巡らしつつも、その点だけは一致していた。

 

「アイドルではなく……ファッションモデルはどうでしょうか。それでしたら、私も芸能界に入ろうと思います」

 

「モデルか……。確かにウチはモデルの仕事も多いが、君は正直、モデルとしての極めて高いポテンシャルがある。それだったら、ウチじゃなくて大手のスカウトを受けたほうが良い」

 

私の提案に、社長は渋面を作る。

 

……というか、言っていることがよくわからない。

 

「??? つまり、私はアイドルじゃなくて、モデルのほうが向いている、と?」

 

「俺達で作るアイドルグループ……『B小町』は全員がカワイイ系のメンバーだからな。君は口直し……というか、カワイイの中にクールを置くことで双方がより魅力的に引き立つというか……そんな感じで考えていたんだ」

 

成程、社長さんの中では、俺はアイドルよりモデルの適性がありそうだけど、アイ達をより引き立たせる為にはアイドルとして使ったほうが利益になる、と判断したのか。

 

確かに、アイドルとしてデビューしたあとにモデルになった例は数多いが、反対にモデルからアイドルになった例というのはどちらかといえば希少なように思える。

 

それなら最初からアイドルとして育てる方が、経営判断としては正しいのだろう。

 

「それでも、私はアイと一緒が良いんです。ぜひ私をファッションモデルとして採用してください。どんな仕事でも引き受けます」

 

風呂に沈められるのだけは勘弁だけどな!!

 

 

 

 




自己評価:普通の顔、ノッポ、仏頂面

実際:人外の美貌(APP22以上)、女性としてはまぁまぁ高めな身長(160cm)、どこか憂いを帯びながらもクールな表情

他人からの評価って大事ですね。

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