その間に界隈では新しい姉妹が誕生したり新しい舞台の幕が上がったりしたそうです(観に行きました)。
前回にも言ったんですが、現実の方で少々忙しくしてます。決して休みの時間を最近ハマったブルー○ーカイブに使ってたら執筆が遅れたとかではありません。
現実云々は本当でも3ヶ月放置はしたくなかったので、既に完成した半分をこちらに置いておきます。期間が空きすぎて前回の内容を忘れたという方は前回を見返してきてくれると筆者が喜びます。
喫茶ゆりかご唯一の従業員である四ノ宮愛莉さん。私がリリィだった頃から親交があった人で、付き合いはもう今年で6年になるかというところ。
口は悪いけれど根はいい人だ。ただしこの女、優しいのは私以外にであり、私に対してだけは一切の容赦もしてくれない。
中々いい性格をしているこの人は、私の困った顔を見るのが大好きなのだ。
「……愛莉さん今なんて?」
「あー、一応言っとくと、やってほしいのはフォーメーション決めな。当たり前だがシミュレーションだから、今のレギオンはどうするんだとか、阿呆なこと考えんなよ」
だからだろうか、愛莉さんは自身のふざけた提案をさも何でもないことのように言う。それを聞いた私の頭は、先程までの行いもあり僅かばかりに苛立ちが募っていた。
それでも、努めて冷静であろうと怒りはしまい、我慢して手ではなく口を出した。
「愛莉さん、私さっき大したことしないって言いましたよね? それは充分大したことだと思うんですけど」
「いいだろ別に。言いたいことは分かるが、こっちの言い分も聞けよ。なにも考えなしにこんなこと言ってるわけじゃない」
そう言うと、愛莉さんは手に持ったポッキーをまるで教鞭のように振りながら説明を始めた。
「まず、勉強会の趣旨に則って言うなら、ここにいる人間のちょうど8割はいわゆるノインヴェルト世代。集団戦のやり方も編成も、熟知してる奴が多い。そんな奴らだけでレギオン組むなんて味気ないだろ」
「味気ないとは」
「そこに、私と
「私たちは塩コショウか」
「集団戦が華となった現代の戦いにどう絡める? どう使う? どう動かす? そういう脳を見せてほしい。アールヴヘイムは遠藤や森がいるから、その辺は意識しやすいかもな」
壱さんが顎に手を置きながら軽く頷く。アールヴヘイムは時に、辰姫さんがワンマンアーミーとして戦い、レギオン全体でそれをサポートする戦術を取ることがある。亜羅揶さんもデュエル能力は大変優秀ですし、確かに想像しやすいでしょう。
「次に、さっき聞いた人数の話。ここまで規模がデカいのは初めてなんだろ? 普段何してんのかはよく知らねーけど、いつもと違うならいつもはできないことやろうぜって話だ。どうせお遊びみたいなもんだ、気楽に学べるならそれに越したことねーだろ?」
愛莉さんの言葉に、私は低く呻く。
確かに一理ある。普段と異なるやり方は新しい発見や刺激になるかもしれない。
しかし、それでもまだレギオンのフォーメーションの確立という難易度に見合うとは少々思えない。正規のそれだって、本来は相応の時間をかけるものだ。
すると、愛莉さんは手元で振っていたポッキーを一人の少女に向けた。
「で、最後にお前だ」
愛莉さんが指したのは、梨璃さんだった。
「……え? わ、私ですか!?」
「そうだ、お前だ新米リリィにして新米隊長。この内容で最も学ぶべきところがあるのはお前だ。レギオンの隊長なら、フォーメーションの組み方、その意図、運用の仕方などなど、知るべきものは多い。考え動かすのは司令塔の仕事でも、理解できるくらいにはならなきゃなァ。もちろん、今のお前にそこまでのものを要求するもんじゃないのは分かってる。だが、いつかは身につけるべきことだ。そこで、このお遊びで雰囲気を感じてみてはどうだってことだ」
意外。もしかして愛莉さん、梨璃さんのこと気にかけてるんですか? 確かに気に入ったようなそぶりは見せていたけれど、こんな場を設けようとするほどとは。
