敵の女幹部とドンパチしてたら息子が出来た   作:イベリ

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待たせたな。


白き才禍

「本隊を速攻でブチ抜けさせろ!!小娘共!いい機会だ、先導しろ!ケツは俺たちで持ってやる!」

 

『了解!』

 

一気に突入したアストレア・ガネーシャの合同部隊は、闇派閥の抵抗を許さぬ速攻で最奥に侵攻する。作戦としては、この侵攻は成功してもしなくてもどちらでもいい。しかし、ここで仮に敵主力拠点、もしくは敵主力を押さえられれば、この後の本命も優位に進むことだろう。

 

故に、手を抜くわけにはいかなかった。

 

「通路奥!あと上!来るぞ!」

 

「任せて!」

 

「青二才!右をやれ!逆は私が仕留める!」

 

「言われなくとも…!」

 

最前線を進む輝夜、アリーゼ、リューは建物内に潜伏する敵を一身に受けながら突撃。

 

難なく突破した3人の後ろを、猛追するガネーシャ・ファミリアの最前線にいるジャフ。

 

そして、その横を走るベルという布陣で攻略を開始した。

 

初めての空気に、ウズウズとしていたベルは、思わず1番近くにいたマリューに叫ぶ。

 

「マリューお姉ちゃん!僕は!?」

 

「ベルちゃんは無理は禁物!撃ち漏らしだけ弾い──────輝夜ッ!?」

 

アストレア・ファミリアの面々が八面六臂の大暴れをしながら、敵を無力化する。そんな中、マリューの注意が飛んだ瞬間、輝夜が駆け抜ける脇道の影から、刺客が斬りかかった。

 

(こいつっ......油断した...!)

 

道中を塞いでいた有象無象とは明らかに違う。しかし、輝夜よりは数段劣る。防御は間に合う、しかし無茶な体勢からの防御になるため、多少の覚悟をしながら重心を意識した時、視界の端から白い影が鈴の音と共に飛び出した。

 

その影が、敵の攻撃よりも先に到達し、鈍い打撃音と共にアサシンの叫びが響き、吹き飛んだ。

 

黒い羽織りを揺らし、輝夜の傍らに、しゃんっ、と降り立った直後、続く五人の刺客の間を縫うように、白い奇蹟が跳び回り、敵の頭を、首を的確に殴りつけ沈め、すぐさま輝夜の背後に舞い戻った。

 

「やった!!」

 

その正体は、さっきまで木刀をもらってはしゃぎ回っていた7歳児(ベル・クラネル)

 

あまりにも早く、的確な攻撃。およそ剣を握ってから一週間と少しの少年の動きではなかった。

 

トタタッ、と拙くはあるが、ステップを踏んで魔法を発動させ敵を蹂躙して見せた。

 

走りながら、敵を弾きながらではあったが、アストレア・ファミリアのメンバー、一部始終を見ていたジャフを含めるガネーシャ・ファミリアのメンバーの心はひとつに揃い、足を止めた。

 

『───────はぁ?』

 

「は?は?ベルちゃん強すぎじゃね?」

 

「マリュー、口調が崩れている……輝夜に襲いかかった速度を見るに、今の集団は明らかにLv2が混じっていた…それを複数一撃、ですか。」

 

「あの魔法......音属性が何かわからなかったけど、振動と増幅.....?インパクトの瞬間、明らかに威力が桁違いになってたし...」

 

「少なく見積って倍の威力にはなってそうね。剣士にとって最高の抱合せ魔法ね...」

 

「え、練習真面目にやってたの?ずっとイチャイチャしてた訳じゃなく?」

 

「ぶっ殺すぞ団長。」

 

「いや、にしてもおかしいだろ。なんだよあの速度。あれ【縮地】だろ。」

 

「あの子のスキルって刀剣の技術の習熟度補正じゃなかった?」

 

「あー……刀剣を手にしている状態の技術...なんだろうと言う結論がこの間アストレア様から出された。」

 

『つまり?』

 

「剣を持っていれば、諸々の習熟補正も付いてくる。刃が付いているのならなんでもいいらしいから、アスラの武術も身につけるだろうな。」

 

『わ〜、将来有望〜』

 

