リリィちゃんをFate/Zeroに突っ込んだ安易な奴 作:鎖佐
外見上は何の変哲もない民家、と言うには少しばかり豪勢な邸宅があった。それもそのはず、その家はこの冬木一帯の大地主であり、養蜂、養蚕などで確かな財産を積み上げる富豪なのだから。
周囲からは憧憬や敬慕の念を送られるが、嫉妬などの感情は殊の外小さかった。それほど彼の家の人は付き合いが良く、横柄な態度を取ることもなかった。
そんな名家とも言える間桐家の地下に、こんな地獄絵図が広がっているなど、誰が知れようか。
虫、虫、虫。蟲の群れだ。常人が見れば一目で大声を出して叫び、失神や失禁は禁じ得ない。ましてや、そんな常軌を逸した蟲の群れが、齢5、6の少女に群がっているともなれば、もはや自分の頭を疑う衝撃だろう。
だが、ここではこれが日常だ。ふざけやがって。
遠坂桜、今となっては間桐桜。彼女を、あるべき場所に返さなくてはならない。
「召喚の呪文は、覚えてきたであろうな」
地獄の底に住まう蟲どもは今日ばかりは姿を見せない。目の前の妖怪が、英霊召喚の為に場所を移させたのだ。アレほどの質、数の蟲を完璧に使役する術など、非才な自分には皆目見当もつかない。であれば、やはり勝ち目は聖杯戦争の勝利以外に無い。
「ああ」
「いいじゃろう。だがその途中に、もう二節別の詠唱を差しはさんでもらう」
聖杯戦争、英霊召喚、令呪…聖杯戦争と呼ばれる魔術儀式にはブラックボックスとも言える裏道、抜け道が随所にある。本来なら一人3画の令呪をより複数手に入れる方法や、エクストラクラスと呼ばれる基本7騎以外のサーヴァントの召喚方法。等々…各陣営が勝つために魔術的解釈でもって有利に戦おうとしていた。
「雁夜よ。今回呼び出すサーヴァントには狂化の属性を付与してもらおうかのお」
だが、時として運命は、辿るべき当然の道筋を蹴り飛ばし、数奇な奇跡を齎すこともあった。
(頼む、桜ちゃんを救うために、守るために、誰でもいい。力を貸してくれ)
「誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ」
優先されたのは、彼の願い。
触媒によって本来現れるべき裏切りの騎士は姿を見せず、現れたのは…
◇
湿った風が頬を撫でる。長く旅をしているけれど。未だ人に出会ったことはない。
そもそも、果たしてわたしは人と関わることが出来るのだろうか。
体のあちこちから生えた触手?のような何かは、痛ましい何かに見えるのでは?
「リリィ、一雨来そうだ。先ほどの建物で雨宿りをしよう」
雨が降ったら、雨宿りをする。それがなんだかおかしかった。わたしには雨の空の方が親しみがある。雨雲の向こうにあるお日様を初めて見た時は、涙が溢れたけれど、雨は雨でわたしは好きだ。
そうは思ったが、彼の好意を無下にする理由もない。かつては宿と言われる場所だった建物に入り、ベッドに腰かける。
「死の雨は王国にしか降っていないと考えていたが、どうやら風に流されてかなりの範囲が穢れに侵されているらしいな」
お母さんを浄化してから、もうすぐ一年。わたしは夏の日差しも冬の寒さも乗り越えた。でも、まだまだたくさん見たいものがある。ウミと呼ばれるしょっぱい水が沢山あるところ。お空の太陽が突然消える日。ピンク色の花だけを咲かせる木。見たい。でも一番は…
「…一先ず、今は眠れ。癒しの祈りも、かつてのようには使えないのだから」
そうだね。
旅は、まだまだ続く。今は、お休みの時間。
お世辞にも綺麗とはいいがたい元、宿の一室。当然ではある。もう人の手が加えられなくなって長いのだから。少なくとも死の雨が降り続けていた果ての国よりマシであることは間違いない。
だが、それが何の慰めになろうか。キチンと人の手の行き届いた部屋で、暖かい食べ物を食べるくらいの権利すら、この子には無い。権利が無いというより、モノが無い。
旅を続け、一つの区切りとして、止まない雨を晴れさせたというのに、リリィにはまだ、救いが無い。
寝息を立て始めた少女、傍らに立つ。実体の無いこの身では、撫でることも出来やしない。
(最早、この世界に希望は無い。この子をこの世界の救いとして擦り切れる迄歩かせるくらいならば、どこか、別の世界で、幸せになれる場所で…)
彼の願いは、世界を超えた。
運命は、交わることのない世界と、交わった。
かくして、最後の白巫女は異世界、日本の冬木に召喚された
「??????」
寝起き故に事態が飲み込めず目を見開いてあたふたしている彼女を背に庇い、黒衣の騎士が名乗り出た。
「サーヴァント、セイヴァー、召喚に応じ参上した。…ああ私は其処であたふたしている少女の騎士だ。彼女がセイヴァーだ」