一柳隊として、レギオンのフォーメーションはすでに完成させていることでしょう。それに加えて、今回のことを自身の糧にしてはどうかと言っているのだ。
どうだ、と梨璃さんの自主性に委ねているあたり、無理強いさせるつもりはないようですが、果たして。
「……私、やってみたいです」
考える様子を見せていた梨璃さんは、程なくそう答えた。
「私も百合ヶ丘のリリィとして、レギオンの隊長として、もっとレベルアップしなきゃって思ってました。それができる道があるなら、挑戦してみたいです!」
梨璃さんの勇ましい返事に、愛莉さんは面白そうに笑い、夢結さんたち一柳隊の面々を見やる。
「隊長はそう仰せだ。メンバー諸君はどうするよ?」
「意欲があるのはいいことです。無碍にするにはいきません」
「梨璃さんのお言葉に反対などあり得ませんわ!」
「アールヴヘイムの戦術思考を拝見できる機会を逃す手はありません! もちろん賛成です!」
そう三者三様の答えを出す中、二水さんの言葉に壱さんたちも反応する。
「そう言われたら、私たちも断りづらいじゃない。もちろん、最初からやるつもりだったけど」
「皆さんとのレギオンも、ちょっと面白そうです……」
「たまにはこういう趣向も悪くないんじゃないかしら?」
これまた三者三様に賛成の意を示した。そうなると、この場で
「さ、どーする皐月。反対なのはお前だけだぞ?」
愛莉さんめ、見事に全員をその気にさせてしまった。皆さんがやる気である以上、私が反対する理由はないし、仮に反対しても多数決などされればその声は封殺される。
どうあっても自分の意見が通る状況を、愛莉さんは作り上げてしまった。お見事ですよ。ええ本当、腹立つくらい。
それに、私だって別に否定的だったつもりもない。
「……分かりました。皆さんがそう仰るのであれば、私から言うことはありません」
「んじゃ決定だな」
両手を上げて降参のポーズをとった。愛莉さんの口車に乗せられるようなのは癪ですが、愛莉さんなりに考えあってのことだというのは分かった。今回は乗せられてあげましょう。
それに、この面々でのレギオンはどんな形になるのか、少し興味もありますしね。
私もやる気を出したところで、梨璃さんの隣から勢いよく手が挙がった。
「はい! 結梨もやる! 結梨もみんなと一緒に戦いたい!」
それは、私以上にやる気に満ち溢れた顔をした結梨さんだった。熱意だけなら、先程の梨璃さんにも引けを取らないものに感じる。
これは、きっと汲んであげるべきものなのでしょうが……愛莉さんはそうではないらしい。
「うーん……なあ梨璃、一つ聞きたいんだが、結梨って戦えるのか?」
「えっと、結梨ちゃんは、この間CHARMと契約したばかりで、学院の授業でも、実技の方は最近始めたばかりで……」
「となると、難しいな」
「……結梨、戦っちゃダメなの?」
結梨さんの言葉に、愛莉さんは小さく首を左右に振る。
「そうじゃない。お前の場合、知識や訓練みたいな、戦うための下地ができてないんだ。新米の梨璃以上にな。こう言っちゃなんだが、基礎の基礎もない状態で集団戦は、さすがにさせられない」
「そんなー……」
「落ち込まないで、結梨ちゃん。ゆっくりでいいから、一緒に勉強していこ、ね?」
残念そうに肩を落とす結梨さんを梨璃さんが慰めるが、見るからに気落ちしているのが窺えた。
「まあ、そう気を落とすな。お前だって学べることはある。それこそ、レギオンのイロハのイくらいは知ってるだろう梨璃よりもだ。ポジションごとにできること、やるべきことくらいは頭に入れられるだろ。ここで予習して、遠くないうちに来る戦場に立つ日の糧にしろ」
「はーい」
愛莉さんからもフォローが入るも、それでもやはり残念そうな結梨さんだった。
「あの、始める前に一ついいですか?」
