敵の女幹部とドンパチしてたら息子が出来た   作:イベリ

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正邪の行進

歓声止まぬ中、3人はその光景を眺め、真打ちらしく不敵に笑う。

 

「壮観だな、ここまで敵の幹部を揃って見る事になるとは……まぁ、それも今日で最後だ(・・・・・・・・・)。」

 

「ふふん!当然!今日で、闇派閥に奪われて泣く人をゼロにしよう!」

 

「それにしても、みろ!『突っつけ蜂の巣!オペレーションハニービー』大成功じゃねぇか!!」

 

「ここまではな……これからは、私達にかかってるという訳だ。どうする?」

 

「そりゃあ…俺がアルフィアで…」

 

「私とお姉ちゃんが【暴食】ザルドって事?思いっきりパワータイプだから嫌だなぁ。」

 

「同感だな。」

 

「んだよ、文句か?じゃあ交代すっか?」

 

『絶対嫌だ。』

 

「なんなんだよお前ら……」

 

まるで緊張感の無い会話は、3人の余裕を表していた。全身の筋肉を伸ばすように、しなやかに伸びたアスラは、背後に立ったフィンに尋ねた。

 

「数は?」

 

「約30000、第1級は10人、左右に5人ずつ展開している。現状確認できる限り、敵幹部はそろい踏みだ。お望みの舞台は用意できたかな?我が王よ。」

 

「最高だぜ!バランスもいいしな!なにより数えやすい!俺で1万5千!シャクティとアーディで1万5千!」

 

「計算に1秒かからなかっただと!?」

 

「お兄ちゃん!あれだけ拾い食いはダメって言ったのに!!」

 

「明日は季節外れの雪が降る、か……」

 

「お前ら!明日は雪が降るぞ!もしかしたら雹かもしれねぇ!」

 

「王様〜!計算が早くて偉いぞ!!」

 

「素敵よ〜!アスラ様〜!」

 

「おい!お前らもバカにしすぎだ!?」

 

4人のやり取りを聞いて、民衆は大いに笑った。絶望の中、ここに日常があると教えてくれた王に、明日を託すように、誰もが笑顔を浮かべた。

 

ったく、と拗ねたように唇を尖らせたアスラは気を取り直すように当たりを見回し、右側をさした。

 

「んじゃ、俺は右な!」

 

「じゃあ私たちは!」

 

「左から行こう。」

 

高まるボルテージ、奥にある3つの影を見据え、3人の口端が、不敵に持ち上がる。好戦的な戦士の笑みは、それを目にした全ての民に、冒険者に、興奮をもたらし、溢れ出させた闘気に打ち震えた。

 

ドンッ!と爆音とともに散った3人は、広場を囲む闇派閥を端から吹き飛ばし、エレボスたちの元に突き進む。

 

「アッハッハッハッハッ!!どけどけぇッ!!」

 

「邪魔だ、道を開けろッ!!」

 

「手加減、できないからね!!」

 

端から人が、瓦礫が、武器が吹き飛んでいき、死屍累々の様相を晒す。3人の進行速度は留まることなく、加速度的に上がっていく。

 

「止めろ!止めろぉッ!!奴らの進行を───────ぎゃあああ!?」

 

「だ、第1級が一撃で!?いギャアアアアア!?」

 

「右翼の【舞踏灰炎】はいい!!左翼のあの二人なら、我々でも止められるはずだ!」

 

「そ、それが…!すでに右翼側とほぼ同様の壊滅状態です!?」

 

「馬鹿な!?奴らはまだLv5とLv4だぞ!?第一級もいたはずだ!!」

 

「ものの5秒で吹き飛ばされました!?」

 

「ばっ、馬鹿なぁぁっ!?」

 

アスラが考案したこの作戦。

 

防衛戦に持ち込み時間を稼ぐことを目的にした篭城。籠城は攻めよりも有利であるためこの作戦を採用した、事は当然として。真の目的は、全ての敵をこの場に集める事。

 

