推しの子視聴後、アイロスで脳を焼かれました。
 ワァ……ァ……
 泣いちゃった!
 
 そういや推しの子で人外もの少ないなぁと思い見切り発車。

 出発進行ー!

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星を飲み干す狼

 

 

 

 私を庇った彼に目を焼くビームライトと共に、猛スピードで大型トラックが突っ込んできた。

 

 目の前の光景が信じられず、

 

 時間が、

 

 世界が、まるでゆっくり進んでる様に感じて、私の中の古い記憶が蘇る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そこを……退け!」

 

 力強くお腹の奥まで響く男の声で、私はせめて泣いてやるもんかとスカートの裾を握り締め俯いていたが、ハッと顔を上げた。

 

 飛び込んできたのは私の横を吹っ飛んでいくいじめっ子と、白髪の転校生が顔を歪めて牙を見せながら右腕を振り抜いている姿。

 瞬きの何百分の1かもわからない短い時間だったけど、目元まで隠れる長い前髪から覗く、星の浮かんだ金色とカチリと目が合った。

 一瞬で私の内面を見透かされた様に感じ、貫かれた。

 

 転校生の男の子は確かに怒ってたけど……でもちっとも不快じゃなくて、母さんと同じ眼をしてるのにどこか安心感すらあった。

 

 「……泣くな。もう大丈夫だから。綺麗な顔が台無しだぞー?」

 

 私より少し背が高い男の子は自然と見下ろす形になり、下からは彼の顔が至近距離でよく見えた。

 浅黒い肌、お日様の光でキラキラと透ける白い髪、外国人みたいな綺麗な顔、何より目を引く金色の星の瞳。

 

 さっきまであんなに怒っていたのに、今は安心して泣き噦る私にオロオロしてる。そんな姿が面白くって涙はもう止まってたけど、少し揶揄おうかなっと思った瞬間またあの眼で見抜かれて、途端責める様な眼に変わる。

 

 あ、やだ……その眼はやだ……!

 

 くるりと踵を返す男の子の手を握って引き止めようとするけど、力が強過ぎて逆にこっちが引っ張られた。

 

 

 

 

 

 お昼休みが終わるチャイムが鳴って、重たい足を引き摺りながら教室に戻っても、例の転校生と私を虐めてた数人の男女がいないし、いつもと違う先生が大人しく自習してなさいって言ってる。

 

 結局、その日から私へのいじめは無くなった。いや、いじめ自体が無くなった訳じゃなくて、逆に今まで私をいじめてた子達がいじめられていた。

 

 その子達がクラス全員の財布を盗んだり隠したりしてた。教科書を破ったり上履きを隠したり、筆箱とか鞄まで。それが先生に見つかっていっぱい怒られてた。

 

 そんな事よりあの転校生君が私と一緒の施設に来た。名前は……何だっけ?おおかみ……うん、狼君だ。

 私は嬉しくて狼君に付き纏った。トイレもお風呂も寝る時も、勿論学校でも!次第に授業でも先生は私達を二人組にする様になった。

 

 どうやったかはわからないけど全部狼君のおかげ。彼の隣は安心する。多分、彼の前で嘘を付かなくていいから。嘘付いたらすぐにあの眼になっちゃうし、それは嫌だし、嘘がバレてるなら嘘を吐かなきゃいいんだって。

 そしたら彼は仕方なくだけど私と一緒にいてくれる。

 

 でも、心も体も成長してくると、次第にそれだけじゃ満足できなくなっていった。

 

 どんどんかっこ良くなっていく狼君。身長もぐんぐん高くなって、顔も昔の面影を残しながらシュッとして、街で読モ?にスカウトされたとかで、ボサボサだった髪は短くモデルさんみたいに切り添えられて、本当の外国人みたいになった。

 

 対して私は、鏡に映るのは伸ばしっぱなしで手入れもしてない髪。自信のない眼に癖になった猫背。今までは気にもしなかったけど、これはまずいって思った。

 こんなんじゃ狼君に飽きられちゃう!

 焦った私は急いで髪を切って背筋を伸ばして自信に満ち溢れた嘘のベールで身を包む。

 

 母さんが綺麗な顔に産んでくれて良かった。狼君も私の事綺麗な顔って言ってくれたし、私の顔が好きなんだ!

