リリィちゃんをFate/Zeroに突っ込んだ安易な奴 作:鎖佐
黄金の王と白い少女の攻防は、少女が王に二撃与えて静の状態に戻る。
「…ククク、クハハハハ、フハハハハハハハハ‼良かろう雑種‼褒美だ、好きに取るがいい‼」
黄金の王、アーチャーはさらなる砲門を追加、その数は百に迫るか。対面する少女も僅かに後ずさる。
「どう見る坊主。さっきから現れる剣士やら槍兵やら。まるでサーヴァントを複数従えるマスターのようでは無いか」
「いや、近いんじゃないか?現にサーヴァントを降ろす魔術があるなら、サーヴァントを召喚するキャスターがいても可笑しくない」
「成程な。因みに、あれらのサーヴァントらしきもののステータスは見れたか?」
「いや、全く見えなかった。恐らく聖杯戦争の英霊召喚とは無関係なんだ」
二人はすでにあの少女がアーチャーによって殺されるとは思っていなかった。10の砲撃を躱しながら反撃したのだ。なら100を躱しきることくらいなら、出来ても可笑しくない。
だが、展開された100の武器群は射出することなく収められた。
「…‼ 貴様ごときの諫言で、王たる我に退けと?大きく出たなぁ、時臣?」
言動から察するに、マスターによる撤退命令だろう、恐らくは令呪によるモノ。
「命拾いしたな、小娘…‼ ん?小娘、貴様…」
捨て台詞を残して去るかと思った際、アーチャーは少女を見て黙考する。
「成程…そういえば我はそういう質であったな。……良い、小娘。此度の狼藉は貴様の価値を示すためのよい余興であった。 ホレ、褒美だ。取っておけ」
そういってアーチャーは残った方の耳飾りを少女に放り投げた。
少女は警戒もなくそれを受け取る。
「雑種ども‼ 次までに有象無象を間引いておけ、我と見えるのは真の英雄のみでよい」
そう言い残し、アーチャーは去っていく。
残るは4騎
「ふむ、どうやらアレのマスターはアーチャー自身程剛毅な質では無かったようだな」
当然、注目が集まるのは白い少女。アーチャーから渡された耳飾りをチャリと耳に付けていた。
「…女の子にこんな事言いたくないけど、似合ってないな」
「言ってる場合か。あ奴、まだやる気みたいだぞ」
少女の隣に現れたのは、黒衣の騎士。
「いけるか」
「うん」
「ならせっかくだ。手傷のあるセイバーあたりから脱落願おう」
「わかった」
言うと同時、滑るように加速する少女の隣に先ほども見た甲冑姿の騎士が槍を構えて突撃する。少女はそれにしがみ付いていた。
「速い‼というか、無茶苦茶な‼」
「ふはは、見習わんか坊主‼とはいえ、流石にこっちに飛び火するのは受け入れがたいぞ」
間合いを瞬時に詰め、セイバーに迫る。間合いの外側で少女が騎士から離れると同時に騎士の渾身のチャージが放たれる。
セイバーはこれを体捌きにて回避。先ほどの戦いを見ていれば、守勢に回れば手数の違いで圧殺されかねない。次の手は剣士の一撃、不可視の剣を添えて僅かに逸らし、魔力放出で埒外の体捌きを見せる。立ち位置は少女の背後。
予想外の動きに少女はセイバーを見失ったように見える。相手は戦士、手心は侮辱である。
上段からの一撃は、見事に外れた。
何のことは無い。先ほども見せていた滑るような加速だ。彼女の背後に僅かに発生する羽のような魔力の残滓は、まるで彼女が天使から加護を受けているかのようだ。
「っつ‼」
呆けている場合ではない。剣士から反撃の切り上げ、こちらは剣を叩きつけて姿勢が悪い。故に勢いを殺さず、跳躍と回転。前方宙返りのような形で回避し、反撃に打って出る。だが、
「ここで…‼」
目の前には盾。背後に剣士が控えていて。初見の女がモーニングスターを振りかぶる。
反撃、回避、防御。すべて選択肢が詰められている。ならば仕方ない。最も御しやすい剣士の攻撃を受ける。
そう判断した時だ。
「悪いが邪魔立てさせてもらうぞ」
ランサーの二槍が少女に迫る。首無しの盾持ち騎士が振り返り、二槍を盾と剣で弾き返し、剣士が反撃する。
モーニングスターは単体なら脅威ではない。剣でいなしながら跳躍回避。
状況はまたも静の状況へ移る。
「戦場に立つ雄姿、騎士と戦士を導いて戦う様。さぞ武勲高き英雄と察するが、そなたの名を聞かせてもらおう」
「敵に態々名乗る必要があるのか?彼女に武勲などない。ただ救った者としての事実だけがある」
「ふむ、伝承に無いサーヴァント、と言うことか?だが、不便だろう。クラス名くらいは告げて欲しいものだ。察するに変わり者のキャスターだと思うのだが」
黒衣の騎士が少女に視線を送り、少女は頷いて返す。
「…エクストラクラス。セイヴァー、です」
『彼女がエクストラクラス。セイヴァーです』
「成程。流石は間桐家、いや間桐臓硯。凡俗に落ちた男を使っていったい何をと思っていたが…よもやこのようなサーヴァントを」
『セイヴァー…いったいどういう意味でしょう。セイバーは最早明らか。意味合い的には…』
「救世主。か、恐らくは廃れた宗教の教祖のような者だろう。戦いを急ぐ節から、魔力の供給が足りていない。故に出来るだけ短期決戦でこの聖杯戦争を終わらせたい…そんな意志が見えるな」
