悪魔と魔女の物語   作:ゾキラファス

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 昔、友達と「1番好きなMS何?」という会話をしていた時、友達は「やっぱりフリーダムが1番好き」って言ってました。
 そして私が「ジオング」と答えると「え?趣味悪」と言われた。

 なんでや。ジオングかっこいいだろ。

 それと今回、三日月の出番あんまりありません。あとほぼ水星本編通りの流れです。ごめんね。じ、次回からまた出番増えるから許して…。


迫る脅威

 

 

 

 

 

 アスティカシア学園 三日月の畑

 

「おー。出来てる出来てる」

 

 グラスレーとの決闘から2か月後。ミオリネの温室のすぐ隣には、小さな畑が作られていた。大して広くないが、ここは三日月が土を買い、肥料を買い、道具を揃え、そしてミオリネから貰った資料を見ながら作った自作の畑である。そこで三日月は、上半身タンクトップ姿でとある野菜を掘り起こしていた。

 それは、人参。三日月はミオリネからトマトの作り方を習った後、今度は自分で別の野菜を作ってみたいと思い、そこまで難易度が高くなく、あまり時間もかからない人参を育ててみたのだ。

 結果は、それなり。いくつか形の悪い物はあるが、殆どはしっかり育っている。これで今日の地球寮の夕飯に、茹で人参が食べられるだろう。

 

「ねぇ?この肥料はどこに置けばいいの?」

 

 そんな人参を収穫している三日月に、話しかける生徒が1人。グラスレー寮の、レネである。

 

「そこのロッカーの近くに置いてて」

 

「わかった」

 

 レネは、上半身半袖の運動服姿で畑に撒いた肥料の片づけを行っている。どうして彼女がこんな事をしているかと言うと、三日月を本気で落とす為だ。2か月前のあの事件以降、レネは本気で三日月を落とす気になっている。大衆の前で、あんな恥をかかされたのだ。こんなの、三日月に責任を取ってもらわないと、納得できない。

 なのでレネは、こうして三日月が作った畑の手伝いをしたりして、三日月との仲を深めようとしているのだ。

 因みにキープくん達は、このことに対しては別に何も言ってこない。そもそもレネが、言わせないように説得したからである。

 

「にしても、こう動くと暑いねー」

 

 肥料を運んだレネは、少し前に屈んだ状態で、右手で運動服の首元を引っ張ってパタパタさせる。その体勢としぐさのおかげで、レネの胸元が見えてしまう。無論、これは態とだ。これで三日月を少しでも意識させようという、レネの作戦である。

 

「あ、タオル使う?」

 

 しかし、やはり三日月には効果なし。この2か月、似た様な事を沢山してきたが、三日月がレネに対してドギマギした事は1度もない。

 

「……使う」

 

 そんな三日月からタオルを受け取ったレネは、そのまま顔についた汗を拭く。

 

(この子、実は同性愛者とかじゃないわよね?)

 

 大抵の男ならこれでコロっと行くのに、三日月にはまるで効果が無い。もしかすると、三日月は異性に興味が沸かない子なのかもとさえ思ってしまう。でも仮にそうなら、もう勝ち目がない。なんならシャディクの方が、三日月をどうにかできそうだ。

 

「あ!いた三日月くん!!」

 

「うん?」

 

 その時、畑に誰かがやって来る。三日月が振り返ると、そこには息を切らしているニカがいた。

 

「どうかした、ニカ?」

 

「どうかしたじゃないよ!?今日はGUNDの技能運用試験の日だって言ったでしょ!?もう予定の時間とっくに過ぎてるんだよ!?」

 

「あ」

 

 そのニカの言葉に、三日月はしまったという顔をする。実は今日、株式会社ガンダムが開発しているGUNDの運用試験があるのだ。

 しかし三日月は、その事をすっかり忘れてしまっていた。おまけに使っている端末も部屋に置いてきてしまっていたので、こうしてニカが三日月を直接呼びにきたのだ。

 

「ごめん。忘れてた」

 

「全くもう。さっきスレッタがずっとベルメリアさんに謝っていたよ?ほら、今すぐ行こう?」

 

「でも、まだ片づけが」

 

