敵の女幹部とドンパチしてたら息子が出来た   作:イベリ

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一時の閉幕、修羅の産声

悲痛な叫びと共に二人の間に割って入った小さな影に、戦場は音を消した。

 

咄嗟にベルを抱え、アルフィアと距離を取ったアスラは、腕の中のベルに問いかけた。

 

「なんでこんなとこに!あぶねぇだろ!?輝夜はどうした!!」

 

「おに、お兄ちゃん…もう、もういいの!お義母さん、お義母さんが…!」

 

「何ぃっ!?見つけたのか!?そりゃよかった!!け、けどだったらなんでここ来たんだ!?」

 

あまりの出来事に困惑しながらベルを離すと、どこか彼の言動には危うさというか、酷い動揺を感じた。

 

同時に、なんとも言えない嫌な予感が、アスラの頭を過ぎった。

 

「ね、ね?お義母さん…!」

 

「ど、どこにいんだ?ベルの母ちゃん?」

 

アスラの勘は、お世辞にもいいとは言えない。フィーリングで生きるアスラの勘など、その場の流れと勢いに任せた、もはや勘とは言えない物がほとんど。

 

けれど、今回の"予感"は"確信"に近いものだった。

 

待て、その先を口にするな。どうか間違いであってくれと、アスラはらしくもない願望が零れそうだった。

 

「ほら、お兄ちゃん…僕のお義母さん───────アルフィアお義母さん(・・・・・・・・・・)!」

 

その言葉に、アスラは絶句した。言葉が出なかった。思えば、あの日教会でアルフィアと会った時、既にこの予感はあった。まさか、そう思っていたものは、現実のものになってしまった。

 

嘘であってくれ、そうアルフィアを見たときに、真実だと確信してしまった。

 

「──────────────」

 

翡翠と灰色の瞳を見たこともないほどに見開き、それが真実であることを物語っていた。

 

アスラですら、笑顔を保っていられなかった。

 

「お、お義母さん……僕、強くなったんだよ…!きっと、ここに来れば会えるって、お兄ちゃんに連れてきてもらって……それで……!」

 

「待て、ベル…!そいつに近寄るんじゃねぇ!!」

 

「な、なんで!?お義母さんがあそこにいるのに…!なんで!?」

 

「それ、は……あいつは…あいつ、は…」

 

言い淀むアスラに、ベルは虚ろな瞳を向けて口を開く。

 

「お兄ちゃんも……お義母さんのこと、敵だっていうの?」

 

その言葉に、アスラはゾッとした。今まで、人畜無害だったベルに起きた変化。怒りを超えたドロッとした、纏わりつく殺意の発露、激情の自覚。

 

それは、アスラですらも一瞬慄いてしまうほどに衝撃的なものだった。

 

(怒り…!?いや、そんな生易しいもんじゃねぇ!この数時間で、いったい何があった!?)

 

数時間前にあったベルはこんな殺意を宿す人間ではなかった。

 

ベルは今、怒りと殺意の境界がわからなくなってしまっている。今まで激情を持ちえなかったベルだからこそ、起こり得てしまった、最悪の認識

 

怒りとは、殺意であると。

 

何と声をかければいいのかわからぬまま、事態は最悪の方向に進んでいく。

 

「───────聞き間違いでは、無かったか……」

 

「アスラ!な、なぜその子が…!?」

 

「お兄ちゃんって、ベル君!?なんでいるの!?」

 

合流したアーディにシャクティはベルの存在に驚いていた。

 

それは、ザルドも同様だった。

 

「おじさん…!よかった、やっぱりお義母さんと一緒だったんだね!」

 

「おじさん…?え、ベル君が探してた叔父さんが、ザルドなの!?」

 

「……この流れ……では母親というのは……【静寂】だというのか!?」

 

遅れて2人も察した事実に驚愕し、どうすべきかを決めきれずにいた。

 

そんな周囲を無視して、ベルは大好きな母達に駆け寄った。

 

「僕、頑張ったんだよ!ぼく、みんなを傷つける、悪い怪物をいっぱい───────」

 

しかし、その返答は大好きな母の声ではなく、母自身が忌み嫌っていた破鐘の音色だった。

 

「ベルッ!!」

 

咄嗟に飛び出たアスラが、ベルの前に割り込み破鐘の音を防ぐ。

 

激上したステイタスを耐久に全振り。それによって吹き飛ばされることを何とか耐えたアスラだったが、耳からは鼓膜が破れた際の出血が見られた。

 

(ベルに向かって……こいつ、殺す気で……!!)

