悪魔と魔女の物語   作:ゾキラファス

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 今回決闘するにあたって、イオク様のお供が4人登場するのですが、鉄血で丁度良い感じの名前付きモブがいなかったので、別のガンダム作品から出します。まぁ今回限りの使い捨てキャラだから、別にいいよね?


 それと何時も感想や誤字報告、ありがとうございます。大変励みになっております。


VSイオク

 

 

 

 

 

『これより双方合意のもと、決闘を執り行う。決闘方法は、5対1の変則戦。勝敗は、相手リーダーモビルスーツのブレードアンテナを折った方の勝利とする。立会人は、グラスレー寮のシャディク・ゼネリが務める』

 

 コンテナが決闘場である、第8戦術試験区画へ現れる。その数、全部で5つ。そしてゆっくりとコンテナが開き、モビルスーツが5機現れる。

 

(あれって、金髪の人が乗っていたやつ?)

 

 アリアンロッド寮のモビルスーツコンテナが開き、イオク達のモビルスーツが見える。真ん中のコンテナには、黒いレギンレイズ。

 しかしジュリエッタのとは違い、かなり砲身が長いビームライフルのような物が装備されている。

恐らくだが、砲撃戦に特化した改良がされているのだろう。

 そして他4つのコンテナには、それとは異なるモビルスーツ。といっても、どれも似たり寄ったりで三日月にはあまり区別がつかない。ニカならわかるのだろうが。

 

(ま、別にいっか)

 

 だが、そんな事どうだっていい。だってこれから、全部まとめてぶっ倒すのだから。ぶっ倒す相手の事なんて、いちいち覚えていられないし、覚える必要もない。

 

「LP042、三日月・オーガス、バルバトスルプス、出るよ」

 

 通常通り、学籍番号と名前を名乗った三日月は、レンチメイスとツインメイスを装備したバルバトスをコンテナから出す。

 

『KS010、イオク・クジャン、レギンレイズ』

 

『KP034、ジェイク・ガンス、グレイズリッター』

 

『LP051、パミル・マクダミル、グレイズシルト』

 

『MP172、ヒデト・ワシヤ、グレイズJ型』

 

『MP193、リリア・フローベール、グレイズJ型』

 

『ゆくぞ!』『行くぜ!』『出すぞ!』『行くよ』『行きます!』

 

 それと同時に、アリアンロッド寮の生徒も自分のモビルスーツをコンテナから出す。こちらは5機、向こうは1機。そのまるで特撮ヒーローのような立ち合いに、1部の生徒が騒ぐ。主にアリアンロッド寮の生徒なのだが。

 

『両者、向顔』

 

 立会人のシャディクの声に合わせて、三日月とイオクはコックピットのモニター越しに顔を合わせる。

 

「……」

 

『……』

 

「……」

 

『……』

 

『いや、あの三日月くん?決闘の前口上を言って貰っていいかな?」

 

「え?」

 

 互いに一切喋ろうとしない2人に、シャディクがツッコム。

 

「何だっけそれ?」

 

『えー…』

 

 そして三日月は、決闘前の前口上を全く覚えていなかった。以前決闘をした時はスレッタとグエルが言っていたし、これが初めてと思えば仕方が無いかもしれない。

 

『ちょっと三日月!まさか覚えていなかったの!?』

 

「うん。何かあったっけ?」

 

『あーもう!あんたは本当に!!』

 

 三日月が全く前口上を覚えていない事に、決闘委員会ラウンジにいるスレッタは驚き、その隣にいるミオリネは頭を抱える。

 

『水星ちゃん、お願い』

 

『わかりました!三日月!今からメッセージ送るからそれを読んで!わかった!?』

 

「わかった」

 

 そしてスレッタは、端末を操作してバルバトスのコックピットに前口上の台詞を送る。

 

「ちょっと待ってて」

 

『構わん。ゆっくり覚えたまえ。宣誓もしていないのに、攻撃などという卑怯な真似はせん』

 

 一応イオクに断りを入れて、三日月はメッセージを読む。大した文字数は無いので、直ぐに覚えられた。

 

「うん、覚えた。それじゃ、勝敗はモビルスーツの性能のみで決まらず」

 

『操縦者の技のみで決まらず!』

 

『「ただ、結果のみが真実」』

 

『フィックスリリース』

 

 既に色々不安だが、こうして三日月とイオクの決闘が始まったのだ。

 

 

 

 

 

『では寮長、事前に言った通り、先ずは俺とパミルが攻撃を仕掛けて足止めします』

 

「ああ!よろしく頼むぞ2人共!」

 

『了解!行くぞパミル!』

 

『うっす!』

 

 グレイズリッターに乗ったアリアンロッド寮3年のジェイクと、グレイズシルトに乗ったアリアンロッド2年の赤毛の男子パミルがバルバトスに接近する。

 

『んじゃ、俺らは別行動で。よろしくねリリアちゃん』

 

『ちゃん付けて呼ばないでください。不愉快です』

 

 地上戦用に改修されたグレイズJ型に乗っているヒデトとリリアは、バルバトスから距離を取りながら迂回する。

 そしてイオクは、自分のレギンレイズに装備された新型の狙撃用ビームライフルの照準をバルバトスに向ける。

 

(うむ!我ながら完璧な作戦だな!)

 

 これらの各生徒の行動は、イオクの作戦だ。先ず、近接戦闘が得意な2機をバルバトスに向かわせ、バルバトスを足止めする。そして迂回している2機がバルバトスの背後を取り、挟み撃ちをする。こうすれば、バルバトスは一気に4機のモビルスーツに囲まれてしまう。

 流石のバルバトスとて、こうなれば形勢が不利になるのは必然。仮に4機の包囲網から出たとしても、自分が援護射撃をしていれば迂闊に逃げ出す事も出来ない。

 そうすれば、後はどうとでもなる。囲んだ4機の内1機がバルバトスを倒すのも良いし、自分が遠距離からバルバトスの頭を打ち抜くのも良い。

 

(これで、卑劣なアーシアン共を学園から追い出せる)

 

 既にイオクは勝った気でいた。彼自身、これを何とかできるのはせいぜい元ホルダーのグエルくらいしかいないと思っている。

 いくら伝説のガンダムフレームに乗っているとはいえ、数の力に敵う筈が無い。そう思ってしまうのも、仕方が無いだろう。普通に考えれば、これに勝利するなんて無理だ。

 

