悪魔と魔女の物語   作:ゾキラファス

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 相変わらず、シャディクが誉の無い戦法を取っています。でもそれだけバルバトスとエアリアルを警戒しているって事でお願いします。

 まぁ、これだけやって負けたら後が大変だろうけど。

 追記 少し編集しました。


VSシャディク 4

 

 

 

 

 

 三日月は敵に囲まれながらも、グラスレーの攻撃を上手くかわしながら、どうにかしないとと考えていた。このままここで右往左往していても、埒が明かない。何れは負けてしまうかもしれない。何かしらの突破口を見つけなければ。

 

 そんな時だった。

 

「な!?」

 

 バルバトスが、何かに足を取られたのは。直ぐにカメラで確認してみると、バルバトスの右足首が、すっぽりと何かの穴に挟まっている。

 

「これって、落とし穴!?」

 

 それがまさかの落とし穴だと気がついた三日月は、かなり驚く。だってまさか、決闘場内に態々落とし穴を設置するなんて思わなかったからだ。

 しかもスッポリと嵌まってしまっているので、上手く足が外れない。このままではまずい。ただでさえ周りを敵に囲まれている状況だ。こんな状況で動きを止めるなんて、相手に撃ってくださいって言っているようなものである。

 

「くそ!」

 

 三日月は少し焦りながらも、バルバトスの足のスラスターを吹かして、落とし穴からの脱出を試みる。だがそれと同時に、背後にあったビルを、グラスレーのデミトレーナーがビームガトリングで撃ちまくり、瓦礫の山をバルバトスに降らす。

 そして三日月は、とっさにバルバトスの腕を操作して、頭部のブレードアンテナを庇う。おかげでブレードアンテナが破壊される事はなくなったが、バルバトスの動きは止まってしまう。その止まった隙に、レネ達は一斉にバルバトスを攻撃。三日月はそれに対して、腕部ビーム砲で応戦。

 

(なんか、嫌な予感がする…)

 

 応戦している中、三日月は何故かそう思った。同時に、懐かしさを感じる。

 

(ああ、これあれだ。水星で発掘作業している時、突然落盤する時の感覚だ…)

 

 それは、水星で命の危機を感じた時と同じような嫌な予感だ。水星で発掘作業をしている時、何の前触れも無く落盤事故が起こる時がある。本当に何の前触れも無く命の危機が訪れるのだが、長年発掘作業をしているベテランの中には、それを事前に感じ取る事が出来る勘の持ち主がいた。

 そして三日月は、そのベテランと同じかそれ以上に勘が鋭いのだ。スレッタ曰く『図鑑で見た野生動物のそれに近い何か』との事。これにはプロスペラも笑っていた。

 だがその天性の勘の良さのおかげで、三日月は何度も命拾いをしている。そして三日月は、その落盤事故が起こる寸前の嫌な予感を今感じていた。グラスレーのデミトレーナーがビルを破壊して降らせてきた瓦礫じゃない。もっと別の危機が、今自分に迫っている。

 

 瞬間、画面の端に小さな光が映った。同時に、ミオリネの声が聞こえた気がした。

 

「!?」

 

 それを見た三日月は、とっさに左腕でバルバトスの頭を庇う。それと同時に、ずっと隠れていたエナオのベギルペンデの狙撃が、バルバトスの左腕に装着された腕部ビーム砲に命中した。

 

『うっそ…外した…?いや、防いだ!?』

 

 まさか防がれるとは思っておらず、エナオが驚愕する。

 

「くうっ!?」

 

 同時に、三日月はバルバトスのスラスターを吹かして、真後ろにあったビルに突撃。このままここにいたら絶好の的にされかねないと判断したからだ。ビルの壁が崩れ落ち、そのままバルバトスはビルの中に入る。

 

「あっぶな…」

 

 ついそんな事を呟く三日月。もし水星での落盤事故と同じような嫌な予感を感じる事ができなければ、今のでやられていただろう。三日月はこの時、水星で働いていてよかったなと本気で思った。あの時の経験で、この勘も研ぎ澄まされたし。

 

(でもこれはまずいな。外に出たらまた狙撃される…かといってこのままここにいてもいずれは…)

 

 とっさにビルの中に入ったまではよかったが、ここからどうするか悩む三日月。馬鹿正直にビルから出ても、ハチの巣にされるだけだ。しかしここに隠れていても、いずれは攻撃されて袋小路だ。

 おまけに今の狙撃で、左腕の腕部ビーム砲がダメになった。これで遠距離戦への対応は半減する。あっても仕方が無いので、三日月は左腕に装着された腕部ビーム砲を外す。

 

『三日月!聞こえる!?』

 

「ん?何?トマトの人?」

 

 その時、ミオリネから通信が入った。

 

『いい?今から私の言う通りに動いて!』

 

 どうやら、何か作戦があるようだ。三日月は黙ってミオリネの作戦を聞く。

 

「へぇ、いいねそれ。やるよ」

 

 そしてその作戦を了承し、直ぐに動くのだった。

 

 

 

 

 

『ごめんレネ、外した』

 

「いいって、まさかあれを防ぐなんて思わなかったし」

 

 エナオの通信を受けたレネは、バルバトスが潜んでいるビルの前に立っていた。そしていつでもバルバトスが出てきてもいいように、ビームライフルを構える。

 

「エナオは移動してて。狙撃場所がバレている狙撃手なんて意味ないし」

 

『了解』

 

 レネに言われ、エナオは移動を開始。レネの言う通り、1度狙撃をした場所に居座る狙撃手なんて、逆に沢山撃ち返されてやられるものだ。大抵の狙撃手は、1度撃ったら即移動である。

 

(で、どうするつもりかな?)

