リリィちゃんをFate/Zeroに突っ込んだ安易な奴 作:鎖佐
あと、ランサーは幸運Eです。ご注意下さい。
◇
間桐雁夜は深呼吸した。完全な不意打ちだった。いや、攻撃を受けた訳では無い。むしろ攻撃した側だ。いや、それでも目の前の相手に何故、と言わざるを得ない
いや、いいや、言ってしまおう。減る物でもなし。聞いてしまおう。意味わからんし。
「何故此処にいる、言峰綺礼」
彼こそまさしくアサシンのマスターにして、聖杯戦争の表舞台から退場し、裏工作でのみ活動する者である筈だった。
「何故、とはこちらのセリフだ、間桐雁夜。今はキャスター討伐の為、互いの戦闘行動は禁止されている。アインツベルンに何の用だ」
考えていたのか、思いついたのか、淀みなく言い訳を述べるカソックが死ぬほど似合っていない男、言峰綺礼。彼が樹木の裏に潜んでいたのをセイヴァー…リリィが見つけ出し、疑似サーヴァントのアサシン枠へニールのナイフが樹木に突き立ったのだ。
「そうだな。だがお前にどうこう言われる筋合いは無い。これからキャスター討伐の為の情報交換に行くのかもしれないだろうが」
「現在何を思ったのかアインツベルンの拠点にランサー陣営が攻撃を加えている。私はその仲裁に来た。事態を混乱させたくない故、君は帰りたまえ」
「脱落した元アサシンのマスターがする仕事じゃないだろう」
「父の宸襟を悩ますキャスター討伐の為なら労を惜しむことは無い。キャスター討伐が為れば私はまた父の庇護下に入るとも」
「なら予めそう説明して欲しかったものだな。てっきり新しいサーヴァントを手に入れる為にマスター狩りに来たのかと思ったぜ」
マスター狩り。脱落したマスターが参加権を取り戻す最善策と言えるだろう。特に目の前の魔術師狩りの専門家とも言える聖堂教会の代行者ともなれば、マスター一人殺害してサーヴァントを得る、と言うのも選択肢として十分ある。
雁夜の言葉と共にリリィは戦闘態勢にはいる。
今の言葉を聞いたリリィが、自分を裏切って言峰に付く可能性を考えなかった訳じゃない。
なにせ、参加しているマスターの中で最弱であることは間違いないのだ。目の前の、マスター自身で十分以上に戦えるマスターの方が圧倒的に有利で、魔力供給どころか自分の体の負担を肩代わりしてもらっているのが現状の、いつ死ぬか分からない ような魔術師モドキ。比べ物にならないだろう。
リリィが裏切ることに対して、「裏切る」という言葉を使う事すら躊躇われる程に釣り合っていない。
しかし、リリィの視線は完全に前、注意はアインツベルンの城に向いている。
間桐雁夜に出来る事など、もうリリィを信じる事だけなのだ。
状況は、言峰綺礼の沈黙をもって膠着する。ギルガメッシュ相手に一矢を報い、その当人が最も関心を向ける相手が目の前のセイヴァーだ。不用意に刺激していい相手では無いし、勝算はほぼ無い。
セイヴァーとしても目の前の相手から目を離すわけにも行かず、かと言って間桐雁夜を一人にする訳にもいかない。目的地であるアインツベルンの城に向かわせるなどもっての外だ。
互いに、有効な手が存在しない。そんな膠着状態だった。
それを理解した言峰綺礼が、口を開いた。恐らく、言峰綺礼本人ですら意図しない、思いつきをそのまま言葉にしたような問い。
「時に、間桐雁夜。貴様は何故聖杯戦争に参加する」
「は?なんだ急に」
「純粋な興味だ。間桐家の束縛から離れ、一般人となった貴様が何故今更、聖杯戦争に参加しようと思ったのだ?」
衛宮切嗣ほどではないが、この男もまた十分理解し難い動機で聖杯戦争に参加していた。故に、目的の相手である衛宮切嗣の替わりに、別段興味など無いが、この男にも問うてみようと、そう思った。
「それを教える理由が何処に…」
「禅譲葵への恋慕。そしてその子供への親愛。そこまでは調べが付いた」
「なっ」
間桐雁夜のプロファイリングなど、言峰綺礼はとうに済ませていた。ギルガメッシュの我儘もあり、参加の動機など当然に。
