悪魔と魔女の物語   作:ゾキラファス

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 何とか8月中に間に合った。

 今回でプラント・クエタ編はお終いです。お待たせしてしまい、申し訳ございません。
 今回もちょっと長めですが、どうぞよろしくお願いします。
 そしていつも誤字報告と感想、ありがとうございます。


プラント・クエタ 5

 

 

 

 

 

 宇宙空間に、バラバラになったモビルスーツの残骸と、同じように砕けたプラント外壁の瓦礫と、明らかに機械の類では無い肉片が散らばる。

 

 たった今三日月は、夜明けの地平線団団長をその手で殺した。

 

 いや、彼だけではない。今回、プラント・クエタ襲撃に参加したテロリストのモビルスーツのおよそ半数の15機も三日月がその手で撃破している。つまりそれは、15人の人間を殺したと言う事。世間一般に言えば、間違いなく大量殺人と言える数である。

 けれどこれは、三日月が人を殺したくて殺したからではない。スレッタやミオリネ、地球寮の皆を守るために殺したに過ぎない。つまりは、一種の正当防衛だ。恐らくこの件で、三日月が罪に問われる事はないだろう。

 

 だが殺している最中、三日月は妙な気分になっていた。

 

 最初こそそれがどういった気分なのかわからなかった三日月だが、サンドバルの死に際の言葉でそれが何なのか理解できた。

 

『貴様今楽しんでいるだろ!!人殺しを!!』

 

 自分は、殺しを楽しんでいたのだと。そんなの、普通じゃない。とてもじゃないが、まともだなんて言えない。普通の人がこれを理解してしまったら、下手をすると発狂するだろう。仮にそうならなくても、大きなショックを受ける事は間違いない。

 

(どの口が言ってるんだよ)

 

 しかし三日月、落ち込む事も無く、ショックを受ける事も無く、ただただムカついていた。自分達だって散々プラント・クエタの守備隊を殺していたくせに、自分達が殺されそうになったらあの台詞だ。言ってしまえば、『お前が言うな』である。

 まぁ、そう言っていた奴は今殺したので、もうどうでもいいが。

 

「んじゃ、追撃するか」

 

 三日月はバラバラになったサンドバルのユーゴーへの興味を失うと、プラント・クエタを襲った連中が逃げて行った方へ視線を向ける。まだユーゴーが足止めをしてから、それほど時間はかかっていない。今から全力で追えば、追いつくだろう。このまま全員纏めて始末すれば、スレッタ達はもう安全だ。

 

『そこまでよ、三日月くん』

 

「ん?」

 

 しかし三日月がバルバトスで追撃を開始しようとした瞬間、プロスペラから通信が入る。

 

『もう十分。プラント・クエタを襲っていたテロリストの主犯は殺したし、残った敵もボロボロ。これ以上、三日月くんがわざわざ敵を追ってまで殺す必要は無いわ。後は、もう直ぐ戻って来る守備艦隊に任せなさい』

 

 そしてプロスペラは、三日月にこれ以上戦う必要が無いと伝えてきた。

 

「いいの?敵は叩けるうちに叩けって寮の皆とやったゲームでも言っていたけど」

 

 これには三日月も不思議そうな顔をする。だがそんな三日月に、プロスペラは丁寧に説明をした。

 

『いいのよ。もうこれ以上はいいわ。それに、バルバトスのスラスターのガスだって減っているでしょ?もしこのまま戦ったら、途中でガス欠でやられちゃうかもしれない。だからもういいわ』

 

 プロスペラの言う通り、確かに先ほどの戦闘でバルバトスのスラスターのガスはかなり減っている。それにナノラミネートアーマーだって、少しだけだが損耗している。もしこのまま戦えば、バルバトスは途中で動けなくなるかもしれない。そうなれば、後は狩られるだけの獲物になり下がる。

 それはマズイ。そうならない為にも、もし追撃するなら1度補給をしてからじゃないとダメだ。でももしここで補給をしてしまえば、その間に敵に逃げられてしまう。つまりもう、三日月が残った敵を追う事は出来ないのである。

 

「……わかった。じゃあ追うのやめとくよ」

 

『ええ、それでいいわ。あと、お疲れ様』

 

 出来れば全員纏めて始末して、スレッタ達の脅威を後顧の憂い無く完全な形で排除しておきたかったが、これでは仕方が無い。三日月は敵への追撃を諦める事にした。

 

(まぁ、敵は沢山殺したし、もう大丈夫かな?)

 

 敵への追撃こそ出来ないが、襲撃してきたモビルスーツの半数は破壊できたし、テロリストも既に逃亡中。これでとりあえず、スレッタ達の安全は確保されている筈だ。そうやって三日月がほっと胸を撫でおろしていると、再びプロスペラから通信が入った。

 

『三日月くん。今エアリアルがスレッタを見つけてくれたわ。場所をマークするから、バルバトスで迎えにいってあげて』

 

 その内容は、スレッタを見つけたというもの。これは嬉しい報告だ。エアリアルがどうやって見つけたか知らないが、そんな事どうでもいい。

 

「わかった」

 

『ふふ、お願いね』

 

 三日月はモニターに表示された場所を確認し、バルバトスを動かす。

 

「今行くよ、スレッタ」

 

 そしてスレッタを向かえに、バルバトスでそのまま行く。このまま降りる時間も惜しいし、万が一があった場合モビルスーツがあった方が楽だと判断したからだ。こうしてバルバトスは、今度は殺すためじゃなくて助けるために動き出すのであった。

 

 

 

 プラント・クエタ内 78番ハンガー モニター室

 

「それにしても、素晴らしいと同時に恐ろしい戦闘力ね。まさかガンダム2機相手にほぼ無傷で勝っちゃうなんて。阿頼耶識システムとナノラミネートアーマーのおかげではあるだろうけど、純粋に三日月くんの天性の才能もあるわね」

 

 プラント・クエタ内にあるプロスペラが所有しているモニター室では、先程の戦闘をプロスペラが見返していた。

 

 圧倒、そしてまさに蹂躙とも言うべき一方的な戦闘。

 

 今回プラント・クエタを襲撃したテロリストは、明らかに手練れ。モビルスーツもかなりの数を揃えており、全員が素人なんかじゃ無かった。現に、プラント・クエタの守備隊を殲滅しているのが良い証拠である。

 おまけに彼らは、既存のモビルスーツを遥かに凌ぐ性能を持ったエアリアルと同タイプのガンダムを2機も所有していた。映像を見返してみると、2機共動きが良く、コンビネーションも凄い。正直、改修したエアリアルでも相手になったかわからない。

 

 だがそんなテロリスト達は、伝説のガンダムフレームであり、改修したバルバトスルプスレクスの前ではまるで赤子同然な存在になっていた。歴戦の猛者であろうテロリスト達が、まるで相手になっていない。

