ゾンビvsヤクザ~人気なき戦い   作:三流FLASH職人

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第四話 矜持と世間とやさぐれと

 上里が帰った後、俺達は奴が置いていったタブレットの画面にかぶりつく。

 

『こちら新宿、突然現れたゾンビの群れが、町を次々と破壊しながら進んでいきます・・・・・・ああっ、今、ビルが、ビルが傾いて・・・・・・たっ、倒れ!!』

 中継画像が激しく乱れ、轟音と悲鳴が響き渡る。ゾンビの群れが基礎部を破壊した小さなビルが横倒しになり、事態の深刻さを知らしめる。過密の東京で進路にある建物を手当たり次第に破壊しながら行進する30体ほどのゾンビ共。

 

「ええい、東京はいい! 大阪の映像を出しやがれっ!」

 俺、岩熊勝平は画面に怒鳴る。ゾンビが現れたのは東京と大阪、どちらも大都会だがマスコミはどうしても首都東京の方ばかり優先する。だが俺にとっては本家、天狼組の本部がある大阪の方が重要だ、ああもう、中継の切り替えはまだか!

 

 数分後、ようやく映像が切り替わる。

『こちら大阪、道頓堀。今、破壊の限りを尽くすゾンビの前に機動隊が到着しました。全員が武装した状態で盾を構えて、今先頭のゾンビを取り押さえにかかります』

 どうやら大阪の方はサツが間に合ったらしい。TV局もそれを読んでかようやく大阪の映像に切り替えたようだ。何しろ東京の方はパニックで渋滞が酷かったのもあり、警官隊が到着するのはまだまだ時間が掛かりそうだったから。マスコミにしてもこの騒動を食い止めるシーンのほうが値打ちがあると踏んだようだ。

 

 だがそんな期待は、まるでダンプに撥ねられたように吹き飛ばされる警察官、機動隊員の映像によって蹴散らされた。

『きっ、機動隊の皆さんが、まるで木の葉のように吹き飛ばされてますっ!止まりません、止められません!!』

 リポーターの絶叫がこだまする。警官たちの『後退、後退ー!』の叫びに応じて、潮が引くかのようにゾンビから逃げて距離を取る警察官たち。ゆっくりと歩いて来るゾンビの群れに、警官全員が銃を抜いて狙いを定める。

 

『撃てぇーっ!』

 パン、パパン、パパパパァン!

 拳銃の乾いた音が響き、火の玉が雨あられとゾンビに横から降り注ぎ、その腐った躰にめり込んでいく。

 硝煙の煙がゆらめく先で、ゾンビ共はまるで何事も無かったかのように歩みを続け、警察官たちに迫って来る。

『ひっ、ひぃっ!』

『まずい、逃げろぉっ!!』

 腰砕けになりながらも、蜘蛛の子を散らすようにゾンビから逃げ惑う警察官たち。

『だ、ダメです、銃が効きませんっ!』

 

 リポーターの悲鳴を最後に、TV画面がスタジオに戻る。アナウンサーも解説者のテロ専門家とやらも目と口を丸くして固まっていた。まぁ無理もない、この光景を解説しろと言っても到底無理だろう。

 そこからカメラが中継地に戻ることは無かった。おそらくだが現場は地獄絵図になっているんだろう、昼前の今の時間にそんな光景をお茶の間に届けるわけにはいかない事くらいわかる。

 つまり、中継が始まらないのは、事態が何一つ好転していないって事だ。

 

「もしもし、天狼組だな! 俺だ、四国の岩熊だ、総会長を呼んでくれ!」

 俺は大阪の本家に電話をかけていた。この異常事態に俺たち侠客が座しているわけにゃあいかねぇ、ここで俺達があのゾンビを叩きのめし、堅気の衆を守ったとなりゃあまさに本懐じゃねぇか! いや、あの会長の事だ。既にゾンビに突撃してるに違いねぇ。

 

『久しぶりだな勝平、なんだ突然電話なんか』

「あぁ? (ボン)か、親父さんはどうした!」

 電話に出たのは会長の息子、犬神梅之助(いぬがみうめのすけ)だった。ガキの頃からの腐れ縁だが、今は昔話に花を咲かせる気分じゃねぇ。

 いや待てよ、こいつは今、天狼組の若頭。だったら焚き付けるのはむしろコイツか!