 

 街で彼と待ち合わせしていたら、知らないおじさんに声かけられて、すわナンパかと身構えたけど、どうやら芸能プロダクションの社長自らスカウトしたいと言われた。芸能界でも通用する私の容姿に自信を持ち始めた。

 アイドルになってからは社長に頼み込んでチケットを一枚融通してもらい、呼べば狼君は毎回観に来てくれた。

 

 私のアイは全部狼君に向けられ、いつかは彼も他のファンと同じ様に私を愛してくれるはず。

 これでもう大丈夫。全部上手くいく。……そう思ってた時期もあった。

 

 

 

 

 

 中学に上がってからクラスメイトは勿論、同学年に限らず上級生や果ては下級生まで。休み時間はいっつも誰かが私の周りに集まって来ていた。

 狼君とは違うクラスになっちゃうし、向こうからは会いに来ないし、授業中も放課後も手紙で呼び出されるし、こんなの私が望んだ未来じゃない!

 

 そんな生活が二年も続けば、少しずつ慣れてきて適当な理由で抜け出すこともできる様になっていた。

 行き先はトイレと嘘をついて、行くのは決まって隣のクラスの狼君。私はあんなに囲まれてるのに、狼君は女子から遠巻きに鑑賞されてるなんて不公平だ!なんて怒った事もあった。

 

 「そんな理不尽な……」

 

 面倒くさいって態度を隠そうともしないのはちょっとムッとしたけど、私はそんな彼の自然体が好きだった。

 

 私達の腐れ縁?は続いていたけど、ついにその日が来てしまった。

 

 

 

 

 

 その日は、抜け出すのに手間取って、少し遅れて狼君に会いに来た。教室の扉を開ければ、いつもの席にいなくて、何だか教室全体が騒がしい。

 皆が一斉に同じ方向を向いていて、導かれる様に私もそっちを見た。見てしまった。

 廊下とは逆側の教室を挟んだベランダで、狼君が知らない女を抱き締めているのを。

 

 彼の腕の中の女が、彼に恋する顔を向けているのも。全部、見てしまった。

 裏切られたと思った。私だけのヒーローだと思っていたのに!私だけの味方だと思ってたのに!私だけを好きだと思っていたのに!

 

 翌日の放課後。今までずっと一緒に帰っていたのに。

 

 「用事があるから、先に帰ってていいぞ」

 

 なんて私から離れていく。狼君があの女に手紙で呼び出されてるのなんて知らない訳ないのに!

 

 やだやだやだ!なんでそっちに行くの?私から離れないでよ!私を見てよ……一人はもう嫌だ……。

 

 とぼとぼと一人で帰る途中。公園が見えて、引き寄せられるように物寂しいブランコに座る。

 砂場で遊んでいた子供を母親が呼んでいる。パタパタと走って来た泥だらけの子供を躊躇なく抱き上げた。

 それを見た私は思わず目を瞑って耳を塞いだ。

 けれど、予想していた光景とは違い、母親の服が汚れても怒らずに笑いあって帰っていく親子。

 

 「家族……」

 

 私が知る愛は、寂しくて、悲しくて、寒くて、痛くて、鉄の味がして、その先に待っていた母親の優しい言葉だけ。あんな家族もあるんだ……。

 お母さんとは愛し合えなかったけど、狼君は私を叩いたりしない。落ち込んでると抱き締めて慰めてくれた。嬉しい時はいつも話を聞いてくれた。寂しい時は黙ってそばに居てくれた。狼君なら……。

 目の前がキラキラして世界に色が戻って来る。

 

 ──閃いた!私は急いで家に戻って準備を始めた。

 

 

 

 

 

 私がアイドルをやる上で、施設育ちは個性だと佐藤社長は言ってくれたけど、防犯意識から社長自ら私の後見人になってくれてマンションの一室を借りてる。

 私はあんまり家事とか得意じゃないから、施設からわざわざ毎日迎えに来てご飯やお弁当の用意をしてくれてる狼君には、とても感謝してる。

 

 でもこのままじゃ……あの女に狼君が取られちゃう。そんな事絶対に許さないし、認めない。

 

 型落ちの携帯で狼君を呼び出す。

 文面はえーっと、お・な・か・す・い・た・ご・は・ん・た・べ・た・い、と。これでよし。

 後は、食後の冷えたジュースを用意して、狼君を待つだけ。

 

 「楽しみだなぁ……」

 

 

 

 

 

 合鍵は渡してある。狼君が来てることを社長は知らないけど、たまに弁当を買って来てちゃんと生活できてるか抜き打ちされるから気を付けないといけない。

 でも社長なら昨日来たから多分今日は来ない。

 

 メールの返信が届いて急いで開く。

 

 「わかった。すぐいくだって!えへへ、すぐ来てくれるんだ〜。じゃあ告白は断ったのかな?よかった〜」

 

 携帯を閉じて胸に抱きながらソファーで横になる。頬がニヤけるのが止まらない。止める気もないけど。さっきまでの不安やモヤモヤがスッと無くなって頭の中までスッキリしちゃった。