 予定時間を過ぎているのなら直ぐにでも行かないといけないが、まだ使っていた道具の片づけが終わっていない。このまま散らかっている状態で行くのは、ちょっと嫌だ。

 

「あー、それならここは私が片付けておくよ。どうせ道具とか片付けるだけだしね」

 

 ここでレネが、変わりに片付けをすると言い出す。当然これは善意だけでなく、ここで少しでも三日月の好感度を上げようと思ってしている事だ。

 

「そう?じゃあ、お願い」

 

 レネがやると言うので、三日月は素直にお願いをする。これで今すぐ運用試験に行ける。

 

「了解。でも」

 

 だがその前に、レネが三日月に近づく。

 

「そのお礼って訳じゃないけど、今度また2人で食事とか行かない?」

 

 そして三日月の左腕に抱き着き、食事に誘う。当然、レネの豊満な胸が三日月の左腕に思いっきり触れるが、三日月の顔は特に変化無し。やはり、これでも効果が無いようだ。

 

「あ、あの!ちょっと三日月くんと近すぎませんか!?というか何で抱き着いているんですか!?」

 

「うん?別にいいでしょ?そもそも貴方に関係ないし」

 

 その時、ニカが少し慌てた顔をしながらレネに話しかける。だがレネはそれに反論。そもそもニカに何か言われる筋合いは無い。

 

(あれ?何で私、こんなにイラってしてるんだろう…?)

 

 一方でニカは、どうして自分がイラついているかわからずにいた。どういう訳か、レネが三日月に抱き着いた瞬間、すごく嫌な気分になったのだ。原因はわからない。でも、今すぐにでもレネを三日月から離したい。

 

 この2か月、ニカはずっと三日月の身の回りの世話をしてきた。と言っても、あまり大した事はしていない。せいぜい食事を三日月の代わりに持ってきたり、階段などで手助けしたりとその程度だ。

 しかし、2か月の間ずっと世話してきたのもあり、ニカは結構三日月にべったりな状態になっている。だからなのか、今レネが三日月にひっついているのが嫌だ。結果、何となく2人の間に火花が散っている感じになっている。

 

「ご飯くらいなら別にいいよ」

 

「え?」

 

「じゃあ、後よろしく。行こう、ニカ」

 

「え?あ、うん」

 

 そんな2人の事をあまり気にしていない三日月は、レネの誘いを受けると、そのままレネから離れてニカと共に地球寮に向う。1人畑に残されたレネは、少し驚いた顔をしながら立ち尽くす。てっきり断られると思っていたのに、まさか食事の誘いを承諾されるとは思っていなかったからである。

 

「もしかして、ご飯が攻略の糸口だったりする?」

 

 そしてレネは、三日月を落とすには食事関係が大切なのではと考える。もしそうなら、またご飯行く時は美味しいお店を探しておかなければ。その後レネは、1人で黙々と道具や肥料袋を片付けて、グラスレー寮へと戻るのであった。

 

 

 

 そしてレネはそこで、とある人物の暗殺計画を、シャディク達と共にサリウスから聞かされる。

 

 

 

 

 地球寮

 

「よし、腕と頭に装着完了」

 

「録画も準備完了。何時でもいけるぞ」

 

 三日月は椅子に座った状態で、オジェロによってGUNDを装着していた。その直ぐ隣では、ヌーノがカメラを回す。そしてその周りには、何人かの地球寮のメンバーとベルメリアがいる。

 

 今三日月の腕には、開発したばかりの腕の感触を戻すGUNDが装備されている。形は袖の長い手袋だが、そこからコードが伸びており、更にそのコードの先にはヘッドギアが装備されている。

 このGUNDの仕組みを簡単に説明すると、腕に装備したGUNDが肌の触覚情報を読み取り、それを頭に装備しているヘッドギアから脳内に情報を送る事で、腕の感触を認識するといった感じだ。

 ここまでくるのに、試作品を10個は作っては失敗するという流れを繰り返している。だが地球寮の生徒は諦めず、こうして試験を行えるところまで来たのだ。

 

「それじゃ、始めましょうか」

 

「わかりました」

 

 株式会社ガンダムに協力しているベルメリアの合図と共に、遂に技能運用試験が開始される。オジェロがスイッチを入れ、GUNDを装備した三日月が目の前にある積み木を掴む。

