悪魔と魔女の物語   作:ゾキラファス

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 今日の水星の魔女も凄くよかった… 特にボサボサ頭のミオリネが部屋から出てきてスレッタの手をゆっくり握るところが。

 そして父の日だからなのか、デリング復活。でももう活躍するシーンあるかな?

 あとこの作品には割と独自設定があります。ご了承ください。


プロローグ 4

 

 

 

 

 

 金星。

 それは地球になりそこねたと言われる兄弟星の惑星。そして太陽系で、最も過酷な星と言われている。金星表面を覆っているのは濃硫酸の雲だし、金星表面温度は460度もあるし、大気圧は地球の90倍。こんな星に、人どころか生物が住める訳が無い。

 長年人類は、金星に移住できるか色々と試してきたが、結局多少の環境改善と、地表に堅牢なドーム型の街を作って暮らすのが精いっぱいで、地表への移住は無理だと諦めた。

 今では金星表面にいくつかのドーム型の町があり、衛星軌道に多くのコロニーがあるという状態に落ち着いている。その金星の衛星軌道にある、最も金星から離れているコロニーのひとつ、『アファムコロニー』。名前の由来は、金星の発展に最も貢献したと言われている昔の人物からだ。

 そして最も金星から離れているせいもあってか、金星が地球でいうところの月より小さく見える。かつては賑わっていたこのコロニーも、今では廃れ、住んでいる人もあまりいない。所謂、限界集落だ。だが、それは今この場にいる者にとっては好都合だ。

 

 アファムコロニー内の、とあるモビルスーツ演習区画。そこに、2機の白いモビルスーツがいた。

 

 右手にビームライフルを、左手にシールドを持っており、全体的に細く女性的な印象のあるモビルスーツ、エアリアル。右手に20メートルはあろうかという鋼鉄製のソードメイスを持って、凶悪な面構えをしているモビルスーツ、バルバトス。

 その2機が、まるで決闘でもしているかのように対峙している。

 

「行くよ!!」

 

 エアリアルのパイロットスレッタは、声を出しながらエアリアルのバーニアを吹かし、ビームライフルをバルバトス目掛けて乱射する。無論ただ無暗に撃っている訳では無く、しっかりと狙いを定めて。

 だがバルバトスは、その全てを避けていった。それもモビルスーツの教本のような避け方では無く、まるで野生の獣が飛び跳ねるかのような避け方。とても常人では真似できないだろう。

 そしてバルバトスは、跳躍しながら両腕に装着されている腕部ビーム砲をエアリアル目掛けて発射。

 

「ってあぶな!?」

 

 スレッタはそれに当たらないよう左右に避ける。その間も、バルバトスはエアリアルとの距離を詰めてくる。

 

「なら!」

 

 次にスレッタは、ビームライフルを撃ち、バルバトスに近づけさせないようにする。更に、バルバトスがビームを避けて跳んだ先を予測。着地と同時にビームライフルを当てる作戦に変更。所謂着地狩りだ。

 そしてここぞという場所を見つけ、バルバトスが着地するタイミングを見計らってビームライフルを発射。

 

 だが、バルバトスが着地をしようとした瞬間、

 

「ええぇ!?」

 

 バルバトスは手に持っていたメイスを思いっきり地面に突き刺し、その反動で再び跳躍。エアリアルが発射したビームは、そのままメイスに直撃。当然、バルバトスは無傷だ。

 そして空中で1回転して着地したバルバトスは、無手のまま両腕を広げてエアリアルに近づいてくる。その姿、まるで獲物を見つけ狩りをする獣そのもの。

 

「くっ!エアリアル!!みんな!!」

 

 スレッタ、ここでエアリアルの切り札、ガンビット『エスカッシャン 』を使用。エアリアルのシールドが分裂し、ガンビットが宙を舞う。その数、全部で11基。

 そしてその11基全てが、一斉にバルバトスを捉える。

 

「これで!!」

 

 11条のビームによるオールレンジ攻撃なんて、どうあっても避けられない。スレッタとエアリアルは勝利を確信する。これが普通のモビルスーツとパイロットなら、これで勝っていただろう。

 

