リリィちゃんをFate/Zeroに突っ込んだ安易な奴 作:鎖佐
セイヴァーはかつていた国、果ての国の戦いで、多くの傷を負い、失った。
その最たるものは尋常ではない呪詛の蓄積だろう。セイヴァーは常に自身に対して浄化し続けなければならない程に穢れに蝕まれ、言ってしまえば弱体化していた。それこそが魔力A---の正体。今やリリィは、一度たりとも祈りの奇跡による結界修復が出来ないのだ。
「いや、でも一回だけ使っていなかったか?ランサーから一撃入れられた後、光っていた奴がそうだろう?」
そう、失った祈り奇跡を、一度だけ行使する方法がある。レリックという宝具とは異なるマジックアイテム。しかし、これもまた、大きく弱体化している。
20あった魔導の鎖と呼ばれる、レリックの活性化の為のアイテムが破損した。それらの破片は魔女ととあるクソ野郎が修復したが、運用できるレリックの最大数は5つになった。うち2枠が固定であり、およそ変更不可。そして祈りの奇跡を一度行使できるようにするレリックもまたほぼ固定枠だろう。
「そして、残りの二枠は初戦と言うこともあり、防御と攻撃頻度に振っている。とっておきのレリックがあれば、あのランサーの一撃も完璧に防げた可能性も…」
「それは無理」
愛娘を自慢するような口ぶりの騎士を遮って、またも触手を体表に表す少女が遮った。
間桐邸において蟲の目が届かぬ場所など存在しない。そんな認識も今や昔。黒の魔女によって監視の蟲の認識を弄り、見聞きしている内容を書き換えているため、ここ間桐邸の私室こそが唯一臓硯の目から逃れる一室となっていた。
今話し合っている内容は先の戦いの戦果とセイヴァーの状態についてだ。セイヴァーはそもそも死して英霊になった存在ではなく、生きた生身の存在であるらしい。彼女をこの世界の存在であると定義する為に令呪による楔が必要であり、彼女が現界するのに必要な魔力は浄化によって発生した魔力によって賄われている。要するに運用コストがほぼ0なのだ。
その上でスペックは非常に高い。まだまだ晒していない手札があることを考えれば現状はかなり良い波に乗っていると言える。だが、少女の表情は硬い。
「わたしね。多分、初めて生きてる人と戦ったの」
「…いや、サーヴァントはすでに死んだ英霊なんだけど」
「そうだけど、そうじゃなくて」
言いたいことは有るが、言葉に出来ない。そんな風に眉を寄せて悩む少女に騎士が助け船を出した。
「言いたいことは分った。雁夜、セイヴァーが今まで戦ってきた相手は殆ど理性のない穢者、こちらで言うバーサーカーばかりだった。駆け引きもなくただ生前の技を繰り出してくる相手だった為、セイヴァーは数十という相手をほぼ無傷で倒してのけ、百を超える穢者を浄化した。だが、今回の相手はサーヴァント、全員生前の全盛期だ」
そういわれて思い出すのはランサーから初めて攻撃を受けた時だ。彼は目の前に現れた盾騎士を事前に察知していたかのように赤槍を静止させ、黄槍にて反撃してきた。所謂、フェイント。セイヴァーはまんまとそれに引っかかった訳だ。
「盾騎士はセイヴァーの旅を支えた中核的存在だ。ヤツの防御とカウンターから攻勢に出て一気に討ち取る。セイヴァーの黄金戦術だったが、ここでは通用しない可能性がある。セイヴァーの不安も尤もだ」
悪いように言えば「思ったより強くて怖くなりました」と言うところだ。勿論、その程度の弱音でセイヴァーへの評価が下がることなどない。初めて体験したフェイントという概念、そこから強烈な一撃を受けたのにも関わらず、セイヴァーは堂々とした姿を敵に見せた。事前に立てた目論見は完璧に遂行されている。
「分かった。要するに、対人戦への駆け引きを学ぶ必要がある。そういうことだな?」
「そうは言うが容易ではあるまい。華奢な見た目だがそこいらの一般人よりよほど強いぞ、セイヴァーは」
確かに格闘技などの道場に入ればフェイントや駆け引きを学ぶことは出来るだろう。だが間桐のサーヴァントであるセイヴァーは真っ当なマスターなら監視の目を付ける。霊体化出来ないセイヴァーではそこからどんな情報を抜かれるか分かったものではない。第一セイヴァーの眼をもってすれば一般人のフェイントや駆け引きなど引っ掛かってからでも対処可能だ。むしろそれは変な癖が付く原因だろう。
雁夜が思いついたこのプランは効果的、とは到底自信を持って言えない。だが駆け引きを学ぶという一点に対してのみそれなりに有効で、言うなればローリスクローリターンの策であると言えた。
「要するに、一般人とフェアな勝負が出来ればいいんだよ。任せろ、ここは日本だぜ?」
『昇・竜・拳‼』『ヨガファイアー』『波動・拳‼』『ヨガファイアー』『竜巻旋風脚‼』『ヨガファイアー』
「むううううううう‼」
「いやセイヴァーすごいな。この短い時間で完全にリュウ使いになってやがる」
「むううううううううううううううううううう‼」
「…なあ貴様、さっきから見ていて思ったのだが、リーチ差が酷すぎないかコレは?」
