今回はミオリネメイン回です。
追記 感想にてPVは?とご指摘があったので、少し書き足しました。本当にうっかり忘れていたんです。ごめんなさい…。歳かな…?
『あんのクソスペわがままお嬢様ーーーー!!』
「チュチュ、授業中」
戦術区画に、モビルスーツの授業を受けているチュチュの叫び声が響き渡る。チュチュがこれほど怒っている原因は、ミオリネにある。
というのも、ミオリネは昨日いきなり地球寮を株式会社ガンダムの本社にしたのだ。
『あんた達、今からうちの社員だから。給料はしっかり払うわ。文句ある?無いわね、じゃそう言う事で』
その上、現在地球寮に所属している生徒を全員従業員として有無を言わさず接収。一応給料は支払うとの事で、オジェロやヌーノは了承したし、チュチュもただ働きなんてごめんなのでそこはいい。
でも、やり方と言い方が気にくわない。故に、こうして授業中に叫んでいるのだ。
『ニカ姉はいいんかよ!?』
「うーん…まぁ、エアリアルとバルバトスに触れるし、それに会社が上手くいけば、アーシアンでも活躍できるって証明にもなるし」
チュチュが敬愛しているニカは、特に反対していない。むしろ乗り気だ。なんせエアリアルとバルバトスの両方に触れる事が出来る。メカ好きのニカにとって、これ以上ない機会だろう。そんな機会をふいにするつもりは無い。
『そうかもだけどさぁ…!!』
基本ニカの言う事は素直に聞くチュチュだが、
『やっぱりクソスペわがまま女の手下なんて嫌だぁぁーーー!!』
大っ嫌いなスペーシアンの部下になるのは、どうしても嫌だ。その後もチュチュは、文句を言いながら授業を続けるのだった。
ベネリットグループ本社 シン・セー開発公社社長室
現在そこに、3人の学生と1人の大人がいる。ソファに座っているミオリネとスレッタ。その後ろに立っている三日月。
そして対面のソファに座っている仮面を被った女性、プロスペラ。彼女達は現在、ある物を受け取っている最中だ。
それは、エアリアルとバルバトスの詳細なデータである。
先日のインキュベーションパーティーでの一件以来、ミオリネは株式会社ガンダムの今後について色々考えていたのだが、何よりも先ずエアリアルとバルバトスの詳細なデータを手にする事にした。それが無ければ、解析するのも、量産するのも不可能だからだ。
「はい、どうぞ」
「……随分あっさりくれるんですね。正直、エアリアルだけでも難しいと思っていたのに、まさかバルバトスのデータまでくれるなんて」
けれどまさか、こうもあっさりくれるとは思っていなかった。色々説得を考えていたのだが、それらが全て徒労に終わった瞬間である。
因みにミオリネがバルバトスのデータも欲したのは、バルバトスを守る為である。
インキュベーションパーティーでは、急場しのぎとはいえ、エアリアルの技術を使ってというていで会社を興した。おかげで、エアリアルを廃棄処分されずにすんでいる。
しかし、ベネリットグループ内の企業が1番欲しているのは、バルバトスの方だ。
なんせバルバトスは、現在この世に1機しか存在しないガンダムフレーム。エアリアルだって希少価値は非常に高いが、バルバトスに比べると少し劣る。
もしこのままでは、三日月が普通の学園生活を送っている間に、学園外でインキュベーションパーティーのような策謀が再び起こってしまうと、バルバトスを奪われるかもしれない。実際インキュベーションパーティーでも、御三家はバルバトスを手にしようとしていたし。
スレッタが家族のように接している三日月から、愛機のバルバトスを奪わせない為にはどうするべきか、ミオリネは考えた。
そこで出した結論が、株式会社ガンダムから、バルバトスの技術を売り出していこうというものである。
そうすれば時間こそかかれど、他企業はバルバトスのデータや技術を手にする事が出来る。態々策謀を巡らせる必要も無い。何もせずとも手に入るのなら、それが1番良い。だからミオリネは、バルバトスの技術を売り出そうとしているのだ。
因みに、三日月にはしっかり了承を取っている。勝手にやったら、後がやばそうだし。
「でもミオリネさん。エアリアルとバルバトスの量産は、現時点では不可能よ」
「え?」
「GUNDフォーマットの方は、データ蓄積どころか、基礎技術もあまりわかっていない。そしてガンダムフレームについては、単純にロストテクノロジーの塊すぎて、解析が非常に困難なのよ。私だって数年かけたけど、エイハブリアクターの事が半分もわかっていないしね」
「そうだったのお母さん!?」
「ええ。どうしてここがこうなるかとか、本当によくわからないのよ。これを作った科学者エイハブ・バーラエナは、間違いなく本物の天才ね」
