フラジール・バッティは寝ていた。
ポカポカ陽気な陽の下で…心地好く、安らかに。
フラジールは先日入園したばかりの保育園の園児だ…父子家庭で、父親は殆ど家にいない。
彼の父親が何をしているのかは、誰にもわからない…但し、あまり穏やかな仕事ではないということは彼自身、何となく感じ取っていた。
彼はひとりで居る時、寂しいとも悲しいとも思わなかった。
彼の一日の活動と言えば寝ているかボーッと考え事をしているかのどちらかだったからね。
「ねぇ、起きてよ」
彼は案外人が善い…何か頼まれれば嫌な顔ひとつせず実行する。
だから、今日も寝ている最中に揺すり起こされても嫌な顔せず起き上がった。
「……はい」
彼の喋り方は子供らしからぬ事務的な喋り方だった…呼ばれれば「はい」、質問されたら「はい、○○です」、頼まれれば「了解しました」……。
「ねぇ、遊ぼうよ!」
そんな彼に遊ぼうと誘う園児……。
フラジールは勿論「はい」と答え、園児に着いて歩いた。
「なまえおしえて!」
道中名前を聞く園児…そんな園児にフラジールは
「私の名前はフラジール・バッティ…フラジールです」
変わらない調子でそう答えた。
「ふら…じーる?わたしはおりむらちふゆ!よろしくね?」
ニッコリと笑いフラジールを見る園児だったが、フラジールは無表情のまま顔の筋肉をピクリとも動かさなかった。
「よろしくお願いします……」
こんな調子のフラジールに“ちふゆ”は少々不満気な表情を見せると、フラジールにズイッと近寄った。
「むぅ…かおがかたい!もっとわらいなよ」
「……こうですか?」
笑いなよ…そう言われたフラジールは、口元を歪ませ、恰も笑っているかのような表情を作った。
「にっこり」
と、擬音まで付けて。
「えっと…やっぱりむりにわらわなくていいよ……」
そんなフラジールを見て“ちふゆ”はぽつりと一言。
「わかりました」
無理に笑わなくても良いと言われたフラジールは早速無表情に戻り、二人は再び歩みを進めた。
「じゃあふらじーるくん、すなばであそぼ?」
と、“ちふゆ”に誘われフラジールは
「はい」
と、答え穴を掘り、ある程度穴を掘ると掻き出した砂を固め、何やら作り始めた。
「なにつくってるの?」
「超巨大兵器、アームズフォートです」
無論、この世の中そんなものは存在しない。
だが、細かい細部まで砂で表現されたソレはまるで実物を見たかの様な出来栄えだった。
「わー!ふらじーるくんすごい!」
素直に褒める“ちふゆ”だったが、フラジールの反応はドライなものだった。
「ありがとうございます」
私の名前はフラジール・バッティ…父、ジャック・バッティの息子。
父は殆ど家に居ない…留守にしている。
私は殆どの事をひとりでできる…私の様な年齢の子供が出来ないような事も、私にとってそれが日常なのだから。
父はリーダーと呼ばれている…以前家に私の様子を見に来たらしい父の知り合いから聞いた。
どうやら彼には私と同い年の娘さんがいるらしい…今度連れてくると言っていた。
私は朝、保育園に園バスに乗って行く…バスの到着を確認したら、玄関から外に出て鍵を閉め、そして先生との挨拶もそこそこにバスに乗り込む。
そこで私はまず車内の心地好い揺れの中で保育園に到着するまで寝る。
「ねぇ、ふらじーるくんおきて~?」
以前までは先生に到着を知らせてもらっていたのだが、最近は奇妙な知人…おりむらちふゆという人間が到着を知らせてくる。
「ふーくん!」
そして同時にお腹に衝撃が掛かる。
これは奇妙な知人の友人で私の奇妙な知人二号のしのののたばね……。
ある日おりむらが彼女を連れてきた事から色々あり、それ以来この奇妙な知人達は私の周囲によく出没する様になった…最近は園内であまり寝ていない。
「起きた…もう良いだろう?」
バスから降りた私は室内に入り、布団を広げ寝る。
起こされない限りこうしてゆっくりと寝るのが私の生活。
が、勿論今日も起こされないなんて事はなく……。
「もー、ふーくんひま!」
と、腹に重い一撃……
「ふらじーるくんおきて!」
と、布団から引き摺り出される。
私は父に人との交流を欠かさないようにと言われているし、それに無駄で格好の悪い事はしたくない…だから睡眠時間が減ろうと抵抗はしない。
「もう、起きた……」
ふと気付いたんだが、いつの間にか私は口数…というよりも口調が砕けている様な気がする。
これも奇妙な知人達の影響か……?
「よーし、じゃあなにしてあそぶ?」
「考えてから起こしてくれないか……」
いや、私が人として成長したって事なんだろう……多分