リリィちゃんをFate/Zeroに突っ込んだ安易な奴 作:鎖佐
「免許」という物が存在する。
一般的には法律によって禁止、制限されている行為に対し、その人物が十分な知識と技術を有し、責任能力があることを証明するものだ。
そして、免許証と一言だけ言えば大抵の人は自動車免許を想像するだろう。それはこの日本という島国において極めて一般的な身分証明書となるからだ。なんであれば、自動車免許としてではなく、身分証明として獲得する者も多いくらいだ。
さて、当然人間である以上学んだ知識も培った技術も、触れない時間が多くなれば忘れ去られ、鈍っていく。だが免許が取り下げになることはない。所謂ペーパードライバーと呼ばれるものだ。
果たして、ペーパードライバーは自動車の運転に対して十分な知識と技術を有していると言えるだろうか。
答えは否。言える訳が無い。つまり、自動車免許など唯の飾り、日本のえらい人は、それが分らないのだ。
「ね?ね?結構スピード出るもんでしょこれ‼」
無邪気に玩具で遊んでいるのはアイリスフィール・フォン・アインツベルン(9歳)だ。筋金入りの箱入り娘であるアイリスフィールは玩具の性能を最大限発揮できる今、最高に生を実感していた。
一応キリツグからルールとして日本の道路交通法なる物を学んだが、とりあえずぶつからなければよいのだろう。最早手足の如く操れるこの玩具、メルセデス・ベンツなんちゃらならば対向車が体当たりを仕掛けても避けられる自信がある。だから免許なんかなくてもモーマンタイなのだ。
「専門の運転手を雇っても、良かったのでは?」
彼女の付き人として助手席に座るのは男装の麗人、セイバー。凡そ露見しつつある真名を名乗れば、アルトリア・ペンドラゴン。恐らく世界で最も有名な英雄にして、聖剣の担い手だ。
そんな大層な英雄であっても無邪気な少女(人妻)の我儘を断ることは出来ず、運転席を明け渡してしまった事をやや後悔している最中だ。
いっそ下手であればやんわりと言いくるめて変わることも出来たろうに、セイバーから見てもそれなりに様になったハンドリングであったために陳言しづらい。オブラートに包みまくった苦言を零すが。
「ダメよ。つまんない、じゃなくて、危険ですもの。ここで敵に襲われたらどうするの?」
まあ通じる筈もない。ご丁寧に本音と建て前両方を述べられては更なる反論も出来ない。
内心では騎乗スキルもある自分が運転した方が安全であることは確実だが、このお姫様の我儘を覆すのは容易では無いだろう。諦めと共に納得しようとした瞬間、セイバーの第六感が警笛をならす。
「止まって‼アイリスフィール‼」
言うが早いか、セイバーはすでにハンドルの制御を奪い、急ブレーキをかける。高加速状態から適切なブレーキングにより車体は驚くほどに安定して停止する。
状況は、安定しているとは言い難いが。
「アイリスフィール、車から降りて私の傍から離れないでください」
正面に要るのは、矮躯の老人。見た目相応であれば、メルセデス・ベンツの車体によって吹き飛び、山の斜面を滑落していくことだろう。だが、そうはならない。
「この気配、サーヴァントです」
◇
「キャスター討伐命令、か」
昨夜の戦いの翌日、教会からの最優先通達事項が各陣営に伝えられた。内容は『聖杯戦争のルールを無視し魔術の神秘を脅かすキャスター陣営の討伐令』だ。この間、他のマスターは互いの戦闘行為を禁止されている。もし破れば、恐らく令呪獲得の機会を失うことになるだろう。
「まあ、真に受ける奴の方が少ないだろう」
「そうなの?」
そんな状況下でセイヴァーとそのマスター、間桐雁夜は私服姿で外出していた。顔色の悪さを化粧で無理やり隠し、少女と手を繋いで歩いている。
はっきり言って全く似ていない二人であるが、雁夜は魔術の修練により髪色が抜けて白くなっており、偶然にも少女と似たような髪色のため妙な勘繰りを受けることは無かった。