 確かにバルバトスには、ビームをほぼ無効化するナノラミネートアーマーのせいで攻撃が効かず、テイルブレードという新装備があるが、それでもここまでとは思わなかった。

 

(阿頼耶識システム…まさかこれ程とは…)

 

 バルバトスがここまで戦えるのは、バルバトスそのものが強いというのもあるが、それだけじゃない。パイロットである三日月の天性の才能と、彼の体にした阿頼耶識システムあってこそである。

 もし阿頼耶識システムが無ければ、三日月でもここまでバルバトスを動かす事は不可能だ。特に背中のテイルブレードに関しては、阿頼耶識システムが無ければ先ず扱う事の出来ない装備である。

 実際プロスペラは、改修したバルバトスのテスト運用中にテイルブレードを使ってみたが、『あ、無理ねこれ』となって匙を投げている。あんな装備、阿頼耶識システムが無ければただの重りにしかならないのだ。

 

(それにしても、どうしましょう…)

 

 そしてその結果、プロスペラは少し焦りを見せる。というのも、プロスペラは今自分とデリングが進めている計画『クワイエット・ゼロ』。この最大の障害が、バルバトスになるであろうと思っているからだ。

 無論、そうなった時用に対バルバトス兵器やモビルスーツを用意してはいるが、それでも今のバルバトスを確実に止められるかわからない。なんせこの戦闘力だ。おまけに今のバルバトスは、まだ全力を出していない。

 もしも出力を完全な実戦仕様に変えて、その上でグラスレー寮との決闘であったリミッター解除をした場合、バルバトスの戦闘力がどうなるか想像もつかない。それこそ、バルバトス単騎でクワイエット・ゼロを止められる可能性すらあるのだ。

 

(彼とは、何としてでも敵対しないようにしなくちゃね…)

 

 1番の作戦は、そもそもバルバトスと敵対しない事である。当然プロスペラも、その方向で色々と準備を進めているが、それでも確実と言えない。

 

 なんせ三日月は、スレッタの為なら本当に何でもするからだ。

 

 今回だって自分が焚きつけたというのがあるが、三日月はスレッタを守るために殺人に手を染めた。正当防衛になるので罪に問われる事はないだろうが、それでも殺人は殺人である。普通ならば誰だって躊躇するであろう行為だが、三日月は躊躇なくそれに手を染めた。それで、スレッタを守れると思った故である。

 

 そんな三日月が、もしスレッタに頼まれてクワイエット・ゼロ計画を止めてほしいなんて言われでもすれば、間違いなく彼はバルバトスと共に止めに来るだろう。そうなってしまえば、もうわからない。例の2機のモビルスーツや魔剣があるが、この戦闘を見ればそれでもバルバトスを止められるかわからない。

 

(何としてでも、それは止めないと)

 

 そうならない為にも、三日月とは敵対せず、このままスレッタ達と一緒に卒業まで学園で過ごしてもらうようにしなくては。

 幸い、まだ時間はある。その時間の中で、三日月が下手に動かないようにするしかない。最悪、バルバトスに細工でもすれば何とかなるだろう。そうすれば、三日月が態々死地に飛び込む事も無くなる。そしてそのまま、スレッタと共に普通に過ごせるはずだ。

 

さっきのおじちゃん、凄く怖かった…

 

「ふふ、そうね。確かにさっきのバルバトスは、怖かったわね」

 

おじちゃんって、昔もあんな風に戦っていたんだよね?

 

「多分ね。彼らの敵である天使は圧倒的な物量で攻める事もあったっていうし、今回みたいに大勢に囲まれての戦いはむしろ得意分野かもしれないわ」

 

 その時、プロスペラの直ぐ傍にいた彼女が話しかけてきた。先程の戦闘を見ていた彼女は、バルバトスに恐怖した。グラスレー寮との決闘の時ほどではないが、それでも先ほどのバルバトスは怖い。あれだけ敵に囲まれていたのに、そのハンデがまるで無いように戦う。途中から、敵が可哀そうになったくらいである。

 そしてその戦い方は、暴力的の一言。彼女も1対多数の戦闘は得意としているが、あそこまで暴力的には戦えない。やはり、本当の殺し合いになった時の彼は怖い。

 

ねぇ、お母さん。本当にこんな事しないといけなかったの?

 

「ええ。出来ればしたくなかったけど、他に方法が無かったからね」

 

 彼女は、プロスペラにそんな質問をする。プロスペラだって、出来れば三日月にこんな事をしてほしくなんて無い。

 しかし、スレッタがこの場に来れないこの状況では、三日月とバルバトスの力がどうしても必要だったのだ。そうしないと、スレッタが殺されていたかもしれないから。

 

三日月くん、大丈夫かな?

 

「そうね。事が終わったら、1度話をしてみましょう」

 

 彼女は三日月を心配する。だって人を殺している。それも大勢だ。これが三日月にどんな影響を与えるかわからないが、少なくとも良い影響は与えないだろう。もしかすると、PTSDになって苦しむかもしれない。

そうなる前に、この襲撃事件が終わったら1度三日月と話をしよう。

 

ねぇ、お母さん。もし彼とおじちゃんが敵になったら、どうするの?

 

 ここで彼女は、プロスペラに質問をする。仮に三日月とバルバトスが敵になったら、彼女でも止められるかわからない。

 なんせ相手は、300年前の絶滅戦争を戦い抜いた本物の猛者だ。おまけにプロスペラの手によって、最新技術で隅々まで改造されているし、搭乗するパイロットがスレッタを超える天性の才能を持っている。悲しい事だが、はっきり言って今戦ったら勝てる未来がまるで見えない。

 そもそも、今までの模擬戦でもずっと負け越しているのだ。そこに更に強くなったバルバトスが相手となると、もう無理ゲーである。そんな彼がもし例の計画で敵対しようものなら、降伏するのが1番良いかもしれない。

 

「戦うわ。殺しはせずとも、動けなくはする。スレッタの大事な幼馴染を、殺すなんて真似はしたくないしね」

 

 そしてそうなった場合、プロスペラは勿論戦うつもりだ。そんな事が無いのが1番なのだが、もしも敵対してしまえば、戦う。

 

……できるかな?

