パンパンパン
地球圏にあるとある工業コロニーのひとつ、アバランチコロニー。そこの通路で、乾いた音が3回響いた。
「お疲れ様、ゴドイ」
「はい」
通路の角から、仮面を被った女性であるプロスペラが出てくる。その彼女の前にいるのは、拳銃を持ったスキンヘッドの男、ゴドイ。
そして2人の足元には、体から血を流している男が1人いた。
「それで、これはどこの企業の?」
「グループ内のツィマット社の者です」
「そう。やはり出たわね。まるで黒い害虫みたい」
たった今ゴドイが始末したのは、ガンダムフレームの情報を探っていた他企業のスパイである。予想していた通り、ここ最近業績に行き詰まっていたり、自社のモビルスーツ開発が難航している他企業のスパイが現れた。そして2人は、そういったスパイをこうして迅速に処理したのである。
「大人しく待っていれば、それなりの情報を公的に手にする事が出来たでしょうに、なんで態々危険を冒してまでこんな事をするのかしら」
「ここ数年のツィマット社は、自社のモビルスーツ開発が難航しているので、なりふり構っていられなかったのかと」
「ああ。確かエンジンの調整が上手く出来ないんだったかしら?」
以前の審問会で、プロスペラはバルバトスの情報をグループ内で共有する事を約束している。
しかしそれは、総裁であるデリングを1度通さないと共有されない情報だ。それでは、ほぼ間違いなくいくつもの重要な情報がデリングによって検閲されるだろう。それに、そういった情報が自分の手にくるのがいつになるかわからない。もしかすると、数年かかるかもしれない。
だからこそ、こういったスパイ活動をしてでも、他社より先にバルバトスの情報を手にしようとしているのだ。
だが当然、プロスペラがその情報を簡単に渡す訳など無い。
なんせ伝説のガンダムフレームの情報である。これを奪われるというのは、シン・セーにとってとてつもない被害が出てしまう。
だからこうして、情報を盗み出そうとした害虫を駆除したのだ。因みに態々こんな寂れたコロニーで処理したのは、単純に本社で処理する訳にはいかなかったからである。なので自分達を餌にして、ここにおびき寄せて処理をしたのだ。
尤も今回は、情報が盗み出される前ではあったのだが、それでも嗅ぎまわる害虫は駆除せねばならない。
「コロニー内の焼却室にでも捨てておきなさい。そのうち綺麗に燃え尽きるでしょう」
「わかりました」
プロスペラに言われ、ゴドイはスパイの死体を焼却室に放り込んだ。これで明日には、綺麗さっぱり燃え尽きているだろう。
この日、1人のスパイが密かに処理されたのだった。
「そう。わかったわ。その調子でお願いね」
アバランチコロニーからシャトルに乗り、シン・セー本社へ移動している途中、プロスペラは電話をしていた。
「例の2機についてですか?」
「ええ。復元は順調みたい。戻ったら私も、1度この目で見ておかないといけないわね」
電話の内容は、金星と火星で発見した例のモビルスーツについてだ。
「機体内に情報があって助かったわ。おかげで当時の姿をかなり再現できるし」
「300年も前に建造されているというのに、頑丈ですね」
「そこは本当にそう思うわ。なんなのかしらね、あの異常な頑丈さは」
プロスペラは発見した機体からデータを抽出。それを元に復元を試みていた。機体にデータがあったおかげもあってか、例の2機は300年前の姿を取り戻そうとしている。
おまけに、例の機体が発する電子障害についても、バルバトスを回収した時のノウハウのおかげで解決済みだ。まぁ、流石に一部は現代の技術で再現しているので、100パーセント当時の姿とはいえないのだが。
