悪魔と魔女の物語   作:ゾキラファス

40 / 46
 鉄血のオルフェンズ、10周年おめでとうございます。そして水星の魔女も、3周年おめでとうございます。明日投稿するか悩んだけど、どうせなら同じ10月4日にしたかったので、本日投稿です。

 時が経つのは本当に早いですね。

 本作はまだまだ完結には程遠いですが、これからも完結目指して執筆するので、どうかよろしくお願いします。

 そして今月ある映画、地元でやるなら行きます。

 追記 地味にタイトルの(上)を 1 に変えました。


雨降って地固まる 1

 

 

 

 

 

『お前、あんな事があったのに、なんでいつも通りな顔してんだよ…』

 

 

 

『なんで、ですか?人を、いっぱい殺したのに…』

 

 

 

『三日月、くん…』

 

 

 

『三日月…どうして…?』 

 

 

 

 

 

「ん…」

 

 端末から聞こえるアラーム音で、三日月は目を覚ます。そして直ぐ近くに置いてあった端末を操作し、アラーム音を消して、ゆっくりと起き上がる。今日は休日なのでもう少しゆっくり寝たいと思わなくないが、沁みついた習慣というものは中々抜けない。休日とはいえ、こうして普通に起きてしまう。

 

「もう朝か…」

 

 最近眠りの浅い三日月が目を覚ますと、そこにはトマトが広がっていた。何かの比喩表現では無く、本当にトマトが広がっていた。ここ数日変わらない光景を目にした後、三日月は起き上がり、使用していた寝袋を綺麗に畳む。

 そして右腕にサポーターを装備し、歯ブラシやタオル等の洗面用具を手にして学園内のトイレに向った。

 

 現在三日月は、ミオリネの温室に勝手に寝袋を持ち込んで勝手に寝泊まりしている。

 

 別にミオリネに温室の管理を24時間任されたからとかでは無いし、ましてや地球寮を追い出された訳でも無い。これは三日月が、自発的に行っている事なのだ。

 

 その理由は、先日のプラント・クエタ襲撃事件で、三日月が大勢のテロリストを殺した事にある。

 

 あの日三日月は、スレッタ達を守る為にバルバトスに乗り込んで、プラント・クエタを襲撃していたテロリストを撃退した。

 そしてその結果、大勢のテロリストをその手にかけている。三日月自身、その事に後悔なんて全く無い。だってあの時は、そうしないと誰かが殺されていたかもしれない状況だった。

 

 だがその後、とある問題が出てきたのである。

 

 それはスレッタとミオリネ、そしてデリングを助け、バルバトスを元あったモビルスーツハンガーに収納した後。三日月は、プラント・クエタの職員から取り調べを受ける事になってしまったのだ。その場にいたプロスペラからも、一切の嘘を言わずにしっかりと取り調べを受けるよう助言されたのもあり、三日月の取り調べは、以前学園でフロント管理会社のモビルスーツをバルバトスでぶっ飛ばした時よりずっとスムーズに進んだ。

 

 そして翌日、取り調べを終えた三日月は地球寮の皆と合流。

 

 しかしそこで、再開を喜ぶような事にはならなかったのだ。

 

(皆、怖がってたなぁ…)

 

 地球寮のほぼ全員が、三日月を見て恐怖していたからである。最初こそ、ニカやチュチュ、ティルや明弘が三日月を心配しながら普通に話しかけてきてくれていたが、途中でオジェロが三日月に言ったのだ。

 

『お前、あんな事があったのに、なんでいつも通りな顔してんだよ…』

 

 この時三日月は、いつも通りの表情をしていた。それこそ、バルバトスで出撃する前に皆で昼食を食べていた時のような顔を。明らかに異常だ。普通なら初戦闘で人を殺してしまった場合、多少は顔に何かしらの表情が出る筈。

 戦闘中は他に考える暇なんて無いので平静を装える事も可能だが、既に戦闘は終わっている。ならば表情に変化のひとつくらいある筈なのに、三日月にはそれが全くない。それを見たオジェロは、顔を引きつらせながら三日月に恐怖してしまった。

 

『なんで、ですか?人を、いっぱい殺したのに…』

 

 それに続く形で、リリッケやマルタンやアリヤも次第に三日月の異常性を把握し恐怖する。

 

『ちょ、ちょっと皆!そんな言い方は…!』

 

『そうだぜ!三日月はあーしらを守ってくれたんじゃねーか!』

 

 ニカとチュチュが三日月に対してその態度は何だと言うが、それでも皆三日月から距離を取ってしまう。

 

『あー、三日月。お前その、大丈夫か?』

 

『うん、別に怪我とか無いよ』

 

『いや、そうじゃなくてだな…』

 

 明弘が三日月を心配そうにするが、それは彼の体を気遣っての事では無い。三日月の心を気遣っての発言だ。しかし三日月は、本当に何も変わらない。

 

 更に悪い事は続く。その場に、スレッタがやってきたのだ。

 

『あ、スレッタ。無事だった?』

 

『三日月…どうして…?』

 

『え?』

 

『どうして、殺したの…?』

 

 スレッタは三日月を見ると同時に、そんな問いを投げる。その顔はとても悲しそうで、そして怖がっていた。

 

 それを見た三日月は、今自分が皆から怖がられている事を理解。

 

(あー…まぁ、そうか)

 

 考えてみれば当たり前だ。だって自分は、人を沢山殺している。正当防衛とは言われているが、今の自分は間違いなく人殺し。そもそも、人殺しは悪である。あの時はああするしかなかったとはいえ、三日月は自分の手を血で汚した。

 そんな人間を怖がらないなんて、普通はありえない。そして三日月は、こんな自分がここにいては皆に迷惑をかけてしまうと判断した。

 

『怖がらせてごめん、皆』

 

『え…?』

 

 そう思った三日月は、その場にいた全員に頭を下げて、その場を後にし、一足先に定期便のシャトルで学園に戻った。

 そして地球寮の男子部屋にあった元々少ない自分の荷物を片付けて、学園から寝袋を借り、ミオリネの温室で寝泊まりする事にしたのだ。

 

 こんな自分がいては、この先ずっと皆を怖がらせてしまう。ならば自分が出て行けば、これ以上怖がらせる事は無い。そう考えたので、三日月は出て行ったのだ。

 最初こそ学園から出て行こうと考えたが、それではいざと言う時スレッタを守れないかもしれない。何より、折角通っている学校を辞めたくない。だからせめて、寮から出ていく事にしたのだ。