母親の発言に、スレッタは驚きを隠せない。エアリアルを作った母であれば、とっくにバルバトスの事だってわかっていると思っていたからだ。そもそも、バルバトスを今の形に改修をしたのは母だし。
「でも、解析をするというのなら手は貸すわよ?」
「……その時は、お願いします」
プロスペラはそう言うが、ミオリネはあまり手を借りたくない。インキュベーションパーティーで言われた事や、その風貌のせいで、今でもあんまりプロスペラを信用していないからだ。
「ねぇ、お母さん。聞きたい事があるんだけど…」
「なぁに?」
そんなミオリネの隣に座っているスレッタは、プロスペラに質問をする。
「どうしてエアリアルの事を、ガンダムだって黙っていたの?」
それは、エアリアルの事。スレッタにとって、エアリアルは大事な家族。そんなエアリアルの事で、プロスペラはずっと隠し事をしていた。それがどうしても気になっていた。
「貴方達を守る為よ」
「え?」
プロスペラはそう言うと、おもむろに立ち上がり、上着を脱ぐそして、腕に装着している義手を外した。
「怖い?」
「ううん。何時ものお母さんだもん。怖くなんてないよ」
「ありがとう。でもね、世の中、スレッタみたいに優しい子ばかりじゃないのよ。人はよく知らない物に恐怖を覚える。人は恐怖を遠ざけ、攻撃しようとする。ガンダムが禁じられた兵器という認識は、簡単には消えない。そんな物に乗っているとわかれば、スレッタは多くの人から攻撃されるわ。この前のインキュベーションパーティーで、それを体験したでしょ?」
「う…」
プロスペラの言葉を聞き、スレッタは思い出す。自分の事を魔女だと言って来た人を。まるで人では無いような物を見る目で見てきた人を。今でもあの時の事を思い出すと、少しだけ震える。
「だから私は言わなかったの。貴方達を、忌まわしい呪いから守る為に」
「お母さん…」
スレッタは、母親であるプロスペラを見ながらほっとする。そういう事だったのか。確かにそれなら、母が言わなかったのもわかる。全ては、自分達を守る為なのだから。
「そうだよね。全部、私達を守る為だよね!」
「勿論、だって貴方達は、私の大事な娘達だもの」
「そんな事しなくても、俺がスレッタを守るよ」
そうやってスレッタが納得しかけていると、今まで黙っていた三日月が口を開く。
「あんたの言いたい事はわかった。スレッタの為って事も理解した。でも、もうそんな事しなくてもいい。俺がスレッタをずっと守るからね」
まるでプロスペラを睨むように、三日月は言う。そんな三日月を見て、プロスペラは微笑みながら義手を装着する。
「ふふ、相変わらず情熱的な言い回し。まるでプロポーズね」
「事実を言っているだけじゃん」
「いやプロポーズは否定してくれない三日月!?私、ミオリネさんの婚約者だからね!?」
スレッタは慌てて、三日月を止める。これ以上、三日月が何か恥ずかしい事を言いかねないからだ。
(嬉しくはあるんだけど…)
嬉しいが、やはり恥ずかしい。なのでこれ以上、三日月には喋らせない。本当に何を言うかわからないし。
「……」
そしてミオリネは、プロスペラを訝しむような目で見ていた。先程プロスペラとスレッタの会話に、違和感を覚えたからだ。
だってさっきのスレッタは、まるで親の言う事を何でも鵜呑みにしている幼い子供のように見えたのだから。
プロスペラからデータを受け取った後、3人は本社から学園に帰ろうとしていた。
「2人共、先に学園に戻ってていいわよ」
しかしここで、ミオリネが先に帰っていていいと言い出す。
「え?どうしてですか、ミオリネさん?」
「トイレ?」
「違うわよ。つかあんたデリカシー無さすぎるでしょ…私、この後クソ親父のところに行かないといけないの。会社の事業計画書を必ず見せろってうるさくてね。だからそれを見せに行くのよ」
どうやらミオリネ、この後デリングの元へ行かないといけないらしい。それも、株式会社ガンダムがらみでだ。
(面倒くさいわね…普通はこんな事しない筈なのに…)
ミオリネの思っている通り、本来であればこんな事をする必要は無い。しかし、扱っている物が物なだけに、学生であるミオリネだけの判断で事業を進める事が出来ないのだ。デリングも娘の一存で事業を進ませるなんて事、今回限りは絶対にさせない。先ずはその事業計画書を見て、総裁として許可を与えるところからだ。
要するに、デリングの許可が無ければ、株式会社ガンダムは立ち上げる事さえ出来ないのだ。
「だったら、そこのカフェで待ってますよ。1人で帰るのって、寂しいですし」