 

「あ、わかる。触ってる感覚がある」

 

 すると三日月の手から、物を触る感触が脳に伝わる。三日月のその言葉を聞いた瞬間、地球寮の皆はほっとする。とりあえず、最初の1歩目は成功した。だが、まだまだ。ここから更に試験がある。それら全てに合格しないと、審査資格を受ける事が出来ない。

 

「次の試験に行くわ」

 

「うん」

 

 その後も、試験は続く。腕全体を触ったり、水をかけたり、砂や泥をまぶしたり、思いっきり振ったり、最後には電気を流したりもした。そして三日月は、それら全てを以前のように感じる事が出来ている。痛かったり、熱かったり、冷たかったり、2か月前には普通に感じていた事が、再び感じられる。腕にあった違和感が、全部無くなった気分だ。

 

「うん、大丈夫そうね。これでとりあえず、審査資格は手に入れられたわ」

 

『よっしゃあああ!!』

 

 それを聞いた瞬間、その場にいた地球寮の全員が歓声を上げる。まだこれから色々と課題はあるが、これはとても大事な1歩だ。

 

「よかった…本当によかった…」

 

「おいスレッタ、泣くなよ」

 

 スレッタに至っては、涙を流している程である。自分がもっと強ければ、三日月がシャディクとの決闘であんな無茶をする事は無かった。そして今みたいに、右腕の感触が無くなる事だって無かった筈。

 だからスレッタは、何としてでも今回の試験には合格したかった。そのような気持ちで合格しているので、スレッタは人1倍嬉しいのだ。これでまた、三日月の右腕が以前みたいになれるから。

 

「皆、ありがとう」

 

「お礼なんていいって!」

 

「そうだよ!元はと言えば私達が決闘任せたのが原因だし!」

 

「それでもだよ。ありがとう」

 

 そして三日月も、開発に尽力してくれた皆にお礼を言う。正直言うと、右腕の感触が無いのは割と不便だったのだ。普段は他の寮にバレないようギプスをして生活をしていたが、地球寮内ではそれを取って生活。

 しかし、物を触っているのに触っていない感触は、普通に気持ちが悪い。何と言うか、脳がバグりそうになる。だがこのGUNDのおかげで、三日月は以前のように腕に感触が戻っているのだ。これならまた、普通の生活が出来そうである。

 

「よし!次はスレッタの番だな!」

 

「は、はい!直ぐに用意します!!」

 

 チュチュが大声でスレッタに声をかける。株式会社ガンダムが販売するのは、何も三日月のGUNDだけではない。並列して、足を失った人用のGUNDも開発していたのだ。授業に加えて、株式会社ガンダムの経営と、GUNDの開発。これらが合わさった結果、地球寮の皆は漏れなく寝不足になっている。そして今日の試験が終わったら、絶対に思いっきり寝てやると決めていたりもする。

 

「スレッタ、頑張ってね」

 

「うん!」

 

 三日月はスレッタに檄を飛ばし、スレッタもそれを受け取ってGUNDの試験に挑む。

 

 その後、両足を模したGUNDの試験も無事成功したのだった。

 

 

 

「えっと、ベルメリアさん、ありがとうございます」

 

「え?」

 

 試験が終わり、GUNDのチェックをしている時、スレッタがベルメリアにお礼を言う。

 

「ペイル社の人なのに、私達を手伝ってくれて。それに三日月のGUNDも、ベルメリアさんがいなかったら、こんなに早く作れなかったってニカさんが言ってましたし」

 

 ベルメリアの所属はペイル社である。本来なら、こうして地球寮を手伝うなんて事はしない。しかし彼女たっての希望と、ペイル社CEO達の命令もあり、彼女はGUND開発に手を貸している。おかげで地球寮は、2か月でGUNDを開発できたのだ。

 

「私はね、元々医療工学を専攻していたの。だからこうして貴方達の手伝いができるのは、嬉しいのよ。まるで昔に戻ったみたいで」

 

 ベルメリアは、どこか昔を懐かしむような顔で言う。

 

「あ、ウィンウィンってやつですね!」

 

「ふふ、そうね」

 

