悪魔と魔女の物語   作:ゾキラファス

31 / 46
 新年、明けましておめでとうございます。今年も不定期更新になるでしょうが、何卒宜しくお願い致します。

 今年中に、ノレア襲撃くらいまでは行きたいと思う所存。

 追記。皆様のおかげで、総合18位、二次13位のランキングに乗りました。本当にありがとうございます!それと、誤字報告も感謝です!


精励恪勤

 

 

 

 

 

 地球寮

 

「……」

 

 地球寮の談話室では、ニカがずっとソワソワした状態で、室内を行ったり来たりしていた。

 

「ニカ姉、少しは落ち着けって」

 

「わ、わかってるよチュチュ!私はちゃんと落ち着いているし!」

 

「いやそうは見えねぇって。あとそれ、午後だけでも3回は聞いた台詞だぞ」

 

 ややげんなりした顔で、チュチュがニカを落ち着かせようとする。昨日の夜、ミオリネから三日月の退院が今朝だと地球寮の皆は知ったのだが、それを聞いたニカはずっとこんな調子なのだ。授業もどこか上の空で、昼食の時も『食欲が無い』と言ってあまり食べていない。更に今日行われたモビルスーツの授業でも、何時もならしないであろうミスをして、チュチュと昭弘を困らせてしまっている。

 

「あいつ、マジでどうしたんだ?」

 

「さぁ?」

 

 オジェロとヌーノは、何時もと違うニカの行動に疑問符を浮かべる。それなりに長い付き合いがあるが、こんなニカは初めて見るからだ。

 

「まぁ、三日月くんが心配だったってだけだと思うよ?同じ地球寮の仲間なんだし」

 

「だとしても、ソワソワしすぎな気もするがな」

 

「だね」

 

 マルタンはそう言うが、それにしてもソワソワしすぎである。昭弘もティルも、あれだけ血を流していた三日月が退院する事は嬉しい。でも、ニカみたいにソワソワする事は無い。

 

「これって、ひょっとするとひょっとするかも?」

 

「うーーん。かもしれないけど、どうだろう?」

 

 そんなニカを見ていたリリッケが、乙女思考を使ってある事を考える。一方アリヤもリリッケと同じ事を考えるが、そんな事があるのかとやや疑問に感じていた。

 でももし2人が思っているような事だとしたら、多分ひと悶着あるだろう。

 

(私、どんな顔して会えばいんだろう…)

 

 そして当のニカ本人は、三日月に会うのが気まずくて仕方が無いのが真相である。先日の決闘で三日月があんな風になったのは、ニカがシャディクにバルバトスの情報を渡したのが原因だ。その結果三日月はバルバトスと何かをして、決闘に勝利した。

 しかし代償に、三日月は入院してしまっている。こんなの、どう考えても自分の責任でしかない。そんな戦犯とも言える自分が、どんな顔して三日月に会えばいいのかわからない。

 

(いっそ全部話して…ダメ、そんな事したらもうここにいられなくなるし、それで地球に送り返されたら、碌な目に合わない…)

 

 自分の秘密やしでかした事を全部話してしまえば、どれだけ楽になるだろう。でも、それだけは出来ない。もしそんな事をしてしまえば、ニカには碌な運命が待っていないだろう。

 

「にしても遅ぇな三日月達。もうとっくに病院は出たんだろ?」

 

「確かに遅いな。シン・セーの人は放課後直ぐに来たのに」

 

 チュチュと昭弘の言う通り、3人が帰ってくるのが遅い。授業が終わった後、シン・セーの人間が直ぐに来て、エアリアルとバルバトスを持って行くという事はあったが、三日月とスレッタとミオリネが未だに帰ってこない。昼休み直後にミオリネから『既に病院は出た』というメッセージは受け取っているが、それでも遅い。

 

(なんか、トラブルがあったりすんのかな?)