「ああ、遠坂時臣と、教会の監督役の息子が師弟関係にあるらしい。繋がりを疑って当然だ」
「…じゃあ、その教会の人って、すごく危険なんじゃ…」
「…ああ」
監督役が有する、無数の令呪。もし監督役と遠坂時臣がグルだった場合、無数の令呪を時臣は有していることになる。
「ッチ クソ野郎め」
令呪は空間転移すら叫ぶだけで行使可能になる切り札だ。例えアーチャーが出払っている隙に遠坂邸に侵入し、暗殺しようとしてもすぐさま呼び寄せられてしまう。その後も令呪の大盤振る舞いなどされては勝ち目が無い。
絶対に許せない、確殺を誓った相手だが、方法を考えれば考える程その背中が遠すぎた。セイヴァーという望外の好相性のサーヴァントと500年の妄執を抱く妖怪を使っても、まだ難しい。
『貴様の目的は理解している。ある程度は付き合うが、優先順位を間違えるなよ。計画も戦略も貴様では能力不足だ。現場の人間は目先のことに集中しろ』
思考の渦に飲まれそうになっている雁夜を叱咤するのはセイヴァーの疑似サーヴァント、黒騎士だ。今は特殊な霊体化状態なのか、赤い光が宙に浮かんでいる。或いはそれが魂なのだとしたら。
(この子は、魔法使い、なのか?)
抱いた疑問を頭を振って掻き消す。そんなことに関心はない。大事なのは桜の救出だ。その次にセイヴァーとの約束があり、それ以外のすべてが雑事である。
意識を切り替えた先で見たものは、冬木が誇る最高級ホテル、冬木ハイアット・ホテル…跡地である。
突如発生した大規模災害であったにも関わらず、事前に火災警報器が発報していた為人的被害なし、テレビでは朝から奇跡の倒壊事件と言われている。
『…死臭も血痕もなし。ランサー陣営は無傷でここを去っているわ』
そう断言するのは異形の魔女だ。水を操る魔法使いである彼女は周囲の水気に干渉し、周囲一帯に魔術師の痕跡が無いことを告げる。
彼女こそ間桐臓硯に対する切り札であるが、その作業の手を止めて迄付き合ってもらったのは此処にいたであろうマスターが脱落したのかそうでないかの確認のため、だけではない。
『魔力の残渣は2種類、どれも爆発や破壊の為に振るわれたモノではないわ』
つまり、倒壊の原因は魔術を使用しない完全物理攻撃だということ。地震大国である日本の高級ホテルがこうも容易く倒壊するなど早々考えられることでは無い。いったい何キロの爆薬を使えばこうもキレイに潰れるのか。
これをやった人間が、もしタンクローリーをジャックして間桐邸に突撃したらと思うとゾッとする。あの家は対魔術ならともかく、物理に対してそこまでの強度は無い。そして間桐の蟲は陽の光が弱点だ。匠の技によって風通しや日当たりが良くなってはたまらない。
「キャスター討伐は遠坂に任せよう。どうせ横からハイエナのようにかっさらって行くに決まっている。まずは衛宮切嗣を排除しよう。セイバーのマスターは女の方らしいからな。無関係な外部の魔術師と戦っても、責められる云われは無い」
この方針は間桐の妖怪にも概ね同意を得ることが出来た。
次の相手は、衛宮切嗣だ。
◇
「してやられたよ。ああ、認めよう、これは私の失態だ。よもや魔術の神秘を競う場で、周囲の被害を考えもせず、あのような玩具で私の命を狙う愚物が居るとは想定出来なかった、私の落ち度だとも」
「我が主よ。卑劣漢の思考回路など想定するに無意味です。私としてはあの倒壊を完璧に防ぎ切った魔術の手腕に敬服の念が堪えません」
「ふん、その程度の事は当然であろう。腹立たしいのは用意した悪霊共を己の手で始末しなければならなくなったことだ」
ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは敬虔な魔術の学徒だ。神秘の秘匿は徹底しなければならないという信条から、ホテル倒壊に巻き込まれながらも自身の魔術工房に解き放っていた魍魎、悪霊を瞬く間に駆逐し、魔力炉を安全に停止させて見せた。その手腕は絶技と言うほかない。