 食事は学食があるし、いざとなったら学園内のコンビニもある。シャワー室も借りる事が出来るし、授業も今のところ普通に受ける事が出来てる。生活する分には、今のところ不便は無い。

 しかし、問題もある。

 

(決闘、どーしよっかな…)

 

 実は今の三日月には、大量の決闘申し込みが山のように来ているのだ。これをどうにかするには、決闘を行って勝たないといけない。

 だが1人では、バルバトスをコンテナに入れる事も、決闘後に機体の整備も出来ない。やはり自分1人では、出来る事がどうしても限られてしまう。でも今更地球寮に戻る事なんて出来ない。だって皆を、怖がらせてしまうから。

 

「おお!久しぶりだな!我が友よ!!」

 

「どうもです。三日月・オーガス」

 

「ん?」

 

 今後どうするべきか三日月が悩みながら歩いていると、聞き覚えのある声が背後から聞こえたのだった。

 

 

 

 

 

 ベネリット・グループ本社 会議室

 

「今回の襲撃事件、犯行に及んだのはフォルドの夜明け、そして夜明けの地平線団の反スペーシアン組織です」

 

「どちらも有名なテロリスト達じゃないか。どうやってプラント・クエタまでやって来れた?」

 

「今はまだ何とも」

 

 ベネリット・グループ本社の会議室では、グループ上位の企業代表達が集まり、プラント・クエタ襲撃事件についての報告を真剣な顔をして聞いていた。

 

「ところで、ジェターク社のモビルスーツがテロに使われたというのは本当かね?」

 

「はい、ラスタルCEO。裏付けも完了しています。使用されたのは、数年前に一線を退いたジェターク社のモビルスーツ、デスルターで間違いありません」

 

「ふむ、いくら第一線から退いたとはいえ、自社製品のモビルスーツがテロリストに使用されているとは、顧客管理がなっていないのではないかね?ラウダ・ニールCEO代理」

 

「……申し訳ございません、ラスタルCEO…」

 

 そんな中、アリアンロッド社CEOであるラスタル・エリオンが、ジェターク社CEO代理であるラウダに話しかける。だがその言葉には、どこか棘があった。

 

「現在、販売ルートの調査を行っており…」

 

「私は今、責任について聞いているのだが?」

 

 ラウダが説明をしようとするが、ラスタルはそれを止める。

 

「236人。これが今回のテロで死んだ、プラント・クエタで真面目に働いていた職員の数だ。そして何より、君の父親であるヴィム・ジェタークも亡くなっている。他でも無く、君たちジェターク社のモビルスーツによってだ。この責任をどう取るのかと私は言っているのだよ?」

 

 犠牲者200人以上。決して少なくない人数どころか、テロ事件の犠牲者数としては相当な人数になる。おまけに使用されたのは、ジェターク社で販売されていたモビルスーツ。それがテロリストによって使用され、大勢の犠牲者を出した。

 

「私もラスタルCEOに同意します。襲撃したのはテロリストではありますが、彼らの武器がジェターク社のモビルスーツというのはいただけません。ジェターク社がもっとしっかりとモビルスーツを管理していれば、この事態は防げたかもしれませんし」

 

「そうですね。仮に彼らテロリストが、デスルターというモビルスーツを手にしなければ、テロリスト達はプラント・クエタを襲撃するとは考えなかったでしょう」

 

 ラスタルに、ペイル社CEOのニューゲンとカルが同意する。言いがかりな気もするが、一概に否定も出来ない。襲撃すると言うことは、それ相応の準備が必要だ。

 そしてアーシアンのテロリスト達は、常に資源不足に悩まされている。そんな彼らが、大した準備もせずにプラント・クエタというグループ最大の工廠を襲うなんて真似する訳が無い。彼らがプラント・クエタを襲撃できたのは、ひとえにデスルターという旧式とはいえ高性能なモビルスーツが複数あったからだろう。これだけのモビルスーツがあれば、この襲撃計画は成功すると思って。

 

「まさかとは思うが、今回の襲撃事件は君達ジェターク社が裏で糸を引いたのではないのかね?」

 

「な!?それは言いがかりにも程がありますよ!ラスタルCEO!!」

 

 ラスタルの言葉に、ラウダは椅子から立ち上がって応答する。しかしラスタルは、これ幸いにとラウダに反論してきた。

 

「ほう?言いがかり?では彼らはどうやってデスルターを手にして、どうやって誰にも気づかれずにプラント・クエタまで近づいた?それに当日、テロリスト達が襲撃した時に偶然守備艦隊が当初の予定を急遽変更してパトロールを行っていた。そしてその守備艦隊の管轄は、君達ジェターク社ではないか。更に言えば君の父上であるヴィム・ジェターク氏は、随分前からデリング総裁にやたらと突っかかっていた。それも君の兄であるグエル・ジェタークが行方不明になってから、その頻度は増えていたではないか。おまけにヴィム・ジェターク氏は、昔から随分とやんちゃなやり方でライバルを蹴落としてきているのは周知の事実。そして今、君は私の質問に慌てるように大声で反論している。それはひょっとすると、事実を言われて焦ってしまったからではないのかね?これだけ色々と疑わしい証拠があるのに、私のこれが完全な言いがかりだと?」

 

「いきなりそのような事を言われれば慌てもします!それにいくら疑わしいとは言え、証拠がありません!!状況証拠だけでそのような事を言うのは控えて頂きたい!!」

 

 確かにジェターク社には怪しい部分があるが、それだけで真犯人なんて言われたら堪ったものではない。だからラウダは必死になって反論するが、誰もそれを弁護なんてしてくれない。元々敵の多いジェターク社である上、今のジェターク社を助けても旨味が無いと判断されたからだ。

 そしてラスタルは、心の奥底でこの期を逃がすかと思いながらほくそ笑む。

 

(この期に、ジェターク社を引きずり下ろす…!)

