姫ギルに転生しましたが、どうやらFate世界では無いようです。   作:Shohei Hayase

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やっちゃった……

「店頭出荷分の20万部は即完売、売上予想は予約分だけで50万部、潜在需要を含めた編集部の予測では累計100万部もあり得るとの事だ。今は輪転機を全力で回してはいるが……」

 

嬉しさ半分困惑半分といった表情で、社長がホワイトボードをペンで叩く。

 

「何というか……すごい売れましたね」

 

今回俺が出させて貰ったのは中堅少し上くらいのファッション雑誌で、売上は月間10万部程度。

 

社長の話では、雑誌の編集長が俺の写真を見たときに『これは行ける』と思ってくれたらしく、本来なら初版で用意するべきでは無い部数を刷ってくれたが……それでも尚足りなかったのだとか。

 

「おう。ところで金城」

 

社長は神妙な顔をして俺の名前を呼び、

 

「……1つだけ聞きたいんだが、コレじゃ無いよな?」

 

そう言って彼は頬を指でなぞった。

 

「いやいやいや違います誓ってそのような事はございません」

 

頭にヤの付く自営業と一緒にされては困る。反社会的勢力と関わったことなど一度もない。

 

猛然と否定することによって、どうにか社長は俺を疑うのを止めてくれた。

 

「あんまりにも売れるもんだから、てっきりサクラでも使ったのかと思ってな……まぁ、思い違いならそれで良いんだ」

 

見た目的にはあんたの方がそれらしいぞグラサンパツキン野郎。

 

……まぁ、ただの逆恨みか。やめやめ。

 

普通に考えたらおかしいもんな。ぽっと出のファッションモデルが雑誌を20万部売った……って、どこのラノベか悪徳芸能事務所の勧誘かって話。

 

「さて、それで今後の活動について話をしたいんだが……」

 

「はい社長! 玲奈をアイドルにするのはどうでしょうか!」

 

微妙な空気は社長の一言によって払拭されたが、それすらも今まで一言も喋らなかったアイの提案によって打ち崩された。

 

「待ってアイ。社長も頷かないで? っていうかレッスンはどうしたの?」

 

「今日はお休みー」

 

俺のジト目を意にも介さず、アイは大きく伸びをする。

 

流石(さすが)に根を詰めすぎたからな。アイは休養日だ」

 

「わかりました。 ……いやアイドルになるのを認めた訳じゃないですからね?」

 

そう釘を差しておくが、果たしてどこまで持つのやら。

 

「んで、今後の活動についてだが……どんな服を着たいのかと、テレビとかに出る意思はあるのか、この2つだな」

 

社長の言葉に、視線を落とす。

 

「出来れば中性的な服を着たいのと……テレビに出るのはいいですけど、露骨なセクハラとかそういうのは辞めてほしいなって……その位ですかね」

 

「だいぶアバウトだな……もっと突っ込んだ条件を付けられるかと思ったが」

 

「社長は私を何だと思ってるんですか?」

 

何というか、社長の言葉遣いからはだんだんと遠慮が取れていっているように思える。変に怯えられるよりはいいし、悪い気分ではない。それだけ俺に心を開いてくれていると言うことなのだろう。

 

「一度成功すれば、どんな人間であろうと天狗になる。自分に価値があると気付くからな。そのテストも兼ねてだ。ぶっちゃけて言えば、ここまで有名になった時点で仕事は相当選り好みできる」

 

「あぁ、その一回の味が忘れられなくて駄目になるやつですね。分かりました、気を付けます」

 

俺は前世の年齢分の積み重ねがあるからまだ良いが、本来ならまだ進学したばかりの中学1年生なのだ。ここまでに大きな成功体験は後の人生に強烈な影響を残すだろう。

 

「なら、金城は問題無いな」

 

「はい。大丈夫です。アイの調子はどうですか?」

 

幾ら英雄王スペックで特訓に掛かる時間が短縮できるとはいえ、何かと並行して行えるわけではない。俺が学習している間はアイを放ったらかしにしてしまった為、その間の進捗も確認しておきたかった。

 

「アイはあと1……いや2週間で仕上がる。デビューライブの場所も抑えた。流石の学習速度だ」

 

「それは……凄いですね」

 

正直、あと一ヶ月は掛かるかと思っていたが、俺の予想を超えて来たことに偽らざる驚きの言葉が漏れる。

 

未経験の状態からアイドルとして振る舞えるまで自らを鍛えるのは、並大抵の努力では難しい。アイドル養成所で学べば最低でも半年は掛かるカリキュラムを、アイは一月足らずで制覇したことになる。

 

「フフン、私だってやればこれくらいは出来るよ!」

 

「やる気を出すのは結構だがな……星野アイと金城レナは多分会うことのほうが少ないぞ?」

 

社長の言葉にアイは首を傾げ、私は軽く溜息を吐く。

 

「えっ、なんで? 社長私言ったよね私と玲奈をいつか一緒に踊らせるって」

 

「わかったわかったいつかって言っただろ揺らすなバカアイドル」

 

社長の両肩を掴んで振り子のごとく揺らすアイを宥めつつ、優しく抱き留めて背中を数度優しく擦る。

 

(というか、俺をアイドルにするのまだ諦めてないのかこの人。強情だな……)

 

「私は玲奈と一緒が良いの! 玲奈からもなにか言ってよ!」

 

彼女は子供のように駄々をこねて、そこで俺を初めて見上げた。

 

瞳の中の星は何時になく揺れ、不安に瞬いていて……俺は少し正直になることを、決めた。

 

「……アイ、よく聞いて。人には向き不向きがある。それは人が天に与えられた才能が別の方向を向いているから。アイにはアイドルの才能がある。この国で一番のアイドルになれる才能が。私にはファッションモデルの才能がある。この国で……一番のファッションモデルになれる才能が」

 

どの口が、と考えつつも、言葉は止まらない。

 

「勿論ファッションモデルがアイドルをやれない訳じゃないし、その逆も同じ。だけど、それは本来持っている才能を殺すことになる。今のままだと、どちらかに合わせたら、どちらかが不幸になる」

 

「だから、諦めろって言うの……?」

 

「勿論、いつまでもじゃない。もし、アイが日本一のアイドルになったら、私を特別ゲストとして呼んで欲しいな」

 

それは、互いにとっての約束であり、目標であり、決意。

 

「本当に? 約束する?」

 

「勿論さ」

 

「絶対だからね?」

 

「分かってる」

 

アイを抱き締めるのをやめて、正面から向き合う。

 

彼女の輝きは、元に戻っていた。

 

「なら、私頑張るよ、アイドル!」

 

「うん。 ……そうだ、私が『B小町』の宣伝をするのはどうでしょうか?」

 

俺としても、アイをただの地下アイドルで終わらせるつもりなど毛頭無いので、サポートできる所は全力でサポートしていく心算(つもり)だった。だからこその提案だったのだが、社長の表情は芳しくなかった。

 

「いや、このタイミングで、金城レナがアイをゴリ押すのは反発が強い。身内贔屓に思われてしまうからな。アイとレナはあくまでも知人であって、それ以上の存在ではない……そういうことにしてデビューする。良いな?」

 

「えぇー!? 身内贔屓したっていいじゃん?」

 

「バカ言え。政治家やら財閥やらで世間様から一番嫌われるのが身内人事だ。万一炎上なんてしたら、事態は完全に俺たちのコントロールを離れる。期待の新人を共倒れさせるバカが居るかよ。悪いがこれは経営判断だ。どうにもならん」

 

どうしようもなくなって、自ら悪役を買って出てくれた社長には、頭が下がるばかりだった。

 

 

 

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