偽物にしかなれない私は   作:流水麺と豪州侍

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一週間ぶりの流水麺です。今までは何故か隔日投稿ができてましたが、正直アレは自分にとっては異常事態です。これからのペースはだいたい今回ぐらいの感じになるかと思います。
ちなみに、浮かれ八幡視点でお送りします。


第6話 旅行はなんだかんだで計画してる時が一番楽しい

 

 夏休みという名の確変期間が終わり、日常が訪れる。

 クラスの中でひっそりと佇み、たまに二階堂と話を交わす半ぼっちライフが帰ってきた。

 合唱祭も体育祭もひっそりと陰でやり過ごし、中間試験はきっちり上の下の成績をキープ。なんてこともなく、特別なこともない日々。

 そんな日々を1ヶ月ほど繰り返すと2年生で最も大きな行事である宿泊学習の足音がやってくる。

 そういえば、そういう季節か……。

 クラスは浮き足だっているが、俺としてはあまり興味があるわけではない。知らない土地で刺激を受けるのは楽しいし嫌いじゃないのだが、学校行事で強制されると流石に萎える。

 

「今年の宿泊学習は日光と宇都宮にする。詳しくはこのしおりを見てほしい」

 

 担任に指示されてホームルームの最初に配られたしおりを気だるげにパラパラとめくる。

 1泊2日の行程で1日目に日光入り、日光東照宮を見学した後に宿泊先の湯元温泉の研修施設に移る。そこで夕飯として班別にカレー作りとバーベキュー。部屋割りは班をそのまま流用するらしい。

 そして、翌日の朝に宇都宮に入り、その日は班別に自由散策。最後に宇都宮駅で新幹線に乗り、千葉に帰るというものだ。

 

(……自由行動があるのか。まぁ、俺にとって自由なんてないけどな)

 

 班行動となると、余り物の俺の意見が顧みられることなどない。だってぼっちだし。だから、班の他の奴らの後ろをついて行くことになるだろう。

 

「じゃあ、班決めをするぞー」

 

 説明を終えた担任によってぼっち殺しの特攻呪文が炸裂する。クラスの他の連中はそれぞれめいめいに動き出す中、俺は巨岩のように自分の席に鎮座する。どっちにしろ、結末は変わらないのだ。なら、省エネの方がいい。

 ボーっとクラスの中の悲喜交々を眺めていると、すーっと二階堂がこっちに近づいてきた。

 

「比企谷、とりあえずあたしと組もうかー」

 

「お前、他の男子とそこそこ話してたんじゃねーか。そいつと組んでやらんでよかったのか?」

 

「うーん、明らかにあたし狙いだったから、ちょっと引いてこっちにきちゃった」

 

 無愛想だが純粋な顔立ちで言えば、二階堂はクラスの中で頭二つ抜け出ているからあり得ない話でもない。普段の言動と行動がアレだが、いわゆるこいつは高嶺の花と呼ばれる人種であることをついつい忘れがちになる。

 

「きちゃった。じゃねーよ。なんなの、俺のこと好きなの?」

 

「まぁ好きだよ。2日間ずっとだる絡みして良心が咎めないからね。本当に扱いやすくて大好き」

 

「すげえなお前。可愛い女子に好きだと言われて、ここまで嬉しくないのは初めてだわ」

 

 こうも明け透けに言われると勘違いの余地もない。少しぐらいは希望を持たせて欲しいところだ。

 

「で、どうするの?」

 

「組むわ。2日間、話し相手がいないのもアレだからな。小町の代わりだ、代わり」

 

 そう、俺がこの宿泊学習で耐えがたいのは班行動ではなく、愛しの小町と丸2日逢えないことなのだ。小町抜きで疎外感のスリップダメージをくらい続けたら、さすがのぼっちストである俺のライフが保たないのは明らかだった。

 

「じゃあ、決まりだね」

 

 そう言って二階堂はとてとてと黒板に自分と俺の名前を書きに行く。

 その後は、完全に二階堂に任せた。友達こそいないが、全く物怖じせずなおかつ裏がない二階堂は同じぼっちでも俺と違ってクラス内でもかなり発言力はある方だ。適当に余りを見繕って班決めすることはできるだろう。

 待つことしばし。

 

「君が比企谷くんだよねっ! あたしは折本かおりっ! 同じ班になったからヨロ!」

 

 机に突っ伏す俺に手のひらを差し出して屈託のない笑顔で微笑む彼女。クラスの奴らに興味のない俺でも彼女の名前は知っていた。なにせ中山と二階堂、瀬谷以外で俺に挨拶なんてしてくるのはこいつしかいないのだから。

 

「ああ、よろしく。折本」

 

