AIのべりすとを使用した短編になります。
いい話みたいになってますが、全体的に胸糞な内容なので何でも許せる方のみどうぞ。

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短編:姉

 …………私はシュリア。

 今でこそ落ちぶれているけれど、昔は大陸の大部分を手中に収めた大国の、女帝だった。だったと言うのは、既にその国は滅びているから。

 かつて栄えていた国は何十もの小国に分裂して、今は見る影もないほどに衰退した。こうなったのも全部私の自業自得。私が愚かな野心のために多くの人々を巻き込んだ結果が今のこの国の姿。

 国をこんな無惨な姿にした元凶である私は幼い頃からわがまま放題な人格で、生来(しょうらい)から微かすら衰えがない恵まれた容姿と皇族としての権力を良いことに、権力乱用も(はなは)だしいやりたいがままの日々を送っていた。自分が人間として持ち合わせるべき道徳の欠片さえも持たない、それこそ傲岸不遜でとても貴人とは呼べない醜い小娘だったことは、まるで昨日のことのように覚えてる。

 そして……体が弱かった父が病で逝去するのと同時期に、私は16歳という若さで(かんむり)玉座(ぎょくざ)を得た。思えば、それが節目だったんだと思う。

 それからと言うもの、私の嗜虐趣味に拍車がかかり日が経つ毎に悪化していった。民が飢え苦しむ姿を、貧困者たちが病に倒れて死ぬ様を、罪人が泣き叫びながら心臓を貫かれる場面を、思い付く限りありとあらゆる死に姿を頭の中で想像するだけで恍惚とするようになり、ついには周辺の国々に次々と戦争を仕掛けて異国民を殺しまわるまでに悪化した。

 私が退位するまでのこの戦争で、ちょうど2年で国土は三倍に、人口は十倍に増えて、その間に人口の三割が飢餓や病で死んだ。それでも私はその状況を意に介さず、むしろこの上ない悦楽と爽快感を感じ、更なる(よろこ)びを求めて戦を止めることはしなかった。

 こうしてヒトの命が(うしな)われる様を眺める快感を知ってしまった私は、同時期に追い討ちをかけるように後がない状態に陥ったから、他者を(ないがし)ろにする性分(しょうぶん)が余計に悪化していたんだと思う。父を()くした直後に流行(はや)り病に倒れた母は、私が17歳の時に亡くなった。

 母の死によって、皇室に残る皇位後継権保有者が一人だけになった。その皇位継承権を持っているのはまだ幼い皇子、つまり私の弟ただ一人。賢くて聞き分けが良く両親や臣下から寵愛を受けていた弟に嫉妬していた私は、目付役の目を盗んでは無理やり連れ出して、奴隷や家畜にもしないような非道(きわ)まりない行いを、彼が五歳になった頃からずっと……私の歳の半分にも満たない弟に繰り返していた。

 腕に力いっぱい鞭を打って骨を折ったり、炙った針を指と爪の間にゆっくりと押し込んで叫び声をあげないよう耐えようとするのを嘲笑ったり、刃零れさせたナイフをわざと急所を外して何度も突き刺したり、椅子に縛り付けて眠気で目を閉じる度に氷水を浴びせて無理やり起こしたり、栄養不足で失神するようなことになっても食事を与えなかったり、私に話しかけてくる度に殴る蹴るの暴力を振るって追い払ったり……

 本当に、いい歳なのに何て愚かなことで喜んでいたのか、今となっては不思議なくらいに荒れていた。

 結局、母が亡くなって三ヶ月もしない内に、私は弟を追い出した。必要最低限の食べものも、着るものも、小銭さえも持たせず、裸同然のボロ雑巾のような格好で都から……この国から追放した。

 ……彼がとても辛そうな悲痛な表情(かお)で私を見ていたことも、私が(さげす)みきった笑顔を向けて最後まで(ののし)っていたことも、今でも鮮明に覚えてる。

 もちろん、その時は罪悪感どころか良心の呵責さえも感じなかった。

 そして弟を国の外に放り出して半年、私が女帝に即位して三年目、戦争が長引くに連れて拮抗・膠着・停滞していった戦線は、一斉反抗によって遂に崩壊した。

 思えば、あの時点で都から逃げ出してしまえばよかったのかも知れない。あるいは弟の追放、いや、虐待自体を思い止まっていたら、もう少しだけ寿命が延びたかも知れない。

 戦線を突破した諸国の軍勢は壊滅状態の帝国軍で妨害できるはずもなく、一月(ひとつき)足らずで都に無血入城して私が治めていた国は滅んだ。

 私の所業を余さず記録していた臣下や将帥たちは死刑を免れ、私は奴隷に身を落とされた。その時を節目に私の生活は残酷ながらも華やかで自由なものではなくなり、孤独で苦痛に満ちたものに変わった。誰の口からも似たような言葉を一言二言しかかけられず、私から声をかけても無視され、給餌の時間さえ一人でいることを強いられる。