 だが生憎と、今スレッタの目の前にいるのはただのモビルスーツとパイロットじゃない。

 

「なっ!?」

 

 11条のビーム攻撃を、バルバトスは避けている。しかも、11条のビーム攻撃の間をすり抜けながら。まるでビームの雨の中を濡れずに進むように、バルバトスはエアリアルに接近してくる。

 そしてバルバトスがエアリアルを捉え、一気に背中のスラスターを吹く。

 

「うっそぉ!?」

 

 とっさにエアリアルは後退するが、バルバトスの方が速い。遂にバルバトスはエアリアルの目の前まで接近。右腕を振りかざし、その鋭利な爪をエアリアルに向ける。

 そしてそれは、エアリアルの頭を狙っていた。

 

「ま、まだまだ!!」

 

 だがスレッタも負けてない。直ぐにエアリアルの背中からビームサーベルを抜くと、それをバルバトスに振り下ろす。同時に、バルバトスの左右からガンビットによるオールレンジ攻撃も開始。これでもう、避けられない。

 

 筈だった。

 

「……え?」

 

 突如、バルバトスの姿がスレッタの視界から消える。この時バルバトスは、左腕で地面を思いっきり叩き、その反動で上へと跳んだのだ。

 そのせいで、エアリアルの視界は砂塵で覆われる。その間にバルバトスはエアリアルの上空を通り越し、あっという間にエアリアルの背後に回る。

 

「しまっ!?」

 

 スレッタが慌てて振り返るが、振り返った瞬間、目の前にバルバトスの爪が迫ってきた。

 

「っ!?」

 

 そしてそのまま、その鋭利な爪がエアリアルを貫く、

 

『はい。俺の勝ち』

 

 事など無く、エアリアルに当たる寸前で止まった。

 

「三日月!やっぱりバルバトスのその反応速度はインチキだよ!!ガンビット11基の攻撃を避けるってどうなってるの!?」

 

『どうって言われても……勘?』

 

「勘!?」

 

 スレッタの驚いた声が、演習区画に響く。だってあんな反応速度、どうあってもありえない。エースパイロット揃いと言われているドミニコス隊でさえ、あんな事できないだろう。やろうとしても、機体の方がもたない。

 

『2人共、お疲れ様』

 

「あ、お母さん!」

 

『……』

 

 そんな2人のコックピットモニターに、仮面を被った女性、プロスペラが映る。

 

「ご、ごめんなさいお母さん…負けちゃった…」

 

『いいのよ。それに昨日は三日月くんとバルバトスに勝ったじゃない?これで通算、8勝26敗1引き分け。最初の10連敗に比べたらずっと成長しているわ』

 

 プロスペラの言う通り、スレッタとエアリアルだって勝ったことはある。でもそれは、全部遠距離からひたすらに攻撃をして、バルバトスを自身に近づけさせないようにしていたからだ。接近戦ではバルバトスに全敗している。

 というかバルバトスが接近戦に異常に強すぎる。無論、それは機体特性だけじゃなく、三日月の戦闘センスもあるだろうが。

 

(バルバトスを作った人は、どうしてこんな風に作ったんだろう?)

 

 モビルスーツは大体何かしらの目的があって作られている。エアリアルは、次世代群体遠隔操作兵器のガンビットを操れるモビルスーツとして。前にデータで見たデミ・トレーナーは、モビルスーツの操縦を教わる機体として。

 

 ならばバルバトスはなんなのだろう。

 

 今でこそプロスペラによって少し改修されて両腕に射撃武装があるが、水星の8番格納庫にあった時は、完全に近接主体の作りだった。

 なんせ傍にあった武器が大型のメイスが2つだけだ。どういう意図があったのか、まるでわからない。

 

(もしかして、作った人は射撃が下手だったのかな?)