 両者にとって有益な関係という意味なら、まさにそうだろう。

 

「よし、チェック完了。降りて大丈夫よ」

 

「わかりました」

 

 GUNDのチェックが終わり、スレッタはGUNDから降りる。

 

「あ、そろそろトマトの水やりの時間なので、私先に失礼します」

 

「わかったわ。あとはこっちでやっておくわね」

 

「ありがとうございます!それじゃ!」

 

 そしてそう言うと、スレッタは急いでその場を離れてミオリネの温室に向う。

 

 実は今、ミオリネは学園にいないのだ。

 

 株式会社ガンダムの経営や、GUNDをより多くの人に知ってもらう為のテレビ出演、更にスポンサー探しなど。それらの経営者としての仕事がとても忙しく、もう16日も学園に帰ってこれていない。

 その間、ミオリネは温室の世話をスレッタに任せる事にしたのだ。花嫁であるミオリネから、彼女がとても大切にしている温室の世話を任されたスレッタは、それはもう慎重に温室を管理している。多分、エアリアル並みに慎重に管理している。

 

(ありがとう、か。そんな事を言われる価値なんて、もう私には無いのに…)

 

 そんなスレッタを背中を、ベルメリアは申し訳なさそうな顔で見つめる。

 

 だって自分は、もう許されないところまで来ている。今みたいにGUND開発を手伝っているのも、ただの自己満足だ。せめてこれくらいはしないと、罪悪感で押しつぶされてしまいそうだから。

 

 

 

 

 

 ベネリット・グループ本社 総裁室

 

「資金調達は順調です。転換社債による調達も、滞りありません」

 

「転換時の株価低下のリスクは考慮しているか?」

 

「え、いえ…」

 

「これでは株価下落の可能性がある。信用を軽視するな」

 

「は、はい!それでは株主比率の希薄化を再検討し、別の資金調達方法も考えます」

 

「そうだ。それでいい」

 

 総裁室では、ミオリネが父親であるデリングと株式会社ガンダムの業務報告をしていた。今までのミオリネであれば、態々こうしてデリングの元を訪れる事はなかっただろう。

 しかし決闘で三日月があんな風になった事で、ミオリネは自分のどうしても譲れない部分以外のプライドは捨てる事にした。何時までも、子供みたいに駄々を捏ねて父親に反抗してはいられない。そもそもデリングは、経営者としてはとても優秀な人物。ならばしっかりと彼から学んで、それを株式会社ガンダムの経営に生かそう。そうすれば、三日月に対する償いにもなるだろうから。

 

(にしても、やっぱり気になるわね。あの時の言葉)

 

 だがミオリネには、どうしても気になる事がある。それはシャディク達との決闘で、デリングが決闘を止めずに続行させた時に言った言葉。

 

『しっかりとその目で見ておけ。ガンダムフレームの、悪魔の力を』

 

 あの時デリングは、確かにそう言った。言われた時はあまり気にしなかったが、今にして思えば変な話である。

 

 だってあの言葉は、まるでバルバトスの力について知っているかのような言い方だ。

 

(もしかして、実はガンダムフレームや阿頼耶識システムを隠し持ってる?それとも、プロスペラから情報を受け取っている?)

 

 考えるとキリがない。決闘が終わった後、ミオリネは暫くその事についてずっと考えている程だった。

 

(でも、そんな事は後でいい)

 

 しかし、気にはなるがそれらの事をミオリネは後回しにする事にした。聞いたところでデリングが教えてくれるとは思えないし、考えても答えが出ないと思ったからだ。そういった話は、GUNDがしっかりと販売され、会社の経営が上手く行ってからでいい。今は兎に角、GUNDが最優先だから。

 

「会社経営2か月でここまでできるのは上出来だ」

 

「え」

 

「回収期間を検討し、投資をそのまま続けろ」

 

「わかりました」

 

 その時、デリングからそんなセリフが出てくる。その言葉を聞いたミオリネは、何故か胸が温かくなるのを感じる。理由はわからないが、何故か今嬉しいと思えた。でも決してその事は顔に出さない。出したら何言われるかわからないから。

 

「ところで、エイハブ・リアクターの研究はどうなっている?」

 

「こちらに」

 