 だが生憎と、イオク達の決闘相手は普通じゃない。

 

「……ん?」

 

 突然、レギンレイズの望遠モニターが、大きな音と共に砂ぼこりで見えなくなった。

 

「何だ?」

 

 何事かと思い、イオクはモニターを凝視する。暫くすると、砂ぼこりが晴れた。

 

「なっ!?」

 

 そしてイオクは言葉を失った。

 

 なんせモニターには、白い棍棒のような武器が2つに割れて、それにジェイクのグレイズリッターの腕が、地面に倒れた状態で挟まれていたのだから。

 

 

 

 ジェイク・ガンスはアリアンロッド寮でも指折りのパイロットだ。これまでも幾度が決闘を行ってきたが、現在のところ勝ち越しているのが良い証拠だろう。特に接近戦を好む彼にとって、グレイズリッターは相性の良いモビルスーツだ。これならば、ガンダムフレームにだって負けない。そんな気持ちでいた。

 

(何だあの武器?)

 

 バルバトスに後輩のバミルと共に接近している時、ジェイクはバルバトスが右手に持っている白くて大きな武器を視界に収める。パっと見、棍棒のような鈍器に見える。

 

(だが、ああいった大きな武器は総じて取り回しが悪い。大振りの攻撃をかわして、1発入れてやる!)

 

 だが、こんなの問題にもならないとジェイクは思い、バルバトスの攻撃をかわしたら、足に攻撃を入れて動きと止めてやろうと考える。

 そしてもう目の前まで近づいた時、バルバトスが白い鈍器を槍のように構え、そのまま突撃してくる。

 

(ち!そうきたか!だが舐めるな!)

 

 読みとは違ったが、この攻撃をかわせば問題無い。なのでジェイクはバルバトスの攻撃をかわそうとする。しかしその時、予想外の事が起こった。

 

「はぁ!?」

 

 なんとバルバトスの持っていた鈍器が、急に2つに裂けたのだ。まるで獣が口を開いたように。そしてそれは、まるで獲物に食らいつくように、ジェイクのグレイズリッターの左腕に嚙みついてきた。

 更にこれで攻撃は終わらない。バルバトスはそのまま、ジェイクのグレイズリッターを反対側に振り下ろしたのだ。瞬間、大きな音と共に砂ぼこりが舞う。

 

「がはっ!?」

 

 全身を強く打ち、ジェイクは息を出す。同時に、何かを切り裂くような音が聞こえる。ジェイクがモニターを見ると、左腕に食らいついている白い鈍器、レンチメイスが金切り音をあげていた。

 実はこのレンチメイス、内部にチェーンソーが装備されているのだ。掴んだ相手を確実に倒すための装備なのだが、かなり殺意が高い。一応、歯の部分を決闘に合わせた材質に変更しているのだが、それでも非常に殺意が高い。正直、決闘のレギュレーション違反していない不安が出る。

 

(まずい!)

 

 ジェイクは直ぐに動かないとマズイと判断。しかし、レンチメイスにがっちり挟まれている現状では、どうあがいてもここから抜け出せない。

 

『ジェイク先輩!!』

 

 そんな時後輩のパミルが、グレイズシルトのハルバートをバルバトス目掛けて振り下ろす。そしてバルバトスは、背中に装備していた小型のツインメイスのひとつを、背中のサブアームを使ってバミル目掛けて投げる。

 

『何じゃそりゃあ!?』

 

 パミルはとっさにシールドで守りに入る。おかげでツインメイスからの攻撃を防げた。だがそのせいで救助が間に合わず、レンチメイスはジェイクのグレイズリッターの左腕をかみ砕いてしまった。

 

「くっ!!」

 

 左腕がかみ砕かれたが、おかげで拘束が解け、機体の自由が効くようになった。ジェイクは直ぐにスラスターを吹かし、バルバトスから距離を取る。

 

『先輩!大丈夫ですか!?』

 

「ああ。左腕が無くなったが、まだいける」

 

 直ぐに合流したパミルと肩を並べ、ジェイクは目の前のバルバトスを見る。バルバトスは再びレンチメイスを構えて、いつでもまた攻撃を仕掛けてくるようにしている。

 

(迂闊に近づねぇな…)

 

 下手に近づけば、またレンチメイスの餌食になるかねない。しかしまだ、ヒデトとリリアの2人がここに来ていない。包囲作戦成功の為にも、それまでは持たせなければならない。

 

『2人共!援護する!!』

 

「っ了解です寮長!行くぞパミル!俺は左から行く!」

 

『うっす!自分は右から攻撃します!』

 

 ここでイオクの通信が入り、ジェイクはパミルと共にバルバトスを挟撃する事にした。2人が動いた瞬間、イオクのレギンレイズのビーム攻撃がバルバトス目掛けてやってくる。それを三日月とバルバトスは、スラスターを吹かしながら避けていく。

 

(相手の注意が寮長の射撃に行っている!この間にヒデトとリリアが合流してくれれば

いいが!)

 

 まだ2人は来ない。できればそれまでに相手に少しはダメージを与えておきたい。なのでこの期に、せめて一撃は入れておきたいとジェイクは思ってしまった。

 丁度バルバトスが、決闘場に配置された残骸のオブジェクトを背中にし、動きを止めた。

これでイオクの攻撃は届かないだろうが、ここで動きを止めたのは絶好の機会。

 

(今だ!!)

