敵の女幹部とドンパチしてたら息子が出来た   作:イベリ

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これが僕の①

ぴちょんっ、ぴちょんっ、水が滴って、跳ねる音が、何重にも重なった様に反響する。

 

『───────私の子であるものか』

 

ヌルッと顔に飛び散った赤い飛沫を白い着流しで拭う。

 

「…はぁっ……はぁっ……っ…!」

 

「───────ひっ…!?やめ、助けっ!?」

 

倒れる怪物の心臓を突き刺し、絶命させる。強くならねばならないという強迫のような想いは、少年の体と心をゆっくりと蝕んでいく。

 

カシャン、カシャンと音が反響し、背中の恩恵が熱を持つ。斬り殺した怪物を自身の糧にする音が耳にこびりつく。

 

惨めに泣いて、優しく抱き締めてくれた姉たちの手を振り払い、癇癪を起こして飛び出した自分には、ここの陰鬱とした場所がお似合いだろうと暗く、瞳を沈める。

 

おじちゃんが死んだのは、あの怪物のせい。

 

『ざまぁねぇ!タナトス!お前が誑かしたガキが!邪魔な冒険者を殺したぞ!!』

 

お姉ちゃんを傷つけたのは、お姉ちゃんの綺麗な髪を焦がしたのは、小さい怪物のせい。

 

『……っ、お父さんと……お母さんに……あわ、せて……!』

 

お義母さんに拒絶されたのは、叔父さんが目を逸らしたのも、全部全部黒い神のせい。

 

『悪いな、少年。』

 

全ての出来事を怪物のせいにして、敵を作った。

 

そうでもしなければ、少年の心は既に歩めない程に、ボロボロだった。

 

「ここにも、居ない……いない……っ!」

 

目に付いた怪物(闇派閥)は皆殺しにした。命乞いも、叫び声も、断末魔すら無視して、ひたすらに殺し続けた。

 

既に少年の手によって潰された拠点は4。家出から約10時間。この短時間でこれだけの武功をあげ、手駒を減らし破格の貢献をしている。

 

けれど、少年が求めるのは、あの日殺し損ねた最も醜悪な怪物(ヴァレッタ・グレーデ)とその元凶であるエレボス。ジャフの仇を取り、義母たちを取り戻す。

 

怪物が蔓延る、地下に広がる迷路を進む。

 

仇の情報も見つからず、イラつきながら地下の迷宮を去るために、木刀で鉄っぽい壁を切り裂いて道を作り出す。

 

漸く外に出れば、すっかりと太陽が天に昇り、朝が訪れていた。

 

どっ、っと疲れが噴き出たベルは、どこを目指すわけでもなくとぼとぼ歩く。

 

壁に背を預け、遠くの方で騒がしく復興作業を行っている冒険者と市民が目に入る。

 

都市は最悪を退き、勝利に喜ぶ人々がほとんどだった。被害も建物の倒壊等だけ、人的被害は限りなく少ない。いい事だ、いい事のはずなのに、ベルは笑えなかった。

 

自分の中にある理解のできない罪悪感が、思考の邪魔をする。

 

殺さなきゃ、あの時の被害はきっとずっと多いものだった。

 

あの時、あの場で爆弾持ちを殺したから、輝夜達は無事だった。

 

あんなものはヒトじゃない、カイブツだ。誰かを傷つけ、踏みつけ、その様を嘲笑う。そんなもの()が、輝夜やアスラ達と同じヒトのはずがない。

 

見た目が同じで、言葉のような鳴き声なだけだ。

 

なのに、なんで、僕が悪いなんて思わなきゃいけないんだ。

 

もう、戦いたくない。

 

美徳だと思っていた、自分の優しさでは、誰かを守れない。だから剣を取った。だから怪物の首を斬り飛ばした。

 

あの時自覚した、正義(本能)の疑念。なのに、今までどうして戦っていたのかすら、体をつき動かす物がなんなのか、理解することが出来なかった。

 

片隅でぎゅっと膝を抱え、ベルは1人涙を流した。

 

「……っおかあ、さん……」

 

ぽつりと、いるはずのない母の温もりを求めてしまった。

 

「──────大丈夫?」

 