 

「やるしかないでしょう」

 

そうだね。でも大丈夫。僕は最後まで、お母さんの傍にいるからね

 

「……ありがとう」

 

 その言葉を聞いて、プロスペラは再度必ずこの計画をやり遂げると決める。例えスレッタと三日月が自分を止めに来ても、絶対に容赦なんてしない。

 だってあの計画は、プロスペラが何としてでも達成したい計画なのだから。邪魔をするのなら、誰であろうと容赦しない。そして彼女も、そんなプロスペラに協力する。

 

 

 例え、妹と敵対する事になったとしても。

 

 

 

 

 プラント・クエタ内 34番シェルター

 

「お、音がしなくなった?」

 

「ああ…そうだな…」

 

 プラント・クエタ内のシェルターに避難していた地球寮のメンバーは、先程までしていた戦闘音がしなくなった事に気が付く。

 

「多分、守備艦隊が戻って来たんだよ!そしてそれを見てテロリスト達は逃げたんだって!」

 

 マルタンが、まるで自分に言い聞かせるように言う。そうでも思わないと、怖くて仕方が無いからだ。

 

「はぁ…はぁ…」

 

「大丈夫か?リリッケ?」

 

「は、はい…何とか落ち着きました…」

 

 アリヤがリリッケの背中をさすりながら、心配そうに声をかける。先程までリリッケは、襲撃の恐怖で過呼吸になっていた。

 アーシアンとはいえ、リリッケは裕福な家の生まれで、育った場所も治安が安定している地域である。そういった場所で生まれ育った彼女にとって、人の命の奪い合いなんて場面はあまりに毒すぎた。今は落ち着いているが、その顔色はまだ悪い。

 

「ニカ姉、大丈夫か?」

 

「う、うん…私は大丈夫だよ…?」

 

「いやニカ。君顔真っ青だよ?無理してないかい?」

 

「ほ、ほんとうに大丈夫だから。ただ、三日月くん達が心配なだけだから…」

 

 チュチュやティルがニカに声をかける。リリッケ程じゃないが、ニカも顔色が悪いからだ。しかし彼女の場合は、リリッケと違い、今この場にいない三日月が心配だからである。

 シェルターに避難する前、ニカはとても嫌な予感がしていた。何故かはわからない。勘のようなものなのだが、今この場にいない三日月が、取り返しのつかない事をしてしまうのではないかと思ったのだ。

 あれから、それなりに時間が経過している。三日月はバルバトスで戦うと言っていたが、相手は本物のテロリスト。いくらバルバトスが強いといっても、簡単に敵う相手ではない。もしかすると、既に三日月は殺されているのかもしれない。

 

(こんなの、聞いてないよプリンス…)

 

 そもそもプラント・クエタを襲撃するなんて話を、ニカは聞かされていない。仮にだが、もしここで三日月が本当に死んでしまっていたら、彼女はこの襲撃を計画したであろう人物を許すなんて出来ないだろう。

 

「大丈夫だってニカ姉!三日月もスレッタも、そしてクソスペわがままお嬢様も無事だって!」

 

「ここを出たら、先ずは3人を探そうか」

 

 そんなニカを励ますチュチュとティル。そしてここから出たら、3人を探し出そうと言う。

 

「そうだね…ここから出たら、3人を探そうか」

 

 ニカはこれを承諾。ここを出たら、必ず3人を探し出そう。そして3人を見つけて学園に戻ったら、また皆で食事をしよう。

 

「でさ、これからどうする?」

 

「どうするったって…どうしよう?」

 

 ヌーノとオジェロが今後について考える。いくら戦闘音がしなくなったとは言え、まだ油断は出来ない。

もしかすると、テロリストの一部が施設内にいるかもしれない。

しかし、このままシェルターで待っていても良いものか。

 

「動くな!!」

 

『!?』

 

 そうやって全員がシェルター内で考えていると、突然シェルターの扉が開いた。全員が扉の方に目を向けると、そこには銃を持って武装したプラント・クエタの職員が数名いた。

 

「ま、待ってください!僕達はテロリストじゃありません!!」

 

「俺達はアスティカシアの学生だ!撃たないでくれ!!」

 

 マルタンと昭弘が地球寮の皆を庇うように前に出て、自分達はテロリストではないと両手を上げて弁明する。このままでは、テロリストと間違えられて撃たれかねない。そうならない為に、必死になって事情を説明した。

 

「……アスティカシアの学生ならば、学生手帳がある筈だ。見せてもらおうか」

 

 無論、武装したプラント・クエタの職員はその言葉を鵜呑みにはしない。なんせ今までここは、テロリストによる襲撃を受けていたのだ。それに先ほど通信で、武装したテロリストと戦闘になったという報告も受けている。つまり未だにテロリストの残党がいる可能性があるのだ。

 だが彼らが学生だと言うのなら、証拠がある筈。そして不正が効かない学生手帳ならば、その最たる証拠になる。

 

「あ、あります!ほらこれ!」

 

 マルタンが懐から学生手帳を出したのをきっかけに、他の地球寮の皆も学生手帳を出す。そして武装した職員達は、それを確認していく。

 

「……成程。アーシアンだが、確かにアスティカシアの学生のようだな」

 

 やや訝しむような顔をするが、一応納得してくれたようだ。その態度には腹が立つが、流石に誰もこの場で暴れたりはしない。

 

「先ほどはすまなかった。何分、襲撃を受けているからな。全員ピリピリしているんだ」

 

「いえいえ!わかっていますから!お仕事、お疲れ様です!!」

 

 武装した職員が軽く頭を下げて、マルタンもそれに続いて頭を下げる。こういう事を言えるあたり、目の前のスペーシアンであろう職員は、チュチュが忌み嫌うスペーシアンとは違い、多少はまともらしい。

 

「何?…そうか。わかった」

 

 だがほっとしたのも束の間、突然職員に通信が入る。その通信が終わると、彼は地球寮の皆をじっと見た。

 

「え、えっと、何か?」

 

「申し訳ないが、君たちはこの後取り調べを受けてもらう」

 

「はぁ!?」

 

 そして突然、地球寮全員に対して取り調べをすると言い放つ。

 

「何でだよ!?もしかして疑ってるのか!?確かにあーしらは地球生まれのアーシアンだけど、テロの手引きなんてしてねーぞ!?」

 

「おいやめろチュチュ!!」

 

 職員に食ってかかるチュチュを、昭弘が止める。なんせ相手は武装した職員であり、今現在自分達は疑われているような状態。こんな状況で職員に食ってかかれば、より疑いは深くなる。下手すると撃たれるかもしれない。だから何としてでも、落ち着かせないと。

 

「正直そういった事もあるが、それだけじゃない」

 

 職員が比較的まともだったおかげで、大事には至らなかった。

 

「君たちと同じ寮の生徒に、三日月・オーガスという生徒がいるな?」

 

 しかし彼の口から三日月の名前が出た途端、全員がはっとする。

 

「います!あの、彼は無事なんですか!?何かあったんですか!?」

 

 ニカが直ぐに職員に駆け寄り、質問をした。今ニカの頭の中では、最悪の展開が予想されている。それは三日月が死んでしまい、顔見知りである自分達が遺体の確認をさせられるというもの。もし死んでしまっていたら、スレッタにどう顔向けすればいいかわからない。

 

「落ち着きなさい。今入った通信によると、彼は無事だ」

 

「そ、そうですか…」

 

 ニカや他の地球寮のメンバーが、一斉に胸を撫でおろす。

 

 

 

「だが彼は、先ほどまで自身のモビルスーツでテロリストを迎撃していた。おかげでテロリスト側に多数の死者が出ていてね。一応正当防衛になるだろうが、その為にもしっかり調査しないといけない。なので君たちから、彼の事を色々聞かせてもらいたい」