 

 未だに帰ってこない三日月達を、チュチュは少しだけ心配する。既にチュチュも、スレッタと三日月は地球寮の仲間であり、友達だと思っている。そんな仲間が帰ってこない。心配になってしまうのも、無理は無いだろう。尚、ミオリネの事はギリギリで仲間と思っている認識だ。

 そして実はチュチュが思った通り、3人はちょっとだけトラブルに巻き込まれていたのである。と言っても、本当に大した事は無い。ただ出航予定だったシャトルが、エンジントラブルで出航が遅れただけというものである。

 無論、その事をしっかり地球寮に報告しようとはした。報連相は大事。

 

『あ、電池切れちゃった…』

 

『俺もだ』

 

『何でよ!?こんな事ある!?』

 

 だが乗っていた3人の端末が、ほぼ同時に電池切れを起こしてしまったので、誰もその事を連絡できないでいたのだ。ずっと三日月に付きっ切りだったせいで、充電するのをうっかり忘れてしまっていた。本当にただ、ついてないだけの些細なトラブルである。

 

「チュチュ、もしかして心配してんのか?」

 

「……少しだけ」

 

「変わったなお前。以前なら、スペーシアン何て全員死に腐れくらいの感覚だったろ」

 

「あいつらが他のスペーシアンと違う事くらい、あーしだってわかってるって事だよ」

 

「ふ、そうか」

 

「おい昭弘、何だその顔は」

 

 少し前と違い、丸くなったチュチュを昭弘は少しだけ兄目線で感動する。地球寮の狂犬なんて言われていたチュチュが、スペーシアンである3人を心配する。もしこの事をチュチュの両親や家族が見たら、絶対に涙するだろう。

 

 そう思っていると談話室の扉が開いて、誰かが入ってきた。

 

「皆さん、戻りました」

 

「戻ったわよ」

 

「ただいま」

 

『三日月!?』

 

 決闘から2日後。遂に三日月はスレッタとミオリネと共に学園に戻ってきたのである。だが、その姿は以前と少し違う。

 

「お前、どうしたんだよその腕!?」

 

「ちょっとね」

 

 オジェロが驚くのも無理は無い。三日月の右腕には、ギプスのような物が付けられているからだ。やはりというべきか、五体満足という訳では無かったようである。

 

「三日月くん!?腕、大丈夫なの!?」

 

「別に折れている訳じゃないから大丈夫だよ。これは念の為にこうしてるってだけのカモフラージュだし」

 

「念のため?カモフラージュ?」

 

 ニカがかなり心配そうな顔で三日月の腕について尋ねる。今までどんな顔して会えばいいかなどと考えていたが、三日月を見た瞬間、そんな心配より三日月自身の事が心配になってしまったのだ。ニカはもし三日月の腕が一生治らないような状態になっていたら、どんな償いでもするつもりであった。

 しかし、三日月の腕はどうやら折れた訳ではないらしい。その言葉を聞いて、地球寮の皆はやや困惑。腕が折れている訳じゃないのなら、その腕のギプスは何なのか。

 

「皆、大事な話があるわ」

 

 そんな困惑している地球寮の皆に、ミオリネが話しかける。

 

「遅くなったけど、先ずはお疲れ様。先日の決闘で勝利したから、これで株式会社ガンダムは正式に起業する事が可能となったわ。ありがとう」

 

 決闘の後、三日月があんな事になってしまったので、ミオリネは地球寮の皆を労う事も出来なかった。なので先ずは、感謝の言葉と共に皆を労う。

 あの決闘は、スレッタと三日月だけでは絶対に勝てなかった。この場にいる全員がいないければ、勝利は無理だっただろう。だからミオリネは、しっかりと皆を労う。

 

「すげぇ…あのクソスペわがままお嬢様が感謝してやがる…」

 

 ミオリネがありがとうと言った事に、チュチュは心底驚く。そもそもこの株式会社ガンダムは、ミオリネが地球寮の皆を強引に巻き込んで作った会社だ。それもこちらの意見なんてほぼ聞かずに。

 なのに今では、こうして感謝の言葉を口にしている。実は顔が同じ双子なのではとさえ、チュチュは思っていた。

 

 そしてミオリネがこうするのは、これから会社を起業するにあたって、もっとちゃんと社員を労らっておかないと、途中で誰もついてこなくなると思ったからだ。

 株式会社ガンダムは、社員10人程の小さい会社。そんな会社がこれから先、もっと忙しくなる。零細企業であり、その上社員を大切にしないとなれば、いずれは皆離れて行ってしまうだろう。

 だからミオリネは、普段であれば口にしないであろう感謝の言葉さえ口にする。

 

「ま、まぁ…あーしは別に大した活躍してねぇし…そんな事言わなくても…」

 

「いや、チュチュはちゃんと頑張ってたでしょ。チュチュが昭弘と一緒にあの何とかって人倒してくれたから、俺もスレッタの援護に向かえたんだし」

 

「そ、そうか…?」

 

「うん」

 