 

 「すごいなぁ、狼君……私のファンの皆もこんな気持ちなのかな?」

 

 ガチャ。玄関が開いて今一番聞きたかった声が聞こえてくる。

 

 「起きてるか?」

 「起きてる起きてる!待ちくたびれちゃった」

 「はいはい。すぐに作るから待ってろ。ああ、それと来週のスケジュールは出たのか?弁当とか賞味期限があるから早めに教えてくれよ」

 「わかってるよっ」

 

 私が急かしたのもあるんだろうけど、文句も言わずに台所に立ってくれる狼君の大きな背中を眺める。

 私を構成する普段の姿は嘘ばっかりだけど、嘘に気付いて咎める眼をする狼君の前だけは、普通の女の子でいられる。

 

 アイドルとしての私は嘘だけど、施設育ちな私達にとって、今の生活がとても幸運でとても温かなものだと感じる。

 こう、幸せだなぁって。

 この場面だけ見れば新婚さんみたいじゃない?TVで見た事ある家族とは逆かもしれないけど。

 

 テキパキと慣れた手付きでテーブルの料理が増えていく。大手の芸能事務所はどうかわからないけど、アイドルの給金は多くない。むしろ中抜きが酷い。

 って言えば、狼君は。

 

 「その歳でそんだけ稼げてれば上等」

 

 だってさ。中学生のできるバイトを目一杯働いた分の2倍?って考えれば、確かに多い方なのかも。

 

 「「いただきます」」

 

 向かい合わせに座って手を合わせる。狼君は普段は放任主義なのに意外と作法にはうるさかったりする。教養だとか知識は裏切らないだとか。昔から口酸っぱく言われて来た。

 

 どこで覚えたのか、箸の持ち方とか食べ方とか全部施設時代に矯正された。苺プロの社長には驚かれたっけ?

 最初こそ辛かったけど、狼君が根気強く付き合ってくれたおかげで、楽屋やバライティに出演してもスタッフさんや他の共演者に褒められた。私は褒められて伸びる子なのです。

 

 一緒に過ごす内に狼君は私がお腹一杯になる量を完璧に把握していた。

 目の前の綺麗に平らげたお皿に手を合わせ、ごちそうさまをする。

 いつもなら食器の片付けも全部狼君が下げちゃうんだけど、今日の私は一味違う。

 

 「手伝うよ」

 「なら、俺が洗い物をするからそこの布巾で拭いて、食器を立てて乾かしてくれ」

 「これ?わかった」

 

 どう?自然に狼君の後について行って手伝いを買って出る。洗い物が終わるまで世間話をしながら狼君を観察する。横目で何してるんだとか思われてそうだけど。

 手とか、身長、腕っ節、背格好全部が大きくて男の人って感じ。

 

 「ジロジロ見てどうした?」

 「別に〜、何でもないよ。それより喉乾いた。ジュース買って来たんだ。飲む?」

 「珍しいな。いつもならメールで俺に買って来させるのに」

 「今日は一人で帰ったし、偶々目に付いたんだもん。いらないなら全部飲むよ?」

 「悪かった。貰うよ」

 「あ、先座っててコップと氷も私が用意するから」

 「本当にどうした?熱でもあるのか?」

 「不敬!」

 「難しい言葉知ってるな。熱はないか。わかった待ってるから落っことすなよ?」

 

 軽くおでこに手を当てて熱がないか確かめられた。揶揄われている訳でもなく、彼は大真面目に心配してくれてるのがわかるし、自分の普段の行いが原因なんだけど。

 なんか納得いかない。

 

 硝子のコップに氷をたっぷり入れて冷えたジュースを注ぐ。その時に狼君の方によく眠れる薬を入れるのを忘れない。

 横や底から完全に溶けたのを確認して、先にソファーで待っていた彼に直接手渡した。狼君はそれを何の疑いもなく一気に飲み干した。

 

 「ガリッ」

 「氷って美味しいの?」

 「んー?、無意識に食ってた」

 「ふーん。う、氷入れ過ぎた……」

 「ゴリッゴリッ……ちょっと寄越せ」

 「うん」

 

 ジュースは飲めたけど氷が多くて飲みずらかったのを見兼ねて、わざわざ氷を噛み砕いてコップの空いたスペースに私の氷を移してくれる。優しい。お礼にもう一杯注いじゃお。

 

 この家でのTVのチャンネル権は私だ。社長名義だけど私の家だし当然なんだけど。B小町の人気もまだ少ないから、自分が出演した番組を見る事も少なくて、次に出る番組の予習とか以外は好きに見てる。

 勿論、同じソファーに座って狼君の肩にもたれながら。ちっちゃい頃からずっとこんな感じ。私が追ったりくっ付いたりして、彼はそれを邪険にしたり避けたりしない。

 

 そろそろ薬が効いてきたかな?珍しく眼がトロンとしてる。

 

 「眠い?ちょっと寝て帰る?」

 「んー」

 「立てるかな?ほら、歩くよー」

 「ん」

 

 私よりかなり身長も高いから、重いのなんのって。

 なんとかベッドに連れてって寝かしたけど、この後どうやるんだっけ?えーっと……まあいいや。ズボンとパンツ脱がしちゃえ!