「……まあな、正直酷いのはリーチ差だけじゃなくて、喰らい判定から戻り時間からいろいろと酷いんだ」
「なるほど、CPU戦とは違ってキャラクター毎の長所短所を把握したプレイヤーには別種の読み合いが必要になるわけか」
「むううううううううううううううううううううううううううううう‼」
間桐雁夜が外出したかと思えば一時間ほどで帰宅し、その手にはとあるゲーム機本体と数本のソフトが入っていた。興味深げに覗くセイヴァーだったが聖杯から与えられた知識にそのような低俗で下賤な知識(ウェイバー・ベルベット談)があるはずもなく。なんならテレビに対しておっかなびっくりな様子に若干の微笑ましさを感じていた。そんなことから5時間後、セイヴァーはリュウでCPUを降した後、雁夜と対戦していた。
『ストリ〇トファイタ〇2』
アーケードゲームの据え置き機移植版ゲームであり、懸念もあったが裏切るように高クオリティで発売された本作は格闘ゲームの火付け役として存在感を見せつつある名作ゲームだ。
そして雁夜が目を付けたのは対人ゲームという性質から、一般人とフェア(?)な条件で戦うことが可能であると考えたのだ。
実際初めてのテレビゲームということもあって最初、そう、最初の30分程度は非常に拙い操作だった。視線がコントローラーと画面を行ったり来たりするのだからCPUと言えどそう易々と勝てはしない。筈だったのだが、
『昇・竜・拳‼』ビシバシビシ
KO‼
『昇・竜・拳‼』ビシバシ『波動・拳‼』ビシバシビシ
KO‼
『昇・竜・拳‼』『波動・拳‼』『昇竜拳‼』ビシビシ
KO‼
1時間で必殺技を全て扱えるようになり、昇竜拳を軸にコンボを決めて叩きのめすというスタイルをさらに2時間で確立。総プレイ時間4時間にしてストーリーモードクリアという空前絶後の記録を打ち出した。
それから本命の対人戦という段に入り、雁夜は初手から手加減を捨てていた。
躊躇いもなく強キャラを選択し、強技、強コンボに、メタ戦術の全てを使ってセイヴァーをボコボコにしていた。言い訳を一つするならば、そこまでやって何故か自キャラの体力が半分減っている時点で手抜きなど出来る程自分は強くないのだ。と弁明する。いや、本当になんなんだこの少女は。2Dアクションゲームの世界から来たとでも言うのか。
いずれセイヴァーは雁夜程度のエセ格闘ゲームプレイヤーを遥かに超えて世界に羽ばたいていくだろう。そう思わせる程に、少女は才能に満ち溢れていた。
「むううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう‼」
それはそれとして、少女セイヴァーにも堪忍袋の緒という物がある。
基本穏やかな性質だが、セイヴァーにも普段は見えない一面という物がある。しかし、召喚されてから雁夜の前で、確かにその性質は発露されている。
それ即ち、負けず嫌い。
常人なら回れ右して走って逃げるような穢者の群れにも、恐れをなさずに突っ込んでは召喚術と体捌きで振り切ってしまう他、仕掛けによって閉じ込められよう物なら一匹残らず浄化しつくすなど、常在戦場勇猛果敢といった、外見からかけ離れた性質を有している。
『立てば白百合、祈れば聖女、戦う姿は
こう詠んだシスターは珍しく妹から拍手を送られていた。
さて、少しばかり話が良く逸れるが今更今話がコメディ回モドキであることを疑う者は居ないと思うため、良しとする。
そんな負けず嫌いな少女であるが、基本ルールは守って勝ちたいと思う派…ではない。
壁の向こう側に敵がいると第六感にて察知したなら壁越しに攻撃するし、遠距離狙撃もする。えらい人は言いました。「勝てば良かろうなのだ」と。
相手はリュウの弱みと自キャラの強さを良く理解した強敵である。これに勝つのは容易ではない。
なら、相手の弱点を突くほかない。
コントローラーを置いて右手を硬く握りしめ、高く高く持ち上げる。 弓を絞るかのようにゆっくりと振り上げる。
「あれ、動いてな、!?」
不審な動きに気付いた敵は身構えるがもう遅い。関節の撓りによって握りしめた拳はモーニングスターのように絶大な破壊力を持って加速、着弾点は左肩。軌道良し。
「直接攻撃は、」
何やら敵が言っているが構うことはない、渾身の一撃は減速することなく、ヒット。
「反則っ痛ってえ‼」
相手は痛みに怯んでいる。追撃のチャンス。なんなら3騎同時攻撃を行うところだが、皆後ろで呆れているため協力的でない。仕方ないので左手を同じように振り上げる。
「ちょ、待って」
待ってと言われて待つ奴は居ないと、あらゆる物語で書いていたので待たない事にする。2撃目、発射、ヒット。
「マジで痛い‼」
2撃目と入れ替わるように右手はすでに振り上がっている。受けるが良い。これが新たなる白巫女の秘儀。
盤外戦術により雁夜はセイヴァーにボコボコにされ、敗退した。悪は滅びるのだ。
さて、世の中にはこんな言葉もある。これ
「雁夜、おじさん?…何してるの?」
問題が解決する前に、新しい問題が飛び込んでくることである。
やったことないゲームをネタに小説を書こうとするからこうなる