悪魔と魔女の物語   作:ゾキラファス

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 今更だけど、明けましておめでとうございます。今年も本作をよろしくお願いいたします。

 それと今回は所謂ラブコメ回みたいな感じなので、ガンダムらしさは殆どないです。ご了承くださいませ。


秘めた想い

 

 

 

 

 地球寮

 

「おいこらクソスペーシアン!!てめぇもっとちゃんと掃除しろよ!!まだこっちに糞が残ってるじゃねーか!!」

 

「あ、ああ。悪い。ちょっとだけだから別にいいかなって思って…」

 

「んな訳ねーだろ!!こいつらはな、綺麗好きだからしっかりと掃除しておかないとストレス感じるんだよ!!てめぇは自分の部屋に糞があったら寝れるのか!?」

 

「す、すんません…」

 

 地球寮のティコ達がいる区画では、チュチュが掃除に来ているハッシュを怒鳴り散らしていた。今朝からティコ達の世話をする事になった彼だが、ちょっと動きが悪い。今まで動物の世話なんてした事が無かったので仕方ないと言えばそうなのだが、それでも半端は許されない。

 今ここでちゃんと言っておかないと、彼は期間中ずっと手を抜くかもしれない。だから今、ちゃんと怒るのだ。

 

「それが終わったら餌やりな。その後に道具をしっかりと洗って、倉庫の整理。そして皆を放牧して運動だ。早くやれ」

 

「う、うっす」

 

「あと言っておくが、もし皆を逃がしたりしたらマジで宇宙に放り捨てるからな?」

 

「わ、わかりました…!」

 

 チュチュに言われ、ハッシュは直ぐに作業に取り掛かる。

 

「苦労しているね、彼」

 

「昔の私を見ている気分ですよー」

 

 その様子を、アリヤとリリッケが眺めている。ああやって苦労しているハッシュを見ていると、昔の自分を思い出す。

 

(動物の世話って、マジで大変なんだな…)

 

 そしてハッシュは、いかに動物の世話が大変かを身をもって知った。こんなの、モビルスーツの訓練の方がずっとマシだ。臭いに汚れるし足腰が痛むし、何よりかなりの体力仕事。自分がパイロット科の生徒でなければ、あっという間に根を上げていただろう。

 

(でも、絶対に逃げない。逃げてたまるか…!そんな情けない真似できねぇ!!)

 

 自分の兄貴分でもある寮長からの命令もあり、ハッシュはチュチュに逆らわないし逆らえない。正直逃げたいと少しは思ったが、今ここで全部投げ出して逃げたりすれば、それこそ自分達の寮は信用を失うからだ。だから何を言われても、しっかりと仕事はする。

 

 

 

「はぁ~~~、疲れたぁ…」

 

 そしてハッシュは、何とかその日の動物達の世話をしっかりとやり遂げた。まだ朝の分だけで、この後昼や夕方もあるのだが、それでもこれでとりあえずひと段落だ。今はこうして、暫く壁に寄りかかって座り込みたい。

 

「お疲れ様。はいこれ」

 

「あ、どうもっす」

 

 アリヤに何かが入ったコップを手渡され、ハッシュはそれを飲もうとした。

 

「っ!?あの、これは…?」

 

「ティコのミルクだよ。搾りたてだ」

 

 しかし、かなり匂う。普通に臭い。果たして飲んでも大丈夫なのかと、不安になる。

 

「っ!!」

 

 だが、ハッシュは意を決してミルクを飲み干す。これを飲まないと、またチュチュか色々言われそうだし、人の善意を受け取らないのは失礼だと思ったからだ。

 

「あ、美味い」

 

「うん。よかった」

 

 飲み干してみると、結構美味しい。匂いこそかなりキツイが、味はとても良い。これならまだ飲めそうだ。

 

「お疲れ様ですハッシュ先輩。またお昼もありますから、昼食後に来てくださいね」

 

「うっす…」

 

 まだまだ仕事があると思うと憂鬱だが、ここで逃げたりはしない。約束通りちゃんと1か月、この仕事をやり遂げよう。

 

「ところで、三日月・オーガスはどこに?」

 

 ここでハッシュは、今朝から三日月の姿が見えない事をアリヤとリリッケに質問をする。別に三日月に何か言いたい事があるとかじゃなくて、ただ気になっただけだ。

 

「ああ。三日月なら今学園にいないよ」

 

「いない?どこに?」

 

 続けてハッシュが質問をし、それにリリッケが答えた。

 

「実は三日月先輩、今日デートなんですよ!!」

 

「は?」

 

「それも、グラスレー寮のレネ先輩と!!」

 

「はぁ!?」

 

「おまけに水着を着たプールデートです!!」

 

「はぁぁぁぁ!?」

 

 リリッケの答えを聞いたハッシュは、思わず絶叫する。あの三日月がデートという事も驚きだが、相手があのレネだと言う事はもっと驚きだ。

 なんせアスティカシアで、1番男子生徒にモテる女生徒とも言われているレネ。ハッシュはそういった事にあまり興味は無いが、同じ寮のザックはレネに相当お熱な状態で、よく話を聞かされている。そんなレネが、三日月とデート。驚かない訳が無い。

 

「うるせぇ!!」

 

「はい!すんません!!」

 

 そしてあまりに大きな声で驚いた為、チュチュに怒られたのだった。

 

 

 

 

 

 フロント70区 アナハイムランド

 

