悪魔と魔女の物語   作:ゾキラファス

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 やぁ、久しぶり。ルビコンから帰ってきました。今後も更新はしますが、更新速度は遅めです。ご了承ください。

 最近知って驚いた事。鉄血のシノと推しの子のぴえヨンの声優さんが一緒。

 今回はアニメ4話前半くらいのお話。そして鉄血から新たに2人目を出します。


地球寮

 

 

 

 

 

「あんた何その恰好?」

 

「え?可笑しいですか?」

 

「別に普通だよね?」

 

 決闘が終わった翌日、スレッタと三日月はミオリネと共に授業に出ていた。しかし教室に入ってすぐ、ミオリネに不機嫌そうな顔をされる。

 どうやらスレッタの恰好が変らしい。なので1度自分の制服を見直すが、特に変なところはない。三日月も見てみるが、別に普通だ。

 

「…ちょっと生徒手帳貸してちょうだい」

 

「あ、はい」

 

 そんな様子のスレッタに対して、ミオリネは生徒手帳を出すように命令。そしてスレッタは素直に自分の生徒手帳を差し出す。

 

「ホルダーはね、パイロットスーツだけじゃなくて、制服も特別仕様なのよ」

 

 ミオリネがスレッタの生徒手帳を操作すると、スレッタの制服が白色に変化する。ミオリネの言う通り、アスティカシア学園のホルダーというのは色々特別なのだ。その最たるものが、制服とパイロットスーツの色である。

 この白い制服は、自分がホルダーであるという証。そしてミオリネは、折角スレッタがグエルとの決闘に勝ちホルダーになったというのに、スレッタは普通の制服をしていたから不機嫌になっていたのだ。

 

「自覚をちゃんと持ちなさい。あんたはホルダーで、私の花婿なんだから」

 

「は、はい」

 

 ミオリネの言葉を聞いて、改めて自分はそういう立場になったと再確認するスレッタ。これからはただ授業を受けるだけじゃなく、花婿と言う立場をしっかりと守っていかないといけない。そうしなければ、学校に通えなくなるかもしれないのだから。

 

「……」

 

 一方で三日月は、そんな2人のやり取りをやや冷めた目で見ている。当人は取引と言っていたが、やはりこれはミオリネがスレッタを利用しているようにしか思えないからだ。

 

(まぁ、今はまだいいか)

 

 だが今はまだ、特に何か実害がある訳じゃない。そもそもスレッタは了承しているのだ。ならばあまり自分が横から何かいうのはダメだろう。

 

 だがもしスレッタを裏切るような真似をしたら、絶対に許さないと三日月は密かに思う。

 

「ねぇねぇ!マーキュリーさん!」

 

「ふえ!?」

 

 そう言い合っていると、突然横から声をかける生徒がいた。スレッタが横を振り向くと、そこには学園に来た時に自分と三日月の関係を聞いてきた女生徒3人が

いた。

 

「グエル先輩の告白断ったのって、やっぱりその子がいるから!?」

 

「噂通り2人はそういう関係だから!?」

 

「いつから!?いつからなの!?」

 

「え!?あの!?その…?」

 

 そして話題は、自分と三日月の事と、グエルの告白について。

 

 昨日の決闘後、スレッタはグエルに突然プロポーズをされた。

 

 これだけ聞くと意味がわからないが、実際その通りなのだ。なんせ決闘を見ていた全員が『は?』という感じになっていたし。

 そしてそんなグエルの告白をスレッタは、

 

『む、無理ですーーーー!!』

 

 と言って断った。しかもエアリアルに乗り込み、その場から勢いよく去るという感じで。結果試験区画に残ったのはグエルと、その様子を見ていた三日月とジュリエッタだけ。そしてこの様子を見ていた生徒たちはこう思ったのだ。

 

『やはり、あの2人は恋仲なのではないかと』

 

 故に、グエルのプロポーズを断ったのだと。いくらアスティカシア学園が企業の子供達が将来の為に通う学園とはいえ、在籍している生徒はティーンエージャー。こういう話題に食いつかない訳がない。

 

「きっかけは何!?昔危なかったところを助けてもらったとか!?」

 

「そういえば幼馴染って言ってたよね!?もしかして小さい頃に結婚の約束をしたとか!?」

 