「しかし、パーメットを使用していないモビルスーツとなると、オーバーライドして操作するのは難しいのでは?」
ゴドイが懸念する通り、例の2機はパーメットを使用していないモビルスーツ。これではエアリアルの力を使って、オーバーライドする事が出来ない。しかしプロスペラは、既にその懸念の解決策を考えていた。
「そこはコックピット周りを少し改造する予定よ。そうすれば、遠隔操縦もとりあえずは可能ね。まぁ、1番は誰かが乗って操縦する事だけど」
コックピット周りや、駆動システムをパーメット技術で改修すれば、オーバーライドする事も一応は可能となる。
例えば、人の腕に一定の電気を流せば、腕は勝手に動く事が出来る。要は、その電気をパーメットにする訳だ。
しかし、これにはひとつ問題がある。このパーメット技術を入れるせいで、例の2機の機体性能がどうしても少し下がってしまうのだ。オーバーライドした遠隔操縦では、どうしても機体性能を100パーセント発揮する事が出来ない。
出来ればちゃんと腕利きのパイロットに操縦させたいが、生憎プロスペラにはその伝手が無い。例の兵器の完成までまだ時間がありはするので、それまでには何とかしたいものである。この世の中、腕があるにもかかわらず、何処にも所属していない在野のパイロットというのはそれなりにいるし。それでもパイロットが確保できない場合は、オーバーライドで何とかするしかないが。
「例の封印されてた禁忌の兵器の解析も進んでいるし、あの2機の復元も完了すれば、完成予定のアレの、これ以上ない優秀な防衛兵器になってくれるでしょうね」
プロスペラはうっすらと笑いながら、窓の外にある青く小さい見える地球を眺めるのだった。
地球寮 モビルスーツハンガー
そこにはバルバトスの装甲の一部を取り外して、エイハブリアクターを解析している地球寮メカニック科の皆がいた。彼らは株式会社ガンダムの事業計画書通りに、エイハブリアクターの研究を行っているのだ。
しかし、これが全然進まない。
というか、あまりにオーバーテクノロジーすぎて意味がわからない。なんせ既存のモビルスーツの動力部と何もかもが違う。
例えるなら、車のエンジンしか触った事が無い人に、宇宙船のエンジンを触らせているようなものだ。当然、そんなので解析が出来るなんてありえない。
「わっかんねぇ…」
オジェロが頭を抱える。
「いやマジでどうなってるんだこれ?んんー?」
ヌーノは頭をかきながら唸る。
「何でこの構造でエネルギーが発生するんだ?どうなってるんだろう?」
ティルは純粋に疑問に思う。
「うーん…わからない…さっぱりだね」
アリヤはお手上げと言った感じで、両手を上げる。
「シン・セーから貰ったデータもあるのに、ここまでわからないなんてね…」
「それだけエイハブリアクターが凄いって事ですよー」
参考資料がある筈なのに、まるでわからない。やはり自分達のような学生だけでは限界があるとマルタンを思う。そしてリリッケは、それだけあのエイハブリアクターがとてつもない代物だと再認識するのだった。
「すっごい…」
そんな中、ニカだけは目をキラキラさせてエイハブリアクターを調べる。
「多分これが重力発生装置。そしてこっちが慣性制御を司る部分。だったらこっちは?凄い凄い。エイハブ博士は本物の天才だよ。1度会ってみたい」
「いやその人もう死んでるじゃねーか。会える訳ねーだろ」
オジェロのツッコミにも反応せず、ニカはエイハブリアクターを調べる。メカが好きなニカにとって、最早失われた技術の塊であるエイハブリアクターを自分の手で調べる事が出来るなんていうのは、まさに夢のような出来事。まぁそんなニカでも、あまりわかってはいないのだが。