 三日月の言う通り、もしチュチュと昭弘がサビーナを倒してくれなければ、勝利は難しかったかもしれない。だから三日月も、素直にチュチュを褒める。

 

「もしかしてチュチュ、照れてる?」

 

「て、照れてねーし!!」

 

 アリヤがチュチュにそう言うと、チュチュは顔を赤らめて反論する。と言うのもチュチュは、素直に誰かから褒められるというのに割と弱いのだ。

 実際、学園に来てそのモビルスーツ操縦技術をニカに凄く褒められた事により、彼女はニカに懐くようになっている。

 

「それと、ここからもっと大事な話がある」

 

 そんなチュチュをよそに、ミオリネは真剣な顔で地球寮の皆を見る。どうやら、本当にかなり大事な話があるようだ。

 

「先に言っとくけど、今から話す内容は絶対に誰にも話しちゃだめ。他の寮の生徒は勿論、貴方達の家族にもよ」

 

 それも家族にすら、話してはいけないような話が。

 

「えっと、ミオリネさん?どういう意味?」

 

「言葉通りよ。兎に角、今から聞く話は絶対に誰にも話しちゃだめ。もし誰かに話したら、違約金や退学程度じゃすまないから

 

「そんなに!?」

 

 マルタンが大げさに驚くが、それだけミオリネが話す事は重大なのだろう。

 

「わ、わかったよ!絶対に誰にも話したりしない!地球寮の寮長として約束するから!!」

 

「何勝手に決めてんだよマルタン。いやまぁ、本当に相当な話なんだろうけどさ」

 

 ビビりまくっているマルタンとは逆に、チュチュは少し反抗的。しかし、ミオリネが何時になく真剣な顔をしているのを見たので、何時ものように噛みついたりはしない。

 

「ありがとう。で、話の内容は、三日月の事よ」

 

 そしてミオリネは、プロスペラから聞いた阿頼耶識システムの話を、そのまま地球寮の皆にもする。

 

 

 

 

 

 数十分後

 

『…………』

 

 ミオリネの話を聞いた地球寮の皆は、心底驚いていた。三日月の背中に施した阿頼耶識システム。そしてリミッターを解除した事により、三日月の右腕の感触が無くなってしまった事。現代の医学では、三日月の右腕は元に戻る事は無い事。

 

「マジなのか、お前…?」

 

「うん」

 

「嘘だろ…」

 

 昭弘が信じられないような顔をしながら三日月に聞くと、三日月はあっけらかんに応える。その三日月の返答に、昭弘やチュチュは血の気が引いた。彼らにも、地球に大事な家族がいる。家族を守る為なら、どんな事でもする覚悟だってある。

 

「あ、でも決めたのは俺だよ。これは俺の意志で決めた事だから」

 

「いや、そういう問題か…?」

 

「いくらあーしでも、そんな真似できねぇよ…」

 

 けれど、三日月程の覚悟は持っていなかった。家族であるスレッタを守る為に、自ら人体改造手術をするなんて真似、2人は出来ない。

 

「ミオリネさん…三日月くんの腕は、本当にもう治らないの…?」

 

 そしてニカは、真っ青な顔でミオリネにすがる様に質問する。確かに三日月は、腕が折れた訳じゃない。ただ感触が無いだけだ。

 でも、こんなのはあんまりだ。なんせ骨折と違い、治る事が無い。三日月は一生、このままなのだ。そんなのは、あんまりすぎる。

 だから聞かずにはいられない。もし少しでも可能性があるのなら、ニカは罪滅ぼしも含めて全力で三日月の腕を治すつもりだった。

 

「うん、無理。沢山精密検査を受けた結果、そう判断された」

 

 でもやはり、そんな都合の良い話はなかった。

 

「っ…!!」

 

 それを聞いたニカは、両手で口を押えてその場に座り込む。自分のせいだ。これは間違いなく、自分のせいだ。こんなの、どうやって償えばいいかわからない。戦争やテロで腕を失った訳じゃない。高々学生の決闘で、腕の感覚を失っている。自分があの情報を渡さなければ、こうはならなかった筈だ。

 

『……』

 

 そしてニカ同様に、地球寮の皆もショックを受けて落ち込んでいた。もっと自分達があの決闘でちゃんとやれていれば、三日月は無茶をする事はなかった筈。その後悔の波が、全員に押し寄せているのだ。

 

 そんな重たい空気の中、ミオリネがある提案をしてきた。

 