 

しかし、ベルはそんなもの目に入らないくらいに、絶望に叩き落とされた。

 

「おかあ、さん…?」

 

「…………人違いだ。」

 

残酷にも斬り捨てる様なその発言に、ベルは思わず笑ってしまった。

 

「……うそ、だ…おかあさんだもん……!アルフィアお義母さんでしょ…っ!?」

 

「───────……知らん。お前のような子供が……私の子であるものか。」

 

「…なん、なんで……っ…お、おじさん!お義母さんが…!!」

 

縋る様な目で叔父を見やれば、彼は目を伏せ、ベルの返答に何も返してくれない。

 

それが、拒絶を意味する事くらい。

 

幼いベルでも、嫌というほどわかった。

 

何かが割れた音が、ベルの頭に響いた。

 

「っは、はは、ぼ、く……はっ、あ、あぁぁ……!」

 

「ベル君ッ!!」

 

拒絶に耐え切れず、ベルはヘタっとその場に崩れ落ちた。駆け寄ったアーディの呼びかけにも応じること無く、ただアーディの手を握りながら、過呼吸気味に涙をポロポロと流す。

 

ジャフの死の哀しみを怒りで塗り替え、なんとか動かしていた心が、よりによって最愛の母の手で完全に叩き折られた。

 

屈んだアスラがベルの頭をわしゃっ、と撫でてから、アスラは2人に視線を向けた。

 

それと同時だろう、鳴り響いていた戦士の音色が、唐突に凪いだ。

 

チリチリと家屋が燃える音、遠くで響く爆音が、その空間を支配する。

 

アスラの胸中を埋め尽くす、純粋な怒り。アスラの脳裏を過ぎる過去の記憶が、その怒りに薪を焚べる。

 

感覚を共有していたシャクティとアーディだからこそわかった。

 

今、アスラはこれ以上ないほどにキレている。

 

「……何をやったか、お前らわかってんのか。」

 

「知らず。私にそんな子供など───────」

 

「ベルが自分の家族を間違えるわけねぇだろッ!!!」

 

その言葉に、アスラは頭が沸騰したような感覚を覚えた。

 

あんなに大好きだと言っていた母を、叔父を彼が見間違えるなど断じて無い。

 

言葉を遮る絶叫は、アルフィアにも少なくない衝撃を与えた。

 

「なんでベルがこんなとこまで来たか!知ってて言ってるよな!?強くなったんだこいつはビックリするくらい!これでおっちゃんと母ちゃんを驚かせるんだって!!捨てられてもずっとお前たちを大好きだったんだぞ!?」

 

「………っ」

 

「ダンマリかよ……あーそうか、分かった。わかったよ。」

 

ただ、アスラは拳を硬く握り締め、重心を落とした構えのまま、2人を睨みつけた。

 

「コイツは楽しくねぇから嫌いだ。けどな、俺はッ!お前たちがもっと嫌いだッ!!」

 

悪ぃなベル、と呟いたアスラは炎を滾らせ、己の原初を思い出す。

 

「テメェら纏めてボコボコにして土下座させてやるッ!!」

 

修羅となったアスラが再び突撃する寸前。防衛拠点であったバベル広場から爆破音が響いた。

 

「っ!何!?」

 

遠くからでも分かるほど大量に地面から湧いた蛇のようなモンスターの姿に、アーディは目を見開いた。

 

「なんだあのモンスターは…っ!不味い、あの物量は…!!アーディ!お前とハヌマーンは戻れ!この2人は私達でやる!」

 

「分かった!ごめんねベル君、揺れるよ…!お願い!ハヌマーン!」

 

ベルを抱えながら、飛び乗ったアーディに任せろと言わんばかりに駆け出したハヌマーンに背を向け、シャクティも同様に音を消した。

 

アスラとシャクティの奥の手。

 

確実にここで仕留める。二人がその決意を固めたとき、その二人を捕えるように、極彩色の花が無数に咲き乱れた。

 

「なっ!?ここにもこの量がいるのか!?」

 

「邪魔だッてんだよ───────ッ!?」

 

忌々し気に振るった拳が、思わぬ硬さを貫き、同時に目を見開いた。

しかし、そんなことは知ったことかとすぐさまナーガを振り回し、植物型のモンスターを切り刻む。

 

「おいおいマジか…あの量なら第一級も苦戦すると思ったんだけどな。」

 

「エレボス……貴様、知っていたのか。」

 

「何に対して言ってんのかわからんが、子供の事ならノーだ。まさかアスラが連れてきているなんて思わんだろ。」

 

二人の背後に現れたエレボスが、今は引けと二人を諫めた。

 

「このままやればどのみちお前たちは負ける。それじゃ、まだ計画的に不味いんでね。今は従ってもらうぞ。それに、こうなる事をわかっていて、お前たちは俺の提案にのったはずだ。」

 

「………あぁ…そうだな……こうなる事は……わかっていたさ。」

 

全てを受けいれたように、深く息を吸ったザルドは踵を返した。

 

けれど、アルフィアはベル達が走り去った方角を眺め、茫然としているだけだった。まるで、その音色を求めていた様に、手を伸ばそうとしていた。

 

それが、アスラの怒りを爆発させる。

 

