敵の女幹部とドンパチしてたら息子が出来た   作:イベリ

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唐突に思いついた。多分続かない。


母ちゃんがいなくなった!?探しに行くぞ!

ドカカッドカカッ、と広大な地平を駆ける馬の蹄鉄が音を鳴らす。

 

馬上には逞しい上裸に、申し訳程度の上着とアラジンパンツに、革のサンダルを着こなす、褐色の威勢の良さそうな青年と、対象的な処女雪を思わせる小さな子うさぎのような少年が揺られていた。

 

遠くに見える高い壁を目視して、男は少年に声をかける。

 

「おい坊主!もうすぐ、お前の母ちゃん達が言ってた所だぞ!」

 

「う、うん!お兄ちゃん…本当に、お義母さん達は居るかな?」

 

「なぁに!いなかったら世界中でも回ってやるよ!あっちの方にある竜の谷でドラゴンでもふん捕まえて世界を旅しようぜ!」

 

「も、目的が変わってるよ!?お義母さんを探すんだよ!?」

 

「おう!そうだったそうだった!!」

 

呵呵大笑というのは、まさにこの事なのだろう。言葉しか知らなかった、小さな少年はこれが…と納得した。

 

ガハハハハッと豪快に空を仰いで笑った青年は、短く整えられた茶髪を掻き上げる。

 

少し心配になった少年は、そう言えばと口を開く。

 

「あ、お兄ちゃん!!そういえば、入れるの!?何か必要なものだったり…!」

 

「あぁ!要らねぇよ!俺ァ元々あそこの冒険者だしな!!」

 

「本当に!!いいなぁ!僕もなりたいんだ!」

 

「そうか!お前もなりたいか!!じゃあお前の母ちゃんが見つかったら、稽古つけてやる!!」

 

「ホントに!!早く、お義母さん見つけようね!」

 

「おうよ!!」

 

アハハッと笑った2人は、見るものによっては仲睦まじい兄弟のように見えるだろう。

 

興奮と共に馬の速度をさらに上げれば、あっという間に城門の前に辿り着く。

 

すると、謎の仮面をつけた集団が前に出て声を上げた。

 

「止まれ!」

 

「ひっ、なにあの変な人たち!?」

 

突然出てきた仮面の集団に対する、ベルの口撃がフルヒット。項垂れた集団は、血反吐を吐くように本音を吐露した。

 

「ぐぅっ…!変な自覚はあるから言い返せん…!!」

 

「俺……何やってんだろ…こんな仮面つけて…」

 

「ダッハッハッハッ!!いい加減それ辞めたらどうなんだよ、シャクティも神さんも、ちったァ団員の気持ち汲んでやれよなぁ。」

 

自警団だぞこいつら。と付け加えた青年の声に、自警団の古株は、ピクリと反応した。

 

「ん…?…………あ、あなたは…!?」

 

青年の声に反応した老齢の団員の背後から、騒ぎを聞き付けやってきた、美しい妙齢の女性が目を見開いて驚いていた。

 

「お、シャクティ!!!久々だな!!」

 

「……あぁ、本当に…久々だな……貴様…!!」

 

シャクティと呼ばれたその女性は、少年が聞いてわかるほどに青筋を浮かべ、笑顔でブチ切れていた。

 

ガタガタ震える少年を他所に、青年は気にせずいつものように快活に笑う。

 

「……この1年、一体何をしていた?」

 

「いやー!極東行ったり、竜の谷行ったりしてたぞ!あ、あとアルテミス様ん所と、バカでかいサソリ狩りもしたな!!」

 

「そうかそうか…それは楽しそうでなによりだ……」

 

「おう!楽しかったぜ!」

 

その一言がトドメとなったのか、シャクティの堪忍袋の緒が切れた。

 

思い切り振りかぶって、なんなら助走付きで飛び上がり、青年の頭頂部に思い切り拳を振り下ろした。

 

目にも止まらぬ速さで地面に叩きつけられた青年を見て、少年は震えさえ止まった。人体から決して鳴っては行けない音がした後に、衝撃音と拳打音が同時に響いた。

 

そして、少年はより深く理解した。

 

この母が向かった都市────オラリオにはこんなにも強い女性が存在すること、女性には逆らってはならないこと。少年の中で、女性への恐怖心を徐々に貯めていく。

 

「……それで、少年。」

 

「はっ、はひ!?」

 

「むっ…いや、何の目的でここに来た?名前は?」

 