 あまりにも多くの“誰か”の、そしてこのあまりにも重く強い怨恨と憎悪をこの一身に背負っていることを、この状況になって初めて理解させられた。

 私を(ののし)ることもなく、かと言って暴力を振るうわけでもなく、ただひたすらに軽蔑(けいべつ)し、心の底から嫌悪し、視界に入っても何かをすることすらもなく、“ここにいないもの”だとか“生きているが死んでいるもの”という扱いは、私がこの世の何者よりも恐れ忌み嫌われていることを嫌というほどに実感させられる。

 それでも元皇族という身分と私自身の整った見目形(みめかたち)(さいわ)いしたのか、売りに出された最初のうちこそ売値の額は高かった。

 だけど日が()つにつれて、私の所業を知る者たちが私を恐れて近付かなくなり、それが元で多くの人間に気味悪がられ、さらに何十人という奴隷商の下を転々とする生活を強いられるようになり、日に日に私の価値は下がっていった。

 それからと言うもの、私は売られる先々で煙たがられ、半年の間に価値は下がり、奴隷となって一年が立つ今となっては子供の小遣いにも届かないほどに価値が下がってしまっている。

 

 そして、利益を生まない無価値な奴隷の末路は決まっている。今私が閉じ込められている独房の目の前には、大量の樽が並んでいる。中身は全て糞尿……それも全て私自身の不浄。

 これは、私を生かすために与えた餌が全て無駄になったことを暗示している。私はついに見捨てられたのだ。

 今まで散々好き勝手してきたツケが回って帰って来ただけのことだ。今更後悔しても遅いと自分に言い聞かせても、涙が止まらなかった。

 私の寿命は明日の日の入りまで、日が沈めば私は屠殺される。享楽のままに何百万人もの人間を殺してきた私に相応しい最後なのだろう。

 そう思うと、余計に涙が止まらない。一晩中、声を出すこともできず、静かにすすり泣くことしかできなかった。

 

 

 迎えた翌日、私の最期の出品日。今日中に誰かに買われなければ、私は今日、確実に殺される。殺されて死体に変わり果ててなお、奴隷の扱いは(むご)(ひど)いの一言に尽きる。

 (とむら)ってももらえず、(ほうむ)ってももらえず、(しかばね)はただ家畜の餌として(むさぼ)られ、髑髏(されこうべ)に変わるだけのこと。

 …………今は考えないようにしなきゃ…………

 それよりもこの奴隷市場(どれいしじょう)における商品の取引手段は、いわゆる競売(けいばい)形式のようだった。舞台中央に簡素な椅子が置かれており、椅子の周りは檻で覆われている。この中で商品の取り扱いが行われるらしく、席の数も百席程度と少ない。

 当然のことながら、私は最下層に位置する奴隷である上に異常な安値(やすね)であることも重なって落札される可能性は極めて低い。

 そもそも…………昨日まで私を買ってくれそうな人間は一人として目にしていなかったから、今日の競売でも誰にも買われずに無視されて、一人(むな)しく死ぬしかしないのだろうと悲観していた。

 今となっては反抗心の欠片(かけら)もない。あるのはただ後悔と、悲哀と、恐怖ぐらいのもの。

 …………だからあの時が、あの瞬間が来るまでは、昨日は空に光が射し始める頃まで泣き続けていた私は、泣く気力さえも失くなっていたの。

 なのに────────

 

「席番号37番のお客様、7フローリンで落札です」

 

 それは競売が始まり、私が出品されて直ぐのこと。死への恐怖から体がガタガタと震えていたのに。心臓が今にも爆発しそうなほどの強さで、走りの一歩よりも早く拍動を繰り返していたのに。

 

「……………………え?」

 

 司会役の男の口から放たれた思いがけない一言(ひとこと)に、私は思わず(ほう)けたような声を出す。微かな幸運が導いた運命のいたずらなのか、それとも私の行く末を哀れに思った神の意思なのか、あるいは買い手が悪魔に憑かれたのかも知れない。一体どんな力が働いたのかは分からないけれど、私は過去の凄惨な行いを償う絶好の機会を手に入れてしまった。

