悪魔と魔女の物語   作:ゾキラファス

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 久しぶりです。およそ1月ぶりですね。今週はいよいよジークアクスの放送日。楽しみですね。
 そして今回より、いよいよプラント・クエタ編です。シャディク戦よりは短くする予定です。

 でも水星本編より、犠牲者は多くなるかも。

 追記 感想にてご指摘があったので、1部を編集しました。


プラント・クエタ 1

 

 

 

 

 

 地球寮 応接室

 

 現在、地球寮の応接室には4人の男女がいる。株式会社ガンダムの社長であるミオリネと、そのすぐ後ろに立っているニカ。

 そして反対側には、アリアンロッド寮寮長であるイオクと、お供のジュリエッタだ。

 

「これが、我が社が開発した医療器具、GUNDのデータよ」

 

「拝見する」

 

 ミオリネはそう言うと、持っていた端末をイオクに渡す。それを受け取ったイオクは、真剣な目をして端末に映し出されるデータを読む。端末に出た情報は、GUND機器に関するものだ。ミオリネはこのGUND機器を、アリアンロッド社に優先して売り込むつもりでいる。

 御三家に匹敵するとさえ言われている、アリアンロッド社。それだけ大きな会社にGUND機器を売り込み、そして宣伝してもらえれば、一気にGUNDの知名度は上がる。これは、その為の事前交渉のようなものだ。ここでGUNDがしっかりと売れるかどうかを、イオクに判断してもらう。

 

「ふむ、成程…」

 

 何時もと違ってとても真剣な顔をするイオク。普段からこのような感じでいてくれたら、自分の苦労も減るだろうにとジュリエッタは内心ため息をつきながら思う。

 

「よかろう。審査資格試験にしっかり合格したのならば、我がアリアンロッド社は、これを販売する事を約束しようではないか」

 

 そしてデータを読み終えたイオクは、ミオリネとGUNDをアリアンロッド社で販売する約束を取り付ける。

 

「いいんですかイオク先輩。ラスタルCEOを通さず勝手に決めて」

 

「かまわん。ラスタルCEOは私が必ず説得する」

 

 現アリアンロッド社CEOであるラスタル・エリオンに、何の断りもなくこのような約束をするのはどうかとジュリエッタは思う。

 しかしデータを読んだイオクは、地球寮の開発したGUNDに確かな将来性を感じたのだ。これまでも義手や義足はあれど、ここまで本物の手足のように動かす事が出来る物は存在しなかった。まだ問題はあるが、これは間違いなく売れるとイオクは感じる。故に地球寮とそんな約束を交わすのだった。

 

 そしてそのイオクの言葉に、ミオリネとニカは心から安堵する。実は2人共、今回かなり緊張していたからだ。

 

 というのも、株式会社ガンダムは医療器具であるGUNDを開発したは良いが、それを販売してくれる会社が見つからずにいたのだ。

 

 色々話をしてはみたが、どこも反応はいまひとつ。誰もが、GUNDという存在に懐疑的だったからだ。どうしてもGUND=呪われたモビルスーツの技術=危険というイメージがあるせいである。ミオリネがテレビ番組に出演したり、リリッケが電話口で安全性を説いても、簡単にそのマイナスのイメージは払拭されない。

 おまけに社長であるミオリネは、デリングの娘とは言え、これまで特にこれと言って大きな利益を生む事業をしていない。つまり、実績が無いのだ。それらが相まって、GUNDを販売してくれる会社が今までいなかったのである。これではGUNDで利益を上げる事が出来ない。つまり株式会社ガンダムが、倒産しかねない。

 

 そこでミオリネは、地球にも強い影響力を持っているアリアンロッド社に目を付けた。

 

 前CEOのラカン・クジャンは、アーシアンへの支援を積極的にしていた。そんなアリアンロッド社ならば、地球という巨大市場へGUNDを売る事が出来る架け橋になるかもしれない。おまけにアリアンロッド社は、偏見を持たない事でも有名だ。他の企業よりは、ずっと可能性があるだろう。そう思い、前CEOの息子で、アリアンロッド寮寮長であるイオクへ話をする事にしたのだ。

 

 結果は上々。まだGUNDが審査資格試験に合格していないので確定ではないが、これでとりあえず一安心。今夜くらいは、ぐっすり眠れそうだ。

 

「安心しろ。こういう言い方はあまりよく無いが、地球には手足が不自由な人間は沢山いる。事実、我がアリアンロッド社が経営している病院にも、傷痍軍人や紛争に巻き込まれた民間人がいるしな。そういう人に優先して行き渡るよう、このGUNDをしっかりと売ろうではないか。無論、スペーシアンとアーシアンの両方にな」

 

 事実、彼の父親も両足が不自由で歩く事が出来ずにいる。もしこのGUNDで再び歩けるようになったならば、これほど嬉しい事は無いだろう。GUNDならば、それが叶えられる。だからイオクは、多少無理を通してでもこのGUNDの契約を結びたいと強く思っているのだ。

 

「ふむ、審査資格試験が終われば先ずは広く認知させる事が必須。ならば、やはり病院に入院している人にGUNDを使用し、そこから認知度を広めていくべきだろう。時間はかかるが、最も堅実な手段だ。その後に量産体制を整えてから、より広く多く販売するべきだな」

 

「ええ、そうね。私も同意見よ。本当はもっと大々的にしたいけど、あまりお金ないし、最初はそれがいいでしょう。病院への手配はしてくれる?」

 

「勿論だ。必ずしよう」

 