 

 ジェイクはパミルと共に、バルバトスを挟撃する。

 

 しかし、

 

「んな!?」

 

 バルバトスは手にしていたレンチメイスをバミルのグレイズシルト目掛けて投げ付けて、自分自身はジェイク目掛けて突っ込んできたのだ。

 そしてバルバトスの背中にはまだ、小型のツインメイスがひとつ残っている。恐らくだが、それで攻撃をしてくるのだろうとジェイクは考えた。

 

 だが、バルバトスは予想外の攻撃をしてきたのだ。

 

「何ぃ!?」

 

 それは、パンチ。まさか武器を持たずに直接殴りかかってくるとは思わず、不意を突かれたジェイクはその拳を思いっきりグレイズリッターの顔に受けてしまう。その結果、グレイズリッターのブレードアンテナが破壊された。

 

『別に素手で攻撃したらダメってルールないでしょ?』

 

 そう言うと三日月は、パミルの方へと向かって行ってしまう。まるでもう、ジェイクには興味が無いと言わんばかりに。

 

「…くそぉ!!」

 

 ジェイクは悔しさのあまり、コックピット内のモニターを思いっきり殴る。こうして、ジェイクは1番最初に脱落をしてしまったのだ。

 

 

 

 決闘委員会 ラウンジ

 

「まさか、素手で何て」

 

「うっはー。やっぱり彼凄いわー」

 

 ロウジとセセリアは、三日月の戦いを賞賛していた。勝つためには何でもする野蛮な戦い方だが、見ている分には飽きないからである。間違っても、相手にはしたくないが。

 

「はは、確かに凄いね。今までこんな戦い方、誰もしてこなかったし」

 

 それはシャディクも同じ。アスティカシアの決闘は、激しい部分があるが、同時に結構上品な部分もある。一応グエルも荒々しい戦いをしてはいたが、今闘っている三日月程では無い。

 

「君はどう思う?ラウダ?」

 

 シャディクはグエルの弟で、今は新しい決闘委員会のメンバーであるラウダに聞いてみた。

 

「兄さんと比べると、品性の欠片も無い野蛮で暴力的な戦闘で下品かと。まるで獣だ」

 

「ありゃりゃ、随分辛口な評価だね」

 

 モニター越しの三日月に、敵意を持った視線を向けながら、ラウダは答える。ホルダーから引きずり下ろし、今では学園内でキャンプ生活をしているグエル。そうなったのは、グエルがスレッタとの決闘に負けたからだ。

 故にグエルを負かしたスレッタの幼馴染である三日月の事も、ラウダは好きになれない。どうせなら、このまま負けてしまえばよいとさえ思っているので、こんな辛口な評価をするのだ。

 

「早速1人倒したわね」

 

 ラウンジで三日月とイオクの決闘を見ているミオリネは、冷静に戦況を分析する。現在三日月は、パミルのグレイズシルトを倒すべく動いている。その間イオクはというと、射線を確保する為移動中だ。

おかげで援護射撃が出来ていない。

 そしてそんな三日月には、迂回していた2機のモビルスーツが接近中でもある。早いところ目の前のグレイズシルトを倒さないと、また挟撃され、最悪3機による包囲網を作られてしまう。

 

「あんたはどう見るの、スレッタ?」

 

 ミオリネは、自分の隣にいるスレッタに聞いてみる事にした。

 

「三日月が勝つに決まってるじゃないですか」

 

 そしてスレッタは、瞬時にそう返答した。その目は、一切の疑い無く三日月の勝利を信じている。

 

「三日月は、本当に強いんです。私、未だに三日月には負け越していますし。そんな強い三日月が、私以外に負けるなんてありえません。そもそもいくら数で攻めたとしても、最低でもエランさんやグエルさんくらいの人じゃないとまともに足止めできないと思いますし」

 

「成程ね…」

 

 三日月の事を、心から信頼しているからこそ出る台詞。聞いてて少し恥ずかしいくらいだ。というか、ちょっとだけ嫉いてしまう。

 

「そうですね。少なくとも、イオク先輩では勝てないでしょう」

 

 そんなスレッタに同調するかのように、ジュリエッタも三日月の勝利を信じていた。

 

「いや、あんたは自分の寮の勝利を信じない訳?」

 

 ジュリエッタはイオクと同じアリアンロッド寮の生徒。なのに三日月が勝つと言っている。別にアリアンロッド寮に勝って欲しい訳では無いが、流石にそれはどうなのかと思い、ミオリネはジュリエッタに一言物申す。

 

「?いや、むしろどうして勝てると思っているんですか?そもそもイオク先輩は経営戦略科の生徒ですよ?」

 

「あ」

 

 ミオリネの質問に、まるで『何言ってるんだこいつ』みたいな顔でジュリエッタは答える。しかし、言われてみればそうだ。イオク以外の生徒は全員パイロット科の生徒だが、肝心のイオクは経営戦略科の生徒。

 そんな彼が、いくら作戦を立ててモビルスーツに乗ったとしても、まともに何か出来るか怪しい物である。事実ミオリネも、以前エアリアルに乗った際、歩くのがやっとだったし。

 

「まぁ、イオク先輩は昔から文武両道を目指しているので、多少はモビルスーツを動かせるんですがね」

 

 しかしイオクはミオリネと違って、モビルスーツの操縦そのものは出来るらしい。だが、あくまでそれは多少の域を出ない。所詮は素人と変わらないレベル。せいぜいミオリネより上くらいだ。

 

「……言っちゃなんだけど、何でそんな奴が態々決闘してるの?」

 

 ここで、ミオリネは疑問をぶつける。そもそも経営戦略科であれば、態々自分で決闘をする必要が無い。自分の寮のパイロット科の生徒に任せればいいのだから。なのにイオクは自ら決闘を行っている。普通に疑問だ。

 

「簡単に言えば、信念ですね」

 

「信念?」

 

「はい。イオク先輩は『如何なる敵も正面から迎え撃つ』という騎士道精神みたいな信念を持っているんですよ。だから今回、自ら決闘をしているんです。それに、あれでもかなりの後輩思いで、自分の寮の生徒を何としてでも守ろうとするんですよ。実際、例のテロ事件で親を失った彼らの支援を最初にするよう命じたのもイオク先輩でしたし」

 

 数年前の、アーシアンのテロリストによるアリアンロッド社襲撃事件。この時、多くの役員が死亡してしまった。そして亡くなった役員には、子供がいる者も少なく無かった。

 そして親を失った子供の末路というのは、碌な物ではない。良くて孤児、悪ければ奴隷だ。イオクはそれを知っていたからこそ、絶対に彼らを見捨てないよう支援をしたのである。

 この支援をやったという実績と、更に学園でも自分の寮の生徒が困っていたら積極的に助けようとするので、イオクの寮内の評価はかなり高い。

 

(ほんと、頭に血が昇りやすいあの性格でさえなければ、素直に尊敬できるんですけどね…)

 

 これであの思い込みが激しく、視野が狭く、1度そうと決めたら突き進む性格でさえなければ、誰もが手放しで尊敬できるだろう。

 

 それはそうと、ミオリネはひとつ気になる事が出来た。

 

「彼ら?もしかして…」

 

「ええ。今回決闘に参加しているのは、テロ事件で亡くなった役員の子供達です」

 

