その証拠といいますか、今回も三日月あまり出番ありません。なんだかなぁ…中々思うように出番増やせないんだよね。書き方が悪いのかな?
などと愚痴を言いましたが、これからもそういったところを直したりしながら書きますので、どうかよろしくお願いします。
プラント・クエタ
「先のグラスレーとの決闘で、エアリアルのパーメットスコアは6に到達しました。これでクワイエット・ゼロを、最終段階まで進める事が出来ます」
「今は私の計画だというのは忘れるなよ?」
「ええ、勿論」
バルバトスの起動試験が終わった後、プロスペラはプラント・クエタの人がほぼ来ない場所でデリングと密会をしていた。密会と言っても、逢引き的な意味合いは全くない。2人の間にあるのは、とある計画への協力関係だけ。
その計画とは『クワイエット・ゼロ』。
現在デリングが、プロスペラや周りの信頼できる側近にだけ話している計画である。詳細は省くが、とても大がかりで、デリングが人生をかけた計画でもある。
「それで、お前が防衛用にと復元している例のモビルスーツはどうなっている?」
デリングは、プロスペラが火星と金星で発見して、復元しているモビルスーツについて尋ねる。
「2機共既に復元は完璧に終わらせています。戦闘能力も、シミュレーションでは高い数値を出していますので、実戦に投入しても問題は無いでしょう。あの2機はクワイエット・ゼロの、最高の守り神となってくれる筈です」
「そうか」
なんせその2機は、バルバトスと同型のモビルスーツシリーズなのだ。並みのモビルスーツでは、相手にならない。だが問題もある。
「ですがやはり、パイロットが欲しいところですね。機体の一部にパーメット技術を取り入れましたので、エアリアルでオーバーライドする事は出来ますが、性能を十分に発揮させるためには腕利きのパイロットがいた方がいいかと」
それは、パイロット。その2機は、間違いなくとてつもない性能を持ったモビルスーツではあるのだが、機体性能を存分に発揮するには、やはりちゃんとしたパイロットが必要。エアリアルによるオーバーライド操作では、2機共100%の性能を発揮できない。それだけその2機は、特別なモビルスーツなのだ。
「よかろう。こちらでも探しておく」
「ありがとうございます」
デリングもそれを理解したのは、パイロットを探す事を約束し、さらに会話を続ける。
「それはそうと、よくあの剣を見つけたな」
「ふふ、偶然ですよ。それに見つけたのは、私が雇った火星の現地企業の子達です。私ではありません」
「だとしてもだ。まさか、現代にまで現物が残っているのは思わなかった」
「私も同意見ですよ」
デリングが言う剣とは、プロスペラが雇った火星の企業が見つけた兵器工廠にあった伝説の兵器である。それは、天使すら滅ぼせる必殺の魔剣だ。デリングもその剣の事は知っていたが、まさか実物を見る日がくるとは思ってもいなかった。
「ですがこれで、クワイエット・ゼロの防衛は完璧と言えますわ。元々搭載しているモビルスーツ達に、あの2機と量産された大量の魔剣。そこにエアリアルのシステムを組み込めば、決して落ちる事の無い地球圏最強の要塞となります。相手が例え、議会連合の全艦隊だとしても大丈夫。これをどうにかできるとすればバルバトスくらいですが、仮にバルバトスが敵にまわっても問題は無いでしょう。こちらには槍と、改造した天使の主砲もありますから」
プロスペラが言う通り、この守りは最強だろう。これをどうにかできる存在がいるとは思えない。それが例え、プロスペラが隅々まで強化を施した三日月のバルバトスでもだ。
「そうか。だが油断はするな。英雄アグニカが乗っていたモビルスーツ達は、かつて人類を絶滅寸前まで追い詰めた天使を、わずか72機で滅ぼしたのだ。ガンダムフレームには、不可能を可能にする力がある。もし仮にバルバトスが敵にまわり、こちらに有利な武器が沢山あったとしても、絶対に慢心するな」
「勿論」
デリングの忠告を、プロスペラは真剣に受け取る。プロスペラだって知っているのだ。ガンダムフレームは、エアリアルすら届かない遥か高みにいるモビルスーツだと。もし敵になれば、こちらも無事では済まないだろう。何よりバルバトスのパイロットである三日月は、スレッタの為なら命すら捨てる覚悟を持っている。覚悟が決まっている人間は強く、そして手ごわい。