「にしても、現代のモビルスーツ動力より凄いって、マジどうなってるんだ?これ作られたの300年以上も前だぞ」
エイハブリアクターはたったひとつで、街の電力を全て賄えるほどのエネルギーを生み出すリアクター。これほど凄いリアクターが、今から300年も前に開発されたなんて信じられない。
何より300年以上も経っているのに、未だに動くなんて普通に考えたらありえない。少なくとも、現代のモビルスーツの動力では絶対にありえない。
「お前も何か手伝った方がいいんじゃないのか?」
「俺が行ってもやれることないよ」
昭弘が三日月にもあっちに行った方がいいと言うが、三日月はあっちに行っても自分が役に立たない事を理解しているので、大人しくその光景を眺めている。
「そういや、スレッタとわがままお嬢様はどうしたんだ?」
「あの2人なら温室にいるよ。今日はトマトを収穫するって言ってたし」
「なんでおめーはそっちに行ってないんだ?」
「バルバトスのパイロットだからここにいた方がいいって言われたから」
「あー、それもそっか」
チュチュがスレッタとミオリネについて聞くと、どうやら2人はミオリネの温室にいるらしい。最初は三日月も温室に行こうとしたのだが、バルバトスの正規パイロットが研究中にいないというのはダメだとミオリネに言われ、こうしてモビルスーツハンガーにいるのだ。正直、いてもやれる事は無いのだが。
(やっぱ、凄いな皆)
そんな光景を眺めている三日月は、素直にメカニック科の皆を尊敬する。三日月はパイロット科の生徒である為、
メカニック科の生徒に比べると機械知識が乏しい。もし自分がバルバトスの整備マニュアルを読んだとしても、半分も理解できないだろう。
だがメカニック科の皆は、それが理解できる上に、ああしてエイハブリアクターの研究すらしている。
(俺にはモビルスーツの操縦が出来るって言われたけど、それでやっぱり皆は凄い)
自分も凄いと褒められた三日月だが、それでも自分に出来ない事が出来るメカニック科の皆は凄いと思う。
「なぁ三日月。ちょっと柔軟しておきたいから手伝ってくれねーか?」
「いいよ」
「おい。昭弘が終わったらでいいからあーしも手伝え」
「わかった」
このままぼーっと眺めているのも時間の無駄なので、パイロット科の3人は柔軟運動をする事にした。
「失礼する!!」
そんな時、地球寮のモビルスーツハンガーに大声が響く。何事かと皆が声のした方を見てみると、そこには数名の他の寮の生徒がいた。その先頭には、褐色肌の男子生徒がこちらを睨みつけるように見ている。
「おい!クソスペーシアン共が誰の許可得て勝手に入ってきてんだよ!」
勝手に地球寮に入ってきたスペーシアン相手に、チュチュが噛みつく。
「私はしっかり失礼すると言っただろう!アーシアンは耳が遠いのか!?それともこちらの言葉を理解できないのか!?いくらアスティカシアに通っているとはいえ、所詮野蛮なアーシアンだな!!」
「んだとテメェ!?」
「おい、やめろチュチュ」
直ぐにでもスペーシアンに殴りかかりそうなチュチュを、昭弘が抑える。
「あ、金髪の人じゃん」
「どうも、三日月・オーガス。インキュベーションパーティ以来ですね。あ、これうちの会社が発売している冷凍ハンバーグです。今のうちに渡しておきます。後で寮の皆さんと食べて下さい」
「ありがと」
集団の中にジュリエッタがいたので、三日月は話しかける。こういう時、1人知り合いがいるとちょっと落ち着くよね。そしてジュリエッタは、紙袋に入った自社製の冷凍ハンバーグを三日月に渡す。