私もやる気を出したところで、すっ、と壱さんが手を挙げた。言い出しっぺの愛莉さんがその手に目を向ける。
「どうした、田中?」
「フォーメーションを考えるというのはいいんですけど、その良し悪しは誰が判断するんですか? 私も公平に見る自信はありますけど、作成に携わる以上、主観が入る可能性も否めませんし……」
なるほど。確かに採点するなら、それは第三者にやってほしいところだ。
「そこについては、もうじきここに来るらしい天野と番匠谷にやってもらう。アールヴヘイムの主将と司令塔だ、申し分ないだろ」
そう愛莉さんは答える。ああ、あの二人なら安心して任せられます。
各々がそう納得したと同時に、一つのことに思い至る。それを口にしたのは二水さんだった。
「あ、あの、お二人は確か哨戒任務に出られているんですよね? その、あとどのくらいでお戻りになるんでしょうか?」
「天葉姉様たちは、授業が終わってすぐ出られたはずなので、何事もなければ、あと数十分もすれば……」
樟美さんの答えに、頭を抱えたくなったのは私だけではなかっただろう。
哨戒任務とは、端的に言えば見回りだ。百合ヶ丘が守る国定守備範囲に異常がないか、あるいは戦闘の中で討ち漏らしていたはぐれヒュージがいないかなどを何人かで組んだ数チームで見て回る。
つまり、異常がなければさっさと戻って来れてしまう任務であり、愛莉さんがその任務に出た二人に審査してもらおうと考えている以上……
「もしかして、あんまり考える時間ないです?」
「ないな。だからって適当なもん作るんじゃねーぞ。天野と番匠谷を納得させられる出来でなきゃ合格にはしない。できなかった時は罰ゲームとして……」
愛莉さんから発せられた言葉に全員が身構えた。私がやってきた勉強会においては罰ゲームなど設けたことがないので、参加したことある組は尚更驚いたかもしれない。
執行人が愛莉さんというのも問題だ。彼女の性格はやや粗暴なものなので、相手のことを顧みず素振りのサンドバッグとか要求するかもしれないし、これでも御台場女学校のリリィだったのでスーパースパルタ特訓を課すかもしれない。
愛莉さんは少しだけ考えるそぶりを見せると、やがて口を開いた。
「罰ゲームとして、30秒間のくすぐりの刑に処すとしよう」
「「「思ってたより可愛い罰ゲーム!」」」
「皐月を」
「なんですと!?」
先程までの想像は空の彼方へと消え去った。
ともかく、軽いとはいえ罰ゲームなどやらないに越したことはない。時間もないということで、愛莉さんプロデュース勉強会はなし崩し的に始まった。
フォーメーション作成は、上級生である夢結さん、現在レギオンで司令塔として活動している楓さん、そして司令塔経験のある壱さんが中心になって進めることになった。
上級生というなら私と愛莉さんもそうでしょうが、私たちの集団戦の知識は言ってしまえば上辺だけ。実践経験の伴った彼女たちの方が先輩なのだ。
デュエル世代にもレギオンはあったものの、タイマンが基本とされていた当時において、集団戦など中々あるものではなかったし、二重の意味で前衛的な人も多かったし。
そんなことを考えている間に、壱さんが口火を切る。
「とりあえず、今回は時間制限があるので、ある程度既存の型に当て嵌めるような形でやるべきでしょうか」
「ですわね。本当でしたら、各人の多様な意見を取り入れてレギオンの趣向を決めていきたいところですが、制限がある以上、ある程度テンプレートになってしまうのは致し方ありませんわ」
前述した通り、レギオンのフォーメーションは本来、相応の時間をかけて考えていくべきものだ。それぞれの適性、その配置、レギオンとしてやりたいことなど、考慮すべきことは多い。
しかし、今回はそれを時間制限をつけて考えなければならない。愛莉さんとしては、その辺りの思考的な柔軟性なんかも見たいのかもしれない。
そう考えると、もしかして愛莉さんって自分の趣味のためにこの課題を設けたのでは?