 

「……え」

 

 しかしその言葉を聞いた瞬間、今度は目の前が真っ暗になるような感覚に襲われるのであった。

 

 

 

 

 

 フォルドの夜明け 輸送船ジュピトリス

 

「被害は?」

 

「酷いものだ。モビルスーツを半数失って、切り札だったガンダムもボロボロ。そして、サンドバルも死んだ…プラント内に突入した連中も、生きてはいないだろう…」

 

 プラント・クエタを襲撃していたフォルドの夜明けと夜明けの地平線団の残党は、待機していた仲間と合流し、撤退をしていた。

 

 だが、その数は少ない。

 

 負傷者多数、モビルスーツも半数失い、夜明けの地平線団団長のサンドバルも死んだ。今回の襲撃の切り札だったガンダムも、暫くは動けそうにないくらいボロボロになっている。

 

 因みに彼らが接収してた株式会社アローズの輸送船は、乗組員全員と共に既に解放されている。今頃、プラント・クエタの守備隊に保護されているだろう。

 

「最悪だな…」

 

「ああ。これでは当分まともな作戦なんて無理だ」

 

 ナジが額に手を当てて、がっくりと肩を落とす。今回の作戦は、目も当てられない大失敗である。デリング・レンブランは暗殺できていないし、投入したモビルスーツは半数を失った。

 おまけに、施設内に突入させた部隊も全滅。これが大敗北でなくて何だというのか。暫くの間、スペーシアンに対する作戦は行えないだろう。

 

「夜明けの地平線団の連中はどうだ?」

 

「少し落ち込んではいるが、既に次に備えて動き出しているよ。流石武闘派で知られる連中だ。強い奴ばかりだな」

 

 自分達が敬愛していた団長が戦死したが、夜明けの地平線団の団員は既に行動を起こしている。むしろ、いつか団長の仇を取らんと士気を上げているくらいだ。無論、今すぐプラント・クエタまで戻って襲撃をしようなんて考えてはいない。

 出来れば直ぐに戻って仇であるあの悪魔を討伐したいが、こんなボロボロの状況で戻っても返り討ちに会うだけ。そうなってしまえば、折角サンドバルが殿になって拾えた命を、無駄にしてしまう。それは出来ない。そんな事をしてしまえば、団長に申し訳が立たない。彼らも、その辺の理性は残っているがゆえに、今は大人しく撤退しているのだ。

 

「サンドバルのおかげで、今俺達は逃げきれている。連中にはしっかりと恩を返さんとな」

 

「そうだな。まぁ、暫くは恩を返せそうにないが」

 

 ナジは戦死したサンドバルに恩を返すために、何時の日か夜明けの地平線団に何か手を貸すと決める。当然、オルコットもそのつもりだ。なんせサンドバルがいなければ、自分達はあそこで全滅していたかもしれないのだから。

 

「ソフィとノレアはどうだ?」

 

 次にナジは、ガンダムのパイロットであるソフィとノレアの事を聞く。2機とも、バルバトスとの戦闘でボロボロだ。それに2人は、フォルドの夜明けのエースパイロット。何かあってはいけない。もし怪我をしてれば、最優先で治療をしなくては。

 

「大した怪我はしていない。だが、ノレアは怯えていた…」

 

「……無理もない。俺もブリッジから映像で見ていたが、モビルスーツをあそこまで恐ろしいと思った事は無かったしな」

 

 幸いな事に、2人共特に怪我はしていない。しかしノレアは帰還後、普段と違って少し怯えていた。なんせあの悪魔の攻撃を、間近で受けているのだ。怯えないソフィがおかしいのであって、普通はノレアのように多少なりとも怯える。

 あんな暴力的で恐ろしい戦い方、見た事が無い。おまけにこちらの攻撃が、全く効いていないのだ。更に尻尾のような武装も、何も対処できずに多くの仲間が失われた。

 まるで、物語に出てくる本物の化け物を相手にした気分だ。正直オルコットも、もう2度とあれとは戦いたくないと思っている。

 

「兎に角、プリンスに連絡だ。作戦は失敗とな」

 

「了解しました」

 

 ナジは部下に、今回の作戦の立案者であるプリンスに一報を入れるよう命令。何時までも、ここで落ちこんではいられない。今は一刻も早くこの場から撤退し、再び戦力を整えて再起を図るとしよう。

 

「ところでオルコット、あの子供は何なんだ?」

 

「ああ、あれか」

 

 通信指示を出した後、ナジはオルコットが撤退中に拾ってきたとある子供について尋ねる。それは、動かないデスルターのコックピットにいて、どういう訳か茫然自失のような状態にいた。いくら声をかけても、何も言わない。まるで壊れたレコードのように、何かをブツブツを呟いている。

 

「ま、取引材料くらいにはなると思ってな」

 

 最初こそ、味方が戦場のトラウマでおかしくなったかと思っていたのだが、オルコットが彼の顔をよく確認すると、そのとてつもない素性に気が付いた。

 間違いなく彼は、スペーシアンに対する協力な交渉カードに使える筈。このまま捨て置くなんて、あまりに勿体ない。そう考えたので、オルコットは彼を拾って帰る事にしたのだ。

 

「そうか。とりあえず営倉にでも放り込んでおけ」

 

「わかった」

 

 そしてオルコットはナジに言われたとおりに、拾った彼を営倉に入れる事にした。

 

「ごめんなさい父さん…ごめんなさい、ごめんなさい…ごめんなさい…」

 

 その間彼はぼんやりとした目で、ずっと謝罪の言葉を口にしていた。

 

 

 

 

 

「ねぇソフィ、大丈夫?」

 

 輸送船ジュピトリスのモビルスーツ格納庫。そこでノレアは、ソフィに近づいて彼女の心配をしていた。なんせソフィは、バルバトスにあと一歩で殺されるところまで追い詰められていたのだ。自分も殺されかけて、今ではバルバトスに少なくない恐怖心を持ってしまっている。

 

「いやー、今回はマジでやばかったね。本当に死ぬって思ったよー。スコア上げたせいで今も頭痛いし」

 

 だがソフィは、別に恐怖などしておらず、いつも通りに振る舞っていた。普通なら多少は恐怖する筈なのに、この態度。もしかすると、ソフィのメンタルはナノラミネートアーマー製なのかもしれない。

 

「それにしても、バルバトス最っっ高だった!!