「で、こっからが社長としての提案。私は株式会社ガンダムの最初のGUND被験者に、三日月を指名する」

 

『え?』

 

 なんと、株式会社ガンダムが開発し、販売する予定のGUNDの被験者に、三日月を指名するというものである。

 

「元々GUNDは、過酷な宇宙空間での作業に適応する為、もしくは危険な作業で体の一部を失った人用に開発された技術。そして今の三日月は、右腕に障害を残している。だからこそ、三日月の腕を治すGUNDを作る事を提案したい。無論、それと同時に手足の代わりとなるGUNDも開発するけど」

 

 これはミオリネにとって、三日月に対する罪滅ぼしに近い。シャディクのように、自分がもっと決闘前に下準備をしていれば、最大20機を投入する決闘になんてならなかった筈なのだ。あれだけ不利な状態で勝利できたのは、ひとえに三日月が限界を超えたおかげだろう。

 でもそのせいで、三日月に障害が残ってしまっている。あれは、自分の考えが至らなかったせいでもある。

 だからこそ、三日月の治療をしたい。幸いな事に、株式会社ガンダムの販売する予定の商品は、医療機器であるGUND。本来は手足や目といった器官の代わりとしているものだが、腕の触覚を戻す事だって決して不可能ではない筈。

 

「正直言うと、最初に開発予定だったGUNDと比べると、開発難易度がかなりはね上がっちゃう。なんせ手足を作るんじゃなくて、肌の触覚を作ろうとしているんだもの。簡単に作る事は出来ないし、何度も失敗すると思う。おまけにすっごく忙しくなる。それでもこれが成功すれば、元々あったGUNDより高性能という事の証明にも繋がる。同時にそれは、株式会社ガンダムのこれ以上ない宣伝になる」

 

 ここでミオリネは、ただ自分の気持ちだけじゃなくて、会社にとって利益にもなる話をする。世の中、善意だけでは簡単に人は働かないのだ。やはり人を動かすには、それ相応の利益になる話が必要なのである。

 

「これはあくまで、社長としての提案。命令じゃない。もし皆がやりたくないって言うなら、この提案は却下する。その場合三日月の腕は治らないけど、決して日常生活に支障が出る訳じゃないし、訓練しだいで何とかさせる」

 

 更にミオリネは、自分1人で勝手に決める事はしない。自分で勝手に決めてしまうと、部下である社員の心は離れて行く。だから皆で、話し合って決めるのだ。

 

「お願いします皆さん。すっごく忙しくなっちゃいますけど、どうか私と一緒に、三日月の腕を治す手伝いをしてください」

 

 ここでスレッタが、地球寮の皆に頭を下げる。地球寮の誰よりも、三日月を治したいと思っているのがスレッタだ。

 自分がもっと強ければ、三日月はバルバトスのリミッターを解除する事は無かった。けれど、時間を巻き戻す事なんで出来ない。ならば今やるべき事は、三日月を治す為に、前に進む事だけ。だって逃げたら1つ、進めば2つなのだから。

 

「私は賛成」

 

 2人の提案に、1番に賛成したのはニカである。

 

「だって上手く行けば、三日月くんの腕が治るかもしれないんでしょ?だったら、私はそうしたい。あの決闘でモビルスーツに乗ってもいない私が言う事じゃないかもだけど、私は三日月くんを助けたい」

 

 ニカの目には、決意が宿っていた。なんせニカは、この場の誰よりも責任を感じている。可能であれば、三日月にどんな償いでもしたいと思っていた。そこに振ってきたチャンス。これを掴まない手は無い。

 

「俺もいいぞ」

 

「俺も。忙しくなるけど、こっちの方が完成した時の達成感凄いだろうし」

 

「俺もかまわない」

 

「僕も賛成」

 

 オジェロとヌーノ、そして昭弘とティルもニカに同意。

 

「当然。私も賛成だ」

 

「です!三日月先輩の腕を、皆で治しましょう!」

 

「まぁ、このままずっと三日月の腕が治らないっていうのは、目覚めが悪いしな。やってやんよ」

 

「そうだね。それにあんな言い方されて断るなんて真似は出来ないって」

 

 更にアリヤとリリッケ、チュチュとマルタンも賛成してくれた。地球寮の皆が賛成してくれたおかげで、株式会社ガンダムの最初の開発GUNDは決まった。後は、頑張って作るだけである。

 

