リリィちゃんをFate/Zeroに突っ込んだ安易な奴 作:鎖佐
アインツベルンの冬の城。そのエントランスにて、神話の決戦が繰り広げられている。
劣勢はやはり、セイバー・アルトリア・ペンドラゴン。右手の負傷は今も残っており、天下の聖剣も片手持ちでは真の輝きを発揮出来ない。
しかしランサーもまた攻め切れないでいる。いざ戦端が切られた以上最早首級を上げる迄、後の事は後で考えることにしているが、攻めきれない。その理由はセイバーの戦い方にある。
突っ込むセイバーに対して赤槍の刺突で迎撃を狙う。セイバーの構えは防御、しかし手応えが帰ってこない。見えない刀身と姿勢でブラフを張り、赤槍の切先がセイバーの顔面を貫く数舜前、それこそ顔をなぞっているのではないかと思うほどに際の回避によって空を切る。有ると思っていた衝撃が無い。そのギャップに刹那怯む。修正して黄槍の薙ぎ払い。
セイバーは静止すらせず槍の柄を掬いあげるように蹴りを放つ。そのまま跳躍、残った足が第二撃、サマーソルトキック。半歩後ろに下がることで回避、引き戻した赤槍を構えるが、相手はすでに空中で予備動作を終えている。後方で構えた刀身から風が唸る。
「ストライク・エア」
風の鞘が爆風を生み出し、空中のセイバーを加速させる。振り上げた足が落とされて第三撃の踵落とし、避ければ着地と共に渾身の一太刀が繰り出されるだろう、片手であろうと速度の乗った一撃は脅威。であればいっそ。
2槍を十字に構えて蹴りを防御、押し返して仕切り直し。はっきり言って、先の倉庫街戦より遥かに厄介だった。
「随分と足癖が悪くなったなセイバー」
「ふん、一騎打ちには無粋とは私も思う。だが、合戦中にこの程度は良くやることだ」
セイバーの持論としては、剣を持っているのに蹴りだのなんだのは技が鈍る、悪手の一つだ。だが、今は違う。過去アーサー王として在った時、戦場では捨て身の者達が死に物狂いで剣を抑え足を抑え、我が身を顧みずに一矢報いんと迫ることもあった。そうなれば空いた拳や蹴りを使うのは道理だ。今はそれと、同じこと。
足技もそうだが今のセイバーはとにかくインファイトに迫ってくる。そうなれば負傷した右腕ですら肘撃ちなどの攻撃手段足りうるし、2槍を持つランサーでは対応が限られる。何より、セイバーの筋力Bに魔力放出が加われば唯の拳とて脅威となる。
しかし、ランサーとセイバーでは速度的にややランサーが優勢だ。魔力放出による直線速度こそセイバーが勝っているが、複雑軌道を描いたうえでの高速戦ならランサーが明確に上。
つまり、セイバーが突っ込んでランサー迎え撃ち、数合打ち合って下がるか押し返すかして仕切り直し。
これが先ほどから続く攻防の流れである。
決着を急ぎたいのはどちらかと言うとセイバーだ。ここで切嗣が脱落すればセイバーの聖杯の夢は潰えることになる。令呪を切ってくれれば如何に時計塔の魔術師と言えどセイバーの勝利は揺るがない。だが、果たして切嗣が令呪を使うだろうか。
『これはマスターの戦いだ』
『戦っているのは貴女だけじゃないのよ?』
思い出すのは二人の言葉。切嗣もまた、願いの為に戦う男の一人。ならば、やはりここは信じて待っても良かったのか?