「だったらどういう感じ!?教えて!!」

 

「え、えっと…!別に三日月とはそういうんじゃ…」

 

 恋バナを聞きたい女子の圧力にタジタジになるスレッタ。

 

「あんたあれ止めないの?」

 

「え?止める必要あるの??」

 

 そんなスレッタを止めずに火星ヤシを摘まむ三日月。ミオリネはそうしている三日月に止めないか聞くが、三日月は止める気はないらしい。そもそも別にスレッタに危険が迫っている訳じゃないし。

 

「おいどけ。邪魔だ」

 

 その時、あまり聞きたくない声が聞こえた。

 

「ひぃ!?」

 

「なんでそこまで怯えるんだよお前…」

 

「そりゃあんだけ横暴な態度を取っていたからじゃないですか?」

 

「黙ってろジュリエッタ」

 

 声の主は昨日の決闘後にプロポーズをしてきたグエル。その後ろのは、同じく昨日の決闘に参加していたジュリエッタがいた。そんなグエルに怯え、スレッタは三日月の背に隠れる。三日月も、スレッタを庇う様に動く。

 

「えっと、何か…?」

 

「用があるのはお前じゃない」

 

「え?」

 

 三日月の背中から顔を出しながらグエルに尋ねるスレッタ。だがどうやら、グエルはスレッタには用事が無いらしい。

 そしてスレッタの隣にいるミオリネを見ると、

 

「ミオリネ・レンブラン。先日の態度、そして君の大切な温室を破壊したことについて謝罪する。すまなかった」

 

「……いいわ。その謝罪を受け取る」

 

「感謝する」

 

 頭を下げて、先日の事を謝罪した。そう、グエルは決闘でスレッタと取り決めた事を全うしにきたのだ。

 

「あ。それって決闘の?」

 

「そうだ。決闘の取り決めは絶対に守らなければならない。それがここでのルールだ」

 

「へぇ…」

 

 そんなグエルを見て、三日月は感心する。これまでのグエルの態度を見る限り、てっきりすっとぼけると思っていたのに、彼はしっかりと約束を果たしにきた。どうやらグエルは、約束はしっかりと守る人間の様である。おかげで三日月のグエルに対する見方が少しだけ変わったりした。

 

「で、後ろのは何よ?」

 

「こいつはおまけだ。どうもそいつに聞きたい事があるらしい」

 

 ミオリネがジュリエッタを指さすと、グエルは少し横にずれる。そしてジュリエッタは少し前に出て、三日月をじっと見つめる。

 

「何?」

 

「ひとつ、お聞きしたい事がありまして」

 

 少し警戒する三日月。それをじっと見ているスレッタやミオリネ。

 

「え?何?修羅場?」

 

「三角関係?」

 

「昼ドラ始まる感じ?」

 

 ついでに先程の女生徒3人はそんな事を言っていた。

 

「貴方は、どうしてあそこまで強いんですか?」

 

「は?」

 

 当然だが、別にそういった話では無い。

 

「私は必死で訓練や勉強をして、パイロットとしてはこの学園でも指折りの実力者だという自負があります。それに昨日の決闘で使ったのは新型のレギンレイズ。普通に考えれば、私が負ける要素は無い。なのに私は負けた。確かに、確かに私は慢心していましたが、あそこまで一方的に負けるなんて思ってませんでした。いくらガンダムフレームという伝説のモビルスーツを使っていたとしても、パイロットが貧弱では意味がない。つまり、貴方自身が強いという事です。だからこそ聞きたい。どうして貴方は、あんなに強いんですか?」

 

 ジュリエッタが三日月に聞きたい事は、三日月自身の事。ジュリエッタは幼い頃より、元ドミニコス隊のモビルスーツパイロットだった父の教育を受け続けたおかげで、アスティカシア学園でもトップレベルのパイロットとなれた。実際、数か月前の決闘では、ホルダーだったグエルをあと一歩というところまで追い詰めている。

 だが昨日の決闘では負けた。それも対戦相手の三日月に大した一撃を与える事も出来ずに。確かにジュリエッタは慢心していたし、そもそも相性の悪いグエルとの即興コンビだったというのもあるだろう。だがそれでも、あそこまで一方的に負けるとは思えない。