「っありがとうございます!!」

 

「ありがとう」

 

 スレッタとミオリネは深々と皆に頭を下げ、大きな声で感謝の言葉を伝える。提案して断られたらと思うと、怖くて仕方なかった。でも、皆は誰も反対する事無く協力してくれると言う。これ程嬉しい事は早々無い。

 

「ありがと、皆」

 

 そして三日月も、皆にお礼を言う。実を言うと三日月自身は、腕の触覚が無い事を

あまり気にしていない。多少不便かもしれないが、それでも腕そのものは動かせるし、モビルスーツの操縦だって可能。だからそれほど不便に感じていなかったが、もし元に戻ると言うのなら嬉しいものだ。なので、お礼はしっかりいう。こういう時、お礼をしっかり言わない人は碌な人間にならないからだ。

 

「三日月くん!」

 

「ん?」

 

 三日月がお礼を言い終えると、ニカが三日月の前まで来る。そして両手でぞいの構えをし、三日月の顔を真っすぐに見て口を開く。

 

「えっと、何が出来るかわからないけど、日常生活で困った事があったら何でも言って!出来る限り手助けするから!!」

 

 現在ニカは、三日月に対して凄い罪悪感を抱いている。ミオリネの提案通りにGUND開発を始めても、完成するのには時間がかかる。その間、三日月の腕は感触が無いままだ。それだと色々不便だろうから、可能な限り三日月を助けたい。

 本当なら、自分のした事を全部告白して、しかるべき場所で罪を償うべきなのだろう。でも、今はそれをする事は出来ない。そもそも勝手にそんな事をすれば、自分だけじゃなくて、地球寮の皆にも命の危険があるからだ。

 だから、そういうのはもっと後。今は少しでも、三日月に対する罪滅ぼしをしたい。それが今、自分に出来る罪の償い方だろうから。当然それだけでなく、GUND開発も真剣に取り組むつもりだが。

 

「うん、ありがと」

 

 三日月はそんなニカにお礼を言う。よくわからないが、ニカはかなりやる気を出してくれている。なら、それに水を差す真似はしない方がいいだろう。だからニカの言葉に甘える。と言っても、あまり困る事は無いだろうが。

 

「スレッタ先輩!うかうかしていられませんよ!!」

 

「え?何がですか?」

 

 そんなニカを見ていたリリッケが、スレッタに駆け寄って話しかける。

 

「このままだと、三日月先輩が取られるかもなんですから!!」

 

「……?……!?」

 

 そして、割ととんでもない事を言い出した。

 

「だから違いますって!三日月は弟っていうか、家族みたいなものであって、決してそんなんじゃありませんから!!そもそも私、ミオリネさんと婚約してますし!!」

 

「ちょっとリリッケ!!変な事言わないで!!私別にそんなんじゃないから!!」

 

 これにはスレッタもニカも反論。スレッタにとって三日月は家族だし、ニカも別にそういう意味で三日月の世話をしたいとか言っていないからだ。変な事言われても困る。

 

「三日月先輩!2人の事どう思っていますか!?可愛いとか思ってますか!?」

 

 ここでリリッケは、スレッタとニカを無視して三日月に質問した。ある意味渦中にいる三日月。そんな彼にも話を聞いておかないと、面白くないからだ。

 

「スレッタもニカも可愛いよ?」

 

「「!?」」

 

 そして三日月は、さも当たり前と言った感じに答える。その言葉を聞いた2人は、顔を真っ赤にした。

 

「お前、すげぇな…」

 

「何が?」

 

「そう言う事をすっと言えるところ」

 

「俺もこいつを見習ったら、少しはモテるかな?」

 

「やめとけ。多分こういうのはこいつしかできん」

 

 ヌーノが素直に三日月を尊敬し、オジェロは三日月を見習おうとし、昭弘はそんなオジェロを引き留める。多分真似しても、碌な結果を迎えないから。

 

「ニカ姉。その、やめた方がいいと思うぜ?三日月は頼れる奴だろうけど、あいつとくっつくと、絶対に苦労するだろうから」

 

「ちょっとチュチュ!?本当にそんなんじゃないよ!?」

 

「いやいや。むしろニカは面倒見が良いから、案外お似合いだと私は思うよ?」

 

「アリヤまで!?」

 

 チュチュとアリヤは、ニカに寄り添って三日月の事を話す。その間、ニカはずっと顔が赤いままだ。先程まで罪悪感で苦しんでいた子とは思えない。

 