 

 そして、バルバトスに対する自分の思いをぶちまける。

 

「あの殺意の籠った攻撃!隠さない暴力性!そして何よりあの強さ!映像だけじゃわからない事が沢山知れて最高!!ああもうたまらない!あんなモビルスーツとパイロットがいたなんて!!本当に楽しかった!!今までの人生で、1番トキメいちゃったし!!」

 

 それはまるで、バルバトスにまるで魅入られたような表情だった。そんなソフィに、ノレアは少しだけ悲しい顔をするが、ソフィはそれに気が付かない。

 

「あー!すぐにでもまた戦いたい!今からプラント・クエタに戻っちゃダメかな?」

 

「……暫くは無理だよ。ウルもソーンもボロボロだし」

 

「あー…」

 

 ノレアに言われ、ソフィは自分の愛機を見る。両足や背中のフェーズドアレイキャノンが破壊されているソーンほどではないが、確かにボロボロだ。このままバルバトスと戦うなんて、不可能である。1度どこかでしっかりと修理をしないと、再戦は無理だろう。

 

「その内また戦えるだろうし、今は休んでて」

 

「ちぇー」

 

 ノレアの言葉に、ソフィは不満そうにしながらも従う。一方でノレアは、もう2度とバルバトスとは戦いたくないと思っていた。映像で見たり、プリンスからの情報で危険性は理解していたつもりだったが、実際は想像を絶した。あんなモビルスーツが存在したなんて、思いもしなかった。

 もしもバルバトスが量産され、それが魔女狩り部隊や地球の治安維持部隊にでも配備されれば、もう自分達のような組織に勝ち目はない。蹂躙されるだけだ。

 

 それにあの、敵に対して一切の容赦の無さ。報告によると、バルバトスもパイロットは戦場に行った事の無い学生の筈。

 なのに彼は、躊躇なくこちらの味方を殺しにきた。はっきり言って、普通じゃない。ノレアも訓練を受けたまともな軍人なら相手にしても怖くもなんともないが、明らかにまともじゃない人間の相手なんてしたくない。そして出来れば、ソフィにもそんな人間に近づいてほしくない。

 

「そのままここにいて。私、食料貰ってくる」

 

「あ、私チョコ味のエナジーバーね」

 

「はいはい」

 

 ソフィを落ち着かせたノレアは、食料を貰うために1度その場を離れる。

 

(多分私達は、いずれまたあの悪魔と戦う事になる…)

 

 道中、ノレアは今後について考える。自分達は反スペーシアンのテロ組織。全てのスペーシアンに正義の鉄槌をくだすまで、戦う事をやめる訳にはいかない。

 そしてこのまま戦い続ければ、いずれあの悪魔と再戦する日がくるだろう。ノレアは出来ればもう2度と、バルバトスと事を構えたくないと思っている。そう思えるくらい、バルバトスは怖かったからだ。しかし何も、再びバルバトスそのものを相手にする必要は無い。

 

(でも、パイロットなら殺せる)

 

 普通に戦ってもバルバトスには勝てないが、パイロットは違う。なんせパイロットは人間だ。ナイフや銃で、普通に殺す事が出来る。

 もしもまたバルバトスと戦う日が来たなら、その時はパイロットを始末すればいい。そうすれば、バルバトスと戦う事は無い。まだ作戦も何も考えてなんていないが、もしもの時はそうしよう。

 

(皆の仇、絶対に取ってやる…!くそったれのスペーシアンめ…!)

 

 今回の作戦には、地球に子供がいた人も参加している。それをあの悪魔は、容赦なく奪い去ったのだ。こんなの、許せる訳が無い。この恨み、晴らさないでどうするものか。

 そうしてノレアは、復讐心を燃やしながら艦内を歩く。悪魔の相手なんてしたくないが、やらないといけないのなら怖くてもやる。だってノレアは、アーシアンの為に戦っている戦士なのだから。

 

 一方で残されたソフィは、格納庫の宙に寝そべりながら、ノレアが戻って来るのを待つことにした。彼女はノレアと違い、別にスペーシアンをそこまで憎んでいない。

 無論敵としてなら普通に殺しに行くが、それ以外ならどうでもいいと思っている。でも今は、とあるスペーシアンに対して思いを寄せていた。

 

 三日月・オーガス。

 バルバトスのパイロットであり、今回自分を殺そうとした敵で、ソフィが今までで1番トキメいた相手。こんな胸の高まりは初めてだ。今もトキメキが止まらない。まるで恋である。

 

「また戦えたら、今度こそ私が勝つ。その時は三日月・オーガス、あんたを私の家族にしてあげる。それまで待っててね、お兄ちゃん♪」

 

 そして三日月に、そんな歪んだ思いを寄せるのであった。

 

 

 

 

 

 アスティカシア学園 グラスレー寮 寮長室

 

「シャディク、フォルドの夜明けから連絡だ。作戦は失敗。デリング総裁は生きているし、投入したモビルスーツを半数失い、夜明けの地平線団団長の、サンドバル・ロイターも戦死したとのことだ」

 

「……何だって?」

 

 サビーナの報告を聞いたシャディクは、自分が聞き間違えたのでは無いかと思う。今回の作戦、かなり入念に準備をして行っている。仮にデリング・レンブランを暗殺出来ていなくても、そこまで被害が出るような状況は無かった筈だ。

 

「守備艦隊は出払っていた筈だろ?一体何が……いや、まさか…」

 

「通信で言われたよ。全部悪魔にやられたとな」

 

 その言葉を聞いて、シャディクは納得する。何があったかは知らないが、フォルドの夜明けと夜明けの地平線団は、あのバルバトスを相手にしたらしい。

 

「そうか。新しい力を手にしたガンダムフレーム相手じゃ、あの数と魔女2人程度じゃ足りないか…」

 

 確かにそれは、相手が悪い。なんせバルバトスは、300年前に人類を救った伝説のモビルスーツ。今では失われた多数の技術を保持しているガンダムフレームだ。

 それに例のスパイの情報によると、詳細は不明だが以前のバルバトスより遥かに強化されているとの事。それでは今回の様に、目を覆いたくなる被害も納得だ。

 

(やはり悪魔を倒すには、対となる存在をぶつけないとダメかな)

 

 魔女でも相手にならないとすれば、もう悪魔の相手が出来るのはひとつしかない。幸いな事に、アレは順調に形を取り戻している。このままいけば、例のイベントに間に合うだろう。

 問題はどうやって学園に持ち込むかだが、そんなのはどうとでもなる。なんせアスティカシアの荷物検査は、いくらでも細工が出来るほどには、結構なザル警備だからだ。

 

「朗報らしい朗報と言えば、ヴィム・ジェタークは始末できたらしいとの事くらいだな」

 

「そうか。それは何よりだ」

 

 それは嬉しい話だ。正直、あの男は嫌いだった。こちらを見下し、派閥争いと謀略しか頭に無い浅い男。出来ればこの手で殺してやりたいくらい、シャディクはヴィム・ジェタークが嫌いであった。

 今回の作戦で、証拠隠滅を含めて始末するつもりだったが、こっちは成功してくれて何よりだ。これでプラント・クエタ襲撃犯の捜査が、こちらに及ぶことは無いだろう。

 

「そっかー。あのおじさん、死んじゃったんだー。かわいそ」

 

