悪魔と魔女の物語   作:ゾキラファス

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 エランとの決闘、一気に決着です。決闘内容はほぼ本編通りなので、カット多めで行きます。

 そして三日月、今回あまり出番ありません。主人公なのにね。ごめんね。


VSエラン 2

 

 

 

 

 

 地球寮

 

「あんた本当にいい加減にしなさいよ?」

 

「スレッタを泣かせたあいつが悪いでしょ」

 

「だとしてもよ。決闘の最中ならまだしも、決闘前に相手を怪我させたとか、間違いなくスレッタにペナルティが起こってたわよ?そうなったらあんたのせいなのよ?」

 

「スレッタに止められて殴っていないからいいじゃん」

 

「屁理屈言うな」

 

 地球寮内にある談話スペース。そこではミオリネと三日月が口論をしていた。きっかけは、三日月が決闘前のエランを殴ろうとしたことである。幸いエランに怪我はなかったが、それだけのすむ問題では無い。そもそも、殴ろうとした事が問題なのだ。

 もしも決闘前の相手パイロットに怪我でもさせてしまえば、間違いなくスレッタはペナルティを負う。それも、かなり重いものを。

 下手すると、決闘前にスレッタは敗北扱いを受けていたかもしれない。闘う前から負けるなんて、そんな事御免蒙る。

 

「前に言ったでしょうが。喧嘩とか暴力沙汰とかはするなって。それが原因でスレッタが悲しむし、学校にいる事が出来なくなるのよ?」

 

 以前ミオリネは、三日月にそういった行為をやめるよう説得している。なのに三日月は今回、エランを殴る寸前までいった。これでは約束と違う。

 

「あんた、スレッタの事になると本当にお構いなしね…」

 

 三日月がエランを殴ろうとした原因は、エランがスレッタに何か酷い事を言って泣かせた事なのだが、だからと言って今回のこれが許される訳が無い。

 幸い、エランやペイル寮からは何も言ってこないので一応は大丈夫だろうが、それでも今回の事は見過ごせない。

 なのでミオリネは三日月を叱っているのだが、当の三日月はこれだ。まるで反省していない。それだけエランの事が許せなかったのだろうが、これはいけない。

 

「俺の全てをあげた人だからね」

 

「……よく平然とそんな事言えるわねこいつ」

 

「あいつスゲーな…」

 

「なー。俺なら10年経ってもあんな事言えねーわ」

 

 三日月の発言に、少しあっけに取られるミオリネ。そしてそんな三日月を見て、オジェロとヌーノは素直に感心した。

 

「リリッケさん。本当にありがとうございます。あの時連絡をしてくれたおかげで、エランさんも怪我をせずにすみました」

 

 そしてスレッタは、連絡をくれたリリッケにお礼を言っていた。もしもリリッケの連絡がなければ、三日月は間違いなくエランを殴ってただろう。それも1発2発じゃない。最悪、顔の原型が無くなるくらいは殴っていた。もしそうなっていたら、もうエランと会話どころじゃない。

 

「いいえ。そもそも私も、別の人から聞いたからスレッタ先輩に連絡できたんですし」

 

「え?」

 

 しかしここで意外な事実が発覚。どうも、最初に三日月がペイル寮に行った事に気が付いたのはリリッケでは無いらしい。

 

「じゃあ、誰が?」

 

 どちらにせよ、その人にもお礼は言わないといけない。なのでスレッタはその人物の事をリリッケに尋ねる。

 

「グエル先輩です」

 

「……え?」

 

 そして意外過ぎる名前を聞いた。

 

「私がスレッタ先輩に連絡する直前なんですけど…」

 

 ―――――

 

『おい』

 

『ん?え?グエル先輩?あ、スレッタ先輩なら、今は新しく作った推進ユニットのテスト中なのでここにはいませんけど…』

 

『知ってる。だが用事があるのは水星女じゃねぇ』

 

『え?じゃあ誰に?』

 

『誰でもいい。さっきあのチビ…三日月つったか?あいつがペイル寮に行ったぞ』

 

『え?何で』

 

『多分だが、エランをブチのめすからだと思う』

 

『はいぃ!?』

 

『とりあえず伝えたからな。決闘前だし、大事になる前に何とかしとけ。じゃあな』

 