 私を買ったのは、一人の幼い男の子だった。

 歳は多分11歳の後半くらいで、この場ではとても目立つ黒い髪と灰色の瞳。奴隷になってから日常のほとんどを檻や牢に中で過ごしていたから良くわからないけれど、多分どこにでもいそうな普通の、だけどかわいらしい男の子。

 …………とは言ったものの、見目形(みめかたち)や年齢や性別云々はともかく、そもそも自分の意思で奴隷を買いに奴隷市場に来る時点で普通の感性を持った人間ではないのだけれど。

 でも、私はどうも男の子の顔立(かおだ)ちに見覚えがある気がした。

 鼻は小さいけれど高く尖っていて、頬は少し桃色がかって柔らかそうで、唇は切り結んだような淡い薄紅色、灰色の無機質な瞳は傷みが目立つけれど癖のない黒髪にとても似合っていて、まさしく美少年と呼ばれるに相応(ふさわ)しい容姿。

 

「…………購入手続きをお願いします」

 

 そして、男の子の声を聞いた時、私は確信した。あの子は……彼は私が確かに2年前に追い出して消息不明になった、たった一人の弟だと。

 だけど、そんなことはあり得ないとも思った。私自身が追放して、行方知れずになった以上一度も顔を合わせていないのは自然なこと。

 それに、万一本当に弟だとしても、もう何もかもが遅すぎる。私が弟を追放した時、彼は9歳手前の年頃。仮に生きていたとしても、彼が私の声や顔を覚えているとはとても思えない。

 ……だけど、たとえ彼にどんな事情があったにせよ、こうして(ふたた)相見(あいまみ)えることができたことを素直(すなお)(よろこ)んでいることを自覚(じかく)していた。

 (けっ)して(みじか)くない人生を(あゆ)んで来たつもりだけれど、本心(ほんしん)からこんなに(うれ)しいと(おも)ったのはいつ以来だったかしら?(すく)なくとも、この奴隷(どれい)以下の家畜(かちく)としての一年間……ううん、私の父が逝去(せいきょ)してからは一度もなかったように思える。

 緊張(きんちょう)(のこ)っていてとてもぎこちないけど、この時に人生で(はじ)めて(こころ)(そこ)から笑顔(えがお)になった気がする。

 

(…………連れて行かれるのね)

 

 気付いた時には、襤褸(ぼろ)貫頭衣(かんとうい)から普通の衣服に着替えさせられ、そして足を痛めないようサンダルを()かされて馬車に乗っていた。

 こうして私は、かつて苛烈な虐待の末何も与えずに追い出した弟に、自業自得で身を滅ぼし何もかも奪われた奴隷として所有されることになった。

 

 

 

 弟は私を買い取った後、定期市の屋台や出店で(にぎ)わう広場と商店が立ち並ぶ大通りには目もくれず、私の手を引きながら足早に辻馬車の留場(とめば)がある裏通(うらどお)りへと向かった。

 曰く養父母(ようふぼ)がいるという町外れの村へ、私を連れて行ってくれると言った。馭者は私の顔を見てあからさまに嫌悪感を含んだ顔で睨み付けて来たけど、弟に何かを話された後は視線を向けることはなかった。

 弟の今の家に向かうその道中、私はずっと弟を見ていた。追放したあの日から、一度たりとも弟の行方を考えたことはない。

 この三年間という決して長くない年月(としつき)を経て弟と再会した時から、私の中の彼に対する印象は完全に変わっていた。昔の弱々しい面影はなくなって、凛々(りり)しささえ感じられるとても立派な目付きになっていて、まだ幼い体でありながら筋肉がついていて(たくま)しく、顔つきもかわいらしさを多く残しているものの精強で頼もしいとさえ思える。

 でも…………凛々(りり)しささえ感じる顔の下、首もとや手元に視線を向けると、未だ幼い柔肌(やわはだ)に生々しい傷跡がびっしりと刻まれている。

 切り傷、刺し傷、鞭の跡に火傷に痣、殴られた跡と蹴られた跡、骨折で歪んだ肌と筋肉の隆起まで、無数の傷痕(きずあと)が。

 全て私が彼に付けた一生消えない傷。

 …………私の所為(せい)で、望まずして負い続けることになった(けが)れの痕跡。そして、私が今まで犯して来た罪の証…………

 

(ごめんなさい……本当に、ごめんなさい……)

 

 弟にしていた仕打ちを思い出すと、今さらになって胸が痛む。私は、なんて酷い姉なんだろう……罪悪感で涙が(あふ)れそうになって、顔を隠すように(うつむ)いていたら、

 

