敵の女幹部とドンパチしてたら息子が出来た   作:イベリ

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姉は

ベルがアストレアのもとに足を運ぶ数時間前。

 

アスラがベルに渡していた、灰色の分厚い本をペラペラと捲りながら、リューはため息を吐き出した。

 

「……しっかり魔導書を見てから更新しているあたり、抜け目がないというか……全くの考え無しのという訳ではなさそうですが…」

 

「だろうな……冷静でなかったとしても、あの子は馬鹿じゃない。その辺は耳にタコができるほど言い含めてたからな。」

 

「どうせなら家出もしないように育てて欲しかった……」

 

「言うな……あの子には抱えきれない事が起きすぎた……一日、たった一日でだ。」

 

知己の死、家族からの拒絶。齢7歳の少年の心を壊し、心の器を崩壊させるには十分だった。

 

「意外と冷静なのね。輝夜が1番発狂するかと思ったけど……」

 

「今1番発狂してぇのはアストレア様だろ。」

 

輝夜が悔しそうに、ベルのステイタスシートを握り締めていると、セルティが輝夜に向かって言い放つ。

 

あれから、怪我がいちばん酷かった輝夜は絶対安静の後、焼け焦げた髪をバッサリと切り、美しい長髪がおかっぱに近い髪型になってしまった。

 

バッサリと切った髪型を見て、ベルが泣き始めたのは少し困惑したが。

 

「あの子がそこらのLv1なら発狂していた。だが、ベルを私が心配する事が既に烏滸がましいんだ。」

 

見てみろ、と投げられたステイタスシートを見て、全員は目が点になった。

 

「………これ本当?」

 

「なんだ?アストレア様が読み書きもできん凡愚にでもなったと言いたいのか?」

 

「そうじゃないけどっ、これっ、こんな事…!」

 

「有り得るのか…いや、偉業を考えればそうなんですが……でも、これは少し…」

 

「あの子、本当に英雄になっちゃうのかしら……」

 

彼女達の反応は一様に驚きだけ。それもそうだろう、ベルのステイタスは前代未聞に過ぎた。

 

「Lv3……既に私達と並んでいる。」

 

「昇華をスキップなんて、有り得るの?」

 

「アストレア様曰く、不可能では無いらしい。恩恵を数年更新していなかったり、経験値の貯蓄が前提らしいがな。現に、アスラに恩恵を刻んだ時は、最初からLv3だったらしいし。」

 

初めての実戦、初めての格上の怪物の討伐、格上の冒険者との対峙・撃退。1つ昇華を飛ばして、既に第2級冒険者に手をかけてもおかしくは無い偉業の数々。

 

「技術も実力も……既に単独であれば私たちを超えている。Lv1でアラクニアの本気と競っていたんだ、当然と言えば、当然か。」

 

「いっしゅうかん……常識壊れちゃう……」

 

「ベルちゃん、大丈夫かなぁ……泣いてないかしら……」

 

「私達は取り敢えず待機らしいわ。兄様が気を利かせてくれたのね、いつ帰ってきても私たちが迎えられるように。」

 

「今もアルフィア発見の連絡が無いあたり、見つかってねぇんだろうな。」

 

はぁ〜っ、と大きなため息が11人の心の内を表していた。

 

「……我慢ならんな。すまない、見回りに出てくる。」

 

「輝夜……」

 

「安心しろ、やけになったわけじゃない。顔も見れた、少しだがな。安心はしているんだ。」

 

その表情からは、力の無さに対する激しい怒りが滲んでいた。

 

「失踪から数時間、あの子は拠点をつぶしまわっていたらしい、それも地下(・・)でな。」

 

ベルに話を聞いていたマリアから、ベルのそれまでの動向は語られていた。

 

『地下に……?』

 

『はい、あの子は怪物の巣だと言っていましたが……』

 

闇派閥の神出鬼没さ、現れたと思ったらいつの間にか消えていることにも、説明がつく。

 

恐らく、地下に広大な拠点があるはずだ。あらゆる場所に繋がる入口が設置されていて、そして確実にダンジョンに繋がる出入口もあるはずだ。

 

「地下…?そこにやつらの拠点が?」

 

「十中八九、な。あの子の魔法であれば壁を斬り進めながら脱出も侵入も可能だろう。出入口か、残っていればベルが脱出した穴だけでも発見できないか、とな。」

 

「ひとりで動くの?少し危ない気がするけど…」

 

「今だからこそ、だ。私以上に気配を消すのが上手い奴はこのファミリアにいない。単独だからこそ動きやすいこともある。邪魔な物も随分短くなったしな。」

 

軽くなった髪をサラと撫でると、アリーゼは呆れたようにため息を吐き出す。

 

「それでベルが泣いたの忘れたの?」

 

その一言に、何が?という反応をした後に、ぽく、ぽく、ちーん。と、しばらくの熟考によりようやく答えにたどり着いた輝夜は、やってしまったと頭を抱えた。

 