だからプロスペラは、万が一バルバトスが敵になった時を想定して、例の2機に加えて、剣の復元と量産をしたのだ。いかにバルバトスと言えど、あの槍を大量に撃たれたら無事でいる筈が無いと思い。
(そんな事、無いのが1番だけどね)
しかしこれは、あくまで保険である。そもそもバルバトスが敵にならなければいいだけの話。そうすれば、態々槍を使う必要もない。それにプロスペラも、出来れば三日月を撃ちたくは無い。
彼はスレッタに必要な人間だし、何だかんだで数年も面倒を見てきた。そんな子を撃ちたく無い気持ちくらい、プロスペラだって持っている。
(けれど、もしもの時は容赦しない)
だが、それでももし三日月が敵になったら、プロスペラは撃つ。だってこの計画は、プロスペラが命を賭してまで叶えたい願いそのもの。それを邪魔するのなら、誰が相手でも手を抜かない。
例えそれが、スレッタだとしてもだ。
「ところで、剣の回収作業をしていた火星の現地企業は信頼できるのか?」
「ご安心を。殆どが10代の子供ですが、彼らとても真面目な子達でしてね。こちらが提示した契約を、1度も破る事無く仕事をしてくれています。それに、代表はちゃんとした大人でした。何でも元軍人とかで、子供達に負けず劣らずの真面目な人です。そもそもそんな事をすれば、折角手にした仕事を全て失う事くらい彼らもわかっています。なので、剣の事を迂闊に言い触らすような真似はしないでしょう」
「それならいい」
一応デリングは、プロスペラを信用している。自分は彼女にとって仇同然あるにもかかわらず、自分のクワイエット・ゼロに協力しているのだ。そんな彼女が大丈夫と言うのなら、信用しておこう。
「だが万が一の時は、しっかり対処しろ」
「当然です」
しかしそれはそれとして、釘は刺して置く。
「では、私はまだ仕事があるのでこれで」
「そうか。ではな」
プロスペラはそう言うと、デリングに背を向けて歩き出す。ゴドイもその後に続いて、デリングから離れていく。残されたデリングは、無言で2人を見送るのだった。
こうしてデリングとプロスペラは、密会を終えたのである。
プラント・クエタ 職員休憩室
「皆、久しぶりー」
「お!三日月!3日ぶりだな!」
「お久しぶりです、三日月先輩」
輸送船ミデアをドック内に入港させた地球寮の皆が休憩室で昼食を食べていると、三日月がやってきた。実に3日ぶりの再会である。
「三日月くん。腕、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。それにもう結構慣れてきたし」
三日月を見た瞬間、ニカが勢いよく近づいて腕の心配する。三日月の右腕の感触が無くなってから2か月。この期間に三日月は、既にその状態に慣れていた。
しかしそれでも、ニカは三日月の世話を可能な限りしている。シャディクに情報を流した事に対するせめてもの償いというのもあるのが、
やはり片腕が不便なのが心配だからだ。
「例のGUND、試験はもう少し先だっけ?」
「うん、何事も無かったら来月には受ける事が出来るよ」
「それがクリアできれば、三日月先輩の腕にも装着する事が可能です!」
「そっか」
三日月の質問に、ニカとリリッケが答える。株式会社ガンダムが開発している医療機器GUNDは、現在審査試験を待っている。それさえクリアすれば、三日月のギプス生活も終わり。人前で堂々とGUNDを使って、以前の様な生活ができる。実際GUNDは、かなり完成度の高い医療器具なので、恐らく問題無く審査試験に合格できるだろう。
「そういえば、スレッタは?姿が見えないけど」
それはそうと、三日月は気になる事があった。先ほどから、スレッタの姿が見えないのだ。
「なんかさっきからいないんだよ。弁当も食って無えし」
そう言う昭弘の手には、スレッタの分の弁当がある。
「最近のスレッタ、何か変だからちょっと心配なんだよなぁ…」
「そう言えばそうだな」
あのスレッタが昼食を食べていないだけでも変なのだが、それより変なのが最近のスレッタの行動だ。