 

 そこでジュリエッタは、三日月自身がとても強いのではという結論に至ったのだ。

 

 実際、いくら最新型のモビルスーツに乗っていても、それをうまく乗りこなせないと意味がない。そして乗りこなすには、パイロットの技量が不可欠だ。

 つまり三日月が凄いという事だろう。ならば知りたい。その強さの秘訣を。なのでこうして、三日月本人に聞く事としたのである。

 

 そんなジュリエッタの質問に三日月は、

 

「スレッタを守りたいって思ってるからじゃないの?」

 

「……へ?」

 

 素直にそう答えるのだった。

 

「俺の全部はさ、スレッタの為だけに使わないといけないんだ。そうしないとダメなんだ。だから必死になれる。どんな事でも耐えれるし、何でも出来る。だから強くなれたんだと思うよ?」

 

『……』

 

 その言葉を聞いていた全員が、唖然とする。

 

 実際、三日月のこの言葉は正しい。三日月は心の底から『スレッタの為』と思えるようになれたからこそ、モビルスーツの訓練も頑張れたし、苦手な勉強だってできた。

 

 最も、三日月があそこまで強い最大の理由は、背中の阿頼耶識システムのおかげなのだが。

 

 だがこれも、スレッタの為にと思えるようになれたからこそ、手術を受ける事にしている。もしこの想いが無ければ、阿頼耶識の手術を受ける事は無かったかもしれないので、あながち嘘でも無いだろう。

 因みに阿頼耶識の事は、プロスペラやスレッタに口留めされているので、おいそれと誰かに喋るつもりはない。

 

「やっぱりそういう関係なんだ」

 

「え?じゃあ、ミオリネさんとの婚約はどうなるの?」

 

「もしかして、重婚するとか?」

 

 そしてその三日月の発言に、周りはざわめく。これまでも三日月とスレッタの関係に色々と噂があったが、ここにきてのこの発言。おかげで元よりそういう噂が好きな生徒たちは、より一層そういった話をするようになってしまう。

 

「あんた、花嫁の前でよくもそう堂々と言えるわね」

 

「何が?」

 

 三日月の発言に、ややイラっとするミオリネ。そりゃ目の前で花婿に対してこんな感情を抱いていると言われたら、腹のひとつもたつだろう。

 

「……」

 

 そしてスレッタは両手で顔を覆っていた。別に恥ずかしいからとかじゃなくて、こんなに大勢の前で三日月がこんな発言をしてしまったので、もう色々と取り返しがつかないと思ったからだ。

 これから先、何をしても絶対に自分にはそういう噂が付いてくる。そう考えると、嫌な気分はしないが少し気が重い。次からは、三日月の頭を引っぱたいてでもこういう発言をさせないようにしなくては。

 

「ちっ」

 

 因みにグエルはどこかイラついているようだった。

 

(彼は本当に、あの時の彼なのでしょうか?)

 

 一方でジュリエッタは、今の三日月に少し疑問を持っていた。三日月と戦っていた時、ジュリエッタは恐怖を感じている。

 だというのに、今目の前にいる三日月からはあの時の恐怖を何も感じない。まるで別人だ。もしかすると、モビルスーツに乗ると性格が変わる子なのかもしれない。だが今はそれより、先程の三日月の言葉の方が重要だ。

 

(それにしても、技術ではなく想いですか…)

 

 想いの力で強くなるなんて、科学的根拠のないオカルト。しかし、ジュリエッタも『父のような凄いパイロットになる』という強い想いがあったから、鍛錬に勤しんでこれた。当然それだけで強くなれる訳では無いが、一考の価値くらいはあるだろう。もしかすると、自分も大切な誰かを見つけれれば、三日月のように強くなれるのかもしれない。

 

(いや私、初恋すらまだですけどね…)

 

 しかし残念ながら、自分はそういった大切な人というのがいない。一応ジュリエッタにも異性の幼馴染はいるが、あれに恋愛感情とかを抱くなんて無い。天地がランバダ踊っても、絶対に無い。それに今から誰かを好きになるというのも考えにくい。ならば今は、いざという時アリアンロッド寮の友達を守りたいと思えるようにしようとジュリエッタは決める。

 

