おまけにそれに見合う質はあるのかと聞かれたら首肯できなくて泣きそう。
曲がりなりにも見てくださっている方がいるので、質の向上には努めていくつもりですので、気長にお付き合いください(正味そんな人いないと思う)。
天葉さんに逃げられてから数週間、お客さんの入りは一般のお客様が数人と知り合いが1人とリリィ0人と目を覆いたくなる数字。やはりリリィである百合ヶ丘の皆さんは毎日授業や訓練で忙しいみたいです。
おかげで私は副業に専念できているわけですが、それは本業が閑散としているということなので悲しくなるジレンマ。
ちなみに、私がやっている副業は仲介人みたいなもので、詳細は秘密。
また、あちこちに買い出しに行ってくれているもう1人の従業員も、いまだに帰ってきません。数日帰らないのはいつものことですが、今回は少々帰りが遅いです。どこかで油でも売ってるんでしょうか?
いやあなたの仕事は油を売るより買うことでしょうが!
……ツッコんでくれる人がいるありがたみを感じざるを得ません。
そんなこんな、ここしばらく孤独の中で過ごす私は、今日もコーヒーを傍らに副業の真っ最中。
お店の裏でぱっぱと手を動かす中、時折手を休めてはお店の方へ耳を傾ける。誰か来ないかと期待してのものです。
表には私を含めて誰もいない上に、ここが街の喧騒とは縁遠い場所にあることもあって、店内は静かなることまるで林の中のよう。なので、誰か来れば入り口のベルですぐに分かるのですが、残念ながら何も聞こえません。
こうも経営者として暇を持て余していれば、ため息の一つでもつきたくなるものです。
「はぁ……また天葉さんとか来てくれませんかね。今度はちゃんと喫茶店の店主として紅茶でも出しておもてなししますからぁ……」
喫茶店ならコーヒーを出せと言われそうですが、百合ヶ丘の皆さんは紅茶派が多数いるので、リリィが大好きなうちの店も自然と紅茶の種類が増えていきました。
もちろん喫茶店らしくコーヒーだってあります。豆は自家製のオリジナルで、一応それなりに味の自信もありますし、百合ヶ丘の方々には結構好評なのです。
「それか新規さん…新規のお客さんに会いたいです。この間、百合ヶ丘は入学式だったじゃないですか。私もそろそろ新しいリリィの方に会いたいです……」
また私が寂しさのあまり泣き出しそうになった頃、店の入口で、2人の少女が扉を開けようとしていた。
この日、百合ヶ丘女学院の1年生である
夢結曰く、「会わせたい人がいる。百合ヶ丘にいる以上、会っておいて損はない」とのことだった。
梨璃は、憧れのリリィである夢結との外出というだけで嬉しかったが、それと同じくらいに、夢結が会わせたがっている人物について気になっていた。
街に降りてからというもの、夢結は中心部の方には向かわず、なぜか奥まった道や路地をずんずんと進んでおり、活気ある街の表側からどんどん遠ざかっていた。
やがて少し不安になったのか、梨璃は聞いた。
「あの、お姉様、道はこっちで合ってるんですか?」
「ええ。私も行くのは大体1年ぶりだけど、道は確かに覚えているわ。安心してちょうだい」
梨璃の不安を感じ取ったのか、夢結は安心させるように言った。それでもまだ不安なのか、梨璃は引き続き問いかける。
「そ、そうですか。ところで、お姉様が私に会わせたい方というのは、どんな人なんでしょうか?」
「そうね……日によって違う顔を見せてくれる人、かしら。笑ってることもあれば泣いていることもあって、元気な日もあればとても静かな日もあって……見ていて退屈しないけれど、ちょっと面倒くさい人なの」
「へー……なんだか面白そうな方ですね」
夢結の話を聞いた梨璃が抱いた率直な感想はそれだった。
もし、この場に夢結をよく知る人物がいれば「面倒くさいってあなたが言うのか」と思ったことだろう。いや、彼女をよく知らずとも、その不器用っぷりを少しでも知る人間ならば、同じ感想を抱くだろう。
当の本人はそんな他者の考えを知る由もなく、梨璃の感想を聞いて複雑な表情をする。
