リリィちゃんをFate/Zeroに突っ込んだ安易な奴   作:鎖佐

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初戦



2

「なに?エクストラクラスだと?」

 

「はい。つい先ほどサーヴァントの召喚反応を検知いたしました。しかし、残るバーサーカーともキャスターとも反応が異なります」

 

聖杯戦争開始が近づく報告と共に挙げられた情報は、想像以上に眉を顰める物だった。

 

「まさかまたアインツベルンが?いや、前回の聖杯戦争においてアヴェンジャーは早々に敗北している。同じ轍を踏むユーブスタクハイトではないだろう。となると、間桐家か?」

 

 アインツベルンが犯した反則行為により召喚したサーヴァント、アヴェンジャーは結局最弱のサーヴァントとして僅か4日で敗退している。結局のところ、三騎士たるセイバー、アーチャー、ランサーが安定して強く、残るライダー、アサシン、キャスターは策次第。これに当てはまらない英霊など、さしたる脅威ではないのだ。

 

「無論、前回容易な敵であったとて、油断はしない。仮にも英霊として召喚されているならば、宝具は警戒して然るべきなのだから」

 

「では」

 

「ああ。手筈通り、最後の7騎目を確認次第、アサシンを使って遠坂家への襲撃を演出してくれたまえ」

 

 遠坂時臣は同盟相手である直弟子、言峰綺礼に指示を出す。聖堂教会と魔術協会の双方に席を置く綺礼は揺るぎない信仰心を抱く敬虔な信徒であると同時、根源探求に理解を示す稀有な学徒でもある。

 当人は根源到達を最終目標とはしていないが、根源到達、聖杯降臨という奇跡の成就に同意し、最大限の助力をしてくれている。それこそ、大聖杯が令呪を与える程の熱意でだ。

 

「御意に」

 

 この戦い、勝たねばなるまい。

 最強のサーヴァントに、聖堂教会の協力。信のおける弟子はサーヴァントを従えて助力してくれている。

 

 

 そして同日の日没前、ついに最後のサーヴァント、キャスターが召喚された。

 

 

 

 

 

 

 

 沖沿いの倉庫街にはいくつもの船舶用コンテナが並べられている。本来であれば用心のために警備の人員くらいいるべきだろうが、今は何故か一人として姿は見えない。

 理由は明瞭。神秘の決闘は秘匿されるべきであり、なにより無辜の人々を巻き込むなど英霊のなすべきことでは無いからだ。

 故にここには人払いと認識阻害の結界が張り巡らされている。まかり間違っても一般人が異変に気付き、警察などに通報しないようにだ。

 

 つまり、ここはすでに戦場であり、今ここに足を運ぶ貴婦人と男装の麗人は戦いに身を置く戦士である。

 

『よくぞ来た。 今日一日この町を練り歩いて過ごしたものの、どいつもこいつも穴熊を決め込むばかり』

 

 そして正面に現れた2槍を持つ軽装の男。見るまでもない、語りに込められた闘気、醸し出す戦意。

 

「俺の誘いに応じた猛者は、お前だけだ」

 

 生粋の戦士である。

 

 

 

 

 

 間桐雁夜は焦っていた。臓硯を含めて(むしろ自分がオマケ)戦略を練り、昨日発生したアサシンとアーチャーの対決について、これをアサシン陣営から他陣営向けのブラフであると断定、おそらくはアサシンを脱落に見せかけ、マスターの意識を防衛から攻勢(アサシンはマスター狩りの最適クラスであるため、不用意に自サーヴァントを攻勢に使えない)に向けさせるものと判断した。アサシンであれば蘇生と言うよりは死の偽装が有力だろうと臓硯は語っていた。

 そしておそらく、これを期に他陣営も一当てしようと行動するはず。そのうちの誰かに戦いを挑み、セイヴァーの戦闘スタイルを誤解させる事が目的だ。サーヴァント同士の対決は使い魔や遠見の魔術で観察する陣営がほとんどだろう。故に、この一戦でこちらもブラフを張る。のだが

 

