この作品は、タイトルから察した方も多いでしょうが日常系です。あらすじで申し上げた通り、この作品は、筆者が息抜き目的で書いているため、あまり先の展開を気にせずその場の勢いで書けるジャンルが日常系だから、といった理由からです。
注意事項は、あらすじでひと通り書いたつもりです。
なお、最初は顔見せ程度の内容です。
この世界は、人類存続の危機に瀕していた。
半世紀前、『ヒュージ』と呼ばれる謎の生命体の出現により、人類は活動圏を、資源を、そして人命を奪われた。
この事態に人類は一丸となり、ヒュージに対抗するための魔法の力である『マギ』を発見、科学の力と組み合わせた決戦兵器『
CHARMは10代の女性に高いシンクロ率を示すことから、世界各地にCHARMを用いてヒュージと戦う少女たち『リリィ』を集めて防衛拠点とする教育機関『ガーデン』が発足された。
現在も人類とヒュージの戦いは続いている。ガーデンに在籍するリリィたちが、人類の命を、そしてその営みを守るために、命をかけて。
私がいるここ、鎌倉府もそう。
私がいる街の向こうにある広い海、由比ヶ浜に屹立している巨大な竜巻のように見えるヒュージの巣窟『ヒュージネスト』から襲来するヒュージを、百合の校章を掲げる世界最高峰のガーデンの一角『百合ヶ丘女学院』のリリィたちが迎え撃ち、私たちの生活を守ってくれているのです。
日々ヒュージと戦い、傷つく少女たち。
そんな彼女たちに何かできないかと思って、私は高校を卒業した3年前、この鎌倉府に店を建てた。
命がけで戦ってくれている彼女たちに、少しでも安らぎの時間を与えることができたら…そんな願いを持って建てた喫茶店です。
ところがこのお店、少々難ありなお店でして。
店と言っても小さな、しかも街から外れた隅も隅という立地。なんなら店の裏口から山に入れるくらいの辺境っぷり。
初めたての頃は閑古鳥が鳴いていた。
しかしこの立地も、なかなかどうして悪くない。街の表側から外れた場所に建つことで生まれる隠れ家感が私的なグッドポイント。
知る人ぞ知る隠れた名店、いい響きじゃありませんか。
まあ現実としては人目につかないこの店の集客率はほどほど、というか正直なところあまり多くない。1日に0か1人、多くて3、4人といったところ。
リアルマネーが全てな悲しいくらい現実的なこの世界でこの数字、はっきり言って厳しいことこの上ありませんが、そこは副業の稼ぎで賄っているので心配は無用なのです。
それに、高校時代の知り合いをリピーターとして確保しているため、すぐに経営難に陥ることはありません。
たとえ稼ぎが少なくても、私の信念のために、私はこのお店を続けていくのです。
そんなわけで、今日も今日とて開店準備の真っ最中。
「〜〜〜♪」
鼻歌混じりに水に濡らした布巾を取り、テーブルを拭きカウンターを拭きイスを拭き拭き…小さなお店なので拭き掃除も1人で済ませてしまえます。人件費がかからないのは経営上ありがたいです。
それもゼロということではなく、実は私以外にも1人だけ従業員はいるんですが、現在はお留守です。サボってるとかじゃありません。喫茶店で使う食材その他諸々を買い出しに行ってくれています。
うちはお客様(特にリリィ)に寄り添うことを第一にしているので、ご要望にお答えしていろいろな品を提供させていただいております。
喫茶店なのでコーヒーはもちろん、近所の百合ヶ丘の皆さんが嗜む紅茶にお茶菓子もありますし、外国から来た方もいらっしゃるので故郷の味が食べたいという人のために外国料理も揃えてます。
他にも、お客様1人1人の好みに合わせて即席の料理やアレンジをすることもしばしば。それが正式なメニューに採用されることも多かったり。
と、こんな感じでうちは使う食材の種類がとにかく多いので、必然的に買い出しの量も大量になってしまい、もう1人の従業員は一度買い出しに出たら数日戻らないこともザラにあるのです。
はてさて、次はいつ帰ってくるのやら。
掃除を終えたら、食材の在庫を簡単に確認。お客さんはあまり来ないので、この辺りは割とざっくり片付けても問題なく、賞味期限や消費期限ギリギリのものがあったりしないかだけ注意します。
はい、この辺は毎日確認してるので、問題なしです。それと、わたし用のコーヒーを作るために豆も持っていく。
あとは出入口のドアノブかけた看板をひっくり返せば、「CLOSE」から「OPEN」へと早変わり。
大変お待たせいたしました。
これより我が自慢の店「喫茶ゆりかご」開店です!