「でもいいんじゃ無い?私、あの人嫌いだったし…」

 

「だね。死んでくれてせいせいするよ」

 

 それは他のメンバーも同じ。全員がヴィムの事を嫌っていた。死んでくれて、ざまぁみろとさえ思っている。

 

「にしても、バルバトス怖いねー。まさか半分も殺しちゃうなんて」

 

「そうだね。それだけ強いって事なんだろうけど、だとしてもだよ」

 

 そして話題は、バルバトスに代わる。メイジーとイリーシャの言う通り、バルバトスはかなり恐ろしい存在になっていた。

 なんせ今回の作戦、モビルスーツを27機も投入している。その半分近くである15機が、バルバトス1機によって撃破されているのだ。そんな真似、ここにいる誰も出来ない。いくらこの場にいる皆が、パイロット科上位成績者だとしても、27機もの敵を相手になんてできる訳が無い。

 

 しかしバルバトスは、それをやってのけた。

 

 シャディクは納得しているみたいだが、他のメンバーはあまり納得できていない。いくら伝説のガンダムフレームとはいえ、これは異常である。普通はそんな事、出来ないからだ。一体今のバルバトスは、どれだけ改修されているのだろうか。

 

「やはり、バルバトスは最大の障害と考えるべきだな」

 

 サビーナの言う通り、バルバトスは自分達の計画の最大の敵になりかねない。アレが敵に回ったら、勝ち目がないからだ。可能であれば、アスティカシアに戻ってきたら破壊しておきたいくらいだ。地球寮くらいなら簡単に侵入できるし、そう難しい事ではないだろう。そうすれば、戦わずにしてバルバトスを無力化できる。これは1度本気で考えた方がよさそうだ。

 

「おい、何処に行くレネ」

 

 サビーナが今後について考えていると、突然レネが椅子から立ち上がってドアに向って歩き出す。

 

「もう作戦は終わったんでしょ?だったら私は部屋に戻るよ。これ以上ここにいても話す事無いし、今日はキープくん7号のジーンと食事の約束してるしね。じゃ」

 

 そう言ってレネは、寮長室から出ていく。

 

「ま、確かにレネの言う通り、もう解散でいいだろう。後は俺とサビーナでやっておくから、皆はそれぞれやりたい事していいよ」

 

シャディクは出て行ったレネを叱責せず、むしろこのまま解散でいいと言い出した。残った仕事なんて、指示を出して終わりだ。別に全員いなければならない訳じゃない。今後の事については、また後日考えればいいだろう。

 

「そう?なら2人共行こうか」

 

「どこか食事でも行く?」

 

「別に学食でいいでしょ」

 

 シャディクに言われ、メイジー、イリーシャ、エナオも部屋から出ていく。残ったのは、シャディクとサビーナだけだ。

 

「さてサビーナ、フォルドの夜明けには逃走ルートの変更を。あと、モビルスーツはこちらで引き取ると言ってくれ。ただし、武器と弾薬は好きにしていいと」

 

「了解だ」

 

 そして部屋に残った2人は、作戦完了の為にちょっとだけ残業をするのであった。

 

 

 

「……」

 

 寮長室から出たレネは、少し暗い顔をしていた。これからキープ君と食事があるというのに、何時もの笑顔は無い。

 

(そっか…三日月・オーガス、人殺しになっちゃったんだ…)

 

 その理由は、三日月がプラント・クエタで沢山のモビルスーツを破壊したことにある。モビルスーツを破壊したとい言う事は、乗っていたパイロットも殺していると言う事。普通にアスティカシアで学生生活をしていたら、先ずしないであろう人殺し。それをどういう訳か、三日月はしてしまったらしい。

 

(私とお揃い、か…はは、こんなお揃いはちょっと嫌だなぁ…)

 

 レネもかつて、人を殺した事がある。だがあれは、事故のようなものだった。三日月のように、決して自らの意思で殺したわけじゃない。それでも、人の命を奪った事にかわりはないが。

 

(学園に帰ってきたら慰めてあげ…いや、私が慰めるなんて真似、しちゃダメだよね…)

 

 どうして三日月がバルバトスに乗って、プラント・クエタを襲撃したテロリストと戦う事になったかは謎だ。

 しかし三日月が人殺しをしたのは、自分達に原因がある。自分達がデリング・レンブラン暗殺の為にプラント・クエタ襲撃作戦に同調しなければ、三日月が人を殺す事は無かっただろう。なのにどの面さげて、三日月を慰めるというのか。いくらレネでも、そこまで面の皮は厚くない。

 

(なんか、胸が痛いなぁ…)

 

 どういう訳か、胸がちくちくする。三日月が罪を犯した事を考えると、罪悪感が出て来てしまう。

 

(誰か1人に本気になる事なんて、絶対に無いって思っていたのに…)

 

 最近、レネの中で三日月の存在がかなり大きくなっていた。これまでのキープくんとは違い、明らかに別の感情が出ている。そんな事、絶対に無いとずっと思っていたのにこれだ。

 なんせ三日月は、他のスペーシアンとは違う。仮にレネがアーシアンだとしても、彼は普通に接してくると言っていた。あんな事、初めて言われた。それから事あるごとに三日月に様々なアプローチをしていたが、そうしている内にいつの間にかレネは、どんどん三日月に惹かれていった。

 敵対しなければ無害で、誰に対しても差別なんてせず、野菜作りに夢中で、仲間を大事にする。そこに打算も策略も無い。ただ三日月が、そうしたいからそうしているだけ。あんな子、見た事無い。だというのに自分は、顔向けできない事をしてしまったのだ。

 

(私、どんな顔して会えばいんだろう…?)

 

 その答えがわからない。誰か答えを知っているのなら、是非教えて欲しい。

 

(こういう時、どうすればいいのかな?教えてよ、お姉ちゃん達…)

 

 レネはかつて、自分を家族同然に扱ってくれた血の繋がっていない姉達を思い出す。もし彼女達が生きていれば、今の自分に的確なアドバイスをくれただろう。

 でも彼女達は、既に戦争で亡くなっていてこの世にいない。もうこの世にもういないのに、レネはどうすればいいか教えて欲しいと思ってしまう。それほど、答えが知りたいのだ。

 

 その後レネは、化粧室でしっかりと顔を作ってから、キープくんとの食事を楽しむ。しかしそれは上っ面だけで、レネは心の底から楽しめる事なんて出来ずにいた。

 

 

 

 レネ達4人が寮長室から出て行った後、シャディクはサビーナと共に2つのテロ組織に指示を出していた。

 

「とりあえず、これで彼らは撤退できるか」

 

「そうだな。後はまた新しい作戦があるまで待機させておこう」

 

 指示を出し終えたシャディクは、冷めた紅茶を一気に飲み干す。今回の作戦は、失敗と言っていい。デリング・レンブランは生きているし、投入したモビルスーツは半数が失われた。おまけにガンダムもボロボロ。