 先程ジュリエッタが言った親を失った彼らというのは、今現在決闘を行っているパイロット科の生徒達なのだ。アーシアンのテロリストのせいで親を失った彼らは、イオクと同じくらいのアーシアン嫌いだ。

 故に、今回のアーシアンがいる地球寮を追い出せるかもしれないこの決闘には、並々ならぬ思いで挑んでいる。

 

「それにイオク先輩のお父様だった前CEOも、あの事件で重傷を負いましたし。今回決闘に参加している皆は、やる気だけは十分です」

 

 確かに、試合を見てみるとアリアンロッド寮側の生徒達はかなりやる気を出して戦っているように見える。今だってバミルのグレイズシルトが、再びレンチメイスを拾ったバルバトス相手に勇猛果敢に立ち向かっているし。そりゃ親がテロで死んだともなれば、そうもなるだろう。

 

「それは、確かに地球寮の皆さんの事を良くは思いませんよね…私も、イオクさんのようにもしお母さんが死んじゃったらって思うと、どうなっちゃうかわかりませんし…」

 

 昨日、地球寮に彼らがやってきた時、どうしてあそこまで敵意を持っていたのか理由がわかり、スレッタは胸を痛める。

 もし自分が同じ立場になっていれば、やはりアーシアンに対してあまり良い印象を持つ事は出来ないだろう。

 

「あの、何か勘違いをしているようなので言いますけど、イオク先輩のお父様は今も普通に生きてますよ?」

 

「……へ?」

 

 だがそんなスレッタの気持ちを裏切るような発言を、ジュリエッタはしてきた。

 

「え!?いやだって!!さっき重症だって!!」

 

「確かに重症を負いましたが、今も普通に生きてます」

 

「……そういえばあの事件で前CEOが亡くなったって話は聞かなかったわね…」

 

 てっきり重症を負ってから、回復する事なく亡くなってしまったとばかり思っていたが、今も普通に生きているらしい。

 

「しかし、テロの後遺症で一生自力で歩く事が出来なくなってしまったので、イオク先輩はアーシアンが嫌いなんですよ。尊敬する父親がそうなってしまえば、誰でもそうなるでしょうが」

 

 だがそれでも、イオクの父が酷い事になったのは事実。おかげでイオクは、かなりのアーシアン嫌いになっている。なので今回の決闘、やる気だけは十分なのだ。

 

(まぁ、だからと言って勝てるとは思えませんが。三日月・オーガスは強いですからね。そもそも今回の八つ当たりに近い決闘は、寮内でもあまりよく思われていませんし)

 

 だとしても、ジュリエッタは自分達の寮が勝つ事は無いだろうと思っていた。これは自分の寮生は弱いからと思っている訳ではなく、三日月が強すぎるからだと思っているからだ。

 以前三日月と戦って分かったが、三日月はかなり強い。少なくとも、グエルやエランといった学園トップレベルの実力は間違いなくあるだろう。そんな三日月が、5対1とは言え負けるとは思えない。勝つのであれば、もっと数を用意するべきだろう。

 それに、地球寮に八つ当たりするような今回の決闘はいただけない。実際、今回の決闘はアリアンロッド寮でも割と賛否が分かれていたりする。確かにアーシアンは嫌いだけど、その怒りを無関係であろう地球寮に向けるのはどうなのか、と。

 だが結局は、寮長であるイオクの鶴の一声で無理矢理纏めさせている。寮内にも反対意見はあったのだが、それら全てを潰してだ。おかげで寮内にも、イオクに対してやや不信感を持つ者が増えたりした。

 因みにその火消にジュリエッタは奔走していたりするのだが、態々その事まで話すつもりは無い。

 

「あ」

 

 そんな事を思っていると、モニターの向こうでパミルのグレイズシルトがレンチメイスに頭を掴まれた。

 

 

 

 

 

『くそ!離しやがれ!!』

 

 パミルは必死で抵抗しようとするが、当然三日月はレンチメイスを離すつもりは無い。むしろ操縦桿を操作して、レンチメイスでグレイズシルトの頭を、金切り音を出しながら挟んでいく。

 

『や、やめろぉぉぉぉ!!』

 

 恐怖で叫ぶパミルの声と共に、グレイズシルトの頭部がぐちゃぐちゃに破壊された。当然、ブレードアンテナもだ。

 そしてそのまま、グレイズシルトは倒れてしまう。これで彼も脱落だ。

 

「これで2人目」

 

 当初5機いたアリアンロッド寮のモビルスーツは、既に3機にまで減らされている。これではもう、包囲網を作る事は出来ないだろう。

 

『『貰ったぁぁぁ!!』』

 

 だがそれでも、勝負を捨てるなんて出来る訳が無い。ようやく追いついたヒデトとリリアのグレイズJ型が、バトルブレードでバルバトスの背後から攻撃を仕掛ける。

 

『『なっ!?』』

 

 だが攻撃が当たりそうになった瞬間、バルバトスはスラスターを吹かして空を飛んで攻撃を避けた。不意を突いたはずの攻撃なのに、どうして三日月は避けられたのか疑問だ。まるで、後ろに目でもついているかのよう。

 

『空中ならば避けられまい!!』

 

 そこに、イオクが攻撃を仕掛ける。だが三日月は、バルバトスのスラスターや脚部バーニアを精密に動かしながら、まるで宇宙空間にいるかのようにイオクの攻撃を避ける。こんな真似が出来るのは、ひとえにバルバトスの性能と、背中の阿頼耶識システムによる空間認識能力のおかげだろう。

 

『ええい!どうして当たらん!!』

 

 イオクの攻撃は、まるで当たらない。何度も三日月目掛けて撃ちまくるが、全然当たらない。バルバトスの性能のせいもあるだろが、単純にイオクがパイロットとして割とポンコツなせいである。

 もしイオクがパイロット科の生徒で、長距離射撃の特訓を受けていればまた話は変わるのだろうが、イオクは経営戦略科の生徒である。生憎、そこまでの訓練は受けていない。

 

『リリアちゃん!撃って撃って!!』

 

『だからちゃん付けで呼ばないでください!!』

 

 下にいるヒデトとリリアも、三日月目掛けて攻撃をする。そして三日月はレンチメイスを大きく振りかぶり、スラスターを吹かしながら、地上目掛けて落下する。目標は、今下にいる2機だ。