 

 既にマン・ロディと共に逃げ道は塞いでいる。更にビルの屋上にいるデミトレーナーも、バルバトスがいるビルに狙いを定めている。バルバトスが出てきても、またさっきのやり直しだ。

 

「あ、そこのデミトレ。危ないから直ぐに移動して」

 

『了解しました』

 

『わかりました』

 

 レネの視線の先には、バルバトスが潜んでいるビルの屋上にいるデミトレーナーが2機いる。1機はビームガトリングを装備したデミトレーナーで、もう1機は背中に補給物資を積んだコンテナを背負っているデミトレーナーだ。

 このままそこにいると、流れ弾をくらうかもしれない。直ぐに別の高所に移動して、再び援護射撃をしてもらおう。

 

 そして2機のデミトレーナーが移動しようとした時、大きな音が響く。

 

「は?何の音?」

 

 音はするが、その音の正体がわからない。レネは周辺をセンサーを使って探索。すると、驚くべき事がわかった。

 

「っ!?そこのデミトレ!!今すぐ逃げて!!」

 

『『え?』』

 

 レネが必死で警告するが、少し遅かった。

 

 何と、ビルの上にいたデミトレーナーの足元から、バルバトスが現れたのだ。

 

『こいつ、ビルを突き破ってきたのか!?』

 

 ビームガトリングを装備したデミトレーナーのパイロットは、驚きを隠せない。彼の言う通り、三日月はバルバトスの腕部ビーム砲の出力を低く調整して、それを真上に撃ちながらビルを突き抜けてきたのだ。勿論、左腕で頭部のブレードアンテナを庇いながら。

 そしてビルを突き破って屋上に現れたバルバトスは、そのまま左手に持っているツインメイスをビームガトリングを装備したデミトレーナーの頭部目掛けて振り下ろす。その攻撃を避ける事が出来ずに、デミトレーナーは頭部がひしゃげて沈黙した。

 

『こいつっ…!!』

 

 コンテナを背負ったデミトレーナーが、バルバトスに掴みかかろうと動く。しかしその前に、デミトレーナーはバルバトスに思いっきり蹴られ、地上目掛けて落ちて行った。

 

『ちょっ!?きゃあああああ!?』

 

 パイロットの悲鳴と共に、デミトレーナーは地上に落ちて機能を停止。それだけで終わらない。バルバトスは、破壊したデミトレーナーのビームガトリングを手に取り、それをレネ達に向けていたのだ。

 

「っ散開!!散開!!」

 

 レネは周りにそう言うと、直ぐにベギルペンデのスラスターを吹かして回避行動を取る。それと同時に、マン・ロディ2機も、そして他のデミトレーナーも回避行動を取った。直ぐに動いたおかげで、大した被害は出ていない。

 だがおかげで、折角作ったバルバトス包囲網が崩れてしまった。恐らく、同じようなやり方でもう1度バルバトスを囲むのは無理だろう。

 

「最っ悪…!」

 

 悪態をつくレネ。そもそもレネは、まさかここまでバルバトスが粘るとは思っていなかった。それだけじゃなく、エアリアルや他の地球寮の2人、そして謎の仮面を被った助っ人も未だに健在な事は想定していない。流れが悪い。それはレネだけじゃなく、シャディクも思っている事だ。

 

(あーもう。できればあの作戦をやる前に何とかしたかったんだけどな…)

 

 そしてレネは、これからやるであろう新たな作戦を開始するべく行動する。しかし、正直あの作戦はあまりやりたくない。だってかなり卑怯な作戦になるからだ。今だって結構卑怯とも言える作戦を取っているが、それでもまだいつぞやのジェタークよりマシだ。

 けれど、これからやる作戦はあのジェタークより酷い作戦になる。ハッキリ言って、誇りも名誉もあったもんじゃない。

 

(でも、正々堂々やって勝てたら苦労なんてしないっての)

 

 しかし、そんな安い物に縛られていたら、勝てる勝負も勝てなくなる。レネはそういった現実を、幼い頃に既に知っている。勝負に勝つためには、時には手段を選ばずに何だってしないとダメなのだ。それは決闘だけじゃない。企業に所属しているのなら、誰だっていつかは直面する事だ。

 

(ま、勝ったら少しは慰めてあげよ)

 

 あまり褒められた作戦では無いが、それで勝ったら少しは三日月を慰めてやろうとレネは思った。因みに、あーんまでなら許すつもりである。

 

「そんじゃ、作戦開始」

 

 そしてレネは、シャディクの考えた新たな作戦を開始する。

 

 

 

 

 

「よし、これで何とか包囲網に穴をあける事が出来た」

 

 一方、三日月は奪ったビームガトリングを撃ち尽くして、それをその辺に捨ててから、ビルから降りていた。あのままなんの遮蔽物の無いあそこにいれば、またエナオに狙撃されかねないからだ。

 

(トマトの人に感謝だな)

 

 ミオリネの作戦通りにした結果、包囲網に穴を開ける事が出来、レネ達もバラバラになっている。後はこのまま、遮蔽物を利用しながら各個撃破して、スレッタと合流するべきだろう。

 

『油断しないで三日月。またエナオの狙撃がくるかもしれないんだから。兎に角、す…移動を……』

 

「?…どうかした?」

 

 再びミオリネから通信が入ったと思ったが、様子が変だ。どうも、通信が聞こえ辛い。

 

『み…!!よく……え…!!どう…の…!?』

 

 それはそのまま続き、ミオリネの声は直ぐに聞こえなくなってしまった。三日月はスーツの通信機のチャンネルを弄り、スレッタや昭弘にも通信してみるが、全く応答はない。

 

「通信、が出来ない…?」

 

 突然、通信が出来なくなってしまった。これはちょっとマズイ状況だ。仲間との通信が出来ないとなれば、連携する事が出来ないし、相手の情報を共有する事も出来ない。現代戦において、それだけ通信というのは大事なのだ。しかし、不穏な事はこれだけで終わらない。

 

「は?」

 

 突然、天井に設置されている換気用のダクトから、煙が出てきたのだ。それはあっという間に決闘場内に充満し、視界が失われて行く。正確には視界が非常に悪くなっているだけなのだが、遠くがほぼ見えない。目測で、200メートル程しか見えない。これでは、狙撃手がどこに潜んでいるか全くわからない。

 

(なんだこれ…)

 

 まさかこのタイミングで空調ダクトの不調があった訳でもあるまい。これは十中八九、グラスレー側の作戦だろう。現にグエルとジュリエッタと決闘した際も、スプリンクラーから水が突然出てくるといった事態があったし。

 

「っ!?」

 