何故か最近のスレッタは、自ら色んな雑用をやっている。地球寮で飼っている動物の餌やり、トイレやシャワー室の掃除、ゴミ出しや道具の片づけまで。そういった雑用を、率先してやっているのだ。アリヤやマルタンがそこまでしなくていいと言っても、何故かやる。まるで自分を存在を見出してほしいみたいに。
「エアリアルに久しぶりに会えるから浮ついているだけじゃねーのか?」
「あーしもそう思う」
「だよな。ずっと一緒にいた家族同然のモビルスーツなんだろ?それが2か月ぶりに会えるってなったら、テンションあげて色々するって」
だがオジェロとチュチュとヌーノは、そこまで心配する必要は無いだろうといった感じ。2か月もエアリアルに会えていなかったが、今日やっと会える。それが嬉しいだけで、浮ついているだけだろうと。
「俺、スレッタ探してくるよ」
しかし三日月は、それでもスレッタが心配。なのでスレッタを探して、1度話を聞こうと考えた。
「待って三日月くん」
「ん?」
でもそれを、ニカが止めに入る。
「今、ミオリネがスレッタを探しているから、今回はミオリネに任せておいて」
そしてスレッタの事を、ミオリネに任せてと言い出した。
「何で?」
「実はあの2人、ちょっと喧嘩みたいなのしててさ。その事をミオリネが謝りたいって言ってたの。だから今回は、ミオリネに任せてあげて」
理由はわからないが、喧嘩をしているらしい2人。そして多分、その原因はミオリネだろうと三日月は当たりをつける。別に証拠なんて無い。ただ勘でそう思ったのだ。それにあの2人は婚約者。ならば尚の事、ミオリネがスレッタを探すべきだろう。
「わかった」
「ありがと」
三日月はニカの言葉を聞いて、スレッタの捜索をしない事にした。
「そういえば三日月くん、お昼は?」
「一応食べたよ。エナジーバー1本」
「え?それだけ?」
「うん。チョコ味」
「おい三日月!それだと腹に溜まらねーだろ!あーしの少し分けてやるから食え!」
「俺のも少しやるわ」
「あ、じゃあ私のも」
流石にエナジーバー1本だけでは腹に溜まらないだろうと思ったチュチュが、弁当のおかずを三日月に分けてあげた。それに続いてヌーノとアリヤも、三日月におかずをあげる。
「ありがと」
三日月はそれを受け取り、休憩室で地球寮の皆と一緒になって食べたのだった。
「はぁ…」
三日月が地球寮の皆と昼食を食べている頃、スレッタは1人でプラント・クエタ内を落ち込んだ様子で彷徨っていた。その手には、携帯ゼリー飲料が握られている。
(私、本当に調子に乗っていたんだな…)
肩をがっくりと落とし、暗い表情でスレッタはフラフラと彷徨う。スレッタがこんなに落ち込んでいるのは、ミオリネが温室の管理を業者に頼んだことが原因だ。業者の人が来た時、ミオリネは『もうスレッタは温室の世話をしなくてもいい』といった発言をしてしまっている。
ミオリネ的には、普段から忙しいスレッタの負担を少しでも減らしてあげたかったので、善意で業者を雇ったに過ぎないのだが、あまりに言葉が足りない。おかげでスレッタは、ミオリネの発言を『あんたはもういらない』と受け取ってしまっている。
その結果スレッタは、今まで自分は必要とされていると感じていたのは全部自分の勘違いであり、実は全然そんな事無いと思うようになってしまったのだ。そこからどんどんドツボにハマり、何時しかスレッタは『自分は誰からも必要とされていない』と思うまでになってしまっている。
普段なら三日月にでも相談するのだが、その三日月は右腕に障害が残っているので、ここで下手に相談して三日月への負担を増やしたくないと思い、スレッタは誰にも相談せずここ数日を過ごしているのだ。
「はぁ…」
本日何度目かわからないため息をつき、下を向いたまま通路を移動するスレッタ。このままどこか人気の無い場所で静かに食事でも取って、少し泣こうなんて考えていた。
そう思っていた時、
「わぶっ!?」
「うわっ!?」
スレッタは、誰かとぶつかってしまった。相手が自分より体格がよかったのか、スレッタはそのまま後ろに軽く飛ばされる。
「ごめんなさい!大丈夫ですか!?」
「……え?」