 

 

 

 

 

 結論から言うと、失敗しちゃった。テヘッ☆

 いやぁ、男の人のアレってあんなに大きいんだね。教科書のと全然違ってびっくりしちゃった。それで自分でやろうと思ったんだけど上手く入んなくて手間取ってたら、予想してたよりもかなり早く狼君が起きちゃって。

 もう、めちゃくちゃ説教されちゃった。

 飛び起きていきなり頭掴まれた時は、あ……死んだって思ったもん。

 

 なんと言うか、狼君の家庭も色々あったみたいで彼自身子供は望んでないし、何なら一生独り身でいいとか言い出すし……。

 じゃあ何で私はいるのかなって。初めて助けてくれた時から狼君が普通の人間じゃないって知ってたし、私なら狼君を誰よりも愛せるし、私は狼君しか愛せないと思ってたのに。

 

 「怒らせるつもりはなかったの。嘘じゃないよ?」

 「嘘じゃないのはわかってるし、その事はもういい」

 「よくない……全然良くない!」

 

 駄々っ子みたいに癇癪を起こして、彼をポカポカ叩き、堪え切れず涙がこぼれる。

 

 「私がこんなにも欲しい愛を貴方はいらないって……そんなの、そんなの……ずるい」

 「ずるいってお前……」

 

 狼君が呆れ顔で頭を撫でてくる。うん、やっぱり落ち着く。母さんはいつも髪の毛を引っ張ってきたし顔を叩かれたりもしたから怖かったし痛かったけど、狼君の手はいつも優しいしあったかい。

 でもこのままじゃいつも通りだ。それは嫌だ。

 

 狼君のシャツのボタンを外して脱がし始める。狼君って力が強くて誰にも負けないから、私の気が済むまで好きにさせてくれるんだよね。寛容?っていうか私に甘いだけなんだけど。

 

 そんなだから、私みたいなのが勘違いするんだよ?

 その責任をとってもらわないと。

 

 ボタンを全部外したら見てわかるほど盛り上がってるのに石みたいに硬い体がチラリと覗かせる。

 ムラっときて私も下着を残して全部脱ぎ捨てた。準備万端。

 

 「何して……」

 「狼君、ううん、ジュン君。パパになってよ」

 「話聞いてなかったか?俺は……」

 「聞いてたよ。だからこれは私のワガママ」

 

 ジュン君は私が動き出せば諦めたように、起き上がって私を押し倒した。声では揶揄って余裕を見せるけど、多分ビックリしたのも、びくともしない男の子の力強さに、少しときめいてしまったのもバレてる。

 それから性知識の乏しかった私に変わって、かなりの時間、じっくりと前戯でトロットロになるまで解されて何度も何度も何度も快楽を味わされて、ジュン君の物だってわからせられた。

 

 直感的に当たりの日かな〜とは思ってだけど、一ヶ月後見事に的中した。

 流石、私。

 

 高校は中退してアイドル活動に専念してたけど、流石にお腹が大きくなったら隠しきれなかった。

 ジュン君だけには妊娠検査薬で先に教えていたけど、一日くらい不安定になっちゃって、今度は私が甘やかしていっぱい愛し合った。可愛かったなぁあの時のジュン君。

 

 妊娠を隠しながら芸能活動していた時に出会ったヒカル君に少し惹かれたけど、もう私の体も心もお腹の子も全部ジュン君のだから、最後の一線は越えなかった。

 でもヒカル君の匂いを付けて帰ると、ジュン君がいつもより激しく愛してくれた。愛たっぷりの告白もされたけど、欲しかった愛はもう貰ってたから。

 ジュン君よりも先に出会ってたら、わかんなかったけどね。

 

 社長にバレてからはジュン君と会えなくなって辛かった。よく考えなくてもスキャンダルだもんね。でも毎日社長の自宅で何故か届く宛先の無い手紙だったり、夜寝る前のベッドでは、長くて白い毛とジュン君の匂いに包まれながら寝れたからそこまで寂しくはなかった。

 

 社長に連れられ地方の……宮崎県の病院で出産する事になった。流石にこの距離はジュン君でもって思ってたら、社長が帰ってからこっそり会いに来てくれた。それも毎日。

 私の旦那様イケメンすぎでしょ。

 

 鼻が効くからか、社長がいる時は絶対に来なかった。だから私も誰にも彼の存在は話してない。そもそもジュン君社長達と面識ないもんね。私が孤児院から車で迎えに来てもらった時くらいじゃない?

