敵の女幹部とドンパチしてたら息子が出来た   作:イベリ

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これが僕の②

ベルが孤児院に来てから、既に2日が経過した。タダで置いてもらうのは、とベルが言い出したため、力仕事とか簡単な掃除を任せている。

 

何もしないよりも、何かをしていたい、みんなと居たかった。誰かといれば、自分はひとりじゃない、辛いことも少しだけ忘れられたから。

 

「これ?」

 

「うん、それよ……ひとりで本当に持てるの?」

 

「うん」

 

マリアに言われ、食材の入った大きな箱を3箱いっぺんに、ヒョイと持ち上げる。

 

「う、うーん……なんだか、感覚がおかしくなりそう。どこにそんな力があるのかしら……?」

 

「台所?」

 

「え、えぇ……お願いね。」

 

コクリと頷いたベルは、とっとこ歩いて台所まで行ってしまう。

 

マリアはそんな光景に感覚がおかしくなってしまっていたが、恩恵を持った人間との力の差に、少し驚いてしまっていた。

 

えっほえっほ、と物を運び終え、急いで4人の元に向かう。

 

「おっ!来たな!」

 

「遅刻よ遅刻!」

 

「ご、ごめん、アン。」

 

「まぁまぁ、ほとんど時間通りだよ。」

 

「ベルはマリア母さんのお手伝いもしてるしね。」

 

すっかり寝る時も一緒となった4人の姿は、孤児院の職員たちからすれば、微笑ましいものだった。

 

未だ笑顔を見せることの無いベルのために集った4人は、順調にベルのパーソナルスペースに入り込んでいた。

 

「今日はどうするの?」

 

「んー、ベルの修行だな!地味だけど!」

 

「そうね!今日もやるわよ!地味だけど!」

 

「ご、ごめん……。」

 

「責めてるわけじゃないんだけど、なんというか、凄く辛くて地味。」

 

「ベルは地道に進んでいくタイプなのよ!」

 

「うぅ……」

 

そう、既に昨日4人に剣の指導をしてみたのだが、一応ベルなりにみんなの筋力とか体力を考えて内容を組んだのだが、みんなの想像していたものとは少し違っていたらしい。

 

『素振り100回……』

 

『筋力トレーニング各20回1セット…』

 

『400M走2本。』

 

『打ち込み指導1日1回!』

 

『一応、みんなの体に合わせて、最初だから少なくしてもいいかなって……ど、どうかな?』

 

『なんて言うか……』

 

『その……』

 

『地味ね!』

 

『うぅ……』

 

散々な言われようだったが、みんなしっかりと取り組んでいた。

 

ちなみに、ベルは早朝に皆の4倍近いメニューを終わらせているため、みんなの素振りだったりを見て、ブレていたら修正、という感じに指導している。

 

感覚、何となくで殆どのことが出来るベルが自分の動きをミリ単位で理解できるようになったのは、輝夜の指導の賜物だ。まぁ、それも本来は数年かけて得る技術で、輝夜すら半年は掛かったのだが。

 

「コーネット、振りがテキトーになってる。」

 

「つ、つかれんだからしょうがねぇかな!」

 

「じゃあ、もっとゆっくりでいいよ。てきとーにやるより、ゆっくりやってちゃんとできる方がいいと思う。」

 

「そっか!」

 

「アンとリネは無理に教えたように振らなくていいと思うよ。」

 

「どうして?」

 

「2人は想像した動きとする動きにあんまり違和感がなさそうだから、むしろ固めちゃうのはよくないと思う。リネは刀より直剣とかが向いてるかも。振りも変えよっか。アンはあんまり力が強くないから、レイピアとかかな。突きを中心にやってみる?」

 

「わかったわ!自由にやってみる!直剣の振り方も教えて!」

 

「ベルが言うなら間違いないわね!」

 

「リオは……うん、多分弓とかの方がいいかも……魔法使いかな…魔法はあんまりわかんなくて…」

 

「いいよいいよ!上級冒険者が教えてくれるってだけでお釣りが来るから!」

 

無駄にはならないしね!と、眼鏡をクイッとあげたリオネルはやはり頭脳派。ヒューマンだがなんとなく、魔法使い・参謀になるだろうなという賢しさがある。

 

そんなことをぼんやりと考えるベルが、ほかに類を見ないほどの指導者であることを4人は知らない。

 

「……4人近接、中衛は僕、後衛がリオ、前衛がコーネット、リネ、アン……バランス、ちょっと悪いかな。」

 

自分含め3人は近接特化になるだろう。全員剣士と推定魔法使い1人のパーティとは、なんともバランスが悪い。

 

きっとみんなとパーティを組んだら、3人に引きずり回されるリオネルが見れる事だろう。

 

自然と、みんなと一緒にダンジョンに潜る事を考えてしまう。まだ恩恵だって、ファミリアも武器だって防具もなんにもないのに、みんなと早くダンジョンに行ってみたかった。

 

まだダンジョンには2回しか行っていないが、きっとみんなと行く冒険は、輝夜達とする冒険とは違うのだろう。

 