そうして1人蹲っていると、真上からかけられる声に、ベルは億劫そうに顔を上げた。

 

「あぁ、良かった。どこか悪いの?どうしてこんなところにいるの?」

 

シャクティと同年代であろうか、それくらいの女性が心配そうに見つめていた。

 

何も答えないでいるベルに、女性は察したように呟いた。

 

「……1人なの?」

 

その場から逃げ出したい気持ちに体が付いてこない。もう、ここから動きたくなかった。

 

「ケガは…なさそう。うん、疲れちゃってるのね。」

 

「……放って、おいて……」

 

「そんなわけにはいきません、私と一緒に行きましょう。よいっしょ、あら軽い。ご飯は食べられそう?」

 

「はな、して……!」

 

「だーめ……こんな抵抗もできないくらい弱っている貴方を1人になんて出来ません。」

 

手を無理やり取られ、抱き上げられる。何とか抵抗しようとしても、抱き上げられた温もりに思わず涙が出そうになった。それを隠すように、女性の肩の上に顔を乗せ、大人しく運ばれる。

 

やれやれ、といった呆れともとれる、小さなため息をしてから、女性は背中をトントンと叩いて、優しい声音で話始める。

 

「私はマリア、ダイダロス通りで孤児院をしているの。貴方は?」

 

「……べる…」

 

「そう、ベルね。家族はいる……木刀、もしかして冒険者なのかしら、ファミリアは?」

 

「……あすとれあ、さま…」

 

「アストレア・ファミリアの、ならどうして一人でいるの?帰り……たくはないのね。」

 

ベルの無言の抵抗が、帰宅の選択肢を潰したらしい。理由が何にしろ、取り敢えず孤児院に向かうしかないと、マリアは足を進めた。

 

「……どこ、行くの…?」

 

「孤児院と託児所を兼任してる場所……私のお家よ。」

 

よくわからなかったが、疲れすぎて力の入らないベルは大人しく運ばれる。

 

「さぁ、ここよ。」

 

たどり着いた場所は、とても綺麗で大きな教会だった。

 

「驚いた?アストレア・ファミリアなら知ってるかな。アスラ様がこのオラリオにある孤児院とかの出資をしていてね…少し前までは廃墟同然だったんだけど、なんとかしてやる!ってね。」

 

「お兄ちゃんが……?」

 

「…そういえば、アスラ様が子供を連れてきたって噂……もしかしてベルなの?」

 

こくんと小さく頷けば、マリアはそっか、とそっけなく告げてから、教会の扉を開ける。

 

すると、わらわらと子供達がマリアに群がった。

 

「マリア母さん!おかえり!あれ、だれ?」

 

「新しい子?なんで木の剣持ってるの?」

 

「まっしろ〜!」

 

「うさぎみたい〜!」

 

「はいはい、誰かスープと湿布を持ってきて。」

 

など、好き勝手言われたベルは柔らかなソファーに下ろされ、スープを差し出された。

 

「はい、食べて……そういえば疲れてたのね。はい、あーん。」

 

差し出されたスプーンを半ば突っ込まれる形で飲み込めば、じんわりと優しい味が口いっぱいに広がる。

 

ひったくるようにマリアからスープを取ったベルは、知らぬうちに流れる涙を止めぬまま、スープを口いっぱいに入れた。

 

「よく頑張ったわ。貴方はいい子よ、泣いていいの。誰かに甘える事は、悪いことなんかじゃないわ。」

 

周りの子供たちとマリアに抱き締められながら、わんわん泣いて、疲れ果てた体が微睡みに落ちていくのがわかった。

 

そして数時間後、目を覚ましたベルが見たのは、自分の上に乗っかる数人の幼児たちと、自分を囲むように眠る同年代の少年少女達だった。

 

何となくその場を動けなくて、耳を澄ませば、扉の外に4人、その隣の部屋に5人、足音からして女性が忙しなく動いているのがわかった。

 

首だけしか動けないのを不便に思いながら、少しだけこの場所について理解ができた。

 

孤児院という存在を知らなかったが、何となく、自分と同じなのだろうと思った。

 

母の拒絶の言葉が、ずっと頭に響いていたのに、今は随分とすっきりしている。

 