ランサーとしてはその倒壊中、トラップの処理に手一杯になる主と奥方の守りを完全に任されたことが嬉しかった。自身の能力に信頼を置き、主は魔術師としての使命を全うしたあの瞬間、自分たちはまさしく理想の主従であると感じることが出来た。
「それだけではない、よもや魔術師の決闘の場に魔術を理解しえぬ凡愚がいるなぞと、度し難いにも程がある」
「お怒りは尤もかと。主の華々しき戦果を穢す愚劣なマスター、醜悪なキャスター。共々成敗するに躊躇う理由は存在せぬかと」
セーフハウスとしてキープしていた廃病院の中で魔術師と騎士は今後の方針を練る。
目の前のサーヴァントは気に食わない点は数多いが彼のブリテンの王、アーサー王と互角以上に戦えることが分かっている。しかし、あのアーチャーの無数の宝具やライダーの飛行能力など驚異が多いのも事実。
「考えるべき要素は数多い。宝具二種を早々に明かしたのは痛手であった」
「は、申し開きもなく、私の失態であります。つきましてはキャスター討伐令に先んじ、他陣営の横やりが入る前に成敗する所存です」
「早まるなと言ったであろう。そも我々はこの地にとって外の魔術師。御三家と言える遠坂、間桐、アインツベルンを出し抜いて、仮にも英霊であるキャスターを捜索する事は至難を極める。そして遠坂も令呪を使用し、アインツベルンはランサーの呪いが残っている。令呪の存在はそれらを取り払う可能性も、ある」
「令呪による強引な解呪、ですか」
魔術師としての見解を述べるなら、十分に可能だ。オリジナルの宝具ならまだしも、サーヴァントとして現界している宝具である以上、令呪の干渉は防げない。干渉が可能ならば、呪いを剥がすことも不可能ではないはずだ。となれば、キャスター討伐に遠坂、アインツベルンが積極的になってくる。
これらを出し抜くのは、難しい。
「ランサーよ。はっきり言う。貴様は乱戦において最強とは言い難いであろう」
「…雑兵に後れを取りは致しません。しかし、昨日見えた戦士と一同に会し、混戦となれば…」
「よい、そもそのような事態に陥ることなどない。この私が指揮を執るのだから」
「は」
「ふむ、今の状況においてサーヴァントを落とすことに固執する必要はあるまい。御三家を監視しキャスター討伐までは静観する」
静観する。結論は消極的なそれであったが、ケイネスの戦意は増すばかり、いや、これは怒りであるだろう
「が、品性のない東洋の猿を絞めるのは貴族たる私の仕事だ。あ奴は、マスターでは無いからな」
次の戦場は、アインツベルン城
◆
アインツベルンが保有する冬の館。品の良い調度品や格式ある家具が調和のとれた配置で置かれている。周囲を鬱蒼とした森に囲まれていながら、その内装は温かみのある邸宅であった。
尤も、その中の会話に温かみがあるとは、言い難いが。
「ねえ切嗣、他のマスターも全員がキャスターを狙うと見ていいかしら」
「まあ間違いないだろうね。だが、そう過信することも出来ない。僕ならキャスター討伐に乗り出すマスターを狙うが、逆もまた然りだ。今は積極的な行動よりも情報収集に重きを置くべきだろう。特にキャスターはセイヴァーに因縁があるようだし、これを機にセイヴァー、キャスターの手の内が分れば幸いだ」
第二戦、倉庫街戦での戦いの後に接触したキャスターは帰還中のセイバーとアイリスフィールに接触した。
緊張状態の二人に対してその人物は、落胆を見せていた。
『ああ、やはり、違う。違うのですね。ああ、比べてみれば瞭然です。あの清純にしてあらゆる冒涜を押し流す神聖さ。彼女もまた聖処女ジャンヌに劣らぬ聖者…それと比べれば貴女など、格落ちも良いところだ…』
或いはここで更なる一戦かと身構えたが、呟かれたのは侮辱ともとれる独り言。先ほど見えた英雄達のクラスを考えると、考えられる枠はキャスターかバーサーカー。ふむ、どっちだ?