「スレッタがそうするなら、俺も待ってるよ」
「そう。なら好きにしなさい。多分30分くらいで戻るから」
それならそれで構わない。どうせすぐに終わるし。そしてミオリネは、そのままデリングの元へと向かった。
「三日月、何か飲む?」
「何でもいいよ。でもコーヒーはやめとく。あれ苦いし」
残された2人は、そのままミオリネが帰ってくるまでお茶して待つ事にした。
ベネリットグループ本社 総裁室
シン・セーの社長室よりずっと広く、無駄な物が置かれていない部屋。そこにミオリネは、父デリングと対面していた。先程スレッタに言ったように、株式会社ガンダムの事業計画書を見せにきたからだ。
そしてミオリネの持ってきた事業計画書を読んだデリングは、
「却下だ。最初から全て見直せ」
ばっさりと切り捨てた。
「……どうしてですか?言ってはなんですが、これならば、ベネリットグループの業績回復の起爆剤になりえると思いますが」
流石にムっとするミオリネ。こっちだって、株式会社ガンダムの社長として考えてきたのだ。なのにこれ。そんなミオリネに、デリングはしっかり説明をする。
「エアリアルを量産し、それを兵器として売る。これは先ず、エアリアルが量産できると確約できなければ意味が無い。未だに機体も呪いの解析も出来ていないのに量産など、これではただの戯言だ。誰も出資などせん」
プロスペラにも言われたが、エアリアルの量産は現時点では不可能だ。なのにそれを量産し、販売するというのは、最早嘘つきと言っても良い。だって出来ないのだから。
「今は無理ですが、いずれ必ず…」
「たらればの話をするな。今できる事で事業計画書を作れ。そもそも、これはしっかりと他の社員と話しあって考えた事なのか?」
「それは…」
「やはりな。お前1人で勝手にこれを決めただろう。社員が納得していなければ、いずれ誰もがお前から離れていくぞ」
見抜いてくるデリング。だってミオリネは、地球寮の皆をほぼ無理矢理参加させる形で
社員にしている。おまけにこの事業計画書も、デリングが言ったように、ミオリネが1人で考えた物だ。誰にも相談などしていない。そして人心を失った経営者の末路は、大抵酷いものである。
「尤も、これだけならばまだ許容範囲だ。大言壮語な計画書を作るのは、新しい企業にはよくある事だからな」
しかし、デリングにとって重要なのはそこでは無い。重要なのは、ミオリネが持ってきたもうひとつの計画書だ。
「だがエイハブリアクターの販売だけは絶対に許可せん」
それは、バルバトスに積まれているエイハブリアクターの量産。ミオリネは、エイハブリアクターを解析し、そを販売しようとしていた。これが、デリングがミオリネの持ってきた事業計画書を却下にした最たる理由である。
「ミオリネ。お前は厄祭戦を再現するつもりか?」
「そんなつもりはありません。ですが、エイハブリアクターをこのままにしておくのはあまりに勿体ないです。これが量産できれば、グループに莫大な貢献をするだけじゃなく、人類社会にもっと大きな可能性を見いだせる筈です」
ミオリネとて、人類が絶滅しかけた戦争を再現したいなんて思っていない。だが、エイハブリアクターには大きな可能性が秘められている。なんせほぼ半永久的にエネルギーを生成できるのだ。このまま何もしないというのは、あまりに惜しい。
「ダメだ」
しかし、デリングは首を縦に振らない。
「大昔、まだ人類が宇宙に進出するずっと前、今の北米大陸にとある兄弟がいた」
「は?突然何を…」
「黙って聞け。その兄弟は、何時の日か自由に空を飛んでみたいという夢を持っていた。そしてその兄弟は、あらゆる知恵を絞り、血の滲むような努力をした結果、人類初の動力飛行機を作りだした。初めて空を自在に飛んだ時、その兄弟がどれほど歓喜したのか想像もできん」
突然遥か大昔の旧世紀の話をするデリングに、ミオリネはよくわからない顔をする。
「しかし飛行機は、僅か10年足らずで戦争の兵器として使用される事となった」
「!?」
だが、続けてデリングが言った台詞を聞いて、ミオリネはデリングの話を理解する。
「わかるだろうミオリネ。確かにエイハブリアクターは無限の新しい可能性を秘めてはいるが、同時に最悪の兵器としても利用されかねんのだ。世の中、善意だけで生きている人間などおらんからな。もしもエイハブリアクターを量産し、それをドローン兵器の動力にでも使えば、モビルアーマー復活に繋がりかねん。そうなれば、人類は終わりだ」
ようするに、デリングは危惧しているのだ。エイハブリアクターが軍事転用され、その結果として、モビルアーマーが復活する事を。