「あのー、そろそろ授業を…」

 

「あ、すみません」

 

 何時の間にか教師が来ていた。これ以上ここにいると、授業の邪魔をしてしまう。

 

「質問に答えてくれてありがとうございます。それでは」

 

「ん」

 

 ジュリエッタは聞く事も聞いたので、三日月にお礼を言って教室から出ていった。そしてグエルもジュリエッタに続いて教室を出ていこうとする。

 

「あ、そうだ言い忘れていた」

 

「え?」

 

 だがその途中、グエルはスレッタに振り返る。

 

「勘違いするなよ水星女。あれは一時的な気の迷いだ。俺はお前の事なんて全然好きじゃないんだからな!!

 

「あ、はい…?」

 

「じゃあな!!」

 

 そう言い捨てると、グエルは教室から出ていく。

 

「何あれ?」

 

「さぁ?」

 

「訳わかんないです…」

 

「はい。じゃあ授業始めまーす」

 

 こうして微妙な空気のなか、授業が行われるのだった。

 

 

 

「おい、ジュリエッタ」

 

「何ですか?」

 

「まさかとは思うが、さっきのチビの言葉を鵜呑みにした訳じゃねーよな?」

 

 教室から出たグエルは、隣を歩くジュリエッタに話しかける。内容は、先程三日月が言っていた事。想いの力で強くなるなんて、まるでコミックやおとぎ話の英雄譚だ。人類が宇宙に行って数世紀も建つのに、そんな事信じられる訳が無い。

 

「そんな訳ありません。ですが、決して馬鹿にも出来ないかと」

 

「は?マジで言ってるのかお前?」

 

「別に強く想えばその分自分が強くなれるとは考えていません。ですが勝ちたい、負けたくない、願いを叶えたいと思えるからこそ頑張れるというのはあると思います。そしてその結果、強くなれる。先輩だってそうじゃないですか?」

 

「……」

 

 それはそうかもしれない。グエルはジェターク社の御曹司として、『ジェタークの男ならば、負けてはならない』と父に言われ、幼少期より厳しく育てられている。

 その父の言いつけを守る為、何より父に認めて貰いたくて、グエルは必死になって努力をしてきた。その結果、グエルは文武両道の御曹司となり、多くのジェターク寮の生徒から慕われるようになったのだ。

 尤も、この性格のせいで他の寮生からはそこそこ嫌われたりしているのだが。

 

「いや、俺はそんなの認めん」

 

「そうですか」

 

 だがグエルは、それを認めたくなかった。何と言うか、恥ずかしい。自分はもう小さな子供では無いのだ。そんな少年コミックのような考えを認めたくない。

 それにもしそうなら、昨日の決闘は自分は勝ちたいという思いが弱くて負けたと言われかねないからだ。そんなの、プライドの高いグエルが認めるなんてありえない。だからこそ、認めない。

 

「ところでグエル先輩」

 

「あ?」

 

「さっきのあの捨て台詞、態とですか?」

 

「うるせぇ。黙ってろ」

 

 そしてジュリエッタの言葉をぶった切り、グエルは遅刻が確定している授業へと赴くのであった。

 

 

 

「どうしよう…このままじゃ単位が…」

 

 放課後、スレッタは1人落ち込んでいた。その理由は、先程までやっていたモビルスーツを使った授業にある。

 

 授業で使われるモビルスーツ、デミトレーナーに乗ったスレッタはある実習を受けようとしていた。その実習とは、光学センサーは可視光線のみに限定し、地中に埋められている模擬地雷を避けながら地雷原を突破し、その後兵装を交換して、用意された的に射撃をするという実習。

 最初、普通にこの実習を受けようとしたスレッタだったが、実習をする前に教官から不合格を言い渡されてしまった。別にスレッタが教官から嫌がらせを受けたとかじゃない。スレッタに、補助要員であるメカニックやスポッターがいなかったからだ。

 モビルスーツというのは、操縦だけならパイロット1人で事足りるが、その他の作業にはパイロット以外の人手が必須。実習ではパイロットの代わりに地中センサーを見て、パイロットを安全な道に誘導するスポッターが必要だし、兵装を交換する為のメカニックも必要なのだ。