 デリングに言われ、ミオリネは持ってきた資料を手渡す。

 

「……あまり進んではいないな」

 

「申し訳ありません。何分、バルバトスは現在改修作業の真っ最中でして」

 

 しかし、中身はあまりにも薄い。だが仕方がない事である。なんせバルバトスは現在、プラント・クエタというベネリット・グループが保有する工廠にあるのだ。実機が無いのにエイハブ・リアクターの研究なんて、出来る訳が無い。よって、この薄さである。

 

「まぁ、よかろう。何度も言うが、この情報は細心の注意を払って扱え。万が一にも、外に漏らすような事になるんじゃないぞ?」

 

「わかっています」

 

 大した情報は無いが、ガンダムフレームを持っていないグループ外の企業にとっては、まさに黄金とも言える情報。決して漏らす訳にはいかない。なのでデリングは、再三ミオリネに注意するよう促す。

 

「またアポを取って来るといい」

 

「わかりました。では、失礼します」

 

 デリングにそう言われ、業務報告を終えたミオリネは総裁室から出ていく。

 

(もっと細かいところまで、しっかり考えないと…)

 

 次こそは、父デリングから一切の文句を言わせない業務報告をすると誓いながら。

 

 

 

「で、これが?」

 

「うん。中古品だけど、良い船だよ」

 

「俺の親の会社にあるのと同じ船だな」

 

 本社の宇宙船ドック。そこにミオリネは、ティルと昭弘と共にいた。3人の目の前には、株式会社ガンダム用に購入した宇宙船が1隻。何時までも1隻の船も無いのは不便なので、思い切って購入したのだ。

 

「名前はどうするの?」

 

「え?いる?」

 

「船に名前は必須だろう」

 

 艦名が無いと、管制塔も誘導が出来ない。それに名前というのは、付いている事が大事だ。

 

「じゃあ、ミデアで」

 

「了解。それで登録しておくよ」

 

「お願いね。あとは、これを学園まで送ってくれるスタッフね」

 

 名前を決めたが、まだ問題がある。どうやって、この船を学園に送るかという事だ。3人共、船の操縦免許は持ってない。しかし人を雇うと、そこそこの金額がかかる。

 

「それでは、私がお送りしましょうか?」

 

「え?」

 

 そんな事を考えていると、ミオリネの背後から誰かが声をかけてきた。

 

「お久しぶりです」

 

「あなたは…」

 

 そこにいたのは、ふくよかな体系の女性と、大柄な男性。そしてその顔に、ミオリネは覚えがあった。2人の名前は、フェン・ジュンとグストン・パーチェ。数か月前、ミオリネを地球に送ろうとしていた運び屋である。

 

 

 

「また会えるなんてね」

 

「色々やっていかないと、食べていけない身でして。それでどうでしょう?望むのであれば、今からでも地球にお送りしますが?」

 

「やめとくわ。会社作ったせいで忙しくてね。とてもそんな暇なんてないのよ」

 

「ふふ。ええ、聞いていますわ」

 

 宇宙船の操縦席で、ミオリネはフェンと話す。尚この間、ティルと昭弘とグストンは船体のチェック作業を行っている。

 

「で、あんた何者?」

 

「何者とは?」

 

「最初はクソ親父目当てで私に近づいてきたどっかの企業スパイかと思ったけど、だったら会うのはもう少し前でよかった筈。今このタイミングで私に近づいてきたって事はそうじゃない」

 

 ミオリネの声は、少しだけ冷たい。そもそも初めてフェンにあった時から、ミオリネは彼女の事を胡散臭いと

思っていた。この世の中に、一体だれが善意だけで1人の小娘を地球にまで送るというのか。絶対に何か裏がある。

 

「当ててみてください」

 

「宇宙議会連合の工作員」

 

「あら正解。お見事ですわ」

 

「……工作員って、もっとシュっとしているイメージあるんだけど」

 

「それは映画の中だけですね。現実はこんな風貌も珍しくありませんよ?ついでに言うと、私のこの体形は仕事のストレスによる甘味の取りすぎです」

 

「取りすぎは体壊すわよ?」

 

「そこは鍛えていますので」

 

「何をどう鍛えるのよ」

 