一瞬瞑目し、断ずる。事実、アルトリア・ペンドラゴンと衛宮切嗣の間に信用・信頼は介在しない。ただのマスターとサーヴァント…ですらない。
信用・信頼が無いのであれば、勘案するべきは魔力供給者としての機能。今やそれが危ぶまれているのだ。使う、使われるだけの関係など願い下げ、王として、そんな関係なら使う側とはセイバーの事だ。
事ここに至ってセイバーは割り切った。もう強引に力ずくでやってしまおう。ランサーをぶっ飛ばし、アイリスフィールを説き伏せ、キリツグをいっそどこかの地下室にでも括り付けてしまおう。嫌ならば腹を割って、練っている作戦を、掛ける想いを、彼の口から聞かせてもらおう。令呪を使おうと無駄だ、対魔力のあるセイバーならば行動を一瞬止めることは出来ても、行動の禁止などは不可能だ。
要するに、セイバーは、もう怒ったのだ。
二進も三進も行かない状況は、力ずくで変えるモノ。セイバーは決断した。
だが、二進も三進も行かなかった状況は、ここで進路を変えて急展開、急加速する。
「セイバー‼新手が‼それも三人‼」
アイリスフィールの悲鳴が、響く。
◇
打倒・衛宮切嗣という方針を立てはした。しかし明確にどうやってと言う部分は全く考えていなかったのが実情だ。というか、昨日の今日って辛抱効かな過ぎだろう、ケイネス何某さんよ。
自身の怠慢を棚の上に作った忘れて良い事入れに仕舞った後、目標相手に暴れ回っているというランサーのマスター、ケイネスへと毒憑く。はっきり言って衛宮切嗣を相手に準備不足で挑むことにはかなり抵抗があった。なんなら見送ってもいいかとも思った。だが、
「分かった。行こうおじさん」
セイヴァーが行くと行った。瞬間空気が、彼女に従う全ての疑似サーヴァント達がその決定に賛成したことが肌で理解出来た。
準備不足。情報不足。なんなら覚悟も決まっていない。それでも、決めなければならない。
「すまない桜ちゃん。おじさんとセイヴァーのお姉ちゃんはこれからお仕事だ。先にご飯を食べて、遅くなるようなら先に寝ておいてくれ」
「お仕事、こんな時間から?」
太陽はもう間もなく沈み切り、やがて宵の時間となるだろう。
聖杯戦争が動く時間帯だ。
「ああ、夜勤なんだ。ごめんな、桜」
「………うん。わかった。行ってらっしゃい、おじさん。…セイヴァーさん」
基本桜ちゃんが間桐家で我儘を言うような事はない。そりゃそうだ。魔術の修練と嘯いて蟲蔵に落とすような家で逆らうようなこと出来る筈が無い。だから、桜ちゃんはまた一人で食事の席に着くのだろう。
ああ、嫌になる。早く。一刻も早く。この子を平穏な日常に返してやりたいと焦る。
こんな家で、たった一人で食事を摂って、談話もなく、娯楽もなく、苦痛しかないような家で過ごす時間など、一秒でも短い方が良いに決まっているのに、間桐雁夜に、それを成し遂げる力が、無い。
「ああ、行ってくる」
覚悟は無い。死にたくなど無い。それはそうだ、そうだったんだ。ここに未練そのものがあるじゃないか。俺には、死ぬ権利なんて端から無かった。俺に出来る事は生きる事だけなんだ。
何かが変わった訳では無いが、思考が明瞭になったような高揚感を感じるまま、俺は扉に手を掛ける。だが、開ける前に肩に手が置かれた。甲冑を纏った黒騎士の手だ。
「リリィ」
「わたしの名前。リリィ。また、あそぼうね?」
◇
「おのれ‼猿風情が‼」
ケイネス対切嗣の対戦は思わぬ反撃を受けたケイネスの劣勢、と言っていい状況になっていた。
いかに魔術師であるケイネスと言えど『銃器』という近、現代を象徴する兵器を知らない訳が無い。そしてそれらの脅威が取るに足らない物であると、正しく認識していた。
切嗣の武装であるトンプソン・コンテンダー。やや大型の拳銃程度のサイズでありながら、単純かつ単発構造であるが故の堅牢性から.308ウィンチェスター等のライフル弾すら打てる代物だ。…その程度であれば、何の問題も無かったのだ。
それは或いは切嗣の先見性であったのかもしれない。このトンプソン・コンテンダーは更に魔改造を施され、使用弾薬は.30-06スプリングフィールド普通弾M1。減装すらされていない、本来ならボルトアクションライフルにでも詰めるべき代物だ。間違ってもこのような大型拳銃でぶっ放すものでは無いし、やれば例え銃身が改造によって耐えたとしても、肘から吹き飛ぶだろう。
だが、切嗣は魔術師だ。瞬間的な肉体強化によって衝撃を吸収し射撃を成立させた。ライフル弾は水銀による高圧膜をぶち破ってケイネスの右肩を貫通した。
本来であれば、この時点で決着していてもおかしくない程の負傷をケイネスは負った。空洞効果により右肩の筋肉、血管はズタズタになり、間もなく出血多量によって死に絶えるだろう程の重症だった。
尤も、やはり彼も魔術師。即時に体内の出血箇所を止血した。到底戦闘続行が出来るようなコンディションでは無いが。彼には意地とプライドがあった。
即ち『このような玩具に敗れるなど、あってはならない。』
事実、自立防御を抜いてくるほどの攻撃であると分かっていれば、防ぐことは容易いのだ。あとは馬鹿の一つ覚えのようにまた同じ手段に訴えようとしたアイツを、返す刃で殺せばよい。
そこかしこで炸裂する地雷を物ともせず、走査によって探し出して追い詰める。相手はこちらの索敵を搔い潜る手段を持っている。故に今度は見つからないように、死角に潜り込むように枝を伸ばして探知を行う。