 その時、バルバトス目掛けてビーム攻撃がやってきた。三日月はバルバトスを操作し、直ぐに遮蔽物に隠れるが、今度はその後ろからビーム攻撃。とっさに避ける事に成功はしたが、三日月はこの攻撃に違和感を覚える。

 

 狙いが正確すぎるのだ。

 

 こういった視界がかなり悪い状況での攻撃は、大体その辺に相手がいるといった前提で攻撃をする。しかし相手が見えていないので、当然狙いは雑になる。

攻撃をする。しかし相手が見えていないので、当然狙いは雑になる。

 だが、今の攻撃はかなり正確だ。もし三日月が避けなかったら、被弾していただろう

 

「まさか、向こうはこっちの事が見えてる?」

 

 ありえない話じゃない。この煙もグラスレーの作戦であれば、煙の中でも相手が見えるように手を打つ筈。そうしないと、自分達もよく見えない状態で戦う事になる。態々、相手と同じ条件で戦うなんてしないだろう。

 

「一難去ってまた一難って、こういう事なのかな?」

 

 三日月はそうぼやきながら、またやってきたビーム攻撃を避けるのだった。

 

 

 

 

 管制室

 

「何なのよこれは!!」

 

 地球寮が使用している管制室では、ミオリネの怒号が響いている。現在、決闘場内は突然充満した煙のせいで視界がかなり悪い。

 おまけに突然の通信不良。こんなのどう考えても、シャディクが何かやったとしか思えない。

 

「あいつら、マジで手段選ばずに勝ちに来てんだな…」

 

「そんな事言ってる場合じゃないだろ。これマズイって」

 

 ヌーノにアリヤが突っ込みを入れる。なんせ今、決闘場内の地球寮の4人は視界不良の中戦っている。通信も出来ないおかげで、連携も何もない状態だ。

 特に昭弘とチュチュがマズイ。あの2人は、スレッタと三日月程の練度が無い。このままでは、サビーナ相手に負けるのも時間の問題だ。

 幸いなのは、2人がいる場所はそこまで煙が充満しておらず、視界がもの凄く悪い訳じゃないので、サビーナの攻撃を避けやすいというところだろう。だが、それもいつまで続くかわからない。

 

「こんなの!もうただの戦争じゃない!!」

 

 確かに、アスティカシアでの決闘はそこまで細かくルール設定をされている訳じゃない。なんせ、主なルールは3つくらいしかないのだ。

 しかし、これは明らかに度が過ぎている。本当に何でもありの状態だ。ただでさえグラスレーは20機ものモビルスーツを用意して決闘をしているというのに、そこに突然の通信不良と視界不良。相手の視界と耳を奪い、そこを攻撃する。こんなやり方、最早戦争だ。とても決闘とは言えない。

 

「ど、ど、ど、どうしよう!!これじゃ本当に負けちゃう…!」

 

「マルタン落ち着いてって!!」

 

 ややパニック気味のマルタンを、ニカが落ち着かせる。

 

「ちょっと皆!ここで待ってて!!」

 

「え!?ミオリネさんどこ行くの!?」

 

 そんな中、ミオリネが突然ドアに向かって歩き出す。

 

「前にグエルとの決闘でも似た様な事があったでしょ!?だからまたモビルクラフト使って、最低でもこの煙は排気してくる!!」

 

 通信の方は現状どうにもなりそうにないが、煙なら換気システムを弄れば解決だ。そもそもミオリネは、以前似たような事をしている。なので今回もそうしようとしたのだが、

 

「…あれ?」

 

「どうかしたの、ミオリネさん?」

 

「開かない」

 

「え?」

 

「ドアが開かない!!」

 

 なんと、管制室のドアが開かなくなっているのだ。叩こうが蹴ろうが、全く開く気配がない。

 

「な、何で!?何かのトラブル!?」

 

「こんなタイミングの良いトラブルがある訳ねーだろ。多分、グラスレーが何かしたんじゃねーのか?」

 

 マルタンの台詞にヌーノが答える。だってあまりにタイミングが良すぎる。ほぼ間違いなく、シャディクがここにも何かをしたのだろう。

 

「シャディク…!あんた本当に手段を選んでないわね…!!」

 

 自分達を管制室から出させない真似までするなんて、本当に手段を選んでいない。戦争で言えば、援軍の足止めをしたようなものだ。ますます戦争じみてきた。誇りも何もあったもんじゃない。

 しかし、このままでは本当にマズイ。決闘に参加している4人は、未だに視界と耳を塞がれて戦っているような状態。これでは本当に負けてしまう。

 

「アリヤ!ちょっとそこどいて!」

 

「え?あ、うん」

 

 すると突然、ニカが手に持っていた端末を、管制室の端末にケーブルでつないで、何かの操作を始めた。

 

「ニカ、何するつもり?」

 

「遠隔で換気ダクトをハッキングできないか、もしくはそこの扉を開けれないかやってみる!ハッカーの真似なんてやった事ないけど、このまま何もしないよりマシ!!」

 

 どうやらニカは、ハッキングをしてこの状況を打破しようとしているみたいだ。ニカの強みはモビルスーツの機体整備なのだが、一応こういった事もできる。尤も、一応出来るという範囲なので、これが成功するかどうかはわからないが。

 

「手伝うぞー」

 

「私も手伝う」

 

「ありがとう!」

 

 だがニカの言う通り、このまま座して待つなんて出来ない。何もしなければ負けるだけなのだから。ヌーノとアリヤもそう思い、直ぐにニカの手伝いをする。

 

(皆、なんとかそれまで耐えて…!)