 差し出された手のひらを握る。

 すべすべで柔らかい、女の子の手。

 やけに距離が近くて、嫌に意識してしまう。

 ……こういうのは、中山で慣れたと思っていたんだけどな。あれから随分と俺の免疫力も落ちたらしい。

 俺は折本の顔を真正面から見ることができなかった。

 

 *

 

 帰宅した俺は自分の携帯を何気となく眺めていた。

 班決めの後、そのまま宇都宮で回る場所の話し合いをしていたが、時間が足りなくて後日に回すことになった。

 その際に、折本のSNSのアカウントを教えてもらったのだ。

 

「『比企谷がいいと思ったところを教えてね』か……」

 

 意図せずとして、俺もまたガッツリと宿泊学習に絡むことになってしまった。中山にあちこち振り回されてるから旅慣れている側だと思うが、他人と行くことなんてほぼ考慮してなかったからこれが案外難しい。

 ネットと家にあったじゃらんを交互に睨み、良さげだと思ったところを二階堂と折本に伝えて意見をもらう。

 二階堂と折本。

 女の子のタイプとしては正反対の2人だから返ってくる反応も正反対で、そのギャップが結構面白かった。

 二階堂が喜んだ場所では折本がつまらなさそうな反応を返し、折本が喜ぶようなところでは二階堂は「騒がしいからやだ」とバッサリ切り捨てる。

 癖が強いこの2人が満足する行程なら多くの人が楽しめる行程になる気がする。不思議と力が入った。

 

「お兄ちゃん、ごはんだよ〜。ってあれ? まだ調べ物の途中?」

 

「ああ、小町か」

 

 パキパキと首を鳴らしながら壁時計を見上げると、7時を越えていた。となると普段ならだいたい小町の飯が出来上がってる頃だろう。よほど俺は集中していたらしい。

 

「飯は食う、今から行くから待ってろ」

 

 カツカツと階段を降りてリビングの扉を開け、食卓に座る。

 今日のメニューはカレーだった。調べ物をしている時に匂いがしたから分かる。

 

「お兄ちゃん気合い入ってたね。有栖さんと宇都宮回るの?」

 

「二階堂とは同じ班だからなあ……同じぼっち同士なら手を組むのが得策だろ? なにせ互いの傷が浅くて済む」

 

「……わあ、流石のお兄ちゃんだ。普通だったら、有栖さんみたいな可愛い人と回れるってなったらもうちょっとテンション上がってると思うんだけど」

 

「ないない、二階堂の見た目がいいのは確かだが、本当に可愛らしいのはガワだけだ。よく食うし、悪態はついてくる。告白はされてるみたいだが、正直なところアレと付き合おうと思うやつの気がしれない」

 

 二階堂は付き合えば必ず苦労する女だと目に見えている。

 義理堅かったり言動が明快だったり、いいところも結構あるっちゃあるんだが、どうしてもアラの方が目立つんだよなぁ、あいつ。

 

「うわぁ、やっぱ有栖さんに当たりが強いなぁ。……でも、頑張るんだよね」

 

「まあな」

 

 それでも、あいつは嫌いにはなれない。喜んでる姿が見たいと思うぐらいにはあいつに対して情が湧いていた。

 

「はいはい捻デレ捻デレ。普段から素直に接しておけば、有栖さんも可愛らしく振る舞ってくれるかもよ?」

 

「だから、二階堂とはそんなんじゃねえよ。なんというかな……」

 

 口に出して分からなくなる。よくよく考えてみたら、定義することをしてこなかった。

 果たして俺と二階堂はどういう関係なのだろうか。なんだかんだで4年近く付き合いがあるから互いの事情も性格も知っている。ただ、それだけだ。

 見た目がいいのは十分思い知らされてはいるが、彼女に対して邪な感情を抱いた覚えはあんまりない。

 恋愛感情はなく、友達というにはあまり馴れ合うことをしなかった。そのくせしていっちょ前に連帯感を持っているのだ。

 ならば、俺とあいつは……。

 

「『仲間』かね、あいつは」

 

 恋愛とも友情とも断定しきれないなら、残された択はそれぐらいしかない。でも、それが不思議としっくりきた。

 

「なんにせよ、小町にはどうでもいいけどさー。せっかくの宿泊学習なんだし、いい具合のお土産話を期待してるよ。あ、今の小町的にポイント高い!」

 

 頬杖をつきながらにっと笑う小町。

 なんだよ、どうでもいいなら深く考えて損したわ。

 ……ただまぁ楽しい旅行になって欲しいとは思う。

 今までと違ってかなりの労力をかけさせられている。ならば、それに見合ったリターンが欲しくなるのが人情ってものだ。

 

「まあ、あんまり期待しないで待っててくれ」

 

 小町にそう返して飯をかっ食らう。

 あいつらが寝る前に追い込みをかけてしまおう。

 計画はまだ立てきれてない。楽しむにしてもまずはそこからやらなくてはならなかった。

 

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