悪魔と魔女の物語   作:ゾキラファス

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 今回は、言うなれば幕間的なお話です。本筋は全然進みませんし、何だったら水星のキャラは1人しか出ません。

 ごめんね。次回はちゃんと書くから。


木星での発見

 

 

 

 

 

 木星

 

 地球圏から6億2900万キロも離れている惑星、木星。太陽系で最大の大きさを誇るガス惑星であり、その直径はなんと地球の11倍。質量は318倍。アンモニアやメタンガスで覆われており、常に秒速100メートルの殺人的な台風が吹き荒れている。とてもじゃないが人が住むなんて不可能な惑星、それが木星だ。

 そんな木星の周りを回っている衛星は全部で4つあり、その内のひとつが、カリストである。未だに多くの隕石が落ちるため数多くのクレーターが存在し、全体を氷に覆われた衛星。

 当然、こんな衛星に人が住めるわけがない。しかし、このカリストは木星圏で最も重要な星と言われている。

 

 その理由は、パーメットが採掘できるからだ。

 

 パーメットは水星と月でしか採掘できないと言われているが、実はここカリストでも採掘できている。しかし、その採掘量はかなり少ない。最も多く取れる水星と比較すると、その採掘量は20分の1程度。あまりに少ない採掘量だ。それにカリストは常に猛吹雪が吹きあれ、気温はマイナス150度という超極寒の星。もしノーマルスーツ無しで外に出たら、1秒で死ぬことだろう。こんな危険な衛星、普通ならだれも近づかない。

 

 だが、ここはパーメットが採掘できるのだ。

 

 パーメットはモビルスーツや電子機器など、ありとあらゆる物に使用されている鉱石であり元素。以前は、遠路はるばる地球から買い取って、それを木星まで運ぶというやり方をしていたが、これはとても手間と時間とお金がかかる。それでもパーメットは必要な存在である為、文句を言いつつも木星圏の人々は地球圏からパーメットを購入していた。

 しかし、とある男がカリストでパーメットが発見されてから状況は変わる。彼は地球圏で買うよりはるかに格安でパーメットを販売し始めた。おかげで、木星圏の人々は誰もが地球圏からパーメットを買うのをやめ始めた。誰だって手間とお金と時間がかかるより、近場で買えるのならそれに越したことはないだろう。当然である。

 

 そしてパーメットを採掘し、販売した男は、たった1代で木星圏最大の企業のトップになったのだ。

 

 しかし、それは何もパーメット事業だけでのし上がった訳ではない。実はカリストでパーメットが採掘できると知られてから、多くの企業やならず者たちが、カリストを制圧しようと武力をもって動き出したのだ。カリストを制圧すれば、木星圏でのパーメット事業を全て手にすることができる。こんなの、誰だって狙いにいくだろう。一時は、このせいで木星圏の治安が最悪になった時もあった。

 そして彼は、その全てを自分で撃退していった。地球圏から遠く離れているここでは、議会連合やドミニコス隊の援軍も期待できない。だから、自分の身は自分で守るしかないのである。

 信頼できる仲間と共に、モビルスーツで邪魔者を排除し、時には知力で相手を陥れ、時には敵だった物を味方にする。更に戦えない者には手を差し伸べ、自分の庇護下に置く。そうやって彼は、木星圏で一気に影響力を強めていった。同時に木星圏での治安維持も務め、大勢の人から支持されるようになっていったのだ。

 今では木星圏で知らない人はおらず、同時に『木星圏で最も恐れられている男』と呼ばれている。誰もかれも、彼の名前と企業名を聞けば、恐れおののく事だろう。

 

 そんな彼の企業の名前は、こう言う。

 

 

 

 

 

 テイワズと。

 

 

 

 

 

 木星衛星 カリスト

 

「全く。相変わらずひっでー吹雪だなここは」

 

