1000文字程度のライトな読み物となっております。
第98代世界大教皇は幼女だった。
ご先祖から譲り受けた
「大教皇さま。しっかりとお座り下さい」
「フム…」
外のポカポカとした陽気が伝わってくる。
「神童の名前が廃れます」
セバスチャンの言葉が大教皇さまに突き刺さる。
「フム。一理あるのじゃ。じゃがの、神童などという言葉は家族が作るもの。隣人は思わぬものじゃ」
「では、教皇様がきちんと道を示して下さいませ」
「よいかの。セバスチャン。正しい思慮こそが、神からの最上の贈り物なのじゃ。世は、おぬしの
しばしの沈黙。ステンドグラスに日差しが差し込む。
「本日は、貴族のお子たちが謁見を希望されています」
貴族の子供たちは、概ね教育が行き届いている。
少なくとも、大教皇の前で騒ぎを起こすほど無作法ではない――セバスチャンはそう踏んでいた。
「フム。何をすればいいのじゃ?」
「
「わかったのじゃ」
貴族の子供たちが大教皇さまの前に集まってきた。
皆が一様に頭を垂れる。一人を除いてだが。その少年は、憎悪を大教皇さまに向けていた。
司祭が祝福の
「神なんてくだらね!居るわけねえだろ!」
怒っていた少年が祝詞の最中に怒鳴る。執事たちが止めていた。
「一理あるのじゃ」
騒然としていた場を制す神聖なお言葉が響き渡る。
少し落ち着いた少年に、大教皇さまは近づくように手招きした。
「宗教はいくつもあるがの。道徳は一つしかないのじゃ」
少年を改宗させるのかと思っていた。大教皇さまは言葉を続ける。
「聡明なおぬしは、きちんとした道徳律を学ぶのじゃ」
大教皇さまはニコリと笑みを浮かべていた。少年の中で怒りが冷めていく。かわり、焦燥感が責め立てる。
大教皇さまは
短い手を差し出し、少年のゴツゴツとした手に自分の手を添えた。武器の鍛錬の成果である潰れたタコが、いくつもある。
「努力家じゃの。お主の夢はなにかの?」
「騎士…」
バツの悪そうな少年は、鋭い眼光で大教皇さまを見下ろしていた。
「騎士かの。怒りはしばしの勇気と道徳の武器となりえる。今のままじゃと、きっと立派な兵には成れよう」
「じゃが、怒りだけでは人生を誤ることになる。将官になるのなら怒りを敵と思うのじゃぞ」
少年は、大教皇さまの美しい所作に感化された。
「…はい。大教皇さま。」
「行って良いのじゃ。お身体に気をつけての」
この後、大教皇さまは「自分の宗派を大事にしろ」と言ってセバスチャンの怒りを買い、
さらに「
大教皇さまは「Quantus tremor est futurus...」とぽつぽつ呟いていた。
セバスチャンは、その言葉を止めることができなかった。