彼女がこんな事をしたのは、ひとえに隣にいる寮長が原因である。彼はこれからとても面倒な事をするので、そのおわびを今のうちにしておこうと思った次第だ。
「で、何しにきたの?」
「用があるのは私ではありません。ここにいる、うちの寮の寮長です」
ジュリエッタが右手で、自分の隣にいる褐色肌の男子生徒を指さす。
「誰あんた?」
不機嫌そうな顔をしている初めて見る男子生徒に、三日月は誰かを尋ねる。
「私はアリアンロッド寮の寮長で、いずれアリアンロッド社を率いる存在、経営戦略科3年のイオク・クジャンだ!!」
そんな三日月に、アリアンロッド寮寮長であるイオク・クジャンは大声で、そして目に敵意を込めて自己紹介をするのだった。
「え、えっと!アリアンロッド寮の皆さまが、うちみたいな地球寮に何の用でしょうか!?」
同じ寮長であるマルタンが、弱腰姿勢で話しかける。なんせ相手は、昭弘も使っているグレイズというベストセラーモビルスーツを世に出し、御三家程では無いが、グループ内で大きな力を持っているアリアンロッド寮だ。
そんな寮の寮長が、明らかに不機嫌な顔をしてやってきている。マルタンが怯えるのも無理は無いだろう。
「貴様らに、決闘を申し込みにきた!!」
「決闘!?」
そしてイオクはマルタンに、大声で宣言するのであった。
「決闘って、なんで!?僕達何かしましたか!?」
全く身に覚えがなく、マルタンは慌てる。少なくとも、最近は三日月のおかげもあってか、地球寮の生徒はスペーシアンに絡まれる事が無い。
それは要するに、スペーシアンと何か事件があった訳が無いという事。つまり、決闘を申し込まれる理由が無い筈なのだ。なのにイオクは、決闘を申し込んできた。理由がわからない。
「とぼけるつもりか?お前達は呪われたモビルスーツを持ち、あまつさえ、その力で人を救うという戯言をほざいているではないか!!お前達アーシアンが、今更そんな事をする訳ないだろう!!」
「ええ!?」
イオクの発言に、マルタンは再び驚く。
「おいこら!ふざけてんのかこのクソスペーシアン!!あーしらがいつ戯言なんて言ったんだ!!」
イオクのあんまりな発言に、チュチュがキレる。だっていくらなんでもあんまりだ。こちらがやろうとしているGUND治療を、真っ向から否定している、それも、向こうの勝手な言い分でだ。こんなの怒らない訳が無い。
「は!そうやって激怒するあたり、図星なのだろう?大方、例のエアリアルとかいう呪いのモビルスーツを量産して、それをアーシアンのテロリストに売りつけて戦争でもするつもりなのだろう!!」
「はぁ!?」
イオクの発言に、チュチュは怒りを忘れて驚く。あまりにこちらの考えを無視した発言。確かに、最初は兵器としてエアリアルを量産、販売をしようとしていた。
だがそれは、地球が再び戦場になる事を意味する為、結局は却下する事となった。そこから方向転換し、人を救う医療技術を開発しようとしているのが、株式会社ガンダムの事業計画である。その事は、学園の共有サーバーで誰でもわかる筈なのに、イオクは聞く耳を持たずにこんな事を言う。
「ちょ、ちょっと待ってよ!僕達はそんな事するつもり無いって!!」
「そうですよ!株式会社ガンダムは、人を救うために設立された会社です!断じて戦争に加担する訳じゃありません!!」
マルタンとリリッケがイオクに対して反論する。
「黙れ!私の父上にあのような事をしたお前らアーシアンが、今更人を救う訳ないだろう!!」
「そうだそうだ!」
「だからアーシアンは好きになれねぇんだよ」
だがイオクは聞く耳を持ってくれない。更に後ろにいるアリアンロッド寮の生徒達も、イオクに同調するような事を言う。
(あんな事?)