 昨日レネにご飯に誘われた筈の三日月は、どういう訳か学園からシャトルで40分程の場所にある大型レジャー施設型のプラント、「アナハイムランド」に来ていた。

 施設内には映画館や遊園地、そして大型プール施設があり、偶にアスティカシアの学生が遊びにくるレジャー施設である。大きさは普通のプラントと比べるとやや小さいが、中身はそこら中に遊べる場所がふんだんにある学生にとって最高の娯楽施設だ。

 少し名前が不穏ではあるが、ここはちゃんとした普通の娯楽施設であるから心配しなくていい。その一画にあるプール区画。そこに今三日月はいる。

 

「何で俺、こんな場所にいるんだろう…?」

 

 昨日レネが言っていた内容は、一緒にご飯だった筈。なのに何故か自分は今、水着に着替えてプールに来ている。確かにパッと見ただけでも出店があるので、そこで色々食べられそうではあるが、だとしても態々プールで食べる必要性を感じない。

 

 因みに三日月の水着は、全身を隠している深い青色のフットネス水着と言われているものだ。これは三日月の背中に施された阿頼耶識システムを隠す為の処置である。

 尚、右腕に装備していたギプスは既に外していある。流石にギプスのままプールに来ることは出来ないからだ。その変わりに、少しゴツイアームガードを装備している。これでまだ右腕が本調子では無いとアピールしているのだ。

 

「三日月~、お待たせ~」

 

 そうやって三日月がプールサイドで待っていると、後ろから声をかけられた。三日月が降り返ると、そこにいたのは水着姿のレネだ。今日のレネは、何時もの髪型を解いてポニーテールにし、黒いビキニを着ていた。

 かなり布面積が狭く、レネの抜群のプロポーションを惜しみなく晒し、周りにいる男の視線を自然と集めている。並みの男であれば、今のレネに迫られたらあっという間に落ちるだろう。

 

「ねぇねぇ、この水着どう思う?」

 

「寒そうって思ったけど」

 

「あー、うん。だよねー、あんたならそういう反応だよねー」

 

 しかし、流石三日月。この反応である。でもレネも三日月が素直に自分の水着姿を誉めるなんてする訳無いだろうと思っていたので、特にショックは受けていない。

 

「で、どこでご飯食べるの?」

 

 それはそうと、三日月はレネに尋ねる。元々ご飯に誘われているのに、何故か自分が今いるのはプール。それも水着に着替えさせられている状態。多分、プール施設内でしか食べれない場所なのだろうと三日月は思った。

「まぁまぁ、それはそれとして、折角プールに来たんだから、先ずはここで遊ぼう?」

 

 だがレネ、当然このままご飯食べて帰るなんて真似はしない。なんせ、ここはプール。普通に考えたら、先ずは遊ぶのが筋だ。一切遊ばずにご飯食べて帰るなんて、神様が許してもレネが許さない。

 

「えー…」

 

「いいからいいから。ほら、行くよ」

 

「……わかったよ」

 

 三日月は心底面倒くさい顔をするが、レネはお構いなしに三日月の左手をひいて歩き出す。三日月も、生まれて初めて来たプール施設だし、少しくらいはいいかと思ってレネに掴まれた左手を振り払おうとせずそのままにした。そうして2人は、先ずはとりあえずプールで遊ぶ事にしたのであった。

 

 

 

「今のところ、怪しい動きは無いわね」

 

 その様子を、少し離れている場所から見ている者達がいた。ミオリネ達である。ミオリネは黒地に白い線が1本入っているフレアビキニを着た状態で、三日月とレネの事を物陰に隠れながら見ていた。

 

「あのー、ミオリネさん。これって私達、凄くいけない事をしているんじゃ…?」

 

 その直ぐ隣には、白いホルターネックビキニを着たスレッタもいる。でもその顔は、どこか不安げだ。なんせ自分達は今、三日月とレネのデートを盗み見ている。普通に考えて、こんな事していい訳無い。

 

「あのねぇ、スレッタ。これは株式会社ガンダムの社長としての大事な仕事でもあるのよ?」

 

「え?どの辺がですか?」

 

「もしレネの奴が、三日月相手にハニトラでもしたら大問題でしょうが。だからこれは、そうならない為の監視よ。あの決闘の後にシャディクがそんな命令出すとは思えないけど、念の為にね」

 

 しかしミオリネは、これはあくまで監視だと言い張る。確かにもしも三日月がレネに会社内の情報をペラペラ喋ってしまえば、かなりのダメージが入るだろう。

 

(そんな事、無いと思うけどなぁ…)

 

 でもスレッタ、それは無いと内心断言していた。なんせ三日月だ。あの三日月である。三日月が女の子相手にデレデレしている姿が想像できないし、そもそも三日月はレネを振ったも同然な事をしている。今更レネに三日月がデレるとも思えない。だからスレッタは、ミオリネのこの心配は杞憂だと思っていた。

 

「……」

 

「ニカさん、大丈夫ですか?」

 

「え!?あ、うん!大丈夫だよ!?」

 

「ほ、本当に?なんだか凄い顔してましたけど」

 

「そ、そう?気のせいじゃないかな?」

 

 突然スレッタに話しかけられて、白と青のストライプ模様のビキニと、ホットパンツを履いているニカが少し驚く。それだけ、集中して見ていたのだろう。なんせ先程のニカは、食い入るようにじっと三日月とレネを見ていた。それもなんか、少し怒ったような顔をして。ニカは気のせいだというが、絶対に気のせいじゃない。

 

(何かあったのかな?)

