偽物にしかなれない私は   作:流水麺と豪州侍

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中山非主観記録をさらに伸ばした流水麺です。
座右の銘は『本物のヒロインは出席しなくとも圧を加えてくる』です。
なので、このまま主観回を用意しないまま彼女の存在感を発揮させたいところですねー。

今回は八幡視点9割でお送りします。


第11話 ただ一人、比企谷八幡は知らされずにいる。

 

 宿泊学習後、クラスには「折本が比企谷に告白して振られた」という噂が飛び交う。折本を嵌めようとしていた女子たちはほくそ笑むが、折本にはさほどダメージはなかった。それどころか、やや活発になっていた。

 

「有栖ちゃん、おはよー。ついでに比企谷もおはよー」

 

「おい、なんで噂されてるのに平然と俺に話しかけられるんだ」

 

「あーね。あたし、これからは周りをあんまり気にしないことにした。だってさ、目の前の面白いやつにそれで集中できなかったらウケないじゃん?」

 

「説明になってるようでなってねぇ……」

 

「うーん、比企谷と有栖ちゃんがあたしの推しって感じかな。それに有栖ちゃんが教えてくれたんだよね。あたしがあたしのままでいられる相手と付き合いなさいって。多分、比企谷と有栖ちゃんとはやっていける予感がする。だから、これからもよろしく!」

 

 そう言って折本は嬉々として二階堂に絡みにいく。

 絡まれる二階堂はうへぇと嫌そうな顔をしながら、こちらに視線を向けてくる。瞳がちょっと潤んでいてさすがの顔アドにぐらりと来たが、俺は黙殺した。

 助けねーよ、バーカ。自分で蒔いた種だ。自分でなんとかしやがれ。

 俺が踵を返して自分の席に戻る最中「ひきがやー」と恨めしそうな声が聞こえた。

 ……本当に嫌なら、その場を離れるなりなんかする。そういった果断さがあるのが二階堂だ。それがないということは、つまりそういうことです。

 

(ふ、二階堂。折本の相手は俺の手に余る。あとは若い二人に任せるか……。漢・比企谷八幡はクールに去るぜ……)

 

 ちょっとだけ罹患した厨二を炸裂させつつ、折本にもみくちゃにされる二階堂を尻目に後方仲人面を決め込む俺であった。

 

 *

 

 2学期の終業式後のホームルームにて。

 手持ち無沙汰な俺は、頬杖をつきながらクラスを見回していた。

 クラス全体はやはり浮き足だっている。クリスマスに正月。冬休みの楽しい気配が彼らの軽そうな頭を支配していた。

 

「ねえねえ、有栖ー。初詣どうする?」

 

「ごめんかおり。元旦はあたし家の用事があって出られないや」

 

 楽しい気配に支配されてそうな奴ナンバーワンこと折本かおりも二階堂に絡んで初詣の計画を相談していた。

 はっきり言って折本の押しの強さは異常だ。日に日に押し込まれ、折本が絡んでくることを許容して、ついに名前呼びまで許した二階堂を見るとつくづく思う。

 あんまりにベタベタに折本が二階堂に絡んだため、その余録として俺と絡むことも増えた結果、折本の噂はガセネタだということになり期末試験が終わる頃には終息していた。あまりに力技な解決法に苦笑いを禁じ得ない。

 ともあれ、奴のおかげで俺の日常に平穏が訪れた。……平均的なうるささは増した気がするが。

 折本がいる空間に今はまだ慣れない。

 けれど、二階堂と同じように俺もじきに折本の存在を受け入れるのだろうが、今はまだダメだ。どうしても、折本がいたポジションに中山が重なってしまうのだ。かつてそうあれかしと臨んだから尚更に。

 けれど、それはひどく折本に対して不誠実なことだ。

 あれからの折本は傍目から見ても変わった。

 昔のように誰も彼もに愛想を振り撒くことはなくて、二階堂ばかり構う。以前からの友達と接することはあるが、どこか違う。それは声の張り方だったり、笑い方だったり。意識しないとわからないあくまで自然な範囲でやっていることだが、だからこそよりリアルに二階堂や俺とそれ以外に差異をつけていることがわかる。

 なれば、俺もまた折本を中山の代わりではなくちゃんと一人の人間として見なくては釣り合いが取れないだろう。

 思うところありつつ、折本を観察していると彼女の頭がこちらを向く。するとくしゃっと笑いながら、俺の席へと歩いてきた。

 

「なに? 比企谷。そんなにあたしのことじろじろ見たりして。もしかして振らなきゃ良かったと思ってる?」

 

「ちげえよ。そもそも振り振られにすら至らなかったじゃねえか、あれは。というか、よくそれを擦れるな」

 