フンスっ、と胸を張り姉たちの後をとっとこ追いかけていた少年は、とんでもねぇバケモンだった。

 

恩恵をさずかった冒険者にとって、レベルとは絶対の壁であり、1つ違うだけで隔絶した実力の差が存在する。

 

勿論、例外はある。スキルでステイタスの底上げをするなどが挙げられるが、ベルにそんな類のスキルはないし、いくら何でも限度がある。それこそ、ステイタスがオールSS、などというありえない数値になっていたりすれば話は別だが。

 

ベルのステイタスはまだオール100に届くか届かないか。これでも十分異常な成長速度だが、魔法を使ってもステイタスは一切上がることは無い。

 

つまり、彼は先程、殆どを身につけた技術のみで格上を叩き潰したのだ。

 

「……もうアタシより強ぇだろアレ。」

 

「真正面から純粋な戦闘になればおそらくは……お前は絡め手が多いから、そうはいかんだろうが...それでも、あの子は天才だ。」

 

「その枠で収まるかあれ?」

 

「正直天才すぎて、教えててちょっと怖い。いつ抜かされるか肝を冷やしている。」

 

天才であれば、教えたことは次の日にある程度形になり、翌日には自身の中に落とし込める。凡人ならその倍か3倍程だろう。

 

しかしどうだ。ベルはその日教えたことは、その日のうちに形にし、次の日には完全に己の物にしている。

 

現に、今の輝夜をして技術だけという縛りであれば、追いつかれそうだとヒヤヒヤなのだ。そこいらのLv1は愚か、なりたてのLv2は足元にも及ばないだろう。

 

ヒクヒクと眉を震わせたライラに、輝夜が反応すると、ジャフは背後で顎髭を撫でた。

 

「…ベル、今の敵は余裕だったか?」

 

「えっと、少し怖かったけど、平気!まだ戦えるよ!」

 

数秒考えたジャフは決心する。

 

「輝夜、ベルに前衛をやらせろ。その方が経験は積めるだろう。」

 

「おい、待てジャフ。ベルはこれが初陣だぞ?はいそうですかと出せるか。」

 

「いいや、ここはどうせ捨て場(・・・)だ。Lv2以上は居ねぇ。なら、できる限りここでベルに経験を積ませる。今のも不意打ちだからどうにかなっているだけだ、俺が補助しながら真正面から戦わせ、経験を積ませる。」

 

「しかし…!」

 

「輝夜、アイツが可愛いのはよく分かる。だがアイツは十分な力を示した。望まれて守るのは構わねぇが、飛び立とうとする男を押してやれねぇ女になるのは、おめぇが1番嫌だろう?」

 

ジャフの言葉に詰まった輝夜は、舌打ちとため息を1つして、わかったと両手を上げた。

 

「………的確に私の嫌なところを突いてくる……わかった、任せる。」

 

「うしっ、聞いてたなベル!!」

 

「うんっ!」

 

部隊を再編成し、再度速攻を仕掛ける。

 

「いいかベル!敵はスペックだけはお前よりずっと強い!戦い方を考えろよ!」

 

「うん!」

 

「そら、来たぞ!」

 

3人、ベルに殺到した信者は、同時に剣を振り下ろす。

 

ベルは木刀で剣を受ける─────こと無く、その場から一歩引いて、3本の剣が振り下ろされたところを踏み抜き、剣を石畳に埋め込んで、敵の頭を横凪に払い、まとめて吹飛ばす。

 

続けざまに来た一人の剣を受けると、ベルはすぐさま背後に飛び退いて、距離を取った。

 

(僕より力は強い!でも、それだけ(・・・・)!)

 

振り下ろされた剣に術理は無い。

 

大好きな姉の剣と比べることなど烏滸がましい。

 

「っガキが!!」

 

「───────やぁッ!!」

 

再度振り下ろされる大剣、そのモーションに入った瞬間にベルは突貫。振り下ろしに力が乗る前に剣を弾き飛ばし、流れるような回転斬りを敵の顔側面に叩きつける。

 

音のエンチャントを乗せた回転斬りは、意識を一瞬で刈り取り、顔面を壁に埋め込んで沈黙。

 

「え?待って、今何したのあの子?」

 

