「すいませんが、ナンパはお断りしております」
「いや、スカウトなんだが……」
「失礼します」
ライスが珍しく敬語を使い、目の前のおじさんに頭を下げて離れる。
胸にトレーナーバッジを輝かせるその人は結構有名なトレーナーさんだったと思うんだけど……
声をかけられても取り付く島もない様子である。
「お話くらい聞かないんですか?」
「興味ないよ。というかラプンツェルのほうがチーム決めてよ。そこに入るから」
「でも良いトレーナーさんかもしれないですよ」
「だってラプンツェルと同じチームがいいし」
そういわれてしまうとボクも強く言えないのだが……
あまり走るのが好きでも得意でもないボクはサポーター希望である。そしてサポーターを募集しているチームというのはそう多くはない。
なのでボクが入るチームにライスも入ろうとしているのだ。とはいえスカウトをナンパというのもどうかと思うが。
「そういえば、ボクたちの最初の出会いの時はライスがボクをナンパしていましたね」
「いや、ナンパじゃないけど」
「ナンパされましたよ。一緒に暮らそうって言われましたもの。情熱的に」
「普通に言っただけだって」
両親が亡くなって何もわからず呆然としていた幼いボクに、颯爽と現れて一緒に来るようにといったのがライスだった。
あの時のことは今でも鮮明に思い出せる。
凄く泣いたときも、笑えるようになるまでずっと一緒にいてくれたのもライスである。
だから、ボクは……
「やっぱりナンパでしたよ。もう、ボクはライスなしで生きていけない体にされてしまいましたし」
「いいかたぁ……」
「まぎれもない事実です」
毎日の世話を焼くのも、すべてライスと一緒にいるため。
ずっと一緒にいるための何か理由が欲しかっただけ。
義理の妹、というだけでは全く不足だと思ったから。
「なので、いい感じなトレーナーさんも逆ナンしに行きましょう」
「えー、こっちから?」
「一緒に行って、二人で選びましょう」
トレーナーなんてこちらが選ぶのだ、というばかりの提案にライスは笑う。
外見がおとなしそうなので勘違いされがちだが、ライスは結構自分で決めるタイプである。
「そうだね、ライスたちは選ぶ側だ。選ばれしウマ娘だ!」
「そうだそうだ! ということでこちらから逆ナンです!!」
「候補はもう上がってる?」
「サポーターも募集しているチームはピックアップ済みですよ」
「それじゃあ行こう。ライスたちの栄光の道のりへ!!」
二人して意気揚々とトレーナー室のある棟へと向かう。
そこで、過労で落ちていたトレーナーを拾うのは、5分後のことであった。