もしも現代にモビルアーマーが復活してしまえば、本当に人類は今度こそ滅亡するかもしれない。英雄アグニカ亡き今、一体誰が人類史上最悪の無人兵器と言われたモビルアーマーを倒せるというのか。
「先のシン・セーの審問会の時にも言ったが、私は厄祭戦も、ドローン戦争も再現するつもりは無い。そして可能であれば、今すぐにでもバルバトスは破壊したいとさえ思っている」
唯一現存するガンダムフレーム、バルバトス。これは、現存するあらゆるモビルスーツより強力な戦闘能力を持っている。そしてバルバトスを狙っている企業は、今でも多い。御三家だってそうだ。最悪、特殊訓練を受けた兵士による強奪作戦をする輩がいるかもしれない。
そしてもしバルバトスが奪われ、その技術が悪意ある者によって軍事転用されたら、もう終わりだ。そうなる前に、バルバトスをこの世から抹消しておきたいというのが、デリングの本音である。
「だが、インキュベーションパーティーでああ言ったのだ。今更それを撤回するつもりも無い」
「……」
しかしデリングも、現状はバルバトスを破壊するつもりは無い。出来ればそうしたいのだが、インキュベーションパーティーでミオリネに『逃げるな』と言い、エアリアルとバルバトスを任せたのだ。
だというのにその発言を撤回して、自分の権限でバルバトスを破壊なんて流石にしない。何より、娘であるミオリネが成長しようとしている。この期を潰すほど、非道でもない。だからこそデリングは、ミオリネにチャンスを与える。
「2週間後に、また時間を作ろう。それまでに新しい事業計画書を考えてこい。それと同時に、1度歴史の勉強をし直せ」
「……わかりました」
こうしてミオリネの考えた事業計画書は、白紙に戻されたのである。
数日後、ミオリネは学園にある自分の温室で寝転がっていた。そして、ここ数日の事を思い返す。
先日学園に戻ったミオリネだったが、その顔は暗かった。デリングに、事業計画書の事を言われたからだけでは無い。無理矢理社員にした地球寮の皆が原因である。
学園に戻り、地球寮の皆の前で株式会社ガンダムが何を売り出すかという話になった時、ミオリネは兵器としてエアリアルを売り出すつもりだと言ったのだが、それを聞いた地球寮の皆の反応は、冷たかった。
『地球がまた戦場になるから嫌だ』
ヌーノ以外の全員が、この反応をした。何故なら地球では、未だにそこら中で大義の無い代理戦争が行われているからだ。ミオリネのやり方は、そこに自分達も参入すると言っているようなもの。1度モビルスーツによる戦闘があれば、多くの死人が出る。
もしもエアリアルを量産し、それを兵器として売り出せば、同じアーシアンが大勢死ぬ。こんなの、誰だって嫌に決まっている。
『い、嫌です!エアリアルにそんな事、させたくありません!!』
『あのねスレッタ。エアリアルを売るんじゃなくて、あくまでその量産機を兵器として売るんであって』
『つまりそのモビルスーツはエアリアルの兄弟姉妹って事じゃないですか!やっぱり嫌です!エアリアルの新しい妹か弟に、そんな事してほしくありません!!』
何より、花婿であるスレッタも反対していた。家族であるエアリアルに、そんな事をさせたくないからだ。
『俺も、それは嫌かな。だってエアリアルって、水星ではレスキュー用のモビルスーツだったし。確かに、モビルスーツは人殺し用の道具かもしれないけど、エアリアルは違うよ』
そして三日月も、スレッタと同じように反対してきた。おかげでミオリネは、社長なのに味方0という状況に陥ってしまったのである。
そこでミオリネは、1度会社の方針を保留として、先ずは父デリングに言われたようにGUNDやガンダムフレームの勉強をし直す事にした。その間、他の社員には会社のPV作成をお願いし、自分はひたすらに勉強をする。皆が納得できる事業をやる為に。
「GUNDの理想、か…」
そして買収したペイル社のモビルスーツ開発部門の責任者であるベルメリアから、ミオリネはある事実を知った。それは、GUNDフォーマットの理想。
元々GUNDは、怪我や事故を負い、腕や足が無くなった人に新しい手足を授けるという理想の元で作られたものである。それを軍事転用したのが、ガンダムだ。
「そんな凄いものを、どうして…?」
そのまま医療分野で進んでいれば、間違いなく歴史に名を残していたであろう技術。しかし、それはもう失われてしまった。他ならぬ、父デリングが破壊したからだ。デリングはどうしてそれを研究していたヴァナディース機関ごと破壊したのか、よくわからない。
「相変わらず、君の居場所はここなんだね」
