敵の女幹部とドンパチしてたら息子が出来た   作:イベリ

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本当にこの話が書きたかっただけなんだよなぁ……ちょっと長くなった。


英雄の舞を知ってるか?

その日、女は1人様変わりしたこの都市を眺めたくなった。

 

数日後に災禍に襲われるのだと思えば、胸が痛む事は無いが、感慨深いものはある。加えてひとつ、気になった事があった。

 

「アスラ様か?良い方だよなぁ!よく声もかけてくれるし、子供達と遊んでもくれるしよ!」

 

「アスラ様は明るい性格もそうだけど、あのワイルドなお顔も素敵よね!私なんてお姫様抱っこされた事もあるのよ!」

 

「俺たちはずっと戦えねぇと思ってたんだけどよ!王様のおかげで、俺達も戦えるんだ!まっ、踊ってるだけなんだけどな!」

 

だいぶ離れていたこの街が、気がつけば音楽と踊りの街に様変わりしていた。

 

ローブを深く被った女は、思っていた程この都市が暗鬱としていないことに、少し驚いていた。

 

そこかしこで市民が音楽を奏で、思い思いに踊って、笑っている。

 

過去、この街にいた頃にはなかった光景だ。

 

そして、その変えた張本人と思われる男の名を聞けば、市民は老若男女関係なく!たちまち笑顔になって、嬉しそうにあの男の事を話した。

 

「カリスマ、名声……共に申し分無し、か。私の知っている人間にはいないタイプだ。」

 

弱者はあまねく守る。ではなく、弱者すら巻き込み強くなる。なるほど、民衆の王とはよく言ったものだ。

 

「……アスラ・マハトマン・アビマニー。たった5年でLv6…Lv4であの阿婆擦れ共を単独で捻り潰しただけはある、か。」

 

いつなんどきも笑顔を絶やさず、その周りにも笑顔が絶えない。どこかの英雄を想起させる男の行動は、女に捨てたはずのものを思い出させる位には、希望を持てた。

 

縁も出来た。幸い、奴も自分も本気ではなかったが、敗北を予感させる程度には強い。

 

あのウルミでの一撃は、油断していれば視認すら出来ないだろう。足手まといがいなければ、いい勝負ができる程度には強い。

 

そう考えながら、勧められた独特な香りの紅茶に顔を顰めていると、目の前の席に何も言わずに人が座った。

 

「───────よぉ、奇遇だな。」

 

その人物は、まるで逢瀬(デート)に遅れた片割れのような態度で、手をヒラヒラと振った。

 

最後に見た、変わらぬ威勢の良い笑顔のまま、目の前に座ったアスラに、女は辟易しながらため息を吐き出す。

 

「……何も言わず座るか、普通。」

 

「どうせ、断るだろ?あっ、俺もチャイを頼む!あと、こいつの会計、俺につけてくれ!」

 

当たり前のように居座る男に、やはりこいつは苦手なタイプだとため息を吐き出して、口につけようとしたカップをカチャリと置いた。

 

「何の用だ。」

 

「別に?強いて言うなら、俺の事を聞いて回ってる女がいるって聞いてな。誰かと思えば、お前だったわけよ。」

 

出されたチャイを啜りながら笑ったアスラは、んで、と口を開く。

 

「どうだ、この街は?」

 

「……どう、とは?」

 

「そりゃ、お前がいた頃と比べてって意味さ───────【静寂】のアルフィア。」

 

ピクリと肩を揺らした女────アルフィアは、予期せぬ男の低い声を聞いて、閉じていた瞼を気怠げに持ち上げた。

 

もう必要ない、と言わんばかりに目深にかぶったフードを脱いで、その全貌を顕にする。

 

癖のない珍しい灰髪に、整った目鼻立ち。凛とした佇まいは、美醜にあまり頓着がないアスラですらも、少し見蕩れるほどの美貌だった。

 

いい女だ!と笑ったアスラを睨み、アルフィアは気怠そうに口を開く。

 

「……いつからだ。」

 

「あの日の後にな。まさか無名な筈がねぇと調べたら、とんだ大物が出てきやがった。」

 