「なるほど…闇派閥に勝機を見せ、一か所に集めるか…思い切りすぎだろ。」

 

「一網打尽……思い切った、というか作戦とも呼べん蛮行だろう。」

 

「けど、そのせいで本来送還するはずだった神も集められなかった。案外厄介だな…後手に回ったのが裏目に出たか。」

 

「そうして、その馬鹿な作戦に見事嵌ったわけか。袋のネズミはこちらだったと…見ろ、既に万の被害は出ているぞ。」

 

「なんでお前そんな機嫌いいわけ?怖いんだけど。」

 

「それは俺も怖い。」

 

「私達を真正面から倒しうる敵など久々だろう……ククッ、血沸く血沸く。」

 

そんな上機嫌なアルフィアに、ザルドとエレボスはゾッとしたものを見るように距離を取る。

 

そんな3人をおいて、闇派閥は壊滅が見えてきた。

そんな中、敵幹部がボロボロになりながら口を開いた。

 

「なぜ、何故これほどまでに強い!?速い!?絶望的なはずだ!!Lv7は敵に!周りは役たたず!なのになぜ、お前達3人だけがこうまで強い!?なぜ、お前たちは笑っていられるのだ!?」

 

あまりの3人の猛進に、敵は思わず叫ぶ。その言葉に、3人は何を当たり前のことを、と言うように口を開いた。

 

「俺たちが3人だけで戦ってるだァ!?この節穴野郎が!!」

 

「わからんだろう、ただ悪戯に混沌を振りまくお前達に、背負う事の強さなど!」

 

「私達は3人だけで戦ってるんじゃない!このオラリオにいる、全員で(・・・)戦ってるんだ!!」

 

快進撃に民が諸手を挙げて歓喜を示し、踊る勢いを強く、より笑顔で地を踏みしめる。

 

「数も!」

 

「心も!!」

 

「力も!!!何一つとしてッ!お前達に負けちゃいねぇんだよッ!!」

 

アスラの滾る炎がナーガに燃え移り、底上げされたステイタスによる薙ぎ払いで、闇派閥を焼き尽くす。

 

「行くぞ!アーディ!」

 

「うんっ!合わせる!」

 

シャクティとアーディの手に宿る炎が光線のように爆ぜ、闇派閥の構成員によって作られた人の海を割るように焼き払い、2人の道を作り出す。

 

しかし、すぐさま前進しようとしたシャクティの頭上に影が落ちた。

 

「───────ッ!!」

 

「避けられてしまったわ、けど見て!!邪魔姉妹よ!!」

 

「本当ね!いつも私たちの邪魔をする、邪魔姉妹!」

 

鏡合わせのような美しい相貌。白と黒で対になるようなエルフの少女たちは、無邪気に2人に剣をふりかざす。

 

すんでのところで躱したシャクティは、忌々しげに眉間に皺を寄せた。

 

「っ!ディース姉妹か…!」

 

「お姉ちゃん!」

 

「問題ない、抜かるなよアーディ!」

 

「うん!」

 

「アハハッ!私たちに勝つつもりよ!」

 

「愚かね!愚かだわ!そうだ!バラバラにしてモズのはやにえのように、首を晒してあげましょう!」

 

「いいわね!いいわ!とても楽しそう!」

 

少女らしい無邪気な見た目とは真逆の醜悪な腹の内を隠すことなく、嘲るように嗤う白と黒の姉妹。

 

シャクティとアーディは、闇派閥の最高位に位置する実力者、ヴェナ・ディース、ディナ・ディースと対峙する。

 

時を同じくして、アスラも最高幹部と対峙していた。

 

「クククッ、やれやれ…この戦いが終わっても、暫くは平常の活動は不可能……やってくれましたね。民衆の王よ……いや、流石と言うべきでしょうか?」

 

丁寧な口調に、侮蔑を張りつけた初老の獣人─────調教師バスラムは、アスラに向かって酷く親しげに声をかける。

 