「シャディク…」
ミオリネがその事で悩んでいる時、温室の前にシャディクが現れた。
「あんたは知ってた?GUNDの理想ってやつ」
「義父さんから、凡そはね」
「ふーん…信用されてるんだ」
「されるように頑張っただけさ」
軽口を叩きながら話す2人。しかし、その間にはどこか距離があるように見える。
「で、何の用?」
ミオリネはシャディクに尋ねる。彼が、ただ世間話をしにきただけな訳無いとわかっているからだ。
「ミオリネ、俺と手を組まないか?」
「は?」
そしてシャディクも、隠そうとせずに答える。
「実はね、ガンダムを欲しがっている顧客がいる。ジェタークやペイルの新型モビルスーツを凌駕するエアリアルが量産されるとなれば、カテドラルの認可がなくても、欲しがる顧客は大勢いる」
それはそうだろう。あんな力を持ったモビルスーツ、欲しがらない客なんていない。
「欲しいのはエアリアルじゃなくて、バルバトスでしょ?」
「まぁね。彼らの本音はそっちだよ。俺だって欲しいし」
しかし、そんなの建前だ。シャディクのいう顧客が本当に欲しいのは、ガンダムフレームであるバルバトス。現在希少価値だけでいえば、間違いなく地球圏1の存在だ。
あのエアリアルをも凌駕するであろう力を持ったガンダムフレーム。もしこれが量産されれば、世界征服だって夢じゃない。仮に量産が出来なくても、エイハブリアクターさえ手に入れば十分おつりがくる。
「資金援助は勿論、必要な人材がいれば派遣する。社長はミオリネのまま。俺の立場は、経営顧問とかでいい。義父さんは必ず俺がなんとかするから、エアリアルは破棄させないし、バルバトスも奪わせない。どうだい?」
シャディクは温室に寝転がっているミオリネに、温室の入り口から手を差し伸べる。
「あんたに何のメリットが?」
「エアリアルは、硬直している軍需産業を盛り返す起爆剤になる。そしてバルバトスは、軍需産業以外の新しい利益をグループにもたらす福音になるかもしれない。俺はその功績が欲しい」
「……将来、自分が総裁になる為に?」
「そこは想像に任せるよ。それで、どうかな?」
そこまで素直に応えるとは思っていなかったミオリネは、少しだけ面食らう。条件としては、かなり良い。むしろデメリットが無いくらいだ。既に会社の資金ぶりが厳しい今では、喉から手が出る程欲しい条件。
更にシャディクの高い経営能力も手に入るのであれば、今後の会社運営は非常にスムーズに進むだろう。
そんな提案をし、未だに手を差し伸べるシャディクにミオリネは、
「断るわ」
その申し出を断る答えを返すのだった。
「……理由を聞いても?」
「簡単よ。私は株式会社ガンダムの社長よ?そしてかなり強引な手段で、地球寮の皆を従業員にした。そんな私が真っ先にギブアップして、誰かの助けを借りるなんてあっていいわけないでしょ。何よりここであんたに頼ったんじゃ、あとでクソ親父に何言われるかわかったもんじゃない」
ミオリネがシャディクの申し出を断った理由。いうなればそれは、プライド。勝手に会社を興して、勝手に従業員にしておいて、勝手にギブアップしたんじゃ、いくら何でも地球寮の皆に申し訳が無い。
というか、もしそんな手段を取ったら、絶対に皆自分を社長だとは認めてくれないだろう。それにデリングにも『逃げるな』と言われているのだ。ミオリネにとって、この申し出は『逃げ』になりかねない。
あと、単純にシャディクが信用できないというのもあるが。
「じゃあ、どうするつもりだい?」
「心配しなくても、既に答えは出してるわ。じゃ」
そう言うとミオリネは立ち上がり、温室から出て地球寮へ向かうのだった。
「君は変わったね、ミオリネ…」
立ち去っていくミオリネを、シャディクはどこか寂しそうな目をして見つめ、自分も寮へと帰っていくのだった。
地球寮
「医療機器、ですか?」
「そうよスレッタ。エアリアの技術であるGUNDフォーマットを、当初の理想であるGUND医療として売り出す。これが私の出した、株式会社ガンダムの事業」
久しぶりに地球寮に帰ってきたミオリネは、株式会社ガンダムが何を売り出すかを皆に言う。それはGUND本来の使い方であった、医療機器としてだ。
「かつてヴァナディース機関の人達は、宇宙で事故にあい、体を欠損した人達を、このGUND医療で助けてきた。そしてそれは、長い間誰もが忘れていた。それを復活させるの」
「つまり、ガンダムの技術で…」
「命を救う…?」
「出来るのか?そんな事?」
ニカ、ティル、昭弘を初めとして、地球寮の皆は、一様に驚いた顔をする。だってモビルスーツは兵器だ。それを医療機器として売り出すなんて、真逆である。だがミオリネは、それをやろうとしている。
