私は貞操逆転世界にTS転生したのに、親友は男のまま転移とかずるい 作:甘朔八夏
「な・ん・で、
「…なんだっていいだろ。クラスメイトと交流を深めるのが目的なんだから、俺が居るのはおかしくないはずだ」
「そうだよ、ここは
「わかってるさ」
同じクラスのクール系男子、氷鉋くん。彼と
系統は違うとはいえ、両方イケメンなのは間違いなく。二人の静かな争いを前に、我々女子陣は気まずい顔をするしかない。
「…まさか氷鉋きゅんが来るとは」
朱莉の台詞に全面的に同意する。
昨日のことのように、というか昨日のことなので覚えている。彼は先日の始業前、朱莉のくすぐりの刑から逃れるために利用させてもらったクラスメイトだ。
放課後、女子たちに囲まれていた時の態度から分かるように、彼は女子にまったく興味がない模様。
だからこそ、カラオケ店の前で佇んでいた彼を見て度肝を抜いたものだ。
「…もしかして、集合場所間違えたか?」なんてばつが悪そうに頬を掻く動作に、ギャップ萌え被害者が多数出たという。あの一瞬で彼は何人落としたのだろう。
「…私らからしたら嬉しいんだけどねぇ」
一段声を低くした向田くんを横目にぼやく葵。彼女のギャルパワーをもってしても、男の喧嘩に割って入るのは至難の業のようで。傍観者となっている私たちの間に、「誰かなんとかしろよ…」っていう空気ができる。
でもその「誰か」にはなりたくない。だって男の子に嫌われたくないから。
「そもそもなんで俺が居たら駄目なんだよ」
「昨日学校であのスタンスを取っておいて、よくそんなことが言えるね?」
「尻尾振って媚びてるほうが可笑しいだろ」
「はァ?」
……なぁ、向田くんや。さっきあんなにアイドルムーブかましておいて、そんなドスの効いた声あげたらビビっちゃうって。キャラがブレブレだと、いくら雑食の女子陣でも冷める人が——
「良い。泣かせたい」
「氷鉋くん、けっこう話すタイプなんだね好き」
「今年のクラスは当たりだな」
ごめん撤回するわ。みんな仲裁を諦めて男鑑賞モードに切り替えやがった。
どんな性格でも妄想の中では調理法は自由自在。若干名が真剣な顔で目を閉じてる理由は、私純粋だからわかんない。
「話にならないな。ここでたむろしているのも迷惑だし、早く中に入らないのか?」
拉致が開かないことを悟ったのか、意識を私たちの方へ向ける氷鉋くん。
助かった。当人たちで解決してくれるのが一番穏便で私たちも安心だ。と、胸を撫で下ろしたところで、氷鉋くんとバッチリ目が合った。
「ひいら——」
「氷鉋くんおはようっ!!休みの日も会えてすっごく嬉しいなぁ!わたし
「お、おう」
二人の前に飛び出して、自分でも引くほど
手早くチェックインを済まし、部屋へと向かう道中。男二人の前にしゃしゃり出た私を、2種類の目線が襲っている。
『なにフライングしとんじゃこら』という怒りと、『あの空気で二人に割って入るとか正気じゃない』という畏れである。ポジティブな感情ゼロで笑っちゃう。
まあ今の行動、側から見たら完全に印象を残すためのアピールだもんね。「クラスの親睦会」と銘打ってる状況で抜け駆けしたらそりゃあヘイトを買うだろう。
しかし、私の内心はそれどころではない。思考を支配するのはこれ一つ。
今、この男は何を言おうとした???
まさかとは思うが氷鉋くん、私の名前を呼ぼうとしたんじゃなかろうか。確かに出席番号は前後だし昨日少し話したから、覚えている可能性はあるだろう。正直覚えられているということだけでも嫉妬の嵐である。
——にも関わらず、この大所帯で私を名指しするだって?? 殺す気か?? もしかして氷鉋くん、私のことめっちゃ嫌いだったりする??