(不安だ‼本当に戦えるのかこの子は⁉)

 

 ちらり視線を向けると、そこにいるのは桜よりもホンの僅かに高い身長の少女がいる。出会った当初にあった肉腫は成りを潜め、純白のワンピースを着た少女。胸に手を当て目を閉じて集中する彼女の様子は、はっきり言ってピアノコンクールに出場する少女にしか見えない。

 

 英霊とはいえ筋力も耐久もEである。俊敏B+は条件付きでAを超える、曰くかなり緩い条件らしく、先日使い魔の蟲越しに見た射出攻撃なら見てから避けられるし、防げる。何なら反撃の一つも打てると、騎士は豪語していた。だが改めてサーヴァント同士の対決をみて異次元であると理解できる。速すぎて視認できないなんて当たり前、剣圧で衝撃波が出ているし、踏み込みでアスファルトは砕けている。後ろの鋼鉄性のコンテナが豆腐か何かのように斬られている。それはつまり、鋼鉄を斬りながら剣速が落ちないということを意味している。

 

「なあセイヴァー、ホントにやるのか」

 

「うん」

 

「今更怖気づくな、みっともない。聖杯戦争は最終的な勝者になればそれでいいとはいえ、我々は仮にも御三家として警戒されている。霊体化が出来ない以上セイヴァーの存在は各陣営が疑問に思うことになる。見た目から侮られるのは不利を招く。戦う理由は利益だけでは無い。戦わなければ、損害を被ることになるからだ」

 

 彼女の騎士が実体化して俺の臆病風に檄を飛ばす。そうだ、弱いサーヴァントだと思われるのは害しかない。加えて何故か、彼女は霊体化が出来ない。つまり、間桐家の周囲を監視していれば容易に発見、追跡出来てしまう。であれば、「倒すためには何らかの方策が必要である」と思わせる必要がある。

 

「二人同時に相手するのは危険だ。こんな序盤でサーヴァントを失うヘマは誰もするまい。令呪の一画でも削れたなら行幸だな。それに、ああは言ったが中々難しい敵だ。見えない剣に、防御を無視する槍。特に槍は守りの宝具の結界を抜いてくる可能性がある」

 

「…なら、もう少し様子見だ。あの遠坂のサーヴァントなら、すでに手の内が割れている。のこのこ出てきたところに一撃入れてやれば、遠坂の奴なら令呪を使ってでも撤退するはずだ」

 

 その言葉には多分に私怨が含まれていた。だが目論見としては悪くない。アーチャーには単独行動スキルがある。自身は魔術工房に籠り守りを固め、アーチャーで攻める。まさに黄金戦術とも言えるやり方で、今もこの戦場を見ている可能性は極めて高い。そしてこれは仮説だが、アサシン討伐の際アーチャーは明らかに過剰な火力でアサシンを吹き飛ばした。逆に、あの宝具は余り精度が無いのではないか、ともすれば射撃宝具ではない物で無理やり射出させているようにすら見えた。

 

「予備動作、弾速は問題ない。あとは射程と、同時に何発撃てるかが問題か。とはいえ、あれら二人と戦うことに比べれば容易いだろう。それでいく、いいか、セイヴァー?」

 

「うん」

 

 こくりと頷き返事を返すリリィ。召喚してから2、3日は無言だったが、最近ぽつぽつと会話できるようになった。それに、気になっていた肉腫と呼ぶようなモノが今はきれいさっぱり無くなっている。それについての説明は、残念だが受けていない。信用も信頼も足りない。

 

「む、戦局が動いたぞ。ランサーの二槍目の宝具、治療不可能の呪いだ」

 

「おいおい、覚えがあるぞ。二槍使いで、不治の傷をあたえる槍を持つ奴。いや、ならあの赤い槍は防御じゃなくて、魔力を断つ槍。ゲイ・ジャルグとゲイ・ボウ‼真名はディルムッド・オディナ‼」

 

「ほう、真名を見抜いたか。となると、死因はなんだ。サーヴァントにはそれが特攻なのだろう?」

 