そして三日月は、今のイオクの発言に首を傾げる。
「イオク先輩、いい加減にしてください。彼らがそんな事をする訳ないじゃないですか」
「その証拠がどこにあるというのだジュリエッタ!」
「いやまぁ、確かに証拠はありませんけど…」
「ならば黙っていてもらおう!!」
「あーもう…」
唯一、イオクに同調していないジュリエッタがイオクを窘めるように言うが、イオクは頭に血が昇っているのか、全く冷静にならない。幼い頃からの付き合いがあるジュリエッタは、こうなったイオクは何を言っても無駄だと知っているので、諦める事にした。
「あんたさ、決闘で何を望む訳?」
そんなイオクに、今度は三日月は尋ねる。どういう訳か知らないが、イオクはアーシアンが嫌いらしい。故に決闘を申し込みにきたのだろうが、その決闘で何を望むかをまだ聞いていない。
「私が勝ったら、貴様ら地球寮全員、学園から出ていってもらう!!」
『はぁ!?』
そしてイオクは、地球寮を学園から追い出すと言うのであった。
「まてこらぁ!そんな事許されると思ってんのか!?」
「知恵の足らないアーシアンに教えてやる。この学園の決闘は、基本何でも賭ける事が可能だとな!」
チュチュがキレるが、イオクは直ぐに反論。イオクの言う通り、アスティカシアでの決闘で賭ける物は基本何でもありだ。そもそもグエルも、最初スレッタと三日月を追い出す事を賭けて決闘をしていたし。今回は、それが地球寮全員になっただけである。
「お前さぁ、さっきからなんでそんなに皆の事嫌ってる訳?」
三日月がイオクに質問を投げる。地球寮に来てからイオクは、終始アーシアンを嫌っているような発言ばかりしている。以前、ニカがスペーシアンによるアーシアン差別の事を口にしていたが、イオクのこれはそれとは違う気がする。
「簡単だ。貴様らアーシアンは、私の父上にあのような事をしたからだ!」
「は?」
三日月に聞かれ、イオクは話しだす。
イオクには、心から尊敬できる父がいる。父、ラカン・クジャンは聡明で、たった1代でアリアンロッド社をグループ上位企業にまで成長させた立役者。そのままいけば、御三家に匹敵する企業にだって成長出来た筈だ。
しかしそんな父は数年前、地球でやっていたとある慈善事業の視察に行った際、アーシアンのテロリストに襲撃され、暫く意識不明の重体になってしまった。おまけにこの時、当時の会社役員もテロに巻き込まれて多数死亡してしまったせいで、アリアンロッド社は一時、経営が困難となってしまう。
このままでは会社が倒産し、多くの社員が路頭に迷いかねない。そんな大変な時に手を差し伸べたのが、ジェターク社だ。彼らは役員が多数死亡し、会社経営が立ち行かなくなっていたアリアンロッド社に支援を約束。その後、ジェターク社のおかげもあって、アリアンロッド社は倒産の危機を脱する事が出来た。
だがその結果、会社を救ってくれたジェターク社に今でも頭が上がらず、アリアンロッド社はジェターク社の子会社のような扱いを受ける事となってしまったのである。理不尽な扱いこそされていないが、何時もジェターク社の顔色を伺うの日々。正直、いくら恩があるとはいえ、ストレスが溜まる。
それに暫くしてジェターク社は、アリアンロッド社の一部事業や株式をを買い取り始めた。これではまるで買収だ。このままでは、アリアンロッド社が完全にジェターク社の物になりかねない。
イオクの父の後を継いで新たなCEOになったラスタル・エリオンのおかげで、何とかそれだけは避けれたが、アリアンロッド社は会社の力を大きく削がれてしまった。
そして、当時まだ幼かったイオクはこう思った。『こうなったのは全て、アーシアンのテロリストのせいだ』と。それ以来、彼はかなりのアーシアン嫌いになってしまったのである。
「……いや、それテロリストが悪いんであって、俺達悪くないじゃん」
イオクの話を聞き終えた三日月。確かに、実の親や会社がそんな目に合えば、アーシアン嫌いににもなるだろう。しかし、悪いのはその時のテロリストだ。