 

 もしかすると、三日月と喧嘩とかしたのかもしれない。今回の件が終わったら、1度話をしてみようとスレッタは決めた。

 

「何で俺も行かなきゃならないんだよ」

 

 そんなスレッタの後ろには、面倒臭そうな顔をした昭弘がいる。彼はアロハシャツを身に纏い、ハイビスカスがあしらわれたサーフパンツを履いていた。

 しかし、昭弘は今すぐ帰りたい気分でいっぱいだ。なんせ彼は自分の意志でここに来ていない。今朝ミオリネに言われて、無理やり連れてこられたのだ。今日はずっと筋トレかモビルスーツのシミュレーション訓練をしておきたかったのに、その予定が全部台無しだ。

 

「こういう場所で女だけだと、絶対に面倒な奴らから声を掛けられるのよ。あんたはそういった奴らに対する防波堤よ」

 

「要するに弾避けじゃねーか。オジェロとかヌーノでもよかっただろ」

 

「あいつらは何か頼りないから却下」

 

「ひでぇなおい」

 

 ミオリネの言う通り、女3人だけでプールにいるなんてナンパされる対象でしかない。でもそこにマッチョな大柄の男が1人いれば、それだけで誰も声をかけてこない。

 

「なぁ、あの子達可愛くね?」

 

「やめとけ。明らかに堅気に見えないやばそうな奴がいるだろ」

 

 実際、その効果は抜群である。ミオリネ達を見る者はいても、声をかけようとはしてこない。

 

「ねぇ、君達。今暇?「あ?」あーっと、すみません。用事思い出しました」

 

 中には勇気を出して声をかけてきた男もいたが、昭弘の声を聞いただけで逃げていく。これなら、誰にも邪魔されずに三日月とレネの監視も続けられるだろう。

 

 

 

「何これ?」

 

「え?ウォータースライダー知らない?」

 

「うん。初めてみた」

 

 三日月とレネは、施設内にあるウォータースライダーに来ていた。ここのウォータースライダーは2人乗り用のゴムボートに乗って滑り降りるタイプのようだ。それも、結構な距離やカーブがある。滑ったら、スリル満点で楽しい事間違いなしだ。

 

「それでは、これに乗ってください」

 

「ありがとうございますね。ほら三日月も」

 

「わかった」

 

 係員に言われ、三日月はレネと並ぶようにゴムボートに乗り込む。

 

「三日月。もっとくっついて?」

 

「こう?」

 

「そうそう!ほらもっともっと!」

 

 ゴムボートはあまり大きくないので、必然的に2人はかなり密着する。しかもこの時レネは、自分の胸を三日月の左腕に押し付けるようにしていた。結果、三日月の左腕がレネの胸の谷間に沈む。

 

「で、これってこのまま滑るの?」

 

「……あ、うん。そうだよ」

 

 でも三日月、まるで顔色を変えない。思いっきり当たっているのに、いつも通りの顔。

 

(もういっそ裸になってベッドに押し倒そうかな…)

 

 今までも学園で散々三日月を振り向かせる為に色々やってくたが、三日月は一向にこちらに振り返らない。そこまで苦戦するなら諦めろと思うかもしれないが、レネには諦めたく無い理由が出来てしまった。

 

 なんせ三日月が、数日前に地球寮のニカにキスをしているのを、目撃したのだから。

 

 あの日レネは、本当に偶然寝付けずにいたので、適当に校内を散歩していた。そこで見てしまった。2人がキスをするところを。それを見たレネは、一瞬本気で頭が真っ白になった。

 どうしてあの女にキスをしているのか。どうして自分じゃないのか。自分とあの女、何が違うのか。そんな色んな事が頭の中を駆け巡り、ついその場から走り去ってしまった。

 

 そして部屋に戻って、レネは考える。元々決闘後に三日月に惹かれていたが、最近はより強く惹かれている気がする。でなければ、今自分がこんなにショックを受けている訳が無い。ついでに言うと、あんな恋愛をした事も無い芋臭い女に三日月を取られたくない。

 だからレネは、今日こうして三日月を誘ったのだ。本当なら自分にこんな事する資格なんて無いのだが、それでもレネは三日月を誘った。

 

 例え三日月が自分に振り向いてくれなくても、彼と恋仲になれなくても、この日の思いでがあれば何とかなると思って。

 

「きゃははは!!」

 

「おお…結構早い…」

 

 そんな想いを胸に秘めながら、レネは三日月と共にウォータースライダーを楽しむ。

 

 

 

「ふむ。今のところ、レネがこちらの情報を三日月・オーガスに渡している素振りはないな」

 

 その様子を、監視している者達がいた。サビーナとシャディクだ。サビーナは白い競泳水着を着て、シャディクは昭弘とは色違いのアロハシャツに、青いサーフパンツを履いている。そして手には、双眼鏡が握られていた。

 

「普通に三日月くんとデートをしている。ただそれだけだと、俺は思うけどね」

 

「万が一があるだろう。何かあってからじゃ遅いんだぞ」

 

「それはそうかもだけど」

 

 2人がこうして水着に着替えてまでプールに来ている理由は、レネの監視だ。昨日レネは、突然三日月をデートに誘った。それをサビーナは、レネが三日月にシャディクの計画の事を話すのではと訝しんだのだ。そこでレネに秘密裏に、こうして監視目的でついてきたのである。