 カリストの上空で、とある男が乗った特別な処置の施されたスペースランチが、カリスト表面に建設された採掘基地へ向かっている。

 男の名前は、名瀬・タービン。木星の企業『テイワズ』の傘下で、輸送部門を担当する組織『タービンズ』を率いている、まだ若さの残る男だ。

 しかし彼は、この若さでテイワズの直参まで実力で上り詰めた男であり、次期若頭候補とさえ言われている。そんな彼がどうしてカリストに来ているかというと、採掘基地から報告があったからだ。

 

『妙な物を見つけた』

 

 パーメット採掘中のとある作業員が、何かを発見。現場では判断ができず、是非上の人間が自分の目で確かめてほしいと言われ、名瀬はこうしてカリストまで来ているのだ。採掘基地の所有者で、自分の親であるテイワズのトップは、とても多忙なのでこんな場所にまで来れない。現若頭も、とある武装組織殲滅に動いているので行けない。そこで地球圏から一仕事終え、休暇に入ろうとしていた名瀬が指名されたのだ。

 

(親父の命令だから仕方がないとはいえ、何も休暇前にこんな場所に行かせなくても…)

 

 折角休暇中に、自分が大事にしている女性達と過ごそうと思っていたのだが、その予定はしばしお預け。こんな仕事はさっさと終わらせて、1秒でも早く休暇に入りたいものだ。

 

「にしても、ノーマルスーツ着ているのに寒いったらありゃしねぇ…」

 

 それにしても、寒い。しっかりとノーマルスーツを着ているのに、寒い。シャトルの外を見ると、視界0と言ってもいいくらいに吹雪いている。そりゃ寒い訳である。

 

「そんなに寒いのなら、仕事が終わったら私がしっかり温めてあげるよ」

 

 そんな名瀬に話しかける褐色肌の女性は、アミダ・アルカ。タービンズのナンバー2であり、凄腕のモビルスーツパイロットだ。そして、名瀬の伴侶の1人でもある。

 

「そりゃいい。なら、仕事が終わったらベッドの上で思いっきり温めてくれ」

 

「了解さ」

 

 名瀬はアミダの提案を素直に受け、さっさと仕事を終わらせようと意気込む。

 

「しかし、いったい何が見つかったっていうんだ?」

 

「もうすぐ採掘基地につくから、そしたらわかるだろうよ」

 

 そうしてシャトルは、カリストのパーメット採掘基地へ向かうのだった。

 

 

 

 カリスト地表 ゾーイ採掘基地

 

「名瀬代表。遠路はるばるご苦労様です。自分は、ここで働かせてもらっているディンゴと言います」

 

 1人の色黒で白髪の若い男が、基地に着陸したシャトルから降りてきた名瀬に敬礼しながらあいさつをする。恐らく、彼がここでの案内役なのだろう。

 

「おう。んじゃあいさつも終わったし、早速妙な物ってやつについて教えてくれ」

 

「わかりました。では、こちらに」

 

 男の案内で、名瀬とアミダは基地内にある会議室にたどり着く。そこには数名の作業員がおり、全員が名瀬が来た瞬間に立ち上がり頭を下げる。

 

「名瀬代表。こんな場所までご苦労様です」

 

「ああ。それで、発見した物ってのは?」

 

「はい」

 

 挨拶をすまし、作業員の1人が会議室のテレビモニターを点ける。

 

「ことの発端は、5日前です」

 

 今から5日前。とある若い作業員が、モビルクラフトでパーメット採掘をしていた時、センサーに映る何かを発見。彼はそれが何か確かめるため、目視による確認を行った。

 

 そこで彼が見つけたのは、巨大な何かであった。

 

 その事をすぐに基地へ報告し、基地は直ちに調査部隊を編制。彼らはセンサー機器やドローンを使い、その巨大な何かを調査。

 

「そして観測をした結果が、これです」

 

 作業員の1人が、端末を操作して計測用センサーの結果をモニターに映し出す。するとそこには、氷に埋まっている大きな塊。それはまるで氷に突き刺さっているような状態で、周りにはその物体のものであろう物がバラバラに散らばっている。

