姫ギルに転生しましたが、どうやらFate世界では無いようです。 作:Shohei Hayase
頭をテーブルと並行にしてお願いすることで、俺はどうにかファッションモデルとして社長の芸能プロダクション……苺プロダクションに所属することになった。
基礎的なウォーキングやポージングの技術はレッスンの講師から一回で学び取り、ポージングのバリエーションは苺プロダクションに置かれているファッション雑誌100冊弱を完全記憶して自身のポーズとして取り込んだ。
アイは筋こそいいのだが覚える速度は常人並みか少し良いくらいなので、レッスンの費用も時間もアイに向ける方が合理的だ。普段あまり使わない英雄王スペックを用いて無理やり訓練を終わらせたのには、そういった思惑もある。
とはいえ結果は上々で、社長からも一発で太鼓判を押され、初仕事としてファッション雑誌のモデルとしての仕事を貰った。
「苺プロダクションの金城レナです。よろしくお願い致します」
挨拶をしてヘアスタイリストの元に向かい、ヘアメイクをしてもらう。男の髪というのもあって手入れはそれなりに雑なのだが、そこは英雄王ボディ。キューティクルが剥がれることもなく完璧な状態を保っていて、担当者には随分と驚かれた。
ワックスをつけて貰って、少し髪にボリュームを持たせる程度でヘアメイクは終了し、用意してもらった服に袖を通す。
(ガーリーな、と言うよりは中性的だな。フリフリの衣装じゃないだけマシか)
さほど労せずに着替えを終えて、スタジオの一部を仕切られたパーティションから出る。
苺プロダクションはファッションモデルに強く、この仕事も社長が無理をしてオーディション無しのコネ人事で取ってきてくれた物だ。
下手な結果は出せない。
そして、それが契約である以上、100%以上の完成度を出さなければいずれ契約は切られる。
夢のない話だけどね。3K*1職場以外の非正規雇用だと、求められた通りの仕事をするのは2流、求められた以上の仕事をするのが1流という世界なのだ。
黙っていても金が入ってくるなんて甘い考えなのさ。
故に求められるのは完璧以上の仕事。そしてそれを達成するだけのスペックをこの体は備えている。
ハウススタジオの一角、小物類が設えられたスペースに立って、ポーズを取る。
カメラマンの気分を損ねないように、だが未来視の千里眼を用いて全力でカンニングしつつ『最も良い結果が得られる未来』を選び取る。
……本来なら、ここで止めるべきだった。
ブレーキ役となるべき社長は、アイのトレーニングに付き合っていて不在、そして何より、俺自身が「英霊ギルガメッシュ」の能力について無自覚だった。
まぁ、あれだ。何が起きたかというと……
ついうっかり、出来心で、スタジオにいる全員をカリスマで洗脳しちゃった☆
……何言ってんだ、と思われるかも知れないが、残念ながらこれが事実である。
英霊ギルガメッシュは、スキル「カリスマ」をA+という高ランクで保有している。かつて
能力の説明にはただ一言。《ここまで行くと最早魔力、呪いの類》。
……あぁそうだよ、加減せずにカリスマ全開にしちゃったよ!
内容こそ覚えていたが、ここまでの物だとは正直考えていなかった。洗脳というかミーム汚染というか……それよりももっと悪質なものだ。絶対遵守のギアスみたいなのが制約無しで無限に使えるみたいな感じ。
悪逆皇帝よろしく『貴様達は死ね!』とか言ったら本当に死にかねないような状態だったので、早急に元に戻す必要を感じた。
それとなく、監視カメラに気を付けながら全員が飲む飲料水に洗脳解除の秘薬を混ぜておいたが……アフターケアは万全とは言い難い。そもそも外部の人間が多すぎてどこの誰が誰なのかが判別できなかったのだ。
(これテレビじゃなくて良かったあぁ……テレビ放映されてたらマジで取り返しがつかなくなってたんじゃないか?)
カリスマの適用範囲はまだ分からなかったが、少なくとも俺と顔すら合わせなかった数人が洗脳されている時点で、画面越しでもカリスマの効果は適用されるようだ。全国ネットにこんなモノが映ろうものなら……
(危ねえ……日本崩壊の引き金を引くところだった)
カリスマの洗脳を解いて撮影監督と話をした所、ポーズ自体は問題ないようだったので、今度はカリスマの出力を半分程度に抑えて同じポーズで写真を撮ってもらった。元の写真はうっかりを装って消去しておいた。
まぁ、その程度でどうにかなるなんて見通しは、ちゃんちゃらおかしかった訳だが。
A+ランクを半分にしたところでAランクのカリスマ……具体的に持っている奴の偉業を上げると、紀元前数百年前にも関わらずアフロ・ユーラシア大陸の6%を領土にしたスーパー征服王レベルの魅力を持っていることには変わりない。
そして、写真となってもなお残り続ける呪い……カリスマの残り香は、世間にとんでもない影響を与えていた。
「ん……電話?」
仕事を終えてから暫く経って、雑誌の発売日の朝。枕元で鳴り響く携帯電話を寝ぼけた意識のまま探り当て、通話ボタンを押して耳に当てる。
『あぁ金城か! 起きてて助かった!』
血相を変えた社長の声に、俺の顔からさっと血の気が引くのを自ら感じ取る。
(なんだ、あの社長が朝から電話してくるなんて余程のことだぞ!? まさか、何かミスが!? それともカリスマ洗脳がバレた? どっちにしろ今すぐ謝らないと。完璧な仕事をやり遂げられなかった私の責任だ!)
思考は一瞬。
「すみません、私の至らなさで社長には大変ご迷惑をおかけしました! 今後はよりモデルとしての研鑽に努め、十分に撮影者の意見を反映しつつより魅力を引き出すアプローチを……!」
頭の中で文を捏ねくり回し社長に伝える。電話越しとはいえ誠意を見せるために何度も頭を下げてパーフェクトな謝罪の構えを作る。
『ちょっと待て! 何だか分からないが君の想像とは多分逆だ! 雑誌は売れた! 大成功だ! 今後のことを話したい。今すぐ事務所に来てくれ!』
だから、社長の言葉は俺の想定の真逆を行くもので……
「──へっ?」
思わず俺は、そんな間抜けな声を出してしまうのだった。