「……今更だけど、将来アリアンロッド社を受け継ぐつもりなだけあって、あんた優秀ね」

 

 以前は地球寮に難癖をつけて決闘してきたり、よく頭に血が上り視野狭窄になるイオクだが、こうして冷静にしているととても優秀。他の企業と違って、GUNDの有用性を理解できているのが良い証拠だろう。

 

「ははは!褒めても何も出んぞ!」

 

「イオク先輩、あれはお世辞です」

 

 ミオリネの世辞に乗せられて、イオクは上機嫌。今だったら、多少無茶な条件を付けてもイオクは承諾しそうである。まぁ、後で問題になりそうなのでしないが。

 

「ところでだ、我が親友である三日月はどこだ?地球寮にはいないようだが、畑で仕事でもしているのか?」

 

(((いつの間にか親友にランクアップしてる…)))

 

 そうやって契約の話を終えた頃、イオクが三日月の事を聞いてきた。でも何でか親友になっている事に、誰もがツッコミを入れたくなる。けれどここで下手にツッコムと、絶対に面倒な事になるので、その場にいたイオク以外の全員がその言葉を飲み込んだ。

 

「三日月なら今、学園にいないわ」

 

「いない?何処に行ったのだ?」

 

「プラント・クエタよ。ようやくバルバトスの改修が終わったから、それのテストをする為にね」

 

 そんなイオクにミオリネは答える。今三日月は、ベネリット・グループが所有する巨大工廠、プラント・クエタにいる。理由は、改修の終えたバルバトスの最終調整だ。

 本来なら、別にパイロットを直接よこして最終調整なんてしなくていい。実際、バルバトスと共に改修の終えたエアリアルは、スレッタがいなくても最終調整が終わっている。

 しかし、バルバトスは特別なモビルスーツ。最終調整には、阿頼耶識システムを埋め込んでいる三日月が必要不可欠なのだ。なので三日月は、昨日の朝1番のシャトルでプラント・クエタに向っている。今頃、バルバトスに乗ってテストでもしている事だろう。

 

「そうか。共に昼食でもと思ったのだが、仕方ない」

 

(こいつ、三日月とレネが2人で食事に行った事知ったら、嫉妬とかするのかしら?)

 

 ふとそんな事を思ったミオリネだが、ハンカチを噛みながら悔しそうな表情で三日月を見ているイオクを想像すると気持ち悪くなったので、直ぐにその考えを永遠に抹消する。

 

「そのうち会えますよ、イオク先輩」

 

「それはそうなのだが、やはり少しでも早く会いたいではないか。それにジュリエッタ。お前も三日月に会いたがっていただろう?」

 

「ええ、バルバトスが改修された後の決闘の予定を聞きたかったので」

 

 イオクの言葉に、ジュリエッタも賛同する。グエルとタッグを組んで挑んだ決闘で、ジュリエッタは見事に負けた。完敗と言ってもいい。なので早くリベンジを果たしたいと思っているのだが、現在三日月には多くの決闘待ちが発生している。

 

 グラスレーとの決闘後、その力を大勢に見せつけた三日月とバルバトス。最初こそ恐れられていたが、次第にそれは渇望に変わっていく。なんせ、たった1機であれだけのモビルスーツを破壊したのだ。当初バルバトスは、機体内部に積んであるエイハブリアクターの方が注目されていた。だが、あれだけの戦闘能力を見せられてしまえば、その見方も変わる。

 もしバルバトスを量産できれば、どんなモビルスーツも太刀打ちできないだろう。エネルギー分野と、モビルスーツ分野の2つで天下が取れる。

 おかげで今バルバトスは、ベネリット・グループ内部だけでなく、外部のあらゆる勢力から注目の的。そして外部は色々と水面下で動いているが、内部は最も簡単な手段を取ろうとしている。

 

 それは決闘に勝利して、バルバトスを手に入れるというもの。

 

 面倒な裏工作も、交渉も必要ない。ただ決闘で勝利する。それだけで、バルバトスが手に入る。なので多くの生徒が、バルバトスの所有者である三日月に決闘を申し込んできた。

 しかし、先のグラスレーとの決闘でバルバトスはボロボロになり、今は決闘が出来ない状態。なので三日月には現在、かなりの決闘待ちが発生しているのだ。あまりにも多すぎて、一体どれだけ待ちが発生しているかわからないくらいである。

 

(発生しているのは三日月だけじゃなくて、スレッタもなんだけどね…)

 

 そしてミオリネが思う通り、スレッタにも三日月同様の決闘待ちが発生している。バルバトス程ではないが、エアリアルもかなり注目されているせいだ。もしシャディクが気を利かせて、決闘待ちを調整してくれなかったら、パイロット同士の生身の決闘が発生していたかもしれない。

 

「ま、遅くともあと10日くらいで決闘再開できる筈だから、それまで待ってて頂戴」

 

「無論です。ここまで来てフライングなんて真似はしませんから」

 

 出来れば直ぐにでも決闘をしたいが、ジュリエッタが乗る予定のモビルスーツは、まだ修理が終わっていない。自分の武器が無い状態で決闘なんて出来ないので、ジュリエッタは焦る気持ちを抑えながらぐっと我慢をする。

 

(今度こそ、必ず勝利を…!)

 

(な、何だかジュリエッタの背中から炎が見える気がするのだが…!?)