同郷の身として、こいつが迷惑をかけていないといいんだが…と心配そうに少年の視線に合わせたシャクティは、少年の目をしっかりとみて微笑んだ。

 

「そう緊張するな、ただの質問だ。私は、シャクティ・ヴァルマ。この都市を守る憲兵団…ファミリアという、組織の団長……リーダーだ。」

 

さっきとは変わり、優しさ全開でやってきたシャクティに、少し頬を染めながら、少年はたどたどしく答える。

 

「べ、ベル・クラネル……です。お、お義母さんと叔父さんを探しに来ました…!」

 

「母と叔父を…年は?」

 

「7つ、です…」

 

「そうか、しっかりしているなベルは……それで、ベル…この(バカ)とはどういう関係だ?」

 

指さされた青年は未だ地面に埋まったままピクリとも動かない。死んだか?とベルは訝しげに見るが、呼吸の動きからどうやら生きているらしく、安堵した。

 

「えっと、その……」

 

言い淀むベルに、まさか子供?と疑問符をうかべたシャクティに、分からぬままベルは答える。

 

「そ、その……お母さん達が黒い神様に連れ去られて、いなくなっちゃって…泣いてたら、お兄ちゃんが……っ…連れてって、くれっ……!」

 

「あぁ、済まない……辛いことを思い出させたな。」

 

よしよし、と頭を撫でられたベルは安堵と不安から余計涙が込み上げてきた。

 

涙をポロポロと流す少年に、仕方ないと抱き上げたシャクティは、身内の連れてきた客人だと認識を変えて、ホームに足を運ぼうと踵を返し、ジトッと倒れている男を見た。

 

「………おい、いつまで寝ている。さっさと起きろ。どうせダメージなどあるまい─────アスラ!」

 

アスラと呼ばれた青年が、地面からガバッと起き上がり、ニィッと白い歯を見せて笑う。

 

「バレたか?」

 

「バレバレだ阿呆。そら、さっさと帰るぞ。」

 

「お兄ちゃん、っアスラって名前だったんだ。知らなかった。」

 

「あれ?名乗ってなかったか?」

 

「うん、全然。」

 

あっけらかんとそうだっけ?と反応したアスラに、シャクティは心底呆れながら、こいつらしいと笑う。

 

「お前……ほんと、そういうところだぞ……この子の方が余程礼儀正しい。」

 

「ダッハッハッハッ!!7歳児に負けちまった!!俺20なのに!!」

 

いつものように大笑いした青年────アスラは、空を仰ぐように仰け反って笑う。何度かベルが見た、彼の癖のようなものなのだろう。

 

ひとしきり笑った後に、アスラはベルの前で出会った時と変わらない笑顔を浮かべた。

 

「んじゃあ改めて、だ!俺はアスラ!アスラ・マハトマン・アビマニー!このオラリオにいる、ガネーシャ…まぁつまり!この仮面の集団の仲間だ!」

 

「うん、よろしくね、アスラお兄ちゃ─────」

 

差し出されたアスラの手を握り返そうと、シャクティの腕の中から手を伸ばす────

 

「よしっ!そうと決まれば早速お前の母ちゃん探すぞ!!」

 

「へっ?」

 

─────と、その腕を引っ掴んで、シャクティの腕の中からベルをひったくって爆速で走り出した。

 

「行くぞベル!何とかは急ぐもんだ!!」

 

「それ多分善は急げええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ───────!!?」

 

正に、ドップラー現象。ベルの悲鳴だけが遠ざかって行くのを、シャクティは頭を抱えながら見ているしか無かった。

 

とてつもないスピードで屋根を、塔を駆け回り、城壁の上に着地。

 

「っと、着いたぜ!」

 

「は、はひ、ふぇ?」

 

アスラの声に、グワングワンと揺れていた頭を押えながら前を向けば、壮観とも言える景色が、ベルの前に拡がっていた。

 

円状に広がった大都市、世界の中心とも言われる場所。

 

神々と、人間が共存する町。

 

「凄い……凄い…!!」

 

「ここが、オラリオだ!!」

 

そういったアスラは、思い出したようにベルを下ろして、わざとらしく咳払いをしてから、手を差し出した。

 

「ようこそ、冒険者の卵!ここが、お前の出発点だ!お前の母ちゃんを見つけて、さっさと楽しい冒険と洒落込むぞ!」

 

「───────うんっ!」

 

これは、青年と少年が刻む家族の軌跡(ファミリア・ミィス)、その前日譚。

 

笑顔の少年と、これまた笑顔の青年を歓迎するように、2人が立つ城壁の真下で大爆発が起きた。


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