 「でもレネだって、普通にプールで遊ぶ事もあるさ。そこまでレネを怪しむ事も無いって」

 

 シャディクはレネを信用しているので問題ないと言うが、それでも用心するに越した事は無い。

 

「それにその時は、俺が必ずやるさ」

 

 もしもの時は、最悪レネを処分しないといけない。そしてその役目は、自分がする。その覚悟が、シャディクにはあるからだ。

 

「そうか…」

 

 無論サビーナも、レネを始末なんてしたくない。もう10年近い付き合いがあるのだ。だがレネが裏切った時は、容赦しない。自分達は、それだけの覚悟を持って動いているのだから。

 

「ところでシャディク」

 

「何だい?」

 

「お前、さっきからレネじゃなくてミオリネを見てないか?」

 

「……いや?見てないよ?」

 

 本当にこのむっつりに任せて大丈夫かと、サビーナは少し心配になった。

 

 

 

 ウォータースライダーで遊び、その後に流れるプールでゆったりした2人は、施設内にある休憩場に来ていた。そこにあるパラソル付きのテーブル席に座り、レネは持ってきた箱を開ける。

 

「はいこれ!」

 

「これって、弁当?」

 

「そうだよ!私の手作りのお弁当!」

 

 それは、レネが今朝早起きして作ったお弁当だ。中身は結構凝っており、卵焼きやウィンナー、唐揚げにポテトサラダ、そして色んな具材の入ったサンドウィッチだ。男である三日月が好きそうなラインナップである。

 

「もしかして、ご飯ってこれの事?」

 

「そう。普通にお店で食べるんじゃなくて、こうして手作りのお弁当を食べようって思ってみたの」

 

 三日月は、やっと合点がいったという顔をする。今までプールでただ遊んでいただけで、どこでご飯を食べるのかずっと疑問だった。

 しかし、これでその疑問も解決だ。何で手作りの弁当なのかはわからないが、食べられるのなら食べよう。

 

「さぁ!食べて!食べて!!」

 

「うん、わかった」

 

 レネに言われ、とりあえずサンドウィッチから手を付ける三日月。

 

「あ、美味い」

 

 ちゃんと美味しくて、三日月は少し感動。てっきり見た目だけのメシマズとかと思っていたが、普通に美味しい。これならどんどん食べれそうだ。

 

「っ!も、もっとあるから好きなだけ食べていいからね!!」

 

「うん」

 

 三日月が美味しいと言ったのを聞いたレネは、分かりやすく嬉しそうな顔をする。そしてそのまま、三日月にもっと弁当を勧める。三日月もそれを拒絶せず、もくもくとレネの手作り弁当を食べ続ける。

 

 その様子を、ミオリネ達は少し離れたところで見ていた。因みに4人も昼食を取っているのだが、食べているのはレネみたいな弁当では無く、施設内にある売店で購入したハンバーガーセットだ。

 

「あれは、ハニトラになるのかしら?」

 

「いやー、ご飯食べてるだけですし…」

 

「甘いわねスレッタ。古来より、男を落とすには胃袋からって言われているのよ。レネは今、その古典的手段を使っている可能性があるじゃない」

 

「あー、確かに三日月って色気より食い気な部分ありますしねぇ…」

 

 スレッタの言う通り、三日月には色気より食い気なところがある。別に三日月に性欲が無い訳では無いのだが、それでも三日月はご飯の方が喜ばれる。そういう意味では、今レネはミオリネが言ったように三日月の胃袋を掴むために弁当を食べさせているのかもしれない。

 

「……」

 

「ニカ。お前、何かあったか?」

 

「え?いや、別に…」

 

「そうか。でも何かあるなら言ってくれ」

 

「う、うん」

 

 そしてニカは、三日月とレネを羨ましいそうに見ていた。

 

(私に、嫉妬する権利なんて無いのに…)

 

 というか嫉妬していた。自分も三日月と遊びたいと思ったし、一緒にご飯を食べたいとも思った。それができるレネが、羨ましくて仕方が無い。

 

(というより、プリンスの仲間である貴方もそういう事する権利無いんじゃないかな?)

 

 ついでにレネに対して、そんな気持ちも向ける。なんせ三日月は、プラント・クエタで沢山の人を殺した。その原因を作ったのは、プリンスことシャディク。その仲間であるレネは、一体どういう気持ちで三日月とデートを楽しんでいるのか不思議でならない。どれだけ、顔の面が厚いのだろうか。

 

(って、いけないいけない…それは私も同じじゃない…そんな事思ったり、嫉妬なんてしたらダメなんだから…)

 

 でもそれは、自分も同じ。だってニカは、シャディクの仲間である。正確には使い走りをされている下っ端の部下みたいなものだが、それでもニカは三日月やスレッタ達にとって裏切り者だ。そんな自分が、こんな感情を持ってはいけない。そんな権利、自分にはどこにも無いのだから。

 

「あ、三日月。口にケチャップついてる」

 

「え?どこ?」

 

「こっち」

 

 そんな事を思いながら監視を続けていると、レネが三日月の口元についたケチャップを紙ナプキンでふき取る。

 

「ありがと」

 

「いいよこれくらい。、今度は私が食べさせてあげようか?」

 

「別に1人で食べれるからいいけど」

 