 

 でもその闘志を隠す事は出来なかった為、イオクは少しだけ冷や汗をかいていたりした。

 

 

 

 

 

「これでひと段落ね」

 

「お疲れ、ミオリネ」

 

 イオク達アリアンロッド寮との商談を終えたミオリネは、両手をぐっと伸ばす。ここ数日、碌に販売ルートが構築できずに焦っていたが、これで何とかなりそうだ。

 

「ニカ、今日はもう休んでいいわよ。明日には私達もプラント・クエタに行くし、早めに寝て明日に備えてて」

 

「ミオリネは?」

 

「少しだけ書類仕事があるから、それ終わらせてから寝るわ。大丈夫、1時間もかからないから」

 

 そう言うとミオリネは書類を机の上に出して、それに必要な情報を記入し出す。これは企業の社長がやらないといけない仕事なので、ニカに手伝ってもらう訳にはいかない。さっさと終わらせて、シャワーを浴びて寝てしまおう。

 

「ミオリネ」

 

「何?」

 

「スレッタと何かあったでしょ?」

 

 けれどそんな時、ニカがミオリネにそんな質問をしてきた。そして質問をされたミオリネは、手を止めてしまう。

 

「ここ最近のスレッタ、明らかに変なんだよね。ティコの世話を率先してしたり、寮のトイレ掃除もしたり、何でか皆の昼食の注文を取ったり。なんて言うかさ、無理して張り切ってる感じがして」

 

 ニカの言う通り、最近のスレッタは様子がおかしい。どういう訳か、変に張り切って色んな仕事をしている。別に頼んでもいない仕事もしたり、する必要の無い仕事もしたりとおかしいのだ。

 更にミオリネが、最近スレッタと話しているのを見ていない。そこでニカは、2人が喧嘩でもしたのだろうと当たりをつけた。

 

「私が悪いみたいに言わないでよ」

 

 どうやら、正解のようだ。実はミオリネ、例の温室の世話を業者頼んだ後にスレッタと話していたのだが、その時の会話がとても言葉足らずだったのを後になって自覚。あれでは『あんたはもう用済み』と言っているようなものである。

 でもミオリネは、スレッタは自分の花婿で優秀な子だから、態々訂正しなくても察してくれるだろうと思い、そのままスレッタを放置してしまっているのだ。

 そしてそんなスレッタは現在、自分は調子に乗っていただけで、実は何にも任されない子だと思い込むようになり、自分は皆の役にたてるとアピールしているというやや痛々しい感じになっている。

 

「それに、スレッタには三日月がいるじゃない。別に私が何か言わなくても大丈夫でしょ」

 

 ミオリネの言う事は、ニカも理解できる。なんせ三日月とスレッタは、10年以上一緒にいる幼馴染だ。そんな三日月ならば、スレッタが落ち込んでいてもしっかりとサポートしてくれるだろう。

 

「うーん、確かにそうかもなんだけど、私はミオリネの方がいいと思うよ?」

 

 しかしニカは、スレッタにはミオリネの方が良いと思っている。

 

「何でよ」

 

「だってミオリネは、スレッタの花嫁でしょ?」

 

「……」

 

 ニカの言う通りで、ミオリネとスレッタは婚約している。決闘で決まった婚約ではあるが、2人はれっきとした婚約者同士。それにスレッタは、ミオリネをとても大事に思っている。そんなスレッタが落ち込んでいたりするのなら、励ますのは幼馴染の三日月では無く、花嫁のミオリネの方が適任だろう。

 

「明日、ちゃんとスレッタと話した方がいいよ?誰もがミオリネみたいに、何でも出来たり察せたりする事が出来る訳じゃないんだから。だから、ちゃんとミオリネがスレッタと話してあげて。早くしないと、誰かにスレッタ取られちゃうかもしれないよ?

 

 そう言うとニカは、部屋を出ていく。

 

「……」

 

 部屋に1人残されたミオリネは、書類を記入する事も無くそのままだ。

 

『誰かにスレッタ取られる』

 

 このニカの言葉が、ミオリネに刺さっているせいである。

 

(いやいや、大丈夫でしょ。別に私が何か言わなくても、あの子が他の誰かになびくなんて無いって。だってスレッタは、私の事が好きなんだし。だから別に私が何か言う必要なんて…)

 

 自分でそう言い訳をするが、ミオリネはどんどん不安になっていく。そもそも幼馴染の三日月がいるし、行方知れずのグエルには告白されているし、エランには初恋している。冷静に考えると、ライバルがとても多い。

 

(明日、絶対にどっかで時間作ろう…)

 

 今更スレッタがいなくなるなんて、考えたくもない。というより、もうスレッタを手放す気なんて無い。そうでなければ、会社なんて作らないし。なのでミオリネは、明日のプラント・クエタのどこかでスレッタと話そうと決める。

 

 その後モヤモヤしながら、ミオリネは書類制作をするのであった。

 

 

 

 

 

 プラント・クエタ

 

 隕石をくり抜いて作られた施設、プラント・クエタ。ベネリット・グループが保有する、巨大な工廠である。百近い艦船が停泊し、数千人が働いて、それらを守る数多くのモビルスーツがいる施設だ。

 

 そんなプラント・クエタの周辺に、一筋の光が走っている。

 

 それは一見まるで流れ星のようだが、その軌道はまるで違う。真っ直ぐ飛んだかと思えば、急にカーブを描いて飛ぶ。更にそこからジグザグに飛んで、再び真っ直ぐに飛んでいく。それも恐ろしい速度で。こんな動きが出来る流れ星なんて無い。明らかに流れ星では無い、別の何かである。

 

「目標地点に到達。これから的を壊せばいんだっけ?」

 

