プロローグ
なにゆえに俺が選ばれたのか?
そう自問自答して止まない半生だった。この世に生まれた意味などわからず、変わり映えのしない日常を打刻していくだけの存在。それが俺だ。
他の人も実際そんなもんなのかもしれないが、俺はとりわけ運命だとかに過敏な質だった。
晴れ渡る空の下で疾駆する大型トラック。
なんの変哲もない日常の光景だ。そのトラックの数十メートルほど先の横断歩道に小学生ほどの女の子が歩いていて、トラックが減速する気配を見せないというところを除けば。
「おいッ!」
声を枯らして俺は叫ぶ。しかし、それが仇となる。
突然の怒声に女の子はピクと震えて辺りを見回す。そして、トラックの姿を見つけてしまって足がすくんでしまった。
トラックは止まらない。ただ、俺が事態を悪くしただけ。なんてこった……!!
「くっ……!!」
俺は無意識に走り出していた。
子供より図体が大きい俺が飛び出せば、さしものトラックの運転手も気づいてブレーキを踏むかもしれないという打算か。はたまた事態を悪化させた自分への罪悪感か。あるいは、日常を超えた何者になれるかと思ったのか。
わからない。考えをまとめる暇すらなかった。
指先が女の子を弾き飛ばして、激痛と共に身体が宙を舞う。
「……いてぇ」
静かに呻く。
目の端に見えた蒼穹はいやに綺麗だった。
…………
…………
…………
目が覚める。
知らない天井に、謎の浮遊感。
どこか意識がふわふわとしている。
ああ、そうか。俺は死んだのか。
自分の生の役割に自覚的だった人間が最後に人を助けて死ぬ。
なら、いい。これなら最後に意味を見つけられたことになる。
一人満足して、俺は再び目を閉じる。
これから目を覚ますことはもう二度とないだろう。……あれ、なかなか意識落ちないな。なにこれ。
「あ、また寝ちゃった。せっかく起きたのにな……」
「仕方ないさ、まだ赤ん坊なんだから」
ん、赤ん坊? え、まさかこれ転生なのん? 謎の浮遊感ってこれ抱かれてるのか……なんか妙な気分。
というかカッコつけて散っておいてコレかー? いやーきついでしょ。よもや神め、この有様を見て笑っているな?
「眠っている君には悪いけど、呼ばせてくれ。伽耶、中山伽耶。産まれてきてくれてありがとう。僕たちの可愛い娘、大事な宝物。僕たちはずっと君に逢いたかったんだ……!」
狸寝入りしつつ動転する俺に対して、父はそう寿ぐ。その様は本当に嬉しそうで、申し訳なくなる。だって純粋な意味ではあなた方の娘とは言い難いんだもん。
かくして、一抹の罪悪感と変えられてしまった性と共に俺の第二の生は始まるのだった。