「面白い、ね……かつての頃は、そんな気配は微塵も無かったのに」
「え? 何ですか?」
「何でもないわ。ほら、言ってる間に着いたわよ」
梨璃の前には、気づけば一つの店が建っていた。街の喧騒がほとんど聞こえなくなるほどの辺境の片隅にぽつんと、それにしては妙に存在感の強い店だった。
人がいるような気配は感じられないが、入口にかけてある看板には「OPEN」と書かれているため、営業中なのだろう。
「ここ、ですか?」
「ええ。さあ、入りましょう」
夢結に促され、梨璃は店内に入る。カランカラン、と入口に取り付けられていたベルが鳴り響いた。
カウンターとテーブル席が数席のみの小さな店内は明かりがついていたが、そこに店員らしき影は見えなかった。
夢結は不思議そうに狭い店内を見渡す。
「おかしいわね、お店が開いているからにはいらっしゃるはずだけれど……」
「すみませーん、どなたかいらっしゃいませんかー?」
梨璃が店内に広がるように声をかけると、どこからかドタドタと物音が聞こえてきた。
「はーい! おりますおります、少々お待ちくださーい!」
次いで聞こえてきた声は、カウンターの向こうにある扉の奥から聞こえてきた。どうやら、店の奥で何か作業をしていたようだった。
再びバタバタと物音が聞こえたが、数秒後にはカウンター奥の扉が開かれ店員らしき20代ほどの女性が姿を現した。
白いワイシャツに黒いエプロンをかけているが、急いで出てきたのか、梨璃たちの前に出てきた今もちゃんとエプロンをかけられていなかった。
女性は背中にエプロンの帯を蝶結びにして最低限の身なりを整えると、梨璃たちに向き直った。
「いや〜お迎えが遅れてしまい誠に申し訳ありません! 店の奥で在庫の確認作業をしていた、もの、で…」
女性の声がだんだんと消えていく。その目は驚いたように見開かれ、梨璃をここに案内した夢結へと向けられていた。
視線を向けられた夢結は、申し訳なさそうな顔をして一礼した。
「お久しぶりです、皐月様。今さら図々しくあなたの前に現れる無礼、どうかお許しください」
なぜ謝罪の言葉が出るのか、事情を知らない梨璃には分からなかった。しかし、「皐月様」と呼ばれた女性は夢結の言いたいことを理解したのか、うんうんと小さく頷くと、夢結の前に立ち……
「ここでは私のことを様づけで呼ぶの禁止です!」
自身の前に差し出された頭にコツン、と軽く手刀を見舞った。
顔を上げた夢結は頭に手を当てながら、訳がわからないと言うように目を丸くしながら困惑していた。
「そんなことで謝るとか真面目か! まさか、私がそんなことを気にする人間だとでも? 久しぶりにきてくれたと思ったら深刻そうな顔するから、まさか訃報でも持ってきたのかと思いましたよ。あーびっくりした!」
「何も、言わないのですか……?」
「じゃあ言いますよ。あれでしょ、どうせしばらく来てなかったから顔を合わせるのが気まずかったんでしょう。くっだらないことを気にするんじゃありません! お茶しにきてくれたんでしょう? 私はもうそれだけで抱きつきたくなるくらいたまらなく嬉しいんですよ! ほら、いつまでもそんなとこに立ってないで座ってください。そちらの四つ葉のお嬢さんも」
「え? あ、はい!」
四つ葉と聞いて、自分がつけている髪飾りを見て言ったのだと理解した梨璃は席に向かう。その時、ふと夢結の顔を見ると、いまだに手刀を落とされた頭に手を置いているが、その顔はとても嬉しそうに笑っていた。
夢結の笑顔に自身も嬉しくなり、梨璃は夢結に笑いかけた。
「事情はよく分からないですけど、よかったですね、お姉様!」
「! ……ええ、ありがとう、梨璃」
互いに微笑み合う少女たちを端から眺める皐月は、その会話から聞こえてきた一言にすこぶる好奇心をくすぐられてしまった。
「待ってください、今『お姉様』って言いました?」
驚天動地。しばらく見ない間に夢結さんが……あのお姉様にベッタリだったかわいい夢結さんがお姉様になっていました!