アスラはそんなバスラムの言葉を一蹴するように鼻で笑った

 

「バーカッ!しばらくどころか永遠に活動できねぇようにしてやるっつってんだよ!」

 

「これは手厳しい……しかし、いくら貴方達であろうとも…私が用意した【精霊兵】に敵うでしょうか?」

 

禍々しい武器を持つ部隊が、アスラの前に立ちはだかれば、アスラは驚愕と怒りを顔に張り付けた。

 

「……テメェ…!無理矢理精霊を武器にしやがったのか!?」

 

「ご明察!!精霊の奇跡にも近しいその力を誰でも手軽に扱うことができる……これほどまで便利な道具(・・・・・)がほかにあるでしょうか!?」

 

大手を広げ、天を仰いだバスラムはこれ以上ないほどの喜悦に浸っていた。その顔は醜悪であり、何よりもアスラの地雷を踏んだ。

 

「精霊は人の軌跡を共に歩んできた隣人……!それを、道具だの便利だの言いやがって……っ……!!」

 

「っ……!!ハハハッ!!なんという熱気…!しかし、いいのですか?民衆の王ともあろう貴方が!笑顔を忘れていますよ?」

 

始めて見せるアスラの明確な怒りは、業火となって燃え上がる。

 

怒りによって歪んだ顔が、修羅を映した。

 

「今はいいさ。俺の代わりに、笑ってくれるヤツらがいるんだ。」

 

ミシッ、と音が鳴るほどに拳を握りしめたアスラは、怒りを隠すことも無く、バスラムを睨みつけた。

 

「王は笑って踊って民を、人を導く。けどなぁ、王様だって人間だ。キレることの一つや二つ、当然あるんだぜ?それに、シャクティもそろそろ、我慢の限界らしいからなぁッ!!」

 

炎がより強くなり、アスラが立つ地面が赤熱しながら、ドロドロに溶け変形する。

 

アスラが猛るその対角。シャクティも、理不尽な悪に対し、爆発寸前だった。

 

「お前達は、一体何がしたい。悪戯に混沌を振りまき、不幸を生む……お前達は何がしたいッ!!」

 

「お姉ちゃん……」

 

猛るシャクティにすら、姉妹は嘲笑うように、無邪気に答えた。

 

「何がって……私達はぶっ殺したい(あいしてあげたい)の!」

 

「そう!ぜーんぶ、あいしてあげたい(ぶっ殺したい)だけなの!」

 

「そんな、理由で…!!」

 

「……………」

 

答えになっていない答え。

 

まるでキャッチボールにならない会話。この姉妹は、狂っているのだ。

 

わかっていたことだ。そんなことは。けれど、シャクティは人にある罪悪感というものを、信じたかったのだ。誰しもが持つ、その当たり前を。

 

けれど、そんな当たり前があったとしたら、きっと自分たちの前に立ってなどいないのだ。

 

まるで、怪物(モンスター)に言葉を投げているような、空虚で虚しい。

 

獣に、何を言ったところで無駄なのだ。だから、ここで終わらせる。

 

「───────やるぞ、2人とも。」

 

その声に、反応するように、アーディとアスラは獰猛に笑った。

 

()ッ!!!』

 

寸分たがわず同時に胸を叩いた二人。

 

数百メートルもある彼女の言葉は、アスラには届くはずがない。しかし、繋がっている3人にとって、どれだけ離れていようとも、意味は無いのだ。

 

「急に叫んだかと思えば……気でも狂いましたか!?行きなさい精霊兵共!ぐちゃぐちゃにしてやれ!!」

 

精霊の奇跡、その具現とも言える、剣や槍が輝き、アスラに向かって炎や雷が殺到する。

 

その攻撃をナーガで切り裂き、軽業で避けながら、アスラは高らかに口を開く。

 

「お前たちには一生かかろうがわかりゃしねぇよ!俺達3人は!どこにいようと繋がってる!!」

 