既にこの建物の構造も把握した。不意を打つ手段は無い。
そしてついに、観念したのか破れかぶれか、先ほどの拳銃を左に、五月蠅いだけの玩具を右に構えて切嗣は姿を現した。
◇
起源弾
衛宮切嗣の有する武装に置いて最も信頼する武器。その説明すれば10行くらい必要だろうか。だが、その効果は単純明快。『魔術師及び発動魔術を撃てば相手は死ぬ』だ。魔術師相手に魔術的防御・治療・離脱を赦さないそれは当たれば勝利をもたらす必殺武器足り得た。
だが欠点もやはり存在する。
1.弾頭が一切の欠損、変形なく貫通した場合、効果を発揮するか未知数である。
何しろ弾頭に混ぜ込んだ肋骨の粉こそが発動の核だ。そこに触れることなく、弾頭が傷つく事無く貫通した場合、効果が発揮するかどうかは未知数だった。人体に当てた場合、骨などに当たらないとそのまま貫通するリスクがある。
2.物理的、或いは間接的な魔術防御。
仮定の話であるが、当然防弾チョッキやヘルメットで防がれた場合、この弾丸は唯の柔らかいFMJ弾だ。
そして、魔術的に瓦礫や鉄板を持ち上げて弾丸を止め、着弾時点で魔術干渉を切っていた場合でも当然効果は発揮しない。これらは先述した『魔術師及び発動魔術を撃てば』を満たしてないのだから当然だ。
3.弾数が限られている。
29発。残された起源弾の数である。今までに37発で37人殺してきたことを考えれば、10発もあればお釣りがくる。聖杯戦争さえ終えれば、こんなものはタバコ一本分の価値すらないゴミになる。だが、まだ終わっていない以上、無駄撃ちは出来ない。
故に切嗣は、相手が避けない状況を作り出す。
例えば、相手の研究成果に向けての発砲。それはまさしく自分の命より大事だったのだろう。魔術によって干渉し、死亡。
例えば、敵指揮官への発砲。魔術使いの男は肉体を強化して弾丸より速く動き、受け止め、握りつぶしてしまったが故に、死亡。
例えば、敵本拠地への発砲。一番手っ取り早く、楽な仕事だった物の一つだ。ターゲットが自身の魔術工房に手を加えている最中に工房の一部に発射。改造中の工房は崩壊した。死体確認の方が手間だった。
切嗣は今まで一度として、ターゲットの家族に向けての発砲をしたことが無い。
意味が、無かったから。
「ようやく諦めたか、ドブネズミ」
今回の相手、ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。
初めて出会った、自分より、魔術師としての使命より、妻を優先すると結論した男。
「まさかさっきと同じ手が通じるとは思うまいな、下種が」
何度も、何度もデータを見直して、プロファイリングをし直した。結果は同じ、あいつは、魔術刻印と妻ソラウの命を天秤に賭ければ、間違いなく妻ソラウを選ぶ。
令呪を、サーヴァントを、自身の命を天秤に賭けて、妻を選ぶ男だと、結論した。
ケイネス・エルメロイ・アーチボルトを殺す最適解とは…妻、ソラウを人質にして魔術契約後、ランサー含めて全員を殺害する。だった。
衛宮切嗣は同じ条件で、どうする?
「貴様が私に一矢を報いたのは、駆け引きでも奇策でも何でもない。ただの不条理という名の偶然なのだ。それを貴様に判らせてやる」
関係無い。知ることも無い。この男は、ここで死ぬ。だから、妻ソラウを人質に取る必要も、無い。
「このケイネス・エルメロイ・アーチボルトが、貴様の最期に講義をしてやろう、魔導を貶める罪深さをな‼」
最早見飽きたであろうキャリコM950のフルオート射撃、当然雨粒の如く防がれる。
後は、起源弾を放つだけ。この弾丸の弾速、威力を止めるなら渾身の魔術行使が必須。これで、決着する。
サブマシンの発砲音とは違う、体の芯に響くような発砲音。音の数倍早く動く弾丸、それを避けるように動く高圧水銀。
避けるように、譲るように、水銀の膜は弾丸の為に道を作り、視界が開く。
防御など、ケイネスはしていなかった。
反射的に切嗣は叫ぶ
「Time Alter Double Accel‼」
◆
この時のケイネスには、常に一つの圧が掛かっていた。
即ち、『いつセイバーが来るか分からない』だ。ランサーが抑えているとはいえ、やはり信用して任せきるには不安が…いや、強いて言うなら不審が残る。出来るだけ早く殺すに、越したことはない。
だからこそケイネスは、魔術師としての勝負に出た。
固有時間制御の攻略。この一点だけを考えれば、確かに魔術師としての勝負足り得た。
因果律にすら干渉するこの魔術に対して、ケイネスが取った手段は明快。
相手の行動範囲を完全包囲した空間攻撃。相手が倍速で動いたところで、こちらの月霊髄液は音速より数倍早い。薄い膜状にして取り囲む分格段に遅くなるが、それでも人体で発揮できる倍や3倍程度では如何にもならない。
ケイネスは切嗣のキャリコのフルオート射撃を遮ると同時に床を切断。音も立てずに降下して悠々とトンプソン・コンテンダーの射線から外れた。
後は意気揚々と先ほどの銃弾を放ち、満足げに踏ん反り帰っているところを捉え、押し潰してやれば勝利である。
「潰れろ。Fervor,mei Sanguis」
瞬間、ケイネスの魔術回路は、暴走した。
多分起源弾の直撃って効果無い感じなのかな。少なくとも綺礼は当たってるけど死んでないし。魔術回路が暴走した様子もない。
よくわかんね。