過去、オラリオに栄華を齎した最強の2大派閥の片割れ、両派閥においても、【才能の権化】、【才禍の怪物】などと呼ばれ、10代でLv7へと至った怪物。それが、【静寂】を冠する、アルフィアという女の正体だった。

 

「再戦は…この場を希望か?」

 

チャイを口に含んだアスラは、まさか、と降参の形で手を振った。

 

「こんな笑顔が溢れる場所を戦場に変えたくはねぇ。やる気もねぇくせに、よく言うぜ。」

 

「……」

 

やる気がない事はとうに見抜かれていたらしく、アルフィアは殺気を消して、アスラに習うようにチャイを口に含んだ。

 

「どうだ?俺の故郷の味だ!癖は強いが、なかなかイけるだろ?マスターに無理言って再現してもらったんだ。」

 

「……名前だけは気に食わんな。しかし、頼まぬ人間はいないと勧められてはな。風味は独特だが、確かに美味い。」

 

「ハハハッ!『アビマニー』は、俺もちょっと恥ずかしいが、それだけ俺が慕われてるって事だ!」

 

子供のように無邪気に笑った男を通して、全く似ていない笑顔を思い出してしまった。

 

捨てたはずの思い出を、存外捨てきれていない自分に嫌気がさしたアルフィアは、顔を顰めた。

 

「………っ…」

 

「ん、どうした?」

 

「………気にするな。お前には関係ない。」

 

ふーん、と間延びした返事を最後に数秒の沈黙。思い出したかのように、アルフィアが口を開く。

 

「………私たちが居た頃とは、確かに違う。」

 

「あ?」

 

「貴様が問うたのだろう。今の街はどうかと。」

 

「おお!そうだったな!んで、どう違うんだ?」

 

「私たちの時代も、人々は笑っていたさ。だが、これ程希望に満ちているものでは無かった。」

 

そう、アルフィアはオラリオの最盛期。ゼウスとヘラか台頭していた時代の、その最先端を走っていた冒険者だ。

 

才禍の怪物などと言う呼び名まで付けられ、彼女を超える人間はそう多くなかった。

 

そして、その先を走る人間だったからこそ、断言ができた。

 

これ程民に慕われる冒険者は、あの時代ですら存在はしなかっただろう。

 

まぁ、やっていたことを考えれば、あの2大派閥が慕われることなぞ強さくらいだったのだが。

 

「ほーん、そんなもんか?」

 

「闇派閥が跋扈する現状で、ここまで朗らかに過ごせているのは、貴様という支柱があるお陰だろう。お前は、多くの人間の心の支えとなっている。」

 

「おぉ!随分褒めてくれるじゃねぇの!」

 

「事実を言った迄だ。」

 

なんでもないというように、気まぐれに目を開けていたアルフィアは、ある事に気がつく。

 

それは、アスラの所作だ。目の前の男の所作に一瞬の驚きの後、目を細めた。

 

一見粗野に見えて、隠しきれない品性が所々にみてとれる。無意識かどうかはさておき、庶民産まれのそれでは無い。

 

そして、その所作にアルフィアは覚えがあった。ある国の上流階級のテーブルマナー。オラリオの1部で、一時期流行ったのを覚えている。

 

意図的に粗暴に見えるようにしている、と言う印象を受けたアルフィアは、何の気なしに口を開く。

 

「貴様、貴族の生まれか。」

 

その言葉聞いたアスラは、ビタっ、と動きを止めて目を見開いた。

 

「─────マジか、そこまでわかるのか?」

 

「飲み終わった後の所作…天竺(インダス)のテーブルマナーだろう。こちらでも流行った時期があった。」

 

「すっげぇな!強さだけじゃなくて、色んなことも知ってるのか!もう無くなったのに俺の国の名前まで知ってるとはなぁ!」

 

無邪気に笑って驚くアスラの言葉に、今度はアルフィアが動きを止めた。

 

「……俺の国?……待て、確かあの国は、第1王子が当代の王を……まさか、お前が?」

 

大河の国、インダス。十数年前に存在した、オラリオに次ぐ武力大国。オラリオ外では異常な程に高レベルの兵士を複数保有していた。しかし、その国は既に王子の手によって国王が討たれ滅んでいる。

 

「……ハハッ、本当によく知ってるもんだ!」

 