 陣痛が始まってからも、いないはずなのにジュン君はずっと私の手を握ってくれてた。

 

 

 

 

 

 そしてついに元気な双子の赤ちゃんが、私とジュン君の子が生まれて来てくれた。

 

 「ありがとう……これからよろしくね」

 

 子供達の名前付けは難航した。というのも手紙で予め名前の候補を考えて貰ってたんだ。けどどれもしっくり来なくて、結局私が思い付いた「愛久愛海」と「瑠美衣」にして市役所に出した。

 

 後でジュン君に、テストとかで名前書く時間が勿体無いって言われて、確かにアクアには悪い事しちゃったかなって。でもアクアマリンって宝石でいいよねって今でも思ってるよ。勿論ルビーもね。

 アクアはジュン君似で、ルビーは私に似てるかな。あははどっちも美男美女決定だ。

 

 私の子、私の家族、私だけの大切な……愛。

 

 社長が迎えに来てくれて、ジュン君との愛の巣は解約されてた。代わりに社長の家に居候する事になったけど。ジュン君に会いたいなぁ……。

 ジュン君も子育てしたいだろうし、ジュン君の子なんだから当然だよね。でも社長達には内緒だし。

 

 

 

 

 

 ある日、ゆりかごの中ですやすや寝てる二人に耳と尻尾が生えてた。ウチの子きゃわわわ〜〜!!

 ていうかやっぱり狼になるんだ!でもこれ社長達に見られたらまずいよね?……どうしよ。

 

 数日後、社長夫人のミヤコさんが仕事で社長についてって私達三人になった時、リビングにモヤが立ち込めて段々と濃くなって人型になったと思ったら、ジュン君だった。

 

 「久しぶり!」

 「病院以来だな、アイ」

 

 会いたかった旦那様の胸に飛び込んでそのまま抱き付く。ぐへへいい匂い。このままベッドに……。

 そう思っていたらルビー達が起きてだして泣いていた。お腹が減ったのかな?それともオムツ?

 

 「オムツじゃないな。お腹が空いてるかもしれないぞ」

 

 ジュン君が鼻をスンスンさせてる。やっぱ鼻が良いんだ。耳も良いみたいだし、人懐っこいからオオカミっていうより犬だよね。

 

 「お〜よしよし。お腹空いたのかなぁ?ホイっと」

 

 シャツを捲ってルビーの口元に近付ける。まだちょっとぐずってるけどお腹は空いてたのかおっぱいは飲んでるね。

 

 「……つ電板はなさそうだし、俺っていうより親父っぽいな」

 「どうしたの?」

 「こっちの話だ。多分だが、二人はいきなり知らない俺がいてびっくりしたんじゃないか?アクアを抱き上げたが完全に固まってるし。人見知りか?」

 「そういえばこれが初顔合わせか〜。二人とも、この人が私の旦那様、君達のパパですよ〜」

 「「!?」」

 

 おっぱいを飲んでたルビーも眼だけでジュン君の方をガン見してる。ウチの子もう言葉がわかってるみたいだし、天才じゃない?

 その後、バイトの時間になるまでジュン君は子育てを手伝ってくれたけど、二人から警戒されてるのか上手くいかないのがなんだか面白くって笑っちゃった。ジュン君も苦手な事があったんだね。

 

 でもやっぱり家族なんだから、皆には仲良くしてほしいな。

 ジュン君が帰った後、二人を抱き上げてジュン君との出会いだったりいっぱい昔の事を話しかけた。

 帰って来た社長からは赤ん坊に何話しかけてんだ?と変なものを見る目で見られた。失礼な。

 ウチの子達は天才で早熟なんです〜。ただちょっと好き嫌いが激しいだけでいつもこんなに可愛い。

 

 社長達がいない時間を縫ってジュン君は会いに来てくれた。私としてはジュン君ともっと会いたいって思ってるんだけどな。この子達の父親を隠してるから大っぴらに話せないんだよね。ジュン君と別れさせられても困るし。

 

 そうジュン君に話した訳じゃないけど、何か悩み事かと見抜かれてしまった。もう私はジュン君に対して嘘も隠し事もできなくなっちゃったんだね。

 ジュン君が来ると、決まって泣き出してしまうルビーをあやしながら私の胸の内を打ち明ける。

 