 

「これは、船か?」

 

「ええ、おそらく」

 

 名瀬はそれを見て、宇宙船だと思う。大きさは、名瀬が所有している宇宙船ハンマーヘッドと同じくらい。割と大きい船だ。

 

「この船は、今から300年前に建造された輸送船です」

 

「300年前だと?」

 

「はい。データベースと照合もしたので、間違いありません」

 

「ほう。だが、これのどこが妙な物なんだ?別に墜落した船なんて、そんなに珍しくもないだろう?」

 

 名瀬の言う通り、確かに珍しいが妙ではない。実際彼も、地球に向う時に航行するアステロイドベルトで廃棄された船を見た事がある。墜落した船なんて、ちょっと珍しいだけだ。

 

「妙な物は、これなんです」

 

 すると作業員の男は、端末を操作してモニターに別の画像を映す。

 

「……こりゃ、なんだ?」

 

 それは言うなれば、異形であった。大きさは一般的な宇宙船より一回り小さいくらい。しかしそれには、まるで腕のような物が1本生えており、更に巨大な砲塔のような物も付いている。こんな変な物、見たことがない。

 これは船の周囲を索敵中に、センサーが船の更に地下で発見した物だ。その場所、船から更に地下700メートルの氷の中である。

 

「確かにこれは、妙な物だね」

 

 アミダも名瀬と同意見だ。これまで様々な修羅場を経験し、色んな場所を見てきたが、そんな彼女もこんな物は見た事が無い。恐らくドローン兵器の類だとは思うが、いくら何でも大きすぎる。

 

「掘り出せるか?」

 

「いえ、流石にこんなに深い場所にあると、掘り出すのは困難かと…」

 

「だろうな」

 

 地下700メートルにある正体不明の何か。もしこれを掘り出そうとするのなら、どれだけの手間と時間がかかるかわからない。そもそも、掘り出すほどの価値があるかどうかさえわからない。ならば無理して掘り出す必要はないだろう。

 

「じゃあ、こっちの船は?」

 

「ハッチの場所は発見しました。しかし、まだそこを開けてはいません」

 

 一方で船の方は、そこそこ調査が進んでいた。といっても、まだ誰も船の中には入っていない。現場の判断で勝手に船の中まで調べる訳にはいかなかったからだ。

 

「よし、なら船の方は今すぐにでも調べてくれ。中に何があるか気になるしな」

 

「了解しました」

 

 そして名瀬は、現場に調べる許可を出す。親父から任されたというのもあるが、こういった輸送船には、稀にお宝が眠っていたりするのだ。それはモビルスーツだったり、情報だったり、金塊だったりと様々。そういった物が手に入るかもしれないチャンスがあるのなら、調べない訳にはいかない。

 

「アミダ。頼めるか?」

 

「任されたよ」

 

 そして名瀬は、アミダにモビルスーツを使って船を調べてくれと頼む。アミダは凄腕のパイロット。彼女であれば、不測の事態にも対応できるだろう。こうして、墜落した船の調査が始まったのだ。

 

 

 

「目標確認。これより調査に入る」

 

 アミダはテイワズ製のモビルスーツ、百錬に乗り込んで、発見された船まで来ていた。これから調査部隊と共に中に入り、船の調査を行う。

 

『ハッチ、開けます』

 

 一緒に来ている調査部隊のメンバーが、モビルスーツからハッチの操作をして船のハッチを開ける。

 

『アミダ、気をつけろよ』

 

「わかってるさ」

 

 名瀬の言葉を聞き、アミダは百錬で船の中に入る。中は暗く、暗視装置がなければ何も見えない。おまけに船が傾いているので、ちょっとでも気を抜くとモビルスーツごとすっころんでいきそうだ。

 

「何も無いね…」

 

 見たところ、何も見つからない。いや、正確にはこの船の搭乗員であろう者達の氷漬けの遺体しかない。

 

(後で丁重に弔ってあげるよ)

 