 

 現在、ジェターク社は御三家の地位が相当に危ぶまれている。ホルダーであったグエルが、スレッタにホルダーの座を奪われてからがケチの始まり。その後もグエルはペイル社との決闘に負け、今は行方知れず。

 散々自分達アリアンロッド社をこき使ってきた、彼の父親であるヴィム・ジェタークも死んだ。ただでさえ企業のトップがいなくなって混乱しているこの状況下で、現在かじ取りをしているのはまだまだ未熟なラウダ。

 

 アリアンロッド社がジェターク社の支配から脱却し、引きずり下ろすにはこれ以上ない好機である。

 

 確かに、ジェターク社には恩義はある。あの事件の時、彼らが手を差し伸べてくれなかったらアリアンロッド社はそこで終わっていただろう。

 しかしいくら恩義があるとはいえ、長年の奴隷の如き理不尽な扱いにはもううんざりなのだ。これ以上ジェターク社の良いように使われてしまえば、アリアンロッド社は遠くない未来に破産するだろう。その最悪の未来を防ぐ為にも、これ以上ジェターク社に協力は出来ない。

 

「ラスタルCEOの言う通りですわね。死亡したヴィム・ジェターク氏は昔から好戦的なお人でした。状況証拠しかありませんが、裏で何かを画策していても可笑しくは無いですね」

 

「そうねぇ。彼によって潰された企業は数多くあるし、今回自分が総裁になる為に、今回の事件を企てたとしても不思議はないわね」

 

「父さ…父を侮辱しないで下さい!!

 

 ラスタルに同意する形で、ネボラとゴルネリもジェターク社が怪しいと口にする。そもそも御三家と言われているジェターク、ペイル、グラスレーだが、その仲は全くと言って良い程よくない。むしろ、相手をどうやって蹴り落して自分達が総裁に近づけるかを常に考えているくらいには敵対心を持っている。

 今までヴィムという実力もカリスマも持ち合わせていた男がいたが、そんな彼は既に亡くなっている。正確には彼の乗ったモビルスーツが破壊されており、ヴィムの遺体が発見できなかったのでMIA判定なのだが、誰も生きているだなんて考えていない。

 そしてヴィム無き今、ペイル社はラスタルに賛同しながらジェターク社を共に引きずり下ろそうと考えたのだ。

 そうすれば、自分達ペイル社が一気に総裁の座に近づけると判断して。

 

「座りたまえ、ラウダ・ニールCEO代理。代理とはいえ、今の君は企業の代表なのだぞ?なのにそのような大声で反論するとは、とても代表の姿とは言えないな。今の君の醜態を、君のお父様が見たら悲しむぞ?」

 

「っ!!」

 

 ラスタルに言われ、渋々椅子に座りなおすラウダ。同時に周りを見るが、誰も自分を擁護などしてくれない。見て見ぬふりといったところだ。

 状況は最悪。このままでは、自分の父親がプラント・クエタ襲撃事件の犯人にされかねない。何とか反論したいが、相手は自分とは踏んできた場数が違うラスタル・エリオン。どうあっても、口では勝てないだろう。

 

『そこまでだ、ラスタル・エリオンCEO』

 

 しかしそれを静止できる唯一の人物の声が聞こえると、会議室は一斉に静まりかえる。

 

『疑わしきは罰せよという言葉があるが、今はそんな状況ではないだろう。そういった事は、後にしてもらおうか』

 

「は、申し訳ございません、デリング総裁」

 

 会議室に設置されたモニターに映るのは、ベッドの上で病院着を着ているデリングであった。本来なら重症を負って意識不明になっていた彼だが、スレッタが素早く応急処置をし、更に避難の途中で救急キットを見つけてそれで少しはマシな治療が出来たので、こうしてモニター越しに会議に参加出来るくらいには回復しているのである。

 

『サリウス代表、続きを』

 

「わかりました」

 

 会議室にいるサリウスに声をかけると、モニターの映像が変わる。そこに映っていたのは、エアリアルと同じガンダムタイプのモビルスーツが2機。

 

「デスルターの他に、未登録のパーメット識別コードを持つモビルスーツが2機確認されています。両機からはGUNDフォーマットの並列構造を検出。つまり、ガンダムです」

 

「シン・セー以外のガンダムか…」

 

 呪われたモビルスーツであるガンダム。それが2機も確認されている。この2機は、プラント・クエタで最も被害を与えた2機でもある。

 

「しかし、更に驚くべきはこちらの映像かと。シャディク」

 

「はい、養父さん」

 

 サリウスがシャディクに映像を切り替えるよう言うと、モニターには2機のガンダムと襲撃に参加したテロリストのモビルスーツが、バルバトスによって蹂躙されている映像になる。

 

「流石伝説のガンダムフレームといったところですな。彼の活躍が無ければ、プラント・クエタの死者数はもっと増えていたでしょう。そういう意味では、彼は英雄と言ってもいい。ですが、これはあまりに強力すぎる」

 

 実際、バルバトスはテロ組織を半壊させる勢いであった。そしてそのバルバトスに対して、テロリスト達は何もできていない。ただ無慈悲に、殺されているだけだ。

 

「何と、恐ろしい…」

 

「これがガンダムフレームの力か」

 

「見た感じ無傷じゃないか。一体どんな防御力をしている」

 

「背中のあの尻尾のような武器も凄まじいな。どうやって操作してるんだ?」

 

「まさに伝説の力だな。これを見れば、大昔に人類を絶滅から救ったというのも頷ける」

 

 会議に参加している役員は、改めてバルバトスの強さを理解する。腕利きのテロリストが、まるで相手になっていない。

 そしてたった1機で、15機以上のモビルスーツを撃破している。こんな事、普通はありえない。いくら性能の良いモビルスーツとはいえ、普通は数の暴力には勝てないからだ。しかしバルバトスは、その数の劣勢を難なく覆している。

 

「見ての通り、バルバトスは以前より強力なモビルスーツとなっています。総裁、これは流石に危険ではないでしょうか?たった1機でこれだけの事が出来るモビルスーツなど、少し扱いを間違えれば破滅に向いかねません」

 

「そうですな。これは危険だ」

 

「もしこれが敵になったらと考えると、背筋が凍りますね」

 

 サリウスの言葉に、役員の幾人かが同意する。

 

 バルバトスは、あまりにも強すぎるのだ。

 

 確かに魔女のガンダムも強いのだが、バルバトスはそれを遥かに凌駕する。おまけに今のバルバトスは、以前より強くなっているのは明白。今まではその希少性と、エイハブ・リアクターという永久機関が装備されているので誰もが欲するお宝のような感じだったが、ここにきてその考えに疑問を持つ者が出てきたのだ。

 もしも万が一、このバルバトスがアーシアンのテロリストの手にでも渡れば、スペーシアンは間違いなく皆殺しにされる。バルバトスの所有会社がペイル社やグラスレー社ならそう簡単に盗まれる事も無いだろうが、バルバトスの所有会社はグループでも下から数えた方が早い弱小のシン・セーである。あれでは、バルバトスを本当に守れるか不安だ。

 

「総裁、バルバトスは危険です。強硬手段を持ってでもグループ全体で管理するか、破壊するべきだと私は進言します」

 