 スレッタにはそれらの人材がいないので実習進行不可能と判断され、不合格を言い渡されてしまったのである。

 

「色々声かけたけど、皆良い顔しなかったしね」

 

「うん…」

 

 そして同じように、三日月も不合格を言い渡されている。授業後、スレッタは三日月と共に色んな生徒に声をかけた。『どうか実習を手伝って欲しい』と。このままでは単位足らずに、大変な事になってしまう。具体的に言えば留年とか。

 なのでスレッタは必死で声をかけていった。

 

『あー、ごめんマーキュリーさん。私達、その日はもううちの寮の子の試験があるから…』

 

 よくスレッタに話しかけてくる3人組は、既に先約があり無理だった。

 

『ごめん…ジェタークに目を付けられたくないんだ…うち、小さい会社だから…』

 

 授業が一緒だったメガネをかけた男子生徒は、御三家のジェタークに睨まれたくないので勘弁して欲しいと言った。

 

『ふん!何故この私が自分の寮以外の生徒の手伝いをしなければならない!こっちは忙しいのだ!他を当たれ!』

 

 偶々通りかかった褐色肌の男子生徒は、やたら上から目線で断ってきた。その他にも沢山の生徒に声をかけたのだが、全員手伝ってはくれない。

 

「このままじゃ本当にまずいかも…留年とかしちゃうかもしれない…そうなったら、お母さんに迷惑かけちゃう…」

 

「俺がやろうか?」

 

「でも、それじゃ三日月が追試できないし…」

 

 一応、三日月に手伝ってもらうという手段もあるのだが、これでは三日月が追試を行えない。スレッタも、自分だけ追試を受けて合格を貰うというのは嫌なので、出来ればこの手段はとりたくない。

 そもそも、三日月はスレッタと同じパイロット科の生徒だ。実習で使う端末の使い方なんてわからないだろう。

 

「ていうか、トマトの人に手伝って貰えば?」

 

「いや、ミオリネさん凄く忙しいみたいだし、経営戦略科だし…」

 

 最終手段として花嫁であるミオリネに手伝って貰おうとも考えたが、そもそもミオリネは経営戦略科の生徒。流石にメカニックの知識は無いだろうし、本人が毎日凄く忙しそうなので声をかけずにいるのだ。

 

「あれ?スレッタさんと三日月くん?」

 

「え?」

 

 そうして考え込んでいると、階段の上の方から声をかけられた。

 

「あ、ニカさん」

 

 声の主はニカ。これまでも、よくスレッタを色々と気にかけてくれた女生徒だ。因みにその後ろには、初めて見る女生徒が2人いる。

 

「どうかしたの?」

 

「え、えっと実は…」

 

 スレッタ、ニカに事情を説明。

 

「あの、ニカさんってメカニック科でしたよね?もしよかったら、手伝ってくれませんか?」

 

「あー、ごめんなさい。私も後輩の追試の手伝いをしないといけないから」

 

「あ、そうですか…すみません…」

 

 もしかしたら行けるかもと思っていたが、その希望は儚くも砕け散る。

 

「でも、紹介なら出来るよ」

 

「へ?」

 

 しかしそのニカの発言で、希望が再び見えた。

 

 

 

 

 

「メェ~~」

 

「こいつ、何…?」

 

「ヤギだよ。名前はティコ」

 

 スレッタと三日月は、アスティカシア学園内にある学生寮のひとつ、地球寮にやってきていた。他と比べると明らかに小さく、どこか小汚い寮である。おまけに中に入ると、2人が見た事も無い生き物がいた。

 

「食えるの?」

 

「いや確かにヤギは食べれるけどこの子は乳絞り用の子だよ。食べたりしないって」

 

「ふーん」

 

 初めて見るヤギに興味が沸いている三日月。一方でスレッタはヤギにビビりまくり、少し距離を取っている。

 

「おっと、自己紹介がまだだったね。私はアリヤ・マフヴァーシュ。地球寮メカニック科の3年生だ」

 

「私はリリッケ・カドカ・リパティと言います。経営戦略科の1年生ですよ」

 

 自己紹介をする女生徒はアリヤとリリッケ。地球寮の所属しているアスティカシア学園の生徒である。

 

「三日月・オーガス」

 

「知っているよ。君は有名人だからね」

 