 流石にこのままにしておくのは忍びないので、後で遺体は全部回収して弔おう。

 

『奥にまだ格納庫があります』

 

「そうかい。じゃあ、開けてくれ」

 

『了解』

 

 調査部隊の1人が、奥に続く格納庫を発見。彼はモビルスーツから降りて、ハッチの端末をいじる。

 

「電源は生きてるかい?」

 

『一応生きてるみたいです。といっても、死にかけみたいなものですが』

 

「へぇ、頑丈な船だね」

 

 その報告に、アミダは少し驚く。だって大抵は電源が死んでいる筈だ。おまけにこの船は、300年も前の船という話。なのに未だに電源が生きているなんて凄い。

 

『古いシステムだが、ここをこうすれば…よし!開いた!』

 

 もう少し時間がかかると思っていたが、直ぐに格納庫のハッチがゆっくりと開く。そしてアミダは、格納庫に向けて暗視装置を起動。

 

「ん?」

 

 そこで、何かを発見した。それはハンガーにガッチリと固定されており、今にでも動き出しそうなほど原型を保っている。頭には黄色いブレードアンテナが2本。全体的に薄い茶色っぽい機体カラー。背中には大型のスラスターのような物が装備されており、顔の中央には何かしらの用途があるであろうカメラアイ。

 

「モビルスーツ?」

 

 それは、どう見てもモビルスーツだった。それも、アミダが初めて見る。

 

 

 

 

 

 テイワズ本社 大型惑星間巡航船 歳星

 

 カリストで発見したモビルスーツを回収してから数日後、名瀬はテイワズの本拠地である歳星に来ていた。歳星は、コロニー並みに大きな船である。ここには数万人が住んでおり、その全員がテイワズの関係者。そんな彼らが、今日もテイワズの為に働きながら過ごしている。

 

「ほう、これが?」

 

「はい、カリストで見つけたモビルスーツです。名前は、グシオン。コックピットの操縦端末にそう出ました」

 

 そして名瀬は、歳星で最も警備が厳重である部屋に来ていた。部屋には、男が3人いる。1人は名瀬でもう1人はソファに座っているケツアゴの男。

 そして、そんな2人の前の椅子に座っている白髪交じりの黒い髪に、葉巻を持った男。彼こそ、マクマード・バリストン。テイワズを1代で巨大企業に成長させた張本人であり、テイワズのトップである。

 

「なぁ名瀬、今こいつはどこにあるんだ?」

 

「カリストの採掘基地の格納庫に。ここまで持ってくるには、ちと時間がかかりまして。無論、警備は厳重にしています」

 

「そうか」

 

 マクマードは端末で回収したモビルスーツの情報を見ながら、葉巻を吸う。

 

「随分とゴテゴテしたモビルスーツだな。どこ製だ?」

 

「そこまではまだ。なんでも、システム周りが大昔の品らしくて、情報の吸出しにかなり難儀しているんですよ」

 

「ほー。そりゃ面倒だな。うちからも何人かやろうか?システムに強い奴いるし」

 

「いえ、兄貴の手を煩わせる訳にはいきませんから」

 

「別に気にしなくてもいんだぞ?仕事はさっさと終わらせる事に越した事はねぇだろう」

 

「……わかりました。では、お願いします」

 

「おう」

 

 名瀬に話しかけるケツアゴの男は、ジャスレイ・ドノミコルス。テイワズの専務取締役で、テイワズ傘下の企業『JPTトラスト』を経営している男だ。少々強引で保守的な考えの持ち主ではあるが、事実上のテイワズのナンバー2である。

 以前は名瀬と、マクマードから引き継いだばかりの輸送部門の座を巡ってバチバチにやりあっていたが、とある事件をきっかけに2人は和解。今ではたまに小言は言うが、名瀬の事を弟分として、そして自分はそれらの頼れる兄貴分として仕事に勤しんでいる。

 

「間違いねぇ。これは、ガンダムフレームだ」

 