「誰も来なーーーーーーい!」
数時間後、喫茶ゆりかごの中で外への迷惑も憚らず私、店主の
まあ、自分で言ったことではありますが、この店の集客率は高くない。それは理解しているので普段だったらこんなに騒ぐことはない。
では何故今回はこうも騒ぎ立てるのか。その理由は…
「うちの店一番の売上ソースである百合ヶ丘女学院がこの間入学式だったからですよ! 新しい子が百合ヶ丘に来るじゃないですか、知らない土地は見てみたいと思うじゃないですか、街に降りてきて散策するじゃないですか、そしてあわよくばうちに寄ってくれる子が1人くらいはいるんじゃないかと淡い期待を持って待つことはや数日…誰も来なーーーーーーい!」
とまあ、こういう訳です。
「というか、ここ最近は街に降りてくるリリィもほとんど見かけないし。いやまあ、私が見ないだけでいるかもしれませんが。ともかく! それくらいリリィを見ないというのは由々しき事態! あれですか? 皆さん新学期で忙しいんですか? それはいいことです。リリィといえど皆さんは学生、その本分は勉強ですから、せいぜい勉学に励めばいいんです。でも私は誰も来てくれなくて寂しいんですよぉぉぉぉぉぉぉ! 夢結さん梅さん天葉さん、皆さんの顔が恋しいですよぉうわーーーー!」
誰もいないことをいいことに情緒不安定っぷりを惜しみなく発揮する。
期待し、不安になり、納得し、寂しがり、終いには泣き叫ぶ、側から見れば痛々しい光景を惜しげもなく見せびらかしていた。
そもそも、百合ヶ丘を始めとしたガーデンでは、外に出るためには外出届を出す必要があるのだが、それを入学して間もない新入生が出して受理されるのかと聞かれれば答えはおそらくNO。しかし、当時の私は興奮しすぎてそんな考えは微塵も考えていなかった。
せっかく淹れたコーヒーが手をつける気にならず冷め切ってしまった頃、ひとしきり感情を発散した私は、カウンターに突っ伏してぼやく。
「あーあ、誰か来てくれないかなー。売上に貢献してくれて、なおかつ私の寂しさを忘れさせてくれるような天使ちゃんが来てくれたりはしないかなー」
わざとらしく子供っぽさを出しながら、私は顔を上げてカウンターに頬杖をついた。
すると、その視線の先に、入り口から残念そうな顔を覗かせて残念そうな目でこちらを見る金髪の少女が映った。
頭頂部にぴょこんと立つアホ毛と金髪に映える青い瞳を持ったその顔に、私は見覚えがあった。
彼女と目が合った瞬間、私は嬉しさのあまり彼女の名を呼んで飛び上がった。
「天葉さーー」
次の瞬間、金髪の少女は逃げるように扉を閉めた。
開けた時には聞こえなかった扉に取りつけたベルが、閉められた勢いでカランカラン、と虚しく店内に響き渡った。
店を後にした金髪の少女、百合ヶ丘女学院2年生の
「訓練後にみんなで飲む紅茶の茶葉を買いに来たつもりだったんだけど…やめよう。うん、今日はやめとこう。あの人、感情の振れ幅が激しいから、あの調子の時に話に付き合ったら、一体何時間拘束されるか分かんないし。はぁ…普段は相談に乗ってくれるくらい気さくで優しい人なのに、情緒不安定なあの性格がなければなぁ…」
ため息混じりに呟く天葉の背に、喫茶ゆりかごから再び泣き叫ぶ声が聞こえてきた。店に到着した時から聞こえていたその声は懐かしく、しかしかつての面影は一切見られない。
天葉は振り返ると、本当に残念そうな目で店を見つめた。その視線は、店の壁を通り抜けて、中で泣いている店主に注がれる。
そして、再びため息を吐くと、誰にでもなく呟いた。
「立地もそうですけど、このお店が売れない一番の原因は、あなたな気がするんですよね…はぁ、ほんと、現役時代のあの淑やかさはどこへ置いてきてしまったんだか…」
聞こえないと分かっていながら、天葉は店内で泣き続けている店主に向けて言った。
「今度は樟美と一緒に来ますから、ちゃんともてなしてくださいね…皐月様」
その後、訓練後の紅茶を楽しみにしていた天葉のレギオン『アールヴヘイム』一同は、天葉から事情を聞いて一様に「ああ、なるほど…」と納得してしまったという。
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よければ次回もお楽しみに。