 

 開発者の意図がわからないスレッタは、そんな風に思っていた。

 

『そろそろ終わりましょう。2人共、モビルスーツをハンガーに戻して頂戴』

 

「うん、お母さん」

 

『ん』

 

 プロスペラに言われ、演習区画の外にあるシン・セーが所有するハンガーへ向かう2人と2機。

 

 スレッタ・マーキュリーと三日月・オーガス。2人は更に成長し、14歳となっていた。

 

 

 

 

 

「ふぅ…」

 

 コックピットから出て、ヘルメットを取ったスレッタは一息つく。今日だけで、3時間以上モビルスーツに乗っていた。ずっと座りっぱなしだったせいで、腰やお尻がいたい。もうクタクタだ。

 

「うー…シャワー浴びたい…」

 

 おまけに体中汗まみれで気持ち悪い。下着だって、汗で濡れて肌にぴったりとくっついて嫌な気分だ。今すぐシャワーを浴びて、清潔な下着と動きやすいスウェットに着替えて、ベッドに横になりたい。それにいつまでも汗まみれでいたら、エアリアルだって嫌だろう。

 

(あとでコックピット、掃除するからね)

 

 スレッタはエアリアルのコックピットハッチを開けて、外に出てタラップを降りる。

 

「お疲れ、スレッタ」

 

 タラップを降りると、既にバルバトスから降りていた三日月がスレッタに声をかけてきた。

その手にはタオルがある。

 

「はいこれ」

 

「あ、ありがとう。三日月」

 

 三日月からタオルを受け取り、スレッタは顔の汗を拭く。前の三日月だったら、こんな事しなかっただろう。

 しかし水星でスレッタと過ごしていく内に、三日月は少しは気配りができるようになった。

 

「あとこれも」

 

 こうしてタオル以外に、水も持ってきているのがその証拠だ。

 

「ありがとう」

 

 スレッタはそれを受け取ると、一気に飲み干す。

 

「はぁ…生き返る…」

 

「それ、水星のじじぃたちみたいだよ?」

 

「え…それはちょっと…」

 

 それは嫌だ。単純に嫌だ。今度からは、もう少し言葉に気を付けようとスレッタは思う。

 

「それにしても、やっぱり強いね三日月は。結局今日は1回しか勝てなかったし…」

 

「いや。最後のビームサーベルとガンビットの攻撃は危なかったよ。これが無かったら反応できずにやられていただろうし」

 

 そう言うと三日月は、スレッタに背中を見せる。するとそこには、妙な楕円形の装置のようなものがパイロットスーツに装着されていた。

 

「ねぇ三日月。それ大丈夫なの?」

 

「何が?」

 

「えっと、痛いとか、無いの?」

 

「無いよ。普通に背中を下にして寝ても問題ないし」

 

 三日月の言う通り、これは別に痛くはない。ただ毎回バルバトスを起動する時に、少しだけ頭が情報でいっぱいになるだけだ。

 それに、これはパイロットスーツについているもの。三日月の身体に直接装着されている訳では無いので、寝る時だって問題無い。

 

 尤も三日月の背中の中央には、まるで何かを差し込むような小さな穴が2つ開いているのだが。

 

「三日月が痛くないって言うならいいけど、痛い時は直ぐに言うんだよ?」

 

「うん。わかった」

 

 そう言うと三日月は、自分用の水を飲む。喉が潤い、乾きが癒されていく。

 

「2人共。3時間半、お疲れ様」

 

「あ!お母さん!」

 

 そんな時、後ろから声をかけられる。三日月が振り返ると、そこには仮面を被ったスレッタの母親、プロスペラがいた。

 

「最後の動きには驚いたわ。自分がしたいと思った動きをそのままするなんて、まさに人機一体ね」

 

 プロスペラは手に持っているタブレットで先ほどの模擬戦の映像を再生する。左手で地面を叩き、その反動で跳び上がる。

 こんな事、並みのモビルスーツパイロットに出来る訳が無い。というかそもそもこんな真似をすれば、モビルスーツの腕が壊れるだろう。

 こんな事が出来るのは、ひとえにバルバトスの異常としか言えない頑丈さと、三日月の背中に埋め込まれた、とあるインプラント機器のおかげだ。

 

「確か、阿頼耶識システムだっけ?三日月に埋め込んでいるのって」

 

「ええ。そうよスレッタ。まぁ本来のシステムと違って、少し私が改良しているけど」

 