自分が前を見ていなかったので、直ぐに謝ろうとしたのだが、その前に相手から謝られた。しかし、その声を聴いたスレッタはかなり驚いていた。
「え、エランさん!?どうしてここに!?」
なんせその声は、エランのものだったからだ。どうしてエランがプラント・クエタにいるかは知らないが、ここで会えたのは嬉しい。心がちょっとだけ明るくなったスレッタは、直ぐにエランの声がした方を向いて話しかける。
「えっと、僕はエランじゃないけど…」
しかし、スレッタの目の前にいたのはエランとは似ても似つかないまんまると太って、帽子をかぶった自分とそう歳の変わらないであろう男の子が1人。
「ご、ごめんなさい…!知り合いにすっごく声が似ていたもので…!!」
「いやいや、別にいいよ。こっちこそ、ぶつかってごめんね。怪我とかしてない?」
「はい!全然大丈夫です!」
「そう、よかったよ」
少し落胆するスレッタだが、直ぐに人違いであった事を謝る。すると相手の子も、スレッタに謝る。この対応にスレッタは、良い人だなとか思ったりした。
「ところで少し聞きたいんだけど、8番ドックってどこにあるか知らない?」
「え?」
そんな風に思っていると、目の前の丸い彼が、スレッタに道を尋ねてきた。
「実は僕、火星から仕事でここに来たんだけど、初めて来た場所だからさ。トイレに行って船のあるドックに帰ろうとしたら、道に迷っちゃったんだよね」
どうやら彼、迷子らしい。確かにプラント・クエタはかなり大きな施設だ。スレッタも、携帯端末に入っている地図を見ないと道に迷ってしまう。多分彼は、携帯端末が手元に無いのだろう。
「えっとですね、ちょっと待ってください。あ、先ずそこを右に曲がるとエレベーターがありますので、それに乗って…」
そしてスレッタは、携帯端末を使って地図アプリを起動して彼に道を教える。結構な距離があるが、ほぼまっすぐに歩けばたどり着ける場所だった。
「ありがとう。君は親切な人だね」
「いえいえ、そんな」
道を教えてもらった彼は、スレッタにちゃんとお礼を言う。顔からして優しさが出ているが、本当に心優しい子なのだとスレッタは思う。
「それじゃあね」
「はい、お仕事頑張ってください」
「うん、ありがとう」
そして彼はお礼を言い、自分の船があるドックへと向かう。スレッタはそんな彼が見えなくなるまで、彼の背中を見て見送った。
(こんな私でも、少しだけ役に立てたのかな?)
見ず知らずの人にお礼を言われて、スレッタはほんの少しだけ気持ちが明るくなった。
(でも、学校では別に…)
しかし、直ぐにまた気分が沈む。人間、根本的に気分が沈み込んでいると、少しでも嬉しい事があっても直ぐにまた気分が沈んでしまうのだ。
「はぁ…」
そしてスレッタは、そんな沈んだ気分でトイレに向う。誰にも邪魔されず、静かに食事をするために。
「待ちなさいスレッターーー!!」
「い、いやですーーー!!」
その後、トイレで携帯を使って母親であるプロスペラに相談していると、スレッタを探しにきたミオリネにその会話を全部聞かれ、更にそのミオリネがスレッタが勝手に落ち込んでいる事にかなり怒り、ミオリネと鬼ごっこをする羽目になるのだった。
プラント・クエタ周辺空域 輸送船カシュタンカ
「何故、お前達がデスルターを持っている?」
「おいボブ!?」
カシュタンカのブリッジには、両手を後ろで縛られて拘束されているグエル達がいた。少し前、この船はアーシアンのテロ組織である「フォルドの夜明け」に占領された。幸いな事に社員に死者は出ていないが、全員が拘束済み。この場にはいないが、他の社員達は倉庫に閉じ込められている。その中には当然、元ヒューマンデブリの子供達もいる。子供達の事も気になるが、それより気になる事がグエルにはあった。
それは、目の前のテロリストが持っているモビルスーツが、デスルターである事だ。
「あれはジェターク社のモビルスーツだ!いくら旧式とはいえ、テロリストが簡単に手に入れる事は出来ない!どこで手に入れた!?」
グエルの言う通り、デスルターはジェターク社のモビルスーツ。それがどういう訳か、テロリストが使用している。これでは、ジェターク社がテロ組織にさえモビルスーツを販売している悪徳企業というイメージが持たれてしまう。こんな事、許せる訳が無い。出所を知り、その犯人をブチのめさないと気が済まない。