「…………あの子が泣いたのはこれが理由か!?いや、そうか…女の命だとかほざいた気がする……!」

 

「ほざいたって……間違いではないでしょうよ。」

 

「そら大好きな人が大切にしていたものを自分を庇ったせいで無くしちまったわけだからな。アイツの情緒考えたら泣きたくもなるわな。」

 

「あの子のせいであるものか!」

 

「それでも、アイツからしてみりゃそうなんだろうぜ。ずっと謝ってたろ、ベルのやつ。」

 

苦い顔をした輝夜は、マズったなと口にしてから、とにかく今はいいと思考を切替える。

 

「その話は帰ってきた時か、全てが終わった時にする。今は放置だな。とにかくマリア殿がベルと会ったという場所に向かう。」

 

「輝夜、くれぐれも。」

 

「深追いはしない。ここで私が死んでみろ。あの子は本当に再起出来なくなる。未練が残りまくって私まで死んでも死にきれん。」

 

「じゃあOKよ!気をつけて!」

 

「念の為だが、誰かこの事をアスラに伝えておいてくれ。合流できそうなら本格的に調査したい。場所は、そうだなダイダロス通りで調査しているとだけ。」

 

「はいは〜い!兄様今日来るらしいからその時に伝えておくわ!」

 

元気いっぱいに見送るアリーゼに若干呆れながら、マリアが初めにベルと出会った場所に向かう。

 

(ダイダロス通り……疑問ではあった、あそこはなぜあんな作りをしている?)

 

オラリオに存在するダイダロス通りは、迷路のような造りになっている。奇人ダイダロスが作り上げた集合住宅地、半ばスラムのような場所は目印に従わなければ輝夜も未だに迷うレベルの迷路っぷりだ。

 

今までただの迷路っぽい場所、という認識だったが、この情報のおかげで認識を改める機会となった。

 

(仮にこの地下に広大な拠点があるとしたらダイダロス通りはそのカモフラージュのために造られた?いつ造られたかは分からんがダイダロスは相当過去の人物…であれば拠点は最低でもダイダロス通りと同程度の規模か、それ以上……なるほど、まさしく怪物の巣か。)

 

ふうむ、と唸った輝夜は辿り着いた場所で少し瞑想、自身の気配を限りなく消し、調査を始める。

 

すると、マリアがベルを発見した場所から数百メートルの場所に、不自然に修復された壁を発見する。

 

「修復痕も新しい、当たりだな。」

 

造りは金属、詳しくは分からないが明らかに突貫工事だ。敵方は相当焦っていると見える。

 

ノックしてみれば、なるほど相当いい金属を使っている。魔法でも使わなければ切り崩す事は叶わないだろう。

 

(合成金属…?いや、この感じはアダマンタイトか。それも純度が高い。粗悪品などでは無いな。となれば、優秀な鍛冶師が向こうにいるということか。最近の金属の流出記録も洗わせよう……いや、オラリオ内であれば管理されているはずだな…外の商人…それか、相当な内部に裏切り者がいる。)

 

この時点で、輝夜は既に流通などのルート、流通量などを把握しているギルドがこの不信感に気付かぬはずがない事から、裏切り者が居ると断定。早急に対処すべきだとギルドに乗り込む為にアストレアに足労願おうと踵を返した時。

 

その視線の先に、悪が立っていた。

 

「まさか1人で調査をしている奴がいるなんてな。敗走したから出てくるとは思わなかったか?」

 

エレボス、そして初見の男。油断なく構えた輝夜だったが、それでも余裕は崩さないように、柔和な作り笑いを浮かべる。

 

「あらあら、無様に王様に敗走した敵の大親分が随分とデカイ顔をしてますねぇ?面の皮が厚いこと厚いこと。」

 

「言ってくれる……しかし事実か。前回は悪は敗走した、しかし、次はそう行くかな?」

 

「ハッ!三下が、口は回るようだがその男だけで私を抑えられるつもりか?舐められたものだな。」

 

「これは手厳しい……しかし、我が主よ…彼女の言葉は事実。あの方だけでも私では時間稼ぎ程度でしょう。」

 

男はなんて事のないようにニヤリと笑いながら、剣に手をかけていた。

 

たたずまい、足の運び、ブラフでなければこの男に輝夜が負けることはまずない。

 

(苦労はするだろうが、十分に勝算はある、ここで仕留めるか…?)

 

ここでエレボスを捕えれば後は消化試合だろう。前回の抗争しかり、恐らく現在の闇派閥の首魁は確実にエレボスだ。内通者も、ここ最近の活発化もすべてこの男神の手のひらの上だったわけだ。

 

(唯一の誤算は、アスラたちと敵の戦力差の無さといったところか。むしろ今はこちらが勝っている。ここで、一歩王手をかける!)