 

『マズイ!避けるのだ2人共!!』

 

 イオクが叫ぶが、もう遅い。三日月は勢いよく落下し、それと同時にレンチメイスを振り下ろした。

 

『きゃう!?』

 

 反応が遅れたリリアが、その攻撃の余波をモロに食らって、横に吹き飛ばされ倒れてしまう。だが、ブレードアンテナは無事だ。これならまだ戦える。

 そう思っていたが、そんな攻撃出来ない瞬間を三日月が見逃す筈が無かった。

 

『え?きゃああああ!?』

 

 三日月はバルバトスの足で、リリアが乗っているグレイズの頭を踏んだのだ。こうしてブレードアンテナを踏まれて破壊されたリリアのグレイズJ型は、脱落してしまった。

 

「3人目」

 

残っているのはイオクのレギンレイズと、ヒデトのグレイズJ型のみ。大して苦戦もしていないし、これならもう消化試合になりそうだ。

 

『き、貴様!!何と野蛮な!!』

 

「別にルール違反じゃないじゃん」

 

あまりの暴力的な戦いにイオクが激怒するが、三日月は何とも思わない。コックピットに対する直接攻撃では無く、ちゃんと決闘のルール内の攻撃なのだから、文句を言われる筋合いは無い筈だからだ。

 

『うおぉぉぉ!!』

 

「!?」

 

その場から動こうとした時、ヒデトがバルバトスの背中に抱き着いた。これではまともに動けない。

 

『寮長今です!撃ってください!!』

 

「っこいつ!!」

 

 何と彼は、イオクに三日月を仕留めさせるべく文字通り体を張ってバルバトスの動きを止めに入ったのだ。

 

『感謝するヒデト!!これで終わらせる!!』

 

ヒデトの想いを無駄にしない為にも、イオクはここでバルバトスの頭を打ち抜くつもりだ。冷静になって照準を合わせれば、経営戦略科の自分でも出来る筈。しっかりと目標を定め、イオクはトリガーを引く。

しかしその時、三日月はレンチメイスの口を開き、それを地面に嚙ませるようにする。そして口の中にあるチュエーンソーの上部分だけを起動。するとレンチメイスは地面を耕しながら、バルバトスを前に進ませる。

 

『な!?』

 

 前に進んだおかげで、背後から抱き着いていたグレイズJ型が、バルバトスと入れ替わる様にレギンレイズの射線に入ってしまう。

 そしてそのまま運悪く、ヒデトのグレイズJ型は、イオクのレギンレイズの狙撃に頭を打ち抜かれてしまったのだ。こうして、ヒデトも脱落をしてしまった。

 

「4人目」

 

 これで残るのは、イオクただ1人。

 

『おのれ貴様、ヒデトを…!!』

 

「いや撃ったのはお前じゃん」

 

 三日月はそう言いながら、イオクのいる方へと接近する。

 

『くっそぉぉぉ!!』

 

 イオクは接近してくるバルバトスに、ビームライフルを撃ちまくる。しかし当たらない。この時イオクは、既に冷静さを失っており、目標を定めず、ただひたすらに撃つというやり方をしていた。これでは当たる訳が無い。

 

(避けた方が当たりそうだな。真っすぐ行くか)

 

 三日月もそれを理解したのか、変に避けずに真っすぐ突っ込む事にした。そしてあっという間にイオクの元にたどり着き、三日月はレンチメイスを叩き込む。

 

『くっ!?』

 

 イオクはそれに対して、ビームライフルで防御をしてしまう。衝撃で砲身が曲がる。これではもう撃てない。そこに三日月は更に追撃を入れ、レンチメイスの口を開き、イオクを挟もうとしてきた。

 

『おのれぇぇぇ!!』

 

 ここでもイオクは、ビームライフルで防御。そしてレンチメイスはビームライフルを挟み、あの金切り音が鳴り響く。直ぐにビームライフルは耐久限界を迎え、爆発して破壊されてしまう。イオクはそれと同時に、バルバトスから距離を取った。

 

「もう降参したら?あんたじゃ俺には勝てない事くらいわかってるでしょ?武器も無いみたいだし」

 

 主力武装を無くし、ほぼ丸腰のレギンレイズ相手に、三日月は降伏を促す。流石の三日月も、武器を持たない相手を倒すのは少しだけ気が引けるからだ。

 

『……ふざけるな』

 

 だがイオクは、そんな気は全くない。腰に装備していたナイトブレードを手に取り、それをバルバトスに向ける。

 

『私は!アリアンロッド寮の寮長、イオク・クジャンだ!!寮長というものは、皆を守らねばならないのだ!!それに他の皆が必死になって戦っていたというのに、私だけ降参など出来る訳が無かろう!!そんな卑怯な真似、してたまるかぁ!!最後の最後まで抗わせて貰うぞ!!』

 

「へぇ…」

 

 イオクは弱い。それは本人も自覚しているだろう。だというのに、最後まで諦めずに闘うと言う。その気概を見て、三日月は少しだけイオクを見直した。

 

『最早小細工も無い!正面から行かせて貰う!皆、私に力を貸してくれ!ゆくぞぉぉぉ!!』

 

 そしてイオクのレギンレイズはナイトブレードを振りかぶりながら、三日月のバルバトス目掛けて真正面から突っ込んできた。

 

 もしこれが物語であれば、大切な仲間を倒した邪悪な悪魔相手にイオクは勝利できただろう。だが、現実はそう簡単には行かない。

 

『ぐっ…!?』

 

 イオクは必死になって攻撃するが、逆に三日月に押し返される。そもそもが細身の剣のナイトブレードと、無骨な鈍器のレンチメイスとの闘い。それに接近戦は、三日月の専売特許。今もレンチメイスを地面に突き立てイオクの攻撃を防御したかと思えば、それをまるで鉄棒のように使ってイオクに蹴りを入れている。パイロットとしての素の能力が、全然違う。

 

(ここまで、差があるのか…!?)