なんでもないように、正解だと笑ったアスラは、少しだけ視線を落とした後、すぐに先程と同じように無邪気な子供のような表情(カオ)をした。

 

「まさか、神血を宿すと言われる王族(ラージャ)にお目にかかれるとは……気まぐれに外へ出て見るものだ。」

 

「おいおい、知りすぎだろ?最高機密だったんだが?」

 

「そんなもの、オラリオには筒抜けだ。特にあの時代はな。」

 

昔のオラリオやべーな!と驚くアスラを他所に、アルフィアは興味無さげに立ち上がる。

 

「……馳走になった。次に会う時は敵だ。」

 

さっさと去ろうとするアルフィアに、アスラは待て待て!と回り込む。

 

「お前、こっちに来てまだ1回も見た事ないだろ?」

 

「……何の話だ?」

 

「もちろん!俺たちの踊りさ!」

 

何を言い出すんだこの男は、と呆れ顔を隠しもしないアルフィアは、どこかぶっ飛んでるこの男の相手をまともにするだけ無駄なのかもしれないと、諦めの境地に入った。

 

「………ないな。」

 

「じゃあ決まりだ!───────民よ!聞いてくれ!」

 

アスラの号令に、なんだなんだ?と声の方向を見た市民は、皆それぞれの反応を示す。

 

「アスラ様?」

 

「アスラさまだ!」

 

「今度はなんだ〜!王様〜!」

 

「ここにいる俺の客が、なんと俺たちの踊りを見たことがないんだとよ!」

 

その言葉に民衆は、勿体ない!や、見せてやりてぇなぁ!と威勢よく応えた。

 

「よぉし!よく言った!なら見せてやろうぜ!店主!」

 

「あいよアスラ様!」

 

「ドラマー!」

 

「ほらよ王様!」

 

「俺たちの楽器は瓦礫でも、木材でも、空箱でも!こんなお盆だっていいんだ!」

 

投げられた銀製の盆を受け取ったアスラは、ドラムにセット、バチを受け取り、思うままにリズムを刻む。

 

そのリズムに、既に民は体を揺らし、アレか!と皆で顔を見合せた。

 

そんな民に笑顔を向け、アスラは拳を天に掲げ叫んだ。

 

「さぁ、さぁっ、さぁッ!準備はいいなお前ら!」

 

『おおおおおお────!』

 

民衆の雄叫びを聞いてから、バッ!とその場から飛び上がったアスラは、アルフィアの目の前に着地。

 

ドンドドンドドン!と鳴り響くドラムの音が胸を叩く。聞きなれないリズムは、アルフィアに不思議な高揚感を覚えさせる。

 

「このリズム……サルサやフラメンコでは無いな。」

 

「そうさ!サルサやフラメンコでもない───────英雄の舞(ナートゥ)を、知ってるか?」

 

「ナートゥ…なんだ、それは?」

 

アルフィアの言葉に、ニッ!と威勢よく笑ったアスラと民衆は、顔を見合せ踊り歌を紡ぐ。

 

「ナートゥは母神に捧ぐ渾身の歌!」

 

『俺たちサンダル履き(民衆)の大立ち回り!』

 

『土煙を上げて猛進する雄牛の踊り!』

 

独特な*1タッティングと、暴れるようなステップで踊る民衆とアスラのエネルギーに、アルフィアが一瞬とはいえ圧倒される。

 

どこからともなく流れる音楽と、民衆が瓦礫や空き箱などで奏でるオーケストラは、品格や技術はともかくとして、心から楽しんでいるとわかる。

 

オラリオ市民(俺たち)の好物はッ?!」

 

『唐辛子入りの雑穀パン!!』

 

50はくだらない民衆が、同時に歌い踊る迫力は、いつか見た歌劇の国の劇など比にならない。

 

言うなれば、圧倒的なエネルギーがそのまま押し寄せてくるような感覚だ。

 

「さぁ刮目しろ!」

 

『この歌を!』

 

「この踊りを!」

 

その場で踊る全員が笑顔を振りまき、激しい踊りに汗を散らす。ピッタリと揃ったステップは昇華された絵画のようだと思った。

 

その瞬間、ダンサー達が音楽とともに弾けた。

 