 

最悪の場合、神の送還も視野に入れる。仮にやっちゃっても、きっと、たぶん、アスラが何とかする。

 

そうして腰を下ろし抜刀の体制に入ったとき、エレボスが輝夜に待ったをかける。

 

「まぁ、待てよ。少し付き合ってくれ、アストレアの眷属よ。」

 

「断る、すでに問答の段階は過ぎた。」

 

「正義とは、君にとって何かな?」

 

輝夜の言葉を無視するように、エレボスは続けた。

その問答は、輝夜にとって無視のできないものだった。

 

「なぜ、貴様が問う。」

 

「だからこそ、だ。正義を叩き潰すため。それが悪というものだろう?」

 

飄々とした態度のまま、エレボスはなおも薄く笑う。

 

「リオンの正義は実に面白い。破綻していると気づき、偽善とわかっていて尚、それでいいと愚直に突き進んでいた。青臭く未熟、だが見ている分には清々しいものだった。やらぬ善よりやる偽善。ん〜いい言葉だ。」

 

「………きっしょ。」

 

「…………さすがに今のは傷ついた。」

 

余りにもリオンへの解像度の高い言葉に、思わず渾身の罵倒がこぼれた。少しの間をあけて、輝夜が口を開く。

 

「……大義名分を得るための武器。言動の暴力を正当化する為の色のない旗。そして最善を目指し、摩耗していく過程そのもの。」

 

「ほう……一見すれば諦観、あるいは未練に聞こえるが…それを本気で言っているのか。不合格を叩きつけたいところだが、その程度では既にお前たち正義を揺らがせる事は無理か。」

 

納得したように頷いたエレボスに、輝夜は駆けた。

 

「もういいな?では斬る。」

 

「やらせませんよ!」

 

剣と剣が火花を散らす。力は男───ヴィトーに軍配が上がるが、所詮それだけ。一合かわせばわかる。技も、駆け引きもこちらが上。

 

時間稼ぎなどさせない、速攻で決着をつける。

 

忌々しい自身の絶技の弾丸を装填する。

 

「【禍つ彼岸の花─────】」

 

「これはッ!?」

 

ヴィトーの周囲に展開される、5つの紅蓮の刃。それは断頭台が如く、輝夜の介錯を待っていた。

 

激突の瞬間、最も防御が手薄になる一瞬。それこそが、輝夜の勝機。

 

「【ゴコウ】───────抜刀ッ!!」

 

ギロチンの紐を切り飛ばし、刑を執行する。

 

頭頂、首、胴、脇腹、踵骨腱

 

一振でも喰らえば再起不能となる位置に、全方位から刃が襲いかかる。

 

輝夜の必殺、『魔』と『刀』の複合抜刀術。

 

磨かれた研鑽は着実に積み上がり、確実に対象の命を奪う。

 

オラリオに来て、アストレア・ファミリアに入って、人を手に掛けることはベルが来る数年前からほぼ無くなっていた。けれど、今再び敵の命に手を掛ける。

 

(ひとりには、しない。少なくとも、私は同じだとあの子の前に立っていなければいけない!)

 

敵を、人を殺した。あれだけの数を、あれ以上の数を。あの子が耐えられるだろうか?耐えられないかもしれない。だから、せめて自分だけはお前と同じだと、抱き締めてやらねばならなかった。

 

清廉に過ぎるアストレア・ファミリアで、ベルは誰よりも早く殺す選択を取った。

 

怒りもあっただろう。憎しみもあっただろう。けれど、怒りと憎悪に任せた刃であったなら、まず初めにヴァレッタに斬りかかっていたはずだ。初めに既に捕らえていた闇派閥を殺そうとなどはしない。あの子はジャフの死に呆ける自分達を守る為に、敵を斬った。斬らせてしまった。

 

誰よりもあの子と一緒にいた自分が、あの子と同じ土俵に立たずにどうするというのだ。

 

明確な殺意を持って振り下ろされた刃は、しかし唐突に吹き荒ぶ静寂に掻き消された。

 

「【魂の平静(アタラクシア)】─────【福音(ゴスペル)】」

 

「なっ!?がァッ!?」

 

刃が割れ、強制的に消え失せた。直後、全身が巨大な拳によって殴りつけられたような衝撃が走り、全身から血を流しながら吹き飛ぶ。

 

「……生きているか。しぶといと取るか、私の落ち度ととるか…」

 

カツ、カツとヒールで石畳をたたきながら、女王は不遜な態度で輝夜を見下ろした。

 

「……っ、ぐ…ぁ、るふぃあ…!」

 

「なるほど。咄嗟に後方に跳んで威力を減らしたか。しぶとい、と評価を改めてやる。」

 

血だらけのまま、アルフィアを睨みつける輝夜に、だが、と無慈悲に手を翳した。

 

「やはり、アイツら以外は有象無象か。」

 

再び迫る暴力の塊に、朦朧とした意識のまま、後悔を零した。

 

「……すま、な……べ、る─────」

 

視界が暗転する寸前。輝夜は、温かい何かに包まれた気がした。




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