「ぐうっ!?」
「ボブ!!」
しかし、テロリストが簡単にその質問に答える訳が無い。これが質問の答えだと言わんばかりに、グエルはテロリストの1人に思いっきり蹴られて、拳銃を額に当てられる。
「お兄さんさ、さっきあたしの事見てたでしょ?もっと近くで見せてあげようか?」
「ぐっ…!!」
今すぐにでも反抗したいが、その瞬間グエルには鉛玉が撃ち込まれるだろう。なのでグエルは、相手を睨み付ける事しか出来ない。
「何の騒ぎだ?」
そこへ誰かがブリッジへ入ってくる。それはかなり大柄で、髭を三つ編みにして、額には円形の入れ墨を入れている男だった。
「サンドバルか」
彼の名前はサンドバル・ロイター。今回のデリング暗殺計画に参加したテロ組織『夜明けの地平線』の団長である。
「なんだ?もう1人殺すのか?なら額じゃなくて口の中にしておけ。その方が確実だ」
「ひっ!?」
サンドバルの言葉に、ブリッジにいるクルーが怯える。
「やめんかサンドバル。この船の船員は殺さん」
「甘いなナジ。こいつらは所詮スペーシアンだ。全員殺しても問題無い。それに生かしておくと、解放後の取り調べで俺達の事を言うに決まっている。なら殺して証拠隠滅を図った方がいいだろ」
「確かにこいつらはスペーシアンだが、俺達は殺戮者では無い。無駄な殺しはせん」
「は!そうかい」
「それとソフィ、いい加減銃を下ろせ」
「はーい」
しかしどうやら、ナジと呼ばれた男の方は船の船員を殺す気は無いらしい。所詮テロリストの言っている事なので、どこまで信用していいか疑問だが。
「この船は貴方達に明け渡す!だから従業員は解放してくれ!せめて、子供達だけでも!!」
社長はナジに、頭を下げて懇願する。この船には、10代前半の元ヒューマンデブリの子供も大勢いる。せめてあの子らだけでもこんな危険な場所から脱出させたい。その一心で頭を下げながら懇願する。
「いえ、貴方達にはこのまま協力してもらいます。なぁに、我々の事は黙って、いつものように仕事をしてくれればいいだけです。こちらの仕事が終われば、船ごと貴方達は解放しますので、それまではご協力ください」
だが彼らは、今はまだ解放する気は無いらしい。これ以上は無駄だろうと思った社長は、そのまま黙りこむ。
「ナジ、船尾へのコンテナの取り付け終わった」
「そうか。ご苦労だった、ノレア」
そこにまた新しい人物がやってきた。先ほどからブリッジにいて、グエルに銃を突き付けていたソフィと呼ばれた少女と同じくらいの少女だ。名前はノレアと言うらしい。
「ところでさ、この船子供が多いけど、あの子らヒューマンデブリでしょ?」
「正確には元ヒューマンデブリらしいがな」
そう言うとノレアは、苛立ちを隠そうともせず不機嫌になる。
「何それ?つまりこの会社は、ヒューマンデブリを人扱いしてるの?何のつもり?」
そして冷たい目で、社長を睨みながら問いを投げる。
「……あの子達は、ずっと苦しい思いをしてきた。だからせめて、少しでも助けて普通の暮らしをさせてあげたいとっ!?」
「社長!?」
社長が答えきる前に、ノレアは社長の顔を思いっきり蹴る。
「むっかつく。何その自己満足の善意。聖人君子のつもり?全員を救える事も出来ないし、どうせ何か選択を迫られたらそういった子から切り捨てる癖に」
ノレアの目には、憎しみが籠っていた。今すぐにでも殺したいと思えるくらいに。
「ふざけんな!社長はそんな人じゃっ…!?」
「うるさい。スペーシアンの言う事なんて信用できるか。お前達はいっつもそうだ。甘い言葉でアーシアンを騙して、散々使いつぶして捨てる。そういう奴らだろ」
社長を庇おうとした従業員にも、ノレアは蹴りを入れる。
「やめろノレア」
「ちっ!」
ナジに静止させられると、ノレアはイライラしながらブリッジから出ていく。
「お前達、こいつら全員を倉庫まで連れて行け」
「わかりました」
「立て!」
ナジは部下に命令して、ブリッジにいたグエル達を倉庫まで連れていかせる。ブリッジに残ったのは、ナジとソフィと船の操縦をしている部下とサンドバルだけになった。