ナートゥ(నాటు నాటు)ナートゥ(నాటు నాటు)ナートゥ(నాటు నాటు)ナートゥは英雄の歌(వీర నాటు)!』

 

ナートゥ(నాటు నాటు)ナートゥ(నాటు నాటు)ナートゥ(నాటు నాటు)激しい故郷のダンス(నాటు ఊర నాటు)!」

 

ナートゥ(నాటు)ナートゥ(నాటు)ナートゥ(నాటు)刺激強めな(పచ్చి మిరపలాగ)ナイルの歌(పిచ్చ నాటు)!』

 

ナートゥ(నాటు)ナートゥ(నాటు)ナートゥ(నాటు)切れ味鋭い(విచ్చు కత్తిలాగ)野生のダンス(వెర్రి నాటు)!」

 

盛り上がりが最高潮に達したその場は、まさに人の坩堝。

 

年齢も、性別も、種族なんて垣根も超えて。エルフとドワーフが、小人族と猫人が、手を取り肩を組み、足並みを揃え、これまた独特なステップで大地を踏み締める。

 

誰もが笑い、一心不乱に踊る姿は、アルフィアに知らぬ感情を芽生えさせた。

 

あぁ、これはきっと───────

 

しかし、そんな喧騒に横槍を刺す無粋な奴らは、空気なんて読みやしないのだ。

 

「っ!おっとぉ!!」

 

迫る爆炎と雷轟をナーガで斬り伏せ、好戦的に笑う。しかし、爆ぜる音に市民は踊りを止めてその方向を見た。

 

そこには、まるでお約束と言わんばかりに白いローブの集団が溢れていた。

 

「闇派閥だ!?」

 

「愚鈍な市民!そして【舞闘灰炎(ダンス・マカブル)】!楽しそうじゃないか、我々も混ぜてくれ!」

 

「ハッハッハッ!ほんとに踊るってなら混ぜてやるよ!」

 

「抜かせ!ここで第1級を仕留めるぞ!」

 

一斉にアスラに殺到する闇派閥に、アスラは二ッ!と笑う。

 

「効かぁぁぁぁん!!!」

 

『どあああああああッ!?』

 

覆いかぶさった20はくだらない敵を吹き飛ばし、爽快に笑い飛ばす。

 

「足りねぇなぁ!この状態の俺達(・・)を殺してぇなら、第1級を5枚は持って来るんだな!!」

 

まぁ、無駄だがなぁ!と笑ったアスラは、怯える市民達に背を向けて叫ぶ。

 

「怯えるな我が民よ!何故って!?お前たちの前には、最強無敵の【民衆の王()】がいる!」

 

両の腕に炎を纏い飛び出したアスラに、民は鳴り止まぬ音楽に体を揺らす。

 

「……そうだ!王様が戦ってんだ!」

 

「俺達も戦わないと!」

 

「踊れ!この音楽が鳴り止まない限り!」

 

戦いの音色は波及し、民に戦意を、希望に満ちた笑顔を取り戻させる。

 

『踊れぇぇ───────っ!』

 

嗚呼、なるほど。と、アルフィアは漸くアスラという男を理解した。

 

目の前のあの男が、どれ程の影響を他者に与えるのか。

 

冒険者の資質も、確かにあるだろう。

 

戦士としても、憲兵としても特級。

 

しかし、その全てを置き去りにするほどの、圧倒的な王の資質。

 

人々を惹き付けるカリスマ。たったの数秒で力無きものに笑顔を取り戻し、すぐさま戦意すらも取り戻した。

 

あれこそ、自分達が求めたものなのではないかと、アルフィアは思ってしまった。

 

「そぉらっ!極東で習った人間シュリケンだ!」

 

「ぎゃああああっ!?止めてくれぇぇぇ!?」

 

「こっちに飛んでくるな!?うぎゃあああああッ!?」

 

「次は人間ヌンチャク!」

 

「ああああああ!!?世界がまわるぅぅぅぅ!?」

 

頭を鷲掴みぶん投げ、足首を持って振り回したりと、戦う様は滅茶苦茶でハチャメチャだが、踊り戦う様には、どこか神秘的な美しさがあった。

 

「くっ…!やつの力の源は民衆だ!民衆を殺せ!魔剣を連射しろ!!守るものを攻撃しろ!」

 

「あっ、やべぇッ!?