ディース姉妹の連携を躱しながら、シャクティとアーディは機会を伺っていた。

 

「うふふっ、おかしくなったのね?この距離から、あの王様に声が届くはずがないのに!」

 

「血の繋がりもない癖に!!」

 

「ニセモノの家族!ニセモノの情!くだらない、どうでもいいものだわ!」

 

大きく距離を取った二人は、肩を並べて腕を組み、堂々と姉妹を睨んだ。

 

「それこそくだらん。私達は確かに血を分けた姉妹でアスラとの血の繋がりはない。」

 

「だけど、それを上回る絆で、私たち3人は繋がってる!」

 

呼応するように鳴り響く戦士の音色が、3人の背中を押した。

 

3人が口にするは、それぞれの原点(オリジン)とも言える、聖言(マントラ)

 

「【吟遊の王(バギシャ)】!」

 

隣合う誰かと手を取り、希望を見据えると誓ったアーディの体には、黄金を宿し人々を導く創造のマントラ

 

「【均衡の王(ヴァシュナ)】!」

 

今を守ると誓ったシャクティは、秘めた熱を示す守護のマントラ

 

「【戦舞の王(ナテシュバラ)】!」

 

王として民を守る為、全てを蹴散らすと誓ったアスラの、全てを焼き尽くす戦のマントラ。

 

3人の体が淡く輝きを放ち、その光は徐々に失せて行った。

 

しかし、ただそれだけ。変化はなかったはずなのに、3人は勝ち気に笑みを浮かべる。

 

「───────っ、驚かせてくれる。大層な詠唱の割に、変化はない…!発動条件があるタイプか…?なんにしろ、今のうちに殺ってしまえ!!」

 

「何が起きたの?何も起こらないわ?」

 

「きっと無駄な魔法だったのよ!」

 

これ幸いにと、襲い掛かった彼らに、3人は勝利を確信する。

 

シャクティ唯一の魔法は、確かに発動しているのだから。

 

【トリムルティ・シャクティ】

・三位一体魔法

・弟妹との共闘時、強制発動

・思考の共有

・任意の魔法、スキルの共有

・マントラの詠唱により詠唱者の最高レベルを他詠唱者に転写

 

アスラ、アーディ、シャクティが揃わなければ発動できないものではあるが、ノーリスクで昇華を可能にする反則的な魔法。

 

今この場に、Lv6が3人生まれた。

 

そして、3人は同時に片足を上げ、独特なステップを踏み同時に地を蹴り抜き、アスラの魔法【浄炎の讃歌】に存在する唯一の強化詠唱を叫ぶ。

 

 

 

『【踊り狂え(ターンダヴァ)】ッ!!!』

 

 

 

瞬間、3人を中心に纏っていた炎が急激に膨張し爆発。炎がディース姉妹を吹き飛ばし、爆炎から飛び出したアスラが精霊兵を焼き払った。

 

アスラに襲いかかっていた精霊兵は灰も残らず燃え尽き、ディース姉妹は辛うじて回避。吹き飛ばされながらも態勢を立て直す。

 

「なにが、起きたのっ!?」

 

「分からないわ!でも、私達も魔法で対抗すれば───────」

 

そうディナが口を開き、ヴェナのいる真横を見た時。シャクティの蹴りによって胸を蹴り貫かれた片割れの最後を見た。それが過ぎ去ったと同時に、遠くの方でとてつもない爆発音が聞こえた。

 

呆然とした意識の中、ディナは何事かも分からずに、絞り出すように、現実を拒む言葉がこぼれた。

 

「───────どこ、どこに行ったの?なにが」

 

「もう、貴女もおやすみ。」

 

背後から聞こえたアーディの声に振り向くより先に、彼女の胸を剣が穿いた。

 

「ぇ………私……剣……───────」

 

倒れるディナを抱え、アーディは優しく頭を撫でた。

 