「しかし、プリンスには感謝だな」
「そうだな。デスルター20機、ユーゴー5機、そしてガンダム2機の合計27機。まさかモビルスーツ大隊程の戦力を揃えて俺達によこすとは」
ナジとサンドバルは、これだけの戦力を揃えてくれたプリンスに感謝する。これだけのモビルスーツがいて、プラント・クエタの巡回艦隊がいないのであれば、デリング暗殺も可能かもしれない。
因みに、流石にこれだけの数のモビルスーツをこの船に搭載は出来ないので、船の艦尾にケーブルで繋いだ大型のコンテナにもモビルスーツを搭載している。後はこれを、この船で曳航していけばいいだけだ。
「それで、お前は本当にユーゴーで出るのか?」
「ああ。そしてうちから選りすぐりの奴らも出す。安心しな。お前んところの現場指揮官のオルコットには従う。勝手な真似はせんよ」
そしてサンドバルは、何と自ら出陣するらしい。実は彼、かなりのモビルスーツパイロットなのだ。彼はこれまで、スペーシアンの艦隊を何度も襲っては沈めてきている。実力で夜明けの地平線の団長になった男。それがサンドバルなのだ。
「おじさん、強いの?」
「まぁな。その辺のエースよりは強いって自覚あるぞ。流石にお前さん達には負けるだろうが」
「ふーん。じゃあいいや」
サンドバルに質問したソフィだったが、直ぐに興味を無くした様子で端末を弄りだす。そんなソフィをほっといて、ナジとサンドバルはデリング暗殺計画の作戦をおさらいする。
「作戦を確認する。先ずデスルターに装備したコンジャムポットで通信を妨害。その後、内通者の手引きでデリング・レンブランの居場所を確認。確認したら、ガンダム2機でデリング・レンブランを孤立するべく大型ビームランチャーでプラント・クエタの一部区画を分断。そして徹底的に港を破壊し、連中の足を奪う」
「そして俺はユーゴー隊を率いて、出てきた守備部隊を相手すればいんだな」
「そうだ。港を破壊しだい、ノレア達もそっちに回す」
「その後は、後方待機班の突入部隊をプラント・クエタに突入させ、デリング・レンブランを殺す。悪くない作戦だ」
これが彼らの作戦。本来ならプラント・クエタ巡回艦隊がいるので、30機近いモビルスーツを揃えても成功なんてしないだろう。
だがプリンスは、とある人物との協力を得る事で、その巡回艦隊をプラント・クエタから引き離す事に成功。これでプラント・クエタの守りは、半減どころではない。更にこちらには、魔女が2人もいる。彼女らの力があれば、この作戦も成功するだろう。
「それでナジ、ひとつ提案があるんだが」
「なんだ?」
しかしここで、サンドバルがとある提案をする。
「今、プラント・クエタには例のガンダムフレームがあるんだろ?」
「そう聞いているが、それがどうした?」
「いや、できればそれを捕獲したくてな」
それは、バルバトスの捕獲である。
「俺も映像は見たが、あれは凄まじい。もし手に入れられれば、スペーシアンなんて一網打尽にできるぞ」
ナジもバルバトスがグラスレーを蹂躙した試合映像は見た。あれは実戦仕様では無いが、それでも凄まじい戦闘能力を持っている事はわかる。確かにあれが手に入れば、大幅な戦力増強に繋がるだろう。
「可能ならな」
「それでいい。あくまで目的はデリング・レンブランの暗殺だしな」
ナジはその提案を了承。しかしあくまで副次的な目標とする。彼らの主目標は、デリングの暗殺だから。
「それじゃ、俺はもう行くぜ」
「ああ。頼んだぞ」
「は!誰に言っている。俺は夜明けの地平線団長、サンドバル・ロイターだぞ?」
サンドバルはそう言い、ブリッジから出ていき戦闘準備を始める。
「ソフィ、お前も少しは休んでおけ」
「はいはーい」
そしてプリンスの合図が来るまで、ソフィは携帯端末を弄り、バルバトスの決闘映像を見返す。何度も何度も見返す。
「ふふ、楽しみ。早く会いたいなぁ」
ソフィのその目は、とてもキラキラしていた。
アスティカシア学園 グラスレー寮寮長室
「シャディク、本当にいいのか?」
そこには、シャディクを初めとした全員がいた。先程シャディクの元に、共犯者である人物から連絡が入った。どうやら、デリングの位置を知る事が出来る発信機の取り付けに成功したらしい。