 

 

 

 

 

───────な〜んてなぁ?」

 

連射される魔剣の一撃が、アスラの防御をすり抜け、民に迫る。

 

当然、現オラリオ最強を自負するアスラが、こんな攻撃を見逃すわけがない。

 

それは、民が一番よくわかっている。

 

だから、これは王からの試練なのだと、誰もが理解した。恐怖に打ち勝ち、この王の隣で踊る(戦う)覚悟があるのか。そう問われているのだと。

 

『───────っ!!』

 

故に、誰一人としてその場から逃げなかった。

 

その瞳に宿る力は本物だ。誰もが踊り続け、炎に焼かれようと、雷が体を貫こうとも、自分たちが信じた王と共に戦う為に。

 

その覚悟を、その輝くような魂の旋律を、ここで止めたくはなかった。

 

 

 

 

「【魂の平穏(アタラクシア)】」

 

 

 

 

突如目の前で消え去った爆炎。民衆がそれを成したであろう女を見れば、彼女は一瞬、柔く微笑んでから闇派閥を冷酷に眺めた。

 

「つくづく邪魔な雑音共だ。」

 

「あ、あんた……」

 

「……借りなどと思うな。ただ、私がこの旋律を止めたくなかっただけだ。」

 

そう呟いたアルフィアに、民衆は顔を見合せ笑う。それを視界の端で見ていたアスラも、豪快に笑った。

 

「アッハッハッハッ!!信じてたぜアルフィア!!」

 

「………敵を信じてどうする。そら、さっさと片付けて続きを踊れ。」

 

「まぁ待てよ、今は間奏だ!またすぐ始まる!」

 

拳を固く握ったアスラは、右腕を前に突き出し、炎を滾らせる。

 

「久々に使うか!振るのは…俊敏でいいな。」

 

スキル【気功(ヨーガ)】を使用し、前回の俊敏の潜在値を加算。

 

Lv5時の俊敏ステイタスはS、それがLv6のステイタスに加算されれば、結果は目に見えている。

 

淡く輝くアスラは、ググっと深く膝を沈ませ力を溜め、一気に爆発。

 

その爆発力と速度に、アルフィアは何度目かの驚きを見せた。

 

(速い!Lv6と聞いていたが……これ程の男が、今のオラリオには存在するのか!)

 

アルフィアがステイタス、才能と総合的に勝ってはいても、速度という一点においては、追いつかれている(・・・・・・・・)だろう。

 

稲妻のような速度をもって炎の縄で闇派閥をすれ違いざまに縛り上げ、1箇所に玉のように纏める。

 

「くっ…!【舞闘灰炎(ダンス・マカブル)】っ……!」

 

「ハッハッハッ!ざまぁ見ろ!そんでもって…!」

 

炎の縄に繋がれた闇派閥の塊を引っ掴んだ、酷く上機嫌に笑うアスラを見て、信者たちは最悪を想像した。

 

「ウチのホームは……この方角だな!」

 

「お、おい……まさか…!?」

 

「そのまさか!そぉら、飛んでけぇッ!!」

 

『ちょっ、待て待て待て待っ───────どわああああぁぁぁぁぁッ!!!??』

 

砲丸投げのように力にものを言わせて、目標であるガネーシャ・ファミリアのホーム前までぶん投げる。

 

大きく拳を掲げたアスラは、勝利を宣言すると共に、民を讃える。

 

「民よ!闇はこのアスラが打ち倒した!そして、よく逃げずに戦った!」

 

「素敵よ〜!アスラ様〜!!」

 

「闇派閥なんざ怖かねぇぞ!!」

 

「俺たちにはアスラ様がいる!」

 

「我等が王!アスラ!!」

 

その民の声に、誰もが拳を天高く掲げた。

 

『【踊る戦王(ナターラージャ)】!【踊る戦王(ナターラージャ)】!!』

 

民の喝采に、うんうんと頷いたアスラはアルフィアの前に踊り出る。

 

鳴り止まぬ民の旋律は、間奏から徐々にボルテージを上げていく。どうやら、また始まるらしい。

 

「さぁ、お待ちかねだ!間奏はおしまい!」

 