 阿頼耶識システム。

 それがプロスペラがバルバトスの中にあったデータから解析し、復活させた失われた古代の技術であり、プロスペラ自ら改良して三日月に手術をして背中に埋め込んだインプラント機器の正体だ。

 この古代のシステムを簡単に説明すると、脊髄に特殊なナノマシンを注入し、それを制御するインプラント機器を背中に埋め込み、そのナノマシンによって脳に空間認識を司る基幹を疑似的に形成し、それを通じてモビルスーツの情報を直接脳で処理することができるシステムだ。このシステムのおかげで三日月は、バルバトスをまるで自分の身体のように操縦する事が出来る。

 その結果、先程の模擬戦のようなデタラメな動きが可能なのだ。勿論この阿頼耶識システムだけのおかげじゃなくて、三日月の戦闘センスの良さと、しっかりとモビルスーツの操縦を訓練したおかげでもあるのだが。

 

「ねぇ、お母さん…やっぱり…その…」

 

「スレッタ、これはエアリアルの為でもあるって言ったでしょ?心配しないで?」

 

「そう、なんだけど…」

 

 最初この手術を三日月が受けたと聞いた時、スレッタは少なからずショックを受けた。命に係わる怪我をした訳でも無いのにどうしてそんな事をしたのかわからないし、自分の母親が関わっていると知ったからだ。

 しかし三日月に聞いても『これは俺がそうしたいからやった事だから、スレッタは気にしなくていいよ』と言うだけ。

 更に母も『あれは彼に必要な手術だったの』としか言ってくれない。流石のスレッタも少しばかし母を訝しんだが、母の『エアリアルの為でもある』という言葉と、三日月が全然健康なのがあったので、とりあえずは訝しむのをやめた。

 

 なおその後、暫くの間スレッタは三日月の身の回りの世話をしていたりする。例えば一緒に風呂に入ったりとか、寝る時に一緒のベッドに入ったりとか。その光景を見た水星の一部の老人たちは少し気ぶった。

 

「ところで、何か体に違和感とか無いかしら?」

 

「無いよ。頭痛もしないし、吐き気も全く無い」

 

「そう。それはよかったわ」

 

 プロスペラがこう聞くのには理由がある。娘のボーイフレンドを自分で手術し、もし不調があったら申し訳ないという気持ちでは無く、阿頼耶識システムそのものが脳にかなりの負担をかけるので、万が一があっては大変だからだ。

 なんせ脳にモビルスーツの情報を直接読み込ませるのだ。その負担は莫大なものである。下手すると脳が情報に耐え切れずに損傷し、半身不随になるかもしれない。

 実際に三日月は、最初バルバトスと繋がった時に、情報量のせいで頭がパンクしそうになった。ついでに鼻血も出した。だがその後の検査で、特に異常も無かったので、今もこうしてバルバトスに乗っている。

 そして三日月は現在、月に1回プロスペラが水星に派遣した医者の健康診断を受けている。

 

「それで、機体の方はどう?」

 

「うん。凄くいいよ。ルプスは」

 

 プロスペラの質問に、三日月は改修されたバルバトスこと、バルバトスルプスを見上げながら答える。物理攻撃を流しやすくなっている流線形のデザイン。脚部には新たに設計されたサスペンションを備えており、これで地上でも宇宙でも機体とパイロットにズレが無く動く事が可能だ。

 更に腕も少し延長されており、近接武器がより使いやすくなっている。そしてその両腕には、連射も出来るビームキャノンを装備。これで遠距離からも攻撃が可能だ。

 そのバルバトスルプスの隣には、三日月が現在最も愛用している、最早鉄塊とも言えるソードメイスがある。こんなもので殴られたら、並みのモビルスーツなら一撃で粉砕されるだろう。

 

「でもやっぱりお母さんは凄いね。バルバトスって動くと電気設備が壊れちゃうって言ってたのに、それをどうにかしちゃうなんて」

 

「ふふ、ありがとうスレッタ。でもこれに関しては、かなり運が良かっただけよ」

 

 前に三日月が言っていた事だが、バルバトスに積んである特別なリアクターは、出力をあげると周囲の電気設備を壊してしまう特性がある。これは、バルバトスのリアクターが特殊な粒子をまき散らす事が原因だ。