今の私は満場一致で愚行をしたといえるが、それでも最悪の事態は避けられたように思う。自分を強く主張してくる女に惹かれる男はいないだろうし、ここで氷鉋くんへの好感度もちゃんと下げておく。嫌われると分かっててする行動ほど悲しいものは無いよ…めそめそ。
「ユズの髪ってゆるふわで可愛いよね。私も伸ばしてみようかなぁ」
「……いいんじゃない?」
そろそろ無視できなくなったので、平静を装って返事を返す。さっきからずっと、朱莉が枝毛を探すみたいに私の髪をいじっている。
なんかね、首筋に刃物をあてられてるような気分。朱莉の中学時代の部活はハンドボールなので、私の首なんて彼女にかかれば片手でポキッ、だろう。
やっぱり帰りたくなってきた。駄目?そっかぁ…
◇
「おぉ、92点!柚葉やるじゃ〜ん」
葵が挙げた手にノリよくハイタッチ。ふっふっふ、私は楽器はてんで駄目だけど、音感とリズム感は割とあるのだ!
初めはどうなることかと不安だったが、案外始まってしまえば気にならなくなるもので。露骨に男性陣から離れた場所に座ってワイワイしていると、私に対する警戒の視線を和らいでいった。
周りの雰囲気も昨日より打ち解けていて、今では皆が縦ノリ気味に気持ちよく歌う始末である。
「ユズちゃんすごい!もしかして、中学のとき軽音部とか入ってたぁ?」
「…いや、中学は違う部活だったけど、歌うのは好きでカラオケはよく行ってたよ」
手をぱちぱちとさせてニコニコ笑っているのは、王子様キャラを取り戻した向田くん。甘い賞賛をバリュエーション豊かに投げかける姿は見ていて感心するほど。
つい先ほど、きゃるんっ⭐︎という擬音がよく似合うアイドルソングを完璧に歌い切ったばかりなのに疲れも見せない。
入る前に氷鉋くんと喧嘩していたのが信じられないほどの徹底ぶりだ。彼の褒めと笑顔にちょっとだけ気分が良くなっている私も危ないかもしれない。
でも君が私を見ると、向田くんの両隣の女子も真顔で私を見てくるので、あんまり見ないでほしいというのが本音です…。
「ゆ、柚葉ちゃん!私次この曲歌おうかと思ってるんだけど…どうかな?」
苦笑と引きつり笑いのちょうど間の表情をしていると、隣から控えめに腕をひかれる。
「…それも良いと思うけど、そのアーティストだとこっちの曲の方がいいんじゃない?諒子ちゃんが選んだのはけっこう難しい曲だから、喉痛めるかもだし」
「へぇ…じゃあ、それにしようかな…」
「名前で呼んでくれると嬉しいな!」とお願いして以来、さらに打ち解けた諒子ちゃん。
かなり直球のラブソングを歌おうとした彼女の選択肢をやんわりとメジャー曲へずらす。…最初に歌おうとしていたその曲は、女子だけでカラオケに行って歌っても「飛ばすねぇw」といわれるような歌詞である。
その猪突猛進さだけは評価したい。
「次は…俺か」
端の方に座っていた氷鉋くんが立ち上がる。意外にも、彼は近くの女子と普通に談笑している。昨日は感じられなかった優しい雰囲気に頬を紅潮させる者、多数。彼がマイクを握った瞬間、周りからは歓声が上がった。
選んだ曲は有名バンドの代表曲。もうかなり昔の歌であるが、未だ人気ランキング上位に位置する名曲だ。
イントロが始まると、なんと彼は目を閉じた。そのまま一度深呼吸をして、足でリズムをとっている。パーカッション経験者かと疑いたくなるほど正確だった。そのリズム感に恥じず、ズレ0の入りで歌い出す。
手拍子を止めざるを得なかった。
「…うっま」
結論から言うと、びっくりするほど上手かった。エッジの効いた低音から張りのある高音まで、完璧な強弱で歌い切った氷鉋くん。静まり返った部屋の中、彼は満足そうにマイクを置いて腰を下ろす。
そのタイミングで、たまたま彼と目が合った。
「…優勝です」
呆けた頭のまま、よく分からない発言をしてしまう。何言ってんだ私は。そこはせめて「上手いね」とか「かっこよかった」とかあるだろ。先の向田くんのほめ殺しの技術を見ていたのもあって、私の賞賛のレベルの低さが目立つ目立つ。
こんな変な発言に返答しなくてはいけない氷鉋くんに申し訳なく思っていると。
「……ありがとう」
彼は少し恥ずかしそうにしながら、控えめにピースサインを作った。
え?
「「「「
氷鉋くんが座る席の向かい側にいた私たちに、彼の攻撃がクリーンヒット。
「ユズ。今じゃなくていい。でもいつか絶対、私は持ち帰るよ」
ノックアウトされた人たちの中で、私の次に早く復活した朱莉のくもりなきまなこ。
それを咎めることは流石にできなかったと報告しておきます。