百合ヶ丘女学院には、上級生が下級生と擬似姉妹契約を結び、上級生が下級生をリリィとして、人間として成長できるよう導いていく『シュッツエンゲル制度』というものがあり、夢結さんは梨璃さんの
だから梨璃さんは夢結さんのことをお姉様と慕っているわけですね、大変尊いです。
夢結さんは、とある戦いで自身のシュッツエンゲルだった人を亡くしてからずっと1人で戦い続けてきた方ですが、今では梨璃さんと出会って心を開き、リリィの部隊である『レギオン』にも所属しているそう。
なんと夢結さんと中等部時代から仲良しだった梅さんも所属しているのだとか。しかも…
「隊長が梨璃さん!? すごい! まだ1年生で、しかも新米さんなんですよね!? カッコいいな〜!」
「えへへ、そんなに褒められると照れちゃいます。でも、私なんてまだまだですよ」
「確かにリリィとしては未熟なのでしょうが、だからこそすごいんですよ! リリィになって間もない人がレギオンを結成するなんて。これはあなた自身の力で成したことなんですから、もっと誇っちゃっていいんですよ!」
「え、えへへ、そこまで言われると、本当にそんな気になっちゃいますよ〜」
異例の新人隊長を相手に私が褒めちぎると、梨璃さんは顔を赤らめて頬をかく。かなり嬉しそうです。
ていうか可愛いです。うちの子にしちゃいたいくらい。
その可愛らしい反応を楽しんでいると、横から注文した紅茶を一口飲みながら夢結さんが口を挟んできた。
「皐月様……失礼しました。
「でも今は隊長としてしゃんとしてるように見えますよ?」
「だからこそ、また弛んでるようでは困るんです。シュッツエンゲルとして、私は梨璃を指導する立場にあります」
「お姉様……」
自分のことを真剣に考えてくれている夢結さんに、梨璃さんはときめいているようです。
「へぇ〜、ちゃんとお姉様してるんですね」
「当然です」
毅然と振る舞う夢結さんに、私は顔を近づけてこっそり言いました。
「大方、弛み切っていた精神を引き締めるために、リリィ初心者の梨璃さんにレギオンを作れとか無理難題をふっかけたのでしょう?」
「……!」
「ほら図星。まあ良かったじゃないですか。夢結さんの思惑から外れはしても、きっとその思惑以上に、梨璃さんは成長していますよ」
「……はい、あの子はまだまだ強くなります。私がきっと、導いてみせます」
「よろしい。でも、あまり気負いすぎちゃダメですよ」
2人でクスリと笑い合うと、梨璃さんが不思議そうにこちらを見つめていた。
「お二人とも、なんだか楽しそうですね」
「そ、そうかしら?」
「え〜夢結さんったら素直じゃないですね〜。私は久しぶりに夢結さんに会えて楽しいですよ?」
カウンターの向こうから抱きつこうとしたら夢結さんは手を突き出して拒否してきた。この人ってば本当に素直じゃないんですから。
「そういえば、お姉様も最初に『お久しぶりです』って……お二人は、以前からお知り合いなんですよね?」
「はい、学生時代からかなり親交がありましたね。私が手ほどきをしたことだってあったんですよ」
「え? お姉様に手ほどき……?」
梨璃さんが頭にハテナマークを浮かべる。それと同時に、私の頭の中にもハテナマークが浮かび、夢結さんを問いただします。
「あれ、もしかして夢結さん説明してないんですか? ここに連れてきたんなら、てっきりもう知ってるものかと……」
「そういえば、まだその辺りは教えていませんでした。会ってからの方がいいと思ってそのまま……皐月さん、お手数ですが説明はご本人の口からの方が早いかと」
それもそうですね。
夢結さんの言葉に私は頷き、梨璃さんに向き直り自己紹介をした。
「えー、ご挨拶が遅れてしまい申し訳ありません。わたくし、当店『喫茶ゆりかご』の店主であり百合ヶ丘女学院OGの、
えっ、と驚いたような声を出した後、梨璃さんは慌てて姿勢を正した。