 だからサリウスは、バルバトスの今後について進言した。これほどの力、人には過ぎた物にも見える。力を持ちすぎて破滅した国や人物など、歴史上いくらでもいる。そうなる前に、破壊するのもいいかもしれない。

 そしてそれは、デリングも同じ筈。なんせ彼は、審問会でバルバトスを破壊するべきと口にしていた。あの時はサリウスもそうは思っていなかったが、この映像を見ればデリングの言っていた事も理解できる。

 

『いや、管理も破壊もしなくていい』

 

「……何ですって?」

 

 だがデリングの答えは、意外な物であった。

 

『この力のおかげで、私もミオリネも命を救われたのだ。その恩があるのに、それを仇で返す真似はしたくないのでな』

 

 確かに、バルバトスは危険だ。だがこれのおかげで、デリングやミオリネ、そしてスレッタを始めとした多くの人が命を救われたのも事実。それがあるのに、破壊なんて真似はしたくない。

 

「しかし…」

 

『聞こえなかったか?今はまだ管理も破壊も無しだ。無論、今後何かあった場合は別だがな。その時まで、バルバトスは現状のままでいい。これは、総裁命令である』

 

「…わかりました」

 

 合理主義なデリングらしからぬ判断にサリウスは眉をひそめるが、総裁命令なら従うしかない。正直言いたい事はあるが、それ以上何か言う事はしない。どうせ言っても無駄だからだ。

 そしてサリウスは直ぐに頭を切り替えて、グループの今後について話す。

 

「アーシアンの卑劣な行いが、我が盟友ヴィム・ジェタークと多くの職員の命を奪った。これは到底許される事では無い。総裁、内密かつ迅速に実行犯を見つけ出し、我々の手でかたをつけるべきだと進言いたします」

 

『よかろう。グループが所有する艦隊の出撃を許可する。こちらの子飼いの魔女狩り部隊にも応援を要請し、今回の襲撃犯とガンダムを確実に始末せよ』

 

「わかりました」

 

 サリウスの進言を受け、デリングはグループの艦隊に出撃命令を出す。ここまでされて、黙っているなんてありえない。どんな手段を使ってでも、テロリスト達を始末する。

 

『では、会議はここまでとする。全員一丸となり、今回の事件にあたれ』

 

『わかりました、デリング総裁』

 

 こうしてプラント・クエタ襲撃に関する会議は、一応の終わりとなったのだった。

 

 

 

 

 

 グラスレー本社

 

「例のガンダムタイプのモビルスーツ、出所は本当に知らないのだな?」

 

「はい、養父さん。こちらにとっても寝耳に水ですよ。一体どこで手に入れたのやら」

 

 サリウスはシャディクを呼び出して、今回の事件について問いただしていた。そもそも今回の事件、元となった首謀者はヴィム・ジェタークである。

 そして彼が共謀をグラスレーに持ち掛けてきて、それをシャディクが受けてモビルスーツと実行犯を用意し、事件が起こるに至った。

 だがサリウスも、ガンダムが襲撃に参加するとは聞いていない。なので色々と裏で動いていたシャディクを呼び出して、こうして話を聞いている。

 しかしシャディクは、ガンダムについては知らないと言う。けれど、正直疑わしい。そもそもアーシアンに、ガンダムが用意できる筈が無い。仮に用意できる人物がいるとすれば、目の前にいるシャディクだけだろう。

 

「今回の一件、真相が露呈すれば我が社は終わりだ。わかっているな?」

 

「勿論です」

 

「幸いなことに、首謀者であったヴィムは死んだ。そう簡単に事件の真相にたどり着く事は無いだろう」

 

 だがサリウスは、その事を口にはしない。確かにシャディクは疑わしいが、それだけでシャディクをどうこうするなんて思えないからだ。

 孤児だった彼を養子に取って、もう10年。今では、自分の後継者はシャディクだけだとサリウスは思っている。

 だからこそ、ここでシャディクを始末するような真似はしない。血の繋がりが無くとも、彼にとって大事な息子なのだから。でも念のため、釘は刺しておく。

 

「事が収まるまで、学園から出るな。決闘も、携わっていた会社の事業も暫く禁止だ。暫くは学生の本分を果たせ」

 

「わかりました」

 

「それと、ラスタルに気をつけろ。勘なのかは知らんが、あいつは今回の事件の真相に近づいていた。お前の事を嗅ぎまわるかもしれん。用心しろ」

 

「ええ、十分に気をつけますよ」

 

 シャディクもサリウスの言葉を素直に聞き、暫くは学園で生活しようと考える。

 

 

 

 少なくとも、表向きは。

 

 

 

 

 

 地球寮 談話室

 

 事件から5日後。スレッタ、ミオリネ、三日月以外の地球寮の生徒達は談話室にいた。事件後、全員大した怪我も無く再び学園に通えているのは間違いなく幸福だろう。

 

 しかし、その顔や雰囲気は暗い。

 

 皆の顔が暗い理由は、三日月だ。彼はプラント・クエタ襲撃事件の時に、防衛の為とは言え多くのテロリストをその手にかけている。その事に、全員少なくないショックを受けているのだ。

 

「だからね皆!三日月くんは私達を守ってくれたんだよ!?だっていうのにあんな言い方は、その、酷いって言うか…」

 

「俺もニカに同意だ。確かに三日月がした事はそう簡単に許されるような事じゃないだろうが、それでもあいつは俺達を守る為に行動したんだぞ?なのにあの時のあの態度は、無いんじゃないか?」

 

「うん。僕達は彼に命を救われた。確かに驚きはしたけど、あんな事言う必要は無いよ」

 

「そうだぜ!あんなの、恩を仇で返すような真似じゃねーか!!」

 

 ニカ、明弘、ティル、チュチュは三日月を擁護する。確かに、三日月は怖かった。でも、命を救われたのもまた事実。なのに自分達は、事件後に三日月を無意識に恐怖して遠ざけてしまった。これでは三日月があんまりだ。出来れば今すぐ三日月に謝って、また以前のような生活に戻りたいと思うのも当然である。

 

「わかってるんだよそんな事は!!」

 

『!?』

 

「三日月の奴が、俺達を守る為に戦ってくれた事なんて、わかってるんだよ…」

 

 しかし同時に、三日月を異常だと思い、恐怖したのも事実なのだ。

 

「感謝はしてるさ…下手すると俺達、あの場で全員死んでたかもしれなかったし。でもさ、なんであいつはああも普通にしていられるんだ?」

 