「私も異論はないわ。ただ……」
壱さんと楓さんが方針を固める中、夢結さんもそれに同意したものの、どこか怪訝な様子を見せていた。
「あら夢結様、何かご不満でも?」
「不満ではなく懸念というべきね。楓さんは、レギオンを組む上でここにいるメンバーを見て思い当たることはない?」
夢結さんからそう促され、楓さんと他の方々もそれぞれの顔を見回し始めた。ただし、壱さんだけは腕を組んでその様子を眺めていた。
さすが、夢結さんと壱さんはこのメンバーの問題に気づいていたらしい。私も途中で気づきましたが、本当に愛莉さんは考えなしにレギオンを作ろうなんて言ったわけじゃなかったみたいです。
愛莉さんが話したこの課題の趣旨をよく考えてみる。集団戦が主流の現代レギオンにデュエル真っ盛りのリリィである私たちを加えてフォーメーションを作る、というのは、実はそんなに難しい話ではない。
今、壱さんたちがやろうとしているように、ある程度テンプレートをなぞればそれ自体は簡単だし、現代の強豪レギオンにおいて採用されているという可変フォーメーションには高いデュエル能力が求められる。何ならヴィーンゴールヴのようにデュエルを重視して組んだレギオンだってある。
このように、ノインヴェルト世代だからといってデュエルが廃れたのかといえばそんなことは全然ない。現代でもデュエルが得意な人は沢山いるし、その能力が集団戦の軸になる場合も多い。
これに気づいた時、愛莉さんにしては詰めが甘いのではと思ってしまった。しかし、そこは戦術好きと自称するだけに、難易度の帳尻は合わせてきていた。
間もなく、楓さん及び他の方々も得心がいった様子で軽く頷いた。
「なるほど。夢結様が仰りたいことは理解できましたわ」
一拍の間を置いて、楓さんは夢結さんが抱いた懸念点を指摘した。
「ずばり、レアスキルですわね?」
夢結さんが首肯でそれに答える姿を、各々が神妙な面持ちで見つめる。
ただし、
「あのー、すみません……どういうことでしょうか?」
唯一、問題点を理解しきれていない様子の梨璃さんがおずおずと手を挙げた。
梨璃さんの疑問に答えたのは二水さんだった。
「レギオンを結成する上で、リリィが持つレアスキルの構成バランスはレギオンの善し悪しを左右する要素の一つなんです。かくいう一柳隊も、スキルバランスはいいとはいえず、レギオンとしては守備寄りの戦い方にすることで安定させています。今回の問題というのも、実は一柳隊が抱える問題と同じなんですが……」
「はい!」
二水さんの解説に、結梨さんが手を挙げて割って入る。
「レアスキルのバランスってどうやって考えるの?」
「えっとですね、10種類以上確認されているレアスキルは系統別に大別されているんです。今回に関して言うなら、私と愛莉さんの『鷹の目』、壱さんの『この世の理』、樟美さんの『ファンタズム』と、感知系として括られるスキルが多すぎるんです」
「多すぎると言うなら、私からも一つ」
話の流れで言及できそうだったので、私も手を挙げる。
楓さんが指摘したように、このメンバーには感知系スキルが多い。スキルバランスだけを考えるなら、二人ほど変えてもいいくらいです。
ただ、問題はそれだけではなく、もう一つある。
「このメンバー、AZも多いんですよ。私と愛莉さん、夢結さんに亜羅揶さん。確か壱さんもTZからコンバートされてましたよね。一つのレギオンに前衛が五人って、それこそデュエル世代のレギオンみたいになっちゃいます」
「確かに……なら、レアスキルの件も考慮しつつ、最初に誰がAZを務めるかを決めてしまう方がよさそうですね」
壱さんにより議題が固められる。
「あっ、誤解のないよう言っておきますけど、バランスが悪いからって、私も夢結さんもこのメンバーがダメだって言ってるわけじゃないですからね」
「そうね。バランスの良さだけを追い求めてしまえば、どこも似たり寄ったりのレギオンになってしまうわ。メンバーも違えば偏るものもある。だからこそ、世のレギオンには攻撃面や守備面における個性が生まれるのよ」
全員が納得したように頷く中、再び結梨さんが手を挙げた。
「はい!」
「はい結梨さん」
「さっき言ってた『えーぜっと』とか『てぃーぜっと』って何?」
「レギオンにおけるポジションのことですね。軽く説明しときましょうか」
「あっ、画像出した方がわかりやすいですよね!」
質問に答えるべく、私は二水さんが差し出してきたタブレットに映し出されたポジションの配置図を指差しながら説明していく。
「一番前にいるのがアタッキングゾーンことAZ。前線でヒュージと戦うのが主な役目です。その性質上、純粋な戦闘力の高さが求められます。私たちのデュエル世代で一番人気だったポジションですね」
「おー」