しばらくぼんやりと天井を眺めていると、こちらの様子を伺うようにゆっくりとドアが開き、マリアが顔を出した

 

「あら、起きていたのね……ふふっ、それじゃあ動けないわね。ほーら、ライ、フィナ、ルゥ?ちょっと持ち上げるわよ〜。」

 

スピスピと寝息をたてる幼児達をベルの上からどかし別の場所に寝かせ、マリアはベルを起き上がらせた。

 

起き上がったベルは、何となくだがここを出ていかなければいけないと、木刀を手に取って腰に佩く。

 

意味を悟ったのか、マリアはベルの両手をとって、目を真っ直ぐと見つめた。

 

「………好きなだけ、ここにいていいわ。」

 

「でも、僕……」

 

「いいのよ。本来貴方はまだ外を走り回って、ご飯をいっぱい食べて、いっぱい寝る事がお仕事なのよ。」

 

「………」

 

「貴方の心に従って?」

 

何も言えなかったベルは、コクリと頷いてから、中庭に出た。

 

この1週間と少し、身体に染み付いた鍛錬は、無意識にベルの体を動かし、中庭の端で剣を振った。

 

剣を振る度に嫌なことを思い出す。自分は間違いなく強くなった。闇派閥など怖くない程に強くなったけれど、心は別。

 

断ち切った骨の感触も、踏み潰した頭蓋の感触も、剣を振る度に鮮明に思い出してしまう。

 

幸いだったのは、子供達とあの小さな怪物が重なって見えなかったこと。子供たちは、しっかりと人として見えていた。

 

少し、考える。心に従う。もう、戦いたくなんて、なかった。

 

だが、この技術の根幹は美しいと思った姉の物。

 

だから、嫌いになどなる事は出来なかった。

 

『所詮、私の技術は人を殺すもの─────殺人剣でしかない。ただ、それは何も悪いことでは無い。活かしたい物、生きて欲しい誰かを守る為の活人剣でもあるんだ。覚えておけ、(武器)は人を傷つけない、どこまで行こうと、使い手の意思次第でどちらにも転ぶんだ……少し難しかったな。頭の片隅にでも置いておけばいい。』

 

難しかった輝夜の話を、頭の中で何度も繰り返す。

 

「僕は……自分で、怪物を殺した……戦いに、価値を……黄金に……」

 

何のために剣を振るのか、今になってアスラの言葉が蘇る。

 

胸に空いたぽっかりと大きな穴は、埋まることなく、ベルの体と思考を蝕んだ。

 

ジャフの死、家族からの拒絶。なにから考えればいいのかすら分からなかった。

 

振り下ろし、残心。

 

癖のように行った一連の流れから、木刀を再度佩く。

 

すると、背後からパチパチと、小さな拍手が響いた。

 

「すごいねぇー!ベルってもしかしてすっごく強い冒険者様なの!?」

 

そこには、おさげとそばかすが特徴的な少女が、溌剌とした笑顔でベルを見ていた。

そんな少女に、ベルはそっけなく答える。

 

「強く、ないよ。今はわからないけど、昨日は、僕は役に立てなかった。」

 

「昨日?もしかして作戦に参加してたの?私と歳変わらないよね!?」

 

「7歳…」

 

「お、同い年だ……んーでも、弱かったら作戦に参加できないんじゃないの?」

 

同い年という事実に少したじろいだ少女は、されどベルの強さについて疑問を浮かべた。

 

「んー、でもさ!すごかったのはほんとだよ!振った剣が見えなかったんだもん!」

 

「…そう、かな……」

 

「そうそう!自信もって!!」

 

なんとなく、この少女にアリーゼを重ねる。溌剌とした感じと、言葉の節々にアリーゼのような単純な感じがある。アーディにも似ているが、彼女は単純に見えても、隠し切れない理知が見え隠れするときがあり、幼いながらに賢いのだろうことは分かる。

 

七歳児に単純と思われている16歳は、どこかでくしゃみをした。

 

『えっくしょいっ!!────これはベルが噂してるわ!こっちよ!!』

 

『くだらないこと言ってないで真面目に探せって言ってるでしょ?!』

 