『ええ。思う存分にやってね三日月くん』

 

 その正体は、改修が終わったバルバトスだ。そしてそのバルバトスには今、三日月が乗っている。彼は現在、バルバトスのテストを行っている最中なのだ。

 

「じゃ、行くか」

 

 三日月はバルバトスの背中のブースターを吹かすと、用意されてた的であるもう動かないモビルスーツに向う。そして手にしていた、あまりに巨大な超大型メイス。これだけで、ほぼバルバトスと同じ大きさをしている。バルバトスはその超大型メイスを振りかぶって、モビルスーツ目掛けて振り下す。当然、的になっているモビルスーツは木端微塵だ。

 

「次」

 

 三日月は直ぐに移動し、新しい的に向う。今度の的は、重装甲のモビルスーツ。旧時代の戦艦の砲撃にも耐えるなんて言われていたが、今のバルバトスには関係が無い。三日月は超大型メイスを目標に投げたかと思えば、ブースターを吹かして目標に接近。巨大メイスが重モビルスーツに命中したのを確認すると、超巨大メイスをまた掴んで振り上げる。

 そしてそのまま、力の限り振り下ろした。かつて戦艦の砲撃にも耐えるなんて言われていた重モビルスーツは、無残な姿をさらす羽目になる。もしパイロットが搭乗していたら、ミンチより酷い状態になっていただろう。

 

「次」

 

 重モビルスーツを破壊した三日月は、またバルバトスを移動させる。今度の的である2機のモビルスーツからは、出力を抑えたビーム攻撃が放たれる。

 しかし、三日月が操縦するバルバトスはそれを難無く避ける。かすりすらしない。そして間合いに入ったバルバトスは、右手に持っていた超大型メイスを片方の的のモビルスーツに投げつけ、もう片方の的のモビルスーツには、腕部に内蔵されるようになったビーム砲で攻撃。メイスが直撃したモビルスーツはバラバラになり、ビームが当たったモビルスーツも同様だ。

 

「次」

 

 モビルスーツに突き刺さっている超大型メイスを手に持つと、そこから更に移動する。すると今度は、3機のモビルスーツが攻撃を開始。しかも攻撃方向は、バルバトスの背後だ。普通ならば、方向転換しないとどうにもできない。

 

 だが改修されたバルバトスは、もう普通じゃない。

 

 何と、背中にある剣の様な物が突然伸びて、3機のモビルスーツの内1機にそれを刺した。そのままその剣は奇妙な音を出しながら横に振られ、隣にいたモビルスーツと衝突。更に残った1機に再び剣が迫り、胴体を貫いた。こうしてあっという間に、3機のモビルスーツが破壊されたのである。

 

「次で最後だ」

 

 モビルスーツを破壊した三日月は、最後の目標地点へ向かう。そこには、もう古くてまともに航行できない1隻の船があった。そしてその船からは、出力を抑えたビーム攻撃が雨あられとバルバトスに向って放たれる。三日月とバルバトスはその攻撃を全て避けて、船の下に潜り込む。そこに超大型メイスをエンジン部分に思いっきり突き刺し、先端に装備されているパイルバンカーを起動。

 すると船はエンジンが破損し、一気に火の手が回る。そこからバルバトスは船の上に移動。そして船の上空から超大型メイスをブリッジ目掛けて振り下ろした。船のブリッジは破壊され、そのまま船は爆発。

 これで全ての目標を破壊できた。バルバトスは無傷。そして三日月も、特に怪我や不調が無い。まさに完全試合ともいえる状態だ。

 

「うん、大丈夫そうだ」

 

『お疲れ様、三日月くん。見事だったわよ』

 

 目標全てを破壊した三日月は、満足そうな顔をする。やはり、シミュレーターだけではどうしても物足りない。こうして、本物を動かす方がずっと良い。それは、プロスペラも同じだ。こうして本物を動かしている時の方が、重要なデータを沢山取れる。上に無理を言って、本物の宇宙空域でバルバトスの起動テストをしたかいがあったものだ。

 

『クリーナー部隊、掃除お願い』

 

 プロスペラがそう言うと、バルバトスがテストをしていた宙域にアームや網のついたスペースランチが多数発進する。この部隊は、宇宙空間で行われた演習やモビルスーツテストで発生したゴミを集める部隊だ。昔から、宇宙ゴミの問題はスペーシアンにとって悩みの種。小さなネジひとつでも、宇宙服に当たれば死亡する事もあるからだ。

 だから議会連合が定めた条約では『宇宙空間では実弾兵器の使用を禁ずる』と明記されている。実弾兵器を使用すると、薬莢は大量に宇宙にバラまかれてしまうから。

この条約のせいもあって、スペーシアンが使用するモビルスーツの主兵装はビームが主体なのだ。

 そしてたった今、バルバトスは多くのモビルスーツを破壊している。当然、破壊されたモビルスーツからは大量の宇宙ゴミが発生。これをそのままにはしておけないので、こうしたクリーナー部隊がいるのだ。全ての宇宙ゴミの回収は無理でも、これで9割は回収できるだろう。

 

『それじゃあ三日月くん、戻ってきて』

 

「わかったよ」

 

 テストで発生した宇宙ゴミをクリーナー部隊に任せて、三日月はプラント・クエタのモビルスーツドックへと戻っていく。

 

 

 

「阿頼耶識システム、問題無し。外します」

 

 シン・セー所属の作業員が三日月の阿頼耶識システムを外し、三日月のバイタルをチェックする。

 