「いいからいいから。ほら、あーん」

 

「あむ…うん、この唐揚げも美味しいけど、ちょっと味が変だね?」

 

「あ、これは作る時にワサビっていう野菜をすり下ろして混ぜてるんだ。だからさっぱりした味するでしょ?」

 

「うん、俺これ好きだ」

 

「ふふ、そっかそっか」

 

 そしてそのまま、まるで本当の恋人のようにイチャつく。当然、三日月にそんな気持ちは無いのだが、傍から見れば完全にイチャついているようにしか見えない。

 

「……」グシャ

 

「あ、あの…ニカさん?」

 

「ん?何スレッタ?」

 

「いやあの、持ってるジュースが…」

 

「あ、本当だ。突然どうしたんだろうね?別に力入れてないのに。不良品かな?」

 

 そんな2人を見ていると、どうしても嫉妬してしまう。そんな権利なんて無いのに、嫉妬してしまう。そして嫉妬したニカは、手に持っていたジュースを容器ごと握り潰して零してしまった。

 

(あのミオリネさん…これって一体何が?)

 

(知らないわよ!?)

 

(こえーなおい…)

 

 そしてそのニカを間近で見ていた3人は、少しだけニカに恐怖するのであった。

 

(あーもう。私、何やってるんだろ…)

 

 一方でニカは、自分が今嫉妬してしまった事に自己嫌悪する。そんな権利、自分には無いのに嫉妬してしまった。最低だ。どこまで自分勝手なのだろうと、ニカは自分が嫌になる。

 

(キスされただけでこんな風になるなんて、私って凄くチョロイ女なんだなぁ…)

 

 それもこれも、三日月がキスをしてきたのが始まりだ。あの日以降、ニカはずっと三日月を意識しっぱなし。

 

 いや、より正確に言うとニカは三日月に惚れてしまっている。

 

 無論キスだけが原因じゃないが、キスがきっかけなのは間違いない。でも自分が、三日月に惚れる訳にはいかない。この想いを、伝えるなんてあってはいけない。

 だって自分は裏切り者。こんな自分は、三日月に相応しくなんて無い。だから、絶対にこの想いは伝えない。

 

(はぁ…本当に自分が嫌だ…)

 

 自分は三日月の隣に立つ資格なんて無いと思っているのに、レネが三日月の隣に立つのは嫌だと思っている。本当に自分が醜い。そう自分を嫌悪しながら、ニカはポテトに手を伸ばして食べ進める。

 

 

 

「こっちこっち」

 

 昼食を食べ終えた三日月は、レネに手を引かれながら施設内を歩いていた。

 

(こいつ、何がしたいんだろ?)

 

 そんなレネに、三日月をちょっと怪訝な顔をする。何でご飯を食べるのに、プールで遊ぶのか。何で態々学園の外なのか。わからない事だらけだ。もしかすると、気が緩んだ時にでもバルバトスの事を聞く魂胆なのかもしれない。

 実際三日月は、それにここに来る直前にミオリネから絶対にレネにバルバトスの情報を言ったりするなと警告を受けている。なので用心しているのだが、今のところレネがこちらの事を探る様子は無い。普通に三日月とのプールを楽しんでいるように見える。

 

(まぁ、その時はその時かな)

 

 でも油断は出来ない。もしレネがこちらを探る真似をしてきたら、その時はもう帰ろう。

 

(弁当は美味しかったけどね)

 

 それにしても、あの弁当は美味しかった。出来ればまた食べたいと思うくらいには、

三日月はレネの弁当を気に入っている。特にあの唐揚げがよかった。あれなら毎日食べてみたい。

 

「着いたよ」

 

 レネに手を引かれて着いた場所は、外に宇宙が綺麗に見える展望プールだった。

 

「へぇ、ここ綺麗だね」

 

「この施設で1番の絶景スポットだからね」

 

 上空には地球と一緒に星空が映り、それを見ながらゆったりとした時間を過ごせる場所だ。同時に、よく恋人達が来る場所でもある。

 実はこのフロアには、個室のような区画がある。そこには小さめのプールと宇宙を見る事が出来る展望スペースがあり、よくそこで恋人達がイチャイチャしているのだ。

 

「ここに入ろう?」

 

「わかった」

 

 レネに言われたとおりに、三日月は個室に一緒に入る。

 

「くっ!あれじゃ中で何が起こってるかわからないじゃない!!誰か指向性集音マイクとか持ってない!?」

 

「ある訳ねーだろ」

 

「ていうかそんな物持ってたら普通に怪しまれるから」

 

「ミオリネさん。もう帰りませんか?私、普通に心が痛いんですけど」

 

「ダメよ!せめて2人が学園に帰るまでは監視は続行するわよ!!」

 

「なぁ、俺ちょっとトイレ行ってきていいか?」

 

「あ、うん。全然大丈夫だよ、昭弘」

 

 そしてミオリネ達は、流石にこのまま個室に入る事は出来ないので、大人しく外で待つ事にした。

 

「うん、あれは無理かな」

 

「どうする?いっそ乗り込むか?」

 

「いやいいよ。外で待っておこう」

 

 それは、シャディク達も一緒である。いくら彼らでも、個室の中の様子を覗き見る事は出来ない。

 

「綺麗だよねー」

 

「まぁね」

 

 そして個室に入ったレネと三日月は、設置されているプールに足を漬けた状態で宇宙を見ていた。レネは足でプールの水をバシャバシャしていたりする。可愛い。

 

