敵の女幹部とドンパチしてたら息子が出来た   作:イベリ

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最悪の日

無言のまま構えた少年は、1歩の踏み込みで、既に捉えられていた信者達の首をはね飛ばす。

 

「───────はっ?」

 

「……なにが…起きた…?」

 

誰も理解の追いつかぬまま、捉えた信者たちが白い影によって斬り殺される。

 

辛うじて影を見た輝夜は、驚愕により痛みを忘れて目を見開いた。

 

(私ですら、見えない…!?Lv3いや、それ以上の…!どういう原理だ!?)

 

その速度は、輝夜ですら一瞬捉えきれなかった。

 

捉えた信者を鏖殺した数秒後、呆けるヴァレッタの目の前にいた信者の首が吹き飛んだ。

 

3人、6人、10人と、首が次々と吹き飛んでいく。

 

叫びも、後悔も、音もなく、ただ白い狩人に蹂躙される。

 

「守れ!私を守れッ!?」

 

必死の形相で叫んだヴァレッタの声に、漸く現実が追いついたのか、信者達は命令通りの動きをしようとして、首を吹き飛ばされる。

 

「───────逃がすか、ぜったいに殺す。」

 

「ヒッ…!?」

 

無様に駆け出したヴァレッタに、ベルは急くこと無く、歩きながら小太刀を投げ、ヴァレッタの脚に突き刺す。

 

「げアッ!?」

 

「ヴァレッタ様を───────」

 

「邪魔。」

 

ベルの道を阻んだ信者を斬り殺す。思考はクリア、やることも理解している。

 

信者は全員爆弾を持っている可能性がある。自爆の特攻が奥の手なのだろう。ならば、させる前に首を斬り飛ばせばいい。

 

もうこれ以上、大事なものを失いたくないと考えた少年が出した、最短の道。合理的で、最も容易。

 

ヴァレッタの目の前まで来たベルは、ヴァレッタの右腕を容赦なく斬り落とし、痛みに叫ぶ間もなく、口に刀を突っ込んだ。

 

「げぼぁっ!!っ!!!?」

 

「もう、喋るな。その汚い声で僕達の耳を汚すな───────雑音が。」

 

ここで、ヴァレッタの命運は詰んだ。誰もがそう思った。けれど、運命は嘲笑うようにベルに牙を剥く。

 

「───────っ!?」

 

真横から出現し、襲いかかってきた食人花がベルを触手で吹き飛ばす。

 

なんとか剣で受けたベルは、体勢を整えてヴァレッタを睨みつけた。

 

「無事か!ベル!?」

 

「……平気、お姉ちゃんも、背中平気?」

 

「あ、ああ……私は、問題ない…くっ…!」

 

「お姉ちゃん!無理、しないで……!」

 

何事も無かったように頬に着いた返り血を拭き取ったベルは、膝をついた輝夜を守るように目の前に立った。

 

「がぼっ、がはっ…!?餓鬼が…!にげ、きってやる!!絶対に逃げ切って、てめぇは私が殺してやるっ…!!やれぇっ!食人花(ヴィオラス)!!」

 

命令と共に、食人花は信者の死体を噛み砕き、爆発を起こした。爆発によって建物は倒壊寸前、生き埋めになる前に脱出を始めなければならない。

 

「なっ!?爆破で建物ごと!?」

 

「撤退しろ!総員!撤退!」

 

「……っ、ベル!輝夜をお願い!」

 

最後の悪足掻きに、ベルはギリッと歯を食い縛って、睨みつけた。しかし、隣で脂汗を流す姉を見て思考を切替える。今は、引くべきだ。何も失わず、アイツを、絶対に殺す為に。

 

「絶対。絶対にお前は僕が殺す。」

 

あらん限りの殺意を叩きつけ、輝夜を支えながら撤退する。

 

「急げ急げ!崩れるぞ!輝夜!ベル!」

 

「お姉ちゃん…!もうちょっと、だから!!」

 

「…っ……ベル!輝夜!」

 

「う、ああああああ!!!」

 

崩壊の寸前。なんとか脱出した一同の空気は、最悪だった。被害はベルのおかげで最低限に抑えられ、死者はたった1人。それでも、この場の空気は凍りついていた。

 

「ベル……ベル?平気か?」

「うん、うん……平気。」

 

「そんな顔色で平気なわけが無いだろう!」

 

「───────ッ…!!」

 

輝夜がベルの顔を包むと、ベルは輝夜を突き飛ばし、胃の中の物を全て吐き出した。

 