 しかしプロスペラは、それを火星の一部地域でしか採れない特殊な希少金属を使う事により解決。その希少金属が採れる地域を管理しているとある民間企業と業務提携し、その金属をバルバトスのリアクター付近になんかこう上手い具合に取り付ける事により、バルバトス本来の力を失わずに電波障害を大幅に抑える事に成功した。おかげでバルバトスは、今日のようにエアリアルと存分に模擬戦が出来る。

 尤もこの改良のおかげで、バルバトスの強みのひとつが少し落ちてしまったのだが、相手の攻撃が当たらなければどうという事は無い。

 

(これなら、スレッタを守れるな)

 

 1年近くもの間、バルバトスをプロスペラに預けていた甲斐があった。このバルバトスルプスなら、大抵の事からはスレッタを守れるだろう。三日月はそう思い、少し笑みを浮かべる。

 

「2人共。本当にお疲れ様。おかげで色んなデータが取れたわ」

 

 満足そうなプロスペラ。彼女の言う通り、水星では決して取れないデータが沢山取れた。

これは大変貴重なデータだろう。そもそも2人が水星を離れて態々金星まで来ているのは、プロスペラのせいだ。

 

『改修したバルバトスとエアリアルのデータ収集』

 

 それがプロスペラが、2人を金星に呼んだ理由。水星では、実際にモビルスーツを動かして模擬戦をする事なんて出来ない。データを集めたいが、シミュレーションでは限界がある。

 そこで水星ではなく、金星コロニーだ。ここはシン・セーが所有している演習区画の為、情報漏洩の心配も無い。ここであれば、思う存分モビルスーツを動かせられる。

 

「三日月くんの戦闘スタイルは、近接で確立されそうね」

 

「そうだね。そっちの方が俺には合ってるし」

 

 この1週間、三日月はエアリアルとの模擬戦をして、自分の戦闘スタイルを確立させた。簡単に言うと『相手との距離を一気に詰めてぶっ飛ばす』である。なんともわかりやすいスタイル。

 しかしエアリアルでさえ、これに中々対応できない。なんせエアリアルの強みである、11条のビーム攻撃を避けるのだ。阿頼耶識システムと改修されたバルバトスルプスのおかげで、まさに人機一体となった三日月だから出来る事である。

 因みに近接が得意な三日月だが、普通に射撃の腕前もあったりする。

 

「これで必要なデータは集めれたわ。2人共。明日の輸送機で水星へ帰っていいわよ」

 

「え…」

 

 プロスペラは全てのデータ収集を終えた。これで明日には水星へと帰ることが出来るが、それにスレッタは寂しそうな顔をする。水星に帰ると、もう母には会えない。母は本当に仕事が忙しいからだ。

 それに生まれて初めて水星の外にやってこれたというのに、やった事と言えば、モビルスーツを使った模擬戦だけ。正直、これだけというのは嫌だ。

 

「あ、あの…お母さん」

 

「何?スレッタ?」

 

「え、えっとね。できればでいいんだけど、少しだけ時間とか無いかな?その、一緒にご飯とか…」

 

 だからスレッタは、勇気を出して少しだけ我儘を言った。もう少しだけ、母と一緒にいたいと。

 

「ごめんなさい。この後、どうしても外せない用があるのよ」

 

「あ、そう…なんだ…」

 

「でも明日なら少しだけ時間があるから、帰る前に一緒にコロニー内のお店でも見てまわりましょう?」

 

「……え?」

 

 絶望からの希望。まさにそんな感じだった。

 

「う、うん!行く!絶対に行く!!」

 

「ふふ。じゃあ、また連絡するわね」

 

「うん!」

 

 もの凄く嬉しそうなスレッタ。でも普段滅多に会えない大好きな母と一緒に出かける事ができるのだ。こんなの、嬉しくない筈が無い。

 

「あ、でも三日月が…」

 

「俺の事なら気にしなくていいよ。親子水入らずで楽しんできていいから」

 