「私ってさ、小さい頃から星を見るのが結構好きなんだよね」

 

「へぇ」

 

「星を見ているとさ、自分の悩みがちっぽけに感じて、悩みが消える事があるんだよ。まぁ、その時の状況によっては意味無い時もあるけど」

 

「人って限界あるからね」

 

 2人は並んで座ったまま話す。

 

「三日月ってさ、水星生まれなんだよね?」

 

「いや、火星生まれの水星育ちだよ」

 

「え?火星生まれなの?」

 

「うん。でもその時の事全然覚えてないから、実質水星生まれでいいかな」

 

「そうなんだ。その、親は?」

 

「小さい頃にあった水星の落盤事故に巻き込まれて死んだ」

 

「あ、ごめん」

 

「いいよ。親の事あまり覚えて無いし」

 

 会話の内容は様々で、意外と弾む。三日月自身、特にこの会話を嫌がっていない。はっきり言って、かなり凄い事である。これも決闘後にレネが足繫く三日月の元に通ったおかげだろう。でなければ、こうも三日月がレネと会話する事は無い。

 

「三日月ってさ、将来の夢とかあるの?やっぱりミオリネの会社を手伝う感じ?」

 

「どうかな。俺モビルスーツの操縦くらいしか出来ないから、ミオリネの会社に残ってもやれる事無いと思うんだよね。あ、でも最近は野菜育てるのが好きだし、農場とかしてみたいかな」

 

「へー、農場か。でもあれ大変だよ?朝から晩まで働くし、天候のせいで収入が安定しなかったりするし」

 

「まぁ、あくまで今はってだけだよ。まだ時間はあるし、ゆっくり考える」

 

「…そっか」

 

「レネは?」

 

「うーん。今はシャディクがグラスレーの重役になった時に傍で仕事できればいいなって感じかな」

 

 実際はあまり時間は無いのだが、その事を三日月は知らない。なんせシャディクが計画している日まで、もうあと数日だ。そこで三日月は、シャディクが復活させた例の兵器と戦う事になる。流石の三日月も、無傷では済まないだろう。

 

「……」

 

 ついその事を話してしまいそうになるが、レネは口を紡ぐ。正直に言えば、三日月にそんな危険な事に巻き込まれて欲しくない。ここで自分が全部喋れば、三日月に危険が及ぶ事はないかもしれない。

 でも、やはりシャディク達は裏切れない。どうしても裏切れない。なのであの事を三日月に喋る事も出来ない。けど、三日月に死んでほしくない。

 

「あのさ…」

 

「うん?」

 

 だからか、レネは少し踏み込んだ話をする。

 

「三日月って、どうしようも無い事があったらどうする?」

 

「は?何それ?」

 

「だからさ、もうどうしようもない。何をしても意味が無い。自分はここで死ぬ。もうこれは運命だから変えられないって時。もしそんな時が来たら、どうする?」

 

 質問の意図がわからない三日月。でも質問されたので、普通に答える事にした。

 

「どうもこうもないよ。正面からその運命とかを壊して前に進むし」

 

「はは、三日月って強いねー」

 

 レネの質問に、三日月は自分の素直な気持ちを言う。実際仮にもうどうしようもない出来事があっても、自分はそれを簡単に受け入れないだろう。その運命に抗って、運命とやらを変えてみせる。それで変えられなかったら、その時はその時だ。

 

「因みにレネは?」

 

「そうだね。逃げるかな」

 

「逃げる?」

 

「うん。時には逃げる事も大切だと、私は思うんだよね。勿論逃げてばっかりだと何もできないけど、本当にどうしようもなくなったら、逃げるのだってありだと思うな」

 

 レネの考えも、別に悪い事は無い。人間、いざとなったら逃げてもいいものだ。

 

「まぁ、それもいいんじゃない?」

 

「そう?」

 

「うん」

 

「そっか」

 

 三日月の言葉を聞いたレネは、1度小さく深呼吸をし、三日月にある質問をした。

 

「じゃあさ、もし今後すっごく危ない事があったら、私と2人でどこか遠くに逃げない?」

 

「は?」

 

 突然そんな質問をされた三日月は、頭に疑問符を浮かべる。

 

「どこって、何処に?」

 

「そうだね。三日月って火星生まれなんでしょ?だったら、火星なんてどう?」

 

 三日月の問いに、レネは淡々と答える。

 

「バルバトスと私のベギルペンデを奪って、それを火星のジャンク屋にでも売って、その売ったお金を元手に農場でもしない?」

 

 確かにバルバトスとベギルペンデなら、かなりの金額になるだろう。それだけのお金があれば、農場を開く事も可能かもしれない。

 

「毎日朝早くから畑を耕して、それを収穫して販売して、夜は同じベッドで寝る。偶に休んで、2人で日向ぼっことかしながらのんびり穏やかに過ごす。良くと思わない?」

 

 確かに、良いかもしれない。無論実際の農場はそんな簡単じゃないだろうが、それでも夢のある話だ。

 

「どう、かな?」

 

 そして三日月をじっと見ながら、返答を待つ。

 

「逃げる訳無いじゃん」

 

 しかし三日月は、当然そのレネの願いを聞き入れない。

 

「そもそもスレッタやミオリネ、地球寮の皆がいるのに俺だけ逃げるなんて出来る訳ないじゃん。もし逃げる事があるなら、皆も一緒に決まってるでしょ」

 