「どうしたの?」

 

 と優しく声をかけられて、ゆっくりと弟に視線を戻す。彼は私を見て少し驚いた表情を浮かべていた。

 これも無理もないこと。だって彼が最後に会った時の私は、蔑むような、侮辱するような、見下すような、あからさまな悪意に満ちた下衆な笑みを浮かべていたはずだから。

 それなのに今は真逆の表情を、悲哀や恐怖の感情を顔や態度に出しているから、疑問を感じさせてしまうのは…………うん、神経を逆撫でしてしまうのは当然の事。

 弟の目に映る今の私は、一体どういう風に見えているのだろう。やっぱり、まだ怨んでる?それとも、もしかしたら許してくれる?でもわからない。

 もしも私が弟の立場だったのなら、私が弟にしたように弟が私を虐げて苦しめて……(とが)もないのにあんな仕打ちを受けていたのなら、きっと心の底から相手が憎くて、怨めしくて耐えられない。どんな残虐な手段を使ってでも、泣きながら命乞いをされても、徹底的に追い詰めて苦しめて、それでもなお殺さない地獄のような苦痛に(もだ)えさせ続けることを選ぶだろう。

 かつて私が彼に……無辜の人々にも罪深い悪人にも等しく、苛烈(かれつ)残酷(ざんこく)という言葉すら生温(なまぬる)い暴政を強いて掠奪(りゃくだつ)搾取(さくしゅ)の限りを尽くしていた時のように、もう自分に逆らえないように、「服従しなければ殺される」と思い込ませて自分から私の思うままに振る舞うように、この上ない凌辱(りょうじょく)で服従させる徹底的な復讐を選ぶから。

 私は地獄(じごく)のように……違う、地獄の方が(はる)かに慈悲(じひ)があるように錯覚するほどの凄惨(せいさん)拷問(ごうもん)や悪政を、私自身にも返されるようなことを何年も続けてきたから分かる。

 だけど、それでも彼の姿を見た時から一度だけ、弟に謝らせて欲しいと願っていた。許してくれなくていい。ただ一言、ごめんなさいと言ってから死にたい。

 それに…………少しだけ希望もある。皇族であった頃から、弟は誰に対しても心から優しかった。多くの人が気にせずに踏み潰す草にさえ、躊躇(ためら)いもなく慈愛の手を差し伸べられるほどに。

 だから、もしかしたら私の言い訳にも耳を傾けてくれるかもしれない。例え弁明が(いつわ)りであっても、命惜しさに嘘を吐いていると分かっていても、全てを赦してくれるかも知れないって。馬車に揺られながら物憂(ものう)げに窓の外を眺める弟の顔を見て、何となくそう思った。

 

 

 

 その後も長い道を馬車に揺られていると、気づけば夕暮れになっていた。本当なら今頃、私は死んでいたのに。全身をバラバラに切り刻まれて、(けもの)(エサ)にでもなっていたかも知れないのに……

 

「お姉ちゃん」

 

 考え事に(ひた)っていたら、弟に呼ばれてはっとした。「お姉ちゃん」なんて呼ばれるのは本当に久しぶり。もう三年以上も聞いてなかった呼び方が懐かしい。虐待の果てに追い出したのに、やっぱり弟は“純粋な男の子”のまま。

 ……だめ、今は考えないようにしなくちゃ。昔弟に放った罵倒をまた思い出して、辛さで涙を流さないようにぐっと堪えて馬車を降りる。

 降りた場所は静かな田舎道(いなかみち)が中心を通って、中心に建つ(しろ)(かこ)むように存在する(まち)が見える広大な草原。

 ここで降りるまでの道沿いにあるのは、3マイルごとに一つ設置される基準塔と数える程度の家だけ。とても人が住んでいるとは思えなかったけれど、馭者がここで降ろしたということはこの子の家が近くにあるのだろうと思った。

 

「見えるかな?あそこの少し遠い所にあるのが(うち)だよ」

 

 そう言って……指先に黒い焦げ痕が残る手で、弟が指し示す先に視線を向けると、小さな花を咲かせる(つる)の壁が見える。そしてその蔓が、(こけ)()した石の門とアーチに絡み付いて緑色の回廊(かいろう)を形作る、この上なく神秘的で、同時に幻想的な光景が広がっていた。決して狭くはない庭を囲む植木(うえき)も馬車より少し高い程度で、中には果樹や畑も見てとれる。