「そうなの?」

 

「ああ。初日にフロント管理社のモビルスーツをボコボコにした生徒だし」

 

「それだけじゃなくてスレッタさんとの事でも有名ですよ!」

 

「ふーん」

 

 これまでの三日月の行動の結果、三日月はスレッタと同じくらい有名人となっている。その事について、三日月本人は全く気にしていないが。

 

「と、目的はその子じゃなくてあっちだから」

 

 アリヤに言われ、スレッタと三日月は地球寮の奥に進む。寮内を進んで行くと、そこには他の寮と同じようにモビルスーツ格納庫があった。格納庫内には、授業で使うデミトレーナーとは少し形の違うデミトレーナーと、頭と肩が白いグレイズの2機のモビルスーツがいる。恐らく、地球寮のパイロット科の生徒の機体だろう。

 

「皆ー。ちょっといいー?」

 

 ニカが作業をしている地球寮の生徒達に声をかける。

 

「おい、あれって…」

 

「ああ。ホルダーじゃん」

 

 スレッタを見て驚く地球寮の面々。一体ホルダーがこんなところに何の用だと。

 

「えっとニカ?ど、どうしてホルダー様と、その相棒様がここに?」

 

 ニカに恐る恐る尋ねる気弱そうな男子生徒は、地球寮寮長のマルタン・アップモント。経営戦略科の3年生だ。

 

「実はね、スレッタさんと三日月くんが実習のスタッフがいなくて困ってるの。私はチュチュを手伝わないといけないし、誰か手伝ってあげれないかと思って」

 

 ニカは格納庫にいる地球寮の生徒に事情を説明する。

 

「いいのかよニカ?そいつら2人共、スペーシアンだろ?」

 

「そうだぞー。後で変ないちゃもんとか付けられないかー?」

 

「この2人は他のスペーシアンとは違うよ。私達を見下したりなんてしない」

 

 モビルスーツハンガーの端に座っている男子生徒がそう言うが、ニカはそれを否定。

 

「あの、さっきから言っているスペーシアンがどうとかって、何ですか?」

 

 先程から言っているスペーシアン云々。確かにスレッタと三日月は宇宙生まれのスペーシアンだ。しかし地球寮の反応はどこかおかしい。まるでスペーシアンと関わりたくないと思っている節がある。

 

「そっか。スレッタさんと三日月くんはまだ入学して間もないし、生まれは遠い水星だから知らないんだね」

 

「??」

 

「いや、俺火星生まれだけど」

 

 まだよくわかっていない2人に、ニカは説明を始める。

 

 スペーシアンとアーシアンの、深い溝を。

 

 水星で育っているスレッタ達は知らない事なのだが、地球と宇宙では、とても大きな経済格差が生まれているのだ。

 事の発端は、300年前の厄祭戦。モビルアーマーとの人類の存亡をかけた戦争に、当時の人類は多大な犠牲を払いながらも勝利。

 その後、ギャラルホルンが地球復興を行ったのだが、これが中々上手くいかなかったのだ。厄祭戦は地球圏全域で行われた戦争であり、そこら中に被害が出ていたが、特に地球の被害は大きかった。存在したインフラも殆どが破壊され、復興しようにも人手が全然足りない。更に治安も悪化し、地球復興はとても難航した。何とか最低限の復興は出来たのだが、当時の人類は、このままやっても地球の復興にはもっと時間がかかると判断。

 

 そこで、地球よりは被害が少なかった宇宙へと目を向ける。宇宙で産業や文明を発展させて、そこで得た技術や資産で再び地球を復興させればいい。そうして人類は、宇宙へとどんどん旅立っていったのだ。

 

 厄祭戦で発生した宇宙デブリの問題こそあったものの、宇宙は一気に文明が発展し、復興も迅速に行われた。

 月や火星、木星の衛星カリストには沢山の人間が住むようになり、太陽系内のあらゆるところに数多くの宇宙コロニーが建造された。

 だがその結果、宇宙産業のみがどんどん発展。そしてその利益を、現在のスペーシアンが独占するという流れが出来てしまう。何時しか人は、当初あった地球復興という名目を忘れてしまったのだ。この頃には英雄アグニカも死に、彼が率いていたギャラルホルンも解体。つまり、誰も道筋を軌道修正できなかったのである。