「は、はい!ありがとうございます!』

 

 ―――――

 

「って会話を、寮の外でグエル先輩としたんですよ」

 

「そうだったんですね」

 

 あのグエルがどうして態々そんな事を伝えにきたかは知らないが、おかげで大事にならずにすんでいる。

 

(決闘が終わったら、ちゃんとお礼言わなきゃ)

 

 正直今でもグエルの事は苦手だが、それはそれ。やるべき事を全部やったら、自分の口からグエル本人にお礼を言おうとスレッタは決めた。

 

「というか、そろそろ寝た方がいいだろう。明日は決闘だ。今のうちにしっかりと休息を取るべきじゃないか?」

 

「昭弘の言う通りだね。決闘は明日の放課後だけど、これ以上話していると夜更かししちゃうよ?だから皆、今日は寝よう」

 

 昭弘とマルタンに言われ、皆が時計を確認するともう直ぐ23時。確かにこれ以上起きていたら、明日に響くかもしれない。そもそも皆、まだシャワーも浴びていないのでだ。今からシャワーや課題や、寝る前のストレッチなどの時間を考えると、また夜遅くに就寝する事になる。それに、これ以上は三日月に説教するだけの時間になりそうだし。

 

「……まぁいいわ。後は決闘が終わったらするから」

 

「えー…」

 

「えーいうな」

 

「あ、まだお説教するんですねミオリネさん」

 

「当然でしょ。ていうか何であんたは何も言わないのよ」

 

「えーっと、私もう1回怒ってますし、エランさん、殴られていませんし」

 

「甘い。甘すぎるわ。そうやって甘やかすと、こいつ絶対に何時かまたやらかすわよ。こういうのは、相手がしっかり理解できるまで叱らないとダメなのよ」

 

「……あー」

 

 そう言われると、確かにこれではまたやらかしそうだ。1度怒ったくらいじゃ足りないかもしれない。現に入学初日から三日月は沢山やらかして、その度に怒っているのに、これだ。

 今後また三日月がやらかしたりしたら、今度はもっとしっかりしようとスレッタは考える。

 

「なんだか、子供の教育方針を話している夫婦みたい」

 

「わかります!そんな感じでしたよね!!」

 

「ふむ。やはりミオリネが母親で、スレッタが父親。そして三日月が子供かな」

 

「つーかそもそもあの2人婚約者だろう」

 

 2人の姿を見た地球寮女子は、一様にそんな事を口にする。

 

「トマトの人が母親か…なんかやだなぁ…」

 

「こっちだってあんたみたいな子供嫌よ!!」

 

「わー!ミオリネさん落ち着いてー!あと三日月もそういう事言わないでー!!」

 

 今にも三日月に殴りかかりそうなミオリネを、スレッタが止めながら地球寮の夜は更けていくのであった。

 

 

 

 

 

『6番ゲート開けてくれ』

 

『カタパルト、超伝導ストレージ、異常なし』

 

『フライトユニット各部の警告表示無し!INSアライメント問題無し!行けるぞ!!』

 

 翌日の放課後。ニカが作った新型の推進ユニットを背負ったエアリアルは、今まさに決闘の為に宇宙空間へ飛ぼうとしている。

 

『そういえばスレッタ。エランさんとちゃんと話せた?』

 

「いえ。でも、決闘で懸けるものは決めました」

 

『そっか』

 

 エアリアルのコックピットにいるスレッタは、覚悟を決めた顔をしている。結局昨日はまともにエランと話せなかった。それに、エランからも鬱陶しいと言われている。

 でもそれがどうした。決闘に勝ちさえすれば、それら全てが問題でも何でも無くなる。それに昨日三日月が言っていたが、スレッタには自信がある。自分は三日月以外には負けないという自信が。

 

『スレッタ、油断はしないでね』

 

「うん、ありがとう三日月」

 

 三日月に激を飛ばされる。彼の言う通り、自信はあるが油断はしない。それは足元を掬われ、敗北に直結するからだ。

 だから慢心せず、油断せず、そして自分に自信を持って決闘に勝利する。そしてエランに、ある事をお願いするのだ。

 

「……ところで三日月」

 