 オジェロは顔を俯かせながら言う。そしてその体は、震えていた。

 

「何人も殺したんだぞ?決闘やシミュレーションじゃない。マジで何人も殺したんだぞ?なのにあいつ、普段と何も変わらなかったじゃねーか…」

 

 人を殺したというのに、普段と何も変わらない三日月。吐いたり、怖がったり、震える事もまるで無かった。本当に三日月は、普段と何も変わらなかった。まるで人殺しなんてしていないかのように。

 

「今俺、三日月が怖ぇんだよ…あいつの事が、わからねぇんだよ…」

 

 それが、たまらなく怖い。人殺しを何とも思っていないような三日月の異常性が、とても怖い。あんなのまるで、サイコパスだ。

 

「私もオジェロ先輩と一緒で…三日月先輩の事、すっごく怖いです…」

 

 オジェロに続いて、リリッケも口を開く。

 

「助けてくれたことは本当に感謝してます…でも、それでも人殺しをして、その上あんな平然としてるなんて、普通じゃないですよ…だって私達、まだ学生なんですよ…?」

 

「リリッケ…」

 

 アリヤが震えるリリッケの肩に手を置いて落ちつかせる。地球寮の中では、リリッケが1番酷い状態だった。彼女には、命の奪い合いである戦闘というものはあまりに劇薬だったのである。今は落ち着いているが、学園に戻ってきてからずっと眠りが浅い。あの日の事を、何度も夢に見てしまうから途中で起きてしまうのだ。おかげで最近の授業中、眠くて仕方が無い。

 

「私、もう三日月先輩と、前みたいに話せる自信ありません…」

 

 そして何より、三日月のあの平然とした顔が普通じゃないと思い、どうしても以前の様に話せる自信が無い。下手すると、三日月に対してある事無い事言ってしまいそうなのだ。だから今は、どうしても三日月には会えない。

 

「今はまだ、時間が必要なんだと思う」

 

 そんな中、今度はマルタンが口を開く。

 

「今僕達は、三日月がした事について頭の中が混乱しているんだ。だから、全員の気持ちが落ち着くまで、暫くはこのままでいいんじゃないかな…」

 

「んだとマルタン!!」

 

 マルタンの言葉に、チュチュがキレる。だってそれはつまり、このまま三日月を突き放したままという事。確かに今の自分達には心を整理する時間は必要なのだろうが、それはあんまりではないだろうか。

 

「てめぇ寮長だろうが!だっていうのに同じ寮生である三日月を突き放すなんて真似していいと思ってるのか!?見損なったぞ!!」

 

「チュチュ!落ち着いて!!」

 

「離せニカ姉!こいつは!」

 

「だってどうすればいいかわからないじゃないか!!」

 

「!?」

 

 チュチュが大声で怒鳴るが、マルタンはそれ以上の声で反論してきた。

 

「今三日月にどう接すればいいか、誰もわからないだろ!?それなのに三日月に会って、どうするって言うんだ!!下手に会って話して、それで三日月が傷ついたらどうするんだ!?そうならない為にも、今は時間が必要なんだよ!!」

 

 初めて耳にする、マルタンの大声。その様子に、全員の動きが止まる。

 

「俺は賛成ー。ぶっちゃけ今三日月に会っても、どうすればいいかわからんし」

 

 ヌーノはマルタンに賛成した。

 

「ヌーノ!てめぇも!」

 

「でも少しだけ言わせてもらうと、三日月が何にも感じてないって事は無いと思うぞ」

 

「え?」

 

 しかし同時に、三日月ついて弁護もしてきた。

 

「俺が生まれたクソみたいな場所にもさ、銃を持って戦う少年兵っていたんだよ。そういう奴らって、最初こそ人殺しに抵抗あったりするけど、途中で感覚が麻痺して抵抗が無くなるんだ。でもその事を忘れるなんて事は、絶対に無い。いずれその時の事を思いだして、後で悪夢に魘されちゃうんだよ」

 

 ヌーノは、戦災孤児である。彼自身、戦争ばかりしているかなり危険な地域で育ってきている。そしてそこには、武器を持って戦う子供もいた。

 しかしそうやって戦場で沢山人を殺した子ほど、戦場から離れると、まるで遅効性の毒が効いてきたように後で苦しむのだ。

 

「中には、その苦しみから逃れる為に自分で命を終わらせた奴もいたよ。何度もごめんなさいって言いながらな」

 

 後になって襲ってくる、尋常でない罪悪感や恐怖心。大人の兵士ですら耐えて乗り越える事が難しいと言われているのに、子供にそれが出来るかといえば先ず無理である。そしてそれに耐えきれない者は、そういった苦しみから解放されたいが為に、自分で終わらせるのだ。

 

「で、多分だけどさ、今の三日月はまだ気が付いてないだけで、決して何にも感じないやべぇ奴って訳じゃねーと俺は思う。それだけは、言わせてくれ」

 

 そういった子を沢山見ているからこそ、ヌーノは三日月を異常とは思っていない。故に、こうして三日月を少し擁護する。

 

「今すぐは無理でもさ、ちゃんと三日月と仲直りしようぜ。じゃないと、三日月も俺が見てきた連中みたいに、苦しむかもしれないからさ」

 

 三日月には、何度も地球寮の危機を救って貰っている。だからこのまま、三日月を遠ざけるなんて事はしたくない。可能ならば、今すぐにでも三日月と以前のような関係に戻りたい。そうしないと、三日月もかつて見てきた子みたいに苦しむかもしれないから。

 そうならない為には、自分達が普段通りに接して、三日月にそういった負の感情を毒の様に巡らせない事が大事なのだ。

 

「でもまぁ、今はマルタンの言う通り、少しだけ時間を設けて全員考えを整理しようや」

 

 しかし、自分がそう言っただけで全員が直ぐに納得するとは思っていない。だからヌーノは、マルタンの案に賛成した。もう少し時間をおいて、しっかりと気持ちや考えに整理をつければ、今よりずっと良い案が出てくるかもしれないから。

 それにここには、まだスレッタとミオリネもいない。こういう事は、全員がしっかり揃ってから考えないといけないだろう。だからやはり、今は時間が必要なのだ。

 

「……くそ」

 

 チュチュは目の前にあった机を小さく叩いて、それ以上何か言う事はなかった。

 

(三日月、くん…)

 

 だがニカだけは、再び罪悪感で胸が張り裂けそうになっていた。

 

 

 

 

 

 ベネリット・グループ本社 ムラサメ病院

 