 「……確かに難しいな。アイドルのスキャンダルは社長さん達も避けたいだろうし、俺なりに気を使ってたんだが……アイもそろそろ復帰だろ?」

 「そうなんだよね。仕事をしてる間はミヤコさんにこの子達を任せる事になるだろうし……あ、同じ施設出身って事でベビーシッターで雇えば!」

 「現役高校生の俺をか?しかも俺はこの子達からあまり好かれてない。そもそも情報漏洩のリスクはどうなる?」

 「むぅ〜。じゃあどうしたら良いの!?」

 「……全く方法がない訳じゃない。アイは俺と一緒にいたい。この子達と仲良くしてほしい。そうだな?」

 「うん」

 「……ここはペット可の部屋か?」

 

 ジュン君の質問の意味はわからなかったけど、演技は得意なんだろ?任せたとジュン君から褒められたし、期待されちゃやるしかないでしょう!

 

 

 

 

 

 次の日、我が家に新しい家族ができた。真っ白な犬のジュン君です☆……いやどういうこと?

 佐藤社長曰く、車で汚れた子犬を轢いちゃったらしくて、ミヤコさんが大の犬好きですぐに動物病院に連れてって体調に異常はないし、怪我もそこまで酷くないのでその場で予防注射や風呂をしてもらい、家で飼う事になったらしい。

 

 白い犬の目を見る。本当に何してるのジュン君?

 これでいつも一緒だぞじゃないの。というか完全に犬……狼にもなれたんだね。私知らなかったなぁ?

 

 気不味そうに顔ごと背けるジュン君(仮)に少し溜飲が下がり、クスッと笑う。彼なりに考えて私の我儘に何の文句も言わず付き合ってくれる。無償で私に愛を捧げてくれる。それがどれだけ嬉しいか貴方にはわからないでしょうね。

 

 ミヤコさんと名付けで一悶着あったけどジャンケンで無事ジュン君に決定した。

 幸い犬のジュン君にはルビー達も懐いてくれて、二人と楽しそうに遊んでくれてる。それを最新モデルに機種変した私とミヤコさんが動画と連写するのが日常。

 

 

 

 

 

 私の子供達に耳と尻尾が生えてた事に関して、社長やミヤコさんはすごくびっくりしてたけど、子供達よりもこの子達の父親とどうなったらそうなるのか二人は理解不能な目で私を見て来た。まあ結果オーライ?

 ジュン君によれば子供達も完全に犬……狼状態になれるそうだけど、それには練習が必要だって言ってた。

 

 今の時代、赤ちゃん用品も多種多様になってて犬耳や尻尾付きのパジャマがあるらしいので、多少の誤魔化しは効くらしい。

 犬状態だけど、ちゃんと子育てできてるジュン君とミヤコさんがいれば問題ないと、私はアイドル活動を再開した。

 

 番組でポロッと犬を飼ってると口が滑り、無事SNSデビューを果たしたジュン君との出演も増えた。ドラマの撮影でも子供達はミヤコさんの子って設定で一緒に仕事場にも来れたし、全てが順調に進んでいた。

 ジュン君が賢いのもあってジュン君だけの仕事も来た時は笑っちゃったし、本人は複雑そうな顔をしてたけど飼い犬を褒められて嬉しいミヤコさんに連れられて私達も見学で見に行った。

 

 動物基準とはいえ、ジュン君はコミュニケーション能力が高い。私の嘘を見抜くのもそうだし、動物の勘なのかはわからないけど相手の機微に聡いところがある。私の恋心には全っっ然気付いてくれなかったけど。

 だからか、私の演技に似てるところがあるように思う。あと存在感ね。圧もそうだけど、気配も自在に消せるとか何なの?忍者?

 私達のライブでミヤコさんに連れられて来たルビー達がキレッキレのオタ芸を披露してバズったり、アクアが子役として役者の才能があったり、ルビーにもダンスの才能があったり、いろんな事があった。

 

 子供達に負けず劣らず、ジュン君も天才過ぎる動物タレントとして有名になっていた。子役のアクアと共演した時は皆でドラマをリアルタイム視聴した。

 でも、仕事が充実するにつれて家族皆の休みが揃う日は随分減って、日曜は家族皆で食べるとか、新しい家族ルールが決められた事もあった。

 

 

 

 

 

 

 私がアイドルになって早数年。誕生日ライブの前に社長が夢だったドームライブが明日に迫っている。

 前夜祝いとして新しくセキュリティのいい所に引っ越した私達は夫婦が酒盛りしてる横で子供達と一緒にイチャイチャしていた。

 