 それはそれとして、スレッタには今どうしても気になる事があった。

 

『何?』

 

「何でバルバトスに乗ってるの?」

 

 それは、何でか三日月がバルバトスに乗ってフロント外宇宙域にいる事だ。正確には決闘が行われる空間では無く、ミオリネやニカといった地球寮の皆が乗っているスペースランチのすぐそばにいるのだが。しかも背中にはソードメイスを装備しているし、三日月自身も何時ものパイロットスーツを着用している。まるで、これから決闘にでも行く恰好だ。

 

『いや、念の為?』

 

「念の為って何!?言っておくけどダメだからね!?」

 

 三日月がこんな事をしているのは、偏にエランが信用できないからである。もしかすると、エランはこの決闘でスレッタに必要以上に痛めつけるかもしれない。

 そして本当に低い可能性だが、決闘に乗じてスレッタを始末する事だってありえるとさえ、三日月は思っている。なので万が一に備えて、バルバトスに乗っているのだ。

 

『あー、こちら決闘委員会こちら決闘委員会。三日月・オーガスくん。これは水星ちゃんとエランの決闘だから、何があっても乱入とかは絶対にダメだからね?』

 

「どうしても?」

 

『うん。だめ。もし乱入したら水星ちゃんは失格になるよ?』

 

『…………………わかった』

 

『随分間があるなぁ…水星ちゃん、彼大丈夫かな?』

 

「えっと、流石に大丈夫だと思います…多分」

 

 シャディクが三日月に注意するが、三日月はやや不満顔。これでは本当に、決闘に乱入しかねない。勿論、そうなったらスレッタは反則負け判定を食らうので、流石にそんな事はないだろうが、不安が残る。

 そもそも彼は、入学初日にフロント管理社のデミギャリソンを決闘場に乱入する形で破壊している。何か手を打った方が良いだろう。

 

(念の為、サビーナ達に連絡いれておこう…)

 

 そしてシャディクは、念の為腕利きのパイロットであるサビーナ達に連絡をする事にした。万が一、三日月が決闘に乱入しないように。

 

『ハッチ開けるぞ。射出権限をパイロットに移譲』

 

『スレッタ!きばっていけよ!!』

 

「はい!LP041、スレッタ・マーキュリー。エアリアル、行きます!!」

 

 スレッタはそう言うと、エアリアルをカタパルトから射出する。まるで遊園地のフリーフォールのように、エアリアルは真っすぐ落ちて行き、僅か数秒で宇宙へと飛び出すのだった。

 

『KP002、エラン・ケレス。ファラクト、出る』

 

 同時にエランもペイル社の学園艦から、愛機ファラクトと共に出撃。そして両者、目視で確認できる距離まで近づく。

 

『これより双方合意のもと、決闘を執り行う。勝敗は通常通り、相手モビルスーツのブレードアンテナを折った者の勝利とする。立会人は、グラスレー寮長、シャディク・ゼネリが務める。両者、向顔』

 

 シャディクの合図と共に、モニターにそれぞれの顔が映し出される。

 

『ところで水星ちゃん。決闘で懸けるものは決めたかな?』

 

 エアリアルのコックピットに、シャディクの声が聞こえた。そういえば、まだスレッタは決闘で懸けるものを言っていない。

 

「はい、決めました。私が勝ったら、エランさんの事を教えてください」

 

『それって…』

 

『告白だな』

 

『きゃーーー!!』

 

 スレッタの懸けたものに、リリッケは黄色い声をあげる。同時に、学園で決闘を見ている生徒の幾人かも、リリッケと同じ反応をしていた。

 

『ほんと、うっとおしい奴』

 

『ミオリネさん。顔笑ってるよ?』

 

『うっさい』

 

 ミオリネはそう言うが、その顔は微笑んでいた。だってこれがスレッタなのだ。

うっとおしいくらい絡んできて、人の言う事を聞かずに勝手に動いて、それでも進み続ける。

 それに、ミオリネは理解のある花嫁という自負がある。エランくらいであれば、少しは許すつもりだ。事実、既に三日月という姑じみた存在がいるし。

 

『じゃ、始めようか』

 

「はい。勝敗はモビルスーツの性能のみで決まらず」

 

『操縦者の技のみで決まらず』

 