「だが、だからこそ分からない。それは自身の危険を晒すに足る理由か?妻でも娘でもない、他人の妻と娘だ。いや、間桐桜は現在で言えば姪に当たるのか?だが、その程度だ。この聖杯戦争がどのような決着をしたとしても、遠坂葵にも、遠坂凛にも、間桐桜にも、危険は及ばない。違うか」
「違う」
「魔術師と結ばれてしまった事が、葵さんの不幸であり、魔術師の娘として生まれてしまった事が凛と桜の不幸だ。もう巻き込まれてんだよ。とっくに」
「―――仮に、そうであったとして、何故自分の身を危険に晒して迄参加する」
「―――ただ普通に。葵さんに、ただ普通に幸せになって欲しいから」
間桐雁夜は、一枚の写真を取り出した。
◆
海外の仕事から帰って来て、貴女から久しぶりに会おうって手紙が来ていた。
あいつとの子供なんて見たくもない。そう思っていたけど。気が付いたら分かったと返事を書いていた。
何度も迷って、何度も躊躇って、約束の時間を大幅に過ぎてから、約束の公園へ向かった。
そこにあったのは普通の幸せ。
間桐雁夜では、間桐家では絶対に、永遠に、100%叶いようのない、普通の、幸せ。
描くのに資料など必要としないような、公園で、二人の姉妹が遊んでいる。それを微笑みながら眺める母の姿、絵に描いたような幸せな光景だった。
パシャリ
言葉を出すより先にシャッターを切った。この写真一枚で、何かの賞でも取れそうなぐらい完璧な、幸福の写真だった。遠坂葵は挨拶や謝罪より先に断りもなく写真を撮るような非常識なルポライターになったのかと、随分とご立腹であったが。如何にか謝り倒して許して貰った。
貴女と過ごしていると、自分まで普通になれたんじゃないかって、勘違いしそうになる。
◇
「これの価値が、お前らには分からないんだろうな。魔術だとか、神秘だとか、そんな事に人生どころか、自分の子供まで巻き込むような屑にはよ」
「―――そうだな。私にはまるで理解出来ん領域の話だ」
自分が切り出した話題でありながら、膨れ上がった殺意がこれ以上の会話を拒んでいた。
緊張状態は遂にピークを迎えた。リリィが先か、綺礼が先か、両者は同時に踏み込んだ。
しかし、綺礼は拳を振りかぶるより前に、リリィは騎士を出すより前に後ろに飛んだ。
「そこで‼何をしている‼」
出来上がった空間に、第三者による第四者攻撃が突き刺さる。
誤字では、無い。第四者を使った、攻撃である。
槍兵を投擲武器として使用する武具。
本来、一つしか宝具を持たない英霊が槍兵を用い編み出したイレギュラー的な宝具、
シリアスに対してクリティカルな効果。青い光が高速回転しながらあらゆる魔術効果を無視し
投擲された空間をギャグ時空に変貌させる。
当然ブーメランのように投げた者の手元に戻ることはない。
ふと電波的な文字列が脳裏を掠める。余りに一瞬であったために一時停止でもしなければ理解できないような情報の塊であったが、まずは状況を整理する。
目の前には言峰綺礼、彼もまた目の前の光景に思考が止まり、静止状態。
やや下方向にはランサー、雪によって冗談のような埋まり方をしているが「セイバーに呪いあれ…」とつぶやいているためそこまでひどい状態では無いらしい。
アインツベルン城の方向を見ればセイバー、鎧姿で完全武装はまあ当然として、しかし剣を持たずに仁王立ちしている。まるでついさっき得物をぶん投げた後のような姿だ。
そのさらに後方の樹木の裏からセイバーのマスターが覗いている。怯えを含んだ視線の先は俺、でもリリィでもなく。何なら綺礼でもなく、
セイバーに向いていた。
まあそうなる。
「次から次へと一体何なのだ貴様ら‼」
「それはそうなんだけどさ‼何んでこうなんの!?」
間桐雁夜は雪から顔を出したランサーを指さして叫ぶ。
この場にいる全ての人の疑問だった。
一部始終を横で見ていたアイリスフィールですら、疑問だった。
◆
アイリスフィールから発せられた悲鳴のような続報。新手が三人。
二人ならまだ分かる。マスターとサーヴァントをカウントすれば二人だ。だが三だと?
今はたしか、キャスター討伐の為の休戦期間では無かったか?ん?聖堂教会からの追加ルールなんて馬鹿馬鹿しい、俺はそこら辺のサーヴァントを倒してさっさと聖杯で願いを叶えるぜ?とでも?