今ここにいるのは、ただの学生。断じてテロリストでは無い。イオクの恨みは、筋違いである。
「アーシアンというだけで貴様らも奴らと同罪だ!!それにだ!先ほども言ったが、お前達の言う事は信用できん!本当に医療技術を売り出すか怪しいものだな!」
「……」
イオクの発言に、三日月はだんだんイラついてくる。というかイオク、先程から自分の言いたい事だけを言って、こちらの言い分は全て無視するか、聞こうとしない。おまけに、自分達をテロリストと同罪だと言う。こんなの、誰だってイラついてくるだろう。
「ちょっと落ちついて!決闘云々より前に、これじゃ話にならないって!」
「んだよマルタン!てめぇこいつがムカつかねぇのかよ!?」
「いやそうじゃなくて…!」
マルタンが場を落ち着かせようとするが、チュチュが食って掛かる。散々向こうがこちらに言いたい放題言っているのに、この弱腰な姿勢は腹が立つからである。
「それで、どうするのだ!?受けるのか!?それとも卑怯なアーシアンらしく逃げるのか!?」
「あぁん!?」
「だから少し落ちつけチュチュ!」
このままでは、イオクをチュチュが殴りかねない。昭弘は決闘以外のもめ事が非常に面倒な事になるのを知っているので、少し力を入れてチュチュを抑える。
そんな一触即発な状況で、三日月が口を開く。
「いいよ。その決闘俺が受けるよ」
『三日月!?』
イオクの決闘を、受けて立つと。
「ほう?貴様1人でか?仲間のホルダーを呼ばずに?」
「スレッタがいなくても、お前くらい俺だけで十分だし」
出来ればこの場で思いっきり殴り飛ばしたいが、スレッタとミオリネに、口を酸っぱくする程暴力はダメだと言われている。
しかし、決闘なら話は別。なんせ決闘なら、相手を思いっきりぶちのめしても誰にも咎められないのだ。この決闘は、ある意味渡りに船である。
「ちょ、ちょっと三日月くん!?」
とんとん拍子に話が進みかねないので、マルタンが三日月を抑えようとする。やるにしても、せめてスレッタとコンビを組ませるべきだろう。
だが、既に遅かった。
「よかろう!では行くぞ皆!直ぐに決闘の準備だ!!」
『は、はい!寮長!!』
イオクはそう言うと、同じ寮の皆を連れて出ていってしまう。恐らく決闘委員会に行って、決闘の申請をするのだろう。
「うちの寮長が本当にすみません…ああいう人なんです…」
1人残ったジュリエッタは、地球寮の面々に頭を下げる。だっていくら何でも、あのイオクの態度はありえない。
一方的に言いたい事だけ言って、しかもかなり言葉が悪い。ここで誰か1人が謝罪しておかないと、今後アリアンロッド寮にまた嫌な噂が流れかねない。
「おいクソスペーシアン、ちゃんとアレの手綱握っておけや」
「それが出来たら苦労しないんですよ。あの人、1度こうだと決めたらとことんそのまま進む人なんで。毎回毎回尻拭いしているこっちの身にもなって欲しいですよ」
ジュリエッタの言う通り、アレの手綱を握れたら苦労はしない。ジュリエッタはこの学園でイオクと尤も付き合いが長い為、その大変さをよく知っている。
彼は昔から感情的なのだが、父親がテロにあってからはそれが酷くなっている。出来れば関わりたくない人物になるのだが、あんなんでも経営戦略科ではとても成績優秀なうえ、人を率いるカリスマもある。
あんなんだが、本当に将来アリアンロッド社を率いる事は出来るであろう人物なのだ。あの頭に血が昇りやすい欠点さえなければ、本当に優秀なのだが。
「それでは、私もこれで」
「うん。じゃあね」
謝罪を終えたジュリエッタも、地球寮を後にする。
「おい三日月。あの生意気なクソスペーシアンを絶対にブチのめせよ!」
「わかってる」
チュチュに言われるまでもない。三日月は最初から、イオクをボコすつもりなのだから。
こうして三日月は、アリアンロッド寮と決闘をする事となったのである。
「三日月!!決闘って何!?一体どういう事なの!?」
「ちょっとあんた!何勝手な事してんのよ!?」