『「ただ、結果のみが真実」』

 

『フィックスリリース』

 

 こうして、エアリアルとエランの事を懸けた決闘が始まった。

 

 

 

 闘いは、エランやや優勢に進んでいた。最初こそ、急ごしらえのフライトユニットでファラクトに追いつけていたエアリアルだったが、それも最初だけ。直ぐに機動性のあるファラクトに距離を取られるようになった。何とか追いつこうとするも、中々距離が詰められない。

 それに例え距離を詰めても、ファラクトにはGUNDビットのコラキがある。もしコラキの電子攻撃を受けたら、エアリアルでも動けなくなる。そうなれば、あとはグエルの時と同じようになぶり殺しだ。

 

『パーメットスコア3!!』

 

 そして案の定、何とか距離を詰めたエアリアルに、ファラクトはコラキによる攻撃を開始。

 

『スレッタ、避けて!』

 

『はい!』

 

 ニカに言われた通り、スレッタはコラキの攻撃を避けて進む。同時にエアリアルのGUNDビット、エスカッシャンを起動して防御と攻撃をする。

 

『ちっ!GUNDビットの制御だけじゃなく、パイロットとしても向こうが上か!』

 

 エランは歯を食いしばりながら、攻撃を続ける。当たらない。いくら攻撃をしても全く当たらない。自分だって過酷な訓練、そして非人道的な実験を得てアスティカシアでも上位のパイロットになれたというのに、それをあざ笑うかのように、エアリアルには攻撃が当たらない。

 

『本当に不公平すぎるだろ、スレッタ・マーキュリー!!』

 

 ここでエラン、突如エアリアルに向かって前進。同時に腕部に収納されていたビームサーベルを出し、接近戦を挑む。

 

『くっ!』

 

 まさかこっちに向かってくるとは思わなかったが、スレッタも直ぐにエアリアルのビームサーベルを出して応戦する。そして両者、まるで鍔迫り合いをしているような状態へとなった。

 

『君は何でも持っている!友達!家族!過去に未来も!そして希望だって!!』

 

『エランさん…?』

 

『だったら勝利くらい僕にくれったっていいじゃないか!!じゃないと、不公平すぎる!!』

 

 まるで子供が泣いているような怒号。いや、もしかするとエランは今泣いているのかもしれない。普段のエランからは、想像も出来ないような声。それに少しあっけに取られるスレッタ。そしてその間に、エアリアルの背後からコラキが攻撃をする。

 

『っ!エアリアル!皆!!』

 

 スレッタは直ぐにそれに気が付き、エスカッシャンで防御。なんとか命拾いをした。

 

『ちぃ!!』

 

 エランはファラクトのバーニアを吹かし、エアリアルから再び距離を取る。そしてビームアルケビュースでエアリアルの頭を狙い、撃ち続ける。同時に、四方八方からコラキによる攻撃。だがスレッタはそれを全て避け、ビームライフルとエスカッシャンで反撃をする。

 

『凄い…あれだけの攻撃を全部避けるなんて…』

 

 端末から決闘を見ているマルタンは驚きを隠せない。四方八方からの縦横無尽な攻撃。しかも、1回でも当たれば動けなくなる。普通の人ならば、緊張と焦りで全部避けるなんて出来ないし、出来たとしても避けるので精いっぱいで、平行して別の武装を展開するなんて無理だ。

 そんな難しい事を、スレッタはやってのけている。これも全て、三日月のバルバトスと何度も何度も模擬戦をしてきたおかげだろう。

 

『でも、このままじゃ…』

 

『ああ、アウトレンジで嬲り殺しされかねないな』

 

 だが反対に、エアリアルの攻撃もファラクトに当たっていない。正確に言うと、攻撃可能距離まで距離を縮められていない。ファラクトには高い狙撃能力がある、ビームアルケビュースというマガジン式のロングバレルビームライフルがある。対するエアリアルのビームライフルには、そこまでの長距離狙撃能力は無い。

 もしこのままファラクトとの距離を詰められなければ、自分の攻撃の届かない距離から一方的に攻撃され続ける。いくらエアリアルがファラクトの攻撃を避け続けているとはいえ、それも限界がくるだろう。