 

 イオクだって、自分がモビルスーツパイロットの天才とは思っていない。自分は精々、動かすくらいしかできない素人だ。対して三日月は、自分の手足のようにモビルスーツを動かしている。まるで本当に人間と戦っているみたいだ。

 

『だがそれがどうした!私は、アリアンロッド寮寮長の、イオク・クジャンだ!!諦めるものかぁぁぁ!!』

 

 しかしそれでも、諦める訳にはいかないのだ。自分の父親にあんな事をしたアーシアンを追い出すために、最後まで諦めるわけにはいかないのだ。

 

 だが無常にも、最後の時が来てしまう。

 

『ぐあっ!?』

 

 遂に三日月は、イオクのレギンレイズの足をレンチメイスで挟む事に成功。そして三日月は、そのままの勢いでレギンレイズを地面に組み伏せた

 

「あんたが誰だってどうだっていい。あんたが今の俺の敵だって事に、変わりはないんだから」

 

 背中にあったツインメイスを片手に持ち、大きく振りかぶる。

 

「それと、最後に言っておく」

 

 三日月はそう言うと、レギンレイズの頭めがけてツインメイスを振り下ろし、瞬間、レギンレイズの頭がブレードアンテナごと破壊された。

 

「俺の大切な仲間に、2度と手を出すな」

 

 そして決闘場上空には、三日月とバルバトスが勝利したというメッセージが表示されるのであった。

 

 

 

 決闘委員会 ラウンジ

 

「うわ…やっば…」

 

「凄い…でもちょっと怖いですね…」

 

「ちっ!」

 

 セセリアは若干引き、ロウジは少し怯え、ラウダは不機嫌さを隠そうともしない。

 

「ま、とりあえずよくやったわ三日月。これで株式会社ガンダムも守れたし」

 

 ミオリネは毅然とした態度でそう言っているが、実は結構ホッとしている。三日月が負けるとは思っていなかったが、やはりスレッタ程完璧に信用もできていなかったからだ。やはりどうしても、負けるかもという不安はぬぐえなかったし。

 

「では、私はこれで。皆のケアをしてこなければなりませんので」

 

 ジュリエッタは早々に決闘委員会ラウンジから去る。今回決闘に参加したパイロット科の生徒のケアをする為だ。あんな負け方をしたのだ。下手すればトラウマになりかねない。こういう時のケアは、本当に大事なのだ。

 

「私達もいくわよ、スレッタ」

 

「は、はい」

 

 ミオリネに言われ、スレッタもラウンジを去る。その途中、スレッタは三日月の先程の発言を思い返していた。

 

『俺の大切な仲間に、2度と手を出すな』

 

 これは三日月が、地球寮の皆の事を信用した証拠であろう発言。最初こそ壁を作って、あまり皆と仲良くしようとしなかった三日月が、あんな事を言った。三日月が成長したようで、スレッタは嬉しい限りである。

 

(よかった…三日月、やっと地球寮の皆の事信用したみたい)

 

 笑顔になりながら、スレッタはミオリネと共にモビルスーツハンガーへと足を運ぶ。とりあえず、決闘に勝利した三日月の事をしっかりと褒めてあげよう。

 

 あと、勝手に決闘をした事を注意しないと。

 

「……」

 

 そしてシャディクは、未だに無言でモニターを見つめている。その目は、まるでバルバトスを観察するような目をしていたが、その事に誰も気が付かないでいた。

 

 

 

 

 

 翌日 地球寮

 

「地球寮の生徒諸君、先日の失礼な態度、そして証拠もないのに変な言いがかりをした事、誠に申し訳なかった。すまない」

 

『すみませんでした!』

 

 地球寮にやってきたイオクは、決闘に参加した寮の生徒と共に地球寮の皆に謝罪をしにきていた。それもしっかり、頭も下げて。

 

「お、おお…こいつちゃんと謝るんだな…」

 

「こういう人なんですよ」

 

 てっきりあの横暴な態度だから、まともに謝罪もしないと思っていたチュチュだが、イオクはしっかり謝罪をしてきた。ジュリエッタの言う通り、イオクはこういう生徒なのだ。頭に血が昇りやすく、そのせいで視野が狭くなり、1度決めたら突き進む人だが、こうして謝る事が出来る生徒なのだ。

 

 因みに、決闘後にジュリエッタを筆頭に寮の生徒達がしっかりケアだったり、言い聞かせたりしたおかげで、他4人はトラウマも無く、今は冷静だ。やはりあの時は、イオクに言われたのもあってか、冷静さを失っていたみたいである。

 

「約束通り、もう2度とあのような真似はせん。それでは」

 

 イオクは謝罪をすると、そのまま直ぐに帰ろうとする。

 

「ちょっといい?話したい事あるんだけど」

 

「……皆、先に戻っておいてくれ」

 

 そんなイオクに、三日月が話し掛ける。イオクは自分以外の生徒を帰らせたのち、三日月と向き合う。尚、ジュリエッタだけは念のために残っている。

 

「……何だ」

 

「あんたの父親ってさ、足が不自由なんだよね?」

 

「……そうだ。あのテロ事件以降、父上は自由に歩く事が出来ない。今も車椅子生活のままだ」

 

 イオクの言う通り、父親のラカン・クジャンは車椅子生活を送っている。移動は遅いし、風呂やトイレも誰かの助けがないといけない。元々歩けていた人が突然こうなるのは、色々大変である。やはり事件前のように、普通に歩いたりしてみたい。

 

「だったらさ、うちの商品が開発できたら、それを受け取ってみない?」

 

「は?」

 

 そして三日月は、イオクにそんな提案をしてきた。

 

「どういう意味だ?」

 

「いや、トマトの人が作ったうちの会社の株式会社ガンダムって、手足が不自由だったり、体に異常がある人を助ける医療機器を作る会社だからさ。まだ開発の目途も立ってないけど、開発できたら使ってみない?あ、皆は既に了承済みだよ」

 

「そうですよ!まだ全然開発なんて出来ていませんが、もしよろしければお願いします!」

 

「人を助けるのに、善も悪も無い。当然、アーシアンもスペーシアンも無いよ」

 

「ぶっちゃけ、アリアンロッド社に商品を宣伝して貰いたいっていう打算的な気持ちもあるけどな」

 

 リリッケとアリヤとオジェロも、三日月に同意するような言い方をする。その提案に、イオクは目を丸くする。確かに学園の共有サーバーで見た株式会社ガンダムの事業は、医療機器の開発と販売。ついでにエイハブリアクターの研究だ。それならば、こうして提案するのもわかる。

 

「何故だ…?私は、あんな事を言ったんだぞ?なのにどうして…?」

 