 三日月1人だけを置いていくのは悪いと思ったスレッタだったが、当の三日月は全く気にしていない様子だった。未だにプロスペラの事を信用できない三日月だが、それでも彼女はスレッタの母親なのだ。流石に自分の勘で信用が出来ないというだけで、邪魔する事は出来ない。

 それにスレッタがあんなに嬉しそうな顔を見てしまったら、それを悲しませるような事はしたくない。

 

「あ!じゃあ三日月にはお土産買ってくるね!」

 

「別にいいけど…」

 

 こうして翌日のスレッタは、水星に帰る前に、大好きな母と一緒にアファムコロニーの店を見て回る事ができたのだ。

 因みにスレッタがプロスペラとやった事と言えば、一緒にチーズケーキを食べた事と、最近サイズが合わなくなってきたので、新しい下着を購入した事だけである。時間にして2時間程しかなかったが、スレッタにとってこの2時間は、とても楽しい時間となったのだった。

 

 余談だが、プロスペラはスレッタと出かけている最中もあの仮面をつけていたので、周りの人から少し気味悪がられていた。

 しかしスレッタは、その事を全く気にしなかった。それだけ、母との時間が楽しかったからである。

 

 因みに三日月へのお土産は、何故か売っていた火星ヤシだった。

 

 

 

 

 

 アファムコロニー 宇宙船ドック

 

 シン・セー開発公社が所有する輸送船、ホタルビ。そのモビルスーツハンガーに、三日月はエアリアルとバルバトスと共にいた。

 今頃スレッタは、プロスペラと共にコロニー内の店で楽しんでいるのだろう。そんな時に三日月がモビルスーツハンガーで何をしているかというと、

 

「ふっ…ふっ…ふっ…」

 

 筋トレである。最近は時間さえあれば筋トレをしている三日月だが、今日もその例に漏れない。因みに今日の筋トレは腕立て伏せだ。既に400回を超えている。これだけの筋トレが出来るようになったのも、日々の努力のおかげだろう。

 おかげで今の三日月は、かなりの細マッチョ体型だ。その手の趣味の人が見たら堪らないだろう。

 

「ふーーーっ」

 

 筋トレを終えた三日月が、傍に置いてあったタオルで汗を拭く。あと2時間もすれば、水星に向けて出航だ。そろそろ切り上げておかないといけない。

 そしてシャワーを浴びてから、ホタルビ内の搭乗員部屋に戻ろうとしたその時、

 

「ん?」

 

 急にエアリアルのコックピットハッチが開いたのだ。

 

「何?」

 

 誰もいない筈なのに、急に開いたエアリアルのコックピットハッチ。気になった三日月はエアリアルに近づき、コックピットを覗き見る。

 

「?」

 

 しかしそこには誰もいない。だと言うのに、勝手にハッチが開いた。まるでホラー映画のポルターガイスト現象である。

 何か機体トラブルでもあったのかと思った三日月は、そのままエアリアルのコックピットに入る。

 

「あ」

 

 すると今度は、コックピットハッチが勝手に閉じた。これで三日月は、エアリアルの中に閉じ込められた事になる。いよいよホラー染みてきた。

 

「どうすれば出れるんだろう?」

 

 勝手にコックピット内のコンソールを弄ったら大変な事になりそうだ。なので三日月は、スレッタが戻ってくるまで、エアリアルの操縦席に座って待つ事にした。後で勝手に乗ってしまった事を謝ろうとも思う。

 そんな時だった。

 

「は?」

 

 突然、三日月が白い光に包まれたのは。

 

 操縦席以外、周りが真っ白で何も無い空間。三日月は、いつの間にかそこにいた。

 

「どこここ?」

 

 初めて見る光景に、三日月は首を傾げる。もしかして気づかないうちに、自分は寝てしまったのだろうか。

 だとすれば、これは夢だろう。だったらそのうち目が覚める筈だ。

 

『初めまして。三日月・オーガスくん』

 

 このまま待っておこうと思った時、上の方から自分の名前が呼ばれた。三日月が上を向くと、そこには白い子供用宇宙服を着た、赤毛の子供がいた。どことなく、小さい頃のスレッタに似ている。

 

「誰あんた?」

 

 その不可思議な光景を見ても、全く慌てる様子の無い三日月は、宙に浮いている子供に質問する。

 