「…たしか、猪。呪物と化した魔猪による負傷だ。その後、因縁あるフィン・マックールに見捨てられ死亡する」

 

「ほう…猪か。なら有効打になりうる手が一つある。加えて真名も分かった。恐らくは、全マスターが見ているこの場面で」

 

 それはつまり、今最も劣勢に追いやられているのはランサーである、ということだ。

 

「なら、無理にランサーを倒す必要はなさそうだな。むしろ、セイバーへの不治の傷が治る可能性を考えると…」

 

 ランサーは、倒さない方が良い。その宝具で他陣営に傷を与えて回ってくれるとありがたいくらいだ。

 

 もしアーチャーが現れないならセイバーを奇襲、マスターが直ぐそばにいるため、かなり厳しい戦いを強いることが出来る筈。そう算段を付けたとき、

 

 雷鳴が轟いた

 

「AAAALaLaLaLaLaie‼‼」

 

「新手‼ライダーか⁉」

 

「混迷極まって来たな。ここで奥義の一つ二つ放てば、二人程落ちるのではないか?」

 

「そんな博打出来るか‼!?」

 

 くく、と小さく笑う騎士を見て、ちょっとしたジョークであると理解する。意外な一面だ。

 ともかく、三騎士と比較して宝具の数に優位を持つライダーは運用次第で三騎士と真っ向勝負が可能だ。真名が割れたランサー、手傷を負ったセイバーを一網打尽にするべく現れたと考えるべきか?

 

『双方、剣を収めよ。王の前であるぞ。 我が名は征服王イスカンダル。此度の聖杯戦争においては、ライダーのクラスを得て顕界した』

 

 

 

 

 

「おい。自己紹介したぞ。今」

 

「ああ、そうだな。…偽名?」

 

 雷を操り、2頭の牡牛で戦車を牽く。イスカンダルを名乗るライダー…

 

「………………いや、……………………………………多分本物だ」

 

「…」

 

 なんとも言えない空気に、きょとんとするセイヴァー。ああ、可愛らしいなと思ってしまった。魔女に殺されるぞ、俺。

 

 

 

 

「サーヴァントの勧誘か」

 

「聖杯が要らないっていう珍しいサーヴァントがいれば、まあ不可能ではないよな」

 

「ふん、その上で、信用に置ける。が最重要だろうよ。…イスカンダルの死因は?」

 

「諸説ある。遠征先での熱病死、深酒による死、毒殺だ。」

 

 

 サーヴァントである以上例えそれが実際の死因で無かったとしても、そう信じられていれば致命的なダメージを負うことになる。だが、3つの死因が今なお究明されていない以上。どれも微妙だ。

 

「成程な。真名を知られるリスクと、名乗ることで得られる信用を天秤にかけて後者を選んだのか」

 

「そんな事考えるタマか?何も考えてないだろうアレ」

 

「覚えておくといい。物事の判断に対し、天秤にかけた事柄が揺れ動く者と、揺れず唯振れたモノを選び取る者が世の中にはいる。優劣は無いが、思考回路が違う。そんな相手は理解出来ないと知っておけ」

 

 …天秤か。確かに比べるというのはそういうことだ。だが、俺には理解できない。

 比べれば比べる程、両皿にどうしようもない程大切なモノが乗っていると理解してしまうのだ。己を天秤として、両皿に、大切なモノを乗せていく。乗せて乗せて乗せ続けて。ついには天秤が壊れるくらい乗せてしまった。

 

「感傷は後だな。そろそろ来る。準備は良いな」

 

「それはこちらのセリフだ。令呪を使うなら今だぞ」

 

「…いや、使わない。頼む。勝利を俺に」

 

「…行くか、セイヴァー」

 

「うん」

 

 

身を隠していた路地裏から少女は気負わずに歩き出す。ふと、歩みを止めて振り返る。

 

「まかせて」

 

 

遂に、黄金の王と白い少女が降り立つ。

 

 

 

 

 

 

「問いを投げるか、雑種風情が」

 