「パイロット、バイタル問題無し。どこか気分が悪かったりしますか?」

 

「無いよ。全然大丈夫。バルバトスと繋がっていると、右腕もちゃんと感触あるし」

 

 三日月は作業員に、右腕を動かしながら答える。先のグラスレーとの決闘で、三日月は右腕の感触が無くなってしまっている。しかしバルバトスと繋がっていると、その感触が完全に戻っているのだ。

 おかげで三日月は、バルバトスに乗っている時の方が過ごしやすかったりしている。最もそれも、GUNDが正式に認められればそんな事無くなるのだろうが。

 

「お疲れ様、三日月くん」

 

 そこに現れるプロスペラ。その手には、三日月が普段使いしている黒いギプスがある。

 

「それで、どうだったかしら?新しいバルバトス、ルプスレクスの使い心地は?」

 

「良いよ。前より動きやすいし、何より背中のアレが気に入った。今まで自分に尻尾が無かったのが不思議なくらい馴染んでいたし」

 

「ふふ、阿頼耶識様様ね」

 

 三日月にギプスを渡しながら、プロスペラは新しいバルバトスの感想を聞く。

 

 バルバトス ルプスレクス。

 これがグラスレーとの決闘でボロボロになり、その後ここプラント・クエタでプロスペラが改修した、狼の王の名を冠する新しいバルバトスである。腕は以前より大型化しており、外付けのビーム砲も腕に内蔵されるようになった。更に腕には内蔵アームもあり、いざという時はこれで相手に攻撃もできる。指先も一新されて、これでモビルスーツを貫く事も可能だ。足の踵にはヒールバンカーも装備され、相手を蹴ると同時にこれで貫く事もできる。

 

 だがルプスレクスで最も特徴的なのは、背中に装備された尻尾のような武器、テイルブレードだろう。

 

 これはとても鋭利で頑丈な剣であり、それを伸縮性可能な流体金属のワイヤーで繋げている。プロスペラがどこかで見つけた物を改造し、それをバルバトスの背中に装備させたのだ。普通ならば、こんな武器まともに使える訳が無い。操作が異常に難しいからだ。実際プロスペラがシミュレーターで使用した時は、あまりの難しさに匙を投げた程だ。

 しかし、阿頼耶識システムの手術をしている三日月は、この武器をまるで自分の体の一部のように扱える。おかげで疑似的な2対1の戦いをすることができる。有線で繋がっているので、言ってしまえばGUNDビットの下位互換なのだが、三日月はこれを本当に上手に使う。シミュレーターではこれを相手の足に巻き付けたり、それをそのまま別の相手に投げつけたりしていた。

 そんなまさに全身武器と言える程全面改修されたのが、このバルバトスルプスレクスだ。正直、同じく改修されたエアリアルでも勝てるかわからないくらいにはなっている。

 

「体は本当に大丈夫?」

 

「全然大丈夫」

 

 ギプスを装着する三日月に、プロスペラは質問をする。今回も阿頼耶識システム使ってバルバトスを起動しているので、どうしても少し不安が残る。三日月は問題ないらしいが、それでもやはり不安。

 

(この後もう1回、診察させましょ)

 

 三日月は嫌がるだろうが、そこは我慢させよう。ここでまた三日月の体に異常があった時の方が、ずっと困るし。

 

「これで今日のテストは全て終わりよ。朝からお疲れ様」

 

「やっとか。長かったな…」

 

 朝からずっとバルバトスのテスト漬けだったせいで、体力お化けの三日月も流石に疲れが出ている。さっさとシャワー浴びて、ゆっくりしたいもんだ。

 

「確か、明日スレッタ達が来るのよね?」

 

「うん。エアリアルを取りにね。もう完成してるんでしょ?」

 

「勿論よ。何時でもスレッタに渡せるわ」

 

 2人の視線の先には、バルバトス同様に改修されたエアリアル。背中には新しく翼型のフライトユニットが取り付けられ、従来の弱点だった空間機動性や飛行時の旋回能力が向上している。胸部装甲も改修され、コックピット周りの防御力も向上。

 更にビームライフルを大型化し、攻撃力が大幅に上がっている。おまけにこれ、GUNDビットを装備させて最大出力で発射すると、戦艦すら撃ち落とす程の威力があるのだ。全体的に性能が底上げされたのが、このエアリアル改修型である。

 

「顔、前の方が好きだったな」

 

 三日月は、エアリアルの顔を見ながら小さく呟く。エアリアルの顔も少しデザインが変更されているのだが、そのせいでちょっとだけ怖い顔つきになっているのだ。

 

(これって、整形って奴になるのかな?だったら整形失敗になるけど)

 

 三日月が、その言葉を口にしなかったのは賢明だろう。もしその言葉を口にしていれば、エアリアルからエスカッシャンが飛んできただろうから。

 

「それじゃあ三日月くん、シャワー浴びてきていいわよ」

 

「わかった」

 

 プロスペラに言われ、三日月はバルバトスのコックピットから出る。

 

(やっと明日、スレッタ達に会える)

 

 昨日からここでずっとテストばかりだったが、それももう終わり。明日にはスレッタにも会えるし、学園に帰って畑の世話もできる。そして地球寮の皆と一緒に食事もできる。それが今から楽しみだ。

 

 その後、シャワーを終えた三日月にまた診察するようプロスペラから命令が来て、三日月はかなりげんなりするのだった。

 

 

 

 

 

 翌日 株式会社ガンダム輸送船 ミデア

 

「マルタン、減速スラスター制御始める?」

 