「てめぇなんでまだ事務所に居やがる! ニュース見たんだろ、さっさとあのゾンビをシメて来ねぇか!」

『・・・・・・ははっ、冗談かそれ?』

 な、なに? コイツは一体何を・・・・・・

『なんで俺達が今更そんなことしなきゃならねぇンだよ』

「なんで、だと! カタギの衆が襲われてるんだぜ! ここで(おとこ)を見せんでどうする!!」

『カタギが襲われてる? 結構な事じゃねぇか』

 何を、言ってるんだ、コイツは。

 

『田舎じゃちったぁヤクザさんも(いた)わられてるかもしれねぇが、都会の風は冷てぇ、いやもう痛いほどだ。今さら俺達ヤクザがカタギの為になんぞ、指一本動かすのも御免だね』

「任侠道は、侠客の誇りはどうした!! つまんねぇ事でイジケ(どくれ)やがって、てめぇそれでも」

『だったらアンタが来て戦えばいいだろう、そっからだったら三時間もあれば着くんじゃねぇか?』

 このガキャあ! 弱い者いじめしか出来なかったガキの頃からちったぁマシになったと思っていたが・・・・・・ああわかったよ、今すぐに飛んで行ってゾンビと一緒にぶん殴ってやる!

 

「親分、本家は何て?」

「いますぐ大阪に行ってくる! 若頭、補佐、留守を頼む。上里の奴が来たら俺の分のラーメンを突っ返しておいてくれ!」

 心配顔の子分にそう告げると、部屋の片隅にある手さげ金庫を開けて今月の上納金が入った封筒をひっつかむ。高速を飛ばして行くので料金が要る、必要経費ということにしてもらおう。

「今から!? じゃあ俺らも」

「助は本家の連中のケツ叩くからいい! 留守番は任せたぞ!」

 言うや否や表に飛び出し軽トラに乗り込む。けたたましく走り出し、高速に乗って一路大阪に進路を取る。

 

 大鳴門橋を超え、淡路島を突っ切って明石海峡大橋をまたいで神戸。そこから阪神高速経由で大阪へ!ゾンビは道頓堀に出たと言っていた。なら本家天狼組の事務所は通り道だ、先にあいつらを焚き付けて兵隊を総動員させてやる!

「あのゾンビ共は普通じゃねぇが、なぁに、ありったけの車で突っ込みゃなんとかなる!」

 警察にはそんな真似は出来ない。パトカーも税金で買っている以上体当たりなんて真似はしないだろう。所詮奴らは公務員、こんな時こそアトサキを考えない俺達ヤクザの出番なんだ!

 

 

「ウチの兵隊も道具も、何一つ貸しませんぜ」

 天狼組の玄関口、わざわざ出迎えに出ていた金髪角刈りにグラサンの男、若頭の梅之助が開口一番、こちらの機先を制してバッサリ斬り捨てる。

「きっさまぁっ! ガキの頃みたいにどつき回されてぇか!!」

 自分が侠客に目覚めた少年時代、いじめっ子だったコイツを、親父さんである会長のハッパでボコボコにしたのが俺の始まりだった。あの時と同じ憤りを目の前の同一人物に向ける。

 

「だから、行くならアンタ一人で行ってこいや。なぁ侠客サンよ」

 駄目だ。こいつと押し問答しても事態は前に進まない、こうしてる間にもあのゾンビ共はどんどん被害を拡大させているに違いねぇんだ!