「……ごめんなんて言わない。あなた達に奪われた命は、決して少なくないから……だから、次はこんなことしちゃだめだよ。」

 

聞いていたのか、聞こえていないのかわからなかったが、アーディは動かなくなったディナの瞼を優しく閉じて、その場に横たわらせる。

 

「………っ…ふぅ〜……いこう、お姉ちゃん!」

 

「……あぁ。」

 

走り出した二人は、ただ前を見つめた。

 

「向こうは、終わったみてぇだな。」

 

「ば、馬鹿な…私の精霊兵が、全て…たったの一撃で…!?」

 

思考の共有により、向こうの戦いが終わった事を知覚したアスラは、一撃で灰燼とかした精霊兵の灰を踏み越え、天を仰ぐ。

 

「……檻は壊した、好きなところに行けよ。」

 

ザァッと風が吹き、砕けた精霊の武器が灰と共に空に舞う。その様は、まるで感謝を述べている様でもあった。

 

「なぜ…なぜ……私の、最高傑作が…!!アスラァァ……っ!!」

 

「元々借り物の力だ。取り立てられたと諦めな……もっとも、今までのツケはまだ返せてねぇぜ、この俺がたっぷり取り立ててやらぁ!!」

 

一気に足を地面に叩きつけたアスラはその踏み込みだけで地面を大きく陥没させ、一瞬の間にバスラムの目の前に迫った。

 

燃える剛腕による、神速の拳。

 

ゾッとしたバスラムは死の間際、燃える死神を幻視した。

 

魔法により底上げされたステイタス+スキルにより、そこから更に底上げされた俊敏をもって放たれた攻撃は、バスラムに死を知覚させるまでもなく、その鎌を振り下ろした。

 

「あの世で反省してな!!これからの笑える明日に!!お前はいらねぇッ!!」

 

顔面に突き刺さった拳は、容易くバスラムの首をへし折り痛みを感じる間もなく絶命させた。

 

ピッ、と額の汗を拭ったアスラは、姉と妹に先に行かれていることを知る。

 

「先に行かれちまってるな……走ってもいいが…ここは、カッコよく登場しなきゃな!」

 

そうやって、口端をニヤリと上げたアスラは、指笛を鳴らし、生涯の相棒を召喚する。

 

「─────来いッ!我が友!ハヌマーン!!!」

 

その呼び声のあと、けたたましい蹄鉄の音とともに、大地を駆る紅蓮毛の炎馬が、アスラの隣に舞い降りた。

 

巨躯を震わせ、燃える赤毛の鬣を揺らしながら、アスラの友は呼び声に応じた。

 

「ハヌマーン!!お前の出番だ!行けるな!!」

 

アスラの言葉に、ブルルッと威勢よく返したアスラの愛馬───────ハヌマーンは、嬉しそうに鼻を鳴らし、早く背中に乗れとアスラの頭を小突く。

 

「うおっ、ハハッ!やるか、あの二人に追いつくぞ!!」

 

そのアスラの声に応えるように轟くハヌマーンの嘶きは、数百メートル離れた場所にいる2人の耳にも届いた。

 

「お姉ちゃん!ハヌマーンが来たみたい!」

 

「随分と私たちがリードしていたが、あの子がいるなら、同着にはなるだろう。気にせず突っ込むぞ!」

 

走り過ぎる衝撃波のみで敵を吹き飛ばしながら、大きく飛び上がり、最大出力の爆撃を見舞う。

 

闇派閥は尽くその身を焼かれ、倒れ附した。2人は燃える街の中を突き進む。

 

二人の爆撃と同時、飛び乗ったアスラを感じたハヌマーンは大きな一歩を踏み出した。

 

「ぶち抜け!ハヌマーン!!」

 

駆け出したハヌマーンの速度は、尋常の馬をゆうに超え、速度だけならば、都市最速と呼び声の高かった猫人にも迫るだろう。

 