『スレッタの姉、かな』

 

「姉?」

 

 その子供は、スレッタの姉を名乗った。それなりにスレッタとは長い付き合いになるが、姉がいたとは初耳だ。

 

「俺になんか用なの?」

 

 三日月はこの不可思議な状態が、宙に浮いている子供にあると感じた。しかし彼女からは、敵意を感じない。ならば、何か他の用事があるのだろう。

 

『君と少し話したくてね。だから呼んだんだ』

 

「ああ。さっきのあんたのせいか」

 

 先程、エアリアルのコックピットハッチが勝手に開いたのは彼女のせいらしい。

 

『いつも、スレッタと仲良くしてくれてありがとう』

 

 宙に浮いている彼女は、頭を下げて三日月にお礼を言う。

 

「別にいいよ。俺がそうしたいからってだけだし」

 

『ふふ。それでもだよ。本当にありがとう。おかげでスレッタは、笑う事が増えたから』

 

 少女の言う通り、水星でスレッタは笑う事が多くなった。それに少しだけ、前向きにもなった。いつもエアリアルのコックピットで泣いていた少女は、もういない。スレッタがそうなったのは、間違いなくこの少年のおかげだと少女は知っている。だってずっと、スレッタから聞いてきたのだから。

 

「なんで知ってるの?」

 

『スレッタから聞いて来たからだよ。直ぐ傍で』

 

「直ぐ傍で?」

 

 急に意味深な事を言い出す少女。てっきり遠距離通信で聞いたとでも思ったのに、直ぐ傍とはどういう意味だろうか。

 その少女の発言に三日月は頭に疑問符を浮かべるが、直ぐに当たりをつけた。

 

「……もしかして、お前エアリアル?」

 

『うん。流石勘がいいね。その通りだよ』

 

 どうやら目の前の少女は、エアリアル本人らしい。どういう原理で少女の姿をしているかはわからないが、本当の事だと言う事はわかる。何故かそう感じるのだ。

 

「エアリアルって、喋れたんだ」

 

『偶にね。でも無口なだけでバルバトスも喋れるよ。まぁ、彼は僕と色々違うけど』

 

「へぇ、そうなんだ」

 

 かなり衝撃的な事を言っているのだが、三日月は驚かない。なんかそんな気がしたし。

 

『ところで、君に質問があるんだけど』

 

「何?」

 

『その、背中の事で…』

 

「阿頼耶識がどうかしたの?」

 

 暗い顔をしているエアリアルと反対に、三日月はケロっとしている。

 

『後悔、してないの?』

 

「後悔?何で?」

 

『だって、そんな手術なんて…まるで人体改造だし…』

 

 エアリアルがそういう様に、阿頼耶識システムはただの手術などでは無い。モビルスーツの性能を限界まで引き出せるようにした、人体改造手術だ。

 いくら三日月が自分ですると言っても、こんなの倫理的に許される事では無い。おまけにこの手術をやったのはプロスペラだ。

 正直、エアリアルは三日月に対して罪悪感がある。なので三日月に話を聞いているのだが、

 

「別にどうも思わないよ」

 

『え…』

 

 三日月は本当に何とも思ってなかった。

 

「むしろこれでバルバトスがよりうまく扱えるようになったんだし、感謝してるよ。まぁ、あんまりあいつを信用できないのもあるけど…」

 

 そう言うと三日月は、自分の背中を軽く触る。

 

「でもさ、おかげでスレッタを守れるんだ。モビルスーツを上手く扱えれば、どんな奴からもスレッタを守れる。だから、後悔なんて無いよ」

 

 そう言う三日月の目に、一切の後悔なんて見れなかった。そんな三日月に、エアリアルは絶句する。スレッタと同じ年の筈なのに、どうしてこれほど覚悟が決まっているのかと。

 

(お母さん、この子まで利用するつもりなの…?)