 その答えに、フェンは隠すことなく認める。ミオリネの言う通り、彼女は宇宙議会連合の人間だ。

 

「で、目的はエアリアルとバルバトス?」

 

「ええ。元々は呪いのモビルスーツと言われたエアリアルだけでしたが、伝説と言われたガンダムフレームまで出てきたもので、仕事が増えて大変ですわ。最近は貴方と同じで、休む暇もありません。でもまだ調査の段階です。なのであなたの敵ではありませんよ」

 

 そしてその目的は、現在ベネリット・グループにある2つのガンダム。もしこれがカテドラルの協約違反の存在であれば、議会連合は黙っていない。力づくでも排除しようとするだろう。最悪、ベネリット・グループと宇宙議会連合で武力衝突もあり得る。

 

「じゃあ、味方になってくれない?それなりの報酬出すわよ?」

 

「嬉しいお誘いですが、それはできませんね。私、この仕事が気にいっていますので。でも微力ながら協力はしましょう。私も、最悪の未来は想像したくないので」

 

「そう。ならそれでいいわ」

 

 出来れば彼女を味方に引き入れて、色々と助けてもらいたかったが、残念ながら無理らしい。

 

「もし何か困った事があったら、またご連絡ください。例えば、想定外の事態があって手が回らない時とか」

 

「その時はお願いする」

 

 しかし、いざという時は助けてくれるとの事。頼るかどうかはわからないが、その時は遠慮なく助けてもらおう。

 

(でもそうね。スレッタには温室の管理もお願いしてるから、どうにかして休みとかあげようかしら)

 

 そしてフェンと話したミオリネは、ふと自分の婚約者であるスレッタの事を思い浮かべる。ここ最近ずっと学園に帰れていないミオリネは、スレッタに温室の管理を任せた。

 しかし、温室の管理はかなり神経を使う。ただでさえ株式会社ガンダムの事や、三日月の事、そして大切なエアリアルが壊された事で大変なのに、そこまでやらせている。今更ながら、罪悪感が沸いてくる。

 

(そこそこ資金に余裕あるし、今後は業者に頼んでもらいましょう。そうすれば、スレッタも少しは楽になるし)

 

 そう思ったミオリネは、端末を取り出して専用の業者に連絡を取る。これで少しは、スレッタも休めるだろうと思って。

 

 尚その結果、スレッタのメンタルがダメージを負う事を、ミオリネはまだ知らない。

 

 

 

 

『それで、強化人士5号。スレッタ・マーキュリーとは接触しましたか?』

 

「まだでーす」

 

 アスティカシア学園の隅。そこには、エラン・ケレスが端末でペイル社CEOと連絡を取っていた。だが彼も、本物のエラン・ケレスでは無い。ペイル社によって用意された、新しいエラン・ケレスの影武者である、強化人士5号なのだ。

 

『どうしてまだ接触をしていないのですか?』

 

「いや、タイミングを見計らっているんだよ。だってさ、スレッタ・マーキュリーの直ぐそばには、あの悪魔がいるんだろ?迂闊に近づけないって」

 

 強化人士5号がスレッタにまだ接触していないのは、三日月を警戒しているから。なんせ三日月は、オリジナルのエランと影武者であった強化人物4号を一瞬で別人だと見抜いた。もし三日月がいる状態でスレッタと接触しても、直ぐにばれてしまう。

 そして厄介な事に、スレッタと三日月は基本一緒に行動をしているのだ。なのでまだ、彼はスレッタに接触できていない。

 

「でも、ミオリネ・レンブランとは接触できて、そのうえ株式会社ガンダムのモビルスーツテスターとして雇われる事になってるし、そこまで焦る必要はないでしょ。これで何時でも堂々と、地球寮に入る事が出来るんだから」

 

 だが、朗報もある。何と少し前に、ベネリット・グループ本社で会ったミオリネから、株式会社ガンダムのテスターとして雇われたのだ。これなら、態々決闘もしなくていいし、こそこそ隠れながら地球寮に入る事もしなくていい。

 

『それはそうかもしれません。でも、早くスレッタ・マーキュリーと接触しなさい。彼女から直接情報を取る方が、ずっと手早い』

 

「はいはい」

 