そも、この神時代において、騎馬での移動は、Lv1で既に無用となる。それは恩恵によって底上げされた力によって、基本的に馬よりも駆けるのが早くなる。

 

しかし、ハヌマーンの速度は第2級冒険者を駆ける余波で吹き飛ばし、第1級冒険者すら追い抜かす。

 

下界で唯一恩恵を与えられた動物であり、恩恵を与えられた人間を含め、上澄みに位置する実力を持つ軍馬。

 

ハヌマーンは、アスラと共に戦場を駆け、修羅場を潜り続けてきた。アスラが子供の頃から、寝食を共にし、喜びを、悲しみを、苦しみを分かちあった。

 

そして、ハヌマーンは永遠の友に置いていかれぬために、強さを求め、ついには、竜すらも踏み殺し、Lv5に上り詰めた。

 

目の前に広がる人の海を見下ろすように飛び上がったハヌマーンの馬上から、アスラが灼熱の爆撃を放つ。

 

その光景を眺めていたエレボス達は、やれやれと肩を竦めた。

 

「…まさか、ここまでやられるなんてな。闇派閥は7割が再起不能。上回っていた数も、策も、何もかもひっくり返された……が。」

 

「まだ私達がいる。絶望は覆ってはいない。」

 

「……強者の匂いだ。硝煙と血に満たされた空気……久しく、忘れていた。」

 

燃え上がる前方を眺め、ザルドとアルフィアは、徐々に強く響く戦士の音に、胸を踊らせた。

 

そして二人は同時に、脅威の来訪を察知する。

 

『───────来る。』

 

豪炎の壁を突き破り、弾丸のように飛び出した3人は、それぞれの敵に一直線に突き進む。

 

ザルドは襲い来る二人の拳と蹴りを大剣で防ぎ、アルフィアは馬上から飛び上がり落下と共に来るウルミの刺突を避ける。

 

(この力───────!)

 

(この速度──────!)

 

一瞬の拮抗の末、二人は目を見開き久方ぶりの衝撃を目の当たりにした。

 

自身の認識よりも速く、自身の認識よりも重い。

 

二人の攻撃にザルドは殴り飛ばされ、アスラのその一撃がアルフィアの白い頬を切り裂いた。

 

そうして、二人は認識を改める。

 

彼らは有象無象か?

 

 

やつらは、凡百の冒険者か?

 

否!

 

我らの首に牙を突き立てる強者!!

 

久しく感じていなかった、戦いの高揚。

 

殴り飛ばされたザルドは体勢を立て直し、大剣を担ぎ、獣の如き形相で姉妹を射抜く。

 

「名乗れ。お前達を有象無象と一緒くたにはしたくない。」

 

「シャクティ・ヴァルマ」

 

「アーディ・ヴァルマ!」

 

「ククッ…そうか、アーディ、シャクティ……失望させるなよ?」

 

切り裂かれた頬の血を拭い、ドレスに着いた土埃を優雅に払ったアルフィアは、着地したアスラを見やった。

 

「随分と待たせてくれたな。私は焦らされるのが嫌いなんだ。」

 

「なに、よく言うだろ?ヒーローは遅れてやって来るってな!!」

 

「お前がヒーローという柄か?笑わせる。せいぜい子供達に笑われるピエロにしかなれんだろうに。」

 

「老若男女に大人気のスーパーヒーローだぜ?さぁ!とっとと終わらせて、お前の捨てたもん拾いに行くぜ!」

 

「………戯れに交わした口約束だと言うのに、律儀な事だ。せいぜい足掻けよ?スーパーヒーロー。」

 

呆れたように苦笑したアルフィアは、翡翠と灰の瞳をアスラに向け、ゆったりと構えた。

 

過去の最強と現在の最強達が、激突する。

 




精霊兵の解釈ってこれでいいんだっけ……そもそも詳しい描写あったっけ……まぁ、読み直して違ったり、ご指摘が入ったらちょっと修正します。
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