 奥に見えるお屋敷にも温室(おんしつ)のようなガラス張りの建物が併設されていて、夕日に照らされたガラスの光沢が遠目からでも良くわかる。

 

「きれい……」

 

 思わず見とれてしまって、時間も目的も忘れてしまいそうだった。もしかしたら人生で一番感動した瞬間かも知れない。こんなに美しい景色があったなんて……

 

「お姉ちゃん、こっち」

 

 弟に手を引かれ、案内された先。見かけは小さいけれど、誇らしげにそびえるお屋敷の玄関で待っていたのは一組のお年寄りだった。一人は灰色の髪を短く切り揃えて、柔らかな髭を生やすお爺さん。もう一人は(あたた)かみのある微笑(ほほえ)みを浮かべて、夕日に銀髪を輝かせるお婆さん。

 まるでお伽噺(とぎばなし)(あらわ)れる魔法使いや魔女を彷彿(ほうふつ)とさせる人たち。

 

「ダリク、その子がお前の新しい家族かい?」

 

 お婆さんが放ったその優しい声色は私の心の内に響いて、渇きに飢えた心をゆっくりと湿らせてゆくかのような美しささえ感じるほどに心地良いものだった。ふと弟の方を見やれば隣にはおらず、すでにお婆さんに抱きついていた。

 ずきん、と胸が痛む……恐怖が、絶望が、躊躇が、不安が、考えるのも嫌なこと全部が胸に集まって……すごく……怖い……

 今すぐに逃げ出してしまいたい。

 

「うん。9歳年上のお姉ちゃんだよ」

 

 当たり前だけど私の不安には気付いてくれず、弟は笑顔でお爺さんとお婆さんに答える。この人たちが今日から私のお養父さんで、お養母さんになるのだと理解するのにさほど時間はかからなかった。だけど……この人たちは、私のことはきっと知らない。

 だってここは、もう私の国じゃない。

 

「……あの……」

 

 そう思うと同時に、私は深く、それこそ腰と背中の骨が悲鳴をあげそうなほどに、深く大きく頭を下げた。まずは謝罪しなければと、自分の過ちを知って欲しくて。

 何度罵倒されてもいい。今更許されるとは思えないけれど、それこそ降って湧いた千載一遇の、唯一無二の、最初で最後の機会なのだから。私は深々と頭を下げた頭を持ち上げて、自分の視線をお爺さんとお婆さんの視線に合わせる。

 

「お二人にお伝えしなければ……私が自分でお(はな)ししなければならない事があります」

 

 そして、今までの自分の行いを、包み隠さず二人に話した。私が、かつて自分が治めていた帝国でどれほど非道な真似をしたことか。どれだけ多くの人間を殺してきたのか。

 どれほど弟に……ダリクに酷いことをしていたのか。如何(いか)に人が苦しむ方法で、如何に心身を辛い状態に追い込んで肉親を殺そうとしていたのか。

 そして、そんな私自身が何よりも大嫌いで、この世から消えてなくなってしまえば良いと思っていることも。

 三人は、私の話を黙って聞いてくれていた。

 罵ってくれても、殴ってくれても良い。この場で殺しても、またどこかへ売り飛ばしてくれても良い。

 私を(ゆる)してくれる必要なんてない。

 ただ、知って欲しかっただけ。

 私という人間がどうしようもなく(みにく)く、そしてどうしようもなく(けが)れた生き物なのだということを。

 私がどれほど人の道を外れた悪人なのかを…………

 

「………………」

 

 こんなの、分かりきってる。言い訳だって分かってる。苦しい気持ちから逃げたくて、自分を憎む気持ちを忘れたくて、記憶から目を背けて、自分自身を正当化したいだけだって、理解してる。

 だからお願い。私を赦さないで……愛さないで。

 

「………………」

 

 (はらわた)が煮え繰り返るような胸くそ悪い事実を嘘偽りなく、何一つ包み隠さず伝えたはずなのに。お爺さんも、お婆さんも、弟も……三人は私の訴えには何も答えずに、ただ黙って私の話を聴いてくれていた。私が話すことを洗い(ざら)い聴いた後、お婆さんは私を抱き締めてこう言ってくれた。

 

「今からでも償えることよ、悲観することはないわ。いい弟を持ったことを誇りに思いなさい。あなたは良いお姉さんだから、()く生きれば必ず天への道は開くわ」

 

 この言葉を聞いた時、私は目頭が熱くなるのを感じた。

 許されたことが嬉しくて。そして、こんな自分をまた姉として扱ってくれる人がいることに、心の底から感謝した。


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