「も、申し訳ありません! 卒業生の方とは知らず失礼を……」
私の素性を知った途端に畏まる梨璃さんですが、私は夢結さんと同様にその頭に軽く手刀を振り下ろしてそれを制します。
梨璃さんは手刀を見舞われた頭に手を当ててポカンとしている。夢結さんと似たような反応に思わず笑ってしまいます。やはり姉妹は似るものですね。
「え、えっと……」
「私が元リリィだって知ると皆さんそうやって畏まるんですよ。私はもっと皆さんとお近づきになりたいので、私に対するそういう堅苦しい態度はこのお店では禁止です」
「え? でも、お姉様はさっきから……」
「見知った仲であっても、彼女は先輩。最低限の礼儀は弁えるものよ、梨璃」
「親しき仲にも礼儀あり、ですね。私はそんなのちっとも気にしませんが、その辺は人としての常識的な行動であると理解しています。梨璃さんも、さっきまでと同じように話してくれていいんですよ。私、もっと梨璃さんとお話ししたいです」
「…! はい! ありがとうございます、皐月さん!」
というわけで、梨璃さんに色々聞いてみましたのコーナー。
なんの脈絡もなく始まりましたこちら、初めてこのお店に来てくれたリリィの方のことは色々知りたいので、色々聞いてみようという捻りも何もないコーナーです。
私のテンションが上がって流れのままに失礼なことを聞いた暁には、私の土下座をお見せします。どこにも需要ありません。
そんなこんなで、質問スタートです。
「梨璃さんのご出身は?」
「山梨の甲州です」
初めの一歩、地雷を踏み抜きました。
「す、すすすすすみません知らぬこととはいえ失礼なことを!」
「え? なんで謝るんですか?」
なんでも何もありません。山梨の甲州といえば、現在はヒュージに占拠されてしまった陥落指定地域。そして、その認定を受けることになったきっかけが、夢結さんがシュッツエンゲルを亡くしてしまった『甲州撤退戦』である。
故郷を奪われ、親愛なる姉を失った戦いを思い出させるようなことを聞いてしまったのですから、これはもう土下座ものの失敗です。
ということでお見せしましょう、尊厳もプライドも全て捨てた私の……
「あの、皐月さん。あまり気にしないでください」
「……はい?」
頭を叩きつける1秒前、梨璃さんに止められました。
「確かに、故郷がヒュージに奪われちゃったのは悲しいし悔しいですけど、それで大切なものが全部なくなっちゃったわけじゃありません。私の家族や友達は、お姉様が……あの日、甲州で戦っていたリリィの皆さんが守ってくれました」
「でも……」
私がチラリと夢結さんに視線をやると、彼女は首を横に張った。
「あの日、私は美鈴お姉様を失ってから、失意と絶望感に苛まれ続けてきました。失うくらいなら、傷つけてしまうくらいならと、ずっと一人でそれを抱えて戦って……でも、梨璃に教えられました。仲間の大切さも、美鈴お姉様への想いも、私は私だということも。導くべきシルトに諭されているようでは、シュッツエンゲル失格ですが」
一呼吸おいて、夢結さんは続ける。
「だからこそ、梨璃を守り導くと決めました。過去の後悔はどうしたって消えません。あの日の絶望も、一生影を落とし続けるでしょう。それでも、未練がましく過去を引きずる私を姉と慕ってくれるこの子となら、共に進み、支え合い、そしていつかは、あの過去と私自身に向き合えると、そう信じられるんです」
その姿勢は、まるで気高く咲き立つ花のようで、梨璃さんは愛しのお姉様のその姿に完全に見惚れているようでした。
かくいう私も、夢結さんが最後に店に来てくれた時のことを思い出すと、今の夢結さんの姿はあまりに感慨深くて……
「えっ、皐月さん!? なんで泣いてるんですか!?」
「すみません、あまりにいい話だったのでつい……」
「いい話だなんて、そんな大袈裟な……」