「今後の詳しい話は、明日シャディクと調印した後で。私、今日はもう寝るから。おやすみ」

 

「あ!ミオリネさん待ってください!ていうか怒ってますよね!?それくらい私も分かりますよ!?前も言いましたけど、三日月の事は本当にそんな風に思ってしませんから!ちょ、ちょっと待ってーーー!?」

 

 そしてミオリネは、不機嫌そうな顔をして談話室から立ち去り、それをスレッタが追いかける。リリッケの質問のせいで、明らかにミオリネは怒っている。一刻も早く、弁明しなければ。

 

「三日月って、モテるね」

 

「はは…だね」

 

 その様子を、ティルとマルタンはやや微笑ましい顔をしながら見ていた。ようやく、地球寮に平和が戻ってきたようで安心したからだ。

 

 こうして株式会社ガンダムは、ようやく起業する事ができるようになったのだ。

 

 

 

「ところでさ、あれ何?」

 

 皆がてんやわんやしている中、三日月は気になる事があった。それは、談話室の机の上に置かれている籠に入った果物と大量の冷凍食品だ。尚、冷凍食品は全部肉である。

 

「あれか。例のヴィダールが『どこぞの寮長から有名店の果物詰め合わせのお見舞いの品です。こっちの冷凍のお肉は私から』って言って持ってきたんだよ」

 

 三日月の質問に、オジェロが答える。それだけで、送り主が一体誰なのか判明した。

 

「多分この果物、超高い品物だぞ」

 

「そうなんだ」

 

 正直大げさな気もするが、あの2人も三日月を心配していた証拠だろう。

 

「皆で食べよっか」

 

「いいのか?これ、お前のお見舞いの品だぞ?」

 

「こんなの1人で全部は食べきれないよ」

 

 その後、そしてそれらの見舞いの品は、全て地球寮の皆で分け合って食べるのであった。

 

 

 

 

 

 同時刻 輸送船 ホタルビ

 

 シン・セー開発公社が所有している輸送船ホタルビの格納庫。そこに、2機のボロボロのモビルスーツが向かい合った状態で格納されていた。

 この2機のモビルスーツは、これからベネリットグループが所有する最大の工廠であるプラント・クエタへ向かい、そこで全面改修作業をする。

 

”ねぇ、どうしてあんな事をしたの?”

 

 そして格納庫にいる彼女は、向かい合っている彼に話しかける。しかし極端に口数の少ない彼は、話しかけてくる彼女と全く話そうとしない。

 

”あの子があんな事になるなんて、僕知らなかった”

 

 彼がずっと、本気を出していない事は知っていた。金星での模擬戦でも、この学園に来てからも、彼が本気になった事は1度も無い。彼女は別にそんな事は気にしてない。だって自分も、似た様な物だからだ。

 

 しかし本気を出した結果、パイロットが犠牲になるなんて知らなかった。

 

 そんなのまるで、彼女と同じだ。もしそんな事になると知っていれば、彼に力の解放させる真似をさせていない。それこそ例えば、力を解放するより前に、自分の手で彼を脱落させていたかもしれない。だって彼に乗っているのは、自分の大切な妹の幼馴染なのだから。

 

”それにあの時の貴方、すっごい怖かった…”

 

 更に彼女は、先の決闘での彼の本性を見てしまった。彼女は水星にいた時から、この水星に自分以外の何かがいる事は気配で察していた。でも特に彼女や彼女の妹に危害を加えるような真似はしなかったし、何より1度話した時に口数は少ないが大人しい存在だと認識したからだ。

 

 しかし彼が少しだけ本気を出したあの決闘で、彼女は怖気づいてしまったのだ。

 

 怖い。とっても怖い。彼女も一応、命の奪い合いである実戦は経験している。でもあれは、彼女と母親が生き残る為に必死で足掻いて戦っただけだし、何より当時の彼女はあれを、命のやり取りと思っていない。あまりに幼かった故である。

 対して彼が戦っていた実戦は、まさに人類存亡の危機に陥っていた絶滅戦争。当然、彼女とは持っていた覚悟が違う。そんな戦争を経験している彼は、あの決闘で、少しだけ当時の殺気を出してしまったのである。

 自分と似ているようで、何もかも違う。それが彼である。

 

”お願いだから、もう2度とあんな事しないで。あの子を、犠牲にして欲しくない”

 