「え?入港軌道上の危険物確認が先じゃない?」

 

「あれ?そうだっけ?」

 

 株式会社ガンダムが購入した輸送船、ミデアの艦橋で地球寮の皆がプラント・クエタに向って船を航行させていた。しかし、全員本物の船を動かすのはこれが初めてなので、プロ程スムーズにはいかない。

 

「え、えっと。軌道上の危険物確認が先です。その後に減速しながら、プラント・クエタの管制塔から入港許可を貰って入港です!」

 

「あ、そうなんだ。ありがとう、スレッタ」

 

「い、いえいえ!」

 

 そんな中、スレッタは皆に丁寧に手順を教える。実はスレッタ、大型艦の操縦免許を持っているのだ。なので地球寮の中では、1番船の航行に詳しい。

 

「こちら、株式会社ガンダム所属の輸送船ミデア。プラント・クエタ、入港許可を求めます」

 

『こちら、プラント・クエタ管制塔。輸送船ミデア、プラント・クエタへの入港を許可します。そのまま65番ドックへ入港してください』

 

「こちら株式会社ガンダム輸送船ミデア、了解しました」

 

 プラント・クエタの管制塔から許可も得られ、ミデアはそのまま65番ドックへと向かう。

 

「アリヤ、ルーム11でエラーが出た」

 

「あ!多分ティコ達だ!!」

 

 しかし、やはり順調にはいかない。ドックへ向かう途中、警告音が鳴り響く。ルーム11には、地球寮から連れてきたティコ達がいる。誰もいない地球寮に、そのまま置いていくなんて出来ないので、態々連れてきたのだ。

 でも動物にとっても、無重力というのはあまり良い環境じゃない。恐らく慣れない環境のせいで、船内のケーブルにでもぶつかったりして、そのまま引っかかってしまっているのだろう。

 

「こちらブリッチ。昭弘とヌーノ。手が空いていたらルーム11に行ってティコ達の様子を見て来てくれないか?」

 

 アリヤは現在この場にいない昭弘とヌーノに連絡を入れる。

 

『あー、悪いが今はちと無理だ』

 

『俺ら今、格納庫の設備の最終チェックしているからなー。暫くかかるから無理だぞ。すまん』

 

「む、そうか。わかったよ」

 

 だが、丁度2人共手が空いていないらしい。仕方が無いので、アリヤが行く事にした。自分1人がいなくても、入港は問題ない筈だ。

 

「あ!なら私行ってきます!」

 

「え?でも」

 

「大丈夫です!行ってきます!!」

 

 だがアリヤが行こうとした時、スレッタがルーム11に向ってしまう。それも、どこか張り切った状態で。

 

「なんだかスレッタ先輩、張り切ってますね?」

 

「久しぶりにエアリアルに会えるから嬉しいだけじゃねーの?三日月も3日ぶりになるしさ」

 

「そうですかね?」

 

 妙に張り切っているスレッタの事を、リリッケは少し不安そうに見る。チュチュは気にしすぎと思っているようだが、やはりどこかおかしい。何と言うか、今のスレッタは無理して頑張っているように見える。

 

「おいおい!マジかよあれ!?」

 

 リリッケがそんな事を思っていると、突然オジェロが興奮した様子で叫ぶ。

 

「どうかした?」

 

「あれ!あの赤い船見てくれ!!」

 

 アリヤがオジェロに問うと、オジェロはプラント・クエタのドック内にいる赤い船を指さす。

 

「なんか、茹でた海老みたいな船だな」

 

 その船は全体的に赤く、艦首は丸くて、艦尾は細長い作り。アリヤの言う通り、確かにどこか海老っぽい船だ。

 

「あれはハーフビーク級強襲揚陸艦だよ!すっげー昔の船!大昔の戦争で全部失われたとか言われていたけど、まさかこの目で見れる日が来るなんて!!」

 

 オジェロが驚いている理由は、あの赤い船が所謂クラシックシップと呼ばれる代物だからだ。大昔に建造された船だが、まさか未だに動いている本物が見れるなんて思ってもみなかった。出来ればこのまま仕事をほっぽり出して、あの船を見学したいくらいである。

 

「男の子って、どうしてああいうの好きなんだろうね?」

 

「ですねー」

 

「私の同期にも、船が好きな人いたわね…」

 

「はは、まぁ男の性ってやつかな…?僕も嫌いじゃないし」

 

「あーしも詳しくは無いけど好きだぜ。かっこいいじゃん」

 

 アリヤとリリッケとベルメリアは、その古い船の何が良いのかわからないが、マルタンとチュチュは理解できた。別に大して理由なんてないが、やはり船はかっこいいと思ってしまうのだ。魂がそう言っているのだから、仕方が無い。

 

「ところでさ、あの船の先に書いている物何?花?」

 

「いや、魚じゃねーか?」

 

 それはそうと、あの赤い船の艦首に書かれている変なマークが気になる。有名な企業なら、船体に企業のロゴマークを書いているのも多いが、少なくともここにいる皆はあんなマークは見た事が無い。もしかすると、かなりマイナーな企業なのかもしれない。

 

「っと、お喋りはそこまでね。全員今はドックへ入港する事を考えて」

 

『了解』

 

 ベルメリアに言われ、全員が入港作業を再開する。ここで脇見航行なんてしてしまえば、全員死んでしまうかもしれない。なので今は、安全にドックに入港できる事に集中しなければ。

 

 そしてミデアは、プラント・クエタへと入港するのであった。

 

 

 

 

 