 

 そしてミオリネは、煙でほぼ何も映っていないモニターを見ながら、4人の安否を願うのだった。

 

 

 

 

 

 アリアンロッド寮 寮長室

 

「おのれグラスレーめ!なんと卑劣な!!」

 

 同じ頃、アリアンロッド寮の寮長室では、寮長のイオクが握りこぶしを作っていた。彼は騎士道精神に似た信念を持っている。そんな彼からみれば、こんなやり方は卑劣で許す事など出来ないのだ。

 確かにイオクも、三日月との決闘でモビルスーツを相手より多く揃えて闘っていたが、それはあくまで決闘前に決めたからである。このように決闘中にやるなんて真似を、イオクは決してしない。

 

「こうなれば、今すぐ決闘委員会に抗議に行く!!このような卑怯な行い、許せるものか!!」

 

「落ち着きなって寮長」

 

 決闘委員会に抗議に行こうとしたイオクを止めたのは、1人の女生徒。その名を、ヤマジン・トーカ。アリアンロッド寮所属のメカニック科2年生であり、ジュリエッタの友達だ。

 

「ここで下手に私達が表立って地球寮を擁護するような真似をしたら、これまでの苦労が全部水の泡になっちゃうよ?それにもし地球寮に協力していた事がバレたら、うちの寮が割れかねない」

 

「うぐっ!?」

 

 そして今回、ジュリエッタが正体を隠して決闘に参加しているのを知っている数少ない生徒でもある。

 彼女の言う通り、今ここで決闘委員会に抗議するのは悪手だ。下手をすると、本当にアリアンロッド寮が割れかねない。そうなってしまえば、再び寮が一致団結できるようになるには、相当な時間がかかってしまう。出来ればそれは避けたい。

 

「寮長がこういった手段を好きじゃないのはわかるけど、ここで感情的になるのはダメだって。今は耐えておく時間だと、私は思うな」

 

 イオクの誰かを助けるという精神は立派だが、ここは耐えるべき場面。仮に抗議するにしても、それはもう少し後にしておかないといけない。

 

「ならば、こっそりとやれば問題はないな?」

 

「はい?」

 

 しかしイオク、何か妙案を思いついたような顔をし、部屋にあったクローゼットを開ける。そこには、妙な物があった。

 

「えっと寮長、それは?」

 

「去年のハロウィンで使ったものだ。これなら大丈夫だろう」

 

「いやいやいや。それで顔を隠して決闘委員会ラウンジに行くとかダメだって。通報もんだよ」

 

 どうもイオク、何かで正体を隠して抗議にいくようだ。しかし、こんな物で外を歩いたら絶対に通報される。最悪、フロント管理社が出てくるかもしれない。

 

「いや、これでラウンジには行かんぞ?」

 

「……はい?」

 

「ふふふ、もっと良い作戦を思いついた」

 

 だがどうやら、イオクは全く別の考えを持っているようだった。

 

 

 

 

 

 その頃、決闘場内でヴィダールは苦戦を強いられていた。

 

「くっ!!視界が…!!」

 

 突然の通信不良と、この煙。まず間違いなく、グラスレーの作戦だろう。おかげでヴィダールは、メイジーを見失ってしまった。

 

(明らかに向こうは、こっちが見えている!一体どうやって!?)

 

 どんな手段を使っているかはわからないが、メイジーはこっちがバッチリ見えているようだ。向こうは見えていて、こっちは見えていない。

 こんな不利な状況で未だにヴィダールが生き残っているのは、彼女の戦闘センスと、新型機であるレギンレイズプロトのおかげだろう。これがもしただのレギンレイズだったら、とっくに負けている。

 

(どうにかしなければ…でも、どうすれば…)

 

 このままではマズイ。何か打開策を考えないといけないが、それが思いつかない。

 

(とりあえず、今は距離を取りましょう…)

 

 考えた結果ヴィダールは、1度この場から離れる事にした。このままここにいても何も出きそうにない。だから先ず距離を取る。

 そしてヴィダールは、レギンレイズプロトをジグザグに動かして、距離を取る。不規則な動きをすれば、簡単に攻撃を当てられないと思ったからだ。

 

 しかし、

 

「ぐっ!?」

 

 突然目の前にベギルペンデがビームサーベルを振りかざしながら現れて、進路を塞がれた。ヴィダールも咄嗟にビームサーベルを出して防御できたので何とかなったが、これでは距離を取れない。

 

「もう1度…!!」

 

 再びヴィダールは距離を取るべく、レギンレイズプロトのスラスターを前に吹かして、ベギルペンデから離れる。

 そしてまたビルの間をジグザグに動き、ベギルペンデを迂回するような形で突破しようとした。

 

「またですか…!!」

 

 だが、それも再び現れたベギルペンデによって阻止される。

 

「ならばっ…!!」

 

 ヴィダールは目の前にあったビルに向かってビームライフルを乱射。その結果、破壊されたビルの瓦礫がベギルペンデに降り注ぐ。これで倒せるとは思っていないが、少しだけ足止めくらいは出来るだろう。

 

「え?」

 

 しかしその時、ヴィダールは見てしまった。破壊されたビルの中に、モビルスーツが1機いたのを。おまけにその周囲には、小型のドローン兵器のようなものが数機浮かんでいる。

 

「あれは、まさか…」

 

 それは頭部に大きなアンテナがあり、背中に円形の何かを装備しているハイングラだった。その装備に、ヴィダールは覚えがある。背中の円形の装備。あれは先ず間違いなく、通信妨害用機器とレーダーが一体化した装置だ。

 アリアンロッド社のグレイズにも、ああやって背中に大型のレーダーを装備している物がある。前線で高性能なレーダーがひとつでもあると、敵の居場所がよくわかるので大変重宝されるのだ。

 同時に敵のレーダーを電磁妨害で無力化し、相手のレーダーを使えなくしたり、通信機器を使用不可にする事ができる。こうするだけで、敵は一気に連携が取れなくなるのだ。

 

「そういう事ですか…!!」

 

 そしてヴィダールは、グラスレーがこちらの居場所を把握している理由をようやく理解した。要するに、向こうはレーダーでこっちの居場所を完璧に見つけているのだ。恐らくあのハイングラには、かなり高性能なレーダーを装備し、グラスレーのモビルスーツはその情報を共有しているのだろう。同時に、こちらの通信妨害もしているに違いない。

 そしてその周囲に浮かんでいるドローン兵器には、赤外線カメラを積んでいる可能性が高い。それがあればこの煙の中でも、相手の居場所がわかる。

 ならば、ヴィダールがする事は簡単だ。先ずメイジーより、あのハイングラを破壊しなければいい。そうすれば向こうもこちらの居場所が分からず、通信も出来なくなるかもしれない。

 

「ぐっ!?」

 

 しかし、そんな事をメイジーが許す訳がない。ヴィダールのレギンレイズプロトに肉薄し、その間にレーダーを装備したハイングラはその場を離れていく。

 

(まずい…!このままでは…!)