そしてその協力者は、2時間後に作戦を開始しろと言い出したのだが、シャディクはそれを無視して直ちに作戦を決行するよう命令。要は、その協力者も始末するつもりなのだ。
しかし今、プラント・クエタにはミオリネがいる。そしてシャディクは、その事を知っていながらデリング暗殺計画を実行しようとしているのだ。
それに待ったをかけているのが、サビーナだ。銃を使った狙撃や、毒物による暗殺では無く、モビルスーツを使った暗殺。当然、被害はデリングだけに済まないだろう。下手をすると、ミオリネも巻き込まれて死んでしまうかもしれない。シャディクも、それは望んでいない事くらいわかっている。だから作戦決行前に、1度本当にやるのかと確認をしているのだ。
「標的はあくまでデリングだ。運が良ければ生き残るさ。それに、俺達には成さないといけない事がある。それの為にも、ここで躓いてはいけないんだ」
しかしシャディクは、自分に言い聞かせるようにそれでもと言う。確かに彼らには、やるべき事がある。そのために、血の滲むような努力をしてここまで来た。今更逃げる事なんて出来ない。例え、ミオリネが死ぬ事になったとしても。
「……後悔するなよ?」
「……しないよ」
サビーナはそう言うと、端末を使って作戦開始のコードを発信。これでもう止められない。後は神のみぞ知るだ。
「ま、ミオリネちゃんなら大丈夫だってシャディク」
「そうそう。何だかんだ、運良さそうだし」
「そうだね。根拠は無いけど多分大丈夫だよ」
「ふふ、ありがとう皆」
メイジー、イリーシャ、エナオは、根拠は無いけどミオリネなら大丈夫だろうと言ってシャディクを励ます。シャディクもその励ましの言葉を受け取り、3人にお礼を言う。
「……」
そんな中、1人だけ浮かない表情をしている者がいた。最近、また三日月とご飯を食べる約束を取り付けたレネである。今プラント・クエタには、ミオリネだけじゃなくて三日月もいる事は、レネも知っている。出来れば何とか三日月のプラント・クエタ行きを阻止したかったが、生憎そんな事は出来ない。
レネも、シャディクと同じで成すべき事があるからだ。
だから三日月に計画の事も言えないし、プラント・クエタに行かないでとも言えない。
(まだ責任取って貰って無いんだから、死なないでよね、三日月・オーガス…)
なのでレネは、誰にも悟られないように、胸をぎゅっとしながら三日月の無事を祈る。
その祈りが通じるかどうかは、誰にもわからない。
「秘匿回線より、作戦開始のコードを確認」
「よし、プリンスからゴーサインが来た。始めるぞ」
そしてそのコードを受けとったフォルドの夜明けは、デリング暗殺に向けて遂に動き出す。
「何これ、ダッサ」
「え!?ひどくないですか!?」
プラント・クエタでは、ミオリネとスレッタが並んで通路を移動していた。この2人、先ほどまで全力で鬼ごっこをした後、
自分達が思っていた事全てを吐き出したばかりである。ミオリネは『自分から逃げずに、言いたいことがあれば言って欲しい』と言い、スレッタは『私でいいのか』とミオリネに言った。
その結果、2人のすれ違いは解消され、以前より仲が深まったのである。ついでにミオリネは、業者による温室の管理もやめている。これでミオリネ不在の時は、またスレッタが温室の当番だ。業者にはしっかりとキャンセル料を払っているので、問題になる事も無いだろう。
問題になる事も無いだろう。
そしてスレッタは、仲直りの証の意味も込めて、以前からミオリネに渡そうと思っていた物をプレゼントをした。それが、クールさんとホッツさんという謎のマスコットキーホルダーである。
でもこのキーホルダー、はっきり言ってダサイ。あとなんかキモイ。
「でもまぁ、あんたらしいわこれ。ありがと」
「えへへ」
しかし、ミオリネは嬉しそうである。何だかんだで、ミオリネはスレッタが好きなのだ。そんな好きな子から貰ったプレゼントなら、嬉しくない子なんていない。
「そうそう。GUNDの審査試験だけど、あれ2週間後にするから。それに合格すれば、三日月のギプス生活はお終いよ」
「本当ですか!?よかったなぁ…」