 名瀬とジャスレイが話していると、マクマードが口を開く。

 

「ガンダムフレーム?」

 

「ああ。大昔に作られたモビルスーツだよ」

 

 どうやらマクマードは、この回収したモビルスーツに心当たりがあるらしい。

 

「聞いたことがあります。確か、厄祭戦で活躍したモビルスーツだとか」

 

「そうだ。300年前の人類が絶滅しかけた戦争、厄祭戦。これはその時に建造された、伝説と言われているモビルスーツだ。まさかこんなところにあるなんてな」

 

「伝説ですかい。そりゃ大それた名前だ」

 

 そんな伝説と呼ばれているモビルスーツを、名瀬は見つけた。正確には、見つけたのはパーメットの採掘作業員だが。

 

「にしても、親父は何でそんな事を知ってるんですか?」

 

「何、少し昔に偶然知っただけさ」

 

 マクマードがどうしてそんな事を知っているか気になるが、それより今はこの回収したガンダムフレームをどうするかである。

 

「こいつには、エイハブリアクターって言う永久機関とも言えるリアクターがある。1度起動すれば、何百年も起動し続けるとか言われているとんでもないリアクターだ」

 

「「何百年!?」」

 

「おまけにあまりに頑丈で、破壊する事が出来ないとも言われている」

 

 エイハブ・リアクターの特性を知った名瀬とジャスレイは、驚きを隠せない。

 

「おいおい名瀬。お前すげーもん見つけたじゃねぇか。大手柄だよ。これが量産されれば、テイワズはもっと成長するぜ。それこそ、地球圏の企業すら大きく凌ぐ程にな」

 

「ですね。こいつはすげぇ。至急、カリストからここに持ってこさせて、歳星の開発部に引き渡しましょう」

 

 本当に凄いお宝を見つけたので、2人共小躍りしそうになる。もしこれが量産されれば、テイワズはもっと大きくなる。もしかすると、太陽系で1番の企業にだってなれるかもしれない。一刻も早く、量産するべく動くべきだろう。

 

 

 

 「ダメだ」

 

 

 

 しかしそれは、親であるマクマードの一言で静止される。

 

「これを量産なんてとんでもねぇ。できれば、今すぐどこかに捨てたいくらいだ」

 

「な!?何でですか親父!?こんな凄いもんを捨てるなんて!」

 

 マクマードの判断に、ジャスレイは信じられないといった顔をする。だってこれほどのお宝だ。それをマクマードは、捨てようとしている。勿体ないなんて話じゃない。

 

「これはな、危険すぎるんだよ。もしこんな物が量産されでもしたら、新しい戦争が起きかねない。いくら巨万の富を生み出すとはいえ、俺はそんな真似をしたくは無い」

 

 マクマードだって、エイハブリアクターが凄い価値を持っている事は理解できている。だが同時に、あまりに危険な代物だという事も理解しているのだ。これが量産でもされてしまえば、それを巡って争いが起こるだろう。

 ただでさえ、木星圏は地球程では無いが様々な火種がある。なのにこんな物が見つかったと知られたら、カリストのパーメット採掘権争奪戦より酷い事になるだろう。

 

「それだけじゃない。エイハブリアクターはな、強力な電磁波を出す。これは、あらゆる電子機器を破壊するんだ。もしこれがここ歳星で起動しちまえば、歳星は全ての機能を停止して、俺たち全員お陀仏だよ」

 

「な!?そんなに強力なんですか!?」

 

 そしてこれだ。エイハブリアクターが発する電磁波、エイハブウェーヴ。これの前では、どのような電子機器も役に立たずに壊れていく。もしも何かの手違いでエイハブリアクターを全力で起動してしまったと思うと、恐ろしくてたまらない。

 

「良かったな名瀬。もしお前がカリストでこいつを全力で起動していたら、今頃お前は電源を完全に損失した採掘基地で氷漬けになっていただろうさ」

 

「……」

 

