敵の女幹部とドンパチしてたら息子が出来た   作:イベリ

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殺意の感触

緑の食人植物と対峙するベルは、同類の死骸すらも無差別に噛み砕く格上の怪物に攻めあぐねていた。

 

「うわっ!?」

 

咄嗟に突進を避ければ、食人花はベルではなく、背後にあった同種のモンスターの亡骸に噛み付いた。亡骸が噛み砕かれた瞬間、バリバリッと鉄を噛み砕いたような音が響き、食人花の体表の硬さを理解させられた。

 

(皮膚がすごくかたいのか!明らかな弱点は頭?の花の部分だけっぽいけど、隙がない !)

 

食人花の怒涛の攻撃に、ベルは攻撃に転じることが出来ないことに加え、あの硬さ。きっと攻撃は意味が無さそうだ。

 

連続の噛みつきをバックステップで回り込み、食人花の側部に移動。頭部らしき場所をチャージした木刀で殴るが、吹っ飛ぶだけで大したダメージにはなっていなそうだった。

 

「───────かったっ!!」

 

撃ち込んだ自分に衝撃が返ってくる程に硬いそれは、ヴァレッタ程でないとはいえ、ベルの打撃は当然のように意に返さない。

 

(打撃に強いのか…!あの人のみたいな歯も、きっと凄く硬い!体と同じか、それ以上…僕なんてすぐに噛み砕かれちゃう…同じやつの体も噛み砕いて…っ!)

 

バッと背後にあるベル達を分断した緑の壁を見れば、あの食人花と同じ体表に見える。そこで、頭の中に流れたのは、あの食人花が、仲間の体すらも噛み砕いていた光景。

 

「もしかしたら…!」

 

やってみる価値はあると、頭の中で即席で作戦を立て、実行までの手札を確認。十分だと判断し行動に移す。

 

「こっちだ!」

 

食人花を引き寄せ、ベルは追いすがる食人花を見据えて部隊を分断させた緑肉の壁に一直線に走った。

 

壁直前で急ブレーキを掛けたベルは、振り返り食人花の突進を待つ。その数瞬の間に、この先の優先事項を頭の中ではじき出す。

 

(もう魔力も少ない。おじちゃんの回復をして、踊りながら戦うのは多分無理。今、僕は戦力になれない。なら、戦える人をこっちに連れてくる!)

 

残りの魔力をフルで木刀に注ぎ込み、鐘の音が空間に反響する。

 

(まだ……まだ……!あの歯で、後ろの壁を噛み砕くように誘う!)

 

食人花の追撃をギリギリで避けねばならない。故に、目の前で食人花が大口を開けた瞬間。左側に回避し、ドンピシャのタイミングで緑壁を食人花に噛み砕かせ、大部分を削り取るように噛み付いた。

 

「っ───────はぁあああ!!!」

 

約15秒のチャージにより放たれた一撃により、壁を吹き飛ばし向こう側に到達すると、信者を薙ぎ倒す輝夜が驚いたように目を見開いた。

 

「ベル!?」

 

「お姉ちゃん!あたまが弱点!」

 

爆音と共に飛び込んできたベルの背後に迫る食人花を目視した輝夜は、短い報告を瞬時に理解して駆け出す。

 

接敵の瞬間、飛び込んできたベルを抱いた輝夜は、大口を開けて2人を噛み砕かんとした食人花の突撃を、足捌きだけで回避。食人花の硬質部と頭部の境目を正確に切り上げ、頭を切り落とす。

 

「───────無事か、ベル。」

 

「う、うん……っぼく、平気…おじちゃん、まだ……!」

 

先程までは何ともなかったのに、輝夜の腕の中にいるとわかった瞬間、体に鉛がまとわりついてるように重くなった。息も絶え絶えの中、ジャフの援護に行くように伝えれば、アリーゼとリュー、マリューとネーゼがベルの開けた穴から向こう側に進んだ。

 

顔を青くするベルに、ポーションを渡しながら、輝夜はベルの状態を軽く見た。

 

脱力したベルの手は魔法の反動により常に震え力が入らないようで、ポーションを掴むのもやっと。脚を見れば、脚は既に歩けないほどにボロボロだった。

 

(マインドダウン寸前……常に魔法を発動していたのか……足は酷使しすぎたな、筋繊維が炎症を起こしている…ポーションで回復出来ても、これ以上この子を戦わせるのは無理か。)

 

ゾーンに入っていたベルは、大量のアドレナリンによって痛みと疲労を誤魔化していたに過ぎない。まだ体も出来上がっていない状態で、遥か格上と戦ったことは、輝夜程の戦士であれば、容易に理解出来た。

 

「よく頑張った。」

 

「………え、へへ……!」

 

ギュッと抱き締めた輝夜に安心したのか、ベルは輝夜に力無く抱きついた。

 

次の瞬間、爆破と共に壁を突破って吹き飛んできたなにかが、壁にめり込んだ。

 

「───────んの、ジジイがぁ…!!」

 

「【殺帝】!?」

 