エアリアルとバルバトスも修理兼改修が終わったし、三日月の腕もGUNDで以前のように感触を認識できるし、そしてミオリネにも必要だと言われた。今スレッタは、とても幸せな気持ちでいっぱいだ。
「そういえば気になったんだけど、あんたと三日月が決闘したらどっちが勝つの?」
その時、ミオリネがふと疑問に思ってた事を質問してきた。それは、スレッタと三日月、どっちが強いのかというもの。先程ミオリネはスレッタに、絶対に決闘に負けないでと約束をさせている。
しかしもし、あの三日月とバルバトスと決闘したらどうなるか疑問に思ったのだ。三日月がスレッタと決闘するなんて先ず無い事だが、万が一という事もある。なので1度聞いてみる事にした。
「あー…」
そしてその質問をされたスレッタは、気まずそうな顔をして、正直に告白する。
「その、私と三日月って、学校に行く前はよくシミュレーションで戦っていたんですけど…」
「けど?」
「……今のところ、私が負け越しています」
「……」
「で、でも!今の私なら負けないかもしれません!エアリアルも強くなったって聞いてますし、私だってホルダーですから!」
「……一応言っておくけど、強くなっているのは三日月のバルバトスも同じだってわかってる?」
「あ」
そう言えばそうだったという顔をするスレッタ。なんせ2機同時に改修されているのだ。おまけに三日月の方が、先にプラント・クエタに行っているので、慣らしも既に終えているだろう。
「スレッタ。わかっているだろうけど、負けたら絶対に許さないから」
「ももも勿論です!絶対に負けません!!」
ミオリネは睨みを利かせながらスレッタに、さっきしたばかりの約束を再度破らないよう言い放つ。そしてスレッタも、その約束を破るつもりは無いと言う。
(ま、三日月がスレッタと決闘なんて無いから大丈夫だろうけどね)
でもそれは気にしすぎだろうとミオリネは考える。三日月がスレッタに決闘を挑むなんて、ペンギンが音速で空を飛ぶくらいありえないからだ。
そんな時、通路にけたたましい警告音が鳴り響く。
『緊急事態警報B1発令。緊急事態警報B1発令。プラント・クエタ内にいる全職員は、直ちにシェルターに避難してください』
「え?なんですか、これ?」
突然の警告音と物騒なアナウンスに、スレッタは驚く。そしてミオリネは答える。
「B1。つまり、敵性体による攻撃を受けているって事よ!!」
今このプラント・クエタが、攻撃を受けていると。
『ノレア。ポット展開前に、対象のシグナルをCブロックで見つけた。実行しろ』
『了解』
プラント・クエタの外壁に、2機のモビルスーツが大型のビームランチャーを背負って飛ぶ。その顔は、エアリアルにそっくりだ。それもその筈。なんせこの2機は、エアリアルと同じガンダムである。そしてその2機は今まさに、プラント・クエタを攻撃しようとしている。
『ソフィ聞こえた?』
「勿論。思う存分やっちゃうから」
ノレアに言われたソフィは、機体を上昇させてCブロックに通じる通路をビームランチャーで狙う。
「それじゃ、思いっきりぶった切っちゃうよーーー!!」
ソフィが気分よくそう言いながら、ビームランチャーを発射する。それに合わせて、ノレアもビームランチャーを発射。
そしてその攻撃は、まっすぐにCブロック通路に命中するのだった。
次回はもっと、三日月の出番増やせるよう頑張ります。
そしてちょっと今後の事でアンケートを取りたいのですが、デリングどうしましょう?
このまま原作と同じで、最終決戦まで意識不明なのと、そうはならずに普通に職務に復帰するの。どちらがいいか悩んでおります。
アンケート結果が必ず反映される訳ではありませんが、参考にしたいので、お時間あれば、アンケートにご協力ください。
プラント・クエタ襲撃でデリングは
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本編通り負傷する
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なんか助かる
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自分で決めるのだ