そして温室から戻ってきたスレッタとミオリネは、すっごく驚くのだった。
決闘委員会 ラウンジ
「双方、魂の代償をリーブラに」
翌日の決闘委員会のラウンジ。そこには、三日月とイオクが対面していた。2人の後ろには、それぞれの寮の生徒もいる。そしてその様子を、他の決闘委員会のメンバーが見ていた。
「……」
(すっごいこっち見てる…)
因みに、グエルに代わって決闘委員会に入ったラウダは、もの凄くスレッタを睨んでいた。その視線に、スレッタは少し怯える。
「三日月・オーガス。君はこの決闘に何を賭ける?」
「俺が勝ったら、地球寮の皆に謝れ。そして、2度とあんな事言うな」
立会人のシャディクが、三日月に尋ねる。三日月が求めるのは、地球寮の皆に対する謝罪。
「イオク・クジャン。君はこの決闘に何を賭ける?」
「私が勝利した暁には、アーシアンである地球寮の生徒全員、この学園から出ていってもらう!!当然、貴様とあの水星人もだ!!」
イオクが求めるのは、地球寮全員の退学。しかしこの決闘、まるで何時かのスレッタとグエルの決闘のようである。その時ふと、三日月は思った。そういえば目の前にいるイオクは、ホルダーになりたいのか、と。
この決闘は三日月とイオクの決闘だが、もしこの決闘でイオクが勝てば、地球寮に所属している現ホルダーのスレッタも学園を去る事になる。そうなれば、イオクがホルダーになる筈だ。ひょっとすると彼は、それが目当てでこの決闘を挑んできたのかもしれない。三日月は折角なので、本人に聞いてみる事にする。
「あんた、トマトの人の結婚相手になりたいの?」
「と、トマト…?」
「あれ」
「人を指差すな」
アレ呼ばわりされた上、指を指された事にミオリネは軽くキレる。
「ふん!あんな女にはかけらも興味が無い!そもそも私の趣味に合わないしな!結婚などこちらから願いさげだ!!」
だがどうやら、それは無いらしい。というか本人を目の前にして酷い言い草である。
「はー!?こっちだってあんたみたいなのごめん被るわよ!!」
「わー!ミオリネさん落ち着いてください!!」
イオクの発言が気に食わず、今にも食って掛かりそうなミオリネを、スレッタは抑える。
「……」
そして立会人のシャディクは、そんなイオクを冷めた目で見る。というか若干殺意が籠っている。でも誰もその事に気が付かないでいた。
「ひとつ確認するが、決闘はお前だけなのだな?」
「そうだけど」
そんなシャディクに気が付かず、イオクは三日月に決闘について聞く。そしてそれを聞いて、まるで勝ち誇った様な顔をして宣言する。
「そうか。ならこちらは全力を出すとしよう。こちらは5人で決闘に挑ませてもらう!!」
『!?』
自分達、アリアンロッド寮はこの決闘に5人で挑むと。これは要するに、5対1の決闘となるのだ。いくら何でもズルイと言わざるを得ない。
「はぁ!?5対1!?」
「おいクソスペーシアン!ふざけてんのか!?」
「そうだそうだ!卑怯すぎるだろ!!」
オジェロ、チュチュ、ヌーノがイオクに反論する。確かに三日月は強い。スレッタとタイマン張れるくらいには強い。
しかし、相手は5人。いくら三日月とバルバトスが強くても、数の暴力には厳しいだろう。
「何が卑怯なのだ?これくらい実力でねじ伏せてみればよかろう?なんせそちらにいるのは、伝説と言われたガンダムフレームなのだ。5人相手くらい、物の数ではあるまい。ましてや、こいつは自分から1人でやると言ったのだ。何も問題は無いだろう。それに元ホルダーだったグエル・ジェタークやエラン・ケレスは、1対複数でも勝利してきたぞ?」
『ぐっ…』
そう言われると弱い。イオクの言う通り、グエルやエランは、相手が自分より複数でも決闘に勝利してきた。それに先程、三日月自身が1人でやると確かに言っている。なのに三日月だけそんな条件不公平だなんてのは言えない。
「別に俺はいいよ」
「お、おい三日月!お前マジで言ってるのか!?」