この程度の挑発に乗るセイバーでは無いし、なにより相手の目論見が分らない。
もし戦いとなれば、バーサーカーであれば負けはせずとも消耗のリスクが、キャスターであれば呪いなどの弱体化のリスクが伴う。対魔力を有しているとはいえ、先ほど癒えぬ呪いの傷を負ったのだ。無理押しをする場面ではない。
『口を開いたかと思えば侮辱か?私としても彼女、セイヴァーが一角の英霊であることは認めるところだが、私と彼女を貴様のような無礼者に比較される云われは無い』
『おや、気を害したのならば謝罪を、私はキャスター。ジル・ド・レェ。まあ忘れて頂いても構いません。あなたの名乗りも、不要です。セイバー殿』
そのままキャスターは一礼し、消えた。
奇妙な邂逅であったが得た情報は大きい。キャスター、ジル・ド・レェ。その真名が判明したのは他に無いアドバンテージだ。
「ジル・ド・レェと聖処女ジャンヌというセリフからして、相手は百年戦争終結の英雄、元帥ジル・ド・レェで間違いない。しかも、ジャンヌ・ダルクの死後荒み切った晩年の状態で召喚された者だろう。つまり錬金術に傾倒したキャスターという訳だ」
「アレ、錬金術師なの?」
仮にも英霊に対してアレ呼ばわりするアイリスフィールの心情も尤もだろう。先の一戦に見えた英霊達と比べれば、誰かの言った通り格落ちも良いところ。なんか目がギョロついているし、失礼かもしれないが、初めて生理的に無理と言う感覚を覚えた相手だ。そんな相手が自分たちの誇りとする錬金術を扱うという。
何というか、早く脱落してくれればいいのに、という感想だ。
「錬金術師としての能力は未知数だが、警戒するべきは其処ではなく、元帥としての戦術眼だろうね。最低限、相手の陣地ではなく、釣り出したところを叩くのが最善の相手だ」
実に理性的で、合理的。但しそれは関わる人間の納得を置き去りにしている。自身を道具として定義する久宇舞弥は反対する訳も無く、世間を知らないアイリスフィールは対案を出すような見識が無い。
だが聖杯戦争の主力はサーヴァントだ。アーサー・ペンドラゴンという一国の王として君臨した者が『凶悪犯罪者を放置する』などと言う判断を肯定できる筈がない。
昨今世間を震え上がらせているニュースからするに、相手は相当に手段を選んでいない。あの手の輩は準備を怠ることを知らない。そして、その準備と言うのは相当の犠牲を積み上げて完成するものだ。
「マスター、それでは足りません。キャスターの悪行は容認しがたい。これ以上被害が出る前に、こちらから
「ランサーのマスターを仕留めきれなかったのは、僕のミスだ。恐らく今回の命令を無視してでも逆襲にくる恐れがある。いや、来る。敵を複数抱えた状態で攻め込むなど、ありえないんだ」
「っ」
「切嗣‼」
言外に左腕の負傷を挙げられては言葉に詰まる。ランサーからの傷による弱体化を取り返すべく、切嗣はマスター本人へ攻撃を仕掛けた。だが、死亡していない事は確かだ。こちらには聖杯の器であるアイリスフィールがいる。ランサーが何の問題もなく現界し続けていることは確認済み。サーヴァントの力を侮った切嗣の確たるミスだった。
相手のプロフィールを考えれば、聖遺物を盗んだというウェイバー・ベルベットか、自分たちの元か、どちらかに攻め込んでくるだろう。
「アイリは襲撃が来たら地の利を活かして逃げに徹してくれ。人間のマスターは、僕の領分だ」
そう。キャスターは来ない‼まさに逆転の発想‼
なお、書いてた冬の城戦は全部書き直しの模様。
あ、そうそう。続き出るそうですよ。エンダーリリィズ。神。マップのど真ん中空いてるからこれDLC来るんじゃねえのとか思ってたら新作出たよ。草。誰だだよエンディング追加されてDエンドとEエンド、ENDER LILIESのタイトル回収だ‼とか言ってたやつ。Cルートをやり直せ。
意味が分かると泣けるエンディングでした。神
(このくらい言っとけば何故か居る未プレイ勢も興味持つでしょ)