 そんな覚悟と力を持った彼が、また力を解放してしまえば、再びあの子が代償を支払いかねない。それはダメだ。だってあの子は、彼女の妹に必要な存在。いずれ彼女は、自分が妹から離れて行く事になる事を知っている。そうなったら、妹はひとりぼっちになってしまう。だからこそ、妹の傍を離れて行かない子が必要だった。

 でもそんな子が、戦う度に代償を払ったりすれば、とてもじゃないが妹の傍にはいられないだろう。だから彼女は、彼にお願いする。

 

”…………”

 

 しかし、彼は何も答えない。元々口数がとても少ない彼。今までだって、数えるくらいしか話せていない。

 

(答えないって事は、やるって事かな…)

 

 そして彼女は、彼はあの子が望めばまた力を解放するだろうと確信する。どうしてそうなるかは勘でしかないのだが、どうしてもそう思ってしまう。

 

(もしもの時は、どうなるかな…?いや、僕が負けるだろうけど)

 

 もし彼が自分と母を止める為に立ち塞がったりすれば、勝てるなんて思えない。そもそも機体性能が違うし、何よりあの塗料のせいでこちらの攻撃がほぼ効かないからだ。

 更に彼はこれから、大規模な改修を受ける。つまり今より強くなるのだ。今でさえ厳しいのに、今より強くなった彼に勝てるなんて思える訳が無い。

 

(一応、お母さんが切り札を用意しているけど、それでもどうなるかな…)

 

 無論、彼女も無策という訳では無い。彼女自身も改修され今より強くなる予定だし、更に彼と同型のモビルスーツを2機、秘密裏に復活させている。

 他に、火星の砂漠に埋もれていた古い兵器工廠で見つけた禁忌の兵器も解析が進み、着々と量産している最中だ。あれがあれば、如何に彼と言えどタダでは済まないだろう。 

 けれど、それでも不安が残る。なんせ彼は強いのだから。出来れば彼とは、ずっと敵対したくない。このまま何もせず、妹やあの子と共に、学園で皆と静かに健やかに暮らして欲しい。そうすれば、彼とあの子とも戦う事は無い。

 

(でももしもの時は、容赦しない)

 

 だがもし彼と敵対してしまったら、彼女も容赦なんてしない。してやらない。彼女にも、やらねばならない事がある。その為だったら、例え彼やあの子、そして妹が相手になっても容赦しない。母の願いの邪魔をさせない為に、全力で戦うだけ。

 

(その時は、覚悟しておいてね)

 

 こうして彼女と彼は、プラント・クエタに向かう。新しい力を、手にする為に。

 

 

 

 

 

 グラスレー寮 寮長室

 

『今回は少々やりすぎたな、シャディク』

 

「申し訳ありません、義父さん」

 

 寮長室にあるソファに座っているシャディクは、モニターに映っている義父であるサリウスと話していた。内容は当然、先の決闘についてである。

 

『お前の考えも、分からなく無い。人類を救ったモビルスーツである、あのガンダムフレームを相手にするのだ。並大抵の作戦では、勝負になるかどうかさえ怪しかっただろう』

 

 サリウスも、あのガンダムフレーム相手にただ物量で攻めて勝てるなんて思っていなかった。もし自分がシャディクの立場にいれば、シャディクのように様々な作戦を考えて、実行していただろう。

 

『だとしても、通信妨害と視界妨害はやりすぎだ』

 

 しかしそれでも、あの2つの作戦は度が過ぎていた。おかげでグラスレーは、勝つためなら誇りを捨てて何でもするというイメージが付き始めている。それはサリウスとて望まない。1度ついてしまったイメージというのは、中々払拭できないからだ。

 

『最も、おかげでこちらも情報が手に入ったがな』

 

 だがシャディクの作戦のおかげもあって、ガンダムフレームの情報も手に入れる事が出来た。

 

「彼の流血についてですか?」

 

『そうだ。何故あのパイロットが流血したかはわからんが、ガンダムフレームには、そうさせるだけの何かがある』

 

 理由はわからないが、バルバトスのパイロットだった三日月は、流血している。

つまりバルバトスには、パイロットを流血させるだけの何かがあると言う事。詳しく調べない事には何もわからないが、そう考えるのが最もしっくりくる。もしかすると、GUND-ARMのように呪いでも宿っているのかもしれない。

 

『そしてデリングは、その事を既に知っていた可能性がある』

 