 しかし、やはりエアリアルのパイロットであるスレッタから直接聞いた方が早いし確実だ。幸いスレッタは、エランという存在に恋している。これは、ペイル社CEO4人が確信している事だ。これならハニートラップができる。

 

『もし出来なかったら、今度の行先は新設された工廠ですからね?』

 

「……わかってるって。近いうちに必ず接触するよ」

 

 その言葉に、強化人士5号がぞっとする。だってその工廠は、聞いている限り本当に恐ろしい場所だから。そこに送られるくらいなら、死んだ方がマシだ。

 

(明日にでも、1度接触するか…)

 

 いくら他人の影武者としても、やっと手にしたチャンス。これをふいにする事は出来ない。

 

 こうして強化人士5号は、翌日スレッタに接触する事にした。絶対に、あんな場所に行きたくないから。

 

 

 

 

 

 ペイル社 秘密兵器工廠

 

「……」

 

 アスティカシアから帰ってきたベルメリアは、ペイル社が新たに作った工廠に足を運んでいた。

 

「お疲れ様です、主任」

 

「ええ。お疲れ」

 

 1人のスタッフが、ベルメリアにあいさつをする。その後ろには、巨大な何かがあった。

 

「それで、状態は?」

 

「極めて良好です。しかし、信じられませんよ。まさかこれほどの数値を出すとは」

 

 スタッフが端末をベルメリアに見せる。端末には、従来のモビルスーツを軽く超える性能を出しているモビルスーツの情報がぎっしり。まだシミュレーションしかしていないが、この数値は凄まじい。

 

 なんせこの新型のモビルスーツは、パイロットへの負担を一切考えていない設計思想なのだ。

 

 モビルスーツを動かす場合、パイロットには必ず負荷がかかる。なので普通は、パイロットの事を考えてモビルスーツを設計する。例え途轍もないスピードを出せても、パイロットが失神するようでは意味がないからだ。

 

 しかし今開発している新型のモビルスーツは、そんな事を何も考えていない。

 

 だってこのモビルスーツには、普通のパイロットはいらないからだ。だからパイロットの負荷なんて考えずに、作る事が出来る。更に文字通り人機一体と言ったとある方法も盛り込んでいるので、反応速度も異常の一言。ドミニコス隊のエースパイロットでも、この速度には対応できないだろう。その結果、新型機は凄まじいモビルスーツに仕上がりつつあるのだ。

 

「これはまさに、新時代のモビルスーツになりえますね」

 

「……そうね」

 

 スタッフは、今まさに新型のモビルスーツを開発している事で嬉しそうだが、ベルメリアは違う。彼女は、罪悪感で押しつぶされそうになっているからだ。

 

 だってこのモビルスーツは、完全に人の道を外しているモビルスーツだから。

 

(私は死後絶対に、地獄に落ちるでしょうね…)

 

 自分が生き残る為とは言え、多くの子供を犠牲にしてきた。その罪は、いつか必ず支払う事になるだろう。

 

 そんなベルメリアを、奥にいるモビルスーツは赤い瞳で見つめる。でも何を考えているかなんて、もう誰にもわからない。

 

 

 

 

 

 地球

 

 母なる星。青い惑星。そう呼ばれている人間の母星だが、今は違う。何せ地球は、その殆どが荒廃している。終わらない紛争、埋められない格差、そして戦争シェアリング。これらのおかげで、地球はボロボロ。綺麗な街並みなんて、殆ど残っていない。

 

 そんな地球の、かつて日本と呼ばれた地域で、ある人物が秘密通信をしていた。

 

「つまりだ。俺達に地球から宇宙に上がり、ベネリット・グループが保有する最大の開発拠点であるプラント・クエタを襲い、そこでデリング・レンブランを暗殺しろと……いくら何でも無茶が過ぎると思うが?」

 

 彼の名前は、ナジ・ゲオル・ヒジャ。地球で活動する反スペーシアン組織『フォルドの夜明け』のリーダーである。そんな彼は今、とある仕事を持ち掛けられていた。

 

 それはなんと、デリング総裁の暗殺である。

 