「その後ろの、レギオンの中盤の位置にいるのがタクティカルゾーンことTZ。レギオン全体の指揮を行う司令塔などが配置されます。こちらは戦術理解や判断力などが求められるので、ちょっと難しいかもしれませんね」
「おー」
「で、一番後ろがバックゾーンことBZ。前のポジションにいるリリィのサポートをするのが役目です。射撃なんかができると務まりやすいですね」
「おー」
「細かく行くとサイドやらトップ下やら色々あるんですが、ざっとこんな感じです。今の時点で興味あるポジションとかありますか?」
「ここ!」
軽く説明したのちにそう聞いてみると、結梨さんは迷う様子もなく最前線のAZを指差した。
「結梨、ヒュージと戦いたい! みんなを守るために戦いたいの!」
「あっははは! このレギオンはAZが豊富ですね!」
ただでさえ多かったAZ志望がさらに増えたことで思わず笑ってしまった。結梨さんは今回の課題には関わっていないものの、もし参加していたらと考えるとAZは6人となり、いよいよもって前衛過多。もう笑うしかない。
ニュアンスを聞くに、結梨さんは仲間を守るために率先して前に出て戦いたいのでしょう。AZとして素敵な意気込みです。
尤も、結梨さんのポジションについて最終的に考えるのは私の仕事ではありません。この場で本人の意向は明確になったので、あとは隊長及びメンバーたちの仕事です。
「ふふっ、だそうですよ梨璃さん。頑張ってサポートしてあげてくださいね」
「うう……結梨ちゃんが最前線でヒュージと戦うなんて心配です。まだ戦闘訓練だって少ししかやってないのに」
「それはこれから培っていくものですから、長い目で見てあげてください」
「梨璃! 結梨、頑張るよ!」
「う、うん……」
まだ心配そうな梨璃さんでしたが、壱さんが音頭を取ったことで話は課題の方に軌道修正され、梨璃さんの表情は切り替えるように真剣なものになった。
まず話し合われたのは、AZ適性を持つ人が多数いる中で、誰がAZを務めるかというものだったのだが、
「これは私が下がるべきでしょうね」
本格的に始まった会議(?)の口火を切ったのは、他の誰でもなく私だった。注目が私に集まる中で、夢結さんが問う。
「意図をお聞かせいただけますか?」
「私のスタイルって、AZにおいてはどちらかというとタンク向きで、敵を撃破する力が少し弱いんですよ。それで、このレギオンのスタンスはスキルバランスの関係上、否応なく守備寄りに傾くと思うんです。なので、前衛は攻撃力が強い他の方に任せて、私はBZ辺りで支援に回った方がバランス取れると思うんですよね」
つい先程、レギオンが考えるのはバランスばかりではないという話をしていましたが、それでも考慮しないわけにはいかない。そこにどれだけ重きを置くかで、レギオンの安定感は大きく変わる。
「そもそもお前、前提としてBZできるのか?」
「失礼ですね。これでも中等部時代はデュエル能力低いわレアスキルがレジスタだったわで、ずっとBZで後方支援でしたよ。ちゃんとやれますもん。えっへん」
「それデュエル世代では誇ることじゃねーだろ」
愛莉さんからの茶々に構わず、私は流れでそのまま使わせてもらうことになった二水さんのタブレットの配置図を操作して、私の名前が書かれたアイコンをBZに移動させる。また、元のレギオンでの配置に則り、梨璃さんと二水さんも自動的にBZになった。
「適正というなら、私もTZに下がりましょうか? 中等部まではずっとそうでしたから」
次いで口を開くは壱さん。確かに、過去の経歴からすればその考えに行き着くのは納得できる。
しかし、お仲間方は納得できないようで、樟美さんと亜羅揶さんは表情を顰める。
「でも、AZになってからのいっちゃん、すごく戦いやすそう……」
「ええ、今の壱は以前よりずっと活き活きと戦えているように見えるわ。壱には間違いなくAZに高い適性がある。それなのに、その才を活かせないというのはもったいないわよね。下がるにしても、AZと合流しやすい程度に留められないかしら?」
「トップ下ってこと? それなら可変フォーメーションを検討したいけど……楓さん、このメンバーで採用できると思う?」
「可能とは思いますが、前提として可変フォーメーションは、レギオン全体の能力の高さと複数のポジション適性が求められます。このメンバーでは、特に後者に不安がありますわね。個々人の能力は高くとも、AZに偏重しているこのメンバーでは、攻守のいずれにせよ、かなり前のめりな構成になると考えられますし、そうなればその分、BZの負担も大きくなりますわ」
「そうね。さすがは稀代の戦術家である千華様が提唱したというだけあって、求める能力の最低水準からして違うわね」
「あ〜ら、それは可変フォーメーションを採用している2代アールヴヘイムは他とは違うという自慢話ですの?」
「そんなんじゃないわよ!」