それが、少し楽しみなのだと気がつき、ベルは少しだけ、胸の辺りが暖かくなる。

 

「どうしたのベル?」

 

ぼーっとしていたのを、リネ達が見ていた。何の気なしに、ベルは口を開いた。

 

「……みんなは、ここが好き?」

 

そんなベルの言葉に4人はキョトンとした後に、何を当たり前のことを、と呆れたように答えた。

 

「当たり前だろ!デカくなったら冒険者になって弟たちを鍛えてやるんだ!」

 

「そうだね、僕たちの家だし、もちろんマリア母さんたちも!」

 

「赤ちゃんの私を拾ってくれたのはマリア母さんだし、当然よね!」

 

「もっちろん!言葉では表せないくらいには!けど急にどうしたの?」

 

4人の言葉に、ベルは何も答えることなくうつむいた。数秒の後、リネの問いかけに、小さくつぶやいた。

 

「ううん……みんな、一緒に強くなろうね。」

 

『うん!』

 

その言葉に、4人は花のように笑った。

 

けれどまだ、ベルは自分の剣にこびりついた赤褐色を見ていた。兄が言っていた、黄金とは何なのだろうか。

 

思い悩む少年の背中を、竜胆が眺めていた。

 

 

 

 

昼食後、マリアを手伝っているベルは、黙々と皿を洗っていた。

 

「ベル、みんなはどう?いい調子かしら。」

 

「うん、みんなちゃんとしてくれてるよ?」

 

カチャカチャッ、と食器を流しで洗いながら、マリアの質問に答えた。

ざぶざぶと水で洗って、スポンジで汚れをとってまた水で流す。

 

元々アルフィアを手伝っていたこともあり、慣れるのは早かった。

 

「そう……ねぇ、ベル。」

 

「なに?」

 

「今日、輝夜さんが来たわ。」

 

「……」

 

ピタリ、と手が止まる。

きっと、輝夜は怒っているだろう。自分には甘いと団員たちは言っていたが、それでも本当に悪いことをしてしまって、何も言わずにいなくなってしまったのだから、嫌われてしまったっておかしくない。

 

恐る恐る、口を開く。

 

「……怒って、た?」

 

不安そうなベルの口ぶりに、マリアは穏やかに笑い、首を振った。

 

「……いいえ。ただ、凄くあなたの事を心配してたわ。遠くから貴方の事を見て、楽しそうだって、綺麗に笑っていたのよ。」

 

輝夜が、きっと1番に心配してくれていた事はわかっている。そんな姉に心配をかけ、あまつさえ許されている現状に、少し居心地が悪くなる。

 

それを察したマリアは、皿を洗いながら続ける。

 

「『いつでも帰ってきていい。』そう言ってたわ。」

 

その言葉が、どれだけ嬉しいか。

 

鼻の奥がツンとして、目尻に涙が溜まった。

 

マリアが皿洗いを終え手を洗い、ベルの目尻の涙を指で掬う。

 

「帰りたく、なった?」

 

黙って動かないベルに、マリアは仕方ないと笑いかける。

 

「輝夜さんの言うように、好きなだけいていいの。最後に、あなたが納得できる答えが見つかれば。」

 

コクッと頷いたベルは、そのままマリアのスカートの袖を握ってしばらく、マリアは俯いたままのベルを1つ撫でた。

 

「…それじゃあ、明日私と一緒にアストレア様のところに行きましょう。それでどうするかは、また貴方がゆっくり考えればいいわ。」

 

「……怒られる……?」

 

「そうかも…でも、それは同時にあなたが愛されている証拠でもあるの。それを忘れないで?」

 

「……怒ってるのに、好きなの?」

 

「えぇ、そうよ。受け入れるだけが、愛ではないの……って、少し難しいかしら。」

 

怒られることだって、愛だとマリアは言った。

 

するとベルが不安そうに口を開いた。

 

「……じゃあ……お義母さんが、僕を知らない子っていったのも、そうなの……?」

 

そこで初めて、マリアはベルの理由を知った。それは確かに、ベルの精神状態の不安定さにも納得がいった。

 

なんと返すべきか、マリアは熟考する。

 

「………ベルは、どう思うの?」

 

「……ぼく、が……いい子じゃ、なかったから……お義母さんが、怒ってっ…」

 

泣き出したベルを撫でつつ、マリアは違和感を覚える。

 

ベルと過ごしてまだ2日程度だが、同い年の子供たちと比べても、しっかりとし過ぎているし、いい子に過ぎる。この歳の男の子となればヤンチャ盛りで手に負えない、なんて事もあるだろう。コーネットが良い例だ。だが、ベルは真逆。

 

そして、子供を捨てるような親が、彼をこの歳までしっかりと育てるだろうか?彼の礼儀や倫理、道徳は決して蔑ろにされて来た子供のそれでは無い。聞けばまだオラリオでファミリアに入ってからは1週間と少し程度、それだけで子供の価値観をここまで行き届かせることは出来ない。親の躾は子供に顕著に出る。ベルのこれは、まるで、いつかいなくなるからできるだけ教えられることを詰め込んだようだ。それほどに、ベルの感性は大人びていて、歪だ。