「正直言うと、完成してもこれが世間に受け入れてもらえるかはわからない。でも、やる価値はあると思う。何より、あのクソ親父と違う道っていうのが最高だしね」
未だに驚いている地球寮の皆をよそに、ミオリネは話を続ける。
「責任は私が取る。でも、私1人じゃこれを完成させる事も、売り出す事もできない。だから、皆には協力してほしい。お願い」
『!?』
そして何と、ミオリネは皆に頭を下げた。無理矢理皆を従業員にして、勝手に色々決めていたあのミオリネが頭を下げたのだ。ミオリネ自身、これは自分1人では出来ないと理解している。
そしてこれ以上、地球寮の皆から信用を失いたくない。だから頭を下げて、皆に協力を申し出たのだ。
「いいんじゃねーの?俺はこれでもいいと思うし」
「だね。僕もこれなら協力するよ」
「そうだね。これだったらアーシアンだけに売るなんて事もしなくていいし」
「俺も特に問題無い」
「ちゃんと給料は払えよな?」
ヌーノ、ティル、マルタン、昭弘、オジェロの地球寮男子は協力をする事にした。
「私もこれは素敵だと思うから、是非協力するね!」
「ですね。戦争に加担するよりはいいですし」
「人を救うのに、善も悪もないからな」
「まぁ…これなら、あーしも協力する」
ニカ、リリッケ、アリヤ、チュチュの地球寮女子も全員が協力をする事となった。
「ありがとう、皆」
全員が協力してくれた。これならば、株式会社ガンダムをしっかり始める事ができる。
「ねぇ、トマトの人。俺のバルバトスはどうするの?」
皆がようやく団結できた時、三日月がミオリネに質問をする。確かに、これでエアリアルの技術を使った商売は出来る。しかし、バルバトスの方はまだ決まっていない。
「安心しなさい。しっかり考えているわ」
そして当然だが、ミオリネはそこもしっかり考えていた。
ベネリットグループ本社 総裁室
「……ミオリネ、お前は2週間前の私の話を忘れたのか?」
そこには、新しい事業計画書を持ってきたミオリネを見るデリングがいた。その顔は間違いなく不機嫌、いや、怒っているといった様子。
「いいえ。覚えています」
「では何故、エイハブリアクターの事を研究するのだ?」
デリングが怒ってる理由、それはミオリネが持ってきた新しい事業計画書に書かれている『エイハブリアクターの研究、平和利用』にある。
2週間前、あれだけ言い聞かせた筈なのに、ミオリネはエイハブリアクターを研究しようと言うのだ。そりゃこんな顔にもなる。
「あえて以前、貴方がした飛行機の話で例えますが、確かに飛行機は直ぐに兵器として利用されました。でも同時に、世界中に旅行に行けたり、物資を多く遠くに運ぶ事が出来たりと、人々の生活をより良い物にしたのも事実です」
ミオリネの言う通り、飛行機は直ぐに戦争に利用されたが、戦争が終わった後、大勢の人々の生活を助ける存在となった。現代でも、飛行機やその発展系である宇宙船は生活に欠かせない。
もしも、空を飛ぶことを夢見ていた兄弟が飛行機を作らなければ、人類は今でも地球にしか住めていなかったかもしれない。
「エイハブリアクターは危険かもしれない。でも、これをそのままにしておくなんて事は、折角目の前にある人類の叡智を捨てるといっていいです。だからこそ研究なのです。今はまだ何もわかっていないし、下手に量産してしまえば、多くの人を不幸にするかもしれない。でも今研究をしておけば、何時の日か多くの人々を助ける事ができるかもしれない。その日の為に、今から研究を行うべきだと私は思います」
例えるならば、原子力に近いかもしれない。原子力は強力な爆弾にもなるが、莫大な電気を生み出す発電所にもなる。
そして何より、旧世紀で戦争に使われた後、それを平和利用しようという運動が起こったのだ。
もしかすると、エイハブリアクターもそうなるかもしれない。
「そうはならずに、ただ軍事兵器として使われるかもしれないぞ?」
「ですが、そうはならないかもしれません」
所詮、かもしれないという話。ドローン戦争を経験したデリングは、人の愚かさを知っている。ミオリネの発言は、ただの夢物語にしか聞こえない。しかし、ミオリネも引く気は無い。
「そもそも、炎だって料理をしたり、暖を取ったりする以外に、戦争や拷問の道具としても使われてきました。この世にあるあらゆる物は、そういった2面性を持っていると私は思います。GUNDが良い例ですし」
確かにその通りだ。医療機器としてのGUNDと、軍事兵器としてのGUND。どちらも、使っているのは同じ技術。ミオリネ的には、エイハブリアクターだってこれと大差無いと考えたのだ。