喧嘩するほど仲がいいとは言いますが、なんだかんだ、楓さんと壱さんもそういう感じみたいです。あの亜羅揶さんも、壱さんを見守るような穏やかな視線を向けている。
しかし、壱さんのポジションは迷いどころだ。今の壱さんを知る樟美さんたちの話からすれば、適性的にはAZなのでしょうが、TZになれば楓さんとのダブル司令塔体制を敷いて、楓さんが言ったのとはまた異なる意味の柔軟性を出せそうとも思える。
大変悩ましいこの選択だったが、そこに一石を投じる人がいた。二水さんである。
「あの、壱さんはやはり、現在の適性通りAZにされるのはどうでしょうか」
「というと?」
「壱さんを含めると、AZの人数は4人になります。そこで、こういった陣形をとってみてはいかがかと」
そう言って、二水さんはタブレットを操作してAZを配置していく。
全員の注目が集まる中、かくしてできあがった陣形は、AZの前方、左右のサイドに一人ずつ、その後方のセントラル寄りに二人が配置されており、形容するならば谷のような凹みを作った陣形だった。
完成した陣形を見て、再び壱さんが問う。
「それで、この配置の意図は?」
「前線に立つ方々は全部で4人、そしてどなたも戦闘力は一流クラスですので、その力を存分に発揮してもらえるように、こうして前線をサイドにかけて広く取るようにしたんです。戦線が広がる分、戦闘は個人の技量によるところが多いかもしれませんが……」
「なるほど。それだけ私たちの実力を買ってくれているということかしら。それは素直に嬉しいわね」
「い、いえ! 買ってるだなんて、そんな上から目線のようなことは! 皆さんの実力が高いのはただの事実ですので!」
わたわたと手を振って否定する二水さんは、なんだか小動物っぽさを感じさせる可愛さがある。抱き枕とかにしてみたい。
その俗っぽい欲望は胸の内にしまい、私は続く壱さんの問いに耳を傾ける。
「でも、戦域を広げたら、あなたたちBZの負担が重くならない? サポートすべきエリアが広くなるってことでもあるのよ?」
「そこについては、僭越ながら、皐月さんの技量をお借りできたらと考えています」
「おっ、私もしかして頼られてます? 嬉しいです!」
傍聴者でいるつもりだった私に突然嬉しい形で話が回ってきて、思わず心が躍る。しかも二水さん、前は私のこと様付けだったのに、私の意思を汲んでくれたのかさん付けになってる! 二重に嬉しい!
「お任せください! BZは古巣ですし、立ち回り方もよく覚えてます。レジスタを使えば火力面も補強できますし、範囲をBZに絞れば樟美さんのファンタズムとも競合しないで済みますから!」
レジスタとファンタズムはスキル相性が悪いとされており、双方を同時に使用するのは極めて困難と言われている。
今回に関して言えば、私のレジスタをBZ、樟美さんは消去法的にもTZに配置されることになるので、ファンタズムをAZに限定して使用するようにすれば樟美さんの邪魔をすることにはならないでしょう。
しかし、こうして使い分けを強いられるのを見ると、やはり相性の悪さというのを実感せざるを得ない。だからこそ、その間をとれるスキル構成をしたリンカーという存在が重要になっているわけで。
「場合によっては、私もTZ以上に上がって楓さんと二重にレジスタを使うのもいいかもしれませんね。CHARMの出力をさらに上げて攻め攻めスタイルにできそうです」
全員のポジションが決まってきたことで、戦術的な運用も見え始めていた。尤も、こういうのは私より愛莉さんの方が詳しいし好む部類。本人も自分の畑を耕せるとあればさぞ嬉しそうに……
「よし、ポジションは概ね固まったな。じゃ、ここからは各ポジションの具体的な配置を考えてみろ」
「「「はい!」」」
あれ、混ざるつもりなさそう。
そういえば、さっきまでの会議(?)の中でもほとんど口出ししてないし、自分で始めておきながら、一歩引いて皆さんのことを見守っているような感じがする。
ここからは愛莉さんが好きな戦術関係の話もより深く絡んでくるというのに、どうしてこんなに控えめなんだろう。
勉強然り、分からなかったら聞くまでです。
「あの、愛莉さんは何で話に混ざろうとしてないんですか? こういうの、私より愛莉さんの方がずっと好きそうだと思うんですけど」
「あ? だってお前、これはあいつらのための勉強会だろうが。私らも学ぶことがあるとはいえ、口を挟みすぎたら主客転倒ってもんだろ」
リリィたちの上昇志向を思い身を引いていた彼女の、なんと献身的なことか。それに比べて私ときたら、皆さんと話しているのが楽しくて元々の主旨を完全に忘れていた。
その場の誰にも面目が立たなくなった私にできることといえば、その後も進行していった会議の中、愛莉さんに倣って口を噤むだけだった。
続きは半分弱くらいはできているので、1ヶ月以内を目安に作りたいと思います。