 だが、決して失ったばかりではない。新しいバルバトスの力を確認できたし、何より提案者であるヴィム・ジェタークは死んでいる。これでチャラとはとても言えないが、それでもただ失敗したよりはずっとマシだろう。

 

「ま、あの傲慢な男を殺せただけでも良しとしとこうか」

 

 本音を言えば全然足りない戦果だが、今はこれで良しとする。紅茶を飲み干して、カップを置くとサビーナが話しかけてきた。

 

「シャディク」

 

「なんだい?」

 

「レネに監視をつけるべきじゃないか?」

 

 そのサビーナの言葉に、シャディクの目が鋭くなる。

 

「最近のあいつは、三日月・オーガスにかなり執心だ。可能性は低いだろうが、万が一というのもある」

 

「……レネが裏切るって言うのかい?」

 

「あくまで可能性だ。男が理由で仲間を裏切った女なんて、いくらでもいるだろう?」

 

 サビーナの言う通り、最近のレネは三日月の事ばかり話す。勿論、三日月以外にもキープ君達とデートしたり、食事をしたりしているのでぱっと見何時も通りだが、この部屋で6人で集まった時は三日月の事ばかり。やれ全然靡かないだの、毎回スレッタを優先しているだの、身体を押し付けても無反応だの、そんな事ばかり。でもその顔は、どこか嬉しそうであった。

 それだけじゃない。先ほど部屋から出て行く時、レネは明らかに沈んだ顔をしていた。多分だが、三日月が手を汚してしまった事にショックを受けたのだろう。

 

 有史以来、男が原因で組織や国を裏切った女なんていくらでもいる、神話の話だと、コルキスの王女メディアが有名だ。レネがそう簡単に自分達を裏切るとは思えないが、それでも用心するに越した事はない。

 

「いや、監視は無しだよ」

 

「いいのか?」

 

「レネは裏切らないさ。これは断言できる。それに下手に監視を付ければ、それこそ裏切る可能性があるしね」

 

 しかしシャディクは、サビーナの案を却下。元より自分達は、鉄より硬い絆と信念で結ばれている。今更男が原因で、レネが裏切るなんて無い。それに仲間を疑うなんて真似、したくないのだ。

 だからシャディクは、レネに監視なんてつけない。レネの事を、信じているから。

 

「お前がそう言うならいいが、もしもの時は」

 

「心配しなくても、その時はしっかり俺がケジメをつけるさ」

 

 でももしレネが裏切ったら、シャディクも容赦しない。その時は、せめて苦しまないように終わらせよう。

 

 

 

 

 

 プラント・クエタ 2番通路

 

「なんか、音がしなくなりましたね」

 

「多分、守備艦隊がテロリストを追っ払ったんでしょ」

 

 薄暗いだだっ広い通路を、スレッタとミオリネは壊れたドアにデリングを乗せた状態で移動していた。

 

「それにしても、本当に運がよかったですね」

 

「ええ、まさか無傷の救急キットが手に入るとは思わなかったわよ」

 

 先程通った部屋に、運よく無傷の救急キットがあったおかげで、デリングにそれなりの治療を施す事も出来た。

 

「ぐっ!?」

 

「デリング総裁!もう少しだけ我慢してください!」

 

「絶対に死ぬんじゃないわよ!もし死んだらあの世に行って連れ戻して、病院のベッドの上で何日も罵倒してやるんだから!!」

 

 無論、これはあくまで応急処置。そもそもスレッタはレスキューパイロットであり、医者ではない。そしてミオリネも、学校で習った知識以上の事は出来ない。現にデリングは、今も苦しそうにしている。一刻も早く設備の整った病院にデリングを連れて行き、そこで適切な治療をさせなくてはならない。

 

「このまま進めば、いずれはコントロールセンターにたどり着く筈よ」

 

「もう随分移動した気がしますね…やっぱり学園よりずっと広いなここ」

 

「ま、グループが保有している最大の工廠だしね。それに本来通れる道がああもガレキだらけじゃ、しょうがないでしょ」

 

 かれこれ15分は移動しているが、未だに目的地にたどり着かない。ガレキさえなければ、もっと早くたどり着いたのだろうが、通れないのなら仕方ない。

 

 その時だ。

 

「見つけたぞ!デリング・レンブラン!!」

 

「「!?」」

 

 通路の影から、銃を持ったノーマルスーツを着た男が現れた。そしてその銃口は、スレッタ達に向けられている。ほぼ間違いなく、彼はここを襲っているテロリストだろう。

 

「仲間は皆死んだ…外にいた連中も、撤退した。でもせめて、お前だけは刺し違えてでも始末してやる…!」

 

 男はぶつぶつ呟きながら、ゆっくりとスレッタ達に近づいてくる。だが銃口は、決してスレッタ達からズラそうとはしない。

 

「み、ミオリネさん!私の後ろに…!」

 

「ばか!そんな事出来る訳ないでしょ!!」

 

 スレッタが怖がりながらもミオリネとデリングを庇おうとするが、ミオリネはそれを阻止。そもそも目の前のテロリストは、デリングだけじゃなくて自分達も纏めて殺す気でいる。例え庇われても、死ぬ順番が少し入れ替わるだけだ。

 

「待て…」

 

 その時、ドアの上に寝かせられているデリングがテロリストに話しかける。

 

「殺すなら、私だけにしろ…この2人は逃がせ…」

 

「デリング総裁!?」

 

「何言ってるのよお父さん!?」

 

「黙っていろ…殺したいのは私なのだろう?ならば、関係が無いこの2人を殺す必要な無い筈だ…頼む…」

 

 そして、スレッタとミオリネは見逃して欲しいと頼む。その発言に、スレッタとミオリネはとても驚く。確かに親として、大人としては子供を守るための正しい選択かもしれないが、それはつまり、デリングを見捨てると言う事。そんな真似、許さない。

 

「見逃せだと…?ふざけるなよデリング・レンブラン!!

 

 そしてそれは、テロリストも同じだった。彼の中で、ここでスレッタとミオリネを見逃すという選択肢は存在しない。

 

「何も関係が無い!?そんなのは俺だって同じだった!!テロになんて加担せず、地球にある小さな山間の町で毎日必死に働いていただけだ!!」

 

 テロリストは、大声で怒鳴りながらゆっくりと近づいてくる。顔は見えないが、声でとても強い恨みを抱いているのはわかる。一体何があれば、ここまでスペーシアンを恨むというのか。

 

「だって言うのにお前達スペーシアンは、俺達がテロに協力しているって証拠の無いデタラメを言いながら、俺の妻と生まれたばかりの娘を笑いながらモビルスーツで踏みつぶしただろうが!!」

 

「「!?」」

 

 スレッタとミオリネは絶句する。成程、それならスペーシアンを恨んで当然だろう。

 

「遺体はバラバラだった!全部かき集めても、骨や肉の欠片しか残らなかった!!」

 

 とうとうテロリストの銃が、ほぼ間違いなく当たる距離まで近づいた。この距離なら、先ず外さない。

 

「てめぇらスペーシアンは1人残らず皆敵だ!無関係だなんて言わせねーぞ!!家族と仲間を殺された恨み、ここで晴らしてやる!!」

 

 そしていよいよテロリストが銃のトリガーに指をかけ、狙いを定める。スレッタとミオリネは、お互い手を握りながらデリングの前に立つが、大した壁になんてならない。テロリストが銃を撃った瞬間、3人共殺される。

 

「死ね!スペーシアン!!」

 

(お母さん…!三日月…!)