「そうか、ならば続きを───────」

 

態度と勢いに比例せず、思わぬ優しさで握られた手を、グイと引っ張られた。

 

「なーに言ってんだ!お前も一緒に踊るんだよ!」

 

「は?待て、私は踊りなど……!」

 

「大丈〜夫!俺が教える!何より、ダンスは魂で踊るもんだ!思うままに体を揺らし、思うままに回るんだ!」

 

「だが、私は……!」

 

敵だ、と放った言葉を無視するように、本当に無邪気で、邪な感情も、打算なんかこれっぽっちも見せない飛び切りの笑顔で、アスラは笑った。

 

 

 

 

 

 

 

「関係あるか!!踊ろう、アルフィアッ!!」

 

「────────────…っ!」

 

 

 

 

 

 

 

なんて、滅茶苦茶なやつなんだと、そう思った。けれど、アルフィアにとってこんな男は初めてだった。

 

明確な敵であるというのに、彼はそんなものは関係ないと、アルフィアの手を優しく引き、円形の即席舞台を作る民の中心に引っ張り出した。

 

「いいかアルフィア!ここからのダンスはちょー簡単!足を前、後ろ!前、後ろ!前、後ろ、前、後ろ!そらそらもっと早く!」

 

「こ、こうかっ…?」

 

「ハハッ!そうだそうだ!上手い上手い!!」

 

流石だ!と両の手でグー!と指を立てたアスラは、更に民を焚きつける。

 

「いいか!血が騒ぎ滾る(ラーマ)のダンスはここからだ!!」

 

踊れ(నాటు)踊れ(నాటు)踊れ(నాటు)!』

 

「大地を揺らせ!飛び切りの跳躍を見せてみろ!!」

 

舞え(నాటు)舞え(నాటు)舞え(నాటు)!』

 

本当に地が揺れていると錯覚してしまう程の民の跳躍に、アルフィアも釣られるようにステップの速度を上げる。

 

心を打ち震わせるドラムと空箱の間抜けな音と共に、アスラの声が導くように爆発する。

 

「踊れぇぇぇッ!!!!」

 

アスラの叫びに触発され、誰もが誰よりも長く踊ってやると息巻いて、脚を力の限り振り乱す。

 

数分間、数十人でこんなにも激しく踊っていれば、徐々に体力が尽きて、ヤジを飛ばす民衆も増えていく。

 

そんな中、ただ二人だけが残った。

 

「おいおい、そんなもんか!?【才能の権化】も大したことねぇな!!」

 

「言ってくれる……舐めるな…!」

 

挑発に流され、アルフィアは独自のアレンジを加えた、より激しいフラメンコのような踊りでヒールを強く鳴らし、クルリと回って黒いドレスを揺らした。

 

その踊りに、既に脱落した民衆はおお〜!とどよめいた。

 

「おいおい!初めてじゃねぇのか!?」

 

「お前の踊りを模倣し、記憶にあるダンスと混ぜてアレンジを加えただけだ。それくらいならば造作もない。」

 

「かぁ〜!!ったく、流石だ!!」

 

「どうした王様!初めての姉ちゃんに負けちまうぞ〜!!」

 

「だぁ〜れに言ってやがる!それこそ舐めんじゃねぇ!」

 

負けじと模倣され、アルフィアの踊りとなったそれを模倣返し。アルフィアが踊るその先の振り付けまでを予測し、全く同じダンスを対面で踊る。

 

「お前…!」

 

「ハッハッハッ!ダンスにおいてこの俺が負ける訳には行かねぇんでな!」

 

無邪気に笑ったその顔に、アルフィアも完全に毒気を抜かれ───────遂には破顔した。

 

「ふふっ、はははっ…!面白い……ついて、来れるな?」

 

悪戯っぽく微笑んだアルフィアに、アスラは一瞬硬直した後、同じように笑った。

 

「だぁ〜れに言ってると思ってやがる!!」

 

笑い合った二人は、次の瞬間には手を取り、これまでとは違う、ペアのダンスを魅せる。

 

再びどよめいた民衆達を無視して、アルフィアとアスラは音楽が鳴り止むまで、ひたすらに踊る。

 