 だがそういう事ではない。イオクは地球寮の皆に、八つ当たりに近い事をして、かなり酷い事を言っている。普通に考えたら、未だに自分の事は許せない筈だ。それなのに何故、こんな手を差し伸べるような真似をするのかわからない。

 

「?いや、それはもう決闘で終わった事じゃん」

 

 三日月の返答は、シンプルだった。あの時の暴言や八つ当たりの件は、既に昨日の決闘で終わっている。

 それに三日月は、ミオリネから相手を許す事を学んだ。もしイオクが碌に謝罪もせず、再び横暴な態度を取っていたら話は変わるが、イオクはちゃんと謝罪した。ならば許す。それが三日月や、地球寮の皆の決定である。

 

「それにいつまでもアーシアンとかスペーシアンとかでいがみ合っていたらさ、ずっとこんな事が繰り返されるだろうし。それなんか嫌じゃん」

 

「!?」

 

 そして三日月のその言葉を聞いたイオクは、思い出した。幼い頃、父親が突然地球に対する慈善活動をした時の事を。

 

―――――

 

『父上。どうして態々アーシアンにあのような事を?学校を建てたり、病院を作ったり、食料の支援まで。こんなの、会社の利益になりませんよ?』

 

『簡単だよイオク。もうこれ以上、スペーシアンとアーシアンがいがみ合うのをやめさせるためだ』

 

『どうしてですか?』

 

『我々は、元は皆同じ地球で生まれた人類だ。なのに、今では地球と宇宙でいがみ合ってしまっている。こんな事何時までも続けていると、人はいずれ大きな過ちを犯してしまう。例えば、戦争とかね。それを防ぐためにも、今から少しでも歩みよって、お互い再び協力をするべきなんだ』

 

『でも、そんな簡単に行きますか?』

 

『お前の言う通り、簡単じゃないだろう。恨みを買うかもしれないし、私の命を狙われるかもしれない。でも、私は決して恨んだりはしないよ。元々スペーシアンである我々が、アーシアンにしてきた事を思えば、しょうがない事さ。それに何かをされても相手を許せる事が、1番強い人間だ。お前もそうなりなさい』

 

『……よくわかりません』

 

『ふふ、いずれ、お前にもわかる日がくるさ』

 

―――――

 

 当時、幼かったイオクはよく理解できなかったが、今なら理解できる。自分の父は、アーシアンを恨んでなんかいない。そして、相手を許す事が1番強い人間だとも言っていた。

 

(私は、本当に何をしているのだ…)

 

 父親がテロに巻き込まれ、その怒りでアーシアンが嫌いになったイオク。確かに、あのテロを起こしたアーシアンは許せない。

 だがその怒りを関係のない地球寮にぶつけるなど、父親が聞いたらどれだけ嘆く事か。しかしおかげで目が覚めた。

 これからはもっとよく考えて動くよう努力しよう。そして何時の日か、立派なアリアンロッド社CEOになってみせるとイオクは決める。

 

 ガシッ!!

 

「感謝する、三日月・オーガス。その時は是非お願いする!」

 

「うん」

 

 イオクは三日月の手を両手でしっかり掴んで、開発前の医療機器の事をお願いする。

 

「そして今日から私とお前は友だ!困った事があれば遠慮なく言ってくれ!」

 

「……は?」

 

 同時に、何だかよくわからない事を言い出した。

 

「何それ…?」

 

「ん?私とお前は決闘をしたのだ。ならば強敵と書いて友というではないか。つまりそういう事だ!」

 

「どういう事?」

 

 よくわからない展開に、三日月は混乱。そもそも別にイオクは強敵では無かったし。

 

「え、何あいつ?」

 

「ああいう人なんです」

 

「お前それ言えば何とかなるって思ってねーか?」

 

 ジュリエッタの発言に、チュチュが突っ込みを入れる。でもいちいち説明するの面倒なのだ。だったら簡潔に、これくらいの説明で良い。

 

「ではな!開発を頑張りたまえ!」

 

 イオクはそう言うと、地球寮から満足気に出ていった。

 

「じゃ、私もこれで。あ、あの人に関してはあまり気にしないでください」

 

 そしてジュリエッタも、イオクの後に続いてで行く。でもアレを気にしないというのは無理だろう。

 

「何だか、色々疲れた…」

 

「ほんとな。まだ会社経営前だっていうのに…」

 

 マルタンとヌーノが言う通り、まだ会社は経営許可が下りていない状態なのに、こんな決闘をしたりと、色々あって疲れた。おまけに何故かあのイオクに三日月が友認定されたし、株式会社ガンダムは前途多難かもしれない。

 

「そうだ!先日貰った冷凍ハンバーグ、今から皆さんで食べませんか!?会社経営の前祝いと決闘の勝利を祝うって事で!!」

 

 そんな中、リリッケが皆に提案をする。

 

「いいじゃねーか?最近皆働き詰めだったし」

 

「私も賛成だ。折角貰ったんだから頂こう」

 

 昭弘とアリヤはリリッケに賛成。確かに最近は色々あって大変だった。ここいらで1度祝っても問題ないだろう。

 

「ミオリネさん、どうでしょう?私はしてみたいんですけど…」

 

 スレッタもちょっとしたお祝いをしてみたが、先ずは社長であるミオリネの許可が必要と思い、話しかける。

 

「あんまりハメ外すような真似はダメだからね」

 

「はい!!」

 

 社長の許可も出た。こうして地球寮では、ちょっとしたお祝いをする事になった。

 

 

 

「何だこれ!超うめぇ!!」

 

「マジでな…俺こんなうまいハンバーグ食べた事ねーわ…」

 

 オジェロとヌーノの言う通り、アリアンロッド社製の冷凍ハンバーグはとても美味しかった。いや本当に、信じられないくらい美味しかった。

 

「家族にも食わせてやりてなぁ…」

 

「それな…くそ、スペーシアンのくせになんて美味いもの作りやがる…!」

 

 昭弘とチュチュもあまりの美味しさに、地球にいる家族に食べさせたいと思うくらいである。

 

「うん、これ美味いね」

 

「凄いですミオリネさん…世の中にこんなに美味しいハンバーグがあるなんて…」

 

「そういえば、現在のアリアンロッド社CEOのラスタル・エリオン氏は、食品関係に結構力を入れているって聞いた事あるわね…」

 