「そりゃあ、あたしはウケることに全身全霊だからね。身を切るぐらい安い安い」

 

「そんなとこで安売りするなよ……」

 

 からからと折本は俺を揶揄って笑う。それに悪意は感じられない、親しみがあるからのイジリというべきか。

 そうと分かるぐらいには、俺も折本に馴染み始めていたらしい。

 反面、宿泊学習で一緒に帰ってから以降は中山と行動を共にしていない。

 俺の内面の気まずさは確かにある。けれど、思ったよりも中山からの接触がないのだ。

 少し気になって後からやってきた二階堂に問いかけてみる。

 

「そういえば、二階堂。中山って何か正月に予定とかあったりしたか?」

 

「なんで?」

 

「いや、最近会ってないなと思ってな。お前からも中山の話題を最近聞くことがないし」

 

 磯子の件で断絶した後も中山と二階堂のラインは繋がっていた。俺にも知らないところでの交流もあるだろう。

 だから、多少の望みを懸けて聞いたのだが、二階堂はかぶりを振る。

 

「二階堂にもわからないとなれば、仕方ねえな。あいつにもあいつの事情があるだろうし、諦めるか」

 

 父親の映画の仕事を手伝うために独学で勉強をしたり、演技を学んだりと中山は案外色々やっている。その余録で芸能事務所に籍を置いていると聞いた時はさすがの俺も驚いたが、単純に中山は普通の中学生と比べてはるかに忙しい。

 だから、俺たちとは異なる歩幅で彼女は進んでいくに違いない。

 そうして、望むと望まずに関係なく、俺たちは緩やかに離れていく。さながら、それがあるべき形だというように。

 

 *

 

 季節が変わり、また春が来た。

 いよいよ中学3年生となり、受験の足音が近づいてくる。

 最後の学年ではまた俺と中山、二階堂が揃った。

 

「会ったつもりではいたけど、思っていたより八幡の顔を見てなかったよね、今更だけど久しぶり」

 

「まあな。予定が噛み合わなかったり、お前も映画の撮影で早退したりしてたからなぁ。で、確か今日も昼で早退するんだよな」

 

「うん。女優とかっこつけたところで、私はまだ下っ端だからお偉方のスケジュールに合わせなくちゃいけないんだよね、だるいことにさ」

 

 4月のある日の休み時間に中山と雑談する。

 磯子の件ももう丸一年が過ぎれば時効に近い。そして、中山の芸能人としての活動が増えた結果、中山は完全にクラスのカーストからは外れた。

 今の中山はクラスの誰もが無視できない存在であり、クラスの誰もが干渉できない存在でありながら、クラスの輪に入ることが許されない存在だった。

 高嶺の花も極まってしまえば、孤高になるのだろう。おかげで俺と話してもとやかく言われることはなくなった。……ただ単に早退しすぎて同じクラス感がしないだけとも言うが。

 そのまま時間が過ぎて、中山は昼食の後に早退した。

 だが、俺ははたと気づく。中山の課題のプリントが持ち帰られていないことに。

 

「しょうがねえ。家に届けてやるか……」

 

 どうせ、放課後も暇だ。帰りに中山の家に寄ってプリントを置いて帰ったところでどうってことはない。

 放課後になって、俺は記憶を頼りに気だるげに中山の家に向かって歩いていく。

 だが、目的地に着いた時に俺は目を思わずごしごしと擦っていた。それだけ目を疑う光景が目の前に広がっていた。

 

「いや、マジか……。こんなことある?」

 

 なにせ、見覚えのある門から『中山』の表札が剥がされていて、『借主募集』と書かれたチラシが貼られていたのだから。

 困った俺は二階堂の家に行き、彼女にプリントを託して家に帰る。

 その道中、俺は強烈な違和感に首をもたげていた。

 

 **

 

「行ったよ比企谷。それにしても案外勘は働くよね、比企谷ってさ」

 

 比企谷の応対を終えて、あたしは部屋の中にいる彼女に目配せする。

 映画の撮影を一発で終わらせるや否や彼女はあたしの家に転がり込んできた。それも、今日だけじゃない。今年の正月から今の今まででだいたい3日に1回ぐらいの彼女は頻度でくる。

 まぁ、あたしの家は部屋もお金も余らせてるから何泊してくれても全然いいんだけど、こういう時ばかりは困る。

 

「はい、伽耶ちゃん。課題のプリント」

 

「ごめんね、有栖ちゃん。嘘ばかり吐かせて」

 

「別にいいよ、もう慣れたし」

 

 気まずそうに彼女……中山伽耶がプリントの束を受け取る。

 あたし……二階堂有栖はこの4ヶ月間、彼女と歪な半同棲生活を過ごしていた。

 

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