まるで二人だけにスポットライトが当たっているように、その場だけが隔絶されたような雰囲気を放っていた。周りで見ていた民衆は、指笛や手拍子で音頭をとって、二人のダンスに魅了される。

 

足の運び、重心移動の癖。全てを互いが把握し、1つの生き物のように踊る。

 

(───────そうか、これが……)

 

アスラが踏み出せば、アルフィアが身を任せ後退。アルフィアが前傾に倒れれば、アスラがそれを支え、反動で立ち上がらせる。

 

アルフィアを手で支えくるりと回せば、アルフィアはそのまま数回転し、再びアスラの手を取って軽やかな踊りに繋げる。

 

二人の額には爽やかな汗が流れ、その表情は真剣そのものではあったが、心からこの時間を楽しんでいるのだとわかった。

 

(嗚呼……終わりか。)

 

音楽の終わりと共に、アルフィアは背後に全体重を掛け、倒れ込む。それをアスラが支えるポーズをもって、この踊りを締めくくった。

 

二人の距離が一層間近に迫り、互いの吐息がかかる。先程の余韻も合わさり、体温すらも共有しているのではないかと錯覚してしまった。

 

そうしてその場には、数秒の静寂の後、割れるような喝采が響いた。

 

民衆の威勢のいいガヤに、アスラは笑顔で手を振ってはしゃぐ。

 

「どうだ、アルフィア!楽しかったろ!」

 

「……そこそこには、な?」

 

「ハハハハッ!言うじゃねぇか!」

 

そうして、アルフィアをジッと眺めたアスラは、やっぱりよぉ、と口を開く。

 

「お前笑ってた方がいいぜ?その方がずっと綺麗じゃねぇか!」

 

「───────」

 

アルフィアの頬を両の人差し指で釣り上げ、笑顔を作って見せてから、子供のように笑う。

 

考え無しのその発言に、アルフィアを含め、民衆すらも声を失ったように黙った。

 

普段、特に恥ずかしげもなく言葉を口にするが、特定の誰かにこうして綺麗だと言ったことなど、民衆は一度も聞いた事がなかった。

 

その事実に黄色い歓声が巻き上がる寸前。

 

アスラがアルフィアのデコピンで数メートル吹き飛ぶ。

 

「───────イッてぇぇぇぇ!!!?何しやがんだこの暴力女!!?頭吹っ飛んだらどうすんだ!?」

 

「易々と女に軟派な言葉をかけるものではないと、小僧に教えてやらねばと使命感に駆られてな。」

 

「おまっ、歳ほとんど変わんねぇだろ!?」

 

「何を言う、私は24だ。対してお前はまだ二十歳だろう?」

 

「4年は誤差だ馬鹿が!!」

 

ギャーギャーと騒ぐ様に、民は王様振られた〜!と笑え。

 

「振られてねぇよ!!まずその前も無ぇんだが!?」

 

「今度からは気をつけるんだな。」

 

事実を言っただけだろ?と拗ねたアスラは、少しだけ真剣な顔をして、口を開く。

 

「ったく……なぁ、お前───────」

 

「無理さ、お前の願う事は起こり得ない。」

 

アスラの言葉を遮るように、アルフィアは凛とした佇まいで口を開く。

 

「そりゃまた…何でだよ。」

 

「あまりにも大きなものを捨ててしまった。戻る事は……できん。」

 

郷愁、というのだろうか。どこか寂しさと愛おしさを纏うアルフィアは、もうどこにも戻れないと、目を閉じた。

 

しかし、そんなことでこの男を止められるはずがない。

 

「捨てただけか?」

 

「……なに?」

 

「捨てただけなんだな?失ってねぇんだな?」

 

「…あ、あぁ…」

 

そうアルフィアが気圧されるように呟けば、アスラはなーんだ!と今までのように笑って、アルフィアの前で両の腕を大きく広げた。

 

「失ってねぇなら、拾えるじゃねぇか!」

 

「……っ!」

 

「なら一緒に拾いに行こうぜ!お前根暗そうだし、ウジウジしてひとりじゃ行けねぇだろ!」

 

図星を突かれたアルフィアは、数秒沈黙してから口を開く。

 

「……余計な世話だ。」

 