『ひぇっ……リャーナがキレたわ……!』

 

『仮に噂をしていたとしたら、たぶん馬鹿にしてる方だな。』

 

『真面目に探せ馬鹿団長!!次ふざけたらお前の〇〇〇(自主規制)〇〇〇〇〇(自主規制)してやるッ!!』

 

『ひぇっ…』

 

『輝夜がガチギレしてんじゃねぇか止めろ!!』

 

『輝夜、それはいけない!!嫁入り前の女性が口にしていい言葉ではない!!』

 

どこかで噂されている気がしたベルは、頭をブンブンと振った。

 

不思議そうに眺めた少女は、ニパッ!と笑ってから、ベルの手を取って駆け出した。

 

「遊ぼ!あ、私リネ!よろしくね!」

 

「う、うん……よろしく、リネ…?」

 

たったた〜!と既に起きていた子供たちの塊に入れられた。どうやら、この4人はこの孤児院の中でも特に仲良しのようだった。活発そうな男の子と、少し内気そうな男の子、我の強そうな金髪の女の子が、ベルの前にどーん!と構えた。

 

「俺コーネット!」

 

「僕リオネル!リオでいいよ!」

 

「私アンディーネ!アンでいいわ!」

 

「あわ、あ、うん。よろしく、コーネット、リオ、アン。」

 

ひとしきり自己紹介を終えたら、次はベルへの質問攻め。

 

「なぁ!ベルって冒険者なんだろ!レベルは!?」

 

「き、昨日3になった…?」

 

「3!?そ、それってもう上級冒険者じゃない!?」

 

「魔法は!?魔法使える!?」

 

「う、うん…2つ……」

 

「す、すごいわね。魔法って確かヒューマンだと発現しにくいって聞いてたのに……」

 

「やっぱり俺も冒険者だよな!剣で敵をバッタバッタ倒すんだよ!そんでアスラ様みてーなちょーすげぇ冒険者になる!」

 

「コーネットには無理よ!アスラ様はじんちを越えた超存在なのよ!」

 

「アンのそれは信仰とかそういう類なんじゃ…」

 

「無理よリオネル。アンは大の王様ファンだもの。」

 

「リネには言われたくないわ!!知ってるのよ!アスラ様に抱っこしてもらって顔真っ赤にしてたの!」

 

「ちょ、ちょっと!それは誰にも言わない約束じゃない!!」

 

暫くすると、4人はピタッと会話をやめて、目を見合せてベルをジッと見つめた。

 

「……どうしたの?」

 

「んー、なかなか手強いわね!」

 

「来てすぐだよ?無理だったんだって。」

 

「無理じゃねぇよ!だって、王様はこのくらいじゃ諦めたりしねぇしな!」

 

「うんうん!アスラ様はきっとそれでもいつも通りだものね!」

 

何事か分からぬまま、4人の中で何やら決意が固まったらしく、えいえいおー!と元気よく音頭をとっていた。

 

「まぁいいわ!とにかく今は遊びましょ!」

 

「なにする?鬼ごっこ?」

 

「それ恩恵持ちのベルが強すぎないか?」

 

「やるならおままごとよ!よじょーはんの幸せな家庭を再現するの!」

 

さぁ、いくわよ!と、リネがベルの手を取った。

 

とても、暖かい子達だ。

 

気を遣うような感じではなく、きっとコレが彼らの自然体なのだろう。

 

嫌じゃなくて、むしろ心地よかった。

 

なんだか、自分の中に溜まっていた毒気がどんどんと抜けて行ってしまった。剣を振るより、眠りにつくよりも、彼らと話している時の方が楽しくて、色々なことを忘れられた。

 

「そうだ!なぁなぁ!ベルさ!俺に剣の振り方教えてくれよ!あんな綺麗な剣見たことないんだ!」

 

「確かに、ベルの剣舞……っていうのかな、あれ凄かったよ!」

 

「そう、かな……?」

 

「うんうん!私達に教えて!」

 

「わ、わかった…がんばるね…?」

 

初めての同年代の子供たちに囲まれながら、ベルはぎこちなく、ゆっくりと、暗闇を歩き出した。




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