「テメェがなんでその顔をしてんだよッ!!ならどうしてベルを抱きしめてやらなかったッ!?」

 

「───────っ」

 

「アイツがどれ程お前たちに会いたがってたか分からねぇはずねぇだろ!?今なら、俺も謝ってやる!手を取れアルフィア!!」

 

アスラの言葉はきっと正しかった。あの日、彼女と踊り、その中にある誰か(ベル)に向けられた愛が、偽物のはずは無い。連れ戻すなら今しかないと、食人花の隙間から手を伸ばす。

 

その伸ばされた手を見て、アルフィアは何を思ったのか。

 

 

数秒だろうか、アルフィアは逡巡の果てに、冷酷な皮を被った。

 

 

自分の声が斬り捨てられた事は、嫌でもわかった。故に、ここで決着をつけねばならないと猛った。

 

「───────ッ待てよアルフィア…!!逃げんじゃねぇッ!!来いよ!!ここで決着つけてやるってんだよ!!」

 

「待てっ、アスラ!?」

 

アスラの声に何も応えることなく踵を返した。全ての今までに、ケジメをつけるように。

 

今も大量の食人花に囲まれたアスラは、漸く切り開いた道を割り込むように駆け出し、目の前から消えた3人に追いすがる様に手を伸ばした。しかし、その時にはとっくに自身の感知範囲からも消えていた。

 

息を切らし、アルフィアとの戦闘で受けたダメージと、ベルを庇った時のダメージが今になって、アスラの膝を崩れさせた。

 

「はぁっ…ハァッ…!!クッソ…!!クッソォォォ!!!アルフィア────ッ!!!!」

 

蹲ったまま、アスラは何度も地面を殴りつける。あの時(・・・)と同じ、自分は何も出来なかった。ベルに、自分と同じ想いをさせてしまった。

 

後悔だけが濁流のようにアスラに押し寄せ、忌々しい過去がアスラの足を引っ張っていた。

 

「………アスラ、今は……」

 

「…はぁッ…はぁっ………あぁ…分かってる……まずは、民達の安全だ……!」

 

その言葉にシャクティは目を瞑り、アスラに背を向けた。

 

「……………行くぞ、アスラ。忘れるなよ?」

 

「あぁ。らしくなかった!!」

 

シャクティの一喝に、アスラは頬をバシンバシンと叩き、いつもの不敵な笑みを浮かべる。

 

「アルフィアはぶっ倒してベルの前に連れていく!そんでもって絶対に、ベルの日常を取り戻す!そんだけだ!!」

 

「あぁ、そうだな。私も、ザルドを倒さなければいけない理由が増えた。」

 

「おっし!んじゃ、とっととこの後の処理終わらせて、アルフィア達探すか!」

 

急ぎアーディ達に合流した2人だったが、元々物量だけで大した強さでは無いため、都市の第1級が固まっていた故に大した被害もなく、制圧することが出来た。

 

瓦礫に腰かけるアスラ、アーディ、シャクティは報告をしているフィンの声に耳を傾けていた。

 

「今日の作戦で敵の戦力は約4割は削れたと思っていい……だが、敵幹部の調教師、ディース姉妹のヴェナの亡骸は見つかったが、他は軒並み発見されていない。アルフィアとザルドの捜索も行っているけど、今の所報告無しかな。」

 

「そうだな!んー、俺らもちゃんと戦ったのはその3人だけだから、他は爆撃から逃れたってのは不思議じゃねぇ。」

 

「ちゃんと心臓に刺したんだけど、しくじっちゃったか……」

 

「加えて…そうだね、仮称としてあの新種のモンスターを食人花(ヴィオラス)と呼ぼうか。あれも僕ら第1級がいたからあの物量でも対処出来たが……」

 

「Lv2以下では確実に押しつぶされるな。相応の対策が必要だろう。」

 

「そうだね、わかっていたことだけど、問題は山積みかな?」

 

「まあ、それは後で考えればいいでしょ!フィンさん、私達はちゃちゃっと配置に着いちゃうから、指揮よろしく〜!」

 

「私も対処に向かおう。幸い、アスラの魔法で回復要員としても使えるからな。それと、全冒険者に信号弾を。ザルド、並びにアルフィアが出た場合、私かアスラが急行する。奴らは───────」

 

「俺たちが倒す!!んじゃ、よろしく頼むぜ!フィン!」

 

とっとと走り去って行ったアスラに面食らいながら、ハイハイと肩を竦めたフィンは、引き続き指揮に入った。

 

事後の処理に精を出したアスラは、さっさとベルの元へと急ぎたかった。しかし、いくら急いでいたとは言え、処理に時間を取られ、寝ずの作業でも翌日になってしまった。

 

疲れも忘れ急ぎベルの元へ向かったアスラが耳にしたのは、ジャフの死と

 

 

 

 

 

 

 

ベルのランクアップ、そして失踪だった。




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