ルール無視は勝手だが、巻き込まれるこちらの身にもなってみろ。
セイバーは完全に切れていた。そして、行動も切れていた。
「ランサー、どうやらここまでのようだ。私はこれより新手の確認と撃退に向かう。そちらはどうする」
セイバーは即座に聖剣を収め、背中越しにランサーに問いかけた。
それを見たランサーもまた武器を収め、武装解除した。してしまった。
「どうもこうもない、私が仰せつかったのはセイバーの監視、無論ついていくとも」
「そうか、だが態々ご足労頂くのも悪い、移動は私に任せて欲しい」
「ん?そうか?いや大した距でおううううううああああああああああ‼‼」
セイバーはランサーの気が緩んだことを良いことに瞬時に加速、巧みな体捌きと魔力放出に任せた強引さでランサーを捕獲。渾身の振り回しによってランサーを遠心力で拘束することに成功した。これによりセイバーは片手でランサーを完全拘束することに成功したのだ。
「アイリスフィール、方角は⁉」
「え、え、えぇぇぇぇぇええええええええええ‼」
アイリちゃんはもうパンク寸前だ。
◆
「と、言う経緯だ」
「不憫すぎる」
「油断した我が身にも非はある。故にその同情的な視線をやめろセイヴァーのマスター‼」
復帰したランサーは俺を間に挟んでセイバーの対角に位置取った。新しい侵入者で、かつサーヴァントであるリリィを抑えるための位置取りだろう。それ以外の理由など無いはずだ。決してセイバーに対してリリィを盾にした位置にいる訳では無い。はずだ。
「さて、どのようなご用命か伺おう、セイヴァーのマスター。そして監督役の息子殿」
「先日うちのホテルが吹き飛んだんで、その報復に」
「何やら停戦命令を無視した戦闘行為が見受けられたため、事態収拾の為に」
セイバーは空を仰いだ。
「キリツグゥ‼貴方のやったこと全部‼裏目だ‼」
事態は、まだまだ悪化する。
◆
攻撃こそ最大の隙。
ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは、必ずこの弾丸を防御すると予測していた。彼のプライドが、魔術に頼らない兵器に魔術が破られたという事実を否定するために、必ず強力な防御によってライフル弾を停止、圧壊させるほどの魔術を使用すると。
その予想は決して間違いではない。と言うより、合っている。
だが人の行動と言うのは正確にコントロール出来るものではない。
ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは今回常に外的要因、特定すればセイバーとそのマスターの参戦を常に警戒していた。故にこの際多少の鬱憤が残ることを許容して、彼のプロファイルを考えればやや彼らしくない判断によって、弾丸の回避、返す刃での範囲攻撃を放ってきた。
音速を軽く2倍は超える弾丸を捕える水銀膜だ。当然この包囲網を脱出するには最低でも音速を超える必要がある。
咄嗟に発動した固有時制御のDouble Accelでは到底間に合わない
音速をだせるのか?と聞かれれば、
出せる。と答える。
付け加えるなら、その後死ぬ。と続けるだろう。
衛宮切嗣の最高出力『Time Alter Square Accel』
その魔術効果は『間に合う』
時間の流れから完全に逸脱し、速度の概念から完全に離脱することが可能な、魔法に片足を突っ込んでいる大魔術。
これを起動する際必要になるのは、『どういう事象を時間基準として』、『どういう行動をとるのか』という設定を入力すること。
今回の場合、『水銀膜の包囲が閉じる迄に』、『範囲外まで走って脱出する』に設定する必要がある。それが実際どれだけの速度なのかも分からないし、どれだけの距離を駆け抜ける必要があるのかも分からない。
そして、設定した行動が完結した瞬間に修正力が発生。衛宮切嗣は行った動作の辻褄を合わせるための負担が一身に掛かる。
100%死ぬ。だから、後は死に方の問題とすら言えた。
敵の手によって死ぬか、自滅によって死ぬか。
衛宮切嗣は、
「Time Alter Square Accel」
自分のケジメくらい、自分でつけるべきだと考えた。
既に水銀の膜は自分を通り越し、5m先でようやく閉じようとしている。起動した時点で水銀の膜が閉じる迄後0.001秒。『間に合う』という魔術が起動した以上。衛宮切嗣は当然のように離脱。去り際に起源弾を放り込んでおくことも設定している。
設定した行動が全て、0.0009秒程で恙なく完了。修正力が働き、衛宮切嗣の意識は完全に刈り取られた。
◇
「おはようございます。キリツグ、ここが分水嶺です。貴方が発する次の言葉に、貴方の命運が掛かっています。心して私に感謝の言葉を述べてください」
目を覚ました。
目の前には能面のように無表情の大英雄殿がいらっしゃった。大層ご立腹のようである。
ランサーは幸運Eです。