 その結果、地球は貧乏で宇宙は金持ちという現在の格差世界が出来上がってしまい、それは今もなお続いている。まるで中世フランスのようだ。

 

「そういう訳でさ、アーシアン如きが生意気だーって感じの生徒が結構いるんだよね」

 

「そ、そんな事が…?」

 

「うん。嫌がらせなんて毎日だよ。今日だってうちの1年生が嫌がらせ受けて、そのせいで追試になっちゃったし」

 

 ニカの話を聞いてショックを受けるスレッタ。水星で読んだ少女コミックでは、学校というのはもっと和気あいあいとしているものだった。しかし、現実は全然違う。まさかそんな事が普通にある学校とは思わなかった。

 

(やっぱり学校ってそんな感じなんだ)

 

 尚三日月は、水星にいた頃に所謂ヤンキー系コミックを読んだ事があったので、あまりショックは無かった。

 

「あ!勿論2人がそういう人じゃないっていうのはわかってるから!」

 

 ニカは慌てて、スレッタと三日月はそういうスペーシアンではないと弁明。

 

「それで、どうかな?」

 

 そして再び、地球寮の面々に手伝えるか尋ねる。

 

「スポッターなら、手伝える」

 

 最初に手を上げたのは、独特な髪型をしている色白の男子生徒、ティル・ネイス。メカニック科の3年生だ。

 

「いいんですか!?」

 

「うん」

 

「ありがとうございます!これで単位を落とす事が無くなりそうです!」

 

 スレッタはティルの手を掴んで嬉しそうにする。

 

「なら、私は兵装変更作業を手伝うよ」

 

「あ、ありがとうございます!!」

 

「ありがと」

 

 模擬地雷原を抜けた後の射撃実習はアリヤが手伝うと言い出した。これで人員は確保できた。後は追試受けて合格するだけだ。

 

「と・こ・ろ・で」

 

「はい?」

 

 そう思っていると、リリッケがスレッタに話しかけてくる。

 

「スレッタ先輩って、三日月先輩と将来を誓い合った仲って本当なんですか!?」

 

「はいぃぃぃ!?」

 

 そして最早、聞きなれてきちゃった質問をしてきたのだった。

 

「もう学園中で噂されてますよ!小さい頃に将来を誓い合った幼馴染だって!」

 

「あ、それは私も聞いたね。水星からの編入生2人は婚約関係にあるってやつ」

 

「僕も耳にしたなぁ…」

 

 アリヤとマルタンもその噂は知っている。2人が入学して数日。この数日の間に、スレッタと三日月は様々な事があったせいで、現在学園内では様々な噂が流れている。三日月はアーシアンのテロリストとか、スレッタは違法モビルスーツを持っているとか。

 そしてその中で特に噂されているのが、スレッタと三日月の関係についてだ。最初の決闘での乱入騒ぎ。学園内で常に隣にいる。そして今日あった授業での三日月の発言。これらが合わさった結果、2人はそういう仲だという噂があっという間に広がっているのだ。

 

「いつですか!?一体何時婚約したんですか!?」

 

 地球寮で1番こういう話が好きなリリッケはスレッタに詰め寄る。その顔は、少しツヤツヤしているようにも見える。恋バナが好きな女子は、1度でもこういう話題があると食いついちゃうのだ。そして簡単には離さない。

 

「いや!三日月とは本当にそういう関係じゃなくて!!」

 

 スレッタは何とか弁明をしようとする。だって本当に三日月とはそういう関係では無いのだ。恋人なんかじゃなく、家族という関係が1番近い。これ以上噂が独り歩きしても困るので、ここでしっかりと誤解を解かなけばならない。

 因みに三日月は火星ヤシを摘まんでいた。

 

 その時、

 

「何でここにクソスペーシアン共がいんだよ!?」

 

 大きな衝撃音と共に、後ろから怒鳴り声が聞こえた。

 

「ちゅ、チュチュ!?」

 

「あ、やっべ…」

 

 手に大きなソケットレンチを持ち、スレッタと三日月にガンをつける改造した制服を着ている特徴的な髪型の女生徒。名前はチュアチュリー・パンランチ。地球寮のパイロット科の1年生。