 反スペーシアンにとって、殺せるものなら殺したい相手。それがデリング。しかし、持ち掛けられた内容に、眉をゆがめる。なんせ無理がある。装備の乏しいアーシアンの自分達に、警備の厳重なプラント・クエタを襲えと言うのだ。

 

『拠点防衛はジェターク社の管轄です。既に警備を手薄にするよう、話はつけています。そして、行きと帰りの航路と船もこちらで用意しましょう』

 

「ほう。ジェターク社もやるのか」

 

『というより、この話を持ってきたのは向こうです』

 

「デリングは、部下にも嫌われているんだな」

 

 それなら、まだ可能性は高い。防衛艦隊がいなければ、ずっと突破しやすい。しかし、それだけはまだ不安が残るので、依頼主は更にとある条件を出してきた。

 

『更にこの作戦には『夜明けの地平線団』も参加してもらう予定です』

 

「何?サンドバルの奴らもか?」

 

『ええ。今回の作戦には、万全を期したいので』

 

 それは、フォルドの夜明けだけでは無く、夜明けの地平線団にもデリング暗殺に協力してもらうというもの。確かに、夜明けの地平線団はかなりの規模を持った反スペーシアン組織。そことも協力できれば、デリング暗殺も可能かもしれない。なんなら、プラント・クエタそのものを落とせる可能性だってある。ナジは少し考えて、答えを出した。

 

「条件を追加だ」

 

『何でしょう?』

 

「使用するモビルスーツ、それはそっちで用意してくれ」

 

『わかりました。最新鋭機は流石に無理ですが、必ず良い物を用意しましょう』

 

 ただでさえ、物資に乏しい組織なのだ。虎の子のモビルスーツを出してまで、プラント・クエタに行く事は避けたい。なので戦える武器そのものは、依頼主に出してもらおう。

 

『それでは、また連絡します』

 

「ちゃんと脱出経路のデータを送れよ?」

 

『わかりました』

 

 そう言い終えると、端末の画面が真っ暗になる。

 

「少し気に入らんが、これはチャンスだな」

 

「ナジ。やる気?」

 

「ああ。危ない橋ではあるが、同時にまたと無いチャンスでもあるしな」

 

「それはそうだね」

 

 ナジの直ぐ後ろにいた少女も同意する。デリングを殺せるチャンスなんて、もう2度と無いかもしれない。危険ではあるが、元より危険じゃない仕事なんてしていない。ならばやるべきだ。デリングさえ死んでしまえば、スペーシアンは大打撃を被るだろうから。

 

「ノレア、オルコットを呼んでくれ。直ぐに作戦会議だ」

 

「わかった」

 

 ノレアと言われた少女は、直ぐに動き出す。彼女も、スペーシアンなんて大っ嫌いだ。出来ればこの手で、1人残らず殺してやりたい程に。なのでナジがやると言った時、内心歓喜していたりする。

 

(待ってろよ、スペーシアン…!!)

 

 ノレアは憎悪を目に宿す。必ずこの手で、スペーシアンを沢山殺すと誓いながら。

 

 

 

 同じ頃、人形が沢山ある部屋では、1人の少女が目を輝かせていた。ここ最近彼女は、ずっととある試合映像を見ている。その試合映像とは、2か月前にあった地球寮とグラスレー寮の決闘だ。彼女はこの映像を、もう何度も何度も見返している。特に全身ボロボロになりながらも、大勢の相手を倒した白いモビルスーツのところを。

 

「ふふ、凄い。これもガンダムだなんて。あれ?これは違うんだっけ?」

 

 彼女が興味を示したのは、バルバトス。その圧倒的な暴力に、とても興味を持ったのだ。

 

「会って戦ってみたいなぁ…このガンダムと」

 

 端末を操作し、また同じところを再生する。

 

 その後ノレアが呼びにくるまで、ソフィはずっとその映像を繰り返していた。

 

 

 

 

 




 次回からやっとプラント・クエタです。いや、待たせてごめんね。今後も更新速度は遅いので、どうか気長に待ってくれると幸いです。
 そしていつも感想や誤字報告、本当にありがとうございます。とても励みになっております。

 あと、変なところ、矛盾しているところがあったら遠慮なく言ってください。修正します。作者、自分で書いてて設定忘れる事が多々あるもので。

 次回、狼の王様、登場。
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