それは、ジャフに吹き飛ばされてきたヴァレッタであった。ヴァレッタは、力無く輝夜に抱きついているベルを見ると、にィっと笑う。

 

「…っあん?んだよ、満身創痍じゃねぇかそのクソガキ!ちょうどいい、ここで───────っガバぁっ!?」

 

「ベルに、近寄んじゃねぇ。ゴミクズが。」

 

弱っていたのか、輝夜の顔面蹴りに反応すらできず吹き飛ばされ、ゴロゴロと転がって顔を抑えた。

 

「くっそ…この乳臭ぇメスガキどもがッ…!!」

 

「そんなガキ共に、貴方はやられるのよ。」

 

「団長!」

 

「アリーゼ、お姉ちゃん!」

 

「やっほ、ベル!聞いたわよ、頑張ったわね!あとはお姉ちゃん達に任せて、輝夜と一緒に休憩してなさい!」

 

「うんっ!」

 

輝夜の次に懐いているアリーゼの言葉に、ベルは大きく頷いて、ゆっくりとポーションを流し込んだ。

 

そして、その奥から聞こえる重い足音が、この場の最高戦力の力強さと怒りを如実に表していた。

 

「ヴァレッタ、無駄な足掻きってのは分かり始めたかよ?」

 

「ハッ!誰が、こんなとこで死んでやるかよ…!」

 

「戦力差を見て、それが言えるなら大したもんだ。俺だけで手一杯だったお前が、アリーゼ達が加わって勝てる可能性は五分からゼロになったんだぜ?お前を守る信者も、もういねぇ。」

 

「半分くらい輝夜のおかげね!ブチ切れ大暴れの大活躍よ!」

 

「お姉ちゃん、凄い!」

 

「ありがとう、ベル。あと、団長は後でお話がありますので、そのおつもりで。」

 

「ナンデ!?」

 

事実、ベルとジャフがヴァレッタを相手取っている最中に、アストレア・ファミリアを中心とした部隊に、既にこの施設にいる信者のほとんどは捕縛されていた。

 

特に、ベルと分断され怒り狂った輝夜が獅子奮迅の活躍をし、仲間からもドン引きされる程に暴れ回っていた。ベルには、大和撫子の完璧な姉として見られているというのに、なんてこと言ってくれるんだと、青筋を立てながらアリーゼに笑いかけた。

 

ズルズルと壁に手を付き、立ち上がったヴァレッタは、脇腹を抑えながらくつくつと嗤った。

 

「っ……仲間も役立たず、私自身も満身創痍…あぁ、くそ……参ったよ───────なんて、言うと思うか?」

 

「言わないわね。貴方は、そういう人間よ。」

 

けひっ、と嗤ったヴァレッタは指を鳴らす。すると、どこからともなく、覆面の信者がぞろぞろと現れた。

 

「どこに隠してたのこんな人数!?」

 

「慌てんなよアリーゼ。大した事ねぇ、恩恵はあっても有象無象だろ?数揃えたところで意味ねぇって。」

 

ネーゼの言葉にそれもそうか、と納得したアリーゼだったが、ジャフとライラは妙な胸騒ぎに襲われる。

 

「……アリーゼ、撤退の準備だ。」

 

「なっ、なぜですジャフ!もう既に奴は満身創痍!捉えるには絶好の…!」

 

「リオン。ここは言う通りにすんぞ。ジャフの勘は生存本能見てぇなもんだ。アリーゼの勘よりよっぽど信用できる。」

 

何度も作戦を共にするジャフの勘は信用に値するとライラが言えば、アリーゼがちょっと〜?と自身の信用の無さに、項垂れた。

 

「……そうですね、命あっての物種。無駄に散らす命は、ここには無い。輝夜、先にベルを連れて撤退を。道は私たちが作ります。」

 

「ククッ、お前が殿か。心配しかないが、預けてやる。」

 

ベルを抱え、逃げの体勢に入った輝夜。

 

そんなアリーゼ達を見て、ヴァレッタは舌打ちを1つ。

 

「どんだけ勘がいいんだよクソジジイ…ま、関係ねぇか。」

 

「何が関係ねぇって?」

 

ヴァレッタが動く前に突撃したジャフ。しかし、ヴァレッタに拳が届く寸前。ヴァレッタはケヒッと顔を歪めた。

 

「──────────────サミナ……」

 

『お父さん』

 

傍らに控えていた幼女の首を鷲掴み、ジャフの拳の目の前に割り込ませた。

 

簡単だ。その少女はもう既に悪に堕ちている。そのまま拳を振り抜き、貫いてヴァレッタを砕けば、全てが終わる。悲しみの連鎖はもう生まれない。これ以上、誰も苦しまなくて済む。

 

理性ではわかっている。それが最善だということも。けれど、ジャフの記憶がその理性に勝ってしまった。

 

「殴れねぇよなぁ?お前はよッ!!」

 

決定的な隙。同格の者同士の戦いにおいて、あまりにも大きな隙だった。

 

凶刃が、ジャフのがら空きになった胴体を貫いた。

 

「おじちゃん…!?」

 

「そぉら、お返しだっ!!」

 