 ジュン君は相変わらず犬だけど、時間に合わせて段々と体を大きくさせて今じゃ立派な大型犬。話によると本当は2mくらいあるみたい。熊じゃん。いや狼だし。

 

 「そういえば、ずっとその姿なの?」

 「いや、どっかでドロップアウトするつもりだぞ。具体的には散歩中にリード振り切ってそのまま迷子とかな。父親としての責任もあるから少なくとも大学は卒業したいし。子供達には狼として生きるにしろ、人間として生きるにしろ、普通の人より力が強いからな。力加減を教えたい」

 「ふーん。じゃあ私がアイドル辞めたら結婚してくれるの?」

 「辞めなくてもするさ。俺はもうアイと一緒に生きると決めたんだ」

 「えへへ。嬉しいよ、ありがとう」

 

 ジュン君は夜、ミヤコさんや子供達の目を盗んで工事現場とか日雇いのバイトで小遣いを稼いでいる。未来の貯金と免許とか大学資金にするつもりらしい。犬状態で稼ぎは全部私の稼ぎに含まれてるけど、やっぱり事務所にも中抜きされるから稼ぎは多いとは言えない。

 

 それにある時期、狩猟解禁期間には山や海で猟師をしながら生計を立てている。これがかなり稼いでいて年収で言えば400万くらい?私と同じくらい稼いでる事になる。

 普通ならこの半分くらいしか稼げないってネットでも書いてるんだけど、動物としての嗅覚で獲物の害獣害鳥を見つけては仕留めてるだとか。

 あとは競馬で馬の気分を直接聞いて3連単を当ててるんだとか。よくわかんないけど黒字なんだとか。

 

 ジュン君自身は人間としての住所として極安アパートを一部屋借りてるみたいで基本生活費はドッグフードや日用品、予防接種くらいでアパートの賃貸を足しても有り余ってるみたい。まあ、子供達の養育費とかは私の口座に振り込んでくれてるし、ぶっちゃけ自分の食い扶持も稼いでるから稼ぎ過ぎじゃない?って心配なレベル。

 

 「子供もは大人になるまで2000万とかするらしいからな。あれば困るもんでもないだろ。それに塾とか習い事をさせるならもっとかかるぞ」

 「へぇ、そんなにするんだね」

 

 2000万とか見た事ないや。でも未来の私達の為に時間を縫ってまで稼いでくれるのは本当に嬉しい。お金は所詮お金でしかないけど、ジュン君から子供達や私に対する愛情が見えるから金額はその指標でもある。

 私ももうすぐ20歳になる。B小町がドームライブ成功したら、その次は誕生日の単独ライブ。そこでグループ卒業を発表する事にしている。

 他のB小町メンバーとの溝は埋まりそうにないし、番組で呼ばれるのは私単独が多くなったり、ドラマやCMの仕事も増えて来たからB小町にこだわる必要はないんだよね。

 

 女優や歌手に転向してもこれまで通りばっちり稼いでいけると思うんだ。B小町のメンバーも社長のお眼鏡に適うくらいは綺麗な子達ばっかりなんだし、大丈夫。

 

 それに、女優なら結婚発表しても大したダメージはないと思うし、ルビーやアクア、ジュン君と堂々と家族皆で買い物とかしたいからね。ママ頑張っちゃうよ〜。

 

 

 

 

 

 

 ドームライブは無事成功!

 今は関係者全員で打ち上げの飲み会に参加してる。

 社長もスポンサーも今夜ばかりは無礼講で飲みまくっている。昨日も飲んでたのに大丈夫?ルビー達は私みたいな未成年やお酒が飲めない人達が交代で見ていて、ジュン君は連れて来ているけど外でスタッフさんに構われていた。

 

 会場の雰囲気に酔っちゃったと言い訳して、夜風に当たる為にジュン君を連れて歩く。

 

 「誰も見てないんだから人に戻ってもいいんだよ?」

 「このままでいい」

 

 スキャンダルは確かに警戒した方がいいけど、誕生日前の多分最後だろう二人っきりなのに。女心がわかってないね〜。

 

 側から見たら私の独り言だろうけど、夜道を談笑しながら歩いていた。

 交差点差し掛かって、横断歩道を渡ろうとしたら突然目の前が真っ白になり、壁に見間違う程大きなトラックが突っ込んで来たのはわかった。

 

 トンッ……と背中に軽い衝撃で、トラックの前からズレて前に倒れる。

 後ろからドンッと大きな音が耳に届いて、慌てて振り返った。

 

 暗い夜道で見えたのは目を焼く程眩しいヘッドライトと、浮かび上がる人型に凹んだトラックのフロント部分。ジュン君の姿は見えない。どこ……、

 

 「あああああ!!」

 