 運送会社アローズ 輸送船 カシュタンカ

 

 ベネリット・グループに所属していない輸送会社、アローズ。特にこれと言って大きな事業を成している訳ではないが、堅実に仕事をしているまっとうな輸送会社。その会社が所有する輸送船パプアの廊下を、作業服を着た1人の青年が歩いていた。

 

「えっと掃除は終わったし、在庫の確認も終了。後は、プラント・クエタに着くまでは休憩か?仮眠室開いてるかな?」

 

 彼の名前は、ボブ・ケーブル。少し前にアローズに入社したばかりの新人だ。とても真面目な性格で、仕事も一生懸命に頑張っている。おかげで社員からの信頼も直ぐに勝ち取った。

 

 が、その正体はベネリット・グループ御三家の一角、ジェターク社の御曹司であるグエル・ジェタークである。

 

 彼は数か月前、父親の言いなりになるのを拒否した結果、家出をした。もしあのまま学園にいたら、自分はずっと父親に言われるがままの生活を送っていただろう。それに反抗するために、グエルは家出。

 そしてベネリット・グループの影響の届かない、この小さな中小企業にアルバイトとして就職し、こうして今も真面目に働いている。

 

(何時かは帰らないといけないんだけどな…)

 

 噂で聞いた話だが、ジェターク社はグエルの捜索を秘密裏にしているらしい。何時までもずっとこのままこの会社にいる訳にはいかない事はわかっている。

 しかし、今はまだジェターク社に帰れない。そのせいで弟のラウダや父親であるヴィムに相当な迷惑をかけているだろうが、今は帰らない。せめてもう少し、自分が父親に認められるように立派になるまでは、絶対に帰らない。

 

「おいボブ」

 

「ん?ビトーか、どうした?」

 

 そんなグエルに、話しかける人物がいた。グエルが振り返ると、12歳くらいの子供、ビトーが1人いた。そしてその手には、沢山の箱がある。

 

「これ、弁当。ブリッジにいる社長達に持っていってくれ」

 

「ああ、わかった」

 

 どうやら、弁当を渡してきて欲しいらしい。グエルはそれを受け取り、ブリッジに向う。

 

「ようボブ。飯かー?」

 

「いや、俺じゃなくてブリッジにいる社長達のだ」

 

「そっかー。お前も飯はちゃんと食っとけよー。飯が食えないのってすげーきついからさ」

 

「わかった」

 

「よし、じゃあ俺達は格納庫へ行くか」

 

「そうだなー。まだ仕事あるし」

 

「じゃあなボブ」

 

「おう。またな」

 

 その途中、荷物を運ぶ子供とすれ違う。

 

(にしても、この会社子供多いな…)

 

 グエルがそう思うのも無理はない。普通、あんな小さな子供がこんなに多く仕事したりしない。おまけにグエルは、ここでの仕事を子供達から教えてもらっている。よくよく考えたら変な話だ。いくら何でも、子供の数が多すぎる。

 

「失礼します」

 

「ボブか。どうした?」

 

「はい。こちら、弁当です」

 

「お、そうか。ありがとよ」

 

 ブリッジにたどり着いたグエルは、弁当を社長に渡し、それから周りにいた他の社員にも渡す。

 

「お前達も今の内に食っとけ」

 

 『わかりました』

 

 そう言われ、手すきの社員達が弁当を開けて食べる。

 

「お前は?食ったのか?」

 

「いえ、まだですが」

 

「なら後でちゃんと食っとけ。しっかり食べないと、力が出ないからな」

 

「わかりました」

 

 プラント・クエタ到着まで、まだ数時間ある。今ちゃんと食べておかないと、仕事に支障が出るかもしれない。ここで皆の弁当を配り終えたら、自分も休憩室で食べようとグエルは決める。

 

「失礼します」

 

「ん?どうしたビトー?」

 

「いえ、さっきボブに弁当渡し忘れていたからさ。これ、お前のな」

 

「あ、ああ。すまん」

 

「いや、こっちも渡し忘れててごめんな。じゃ」

 

 ビトーと呼ばれた少年は、グエルに弁当を渡すとブリッジから去っていく。

 

「どうかしたか、ボブ?」

 

「いえ、今更ですが、この船には、子供が多いなって思いまして」

 

「ああ、その事か。そういえば、お前にはまだ言っていなかったな」

 

 やはり、何か事情があるようだ。そして社長は話し出す。

 

 

 

「あの子らはね、元ヒューマンデブリだよ」

 

「は?」

 

 

 どうして、子供が多いかの訳を。

 

「うちの会社にいる子供は、全員元ヒューマンデブリなんだ。全員がアーシアンで、戦災孤児さ。そしてなんの伝手も無いアーシアンは、碌な仕事も後ろ盾も無いからな。攫われた後に、非合法に二束三文の値段で売られちまうんだ。うちはそういった子供を可能な限り正式に雇って、仕事をさせながら勉強を教えて、真っ当な道に進めるようにしてるんだよ」

 

 グエルにとってそれは、あまりに衝撃的な話だった。

 

 ヒューマンデブリ。

 それは、その辺に落ちている鉄くずと変わらない値段で売られる孤児の事を言う。言うなれば、奴隷だ。その出身は様々で、親の事業が失敗したせいで身売りされた子供もいれば、戦争で親を失った子供が、人攫い組織に攫われて売られる事もある。中には、その場にいた大人を全員殺害して、子供を攫うなんて事もあるのだ。本当に二束三文の値段で売られるので、とても危険な宇宙作業を無理やりさせられたり、変態のおもちゃにされたりと、基本碌な扱いを受けてない。彼らの扱いは、何時でも替えが利く駒程度しかないからだ。