 三日月は、自分だけ逃げるなんて真似はしない。そもそも逃げるという選択肢が無いし、仮に逃げる事があってもその時は全員一緒だ。そもそも、聞き入れる理由も無い。

 

「…ははは!だよね。たらればの話って事で言ってみただけだから、あまり気にしないで!」

 

「わかった」

 

 その三日月の答えを聞いて、レネは笑う。わかって居いた事だ。三日月が、このまま自分と逃げてくれる訳なんて無い。そんな事、わかっていた。

 しかし、その声は少しだけ残念そうである。例えわかっていたとしても、やはり面と向かって言われるとキツイし、残念でならないからだ。

 

「あ、そろそろ帰らないと、学園の門限に間に合わないかも。じゃ、帰ろうか」

 

「そうだね」

 

 アスティカシア学園では、学園外に遊び目的で出た場合、門限が設定されている。この時間までに学園に帰らないと、割と面倒な事になるのだ。具体的に言うと、反省文を書かされる。

 その門限が迫っているので、今日はもう戻らないといけない。本当ならもう少し遊んでいたいが、そこは我慢だ。

 

「……ねぇ、三日月。今日、楽しかった?」

 

 個室から出る直前、レネが三日月に今日の事を尋ねる。自分は楽しかったが、三日月がそうとは限らない。その目には、少し不安が見える。

 

「うん。何だかんだで楽しかったよ。弁当も美味しかったし」

 

「ふふ、よかった」

 

 しかし三日月も、レネ程では無いが楽しかったらしい。その事を聞いて、レネはかなり嬉しがる。当然、その事を表には出さないが。

 

「あ」

 

「どうかした?」

 

「ううん、何でも無い」

 

 そして2人は、そのまま学園に帰る為に更衣室へと向かう。

 

「とりあえず、私達も帰りましょうか」

 

「はい」

 

「うん」

 

「おう」

 

 因みに出てきた時、ミオリネ達も隠れながらゆっくりと帰り支度を進めるのであった。

 

「ねぇ、三日月。やっぱりさ、ランブルリングに出るの?」

 

「そりゃね。スレッタも出るし、俺もただ見ているだけなんて真似したくないし」

 

 更衣室に向う道中、レネは三日月にもう直ぐ開催されるランブルリングについて尋ねる。やはり、三日月も出場する気でいるらしい。

 

「そっか。私も出るけど、その時は容赦しないからね」

 

「それはこっちもだよ」

 

 今日の事があるからと言って、手を抜くなんてしない。

 

「じゃ、着替えたらシャトル乗り場に集合で」

 

「うん」

 

 そして2人は、着替える為に更衣室に向う。

 

「……」

 

 だが三日月と別れて更衣室に向う途中、レネは足を止めて振り返る。

 

「出て来てよ。さっきチラっと見えていたから、もう隠れなくていいし」

 

 そして自分の事をずっと監視していたであろう人物に、話かけた。

 

「今日はよく思いとどまったな、レネ」

 

そこに物陰から現れる水着姿のサビーナ。因みに、シャディクはまだ施設内にいる。

 

「もし口が滑っていたら、私を始末する気だったでしょ?」

 

「流石にここではせんよ」

 

「ここでは、ね」

 

 それはつまり、ここじゃないところでなら始末するという事だ。これは脅しでもなんでもなく本気で言っている事を、レネは理解している。そんな事を思っていると、サビーナが口を開く。

 

「レネ」

 

「何?」

 

「今なら、三日月・オーガスのところに行っても咎めたりはせん。無論、こちらの情報はずっと黙ったままでいてもらうがな」

 

 サビーナのそんな台詞を聞いて、レネは驚く。

 

「……意外。サビーナって裏切りとか絶対許さないタイプでしょ?どういう心変わり?」

 

「私だって女だ。多少なりとも、お前の気持ちは理解できる」

 

 サビーナはシャディクにずっとああ言っていたが、それでもレネの気持ちは理解できていた。好きになった男と敵対し、もしかすると今後殺し合うかもしれない。こんな残酷な事は無いだろう。

 

 そしてレネは、完全に三日月に本気になっている。今レネは100人の自分を好いてくれるキープくんより、三日月1人が欲しい。本気でそう思っている。

 まさか自分がこんなに誰か1人を好きになるなんて、思いもしなかった。もしここでサビーナの言う通り、三日月のところに行けば、この想いは叶うかもしれない。

 仮に自分が抜けても、サビーナが何とかシャディクを説得してくれるだろう。なんせシャディクは、あれでいてかなり身内に甘い。重要な情報さえ喋らなければ、レネに何かする事は多分無い。

 

「出来る訳、無いじゃん…」

 

 でもレネは、サビーナのその提案を断る。

 

「三日月を人殺しにした私が、三日月の隣に立つなんて、絶対にしちゃいけないんだよ…」

 

 だって自分は、三日月の手を血に染めた張本人。どんな顔して、三日月と一緒になろうと言うのか。つまりレネも、ニカと同じように自分は三日月と一緒になる資格は無いと思っているのだ。

 

「だから、これは私の最期の思いで作り。三日月と一緒にはなれないけど、今日のこの出来事があれば、私は今後も生きていける。例えどれだけ両手を血で染める事になろうともね」

 