 

 ヴィダールがあのハイングラを見つけられたのは、本当に偶然だ。もしまたどこかに隠れられたら、この煙の中簡単に見つける事なんて出来ない。何としてでも、相手の姿が見えなくなる前に破壊しておかなければ。

 

(……)

 

 その時、ヴィダールにある作戦が浮かんだ。ハッキリ言って、賭けに近い作戦だ。おまけに成功したとしても、レギンレイズプロトは破壊され、その後はもう戦えなくなるかもしれない。つまりヴィダールはそこで脱落し、もうスレッタや三日月の援護には向かえない。

 

(いえ、それよりあれを逃がす事の方がマズイ…)

 

 だが、これ以上あのハイングラをのさばらせている方がマズイと判断。ならばここはやるべきだ。正直、メイジーがこちらの思惑に乗ってくるかわからない。逃げに徹されたら、この作戦は成功しない。

 でも、やらなくてはならない。

 

(先ずは、身軽になりましょう)

 

 そしてヴィダールは、レギンレイズプロトの軽量化を図るのだった。

 

 

 

(ん?)

 

 メイジーは、レギンレイズプロトが突然動きを止めた事に首を傾げる。この状況で、動きを止めるなんて不可解だ。なんせ高性能レーダーを装備したハイングラは、どんどん距離を取っている。早く破壊しないといけないと思っている筈なのに動きを止めたのだ。

 

(諦めたのかな?いやそれは無いかな?)

 

 諦めたかと思ったが、あのハイングラを放置している方が絶対にマズイ事はヴィダールも理解している筈。ならば一体何をするのか。

 そう思っていた時だ。

 

「え?」

 

 ヴィダールのレギンレイズプロトは、突然ビームライフルを投げ捨てた。同時に、腰についていたスラスターをパージする。

 そしてレギンレイズプロトは、右手にビームサーベルを持ち、左手に装備されているシールドを構えてたのだ。その姿は、まるで中世の騎士を思わせる。

 

「近接戦による一騎打ちって事?」

 

 どうやら、ヴィダールはビームサーベルを使った近接戦闘を望んでいるようだ。しかし、態々それに乗ってやる必要なんてない。メイジーは距離を取りながら、ビームライフルで頭を打ち抜いてやろうと思う。

 だが、

 

「なっ!?」

 

 突然、驚異的な加速でヴィダールのレギンレイズプロトが突っ込んできた。

 

(身軽になった分、早くなったって事!?そんな事ある!?いや理屈の上ではあるけどさぁ…!!)

 

 レギンレイズプロトには、背中に出力の高いスラスターが装備されている。これだけでも、十分な速度を出せるのだ。おかげで、メイジーのベギルペンデは押し負けている。そのままベギルペンデは、レギンレイズプロトに押し負けながら、空中に上がっていく。

 

「舐めないでって!!」

 

 しかし、メイジーもそう簡単にやられるようなパイロットでは無い。レギンレイズプロトを足で蹴り飛ばし、距離を取る。

 するとレギンレイズプロトは、再び突撃してきながら、左腕に装備されたシールドを投げてきた。

 

「おっと!」

 

 だがメイジー、それを簡単に避ける。同時にビームサーベルを取り出して、レギンレイズプロトの攻撃を防ぐ。

 

「あれ?」

 

 しかしその時、メイジーは異変に気が付く。レギンレイズプロトの肩から火花が出ている。それを見たメイジーは考えた。恐らくだが、今ので肩に負荷がかかったのだろうと。その結果、肩に故障ないし異変が出てしまったのだろうと。

 メイジーは知らない事だが、レギンレイズプロトはまた未完成だ。おまけにテスト運用をせずに、ぶっつけ本番でこんな決闘をしている。でもこんな事になるなんて誰も想定していなかったので、仕方が無い。

 

(ラッキー)

 

 そしてメイジーは、その隙を見逃すほど甘くはない。明らかに腕を振る速度が落ちているその隙に、メイジーはベギルペンデの左腕に装備されているシールドを、レギンレイズプロト目掛けて発射する。実はこのシールド、ミカエリスのビームブレイサーのように遠隔操作が出来るのだ。まさかシールドが飛んでくるとは思わず、レギンレイズプロトは避けきれずに正面から受けてしまう。これで向こうは、攻撃が出来ない。

 その瞬間、メイジーはベギルペンデを真っすぐに突っ込ませ、ビームサーベルでレギンレイズプロトのブレードアンテナを切り落とした。

 

「いやー、そっちのモビルスーツが整備不良だった事に助けられちゃったよー。運が良かったー。もし整備不良が無かったら、負けていたのは私だったかもね」

 

 相手に通信は出来ないが、この距離なら機体のスピーカーでこっちの声が聞こえるはずだ。なのでメイジーは、やや嫌味っぽく勝利宣言をする。

 というのも、ヴィダールの人形発言にかなり腹が立っていたからだ。何も知らないくせに、あんな事言われるのは腹が立つ。なのでお返しとばかりに、こんな真似をした。

 

『いいえ、勝ったのはこちらです』

 

「はい?」

 

 しかし、レギンレイズプロトから聞こえてきたのは、まさかの勝利宣言。意味が解らない。どう見ても勝ったのはこっちだ。負け惜しみなのかとメイジーが思っていた時、異変に気が付く。

 

(あれ?何で今、普通に通信機から声が聞こえてきたの?)