 

(お母さん…!)

 

 スレッタとミオリネは、恐怖に体を振るわせながら思わずぎゅっと目を閉じる。

 

 

 

 その瞬間、

 

『!?』

 

 大きな音と共に、巨大な何かが現れた。

 

「「バルバトス!?」」

 

 それは前見た時と比べる姿形が違うが、間違いなくバルバトスであった。三日月はプロスペラから教えてもらった通りに、スレッタ達を助けにきたのだ。外の外壁を壊してここまできたが、今は非常事態なので許されるだろう。

 

「くそ!」

 

 そしてテロリストは直ぐに銃を発砲しようとする。モビルスーツ相手なんて、勝てる訳無い。

でも、銃でデリングは殺せる。テロリストはデリングを殺すべく、銃の引き金を引いた。

 

 

 

『死ね』

 

 

 

 だがそれは、バルバトスが腕を思いっきりテロリストに振り下ろしたことで、不可能となる。銃を持ったテロリストは、そのままバルバトスの腕に押しつぶされ、ミンチとなったのだ。テロリストの腕が宙を舞い、スレッタの後ろの壁にぶつかる。同時に血が、スレッタとミオリネの顔に付着した。

 

「「…………え?」」

 

 2人共、今何が起こったのか理解が出来ずにいる。突然バルバトスが来たと思ったら、テロリストがバラバラになって死んでいた。その過程を、脳が理解を拒んでいる状況である。

 

「「っ!?」」

 

 だが直ぐに、2人共何が起こったかを理解。今三日月が、バルバトスでテロリストを1人殺したのだ。

その結果、テロリストがバラバラになったのだと。それがわかった瞬間、恐怖を2人が襲う。

 

『スレッタ、ミオリネ。大丈夫?』

 

 三日月はバルバトスに乗った状態で2人の安否を確認。見たところ怪我はしていないようだが、それでちゃんと聞かないとわからない。

 

「……なん、で?」

 

 三日月の声色は普段となんらかわらない。まるで今朝、挨拶をした時のようだ。今人を殺したというのにだ。

 

「なん、で…?」

 

 そんな三日月に、スレッタは初めて恐怖したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ぐぅ…!?)

 

 1人の男が、目を覚ます。目を覚ました男が周りを確認すると、そこは宇宙だった。そして視線の遥か先には、プラント・クエタが小さく見える。どうやら思っている以上に、遠くまで飛ばされていたらしい。

 

(俺は、どうなったんだ…?)

 

 男は自分の記憶を思い返す。モビルスーツに乗って戦って、そしてその最中に大切な子を見つけて、その子をモビルスーツの爆発から守るために突き飛ばし、その後モビルスーツが爆発し、その衝撃で宇宙に投げ出されたところまで思い出せた。てっきり目が覚めたらあの世かと思っていたが、どうやらまだ生きているらしい。

 

(あれから、どれだけ時間が過ぎた?)

 

 男がノーマルスーツの腕にある時計を確認すると、プラント・クエタが襲われてから既に3時間近くが経過している。そんなに長い間意識を失っていた事実に、男は驚く。

 おまけに、腹部から出血もしているみたいだ。幸い内蔵は無事みたいだが、早く治療をしないと大量出血で死んでしまう。男は直ぐに全身痛む体を動かしながら、ノーマルスーツに装備されている救難信号を発信。これでプラント・クエタから、救助部隊が来てくれる筈だ。

 

(マズイ…酸素がもう無い…)

 

 しかし、残された酸素はもう僅か。ここはプラント・クエタから結構距離がある。これでは例え気が付いてもらっても、救助部隊が間に合うかわからない。いや、間に合わないだろう。

 

(俺の人生も、ここまでか…)

 

 彼は覚悟を決めた。恐らく自分は、もう助からない。そして彼は、これまでの人生でしでかしてきた事を思い返す。

 彼は自分が昇り詰めるために、様々な事をしてきた。軍事作戦に参加した時に誤射を装ってライバル企業のトップを暗殺したり、地球で工場の視察をしていたライバル企業のトップを事故に見せかけて暗殺したり、ただ普通に大金で相手の企業を買収し邪魔だった企業を傘下にいれてこき使ったりと、非道な事を散々やってきた。そうやって彼は、のし上がってきたのだ。

 でも今は、自分が死にそうになっている。大切な家族に看取られる事も無く、暗く寒い宇宙でひとりぼっちで死のうとしている。まさに因果応報だ。

 

(ああ、でも…)

 

 だけど、ちょっとだけ救いもあった。今まで行方不明だった息子と、最後に再会できたのだ。殆ど会話なんて出来なかったが、生きて再会は出来た。あんなに嬉しい事は無い。

 もう子供2人の成長を見れる事はないだろうが、あの2人なら大丈夫だ。なんせ2人とも、どこに出しても恥ずかしくない、本当に誰にでも自慢できる最高の子供達なのだから。

 

(それだけは、本当によかった…)

 

 血を流しすぎたせいなのか、彼は意識を失いかける。全身が寒くなり、目の前がどんどん暗くなっていく。これで自分は終わり。彼は最後に、子供達の安全を願いながらゆっくりと瞼を閉じて、意識を失うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな彼が意識を失う直前に見たものは、茹でた海老が自分に近づいてくるという珍妙な光景であった。

 

 

 

 

 





 三日月 スレッタ達守れて満足
 スレッタ&ミオリネ 超怖がる
 プロスペラ バルバトスを強くしすぎてちょっと焦る
 グエル しれっとテロリスト達に回収される
 ニカ 罪悪感やばい
 レネ 胸がちくちくする
 サビーナ レネ警戒中
 シャデク 相変わらず何か企んでる
 テロリスト達 ボロボロ
 ソフィ お前も家族だ
 ノレア いつか絶対殺す
 デリング 治療されたから割と元気ある

 大体こんな感じです。

 毎度上手く書けているか不安な作者です。こうして書くと、プロってすごいと本当に思う。読んでいてどこかおかしいと思ったり、矛盾していたと感じたら言ってくださいませ。修正いたします。

 次回はオリジナル回挟んで、その後2期入る予定です。更新頻度は遅くて完結するの何時になるかわからないし、まだ細かいところ考えていませんが、これからもどうかよろしくお願いします。
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