「大袈裟なもんですか! だって夢結さん、最後にうちに来てくれた時はろくに話もしてくれないつっけんどんだったじゃないですか!」
「つっけんどん……!?」
「それが今ではこんなに可愛くなっちゃってもー! これぞ契りを結んだ人のあるべき姿って感じです! ああ梨璃さん、こんな不束な夢結さんですが、今後とも慕ってあげてくださいね」
「不束!?」
「もちろんです! どんなにつっけんどんで不束だとしても、私のお姉様は世界で一番強くて優しいお姉様ですから!」
「梨璃!?」
梨璃さんとしては擁護したつもりだったのだろうその無自覚な言葉は、夢結さんにはアッパーカット並みの衝撃だったようで、夢結さんは顔を手で覆ってため息混じりに唸り始めた。
普段ならこういう姿は絶対に見せないので、本当に変わりましたよ、夢結さんは。
しかし、夢結さんへの精神攻撃はまだ終わらなかった。
「あ、それから、お姉様がシュッツエンゲル失格だなんて、そんなこと絶対にありません! 勉強とか訓練とか、お姉様が私のために沢山のことをしてくれていること、私はちゃんと知ってます!」
「梨璃……」
シルトからの純粋な言葉に、傷ついた夢結さんの心はたちまち癒され……
「それに、この間の私の誕生日の時にも……」
「……あ」
その瞬間、夢結さんのリリィとしての直感が雲行きの怪しさを感じ取った。
「え? 梨璃さん誕生日だったんですか? おめでとうございます!」
「ありがとうございます! それで、当日なんですけどお姉様が……」
「待って梨璃、今の私の精神状態でその話は……」
「わざわざ外出届を出して朝早くから甲州に私の大好きな瓶ラムネを買いに行ってくれたらしくて!」
「うっ……」
お姉様の変化に気づくことなく、梨璃さんは話を進める。
「百合ヶ丘から甲州までは遠いのに、それでも私のためにそこまでしてくれたのが本当に嬉しかったんです!」
「瓶ラムネですか。美味しいですよねえ、あれ。でもそれなら、学院の近くにある蔓草まみれの自販機で売ってますよね?」
「あ、あれ皐月さんの頃からあるんですね。私も最初はそこのだと思ったんですけど……いえ、プレゼントとしていただいたラムネは自販機のものだったんですけど、でもお姉様は本当に甲州まで行ってくれて……」
話が絡まってきたので、一度梨璃さんを落ち着かせます。
「待って、一旦止まりましょう梨璃さん。こんがらがってきてるので一から順に話しましょう」
「はい、すみません……」
「謝るようなことじゃありませんって。ほら夢結さんも、黙ってないで当事者としてお話を……夢結さん?」
「お姉様?」
この時になってようやく、私たちは夢結さんの状態に気がついた。
どうしたことか、夢結さんはガックリと項垂れて負のオーラを漂わせながらぶつぶつと何かを呟いていた。
「どうせ私はシルトへの贈り物一つ満足に用意できないダメな姉よ……」
「お姉様!?」
「夢結さん、どうしたんですか!?」
「ふふっ、どうぞ笑ってください皐月さん。守るだの導くだの言っても、結局私が梨璃にしてあげられることなんて……」
先ほどまでの凛とした態度はどこへやら、夢結さんは完全に消沈してしまっていました。
「お姉様、お気を確かに!」
「そうですよ! さっきまでの健やかな空気はどこいっちゃったんですか夢結さん!」
その原因が私たちであることなど、当の私たちは気づくべくもなかったのでした。
夢結さんが正気を取り戻したのち、「お見苦しいところをお見せしました」と丁重な謝罪を受け取りました。やっぱり夢結さんにあんな姿は似合いませんね。
恥ずかしいところを梨璃さんに見られてしまったと自覚してから、しばらく梨璃さんとは顔を合わせづらそうにしていたので、私が唆して梨璃さんにハグをさせました。上目遣いで「お姉様……」と寂しげに呼ぶ梨璃さんの天然っぷりを添えて。