しかも、当の三日月自信がヤル気十分といった感じにこれだ。その三日月に、オジェロが驚愕する。
「ふっ。決まりだな」
「アーレア ヤクタ エスト。決闘を承認する」
素面に戻ったシャディクの宣誓により、三日月とイオクの、1対5の劣勢な決闘が承認された。
「では行くぞ!!」
『はい!寮長!!』
イオクに言われ、お供の生徒がラウンジから出ていく。
「じゃ、俺もハンガーに行ってくるね」
そして三日月も、決闘の為にモビルスーツハンガーへと足を運ぶ。
「あ!三日月!!」
「ん?」
そんな三日月を、スレッタが呼び止めて、
「気を付けてね」
激励を送るのだった。
「負けんじゃないわよ。あんたが負けたら、私達の会社も終わりなんだから」
ついでにミオリネも、三日月に激励を送る。
「うん。2人共ありがとう」
2人からの激励をしっかり受け取り、三日月は決闘へと挑むのだった。
『そうだ。三日月くん』
「何?」
ハンガー内で出撃準備をしている時、ニカから通信が入る。
『実はね、今朝シン・セーからバルバトス用の新しい武装が届いたんだ。搬入許可下りるのに時間がかかったせいで、たった今ここに届いたんだけど。えっと名前は…レンチメイス?』
どうやらプロスペラから、バルバトス用の新武装が届いたらしい。三日月はコックピット内で端末を弄り、その新武装を見てみる。
「へぇ…いいなこれ」
『どうする?テストも無しのぶっつけ本番になるけど、使う?』
「うん、これ気に入ったから早速使うよ」
『わかった。じゃあ直ぐ準備するね』
普通は、先ずテストをしてから使うもの。しかし三日月は、一目見ただけで新武装を気に入った。なのでこのまま使う事にする。
そしてバルバトスは、右手に新武装のレンチメイス。背中に小型のツインメイスを2つ装備。武装のせいで機動性が少し落ちてしまうが、今回は相手が5人もいるので、出来る限り重武装で行こうという作戦なのだ。
それにバルバトスにはビーム兵器がほぼ通用しないので、相手の戦い方は近接戦になるだろう。ならばやはり、武器は多い方が良い。
『準備完了。いつでも行けるよ』
「ありがとう、ニカ。行ってくる」
『……え?今私の名前』
ニカにお礼を言い、三日月は決闘場へ赴く。
(やるぞ、バルバトス)
ヤル気に満ちた顔をして。
イオク・クジャンは、アーシアンが大っ嫌いである。彼の父、ラカン・クジャンは、地球で利益にならない慈善活動をしてアーシアンを助けていたのに、アーシアンはその恩を仇で返した。
(そう、これは天誅なのだ。卑劣なアーシアンに対する、天誅なのだ)
それをやるなら地球に潜んでいるテロリスト相手にして欲しいものだが、今のイオクには何を言っても無駄なので、そういう事になっている。
(父上、私は必ずあのアーシアン達を、この学園から追い出してみせます)
コックピット内でそう決意しながら、イオクは発進準備を待つ。
『準備完了!いつでも行けます!』
「感謝する!では参ろう!!」
出撃準備が完了し、イオクは自分用にカスタムされたレギンレイズと共に決闘場へ赴くのであった。
そんな訳で鉄血からの3人目で、鉄血本編でひたすらヘイトを買ったであろう日曜日のたわけ事イオク様登場。まぁあれ、ぶっちゃけ脚本の犠牲になった感じですがね。
本作のイオク様は、鉄血本編程無能にはしません。あれくらいにしたら、扱いが超難しいので。
因みに本作では、これ以上鉄血からキャラを出す予定は今の所ありません。出してもチョイ役くらいです。
ところで書いてて思ったけど、これ合ってる?イオク様のキャラとかあってる?グレイズ版のアインくんになってない?って感じで凄く不安。もう、作者の好きに書いてもいいかな?どうあっても鉄血本編のようにはならないし。
もし違うとか、ここが変とかのご意見があれば言ってください。修正したしますので。
で、次回の決闘なんですが、ちょっとしたアンケート設置しているので、よろしければお答えください。
次回の決闘、ジュリエッタは
-
参戦させる
-
参戦させない