 それだけでは無い。決闘をミオリネが止めようとした時、デリングは総裁命令を下してでも、決闘を続行させた。普通なら止める筈。ましてやあれは戦場での戦いでは無く、学園での決闘。普通はミオリネのように止める。

 しかしデリングは、決闘を続行させた。もしかすると、パイロットである三日月が死んでいたかもしれないのに、彼は決闘を続行させている。どうにも引っかかるが、もしデリングがあらかじめガンダムフレームの情報を持っていて、決闘後もパイロットの命に別状が無いと知っていれば、辻褄が合う。

 

『シン・セーから秘密裏に情報を受け取っていたのか、それとも実は、デリングは既にガンダムフレームを手にしているのか。これはデリング本人を問い詰めないとわからん』

 

 サリウスは考える。思えば最近のデリングは、可笑しい事ばかりだ。GUND-ARMであるエアリアルの存在を許したり、その技術の開発を娘であるミオリネに許可したり、そして三日月が異常な流血をした決闘を続行させたり。おかげでサリウスは、デリングに対する不信感を日に日に強めていっている。

 

「総裁を探りますか?」

 

『いや、今はいい。デリングの事だ。どうせ二重三重に対策を施しているだろう。下手に探ると、こちらがどんな被害を受けるかわからん』

 

 シャディクがそう言うが、サリウスは慎重に事を運ぶべきだと思い、今はまだデリングを問い詰めるのをやめておくつもりだ。でなければ、どんなしっぺ返しがくるか想像できない。

 こういうのは、もっと準備をしっかりとして、その時にデリングを問い詰めるべきだろう。そして場合によっては、総裁の座から引きずり下ろす。

 

『シャディク。暫くは大人しくしておけ。わかったな?』

 

「はい。わかりました」

 

 サリウスはシャディクにそう伝えると、通信を切る。モニターが真っ暗になり、通信が切れたのを確認したシャディクは、机の上に置いてあった紅茶を飲もうとする。しかし紅茶はとっくに冷めており、飲む気が失せてしまう。

 

 その時、寮長室にノックの音が響く。

 

「どうぞ」

 

「失礼する」

 

 シャディクに許可を得て、サビーナが寮長室に入って来る。

 

「それで、どうだった?」

 

「後継者争いからは、一歩後退ってところかな」

 

 サビーナの問いに、シャディクは少し苦笑い。まだサリウスから完全に見放された訳ではないが、今後は厳しい状況が続くだろう。何より、あの決闘は学園の外にも放送されている。結果、グラスレーに対する風評は強い物となった。事実、株価が少し下がっているし。その原因を作ったのは自分なのだから、これからは前みたいに行かないかもしれない。

 尤も、株価は御三家全てが下がっているので、これでイーブンになったようなものだが。

 

「それでサビーナ。何かあったかい?」

 

 それはそうと、サビーナがここに来た理由が気になる。もしかすると、ミオリネ辺りから苦情が来ているのかもしれない。なんせ決闘の後、かなりバタバタしていたのだ。おかげでまだ、シャディクとミオリネは決闘後の取り決めの調印を終えていない。向こうからすれば、一刻も早く調印して会社を起こしたいだろう。

 だとしたら、直ぐにその件も終わらせないといけない。今日はもう遅いが、明日の朝1番にミオリネのところに行って、調印を終わらせようとシャディクは思う。

 

 しかしサビーナの口からは、それとは別の案件が出てきた。

 

「先程、例の仕事を頼んでいた夜明けの地平線団から、暗号通信を使って連絡があった」

 

 その言葉を聞いたシャディクは、直ぐに紅茶の入ったカップをソーサーの上に置く。そしてサビーナの顔を見て、真剣な表情をして、サビーナの報告を聞く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけたらしいぞ。地球で、天使の死骸を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 株式会社ガンダムは、先ず三日月の腕の感触を治す為にGUNDの作成をし、同時に原作同様のGUNDも作成します。多分、超忙しくなる。

 そしてシャディクが見つけた物は、まぁお察しという事で。これが今後どうなるかは、一応色々考えていますので、どうかそれまでお待ちを。

 もし変なのところ、矛盾しているところ等がありましたら言って下さい。修正します。

 それと今回ちょっとアンケート設置してしますので、よろしければお答えください。
 それでは今年も、よろしくお願いします。

本作の三日月のヒロインって誰だと思ってる?(今回はスレッタ以外で)

  • ニカ
  • ジュリエッタ
  • レネ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。