震える両手をジッと見つめ、わなわなと震えながら、吐き続ける。

 

「ベル!?」

 

「どうしたの!?やっぱり、人を殺したから…!?」

 

「ベル……悪くない、なんて言えないけど。罪に感じる必要は無いよ。お前のおかげで多くの人が助かったんだ……本当なら、私達がやるべきだったことを、代わりにさせちまって、ごめん。」

 

「オェッ……はぁ…はぁ…っ…んぐ…はぁ…」

 

最悪の気分だった。

 

衝動に身を任せ、人を殺し尽くした。はっきりと見てしまった。ジャフが弾け飛ぶその様を。

 

笑っていた、寂しくないと言うように、己を殺さんとする少女を抱きしめていた。

 

なぜ、どうして少女を投げ飛ばさなかったのか。きっとジャフならあの状態からでも、逃げられたはずだ。けれど、そうしなかったのは、なんでなんだろう。

 

ジャフは、最後に言った。『勝て』と。

 

だから、立ち上がらなきゃ行けないのに。立ち上がれない程の吐き気が体を支配した。

 

肉を斬り、骨を断つ感触。首を斬った瞬間に漏れ出る空気の音も、全部が気持ち悪かった。

 

けれど、殺戮に快感を感じてしまった己自身に、最も嫌悪した。己の正義を執行しているという快感は、拭えぬ感触をベルに刻み付けた。

 

「……作戦は続行。部隊を編成し直すわ。ガネーシャ・ファミリアは一時私達の指揮下に、本隊と合流するわよ。」

 

「っ……アリーゼ、お姉ちゃん…!おじちゃんは!?おじちゃんは…まだ………っ…」

 

「……わかってちょうだい、ベル……」

 

「っ……………」

 

わかっている、そんな事。ジャフの遺体は跡形もなく消えた。直接見たのだ。わかっているし、理解している。今から戻ったところで、形見すらそこにはない。

 

だから、何も言えなかった。

 

そんな空気の中、破鐘の音と共に爆音が響く。

 

「なんだっ!?この音は!!」

 

「敵の切り札…【静寂】のアルフィアの魔法だろうよ。鐘の音と共に放たれる音の衝撃波……アスラとやり合ってんだろうな。」

 

「街中で兄様がこんな激しい戦いをするなんて…!」

 

「敵はそれほどって事ね……全員中央に撤退するわよ!」

 

ジャフは死んだ。その事実は消えない。だが、今は死を悲しむ時間が無い。動き出そうとしたアリーゼの袖を、ベルが強く引いた。

 

「ベル?」

 

「…………ある、ふぃ……あ?」

 

「そうよ、【静寂】のアルフィア。敵の最高戦力のひとり。私たちの敵───────ベル?」

 

アリーゼは聡い。人の機微に敏感で、子供の感情を読み取るのは、尚得意だ。1週間以上共に過ごしてきたベルの感情なら手に取るようにわかるだろう。

 

だからこそ、酷く動揺している事だけがわかった。

 

「……うそ、嘘だ…そんな、うそ、絶対、違う…!違う、違う!」

 

「ベル?ベル!?」

 

その次の言葉に、誰もが言葉を失う。

 

「違う───────お義母さん(・・・・・)はそんな事しないっ!!」

 

「……………え?」

 

少年がこのオラリオに来た目的。それが義母の捜索。誰もが、彼の目的を知っていたが故に、言葉を失った。

 

「………待て、待て待て待て…!嘘だろ!?」

 

「……いや、真実ならば尚のこと全ての説明がつく!ベルの才能も、遺伝だったわけか!!」

 

そこで、全員の辻褄があった。

 

彼の圧倒的な才能も、胆力すらも。全ての説明がつく。

 

ただ、そんな周りを放り出すように、少年は立ち上がった。衝動に駆られるように。

 

「───────行かなきゃ。」

 

「待て!ベル!行くな!!」

 

そう言って、ベルは武器を全て投げ捨てて、輝夜の静止すら無視して、音の元に走っていった。

 

「嘘だ、嘘だっ、嘘だッ…!!」

 

あの厳しくも優しい母が、人類の敵として大好きな人達と戦っているなんて、信じたくなかった。

 

聞き慣れた、鐘の音が聞こえる。

 

また、聞こえる。

 

何度も、何度も、何度も何度も何度も。

 

聞き慣れた鐘の音が聞こえた。

 

燃える街中を抜けて、爆音が響く中。少年はその場にたどり着いた。辿り着いてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「───────お義母さんッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ピタッ、と戦場が静寂に包まれた。


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