そのままに、ジャフの胸を蹴り抜いて、剣を引き抜くと同時に、味方陣営に吹き飛ばす。

 

固まっていた全員をよそに、輝夜の腕から抜け出したベルが、ジャフに駆け寄った。

 

「おじちゃん…!おじちゃん!今、治すから!待って、待ってて!」

 

「……べ、ル……離れて、ろ。無理に、動くんじゃねぇ……」

 

「おじちゃんの方が怪我してるのに、何言ってるの!動かないで!」

 

ごふっ、と血を吐き出し、息も絶え絶え。死にはしないがこれ以上戦えないことは確かだ。

 

しかし、ベルも無理な動きにより傷ついた体は、ポーションによる回復を持ってしても疲労までは抜けず、立ち上がろうとしてフラフラと倒れ込んだ。

 

「さっさとポーション持ってこい!」

 

「撤退よ!殿は私が!輝夜!ベルを連れて!ネーゼ!ジャフを担いで!」

 

即時撤退の判断をしたアリーゼに、ヴァレッタは追い打ちをかける。

 

「バァーカ!逃がすかよ!!」

 

先程掴んでいた少女を再度掴み、ジャフの元に投げつけた。

 

咄嗟にその少女を抱きとめたジャフだけが、ヴァレッタの目的に気がついた。

 

「……っ、お父さんと……お母さんに……あわ、せて……!」

 

「───────っ!!」

 

「おじちゃん!?」

 

「ジャフっ!?」

 

魔法の風を暴発させ、傍にいたベルと輝夜、他の団員を吹き飛ばした。

 

「馬鹿だよな……サミナ、リーリャ……悪い。」

 

抱きとめた少女の役割。そして、どうやってこの場所まで連れてこられたか。想像に難くない。腐りきった悪に対する怒りと、彼女の両親を守れなかった不甲斐なさ。約束も守れない己の弱さにどうしようもない無力感。けれど、今際の際で、少女の絶望を吹き飛ばすように笑って抱き締めた。

 

 

「────────────」

 

「ひとりにはしねぇよ……俺がいるさ。」

 

「おじちゃん!?」

 

手を伸ばすベルに、ジャフは笑顔で振り向いた。

 

なにか、言葉を残すべきか。でもきっと、それは少年の心に消えぬ傷をつけてしまうかもしれない。

 

嗚呼けれど、彼ならきっと乗り越えてくれる。そう信じて、口を動かした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝てよ、べ───────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間。凄まじい爆音と熱風がベルを襲う。空中でベルを掴んだ輝夜が爆風から守るように抱き留め、なんとかベルを守ったが吹き飛ばされる。

 

ゴロゴロと転がって、痛みに悶えながら、ジャフがいた場所を見ても、そこには爆発の形跡だけがあった。

 

「おじ……おじ、ちゃん?どこ、どこ行ったの…?」

 

軋む、音が聞こえた。

 

(不味い!ベルの心が壊れる!!なんとか、しなくては!動け、体…!声を出せ…っ!!)

 

すぐさまベルの心が軋みをあげていることを理解した輝夜だったが、熱風に溶けた背中の痛みと衝撃に動けなかった。

 

そして、追い討ちをかけるように、怪物が嗤った。

 

「───────くひっ、けひひっ、アッハハハハハハハハハ!!!!ざまぁねぇ!タナトス!お前が誑かしたガキが!邪魔な冒険者を殺したぞ!!」

 

嗤い声。汚い。醜い。モンスターの鳴き声よりずっと醜く聞こえた。

 

感情にのまれてはいけない。

 

怒りに身を任せてはいけない。

 

大木の心として教えられたその教えを忠実に守っていた少年。けれど、それは本当の激情を経験していなかったから。

 

(無理だ、この感情を抑え込むなんて。)

 

酷く、クリアな思考が、余計なものを排除した。

 

フラフラと立ち上がった少年は、吹き飛ばされた姉の刀を左手に、右手に小太刀を持って、俯いた。

 

「……ベル?」

 

バキンッ、と、ベルの頭の中で、抑えていた何かが弾けた。

 

その瞬間。その場にいた人間の全員が怖気によって足を縫い付けられる。

 

いつも溌剌としたアリーゼも、その殺気に体を押さえつけられた。

 

(この感じ…これ、ベルのだって言うの!?あの、優しい、ベルの!?)

 

(……っやべぇ、やべぇやべぇやべぇ!!!?なんだ、なんなんだよあのガキは!?)

 

それは、敵でさえも同じ。

 

今まで押さえつけられた感情の発露。幼い少年の激情は、既に理性と感情によって肯定されていた。

 

姉たちが説く正義も理解している。けれど、それは姉たちの正義であって自分の正義では無い。

 

今、この瞬間。己の正義(本能)を知った。

 

目の前の怪物を、殺し尽くす。

 

直接向けられていない輝夜ですら、死を連想してしまった。

 

仲間すらも巻き込む、剥き出しの殺意。これがきっと、自分の正義。

 

全身に纏わりつく殺意の感触に、身を委ねた。


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