 掴んでいた梅之助の胸倉を突き放して、ぐふぅ! と息を吐く。こんな奴が今の本家の若頭なのかよ。

 

「侠客の誇りがある奴、俺についてこーいっ!」

 事務所玄関にいる若い衆、中にいる構成員に聞こえるように叫んできびすを返し、軽トラに乗り込む。今すぐじゃなくていい、俺がゾンビ相手に男を見せる姿が中継でもされりゃ、きっとヤツらにも火がつくはずだ!

 

 

 道頓堀周辺。いくつもの赤ランプが舞い、ざわめきと淀んだ空気に満たされたその場所に一台の軽トラがドリフトしながら急停止する。

「おい! ゾンビはどこだ、どこ行ったぁ!」

 手近の警官に怒鳴って聞く。だがヤツらは俺の風貌を見て、きっ! と視線を突き刺す。

「貴様、ヤクザだな。何の用だ」

「こちら252、反社者一名。現在の所実害無し」

 敵意の言葉とヤクザ襲来の報告を無線で知らせる警官たち。ンな事よりやる事あるだろうが! 

 

「ゾンビは、どこに、いった!」

 凄みを聞かせて若い警官に詰め寄るも、いっちょ前に敵意ギンギンの目で睨み返す若造。

「もう、消えた。だからどうした、チンピラヤクザ」

「消えた、だと?」

 上里の奴も言ってた。昨日の夜もゾンビ共は暴れるだけ暴れた後、地面の中に引っ込むように姿を消したと。

 

「分かったらとっとと失せろ、我々が忙しくて幸いだったな、本来なら恫喝罪でしょっ引く所だ」

 そう言って業務に戻る警官たち。ゾンビと戦うどころか警官にすら相手にされない。やる事を失って呆然と立ちすくむ俺の耳に、ざわめきの中に混じるささやきが、聞こえてきた。

 

(見てよ、アレ、ヤクザじゃない?)

(嫌やわもう、ゾンビの次は反社者?)

(何しに来たんだよアイツ)

(火事場ドロボウだろ、めぼしい物をかすめ取りに来たんだよ)

 

 ぎりっ、と歯を噛みしめる。なんだよ、俺はお前らを助けたい一心で、わざわざ四国からここまで・・・・・・

 

「あ、分かった。今まで事務所で震えてたけど、終わったからカッコつけに来たんじゃない?」

「サイッテー。度胸も何もない癖に強者アピールだっさー」

「もしアイツらがゾンビと戦ったら、俺ゾンビの方を応援するわ」「俺も俺も」

「ざーんねん、もうゾンビはいませんでしたー。せーっかく強い所見せたかったのにねぇ」

 

 とうとう平然と言葉にしやがった。最後に大声で煽った野郎のセリフに周囲がバカ笑いする。

 

「お呼びじゃねぇよ反社!」

「事務所で震えてなー」

「引っ込め引っ込め、帰れ帰れ!」

 

「「かーえーれっ! かーえーれっ! かーえーれっ! かーえーれっ! かーえーれっ!」」

 

 付近を揺るがす『帰れ』コールを聞きながら、俺は呆然と立ち尽くすしか無かった。仮にも町が破壊されケガ人も出ているだろう、自宅や商売道具を失った者達も大勢いるはずだ。なのに堅気衆(コイツら)はそれすらもそっちのけで、ただ一人の(ヤクザ)を口汚くののしる事に熱中していやがる・・・・・・!

 

「「かーえーれっ! かーえーれっ! かーえーれっ! かーえーれっ! かーえーれっ!」」

「「かーえーれっ! かーえーれっ! かーえーれっ! かーえーれっ! かーえーれっ!」」

 

 罵声のシャワーを浴びながら、俺はきびすを返して軽トラに乗り込んだ。かつてのいじめられっ子時代以来の絶望を抱え、肩を落として頭を垂れたままエンジンをかける。

 

 ゆっくりと走り出す。民衆たちがピーピーと口笛を鳴らして、ざまぁみろの声を上げる、意志を示す。俺は頭の中が真っ白になる中・・・・・・

 

 

 その罵声を浴びる背中の入れ墨だけが、泣いているのを感じていた。

 

 

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