 

 今、ヴィダールの声が通信機を通して聞こえてきた。例のハイングラが通信妨害をしているおかげで、地球寮は通信が出来ない筈だ。なのに聞こえる。どうもおかしい。

 

「……まさかっ!!」

 

 メイジーは直ぐに、ベギルペンデを方向転換させる。そして見つけた。先程レギンレイズプロトがぶん投げたシールドで、頭部を破壊されているハイングラを。その周りには、浮かんでいたドローン兵器が落ちている。

 

「あー、これはしてやられちゃったなー…」

 

 レーダーを装備したハイングラがやられた事で、自動的に通信妨害が解除されたのだ。これで地球寮は、少なくとも耳は回復できた。

 そして同時に、グラスレーも視界を奪われてしまった。これでお互い、条件はイーブンだ。

 

『肉を切らせて骨を断つでしたっけ?そちらが私を倒す事を優先してくれて助かりました。ありがとうございます』

 

「……どーも」

 

 今度はヴィダールが嫌味っぽく言ってくる。結構ムカツクが、メイジーは直ぐに切り替える。確かにこれで通信は回復したが、まだ視界は悪い。おまけにヴィダールを倒す事が出来た。これでメイジーは、シャディクの援護に向かえる。

 

(うん、まだ負けていないし、大丈夫大丈夫)

 

 そしてメイジーは、何も言わずにシャディクと合流をするべく移動するのだった。

 

(あーでも、やっぱりまだちょっとムカツクなー)

 

 けどやはり、最後にヴィダールにしてやられた事がムカついていた。この決闘が終わったら、またヴィダールと決闘をしてもいいかもと思いながら、メイジーは移動する。

 

(ここまでですか…できれば彼女も倒しておきたかったですが、仕方ありません)

 

 そして脱落したヴィダールことジュリエッタは、コックピット内で一息つく。出来ればメイジーも倒して相手の戦力を削いでおきたかったが、あの場では先ず通信妨害を回復するほうが優先だった。もしレギンレイズプロトが100%完成していればまた違ったかもしれないが、今更そう思っても仕方が無い。

 

(あれ?煙が少し晴れてる…?)

 

 ふと決闘場内を見ると、充満していた煙が、少しだけ晴れていた。

 

 

 

 

 

「これは…」

 

『煙が、晴れてきている?』

 

 サビーナを相手にしている昭弘とチュチュは、決闘場内に充満していた煙が晴れてきているのを確認した。

 

 『全員聞こえる!?』

 

 それと同時に、ミオリネからの通信が入る。

 

『今こっちでニカ達が換気ダクトシステムをハッキングして、何とか煙を換気してる!ついでにヴィダールが通信妨害の元を叩いてくれたおかげで通信も回復したわ!これで何とかして!!』

 

『わかった』

 

『わかりました!!』

 

 ミオリネの言葉に、三日月とスレッタが返事をする。やはりと言うべきか、あの突然の煙はグラスレーの作戦だったらしい。

 そしてそれを、ニカ達が何とかしてくれたようだ。おかげで、結構周りが見えるようになっている。

 

「ぐっ!?」

 

 しかし、それだけでサビーナの攻撃が緩くなる事など無い。むしろ攻撃は、より激しさを増している。

 

「くそ!何とかしねぇといけねーってのに!!」

 

 昭弘は焦る。自分でこっちは任せろと言ったのだ。なのに、未だにサビーナは健在。このままでは、何もできずに負けてしまうかもしれない。通信が出来なくなり、煙で視界が見えなくなってからチュチュと共に回避に専念していたおかげで、今もまだ負けてはいないが、勝ってもない。

 

(ん?まてよ…この位置は…)

 

 その時、昭弘はマップを見てある事に気が付く。そして閃いた。もしかすると、サビーナを倒せるかもしれない。

 

「チュチュ、作戦がある」

 

『あ?何だよ?』

 

 プライベートチャンネルで、昭弘はチュチュに作戦を聞かせる。

 

『おい、それいいのか?だってそれじゃ…』

 

「もうこうでもしねーと、あいつは倒せない!頼む!ここは俺に従ってくれ!!」

 

『……だーもう!わぁーったよ!やってやる!!』

 

「すまん!恩に着る!」

 

 昭弘の作戦を聞いたチュチュは、渋々だがその作戦に同意。そして直ぐに行動を起こす。

 

 先ず、2人はそれぞれ2手に別れる。チュチュはサビーナから距離を取り、昭弘は逆にサビーナに接近。

 

「おおおおおおお!!!」

 

『同じ手を何度も…!!』

 

 またイノシシのように突っ込んで来る昭弘のグレイズ改に対して、サビーナはシールドで防御をする。同時に、周囲に対する警戒も怠らない。ここでチュチュのデミトレーナー改が、ビーム攻撃をしてくるかもしれない。だから周囲を警戒しているのだが、その攻撃が来ない。もしかすると、移動に手間取っているのかもしれない。

 

「まだまだぁぁ!!」

 

 そんな時でも、昭弘はバトルアックスでの攻撃を続ける。

 

『それはもう通用せんぞ!!』

 

 だが、流石にサビーナに見極められる。サビーナは至近距離でビームライフルを発射。そしてそれは昭弘のグレイズ改のバトルアックスに命中し、破壊されてしまう。これで昭弘は近接武器を失った。だが、これで終わらない。

 

「まだだぁぁぁーー!!」

 

 何と昭弘は、サビーナのベギルペンデを掴んだ状態で、グレイズ改の拳を使って殴り出したのだ。あまり大したダメージは与えられないが、これでサビーナは簡単には離れられない。

 

(こいつ…!脳みそまで筋肉みたいな戦い方を…!)

 

 こんな戦い方、少なくともグラスレーにはいない。近いスタイルがいるとすればグエルだが、それでもここまで猪突猛進じゃない。

 だがそれも直ぐに終わらせる。サビーナはベギルペンデのビームライフルの照準を、昭弘のグレイズ改の頭に狙いを定める。この距離なら絶対に外さない。これでもう終わりだ。

 

(今だ!!)

 

 しかし、そうはならなかった。それを見た瞬間、昭弘はグレイズ改のスラスターを全開で吹かした。周りにあるビルにぶつかったりして、2機は真っすぐに飛んでいく。

 

『ぐっ!?往生際の悪い…!!』

 

 そのまま2機は、とある広場までやってきた。それは、最初に三日月のバルバトスが戦っていた広場だ。

 

『いいかげん、離せ!!』

 

 スラスターの火が小さくなると同時に、サビーナはベギルペンデでグレイズ改を蹴り飛ばし、無理やり引き離す。引き離されたグレイズ改を見ると、もう色々ボロボロだ。今もまるで千鳥足のようにフラフラとしている。

 

(ん?あれは…)

 

 その時、サビーナは見つけた。煙のせいでまだはっきりとは見えていないが、グレイズ改の後ろにあるビルの中から、チュチュのデミトレーナー改のビームライフルの砲身が見えているのを。

 

(成程。エナオがやった事の真似事をしているのか)