 

けれど間違いなく、彼は愛されていたし、今も愛されているはずだ。

 

確実に訳あり。彼を捨ててまで優先するべき何かがあったとしか思えない。それも、きっとこの子を傷付けてでも、この子のために動いた。そう願いたい。

 

マリアの願望が入った推測ではあるが、ある程度のストーリーはできる。

 

とはいえ、彼にかける言葉は慎重に選ばなければならない。

 

「……ベル、私はね。貴方のお母さんが貴方の事を嫌いだなんて、どうしても思えないの。」

 

「なんでっ?ぼくっ、知らないって、言われたのにっ…!」

 

嗚咽混じりに何故かと尋ねるベルに、マリアは諭すようにゆっくりと口を開く。

 

「そうね、それを言われたのは間違いない。けれど、絶対になにか訳があった筈よ。」

 

「僕が、いい子じゃなかったから…?」

 

「いいえ、ベルはいい子よ……それとも、心当たりがあるの?」

 

ジッと見つめていると、ベルはぽつりぽつりと語り出した。

 

それは、ベルが帰りたくない理由に直結しているのだろう。

 

怪物───恐らく闇派閥の構成員を大勢手に掛けたこと。全部、全部アイツらが悪いんだ。だから、殺したって僕は悪くない。おじちゃんの仇も取らなきゃ帰れないと思っていた。

 

怪物を殺す事が、きっと僕の正義なんだと。

 

マリアは戦いについて門外漢であるが、輝夜にある程度は聞いていた。

 

曰く、オラリオでも比肩できる対象が居ないレベルの天性の戦闘の才。

 

ベルからすればレベルという概念が宛にならないという。実際にその差をどれだけ知っているかと問われればそれほど知っている訳でもないが、昇華の最短を記録し、曰く生涯抜かれることはないだろうとのこと。聞いた時は酷く驚いたが、子供達と練習をする少し前とお風呂の時間の前に、ものすごい速度で孤児院の外周を走っているのは何度か見ているため、もしかして?とは思っていた。

 

閑話休題。

 

話を本題に戻すと、ベルの固定されていた道徳と感情の齟齬が、ベルをここまで憔悴させてしまったのだろう。それもそうだろう、まともな倫理観を持ったベルが激情に駆られ、敵とはいえ、数十人もの人を殺した感触は筆舌に尽くし難い嫌悪感があるはずだ。

 

ただ、戦士としての価値観と市民としての価値観は別。ベルは限りなく市民によっている。元々戦いに向いた性格ではないのだろう。

 

マリアは月並みの事しか言えないが、それでもそれを説くのが大人という者の役割であるとも思っていた。

 

「そうね……まず、貴方は仲間を守った。これは間違いないと思う。戦う者としての役割を果たし、私達のことも守ってくれたの。ありがとう、ベル。」

 

「……うん。」

 

「けれどね?貴方は『殺す事こそが正義』と言ったけれど、本当に、貴方の正義はそれでいいの?」

 

マリアは、あらゆる正義の形があっていいと思っている。悪も正義も区別無く救う正義があれば、悪を許さず死をもって裁く正義もある。

 

どちらも、正解などなく正しいものだとは思う。

 

ベルがどちらを選ぶのか、それはベル自身が決めることであり、今回も結果として輝夜やマリア達を守ったのは紛れもない事実。正義たる意志を持っていることは間違いない。

 

ただ、その選択で後悔だけはして欲しくなかった。

 

「もちろん、考え抜いた末にそうと決めたならそれでもいいの。けれどね、選択によって後戻りが難しいこともある。貴方が進む道は、軽率に決めていいものでは無いの。」

 

難しいことは分かっている。ただ、ベルの悩みはそれこそ大人も持ち得るものだから、彼を子供として扱うのは失礼だと思った。

 

「だから、悩んで、考えて、色んなものを見て、それで決めればいいの。今すぐに決めてしまうのは駄目。」

 

選択とは、人生の岐路に必ず訪れる残酷で真っ暗で、不透明なものだ。

 

彼の見ている道の先は余りにも血に濡れていて、行くところまで行ってしまえば、後戻りなど出来ない導きだ。

 

それだけはいけない。仮にその選択をするとしても、彼がもっといろいろなことを経験し、自分の芯を認識したときこそが望ましい。

 

マリアの言葉を反芻してから、ベルは左手のミサンガをぎゅっと握った。

 

「……さぁ、明日に備えてみんなに一応報告しておきましょう?一旦帰るって。」

 

「………みんなに、なんか言われそう……」

 

口を少しへの字にして、言われそうなことを想像したらしいベルに、マリアは大丈夫と声をかける。

 

「みんなもわかってくれるわ。あの子たちの帰る場所がこの孤児院であるように、あなたにはあなたの帰る場所があるんだもの。」




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