 おこがましいとは思っている。どれだけ顔の面が厚いのかと、自分でも理解している。それでも、彼と思い出を作りたかった。今後自分達は、大勢の人を巻き込んでいくだろう。もしかすると、殺されるかもしれない。惨い最期を迎えるかもしれない。だからこそ、最後に本気になった人と思い出を作りたかった。

 

 この暖かい思い出があれば、死ぬ時も怖くないから。

 

(普通に生まれて、普通に彼と出会いたかったな…)

 

 もし自分が普通のスペーシアンとして生まれ、幼い頃に三日月と出会えていれば、幸せになれたかもしれない。普通に出会い、普通に付き合って、普通に結婚する。そんなごく当たり前の幸せが、あったかもしれない。

 でも、現実はそうじゃない。そうはならなかったのだ。

 

「じゃ、私先に戻るね」

 

 これ以上この事を考えていると、気が滅入りそうになる。だから、さっさと会話を切り上げて帰ろう。そしてレネは、そのまま更衣室に向かう。

 

「ままならんな、この世界は…」

 

 残されたサビーナは、1人静かに呟く。

 

 

 

「着いたねー」

 

「あまり人いないね」

 

「ま、今日休みだしね」

 

 それから2人は、シャトルに乗って学園に戻ってきた。尚、ミオリネ達やシャディク達はかち合ったら面倒な事になると思ったので、少し遅れたシャトルに乗って帰るつもりだ。門限ギリギリになるだろうが、多分大丈夫だろう。

 

「じゃ、今日は楽しかったよ。また機会があればどっかに行こう?」

 

「機会が会えばいいよ」

 

 次の約束をするが、レネはこの約束が絶対に叶わないとわかっている。未練がましいと思うが、それでも言わずにはいられなかった。

 

「じゃあね」

 

「うん」

 

 そしてレネは、そのままグラスレー寮に帰ろうとした。しかし直ぐに足を止めて、三日月に振り返る。

 

「?」

 

 突然レネが振り返った事に、三日月は疑問を受かべた。だが次の瞬間、レネが三日月の元へ走ってきて、

 

「ん」

 

 そのまま、三日月の顔を両手で掴んでキスをした。

 

「は?」

 

「今度こそ!じゃあね!!」

 

 そして今度こそ、グラスレー寮に向って走り出す。

 

「何で?」

 

 1人残された三日月は、ついそう口にする。少し前に自分もニカにキスをしたが、あの時とは少し違う感情だ。

 

 何と言うか、嬉しいと思っている。レネにキスされて、嬉しいと感じているみたいなのだ。

 

「何でだろう?」

 

 でも三日月は、その気持ちに答えが出せない。そしてそのまま暫く、そこで考えるのであった。

 

(はは、しちゃった。三日月にキスしちゃった…!)

 

 一方寮に向って走っているレネは、とても嬉しそうに、同時に悲しそうにしていた。本当ならこんな事する資格無いのだが、それでも自分の欲を押さえる事が出来なかった。

 一緒に遊んで思い出だけじゃなく、あとひとつだけ何かが欲しかった。その欲望を、キスで果たしたのである。

 更に意外な事に、さっきのがレネのファーストキスでもある。初めてというのは、とても記憶に残りやすい。事実、ニカがそうであるように。

 

(これがあれば、もう大丈夫。うん、大丈夫)

 

 自分は三日月と結ばれない。それはとっても嫌な事。でも、これだけの思いでがあればもう大丈夫だ。キスだってできたし、これでもう憂いなく行ける。

 

(さようなら、三日月・オーガス。私に、本気の恋をさせてくれて、ありがと…)

 

 レネは三日月にそんな感謝の言葉を送りながら、寮へと戻る。多分寮の自分の部屋に戻ったら少し泣くだろうが、問題無い。この思いでを糧に、生きて行こう。

 

 こうして、レネの本気の恋は終わりを迎えたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ

 

「あの、ミオリネさん…これって成績に影響出ますかね?」

 

「ちゃんと反省文書いて提出すれば、多分問題無いわよ…」

 

「私、反省文なんて初めてだよ」

 

「俺もだよ。さっさと書いて寮に戻ろう」

 

「あーもう!やっぱり納得いかない!そもそもあのシャトルのエンジントラブルのせいじゃない!何でそんなどうしようもない事で私達が反省文書かないといけないのよ!!」

 

「み、ミオリネさん!落ち着いてください!!」

 

「こらそこ!言い訳しないでさっさと書きなさい!!」

 

 ミオリネ達は現在、反省文を書いていた。本当だったらちゃんと門限に間に合う筈だったのに、帰りのシャトルがエンジントラブルを起こして帰宅時間がズレたのだ。結果的に門限を過ぎてしまい、今こうして反省文を書かされている。

 

 因みにシャディクとサビーナは、隠れて帰ったのでバレずにすんでいる。

 

 

 

 

 




 因みにこの頃、ボブは地球で死んだ目で捕虜になっています。

 なんか今回、ちょっと三日月らしくないかも?本当にこの子書くの難しいです。あとどうしても、語尾に?が多くなってしまう。
 そしてレネとニカは、2人とも罪悪感があるので三日月とは一緒になれないって感じです。今後の展開次第では、どうにかなるかもだけどね。

 どこかおかしいところ、矛盾している箇所があれば言ってください。修正しますので。

 次回はソフィとノレアが再び登場予定。それでは、またね。

もし三日月と結ばれるのなら

  • ニカ
  • レネ
  • 両方!
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