 

「ま、待ってください!確か議会法でヒューマンデブリは禁止されている筈じゃ!?」

 

 グエルの言う通り、ヒューマンデブリといわれる存在は宇宙議会連合によって禁止されている。なんせ人身売買だ。このような非人道的な事を、議会連合が許す訳ない。

 

 しかし、現実はそんな事は無いのだ。

 

「確かに表向きはそうだが、裏じゃあんな子はいくらでもいるよ。なんせ地球では、今でもそこら中で戦争してんだ。孤児なんて掃いて捨てる程いるんだから、探すのには困らないからな。宇宙議会連合も、大してあてにならないって」

 

「そんな…」

 

 その事実に、グエルはショックを受ける。グエルは恵まれた環境で生まれ、そして生きてきた。そんな彼からすれば、こんな非道は到底許されない。今まで考えもしていなかったが、自分達スペーシアンがしている戦争シェアリングは、こうして悲劇を沢山生んでいるのではないのか。

 更に言えば、グエルの実家であるジェターク家も、戦争シェアリングにバッチリ関わっている。その事実があるせいでグエルは、この会社の子供達が親を失ったのは、自分の家のせいではないのかと考えてしまっている。

 

「別に、お前がスペーシアンだからってショックを受ける必要はないぞ。そもそもお前のせいじゃないだろう」

 

「ですが…」

 

 社長はそう言うが、やはり簡単にはいかない。今グエルの中では、罪悪感がうごめいている。でもどうすればいいかなんて、わからない。流石に子供に直接謝ったら終わりという話ではないし。

 

「じゃああれだ。後であいつらになんか勉強でも教えてやってくれ」

 

「そんな事でよければ、喜んで」

 

 社長に言われ、グエルは仕事が終わったら子供達に何か勉強を教えてやろうと決める。こんな事で罪滅ぼしになるとは思っていないが、今は少しでも何かをしたい。

 

 グエルがそう思った時、ブリッジに警告音が鳴り響く。

 

「どうした?」

 

「監視システムにオブジェクト!パーメット識別コードを確認!モビルスーツです!」

 

「プラント・クエタからか?相互通信チャンネルは?」

 

「応答なし!本船に接近してきます!」

 

「警告を発しろ」

 

 社長に言われ、直ぐに警告を発するが、相手のモビルスーツはそれを無視。

 

「こちら輸送船カシュタンカ。接近しているモビルスーツ、所属を明らかにせよ!」

 

 今度は通信してみるが、それも相手は無視。そして接近してきたモビルスーツの姿が、ようやく肉眼でも見える距離にやってきた。

 

「あれは…!?」

 

 グエルはそのモビルスーツに見覚えがある。だって接近してきたモビルスーツは、スレッタが乗っているエアリアルにとても似ていたのだから。

 

「後方よりモビルスーツがまた接近!数は5!いや7!10!どんどん増えていきます!!」

 

「なんだこれは!?何が起こっているんだ!?」

 

 流石にこれが異常事態だと気が付く社員達。そしてエアリアルに似たモビルスーツが、手にしているガトリングの様な武器をブリッジに向けて言葉を発する。

 

『とりあえず、そのまま動かないで?もし動いたら、直ぐに引き金引いちゃうから』

 

「子供の声…!?」

 

 その声は、未だに幼さが残る声、子供の物だった。

 

『我らはフォルドの夜明け。これよりこの船は、我らの占領下に置かせてもらう。無駄な抵抗はせずに、大人しく投降してもらおう。そうすれば、命は保証する。しかしそちらが投降せず抵抗するのであれば、こちらも一切の容赦はしない』

 

「フォルドの夜明けだと!?アーシアンのテロ組織じゃないか!?」

 

「何ですって!?」

 

 船に取りついてきたのは、まさかのテロ組織。それが今、この船を占領しようとしている。

 

『もう1度言う。無駄な抵抗はするな。大人しく降伏しろ。諸君が、理性的な判断をしてくれる事を願う』

 

 再びフォルドの夜明けから通信が入る。恐らく、もうあまり時間の猶予は無い。

 

「……艦内にいる社員全員へ。決して抵抗するな。繰り返す。決して抵抗するな」

 

 そして社長は、直ぐに艦内通信でそう放送する。周りには数多くの武装したモビルスーツ。大してこちらは、ほぼ非武装の社員ばかり。選択の余地なんて無かったのだ。

 

「いいんですか、社長?」

 

「こちらは武器を持っていない者が殆どだ。戦っても、勝ち目なんて無い。ボブ、お前も大人しくしておけ」

 

「わかりました…」

 

 グエルも、今ここで戦っても勝てない事くらいわかる。なのでここは大人しくして、機会を窺おうと決める。

 

「こちら株式会社アローズ、我らは貴方達に投降する」

 

『賢明な判断に感謝する』

 

 そういうと、船上部のハッチが開いた警告音がした。恐らく、フォルドの夜明けの連中が船に入ってきたのだろう。

 

 

 

 こうして、輸送船カシュタンカはフォルドの夜明けに占領されたのだった。

 

 

 




 ボブの働いていた会社の社長の声優さんが、00の炭酸と同じ人なのでこんな会社名に。

 そしてようやく登場ルプスレクス。やっぱりかっこいいですよね。

 次回は遂に、地球の魔女が狼の王様に謁見するのかもしれない。した瞬間〇されそうだけど。
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