 ならば距離を詰めればいいのだが、それが出来ない。流石機動性を売りにしているペイル社の新型だ。やはり急ごしらえのフライトユニットでは無理がある。

 

「……」

 

 そんな決闘を、三日月はバルバトスに乗って黙って見ている。出来ればエランは自分の手でぶちのめしたかったが、委員会の決定と、プロスペラに言われたのでそれはダメ。なのでこうして、ただ見ている事しかできない。

 

 しかし三日月は、スレッタがエランに負けるとは微塵も思っていない。

 

 だってスレッタは強いのだ。最初こそ、自分とバルバトスに手も足も出ず負けてばかりだったけど、スレッタはそこからどんどん学んでいった。

 今だって、ファラクトのコラキを足で思いっきり蹴っていたりするし。おかげで今では、自分と戦ってもかなり良い線行くくらいにはなっている。そんなスレッタが、エラン程度に負けるとは思えない。

 

(隠し玉とか無ければだけど…)

 

 不安があるとすれば、エランが何かとっておきがある場合だ。もしそれをスレッタが対処できずに受けてしまえば、負けかねない。

 

(その時は俺が全力で叩き潰そう)

 

 でもそうなったら、次に予定されているエランと自分の決闘で容赦なく潰そう。三日月はそう決める。

 

『失礼する』

 

『お邪魔しまーす』

 

 そんな時だ。バルバトスの両脇に、見た事に無いモビルスーツが現れたのは。

 

「……誰、お前ら?」

 

 三日月はそっとバルバトスを動かし、背中に背負っているソードメイスを持とうとする。見た事の無いモビルスーツ。そして聞いた事の無い声。幸い武器は持っていないようだが、それでも突然こんなモビルスーツが自分の隣に現れたら、誰だって警戒する。

 

『グラスレー寮所属、サビーナ・ファルディンだ』

 

『同じくグラスレー寮所属、レネ・コスタ。初めまして、三日月・オーガスくん?』

 

 見た事の無いモビルスーツに乗っていたのは、グラスレー寮のサビーナとレネ。寮長シャディクの腹心とも言える女生徒だ。同時に、非常に腕の立つパイロットでもある。

 

『な、何でグラスレーの方々がここに!?』

 

 直ぐ近くのスペースランチに乗っているマルタンは驚愕する。だってこれは地球寮とペイル寮の決闘。だと言うのに、そこにグラスレーが割って入ってきているみたいなものだ。いくら非武装状態とはいえ、これは色々警戒する。

 

『そう警戒するな。私達はあくまで彼の監視だ』

 

『監視?ああ、シャディクの命令ね』

 

『そういう事♪』

 

 どうやらミオリネは理解したようだ。要するに、三日月が決闘に乱入するのを阻止する役割なのだろう、と。

 

『安心してくれ。我々の目的は監視だけだ。こちらからは何かするつもりは無い』

 

『ならいいわ。そこで大人しくしていて。あとそいつの事お願い』

 

『感謝する。という訳だ。妙な事はするなよ、三日月・オーガス』

 

 それならば別に良い。何もしなければ、ただの観客と一緒だ。それに、いざという時は頼りになるし。ミオリネは、スペースランチの外にいるバルバトスを見ながらそう思う。

 

「……」

 

 そして三日月も、2人に敵意が無いのを確信したのか、ソードメイスから手を離した。

 

 因みにだが、現在グラスレー寮の格納庫には、武装されたベギルペンデが3機鎮座している。もし三日月が決闘に乱入した時、直ぐに出撃できるようにだ。乗っているのは同じグラスレー寮でもトップクラスパイロットである、イリーシャ、メイジー、エナオである。

 

「あ」

 

 そうしていると、エアリアルとファラクトが領空灯の外に出ていってしまった。

 

 

 

 現在決闘は、エアリアルがフライトユニットを全力で使い、ファラクトとの距離を詰めた事で、形成が逆転しそうになっていた。現に今ファラクトは、ビームライフルをエアリアルのエスカッシャンによる攻撃で失った。これでもう、狙撃の心配は無い。

 

『ぐ!?』

 

「今なら!!」

 

 その機機をスレッタは見逃さない。再びスラスターを吹かし、ファラクトに接近。このまま確実な距離で、ファラクトのヘッドアンテナを打ち抜けば勝ちだ。

 だがそう簡単にはいかない。

 