「攻撃が点になった瞬間にその点を踏み抜き攻撃手段を無くし、剣に力が乗る寸前に音のエンチャントを活用して衝撃で吹き飛ばした......私が駆け出しの頃、あの発想が出来たでしょうか。いいや、出来ません。」

 

「自問自答すんな。」

 

「わ〜、私たちの弟強すぎ〜。」

 

「もうベルだけでいいんじゃない?」

 

「もっと優しくしよ......レベル上がって、可愛いからイタズラしてた仕返しとかされたらやばい...」

 

「あ"?ベルがそんなことするわけないだろう?ぶった斬るぞ?」

 

『お前はベルの事好きすぎんだよ。』

 

ちまちま出てくるLv2相手に無双する我らが末っ子、ベル・クラネルのバケモノ加減に、姉たちは壊れてしまった。

 

「ふぅーっ...!ふぅっ...ふぅー...!」

 

そんな姉達をよそに、ベルは興奮状態に加え、所謂ゾーンに入っていた。

 

姉との鍛錬とは違う、ピリピリと肌を焼くような、殺気と熱。

 

本気で自分を殺しにくる敵。今まで自覚していなかった自分の力。

 

実力の近い敵との、本気の殺し合い。

 

ベルの中に眠っていた、冒険者の血が沸騰するのがわかった。

 

もっと、もっと戦いたい!もっと強く、もっと速く!

 

縦横無尽に駆け回り、無双の活躍をする中でも、ずっと頭は冷静で、敵の振るう剣に見習う点があれば取り込み、沈め。有象無象を容赦なく沈める。

 

しかし、その冷静さも疲労と共に徐々に失われていく。

 

より速く、獣のように、力任せに剣を振るう。

 

ついに、本能で動こうとした寸前。彼の左腕をキュッとミサンガが締めた。

 

その感覚に、頭が一気に冷め、動きを止める。

 

『お前の覚悟が、覚悟の重さが、お前の強さとなり、お前の剣を更に輝かせる』

 

ピタっ、と頭がリセットされた。

 

そうだ、戦いを楽しむのは悪いことでは無い。けれど、なんの覚悟もない剣を振るっては、兄との約束を違える事になる。

 

それだけは、違うと思ったベルは、心を落ち着かせるために大きな深呼吸と共に、身体の熱を冷やしていく。

 

(───────本当に、これが剣を持ち始めて1週間と少しの戦士か...?)

 

そのベルの内心に唯一気がついたジャフは、心底驚いていた。

 

技量は文句なし、胆力も十分、あとは経験だと、そう考え前衛を任せてはいた。徐々に力が篭もり、熱を蓄え、無意識に滾らせている殺気に気が付き、何時でも止められるようにと控えていたが、まさかあの歳で、自分を律するなど想像もしていなかった。

 

教える事は多い、しかしその吸収率がほぼ100%であるゆえに、既に教えることは少なくなりつつある。

 

心、技と揃えば、あとは体。

 

数年後、彼はどれほど偉大な冒険者になっているのか。

 

そして、その時自分は、どんな顔で彼と接しているのだろうか。

 

無意識のうちに夢想し、笑みを浮かべていたジャフは、嫌だ嫌だと頭を振った。

 

「歳なんざ、取るもんじゃねぇなぁ......」

 

「おじちゃん?」

 

「なんでもねぇ!そら、そろそろ最奥だ!気張れよベル!」

 

「うん!」

 

そうして、奥に到達した一行を待っていたのは、ショッキングピンクの毛髪を上機嫌に揺らし、品のない笑みを浮かべる女だった。

 

「───────チッ、フィンの野郎はいねぇのかよ......つーか、速すぎんだろ?」

 

「【殺帝(アラクニア)】...!」

 

待っていたのは、ヴァレッタ・グレーデ。上級冒険者であり、闇派閥の幹部、その1人。

 

「ここは捨て場のはず...!」

 

「けひひっ、ばぁか。そう思わせんのも策だったんだよ。」

 

「だが、貴様としては嬉しい誤算だろう。ここに第1級が入れば、お前は晴れてお縄だったわけだ。」

 

「チッ...てめぇが居んのかよ【必滅】...めんどくせぇな。」

 

「なら、大人しく縄に着け。したら、めんどくさくねぇよ。」

 