 

 大方、こちらの作戦を真似たのだろう。しかし、隠ぺいが下手だ。あれでは意味がない。撃たれる場所さえわかっていれば、いくらでも対策が出来る。

 

(甘すぎる)

 

 サビーナは直ぐに、ビームライフルの射線からズレて、そのままグレイズ改に狙いを定める。

しかし、撃つ事が出来なかった。ここはグラスレーのパイロット科の生徒達がバルバトスに破壊されたハイングラと共にまだいるからだ。流石にここでビームライフルを使う訳にはいかない。

 

(ならばこっちだ)

 

 サビーナはビームライフルを背中に収納し、代わりにビームサーベルを装備。そしてグレイズ改目掛けて一気に接近。

 

(多少時間は掛かったが、これで終わりだ)

 

 流石にあの状態ではもう避けられない。グレイズ改を撃破したら、次はチュチュのデミトレーナー改だ。

 しかし、ここでまさかの事態が起こる。

 

「くらいやがれぇぇぇぇ!!」

 

『!?』

 

 何と昭弘のグレイズ改が、地面にあった何かを掴んで、それをサビーナに向けたのだ。それはまるで獣のように大きく口を開き、サビーナのベギルペンデに食らいついた。

 

『それは、バルバトスの…!!』

 

 その獣の正体は、バルバトスが使っていたレンチメイス。昭弘は先程、自分達が最初バルバトスが戦っていた場所に近い事を知り、そしてそこにまだレンチメイスがあるのをマップで確認。それを知った昭弘は、そこへサビーナを誘導し、こうして拘束するべく動いたのだ。

 

『だが狙いが甘かったな!!足を狙っても意味など無い!!』

 

 だが、昭弘がレンチメイスで掴んだ部分はベギルペンデの脚部。これでサビーナは動けなくなったが、まだ上半身は動く。

 そして残念ながら昭弘に、サビーナの攻撃を防ぐ手段はない。そのままサビーナは、ビームサーベルで昭弘のグレイズ改のブレードアンテナを切り裂いた。これで、昭弘は脱落だ。

 

 しかしその瞬間、

 

『待ってたぜクソスペーシアン!!』

 

『なっ!?』

 

 何と直ぐ隣のビルから、チュチュのデミトレーナー改が壁を突き破ってソードメイスを振りかざしながら現れたのだ。サビーナは直ぐにチュチュのデミトレーナー改目掛けてビームサーベルを振るう。

 しかし、とても間に合わない。チュチュはそのままソードメイスを振り下ろし、サビーナのベギルペンデの頭部を破壊した。つまりこれで、サビーナは脱落したのだ。

 

『よーし昭弘!おかげで皆の仇のクソスペーシアンをぶっ叩けたぜ!』

 

「ありがとよチュチュ」

 

『おいこらチュチュ!俺らは別に死んでねーぞ!』

 

『そうですよ!ちゃんと生きてますって!』

 

『うん。特に怪我も無いしね』

 

『うっせー!そんな事わかってるよ!言葉の綾ってやつだ!』

 

 チュチュの敵討ち宣言に、オジェロとリリッケとティルが抗議する。

 

『成程…あれは囮か…』

 

 サビーナは、自分が囮にまんまと引っかかった間抜けだと悟る。あのビルにあるのは、ビームライフルだけ。本体のデミトレーナー改は、2手に別れてからずっとそこに待機していたのだ。

 そして昭弘は自らを犠牲にし、サビーナの足止めをして、そこをチュチュが攻撃をしたのだ。

 

「そうだ。地球寮を舐めるな」

 

『これは言い訳できないな…』

 

 負けるつもりなんてなかったが、そんなの今更言ってもしょうがない。昭弘の言葉に、サビーナは何も言い返せない。

 

『んじゃ!あーしはスレッタの援護に行ってくる!』

 

「ああ、気を付けろよ」

 

 そしてチュチュは、ビルの置いたビームライフルを回収して、スレッタの援護に向かうのだった。

 

(すまん、シャディク。私はここまでだ…)

 

 サビーナはコックピット内で、無言でシャディクに謝罪をした。しかし、まだ自分以外にも腕利きは残っている。エアリアルの動きを止めるのであれば、残りのメンバーでも十分だろう。

 

 なんせベギルペンデには、対エアリアル用の秘密兵器を積んでいるのだから。

 

 

 

 

 

 (サビーナがやられたのか?)

 

 同じ頃、シャディクはかなり驚いていた。まさかサビーナがエアリアルやバルバトス以外に負けるとは思っていなかったからだ。

 

(いや、だがまだ大丈夫だ。エアリアルの動きを止めるには、ミカエリス、そしてベギルペンデが2機いれば事足りる。今ならいける筈だ)

 

 ヴィダールを倒したメイジーも合流し、エアリアルは3対1という不利な状況下で、より防戦一方になっている。稀にスウォーム兵器を使って反撃してくるが、狙いが雑だ。パイロットであるスレッタが疲れてきている証拠だろう。バルバトスを倒せていないのは残念だが、まだグラスレー有利は変わらない。

 

(しかし、まだ手を緩める訳にはいかない。空調管理室に連絡して、もっと煙を出してもらおう)

 

 だがここで慢心などしてはいけない。今回シャディクは、文字通りどんな手段を使ってでも勝ちに行っている。後で卑怯だとかズルイだとか言われようが知った事か。勝てばいくらでもおつりがくるのが、今回の決闘なのだ。そもそも決闘の相手は、エアリアルとバルバトス。この2機相手に正面から正々堂々挑むなんて、馬鹿のする事である。

 そしてシャディクは、端末を操作して空調管理室に連絡を入れる。既にレーダーと赤外線カメラ装備のドローンを装備していたハイングラは破壊されているが、この決闘の為にミカエリスとベギルペンデにも赤外線カメラを装備させている。これならば、向こうはこちらを見つけられず、こっちは相変わらず相手の居場所がわかる。

 

(ん?)