「!?」

 

 何と、ファラクトの足からビーム攻撃が放たれたのだ。更にファラクトから、また多数のコラキが射出される。まだこれだけ隠し持っていたとは思っておらず、不意を突かれたスレッタは一瞬だけ反応が遅れた。そしてその瞬間、コラキの攻撃がフライトユニットに当たってしまう。

 

「っ!!」

 

 スレッタは直ぐに、フライトユニットを強制パージさせる。おかげで、ギリギリエアリアル本体の電子機器は無事だ。だが、これではもう碌に動けない。

 

『君だけは否定してみせる!スレッタ・マーキュリー!!!』

 

 エランの叫び声と共に放たれる、コラキの攻撃。これまでで1番多い。碌に動けなくなってしまったエアリアルにとって、これは避けられない。

 

 そして遂に、コラキの攻撃がエアリアルの左足に当たってしまう。

 

「しまっ…!」

 

『捉えた!!』

 

 その決定的な隙を、エランは見逃さない。一気にスラスターを吹かし、エアリアルに接近する。まさに絶対絶命だ。

 

『……は?』

 

 だがその時、予想だにしていない事が起こった。

 

 

 

『何だあれは?』

 

『広範囲のパルス攻撃?いや、違う?』

 

 バルバトスの隣にいるベギルペンデに乗っているサビーナとレネは、その光景に驚きを隠せない。何故なら突然エアリアルから、電磁パルス攻撃のような攻撃が放たれたからだ。少なくとも、自分達が読んだ資料には、エアリアルにあのような武装は無かった筈だ。

 だがそれを受けたファラクトのコラキは、全て動きを停止。そして丸腰となったファラクト周りを、エアリアルのエスカッシャンが囲む。

 

 これでもう、チェックメイトだ。

 

 四方八方から、雨あられと降り注ぐエスカッシャンのビーム攻撃。流石のファラクトも、こうなってしまえば避けられない。成す術なく、攻撃を受けるだけだ。

 

「うん。やっぱりスレッタの勝ちだ」

 

 三日月がそう言うと同時に、ファラクトのヘッドアンテが破壊される。

 

 こうして、エランは敗北を喫したのであった。

 

 

 

「よかったの?ミオリネさん?」

 

 スペースランチの中では、ニカがミオリネに尋ねていた。なんせ今モニターには、スレッタとエランが良い雰囲気で話しているからだ。見ようによっては浮気にも見える。というか、浮気以外の何物にも見えない。

 

「私はね、理解のある花嫁なのよ。多少の浮気は許すわ」

 

 だがミオリネは、今回の事は不問にするつもりらしい。だってスレッタのあんなに嬉しそうな顔をしている。恐らくだが、スレッタにとって本当の意味での初恋相手がエランだ。それに水を差すなんて真似は流石にしない。

 

「それと三日月」

 

『何?トマトの人』

 

「いい加減名前覚えろっての」

 

 そしてミオリネは、スペースランチの直ぐ隣にいるバルバトスに乗っている三日月に言う。

 

「あんたも、エランの事を許してあげなさい。誰だって間違いは犯すわ。私だってそんな事があった。あんたもそういう経験があるでしょ?だから、今回だけはスレッタを泣かせた事を許してあげなさい」

 

『……』

 

「それともあんた、あんなに嬉しそうなスレッタをまた悲しませる気?」

 

 正直言うと、三日月は納得できない。だってエランはスレッタを泣かせた。その事実は変わらない。

 しかし、今スレッタはそんな事など忘れているかのようにエランと話している。それも嬉しそうに。もしも三日月がまたエランを殴ろうとすれば、スレッタはまた悲しくなるかもしれない。

 

『はぁ…わかったよ』

 

「よろしい」

 

 結果、三日月は今回だけエランを許す事にした。これ以上、自分が何かを言うのは違う気がするし、何よりスレッタは今笑っている。ならば、エランがスレッタを泣かせた事を水に流そう。2度目は無いけど。

 

『じゃ、俺先に帰るから』

 

『私達も失礼する』

 

『じゃあねぇ~』

 