 

 プロスペラがある目的の為に、あらゆる手を尽くしている事は知っている。彼女はその目的の為ならば、何だってやるだろう。目の前にいる子供を言いくるめて、失われた技術を身体に再現させるくらいには。

 

(でも、この子なら…)

 

 だが同時に、エアリアルはこうも感じた。三日月ならば、スレッタから離れていく事はないと。自分とプロスペラは、いずれスレッタから離れる事になるとエアリアルは思っている。プロスペラはスレッタを色々と利用しているが、同時に大切にも思っている。だからこそ、最後はスレッタを巻き込まないようにするだろう。

 その時、スレッタは1人じゃない。なんせ三日月がいるのだ。彼ならば例え世界中がスレッタの敵になっても、全力で守ってくれるだろう。

 

『そっか…』

 

 エアリアルは小さな声でつぶやく。そして三日月に視線を合わせる。

 

『君には本当に感謝しているよ。さっきも言ったけど、スレッタは凄く笑う事が増えたからね』

 

 そう言うと、エアリアルである少女は三日月に近づき、操縦席の前部に備えられているコンソールの上に乗る。

 

『どうかこれからも、スレッタをよろしくお願いします』

 

 そして三日月に再び頭を下げる。

 

「そんなの態々言われなくてもそうするから。俺がそうしたいんだし」

 

 しかしそんな事態々言われなくも、三日月はそうするつもりだ。何より自分がそうしたいと、心から思っているのだから。

 

『ありがとう…本当に、ありがとう…』

 

 エアリアルはその言葉に思わず泣きそうになる。この少年がいれば、スレッタは大丈夫だと確信したからだ。

 彼は絶対に、スレッタから離れていかないだろう。尤も、ちょっとばかしスレッタを優先しすぎているところはあるが。

 

「話したい事って、それだけ?」

 

『うん。もう大丈夫だよ。ありがとう』

 

 三日月自身は、エアリアルに特に用事が無い。なので会話を終えようとした。エアリアルも話したい事が終わったのか、ゆっくりと消え始める。

 

『あ、最後にひとつだけ。この事はスレッタには内緒にしておいて。僕と話した事や、この姿の事をね』

 

「わかった」

 

 随分物分かりが良い三日月。というか、元々話すつもりは無い。話す理由が無いし。

 

『それじゃあ、またいつか』

 

 そう言うと、エアリアルは消えていった。

 

 その直後、三日月の周囲は白い空間では無く、エアリアルのコックピットに戻った。当然だが、あのエアリアルと名乗った少女はもういない。

 

「あ、開いた」

 

 コックピットハッチが開き、三日月はそこから外に出る。そしてエアリアルの隣にいる、バルバトスに目を向ける。

 

「いつか、お前とも話せたらいいな」

 

 エアリアル曰く、バルバトスも話せるらしい。しかし未だに三日月は、バルバトスと話せた事は無い。まぁ、エアリアルと話したのもついさっきが初めてだが。

 

「シャワー、浴びるか」

 

 このままではここにいてもしょうがないので、三日月はシャワー室へ向かう。

 

 その後スレッタが帰ってきたが、当然先程の事を三日月はスレッタに話す事は無かった。それを見ていたエアリアルはホっとした。

 

 こうして、2人の数日間の金星への旅は終わったのだった。

 

 

 

 

 





 阿頼耶識システム(プロスペラ改修型)
 解りやすく言うと、鉄血本編でマクギリスが自分の身体にやっていたオリジナルの方に近い。つまりノーリスクで1回の手術で全力を出せるくらいになれるし、成人の身体にも問題無く定着する。しかし見栄えが悪いので、プロスペラが独自に改造。結果、背中にピアスもボックスも無い状態になった。でもUSBメモリの差込口みたいな穴はある。

 Q、なんでルプス?
 A、好きだから

 あと関係ないけど、スレッタが購入したのはカ〇ヴァン〇ラウンのグレーのやつだと思う。なんかそういうイメージあるし。

 何かおかしいところがあったら言って下さい。修正しますので。

 次回、本編1話にいけると思う。ところで三日月以外の鉄血キャラって、出してもいいですか?一応、1人は三日月とのバランス調整役として確定で出す予定なんですが。

三日月以外の鉄血のキャラ

  • 出して欲しい
  • 出さないで欲しい
  • 少しなら出して欲しい
  • 好きにやりなさい
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