 

 しかし、ここでシャディクは異変に気が付く。

 

(おかしい…煙がどんどん晴れてきている…)

 

 空調管理室に連絡を入れたのに、何故か逆に煙が晴れていっているのだ。その時、シャディクに通信が入る。

 

『すみません寮長!なんか変なカボチャの被り物した不審者がモビルクラフトに乗って現れて、俺達をそこから追い出してしまいました…!』

 

「は?」

 

『もうこれ以上煙を出す事はできません!本当にすみません!』

 

 よくわからないが、どうやらこれ以上空調を操作する事は出来ないらしい。後にシャディク自ら聞いた話によると、頭にジャックオーランタンのマスクを被った全身ジャージの不審者が突然モビルクラフトに乗って現れて、『我こそは正義の仮面!マフティーである!!』とか言って空調管理室を占領していたグラスレーの生徒達を追い出したらしい。

 その話を聞いたシャディクは、背景に宇宙を背負ってしまった。だってそれだけ意味が解らないからだ。

 

「ま、でもいいか。ご苦労様。後はこっちでやる」

 

『はい!ご武運を!』

 

 ちょっと不安は残るが、仕方が無い。既に十分に相手を疲弊させる事が出来た。エアリアルはずっと防戦一方で疲れているし、レネが率いる他のモビルスーツ部隊によって、バルバトスも疲弊している。今ならいける。

 

「イリーシャ、メイジー、やるぞ」

 

『了解』

 

『了解♪』

 

 そしてシャディクは、ミカエリスの右腕に装備されているビームブレイザーをエアリアルに向ける。それと同時に、エアリアルを左右から囲んでいるイリーシャとメイジーのベギルペンデも、シールドをエアリアルに向けた。

 

「アンチドート、起動」

 

 シャディクの号令と共に、ミカエリスのビームブレイザーと、ベギルペンデのシールドから何かのエネルギー派のようなものが発射される。それはエアリアル目掛けて円形状に進み、エアリアルとガンビットであるエスカッシャンを飲み込む。

 

『え?』

 

 スレッタの困惑した声と共に、エスカッシャンとその機能を突然停止させた。同時に、エアリアルもそれまで発揮していた機動力を失い、その場に座り込むように倒れてしまう。

 

『皆!?どうしたの!?え?動けなくなった?どうして!?』

 

 突然の出来事に、スレッタは困惑。誰に話しているか知らないが、その声はかなり焦っているように聞こえる。

 

『私1人で?そんな、無理だよ…!?』

 

 そしてそんな困惑しているスレッタのエアリアルに、シャディク達は狙いを定め、一斉に攻撃を開始。

 

『うわっ!?』

 

 エアリアルは、その攻撃を避ける事が出来ずに被弾してしまう。明らかに動きが悪い。まるで、素人がモビルスーツを動かしているみたいな動きだ。

 

「GUNDフォーマットが無ければその程度か。残念だよ、水星ちゃん」

 

 先程シャディク達が使用したのは、アンチドート。この兵器を簡単に説明すると、対GUNDフォーマット兵器である。特殊な電磁波を発生させ、それを受けたGUNDフォーマットはその機能を停止してしまう。全身GUNDフォーマットで出来ているエアリアルにとって、これ程特攻が入る

兵器は無いだろう。

 

「これで終わりだ」

 

 そして動きがとても鈍くなったエアリアルに、シャディクはミカエリスで接近する。ビームブレイサーを振りかざし、エアリアルの頭部に狙いを定める。

 

『シャディク!!避けて!!』

 

「!?」

 

 だがその寸前で、イリーシャの声が聞こえたと同時にシャディクは後方へ飛ぶ。そしてシャディクのミカエリスがいた場所に、ビーム攻撃が降ってきた。

 

「そうか。遂にここまで来たんだね」

 

 上空より、白いモビルスーツが降ってきた。それはエアリアルを背にして、無事を確かめる。

 

『スレッタ、大丈夫?』

 

『み、三日月ぃ…』

 

 両手にツインメイス。右腕にビーム砲。エアリアルより少し大きく、やや凶悪な顔つきのモビルスーツ。

 

「三日月・オーガス」

 

 スレッタの幼馴染の三日月が乗る、この世に1機しか存在しない伝説のモビルスーツ、ガンダムフレームバルバトスルプスが、遂にエアリアルと合流し、シャディクの前に立ちふさがったのだ。

 

 

 

 

 




 ヴィダールとサビーナ、そして昭弘が脱落。そして以下、読まなくてもいい言い訳。(少し追記)

 通信妨害について
 水星世界は、パーメットを使った通信機がある。それを使えなくする為、パーメット関係の妨害電波みたいなものをハイングラが発信。
 しかし、バルバトスは非パーメット兵器。なのにどうして通信が出来なくなったかの理由を考えたけど、三日月が着ているパイロットスーツの通信機には普通にパーメットを使用しているので、それが通信妨害されたせいって事でどうかおねがいします。

 最初はレーダーそのものが使えなくなるみたいな展開にしようとしたんですが、そもそも水世界ってそういうレーダーあるのか?って事になって調べてみました。
 結果、ボブがつかまっていた時にそれっぽいのがあるのを見つけた。でもパーメットってあらゆる器材とかに使われているらしいので、もしそれで地球寮の皆のモビルスーツのレーダーや通信機が使えなくなったら、非パーメットモビルスーツであるバルバトスに矛盾が生じかねない。
 更に、そもそもモビルスーツに現実世界の戦闘機のようなレーダーがあるなら、フォルドの夜明けがキャンプを襲撃された時、建物に隠れていても見つかる筈なんじゃないの?とかの疑問も思いました。

 で、色々考えた結果『もうその辺の事無視しよ。じゃねーと書けないわ』となりました。要は『こまけぇこたぁいいんだよ』です。ガンダムファンの皆様、ごめんなさい。

 いやガンダムって本当に細かい設定多くて大変ですね。2次創作するのが難しいのを、身をもって知りました。安易に手を出したらいけないかもしれない。
 そして本作は、矛盾が生じない程度に作者が書きやすいように書かせていただきます。じゃないと一生完結できないので。
 因みにアンチドートについては、細かい設定が見つからなかったので勝手に書きました。ご了承ください。

 ですがどこかで明らかな矛盾があったり、おかしなところがあった場合は遠慮なく言って下さい。その都度修正いたしますので。

 あとVSグラスレーは、あと1話か2話くらいの予定です。長いですが、もう少しお付き合いくださいませ。
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