 マクマードの言葉に、ぞっとする名瀬。データの確認をするためにセーフモードで起動していたが、もし1歩間違えていれば、今頃自分はここにはいない。まさに紙一重の差で、名瀬は命拾いをしていたのだ。

 

「じゃあ親父。こいつどうするんですか?」

 

 血の気が引いている名瀬に代わり、ジャスレイがマクマードに尋ねる。そんな危険ならば、確かに手元に置いているのは危険かもしれない。だからと言って、その辺に捨てて良い代物でもない。そんな無責任な真似、できる訳が無い。ならどうするというのか。

 

「最近、地球圏のベネリット・グループにはガンダムフレームがあるって言うじゃねぇか」

 

 ここでマクマードは、地球圏のベネリット・グループの事を口にする。それはここ最近、話題になっている事だ。ベネリット・グループには、伝説のガンダムフレームがある。そしてそれは、とてつもない強さを持っていると。

 実際、この話を聞いた地球圏の多くの企業は、ガンダムフレーム捜索部隊を編制して、ガンダムフレームを探している。だが、木星圏ではそんな話は無い。殆どの者が遠い地球の事なんて気にしないし、大勢が与太話と思っているからだ。

 しかしマクマードは、信頼できる筋からその情報を知ったし、そもそも過去にガンダムフレームを見た事がある。故にカリストで見つけたモビルスーツが、ガンダムフレームだと理解できたのだ。

 

「厄介払い含めて、そこに売っちまうか」

 

 そしてマクマードは、ベネリット・グループにカリストで見つけたガンダムフレームを売る事にした。彼自身、ベネリット・グループに1人知り合いがいるし、ガンダムフレームを所有しているベネリット・グループならば、扱いも慣れているだろう。そう思った故に判断である。

 

 

 

 

 

「いいんですかい親父。折角の宝の山だってのに、売っちまうなんて」

 

 例のガンダムフレームを、名瀬に頼んで地球圏まで送る事を決めた後、名瀬は仕事前の休暇に入るために部屋を後にして、残ったのはマクマードとジャスレイの2人だけ。そしてジャスレイは、マクマードに少々勿体ない事をしたのではと問う。

 

「いいんだよ、ジャスレイ。あれはな、人の手に余る恐ろしい兵器だ。手元に置いておくんにゃ、危険すぎる」

 

 確かに、ガンダムフレームはとてつもない宝だろう。だが、あまりに危険すぎる。あれを手元にずっと置いておくなんて真似、したくない。

 例えるなら、直ぐそばに何時でも爆発できる核爆弾があるような状況。そんなの、誰だってごめん被る。

 

「安心しな。金はしっかりふんだくるさ」

 

 でもそれはそれとして、金にはしておく。彼も、ボランティア精神でテイワズを運営していない。売れる物は、しっかり売る。

 

「しかし、ベネリットか。懐かしいな」

 

 新しい葉巻に火を点けながら、マクマードは窓の外を見ながらどこか懐かしむような顔をする。

 

「懐かしい?昔ベネリットの誰かと取引でもしたんですかい?」

 

 そんなマクマードに、ジャスレイは失礼と思いつつも質問をする。だってここは木星圏。地球圏までは、どんなに早い宇宙船を使っても2か月弱かかる。それほど離れているのに、マクマードは伝手があると言う。

 思えば、マクマードには謎が多い。長い付き合いであるジャスレイも、他の幹部もマクマードの過去を知らない。木星圏生まれだとも、実は地球生まれのアーシアンだとも言われているが、どれも真実かどうかわからない。そもそもここでは、過去の詮索はしないというのが暗黙の了解なのだ。だから誰も聞かない。でも折角なので、この期に少しだけ聞いておきたい。なのでジャスレイは質問をしてみたのだ。

 

 

 

「いいや、惚れた女がいたのさ。振られちまったけどな」

 

 

 