 後ろから絶叫が上がり誰かが走ってくる足音が聞こえた。

 でもそんなことよりジュン君が……。

 

 

 ふわりと温かくて白いものが私を優しく包む。

 

 「ジュン君!」

 「無事かアイ!?」

 

 パキン。何かが割れる音と怯えた男の人の声。何が起こってるの?ふわふわの毛の向こうに見えた彼の焦った顔を最後に、目の前が真っ暗になった。

 

 

 

 

 

 

 目を覚ました時には家族皆に囲まれていて、自宅のベッドに寝かされていた。

 

 でもそこにジュン君の姿はなくて……慌てて飛び起き、彼の影を探す。その時の私は誰の声も届いてなくて、家の中を隅々まで探し回り、社長に羽交い締めにされてようやく落ち着いた、というよりは崩れ落ちた。

 

 アクアやルビーにはすごく心配されちゃった。

 その後の顛末を社長はゆっくりと話してくれた。

 

 昨日の夜、犬を連れた女性がトラックに轢かれかけ、更にナイフを持ったストーカーに襲われたという通報があり、間一髪通行人が助けてくれて女性には傷一つなかったという。

 更にトラック運転手とストーカー男、そして二人を殺人教唆したという大学生くらいの青年が全員白い大きな犬に襲われ、通行人により全員警察へ連行されたらしい。

 

 犬は現場にはいなかったが、トラックに残った大きな凹みから生存は望めないとも。それでミヤコさん……ずっと泣いてるんだね。

 

 要するに、ジュン君はトラックに轢かれても、ストーカー達から私を守ってくれて、そのまま警察に。私の携帯から社長を呼び出して今に至ると。

 

 「ママ?」

 「アイ……大丈夫か?」

 「大丈夫だよ、二人とも。佐藤社長、助けてくれた人に会わせてくれない?」

 「だから俺の名前は斎藤だ。いい加減覚えろクソアイドル。……いいんだな?」

 「うん。もう大丈夫」

 

 時間が惜しかったけど、昨日のライブのままだったからお風呂と軽くお腹に入れて歯磨き身支度する。子供達をミヤコさんに預けて社長と二人で警察に向かった。

 

 通された廊下には三人の男が別々の部屋に座らされていて、その外には久しぶりに見たジュン君の姿があった。なんか警察官と話してるけどいいよね。

 

 「ジュン君だー!」

 「久しぶり。いや、昨日ぶりか覚えてるかわかんないけど」

 「ううん、覚えてるよ。助けてくれてありがとう」

 「俺が来た頃にはもう終わってたよ。こいつらはでっかい白い犬にやられたとしか言わねえんだから」

 「そうなんだ。ジュン君は?あ、白い犬の方ね」

 「お前……犬に俺の名前付けるなよ」

 「だって思い付いたのがそれだったし。ジュン君髪白いもんね」

 「はいはいそうだな。生まれつきだ」

 「知ってる」

 

 「あの、失礼ですがお知り合いで?」

 「はい、同じ施設で育ちました」

 「〇〇園ってとこです」

 「なるほど。わかりました。では女性の方にお聞きしますね。この中に知ってる方はいらっしゃいますか?」

 

 警察官さんに連れられて三つの部屋を順に見て回る。

 

 「顔覚えるの苦手なんですけど、はい。全員私のファンの人です名前は確か……」

 「ありがとうございます。確認が取れました。所持していた携帯の身元と一致します。ご協力ありがとうございました」

 「こちらこそ。ご苦労様でした」

 

 取り調べは粗方済んでいて、ジュン君と社長が対応してくれたらしい。私にはそれだけだった。

 

 

 それにしても……何であそこにヒカル君がいたんだろう?

 

 

 警察署を後にして、社長の運転で自宅まで帰った私は、出迎えてくれたアクアとルビーにキスを落として一緒に連れ帰ったジュン君の服を脱がせにかかる。

 

 「「「え?」」」

 「アイ、何してんの?」

 「ん〜?ジュン君の体に傷があったら困るからさ」

 「あんな中年太りとヒョロガリ相手に怪我なんかするかよ。子供に悪影響だから手放せ」

 「はーい」

 

 私の行動に皆固まってたけど、いい感じにジュン君が犬のジュン君だって事はバレなかったな。

 流石のジュン君もトラックに轢かれて心配したけど傷一つない。

 私の旦那様不死身かな?

 

 

 

 

 





 読了ありがとうございました。
 拙い文章で読みにくかったと思いますが、次はジュン君視点での話を
 気が向いたら書こうかなと思っています。
 
 では、推しの子ファンの皆さんも、そうじゃない方々もまたどこかで会いましょ〜


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