これですっかり可愛くなってしまった夢結さんはイチコロでした。梨璃さん、意外と魔性の女なのかもしれません。
と、楽しい時間はあっという間。そろそろお二人は帰る時間のようで、お財布を取り出しました。
お二人から代金をいただき(お二人とも紅茶とお茶菓子を一つずつ)、レジを打つ。レジに計算されたおつりの金額が表示され、レシートが出てきたところで、梨璃さんが口を開いた。
「そういえば……お姉様、来る前に言ってた、皐月さんに会っておいて損はないっていうのはどういうことだったんですか? あの、皐月さんと話してるのはすごく楽しかったんですけど……」
ああ、と思い出したように夢結さんは説明する。
「さっき聞いた通り、皐月さんは百合ヶ丘女学院の卒業生なのだけれど、卒業した今も、百合ヶ丘と強い繋がりを持っているの」
「それは、お店の店主としてってことですか?」
梨璃さんの疑問に、私も説明に加わります。
「個人的にも、ですね。うちはよそでコーヒー豆を栽培してまして、それを百合ヶ丘にも卸してるんですが、うちで飲んだことのある人たちが、私が淹れたコーヒーの方が美味しいって言ってくれたらしいんですよ。それを知った理事長が、私に声をかけてくれたんです。『時間があるときで構わないから、百合ヶ丘に出向いてコーヒーを振る舞ってあげてくれないか?』って」
「えっ? あの、私そういう規則はよく分からないんですけど、卒業生とはいえ、そんなプライベートみたいな理由で一般の人をガーデンに招くなんて、大丈夫なんですか?」
梨璃さんの心配そうな問いかけに、私は首を振る。
「むしろ卒業生だからできることらしいです。私もその辺は気になったので理事長代行に聞いてみたら、在学中の私の働きを加味して、理事長の一存で通ってしまったらしいです。理事会の人たちはそのまま理事長が説得してくれたとか。まあそういうわけで、私は定期的に百合ヶ丘にお邪魔してるんです。『喫茶ゆりかご出張版』って感じですね」
「へー……難しいことはよく分かりませんけど、すごいですね!」
「権力万歳ってことですよ。はい、お待たせしました。おつりとレシートです」
話を切り上げるように、私は梨璃さんと夢結さんにおつりとレシートを渡した。それを受け取った二人は、席を立つ。
名残惜しいですが、お別れの時間です。
「皐月さん、今日はありがとうございました。紅茶、とっても美味しかったです」
「そう言ってもらえると、作り手冥利に尽きますね。またいらしてください、今度はご学友の方とでもご一緒に」
「はい! 二水ちゃんたちにもこのお店のこと教えてあげなくちゃ」
「二水さんのことだから、あの暁乃皐月がいると聞けば飛んでくるでしょうね」
夢結さんの一言で、その二水さんという方の性格が想像ついてしまいます。その人、絶対に私と同類だ。
「会うのが楽しみですね〜」
個人的にも利益的にも。
まだ見ぬリリィに期待を膨らませる私でしたが、ふと思い出したことがあり、それを夢結さんに伝えます。
「あ、そうだ夢結さん。百合ヶ丘に戻ったら、天葉さんに今度はお店に来てくださいねって伝えてもらえますか?」
「天葉に? 今度は? ……はい、伝えておきます」
前回のことがあるので、天葉さんにはこれが間接的な呼び出しであることは伝わるでしょう。梨璃さんのご学友も含めて、すでに二人のお客様を確保して、私の心はほくほくなのでした。
実は、7月2日のラスバレライブ トウメイダイアリー 〜Next Page〜に出撃してました(夜の部のみ)。
会場一体になってGoGoリリィができたのがすごい楽しくって!
1年前の苦境を越えて、また一柳隊でライブができただけでも感慨深いのに次のライブが決まってるなんて泣いちゃいそう。
お前の敗因は、ライブの熱が冷める前にこの小説を書ききれなかったことだ。