「いいや知るもんか!俺は決めたぞ!お前の大切なものを拾いに行こう!」

 

「……なぜ、そこまで関わる。なぜそこまで私に拘る?お前にとって、私は敵の一人だ。」

 

「あぁ、そうだな!お前は敵だよ、今はな(・・・)!」

 

「……まさか……この先、お前と私が手を取り合うと?馬鹿馬鹿しい…妄想も大概にしておけ。」

 

吐き捨てる様に言葉を投げても、アスラは一向に意見を曲げなかった。

 

「いいやできる!俺達とお前は、分かり合えるさ!」

 

「……何を根拠に…」

 

「お前の目には、秘めていようと、穏やかで確かな愛がある。そんなやつが、悪ぃやつな筈がねぇ!」

 

「───────!」

 

閉じていた目を見開いたアルフィアに、アスラはいつかのように、手を差し伸べた。

 

「罪悪感も贖罪も、お前の罪も!お前が一人で背負えねぇもん全部俺が背負ってやる!人は、そうして誰かに支えられて生きて行くんだ!」

 

それが、当たり前のように笑ったアスラに、呆気に取られたアルフィアは、久しぶりに心から笑えた気がした。

 

「……ふふっ、あははははっ、ハハハハハハッ…!お前っ、正気か…!」

 

「正気も正気だ!俺は嘘だけはつかねぇ!」

 

嗚呼、分かるとも。その言葉に、嘘は一欠片もない。事実、この男はこうして人を惹きつけてきたのだろうと、理解できた。

 

「…そうだな、万が一……私が負けたのなら、お前の言う通りに、捨てた物を拾いに行くとしよう。例え、どれだけ惨めでもな。」

 

「おっ!言ったな!?忘れんなよ!」

 

「─────あぁ…忘れないとも。」

 

生まれて初めて、自分を救おうとした男に微笑みながら、アルフィアは踵を返す。

 

もう言葉はいらないだろう。

 

背後に沸く歓声を聴きながら、アルフィアはゆっくりとその場を去った。

 

『あああああッ!?派閥会議忘れてた!?』

 

背後から聞こえた馬鹿の叫びを無視して。

*1
腕全体を使う振り付け




路地裏に入り込んだアルフィアは、趣味が悪いな、と心底嫌そうに呟いた。

「───────そう怒るなよ。随分楽しそうだったじゃないか?アルフィア。」

闇より現れた男は、揶揄うようにアルフィアに声をかけた。

「否定はしない。あの一時は……確かに、心が踊る時間だった。」

「………いや、マジか。お前がそんなこと言うとは思わなかったわ。」

心底驚いたのか、男はくつくつと笑いながら、未だ慌てるアスラを眺めた。

「……ハハッ、まじでそっくりだな。遠目で見た時、マジで見間違えてぶるったわ。」

「……そんなに似ているのか?」

身震いする男に問いかければ、あぁ、と短くすました。

「腕は4本じゃないし、肌も青くないが、顔は似てるなんてレベルじゃない。ありゃ化身(アヴァターラ)……しかも、ありゃ造られてんなぁ……業が深い事この上ないなぁ…子供たちよ。所謂亜神(デミ・ゴッド)ってやつだな。」

「……人工的に神を作り出そうとしたと?可能なのか。」

「普通なら無理…と言いたい所だが、外法は無くはない。今ああして心から笑ってんの、奇跡だぜ?」

そうか、と興味なさげに呟けば、男は意外そうに返した。

「冷てぇ〜…そんな興味無さそうにしてやんなよ。拗ねるぜ、あいつ。」

「興味が無い訳では無い。ただ、何であろうと奴が奴である事は変わらんさ。」

へぇ、とこれまた興味深そうに笑った男は、茶化すようにアルフィアを眺めた。

「………惚れたか?」

「死にたいか?」

「勘弁してくれ。」

降参だ、と両腕を上げて逃げるように去った男を眺め、アルフィアはあの騒がしく、けれど心地いい旋律()を反復していた。

「嗚呼……そうか、私は願ってしまっているのか。奴が、私達の求める英雄である事を。」

願わくば、あの男が英雄たらん事を。

優しく微笑んだアルフィアは、まだ体に残る熱を冷ます為に、城壁へと向かった。

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