 黄金のアーチャーが霊体化を解いて戦場に降り立ち、ライダーと睨み合いとなっていた

 

 「我が拝謁の栄に浴していなお、この面貌を見知らぬと申すなら…」

 

 

 コン。

 

 小さな。しかし存在感のある足音がした。場所はこの戦場を一望できる倉庫の屋根。そこに白い少女が降り立った。

 

「…おい、アレも~、なんだ。もしかしてサーヴァントなのか?」

 

 突如現れた場違いな少女。だが、此処に現れる以上はサーヴァント又はマスターであり、この状況ならサーヴァントと考える方が自然だ。

 

 だが、英霊と言うからにはもっと戦えそうなのを想像する。ライダーは思わず、隣のマスターに問いかけた。

 

「あ、ああ。間違いなくサーヴァントだ」

 

「ほう、どんなもんだ」

 

「殆ど…Eランク。筋力も耐久もEだ。しかも、魔力が低下しまくっていて、AランクからDランク迄落ちてる」

 

「……何しに来たんだ?」

 

「…喧嘩の仲裁とか?」

 

 外見も、実力も、まかり間違っても白兵戦をする質ではない。魔力Aを見ればキャスターかと考えるが、なおのことこの場に現れる意味が分からない。否、分らなかった。

 

「…小娘、我が話している時に良くも腰を折ってくれたな。あまつさえ、我を見下ろすとはどういう了見だ。今すぐ額突き謝罪を述べて立ち去るならば、一度ばかり見逃してやる。疾く失せよ」

 

 黄金の王の背後に、金の波紋が広がる。誰もが知る、アサシンを撃退した宝具だ。そこから覗く剣と槍は、切っ先を少女に向けている。

 

 だが、当の少女は体を強張らせるも、首を横に振る。どう見ても、戦う者の素振りではない。

 

「そうか、では死ね」

 

 躊躇いは無かった。剣と槍は音速を超えて射出。残るのは少女の肉片ばかりだと、誰もが思った。

 

 

 倉庫が吹き飛ぶ煙の中から少女が飛び出した。

 

「ほう。躱したか。よい、そんなに欲しいならもっとくれてやる。有難く受け取るがよい」

 

 さらにアーチャーは砲門を増加。10発が時間差で射出される。

 

 身動きの取れない空中、避けられない筈。だが、少女は、空中で跳ねた。2本回避。

 さらに飛び上がった地点から滑るように移動。3本回避。

 落下を再開すると同時、彼女の隣に突如何者かが現れる。黒い縄を射出し、街灯に繋がる。一気に高度を下げ地面に着地。3本回避。

 さらに地面を飛ぶように走り出すと同時、その隣に甲冑を着た槍持ちの男が現れる。迫る宝具を弾きながら凄まじい勢いで距離を詰める。1本回避。

 

 甲冑の男が消え、飛び上がってアーチャーに迫る。追加で放たれた槍を次は異形の男が巨大な爪でもって弾き飛ばした。

 

 黒衣の騎士が現れ、剣を抜く。だが、アーチャーはすでに武器を手に取っていた。斧を少女に叩きこまんとすでに振りかぶっている。

 

「褒美だ。我手ずから殺してやる」

 

「侮り過ぎだな。貴様」

 

 盾が、斧を防いでいた。首のない騎士が盾でもって斧を防ぎ、返す刃を奔らせる。

 黒衣の騎士が、アーチャーの首を斬り落とさんと迫る。

 

 

 

 

 

 

チャリィィン……

 

 

 黄金の王は、二つの剣を避けた。だが王の着地の後に続いて鳴る清涼な音。その元を見ると、金の装飾品が落ちていた。間違いなく、先ほどまで王の耳についてた耳飾りだ。

 加えて、王の鎧にも一文字の傷が入っている。貫通はしていないが。確かに届いていた。

 

 

 

 

 この場は、戦場である。

 集う全ての者は、戦士である。

 皆がそう、理解した。

 




なお今作のリリィちゃんは初見ゼロ乙Cルート攻略者であるものとする
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