 そして、極度のスペーシアン嫌いだ。

 

「ここは地球寮なんだよ!!スペーシアンは今すぐ出ていけ!!」

 

「ちょ!チュチュ落ち着いて!!」

 

 ニカがチュチュを落ち着かせようとするが、チュチュは全然落ち着かない。なんせ彼女、今日あった実習でスペーシアンから嫌がらせを受けたばかりなのだ。おかげでかなり気が立っている。

 

「答えろ!何でここにいんだよ!!」

 

「え、ええっと!ニカさんに追試を手伝って貰おうと思って、そしたら自分は無理だけど他の人なら手伝えるかもって…」

 

「っ…!ニカ姐!何でこんなスペーシアンを助けようとしてんだよ!」

 

「落ち着いてチュチュ!この2人は他のスペーシアンとは違うから!」

 

 自分が尊敬しているニカがスペーシアンに手を貸そうとしていると知り、チュチュは更に激高。彼女にとって、スペーシアンは全員敵なのだ。例えどんな理由があっても、手を貸すなんてしたくない。

 

「っ!!」

 

「あ!チュチュ!!」

 

 ニカの静止を力づくで振り切り、チュチュは手にソケットレンチを持ったままスレッタに近づく。

 

「さっさとここから出ていけ!クソスペーシ…あ?」

 

 そしてソケットレンチをスレッタに当てるつもりで投げつけようとした時、チュチュは自分の右腕が誰かに掴まれている事に気がつく。横を振り向くとそこには、

 

「何これ?」

 

 目が全く笑っていない三日月がいた。

 

「おいクソスペーシアン!今すぐ離…ぐっ!?」

 

 三日月の腕を振り払おうとしたチュチュだったが、直ぐに掴まれている右腕に激痛が走る。そして自分の腕が、三日月にまるで万力のように締め付けられているのを理解した。

 

「これは、何?」

 

 静かな声で、三日月はチュチュの腕を締め付ける。この時三日月は、このままチュチュの腕を折るつもりでいた。三日月から見れば、チュチュはスレッタに危害を加えようとした敵でしかない。幸いスレッタに工具は当たってはいないが、スレッタに武器を投げつけようとした事に変わりはない。

 そんな奴を見逃すなんて、ありえない。

 

「は、離せクソスペーシア…あがぁ!?」

 

「み、三日月くん!チュチュには私から強く言っておくから手を離してあげて!!」

 

「頼む!チュチュを離してくれ!!」

 

 ニカとアリヤが三日月を説得するが、三日月は全く聞く耳を持たない。

 

「み、三日月!!」

 

 このままではいつかのミオリネの温室での二の舞だ。これ以上騒動が起こってしまうと、本当に三日月は学校にいられなくなるかもしれない。だからスレッタは直ぐに三日月を止めるべく動く。

 

 

 

「そこまでだ」

 

 

 

 だがスレッタより早く、別の誰かが三日月の腕を掴んだ。

 

「チュチュには俺達からしっかり言っておく。だから手を離してくれ」

 

 その生徒は三日月の腕を強く握り、チュチュから手を離すように言う。

 

「誰お前?」

 

 勿論、それで三日月が手を離すなんて事はしない。むしろ自分の邪魔をしてきた生徒を睨みつける。

 

 そして三日月に睨まれた生徒は、

 

 

 

「地球寮3年、昭弘・アルトランドだ」

 

 

 

 と簡単な自己紹介をしながら、三日月の腕をより強く掴むのだった。

 

 

 

 

 

 




 地球寮ではアリヤが1番好きです。

 そんな訳で、鉄血からの2人目は昭弘です。実は更新が遅れた理由のひとつに、昭弘とシノ、どっちを出すか凄く迷っていたからというのがあります。
 最初は流星号(グレイズ改弐)を出したいからシノにしようかと思っていたのですが、昭弘の方が色々と都合が良さそうと思ったので昭弘に。
 おかしな部分がある時は言って下さい。可能な限り修正しますので。

 今後もゆっくり更新していくつもりなので、どうか気長にお待ちください。

鉄血で1番好きなOPは?

  • Raise your flag
  • Survivor
  • RAGE OF DUST
  • Fighter
  • The Over
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