 そしてそんなジャスレイの質問に、マクマードは懐かしそうな顔をしながら答える。それを聞いたジャスレイは驚いた顔をして、思わず手にしていたカンノーリを落としそうになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女は、自分の名前が大嫌いだった。だってどう聞いても、女の子っぽくない名前。100人に聞けば、100人が男の名前だと答えるような名前だ。そのおかげで、彼女は小さい頃からからかわれてきた。男子にも、そして同性である女子にも。何度も何度も、自室のベッドの上で泣いた。名前のせいで、どうしてこんなに馬鹿にされないといけないのかと。でもある日、

 

『そうか?俺は綺麗な名前だと思うけどな?』

 

 自分の名前を、そう言ってくれる人に出会った。

 

 自分の名前が嫌いな彼女は成長し、10代半ばとなっていた。そして彼女は、地球圏で1番の学校と言われているアスティカシア高等専門学園へ入学。そこで出会ったのが、自分の名前を綺麗だと言ってくれた男の子だ。別の寮の生徒で、経営戦略科の授業で一緒で、偶々席が隣だっただけの生徒。それだけの関係だ。

 しかしある日、彼とペアを組んで経営の問題を解くという授業をした時、どうしても自己紹介をしないといけなくなり、彼女は嫌々自己紹介をした。自分の名前を聞けば、大抵は男みたいな名前だと笑ってくる。

 だが彼は、全くそんな真似をしなかった。それどころか、彼女が自分の名前が男みたいで嫌いだと言ったら、綺麗な名前だと言ってくる始末。これには彼女も面食らう。だって今まで、そんな事1度も言われた事が無い。おまけに彼が、心からの本心で言っているのがわかってしまう。

 

 そしてこれがきっかけで、彼女は彼は他の人とは違うと思うようになっていく。

 

 彼は言うなれば、義理人情に厚い人物だった。約束は必ず守り、受けた恩は必ず返し、損得勘定をせずに人を助ける。将来、ベネリット・グループの企業に就職する人間にとってはあまり褒められた事では無いが、そんな事なんて知らないと言わんばかりに彼は自分の考えを決して曲げようとはしない。おかげで入学して数か月経過した頃には、彼は大勢の生徒から頼られる存在となっていたのだ。

 この頃には彼女も、心を許せる友達が3人もでき、学校で優秀な成績を残していたので、特に誰かにからかわれる事は無くなっていた。同時に、あまり彼と話す機会がなくなっていたのだが。

 しかしそれでも、彼女は時間があれば彼と話す事にしていたのだ。

 

 だって彼女は、彼に恋をしてしまったのだから。

 

 名前がこんなんなのと、女子にしては高い身長のせいで、彼とは決して釣り合わないと彼女は思っていた。しかしそれでも、彼女はこの恋を諦めたくなかった。所属している寮が違うし、あまり女の子っぽく無い自分だが、この恋は諦めたく無い。3人の友人も、こんな自分を応援してくれる。だから彼女は、この恋を成就させようと奮起した。

 

 しかし、それは叶わなかった。ある日、彼がとある騒動を起こしてしまい、学園を退学になる事になったからである。

 

 詳しい事はわからないが、ある生徒を文字通りボコボコにしたらしい。そしてその生徒は、後遺症が残る程の重症を負ってしまった。流石にこんな事件を起こしてしまえば、退学にもなる。おまけにこの事件がきっかけで、彼は両親にも勘当される始末。退学後は、その身ひとつでどうにかしなければならない。

 そして彼が学園を去る日、彼女は友人3人の手を借りて、授業を抜け出し、学園のシャトル乗り場まで来ていた。最後に、彼を見送りたいと思ったからだ。そこで彼とシャトルが来るまでの間、ずっと話をした。沢山沢山、話をした。この時間が、彼女の人生で1番幸せだった時間かもしれない。

 しかし、幸せな時間も終わりが来てしまう。そう、シャトルが到着したのだ。これで彼とは2度と会えないと思った時、彼から予想外の事を言われた、

 

『一緒に来てくれないか?お前となら、どこに行ってもやっていけそうだ』

 