その言葉にヴァレッタは、呪剣を引きずりながらくつくつと笑う。

 

「ま、んな事しねぇに決まってるよなぁ?」

 

「だよな。なら、ここで狩るぜ、ヴァレッタ。」

 

この布陣の最高戦力と、敵方の幹部の激突。しかし、数、質、共にこちらが上。

 

量より質の時代ではあるが、周りも逸材だらけだ。雑魚はベルに任せればいい、あの子一人でこの場所の敵は事足りる。

 

そう頭の中で計算式を弾き出したジャフが、戦いの号砲を上げる瞬間。

 

「───────まじで、なんも考えてねぇとでも思ってんのか?」

 

「あ?」

 

ちょうどジャフの横にたっていたベルと、その後ろに控えていた輝夜達を分断するように、緑色の壁が迫り上がる。

 

「ベル!?」

 

「お姉ちゃん!!?」

 

「くっ───────ベル!使え!」

 

咄嗟の判断で、手持ちの小太刀を投げた輝夜。何とか受け取ったベルは、急ぎ構え、敵を見やった。

 

ひと目でわかる、侮られている。

 

「あ〜あ...足でまといが一人...守りきれっかな?お前に!」

 

「はっ、言ってろよ。」

 

その言葉の後、飛び出したベルがヴァレッタに飛びかかる。

 

「無茶がすぎるぜ?クソガキ!」

 

余裕の表情で交わし、剣を轟速で振り下ろす。あわや胴と泣き別れという瞬間。ベルは、一歩その場から後退。ギリギリのまま避け、叩きつけられた剣を足場に、木刀を振るう。

 

「はっ...おせぇ───────!?」

 

当然、ベルの木刀は避けられる。それもそう。3つ以上のレベル差は、技術だけでは補う事は出来ない。

 

しかし、ヴァレッタは気がついた。ベルが木刀を手放したその手から袖から飛び出す切っ先に、本能が危険信号を発した。

 

(この刀、なんかやべぇ!?───────エンチャントか!?)

 

渡された瞬間。武器を袖に隠したベルは、それを必殺として扱った。

 

人間は、予想外の行動をされると、ほんの一瞬、体の動きが止まる。ベルはそれを利用した。

 

木刀の一撃を陽動として扱い、目の前で武器から手を離すという瞬間を見せる。そして、その光景に目を取られた瞬間、その一瞬の思考の隙を狙い、魔法を全力で込めた一撃を放つ。

 

咄嗟に後退したヴァレッタだが、刃は頬を深く切り裂き、血を流す。

 

一気に距離を取り、鈴の音と共にジャフの背後に降り立ったベルに、ヴァレッタは大きな舌打ちを1つ。

 

くつくつと笑ったジャフが、戯けたように口を開く。

 

「───────で?誰が足でまといだって?」

 

侮っていた子供に、まんまと傷つけられた彼女の心境は、怒りに染まる。

 

そんなヴァレッタを他所に、ほぅっ、と息を吐き出したベルは、確信したように笑った。

 

「......力も、速さもずっと先を予想しないと、避けられない。硬さだって、きっとこの小太刀じゃないと通用しない。けど、それだけ(・・・・)。」

 

今の1合で力の差を理解したベルは、より自分と敵との差を理解する。

 

力────勝負にならない

 

速さ─────こちらも同様

 

硬さ─────肌が鉄なのかと思った

 

『怒りは感覚を鈍らせる。できる限り、敵を煽ってみろ。』

 

けれど、それでもベルは侮るように笑った。

 

「技も、駆け引きも─────僕が上だ。」

 

「...っクソガキィ...!!」

 

激情に駆られたヴァレッタは、獣のように構えた。

 

どっしりと盾を構え、ベルの全面に立ったジャフの後ろに隠れるように構える。

 

「いいか、ベル。やべぇ攻撃は防ぐ、必ず守る。信じろ。」

 

「うん───────わかった。」

 

ゾーンに入りっぱなしの瞳孔が開いた瞳を爛々と輝かせ、ベルは頷いた。

 

静隠な鈴の音が、ゴング代わりだった。

 

この戦いが、後に【白き才禍】と呼ばれる少年の、黎明となる。

 




人間版タケミカヅチ様爆誕!

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