「あくまでも、今は研究だけ。量産なんて、何時になるかわからない。それに、あまり利益を上げる事も出来ないでしょう。でもどうか、未来の為にこの事業計画書を認可してください」
ミオリネは頭を下げて、デリングにお願いをする。ここで認可されなければ、バルバトスを守れないかもしれないからだ。ミオリネも必死な証拠である。
「お前に、この責任が取れるのか?」
「取ります。例え何があろうとも」
「……よかろう。この事業計画書を許可する」
「っありがとうございます!」
そしてようやく、デリングは折れた。そしてミオリネは感謝の言葉と共に、デリングに頭を下げる。少し前の彼女であれば、考えられない行動だ。
「ただし、エイハブリアクターの研究は細心の注意を払って行え。情報流出などは絶対にあってはならん。そして、定期的に私にその研究結果を報告しろ。場合によっては、そこでバルバトスは破棄する。あと研究結果はメールによる転送では無く、直接私に手渡しで行ってもらうぞ」
「わかりました」
こうして、株式会社ガンダムは、GUND医療と、エイハブリアクターの研究という物を売り出していく事となったのだ。
「ところでミオリネ。あのPVは、もっとどうにかならんかったのか?」
「……予算が無いもので」
デリングが見た株式会社ガンダムのPVは、一言で言えば相当チープな出来だった。突然画面に映るアスティカシア学園であろう場所を背景に、画面中央に映し出される2機のモビルスーツであるエアリアルとバルバトス。その両隣に2人の学生であるスレッタと三日月。
そして2人と、他の地球寮の生徒が音声だけで歌い出したかと思うと、妙な動きをしだす。はっきり言ってダサイ。一周回って変な笑いが出てくるくらいだ。そんな罰ゲームのような映像は続く。最後は2人と2機が画面中央に集まり、スレッタが大声で『エアリアルー!』。三日月が棒読みで『バルバトスー』と言うと、株式会社ガンダムのロゴがドーンと出てきて、映像は終わる。
この妙な踊りと、絶妙に音程を外した歌が聞こえるのが、株式会社ガンダムのPVである。予算が無い為、背景にグリーンバックが少し残っていたり、僅か1日で撮影をしたので後半スレッタが限界を迎えた顔をしていたり、終始三日月が無表情で棒読みだったりと色々ツッコミどころがあるPVだが、今の地球寮ではこれが限界なのである。そもそも納期まで、2週間しかなかったし、細かいところが雑なのはもう仕方が無い。
そしてこのPVを見た発注者のミオリネは、今後無茶な納期は設定しないようにしようと固く誓うのであった。
地球寮
「という訳で、定款及び各種書類の申請。後は学園側が学生事業申請を受理すれば、会社設立は完了となります。まぁ、受理には数日かかりますけど。とにかく、皆さんお疲れでしたー!」
『おー……』
リリッケが皆に労いの言葉を言うが、誰もが疲労困憊でまともに返さない。体力があるスレッタでさえそうだ。これも全て、2週間という超短い納期を決めたミオリネのせいである。
「マジ疲れたわ…」
「俺達はPV撮影手伝っただけだけどな…」
「もう2度とやりたくねぇ…」
オジェロ、ヌーノ、昭弘は机に頭を置いて愚痴る。ここ数日、PV作成のせいで碌に寝ていないからだ。尤もそれは、他の皆も同じなのだが。
「皆、凄いね」
「あ?何がだよ三日月」
唯一疲労の色が見えない三日月は、1人で地球寮の皆を感心していた。何が凄いのかわからず、昭弘は問いただす。
「だって俺はただ、バルバトスで戦う事しかできないからね。皆みたいに書類を書いたり、口座を作ったり、会社を作ったりなんて出来ない。うん、凄いよ」
三日月は、自分に出来ない事が多い事をわかっている。もしも、ミオリネがインキュベーションパーティーで株式会社ガンダムを作らなければ、地球寮の皆がそれに強力してくれなければ、エアリアルはとっくに破棄されていたかもしれない。もしそうなっていれば、少なくとも自分なら、バルバトスに乗って相手をぶちのめす事しか考えつかない。
「そんな事ねーだろ。お前だってPV作成手伝ってくれたじゃねーか」
「言われながらだけど」
「だとしてもだ。言われて出来る奴は凄ぇんだよ。それにお前は、モビルスーツの操縦しか出来ないって言ってるが、それの方がずっとすげーぞ」
「昭弘の言う通りだぞ三日月ー。俺はモビルスーツの整備は出来ても、お前みたいに操縦は出来ないしなー…」
「そうだぞ三日月。そもそもこの学園じゃ、モビルスーツの決闘で大事な事を決めるんだ。ならモビルスーツ操縦できるお前の方がすげーって」