 そう言うと三日月は、バルバトスを学園に向けて発進させる。同時に、監視に来ていたサビーナとレネも帰宅。

 

『エランさん。明日時間ありますか?』

 

『…今の所は、問題無いね』

 

『じゃあ明日、私とデートしてください!!』

 

 そして三日月が帰った後、スレッタはエランをデートに誘っていた。

 

 

 

 

 ペイル社 CEO室

 

「どうか、どうかお願いしますニューゲンCEO!強化人士4号には、まだ利用価値があります!なのでどうか、このまま焼却処分はどうかお待ちください!!」

 

 ベルメリアは、必死になって頭を下げてペイル社CEO4人に懇願していた。昨日の決闘で、エランは負けた。最後の最後に、エアリアルに逆転されたからである。

 ただ負けただけならまだ良いのだが、エランはもうモビルスーツに乗る事が出来ない。データストームの許容量を、大幅に超えてしまっているからだ。もしもう1度ファラクトに乗れば、間違いなく死ぬ。そして使命を果たせない強化人士に、価値は無い。なので処分しなければならないのだ。

 

「貴方、今更そんな事を言うの?今まで3人も潰してきたのに」

 

「っ…!!」

 

 ニューゲンの言葉に、ベルメリアは何も言い返せない。彼女の言う通り、強化人士は既に3人が死んでいる。なのに今更強化人士4号を救おうだなんて、自己満足の偽善にすぎない。

 強化人士4号に情が沸いたとえいばそれまでだが、今更過ぎる。本当に救いたいと思っていたら、もっと早く動くべきだったのだ。

 

「使命を果たせない強化人士に用は無い。今までだってそうだったでしょ?」

 

「そ、それは…」

 

 その通りだ。そもそも強化人士は非合法な人体実験の塊。もしこの存在が明るみになれば、ペイル社は終わりだ。少なくともCEO4人と、強化人士の実験をしてきたベルメリアは逮捕されるだろう。なので証拠隠滅の為にも、強化人士4号は処分しなければならないのだ。

 

「でも、今回は別よ」

 

「……え?」

 

 だがここで、ニューゲンはベルメリアが思いもしない事を言い出すのであった。

 

「実はね、今朝随分面白い実験データを見つけたのよ」

 

「じ、実験…?」

 

「ええ。ペイルグレードに強化人士4号の今後について尋ねたら、とある古い実験を提案してきたわ」

 

 ペイルグレード。

 それはペイル社が所有しているAIである。ペイル社はそのAIが人物を査定し、色んな選択してきた事を言われた通りにやってきた会社だ。おかげで、ベネリットグループ御三家にまで上り詰める事が出来ている。人間であれば間違った判断を下し、結果会社が危機に瀕したりするが、AIであれば問題無い。だってAIは、人間のようなミスはしないのだから。

 

「そう。とても興味深い実験よ」

 

「もしこれが成功すれば、全く新しい高性能モビルスーツを開発できるでしょうね」

 

「そうね。材料だってそこら中に沢山いるし」

 

 ベルメリアはそんな彼女達に寒気を覚える。まるでお伽噺に出てくる、何かの儀式前の魔女のような恐ろしさがある。一体彼女達は、強化人士4号にどのような実験を行うと言うのか。

 

「その実験とは…?」

 

「これよ」

 

 ニューゲンが室内に設置されているモニターに、ペイルグレートが提案したとても古いとある技術実験データを映し出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてそれを見た瞬間、ベルメリアは両手で口を押え、膝から崩れ落ちたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだかなぁ…エランさん」

 

 アスティカシア学園の大通り。そこに設置されているベンチに、スレッタは座っていた。昨日の決闘の後、スレッタはエランの事を色々教わる為にデートに誘った。そして今、そのエランを待っている最中である。

 因みに、ミオリネからは『今回だけは許す』と言われているので、ある意味奥さん公認の浮気である。尚三日月は現在、地球寮で昭弘とチュチュと共に筋トレをしている。

 

 だが既に約束の時間を10分過ぎているのに、未だにエランは現れない。

 

(もしかして、道に迷っているのかな?)