「そうだ。第3から第6艦隊を地球に向わせ、地球のヒロシマエリアの駐留部隊と共に行動させろ。その後、ひとつずつジラミつぶしに探していけ。時間はかかるが、最も確実な方法だ。ああ、それでいい。ではな」

 

 デリングは最もグレードが高く、廊下に護衛が付いている広々とした病室のベッドの上で、端末を使ってグループが所有する艦隊に指示を出していた。

 今回の襲撃事件の犯行グループが、フォルドの夜明けと夜明けの地平線団と言う事まではわかっているが、まだ拠点の特定には至っていない。

 一応かつて日本と呼ばれた場所にそれらしい拠点はあるという情報は手にしたが、それでも探索範囲は広大だ。ならばこちらは、物量でひとつずつ探して行くとしよう。ベネリット・グループならば、そうしたローラー作戦も可能である。

 

「ふぅ…」

 

 命令を出し終えたデリングは端末をしまい、一息つく。その額には、汗がにじんでいた。確かにデリングは思っていたほど重症を負っていなかったが、それでも無傷などではない。やはり事件前に比べると、体が辛い。そして人目がないところでは、こうして疲れた表情をしてしまう。

 

「入るわよ」

 

「……ミオリネ、ノックぐらいせんか」

 

「別にいいでしょ。娘なんだし」

 

 そこに、娘のミオリネが入ってきた。その顔は目に隈があり、髪も少しボサついている。どう見ても、ちゃんと寝ていないのは明らかだった。

 普段から父親であるデリングの事を嫌っていたミオリネだが、流石にデリングが本当に死にかける目にあったら心配もしてしまう。実際医者から手術が成功したと言われるまでは、全く眠る事が出来ず気が気じゃなかったのだ。

 

「で、医者はなんて?」

 

「最悪の事態は防げたとの事だ。1カ月程で退院はできるらしい」

 

「……そう」

 

「ただ、今後はなるべく杖を使った生活を考えて欲しいと言われた。腰をやられているからな。もう以前のようには動けないだろう」

 

「……そう」

 

 命の別状はないが、腰に相当なダメージが入ってしまったデリング。リハビリ次第ではまた普通に歩く事も可能らしいが、それでも以前のようにはいかない。今後は、少々不便な生活になってしまうのは避けられない。

 

「……何か欲しい物とかある?」

 

「変な気遣いは無用だ。それよりお前は、私に構っておらずに自分の会社の事を考えておけ」

 

「考えるも何も、今箝口令のせいで営業止められているのよ。今後のついてはもう既に考えてるし、今はこれ以上何かできる事ないわ」

 

「ならばもっと考えろ。今自分が何ができるかをな」

 

「あーもう!娘が心配してるってのに何なのよその態度は!少しは感謝してくれてもいいんじゃない!?」

 

「そもそも私は看病も何も頼んでいない」

 

 デリングが割と普通になった途端、これである。やはりこの親子は、普通の仲の良い親子とは言えない。

 

「ところでミオリネ」

 

「何よ?」

 

「お前は今、あのガンダムフレームのパイロットの事が気になっているのだろう?」

 

「っ」

 

 そんな中デリングが突然、三日月の事を口にする。三日月はあの日、自分とスレッタの目の前で、テロリストをバルバトスで潰して殺した。

 あんなの、人の死に方じゃない。生まれて初めて見るむごい死に方と、それを平然と行って、その後も何食わぬ顔で過ごしている三日月に、ミオリネは恐怖しているのだ。正直今三日月に会ったら、どんな顔をすればいいかわからない。

 

「ミオリネ、目の前で人が死んだ瞬間を見てショックを受けるのはわかるが、彼は私達を守ったのだぞ?それが理解できないお前ではあるまい」

 

「んな事、わかってるわよ…」

 

 そんな事を言われなくても、ミオリネだって理解できている。あの時三日月がいなければ、自分はスレッタとデリングと共に殺されていただろう。本来なら普通に感謝するべきなのだが、それでも怖い。とても命の恩人に対する態度じゃないのはわかっているが、やはり怖い。そんなミオリネに、デリングは軽いアドバイスをする。

 

「いつまで怖がっていても仕方が無いだろう。彼はお前の会社の従業員なのだ。ならば、しっかりと今後どうするか決めろ」

 

「今後?」

 

「このまま彼を会社に置くか、会社をクビにして遠ざけるかだ」

 

「それ、は…」

 

 確かに残された手段はその2つ。何時までも三日月を怖がっていてはいけない。会社の営業停止命令が解除されれば、嫌でも三日月とは一緒になる。それが嫌だというのならば、三日月を遠ざけるしかない。多分三日月ならば、どこに行っても1人で逞しく生きていけるだろう。

 

(でも、そんな真似…)

 

 だがいくら何でも、そんな真似は出来ない。そんな恩を仇で返すような真似、絶対に出来ない。

 

「お前の花婿が良く言っている言葉。逃げたらひとつ、進めばふたつだったか?」

 

「え?」

 

 ミオリネが悩んでいると、デリングがスレッタがいつも口にしている言葉を言う。

 

「このままガンダムフレームのパイロットを怖がり遠ざければ、お前はもう2度と彼に恐怖する事は無くなるだろう。しかし、その恐怖心を乗り越えて進めば、また彼と一緒にいる事は可能となる。彼が傍にいれば、とても心強い味方になってくれると私は思うがな」

 

「……」

 

 確かにその通りだ。三日月は敵に回ると恐ろしいが、味方だとこれ以上無いくらい頼もしい。本人の才能もあるが、何より彼はバルバトスを唯一完璧に動かせる人間だ。あの力があれば、並大抵の敵は敵じゃなくなる。三日月とスレッタがいれば、今後も学園の決闘で負ける事は絶対に無い。

 でもその為には、三日月を怖がらないようにし、今までの様に接するようにしないといけないのだが。今の自分にそれが出来るか、正直わからない。

 

「それにだ。もしこのまま彼を1人にしてしまうと、彼は間違いなく1人ぼっちで死ぬぞ」

 

「……は?何よそそれ」

 

 しかしデリングのその言葉を聞いて、ミオリネは固まる。

 

「戦場にも、ああいった気質の者がいた。1人で全部背負って、そして死んでいく者がな。今の彼は、そういった連中によく似ている」

 

 デリングは、ドロ-ン戦争を生き抜いた元軍人。長年戦場にいたので、多くの人間を見てきた。

 そしてその中には、三日月のように勝手に責任を背負って、勝手にそのまま1人で死んでいく者もいたのだ。責任感が強いのか、誰にも相談なんて出来ないくらい心が弱いのかは知らない。だがそういった人間に、誰か1人でも手を差し伸べればそうはならなかっただろう。