 ミオリネの言う通り、現アリアンロッド社CEOのラスタルCEOは、軍需産業のみのベネリットグループ内で、どういう訳か食品関係に力を入れている。理由は、美味い飯を食べれば自ずと兵士の士気も上がる為との事。

 彼自身、自腹で牛や豚の牧場を作っている事を考えると、その熱の入れようがわかる。それほどの熱があれば、これ程美味しい冷凍ハンバーグを作る事も可能だろう。

 

 その後地球寮では、アリアンロッド社製の冷凍食品がちょっとだけブームになったりした。

 

 

 

 

 

 グラスレー寮 寮長室

 

「やっぱり、どう考えても普通じゃないねこれは」

 

 シャディクは、先日の三日月とイオクの決闘を見返していた。三日月の戦闘は、まるで人間のような動きを多々している。

 これがエアリアルのようなGUND-ARMであればそういった動きも可能なのだろうが、バルバトスはそうじゃない。あれは非パーメット兵器の、ガンダムフレームだ。

 

「ガンダムフレームというのは、ここまで有機的な動きが可能なのか?」

 

「さぁね。何分、当時のデータなんて殆ど残っていないんだ。現物を調べないとわからないよ」

 

 サビーナの疑問を解消するには、バルバトス本体を調べるしかない。しかし、バルバトスは地球寮でもかなり厳重に情報統制がされている。簡単にはいかないだろう。

 幸いシャディクには、地球寮にスパイがいるのでそこから情報を貰えばいいだろうが、そのスパイからも簡単にはいかないと言われている。何でもバルバトス本体には、異常な程強固なプロテクトが施されているらしい。簡単に解除は出来ないとの事。

 

「うん、やはりアレをやってみるか」

 

「……シャディク、本当にやるのか?アレを」

 

「ああ。男が近づくよりは、警戒心も薄れるだろうし」

 

 ならば、バルバトスのパイロットから直接聞き出すしかあるまい。三日月はスレッタ以外には中々心を開かないらしいが、今では地球寮の皆には普通に接しているとの事。ならば、この作戦もやる価値はある筈だ。何事も、やらないよりやった方がマシだろうし。

 

 

 

「と言う訳でレネ、頼めるかな?」

 

「了解。三日月くんをしっかり新しいキープくんにしてやるね」

 

 

 

 そしてシャディクは、自分と同じ寮のレネ・コスタに、三日月に対するハニートラップを命ずるのであった。

 

 

 

 

 




 後半のイオク様改心の下り、強引かな?うまく書けていないかもしれない。


 以下キャラ説明

 イオク・クジャン
 アリアンロッド寮経営戦略科の3年。鉄血本編からのキャラ。鉄血本編では、ジャスレイと同じかそれ以上のヘイトを買った人。部下は優秀なのに、本人が非常に思い込みが激しく頭に血が上り易い為、ジュリエッタ含め、部下ははかなり苦労していた。あと名瀬の兄貴が死んだのと、鉄華団が壊滅したはこいつのせい。無能さが目立つけど、正直今では、脚本の犠牲になっていた被害者な気がする。
 本作では、ギャラホルンのセブンスターズという特権階級におらず、更に父親も生存し、しっかり学校に通っているので鉄血本編程無能ではない。冷静になれば、しっかり謝罪もする人になっている。でもアーシアンはあまり好きじゃない。
 カリスマ性があり、アリアンロッド寮に限り絶大な人気を持っている。だけど、他の寮生からはそこそこ嫌われている。

 ジェイク・ガンス
 アリアンロッド寮パイロット科3年。やや好戦的な性格の生徒。MSの腕前のそれなり。しかしジュリエッタには未だに勝てないでいる。
 元ネタはPS2ゲーム『ガンダム戦記』のジオン側の僚機だった人。漫画版では宇宙に技術者のメイと共に脱出したのち、最後はティターンズに捕まっている。その後はどうなったか知らないが、多分生きてはいる。

 パミル・マクダミル
 アリアンロッド寮パイロット科2年。赤毛に褐色肌というラッパーっぽい見た目の生徒。先輩であるジェイクの事を尊敬している。
 元ネタはPS2ゲーム『機動戦士ガンダム クライマックスUS』のプログレスモードという、オリジナル主人公で宇宙世紀を駆け巡るモードで登場した僚機の1人。漫画版では、途中で主人公と仲たがいし、最後はネオ・ジオンに所属していた。

 ヒデト・ワシヤ
 アリアンロッド寮パイロット科1年。ややお調子者ではあるが、MSの腕前はかなりのもの。
 元ネタは『MS イグルー』に登場したヅダのパイロット。多分日系人。当時は直ぐ死んじゃうと思っていたけど、ア・バオア・クーの戦闘を生き残っている。多分その後は、アクシズかデラーズフリートに合流している。

 リリア・フローベール
 アリアンロッド寮パイロット科1年。金髪の美少女。でもあまり他人となれ合おうとはしないややぼっち気味な子。
 元ネタはPS2ゲーム『機動戦士ガンダム めぐり逢い宇宙』のオリジナルパイロット育成時に選べるジオン側の女性キャラだった子。ゲームではヒロイン枠とかいわれていたが、別にそんな事無い。漫画版では、上官のマレットに心酔しているちょっとヤバイ子。

 レギンレイズ(イオク専用機)
 アリアンロッド社の新型モビルスーツ。ほぼ鉄血本編のままだが、武装がレールガンから狙撃用ビームライフルに変わってる。

 グレイズリッター
 アリアンロッド社のモビルスーツ。原作だとカルタの地球外縁軌道統制統合艦隊のモビルスーツ。まるで騎士のような見た目で、式典にも参加している事が多い。
 こちらのレギンレイズ同様、武装がビームライフルに変わって、エイハブリアクターが無いくらいで特に変更点は無い。

 グレイズシルト
 アリアンロッド社のモビルスーツ。グレイズの改修型。鉄血本編では、アリアンロッド艦隊のモビルスーツだった。射撃武器が無く、ハルバートと大型シールドのみの近接特化型。
 こちらも同上で、エイハブリアクターの無い水星仕様になっている。

 グレイズJ型
 要はグレイズの地上戦仕様のやつ。型式にJがあったので、J型にしてみた。勿論これも、見た目だけ同じの水星仕様である。


 何か変なところや矛盾点がれば言ってください。修正しますので。

 次回、レネ・コスタは告らせたい。どうかお楽しみに。
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