『セイヴァーに従う者共を疑似サーヴァントと呼ばせていただきます。彼らのステータスは視認できず、あくまで彼女個人の能力によって疑似サーヴァントは実体化しております。セイバーと剣士の疑似サーヴァントを比較して、恐らくランク一つ分か、二つ分は低いものと思われます』
「綺礼、君のアサシンと比較した場合は如何かな」
『一騎ずつ比較した場合は、圧倒的に向こうが有利でしょう。ですが、セイヴァーは最大で3騎のみを使っております。種類は剣士、槍騎士、首無しの盾持ち剣士、モーニングスターを使う修道女、強靭な爪をもつ怪物、縄を放つ男。以上の6騎を確認しております』
「…セイバーよりランクが低いとはいえ、それだけの疑似サーヴァントを状況に応じて使い分けるサーヴァントか」
『厄介ですね』
「ああ、極み付きだ。…令呪を切ったのは失策だったか?」
『気になされているのですか?』
言峰綺礼が言うのは、先ほど帰還した英雄王、ギルガメッシュの一言だ。
―――「時臣、失策であったぞ」
唯その一言のみを告げて去っていったギルガメッシュ。恐れていたほどの関係悪化は無かったが、彼の去り際のセイヴァーへの態度が気がかりだった。
「最後のセリフ。 英雄王はセイヴァーを真の英雄であると認めたということなのか」
『英雄王の真意までは、』
「そう、だな。ふむ、戦局はお開きか。ランサーとライダーは真名が判明、セイバーは不治の傷を負い、私も令呪一画を消費。終わってみれば、間桐の一人勝ちか」
『ええ、この第一戦の勝者は、間違いなく間桐でしょう』
時を遡って戦場にて、セイヴァーとランサーが相まみえていた。
「セイヴァーか…。悪いがセイヴァー、このセイバーとはすでに俺が先約を交わしている。続けるというのなら、二対一だぞ」
「分は悪いが不可能ではないな。第一このような戦い、そう長引かせる必要もない。相手して欲しいというのならセイバー共々相手になろう」
「出来れば、そなた等ともいずれ尋常な勝負を挑みたいと思っているのだがな」
そう言ってランサーは騎士から少女に目線を送る。
少女はその視線に気丈に睨み返し………目を逸らした。
「ねえセイバー、あれ…」
「はい、黒子の呪いですね。あのような少女に臆面もなく呪いを行使するとは」
「おいランサーとやら。今すぐその黒子をその黄色い槍で抉り取れ。さもなくば殺す」
そういえば、そんなものがあったなとランサーはしょっぱい顔をする。セイバーには対魔力とその意志で跳ね除けられたが、目の前のセイヴァーには対魔力は無く、恐らく恋愛方面での経験が無いのだろう。まあ、四六時中あのような堅物の保護者がいるのなら、さもありなん。
『何をしているランサー。その黒子の呪いが有効だと分かったのだ。先の戦いからして、優先するべきはセイヴァーの方であろう。とく仕留めよ』
「しかしマスター。周囲にこれだけのサーヴァントが控えている中では、迂闊に戦いを挑むことも…」
『…イスカンダルであったな。これは我がサーヴァントの決闘である。邪魔はするまいな。そうであったのならば、後ろに乗せている平凡なマスターがどうなるか、考えておくことだ』
「ふむ。吾もまたセイヴァーなる者の実力は気になるところ。戦うというのなら止はしない」
『戦局は私が見ている。他の者が怪しい動きをすれば、即座に令呪を使う。気にせず戦うがよい。ランサー』
「……御意。我がマスターよ」
アスファルトを砕いて少女に迫るランサー。初撃は赤槍の叩きつけ、照れもじっていたセイヴァーはこれを難なく回避。続く黄槍の突きを跳躍。剣士の剣撃が首を狙うも、跳ね上げた赤槍で剣を弾く。
「ふ、セイバーに比べれば、随分と軽い剣では無いか」
「ふん。剣の重さなど、首を落とせるだけの力があればよい」
「抜かせ‼」
剣士に対してさらに黄槍の突き、赤槍の中程を持っての叩きつけ、黄槍の突きあげ。一息の間に三連撃。だが少女は滑るように回避し、ランサーの頭上すら超えて跳躍する。
(この少女、回避センスが半端ではない‼自ら回避に専念することで、剣士が常に攻勢に出てくる。かと言って、剣士そのものを攻撃しようにも槍が届くより先に霊体化して消えてしまう‼)
故に攻防はランサーの攻撃が3、剣士の攻撃が7の割合だった。
ランサーは常に盾持ちや槍騎士に備えている。相手もまた、こちらが隙を見せた瞬間に一撃を叩きこむべく機を狙っている。
(先ほどのセイバーとの王道の死合とは違う。己の戦技の競い合い。先にボロを出した方が負ける技勝負。心踊る‼)
だが、勝負は決さなくてはならない。赤槍を大きく薙ぎ払う。低い身長に向けて放つのは癖があったが、戦いのさなか姿勢の調整は出来ている。穂先でなくても槍全体が打撃武器として、少女の着地を狙う。彼女の跳躍と空中移動は一度ずつ。ならばここは
(盾持ち‼)
分かっていれば、止められる。必殺を籠めて放った全力の殴打。それを盾に触れるより先に停止させる。首無しの盾持ち剣士は攻撃を受けた方向へ反撃している、盲目の剣士なのだ。その技、恐れ入る。
だが、攻撃を受けなければ反撃も出来まい。彼女はまだ着地していない。黄槍が唸る。
(剣士の攻撃は止めた赤槍で受ける。恐らく防ぎきれまいが、霊格までは届かない‼)
黄槍は彼女の心を捉えていた。
ドン
体に響く重厚な音が、港に響いた。
もうちょっとだけ続くんじゃ(倉庫街戦)