 

「お前があの子の社長を名乗るのなら、そうならないように最後までしっかりと彼を見ておけ。それとも、それすら出来ないのか?」

 

 このままでは、遠くない未来でかつて戦場にいた兵士のように、三日月は死んでしまうだろう。でも三日月には、スレッタやミオリネ、そして地球寮の仲間がいる。彼らが三日月にしっかりと手を差し伸べて仲直りすれば、三日月が勝手に死ぬ事は無いだろう。デリングはそう思っているからこそ、ミオリネに更にはっぱをかける。

 

「そう言えばお前は、彼に礼すら口にしていなかったな。そんな礼儀を知らない子に育てた覚えは無いのだが」

 

 最早煽っているような言い方だが、実際礼を言えないのはかなり失礼なのだ。ただの学生ならまだしも、ミオリネは会社を経営している社長である。なのに礼を言えないというのは、その会社の信用問題にさえ発展してしまう。現にデリングは、三日月にガンダム越しではあるがお礼を言っている。

 

『ガンダムフレームのパイロット…』

 

『何?』

 

『助けてくれて、感謝する…』

 

 自分も怪我で苦しかった筈なのに、デリングはちゃんと三日月に礼を言った。

 

(誰だっけこいつ…)

 

 尚、三日月はデリングが誰だったかわかっていなかったりする。

 

「そんな事では、株式会社ガンダムも先は無いだろう。なんせ社長が礼儀を知らないのだから」

 

「あーーもう!うるさいのよ本当に!言われなくてもわかってるつーの!!私は三日月の雇い主よ!?怖いからってクビにしたり遠ざけたりするもんですか!!私はあんたみたいな、冷血漢じゃないのよ!!」

 

 そしてデリングのはっぱは、見事ミオリネの感情に触れた。正直三日月の事はまだ怖いが、デリングにここまで言われて黙っているなんてもうしない。

 そしてミオリネは大声を出しながら、扉に向う。今すぐ三日月の件をどうにかする為に。とりあえず先ずは、三日月にしっかりとお礼を言うところから始めよう。デリングに言われたからというのは癪だが、このまま何もせず逃げ続けるなんて真似はしたくない。

 

「ご忠告ありがとう!何か必要な物があったら連絡してね!それじゃあ!!」

 

 ミオリネはそう言いながら、扉を力いっぱい開きながら部屋から出て行く。その時の音で、護衛の職員が驚くがミオリネは気にしない。

 

「……扉は静かに閉めろ」

 

 そんなデリングの言葉は、全く聞こえていなかったりする。

 

 

 

 

 

 ベネリット・グループ本社 モビルスーツ格納庫

 

「……」

 

 スレッタは1人で、ベネリット・グループ本社のシン・セーが所有しているモビルスーツハンガーにあるエアリアルのコックピット内で膝を抱えていた。本来なら既に学園に戻っていないといけないのだが、今学園に戻る訳にはいかないからだ。今の彼女は、色んな感情がごちゃ混ぜになっていっぱいいっぱいの状態にある。

 

 その理由は、三日月が人を殺してしまったからだ。

 

 幼い頃に水星で出会い、もう10年は一緒にいる幼馴染の三日月。その関係は、最早家族と言ってもいい。そんな彼が、自分を守る為とはいえ人を殺した。この一件が、スレッタの精神をぐちゃぐちゃにしている。

 

(何で…どうして…?どうしてなの三日月…)

 

 人を殺すというのは、本来許されない行い。いくらあの時命の危険があったとしても、普通は許されない。だが三日月は、その行為を何度もしてしまった。自分や地球寮の皆を、守る為に。

 

「っ」

 

 これは、自分のせいなのではないか。スレッタはそう思い、自分を責め出す。あの時自分が殺されそうになったから、三日月は人を殺した。自分が三日月にそうさせた。人殺しという、深い業を背負わせた。もし自分がエアリアルに乗っていれば、そうはならなかったかもしれない。

 

「エアリアル…私どうすればいいんだろう…?」

 

 その問いに、エアリアルは何も答えない。彼女も、どうすればいいかわからないからだ。

 

 「……」

 

 スレッタはぎゅっと膝を抱えて、また考える。この後どうすればいいかなんて、わからない。スレッタはずっと悩み続ける。このまま三日月に会うなんて出来ない。自分でも何を言ってしまうかわからないし、どんな顔をすればいいかわからないから。

 

「あ、電話だ…」

 

 その時、スレッタの端末が鳴った。スレッタが画面を操作し、電話に出る。

 

「もしもし?」

 

『スレッタ、今大丈夫?』

 

「あ、お母さん…」

 

 電話の相手は、プロスペラであった。

 

『随分声に覇気が無いけど、何かあった?』

 

「あ、うん…あったといえばあったけど、やったのは私じゃないって言うか…」

 

 プロスペラは直ぐにスレッタの元気が無い事に気が付く。

 

『三日月くんの事でしょ?』

 

「わかるの?」

 

『勿論。母親ですもの。それで、どうかした?』

 

 スレッタがどうして元気が無いかの訳も一瞬で把握したプロスペラは、スレッタから話を聞く事にした。

 

「実はね、三日月がプラント・クエタの襲撃事件の時に、人を殺しちゃったの…私とミオリネさん、そしてデリング総裁を守る為に…バルバトスに乗って、沢山人を殺しちゃったの…」

 

 スレッタはプロスペラに、ポツポツと話し出す。

 

「私、もう三日月に傷ついてほしくないって思っていたのに、それなのに三日月はそんな事をしちゃった…おまけに取り調べが終わった後、私…人を殺した三日月が怖くて、いつも通りに話せなかったの…」

 

『……』

 

「最低だよね、私…三日月に命を助けてもらったのに、三日月を怖がっちゃうなんて…」

 

 スレッタの独白を、プロスペラは黙って聞く。あの時、三日月に対していつも通りに接していれば、スレッタもこんなに悩む事は無かっただろう。

 けれどあの時は、どうしても三日月が怖かったのだ。人を大勢殺したのに、平然としている三日月が。人を殺したのに、何にも感じていない三日月が。

 

『スレッタ、よく聞いて』

 

 そしてプロスペラは、スレッタに何時もの様な優しい声でその悩みを解決させる。

 