 

 スレッタがそんな事を考えていると、端末が鳴った。

 

「ん?え、エランさん!?」

 

 画面にはエランの名前が表示されている。スレッタはそれを見た瞬間、直ぐに電話に出る。

 

「も、もしもし!?」

 

『やぁ、スレッタ・マーキュリー…』

 

「え、エランさん!お、お久しぶりです!」

 

『昨日会ったばかりだけどね…』

 

「あ、ご、ごめんなさい!」

 

 エランからの連絡に少しどもるスレッタ。電話越しではあるが、エランと話せるのが嬉しいからだ。

 

「それで、どうしましたか?」

 

『うん。それなんだけど、すまない。今日は行けなくなってしまった…』

 

「え…」

 

 そしてそれを聞いた瞬間、スレッタは冷水をかけられる気分になる。

 

「も、もしかして、昨日の決闘で…」

 

『いや、それは関係無いよ。今日のは本当に急に用事が出来ただけなんだ…』

 

 てっきり決闘に負けたから何かあったのかと思ったが、どうやら違うらしい。

 

『だから、本当にすまない』

 

「い、いいえ!急用なら仕方ないですし!」

 

 正直に言うと残念だが、それをエランに言うのは違う。生きていれば、誰しも突然の急用くらいあるだろうし。

 

『じゃあ、もう時間だから行くね』

 

 どうやら本当に時間が無い様子だ。これ以上通話をするのはエランに失礼だろう。名残惜しいが、ここで通話は終了しないといけない。

 

「はい!エランさん、用事頑張ってくださいね!」

 

『うん。またね、スレッタ・マーキュリー』

 

 そう言うと、エランは通話を切ってしまった。

 

「……まぁ、仕方ないよね」

 

 残されたスレッタは、仕方ないと思いつつも、寂しい気持ちになる。しかし、いつまでも落ち込んでいても仕方が無い。

 そして気分転換に、学食でのみ販売しているスペシャルドリンクを飲みに行くのだった。因みに味は、甘すぎて微妙だったらしい。

 

 尚、事の顛末を聞いたミオリネは『先約にデートがあるんだから用事くらいすっぽかしてデートに来なさいよ!』とエランにキレてた。

 

 

 

 

 

(またね、か…もう会えないだろうに、どうして僕はあんな事を言ったんだろうね…)

 

 電話を終えたエラン事強化人士4号は、ペイル社の秘密の手術室にいた。通話をしていた端末は既に取り上げられ、その後直ぐにエランは手術台に固定された。周りにいる研究者も、忙しなくとある手術の準備を始めている。

 

 彼はこれから、とある実験を受ける。

 

 どんな実験かはエランも聞かされていない。聞いてみても『君はこれから生まれ変わるんだ』としか言われない。元々非人道な実験を受けてきた身だ。今更ペイル社が善意に目覚めて、自分の顔を元に戻して素直に解放するなんて思っていない。これから行われる実験も、絶対にロクなものじゃないだろう。

 

(けど、僕はもう満足だ…)

 

 だがエランは、後悔なんてあまり無かった。スレッタとの決闘で、彼は思い出したのだ。かつて自分にも、誕生日を祝ってくれた人がいたのを。忘れてしまった自分の本当の名前を、呼んでくれた人がいた事を。何も持っていないこんな自分を、心から愛してくれた人がいた事を。

 それに最後に、スレッタと電話も出来た。これだけでもう満足である。

 

 そんなエランに、研究員が麻酔を打つ。こうなったら、あと20秒足らずで自分は意識を失うだろう。

 

(さようなら、スレッタ・マーキュリー…)

 

 徐々に意識が遠のく中、エランは最後にスレッタに届かないお礼を言った。そしてそのまま、意識を完全に失うのであった。

 

 

 

 

 

 後に、エランはスレッタと再会を果たす事になる。尤もその時のエランは、もう人とは言えない状態になっていたのだが。

 

 

 

 

 




 よく4号生存ルートありますよね?なので本作もその流れに乗ろうと思います。そんな4号の結末は、まぁ察しの良い人なら気が付くと思う。

 そして今後の展開ですが、株式会社ガンダム→本作オリジナル決闘→VSグラスレーの予定です。夏までにはグラスレーまで書きたいなぁって感じ。

 変なところ、矛盾しているところがあったら言って下さいませ。修正したしますので。

 次回も気長にお待ちください。
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