 彼はそう言うと、彼女に手を差し伸べる、この手を掴めば、彼とずっと一緒にいられる事が出来る。彼女は直観でそう思った。

 しかし、どうしてもそう出来ない理由がある。彼女の所属する寮の会社は、違反者にかなり厳しい。もしここで、自分が彼と一緒に行ってしまえば、両親がどんな目に合うかわからない。もしかすると、殺されてしまうかもしれない。

 更にここに来るまで、友人3人に協力をしてもらっている。ここで彼と一緒に行けば、彼女達にも何かしらの罰が与えられるだろう。そんな事は出来ない。両親は自分を愛してくれているし、3人の友人は本当に大切な友人だ。だから彼女は、彼の手を握りはしなかった。

 

『そうか。悪いな、変な事言っちまって。じゃ、元気で』

 

 彼は一瞬だけ悲しそうな顔をしたが、直ぐに何時もの元気な顔になり、シャトルに乗り込んだ。彼女は、そのシャトルが見えなくなるまで、ずっと見ていた。

 そしてシャトルが見えなくなった時、泣いた。心の底から泣いた。更に決めた。この恋を諦めたのだから、絶対にグループで偉くなってやると。それから彼女は、まさに血の滲むような努力をしながら、会社の出世街道を掛け上がって行った。傍らに何時もいる、大切な友人と共に。

 

 

 

「あら、うたた寝をしていたみたい…」

 

 時は現代に戻る。ベネリット・グループ本社にあるとある部屋。そこは、彼女の私室である。

正確には、会社で用意した私室だが。先ほどまで会社の経営資料に目を通していたが、何時の間にか少し寝ていたみたいだ。

 

「懐かしい事を、思い出したわね」

 

 もう何十年も前の出来事。そんな出来事を、夢に見た。

 

(あの時彼の手を握っていれば、どんな人生があったのかしら?)

 

 所詮たらればの話だが、もしあの時彼の手を握っていれば、今とは全然違う人生を歩んでいただろう。あの後の彼の消息は暫く不明だったが、今ではその名前を聞く事ができる。なんせ彼は、圏外圏で最も名前の知られた人物になっているからだ。恐らく、相当な努力をしたのだろう。

 でも、全ては過去の話。どれだけ悔やんでも、時間を巻き戻す事なんてできない。それに彼女は、今の自分は彼に相応しくないと思っている。

 

「っと、会議の時間だわ」

 

 時間を確認すると、予定していた会議の時間がもう直ぐに迫っていた。今すぐに部屋を出て会議に行かないと、遅刻してしまう。

 

 

 

 こうしてペイル社CEOの1人、ゴルネリは会議室へ向かうのだった。

 

 

 

 

 




 そんな訳で、テイワズやゴルネリのお話でした。あとしれっとグシオン登場。

 以下、簡単なキャラ解説。

 マクマード・バリストン
 鉄血からのキャラ。色々と評価の分かれるお人。本作では、かつてアスティカシアの所属していたが、故あって学園を去る。そして単身で木星圏まで行き、様々な出来事を体験しながらテイワズを作ったという事になっている。そしてゴルネリや他のペイル社CEOとは、元同級生。

 名瀬・タービン
 鉄血からのキャラ。作中でハーレムを作ったかっこいいあんちゃんで、白いスーツの似合うオルガ達の頼れる兄貴分。本作では、オルガに出会っていない事以外は大体原作通りだけど、ジャスレイとは普通に仲が良い。

 ジャスレイ・ドノミコルス
 鉄血からのキャラ。恐らく、鉄血本編で最もヘイトを買ったと思われる人物。本作では、最初こそ名瀬とぶつかっていたが、ある日名瀬と2人きりでスペースランチの閉じ込められ、10日間宇宙を共に漂流している。その時名瀬と命の危機を乗り越えたので、なんか分かり合えた。


 次回はちゃんとスレッタや三日月の出番ありますので、どうかお待ちを。また時間かかるだろうけど。

ペイル社で、1番可愛いのは?

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