『確かに、三日月くんが沢山人を殺したのは怖かったよね。水星にいる時みたいな事故じゃなくて、彼自身の意志で人を殺したんだもの。そんなの、怖がって普通。でもね、三日月くんが何も感じていないっていうのは絶対に無いわよ』

 

「それ、は…」

 

 言われてみれば、確かにそうだ。人を殺して平然としている人間なんて、いる訳無い。そもそも三日月は、感情をあまり表に出さない子。ならば、例え怖くてもそれを表に出さないのは当然かもしれない。

 

『三日月くんはね、友達の痛みにはとても敏感だけど、自分の痛みには凄く鈍感な子なのよ。そして彼は他人の為なら、必要とあれば何でもしちゃう子。そういう子だから、あの時地球寮の友達やスレッタ達を守る為、彼はバルバトスで戦った。そのまま地球寮の皆と一緒にいれば三日月くんが人を殺す事は無かったでしょうけど、彼は前に進んで戦ったからスレッタや皆を守れた。つまり、彼は逃げずに進んだのよ』

 

「進んだ…」

 

 それはプロスペラがスレッタに何時も言っているおまじない。逃げたらひとつ、進めばふたつだ。

 

『スレッタ、次は貴方が進む番よ。貴方が前に進んで、三日月くんの怖がらず、その手をしっかりと繋ぎとめるの。そして、三日月くんを救うの。そうしないと、彼は1人でずっと先に進んでしまうわ今三日月くんを救えるのは、スレッタだけよ』

 

「私が、救う…」

 

 プロスペラの言葉を、スレッタは小さく繰り返す。確かに、このまま三日月を放っておくなんて出来ない。このまま三日月が進みすぎないように、自分が三日月の手を掴んでおかないといけないだろう。

 

「出来ないよ…私じゃ…」

 

 けれど、自分1人でそれが出来るかわからない。プロスペラは進めというが、正直今も三日月が怖いと感じる。この恐怖を乗り越えていけるかなんて、わからない。

 

『1人で出来きないのなら、友達やミオリネさんを頼りなさい。貴方はもう、1人ぼっちじゃないでしょ?』

 

「あ…」

 

 だがそれも、誰かと一緒なら乗り越えられるかもしれない。1人で出来ないなら、誰かと協力してやる。そんな当たり前の事に、スレッタは今まで気が付かなかった。1人より2人。2人より大勢だ。その為にはまず、地球寮の皆を説得する必要があるが、そこは頑張るしかない。頑張って、また皆と三日月と今までのような楽しい学校生活を送ろう。

 

『大丈夫よスレッタ。貴方は進める子。でしょう?』

 

電話越しに、プロスペラはスレッタを励ますように言う。その瞬間、スレッタの目に光が灯った。

 

「そう、だよね。逃げたらひとつ、進めばふたつだよね!」

 

『ええ、そうよ。だからスレッタ、三日月くんをお願いね?』

 

「うん!まだ少し怖いって思ってるけど、私ちゃんと三日月と仲直りするよ!ミオリネさんや、地球寮の皆と一緒に!!」

 

『ふふ、それでこそ私の娘よ』

 

 プロスペラの言葉で、スレッタは元気を取り戻した。そして必ず、三日月と仲直りをすると決意する。

 

(やっぱり、お母さんは凄い!)

 

 しかしずっと悩んでいたのに、ほんの少し会話をしただけで解決策が出てくるなんて、やはり母は凄いとスレッタ改めて思う。自分1人だけじゃ、絶対にこうはならなかった。

 

「それじゃ!私今すぐ学校に戻るね!」

 

『ええ。気を付けてねスレッタ』

 

 そしてスレッタはプロスペラとの通話を切り、エアリアルのコックピットから出る。

 

「エアリアル。私、先に学校に戻るね」

 

 エアリアルに別れを告げて、スレッタはエアリアルのコックピットから出た。そのまま速足で、学園行きのシャトルがあるシャトル乗り場へと急ぐ。

 

「え?また電話?」

 

 しかしその時、再び端末が鳴った。そして端末には、ミオリネの名前。

 

「えっと、もしもし?ミオリネさん?」

 

『スレッタ!!あんた今どこ!!』

 

「え!?えっと、本社のモビルスーツ格納庫ですけど…」

 

 電話に出るなり、ミオリネは大声で怒鳴るように言葉を発する。そのあまりの勢いに、スレッタは少しビビる。

 

『なら今すぐ学園行のシャトルがあるシャトル乗り場に来なさい!ダッシュでね!!』

 

「え、ええ!?」

 

 だがミオリネ、そんなスレッタの事なんてまるで気にせず命令を出す。

 

「あの、どうしてですかミオリネさん?何か用事があるなら、後にして欲しいって言うか…私これから学園に戻って三日月と仲直りしたいんですけど…」

 

 流石のスレッタも、少しミオリネに反論。何の用事かは知らないが、自分は今すぐ三日月と仲直りしたいのだ。いくら花嫁のミオリネからのお願いだからといても、今は勘弁してほしい。

 けれどそれは、ミオリネも一緒であった。

 

『だったら丁度良いわ!私もそのつもりだからね!!』

 

「へ?」

 

 ミオリネがそう言うと、スレッタは途端に嬉しそうな顔をする。これはまさに、渡りに船。スレッタ1人では地球寮の皆を説得できるかわからなかったが、ミオリネがいれば大丈夫だろう。だってミオリネは、とっても頼りになるスレッタの花嫁なのだから。

 

『スレッタ。一緒に三日月と仲直りするわよ』

 

「っはい!!」

 

 スレッタは、大急ぎでシャトル乗り場へと向かう。1秒でも早く、三日月とちゃんと仲直りする為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでシャディク、どうするの?」

 

「養父さんを巻き込むよ。俺の計画に」

 

「だから今度あの2人と、アレを学園に?」

 

「ああ。魔女2人だけじゃ彼の相手にならないってわかったからね。悪魔の相手は、不完全ながらも修繕したあの天使に任せるとしよう」

 

「大丈夫かな?」

 

「大丈夫さ。失敗しても、せいぜい人が大勢死ぬだけだしね」

 

 

 

 




 あんまりキャラの心情を細かく書きすぎると変になりそうだったので、大雑把かもしれませんがこのままサクっと仲直りさせます。

 どこか変なとこや、矛盾しているような箇所があったら言ってください。修正したします。

 次回は仲直り回の予定。それが終わったら、水星2期の冒頭の連続決闘に行く予定です。そして決闘相手は鉄血や水星以外の作品から出す予定ですので、その辺もお楽しみに。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。