昭弘に続いて、ヌーノとオジェロも三日月は凄いと言う。三日月の操縦センスは、この学園でもトップレベル。三日月を倒せる存在なんて、スレッタくらいしかいないだろう。
「そうだよ三日月くん。あんまり自分を卑下するような事言ったらダメ」
「ニカねぇの言う通りだ。そんな事言ってると他のスペーシアンになめられ…いや、お前はなめられねーか…とにかくお前は凄いんだから、そんな事言うな」
ニカに同調するチュチュだったが、そもそも他のスペーシアンから怖がられている三日月がなめられる事は先ず無いと思い、言い直した。
「そうかな?」
「そうだぞ」
「そっか。ありがとう、えっと……変な頭の人」
「殴るぞてめぇ」
折角褒めたのに、こんな事を言われたら誰だって怒る。喧嘩になりかねなかったので、ニカとアリヤはチュチュを抑える事にした。
(よかった…三日月、皆と馴染んできてる)
そんな光景を、スレッタは嬉しそうに見ていた。今まで三日月は、どこか皆と距離があった。しかしこの2週間。皆と必死になってPV撮影を手伝ったおかげで、その距離が一気に無くなったように見える。
(これなら、もう大丈夫かな?)
今の状態なら、初めて地球寮に来たときのような事は起こらないだろう。正直スレッタは、今まで三日月が地球寮で喧嘩しないか結構ひやひやしていた。でもこれなら、もうその心配も無い。
「そう言えばリリッケさん。確か株式会社ガンダムの情報って、学園の共通サーバーで見れるんでしたっけ?」
「はい、見れますよ。当然、私達以外の生徒も見れますし、私達も他の生徒の会社の情報が見れますよ」
「へぇー。どんなのがあるんですか?」
「えっとですえ、例えばこれなんか…」
そしてスレッタは、リリッケと共に今まで学生がやってきた事業や、これからやるであろう事業の予定表を見るのであった。自分も経営を少しでも勉強して、ミオリネの役に立ちたいと思ったからである。
「人を救う技術だと…?父上にあんな事をしたアーシアン風情が?今更どの面さげてこんな事をするというのだぁ…!!」
そして翌日の朝。学園の共通サーバーに表示された株式会社ガンダムの情報を見たアリアンロッド寮の寮長は、奥歯を噛み締めながら怒りを露にするのだった。
尚プロスペラ、阿頼耶識システムについては一切情報与えていません。何ならエイハブリアクターについても、情報全部は与えていません。
そして今回、ミオリネのエイハブリアクターの話辺りとか、デリングが矛盾した事言っていないかなーとか、上手く書けたか疑問が残ってます。もしかすると、後で修正するかも。もっと上手く書けるよう精進せねば。
次回は、以前からちょくちょく出ていて、鉄血から尤もヘイトを集めたであろう「彼」が本格登場します。かなりオリジナル設定つくかもしれませんが、その辺はご容赦を。
現在、アンケートを設置していますので、どうかお答えください。あと活動報告もありますので、お時間あればそちらもお願いします。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=311621&uid=187617
それでは、また次回。
今後、登場してほしいガンダムフレームは?
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グシオン
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バエル
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キマリス
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ガミジン
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ゼパル
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ハーゲンティ
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ムルムル
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アスモデウス
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ザガン
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別に出なくていい