悪魔と魔女の物語   作:ゾキラファス

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 お久しぶりです。前回から大体2ヶ月くらいですね。もうひとつの作品の方を書いていたり、超かぐや姫やエトワール観に行っていたらすっかり遅くなってしまいました。申し訳ありません。

 今回から、ソフィとノレア再び登場です。同時に、色々と不穏な影もチラホラと。

 それでは、どうぞです。


怪しい編入生

 

 

 

 

 

 高速輸送船 ガランシェール

 

「いやー、流石に早いっすねこの船は」

 

「そうね。とても良い船だわ」

 

 ガランシェールの艦橋で、タギングとバッチが船についての会話をしている。この船は、彼女らの主人であるシクラーゼが用意したかなり特別な船だ。

 全長およそ150メートルの小さめの船ではあるが、モビルスーツを4機も詰めるし、足も速い。艦橋や居住区画も広く、ストレス無く過ごせる事が出来る上、何より無補給で地球から木星の距離を往復航行できるという驚きの性能を持っている。この船であれば、地球圏全域を好きなように航行可能なのだ。

 

「到着予定はいつになる?」

 

「えっと、何事も無ければ4日後ですね」

 

「そうか。やはりこの船を選んで正解だった」

 

「そうですね。通常なら半月はかかるでしょうし」

 

 艦橋の船長席にはシクラーゼが座り、今後の予定をタギングに尋ねる。現在この3人は、とある場所に向って航行中だ。それは、長年シクラーゼが探していた場所である。

 そしてその場所を発見できたのは、シャディクのおかげだ。彼が地球で天使を見つけてくれたおかげで、その死体から情報を抜き出す事に成功。その情報を解析した結果、シクラーゼは探していた場所を見つける事が出来たのである。

 

「にしても、改めて見ると、これは確かに地図が無いとわからないっすねー」

 

「確かにそうね。この広い宇宙で、こんな場所を見つけるなんて、よっぽど運がよくないと無理だろうし」

 

 そしてその場所は、なんとアステロイドベルトの中。言ってしまえば、大量の隕石群の中にあるのだ。火星と木星の間にある小惑星群こと、アステロイドベルト。ここには、数えきれないくらいの岩石が大量にある場所である。元々広いこの宇宙で、そんな岩石しかない場所を探そうなんて普通は出来ない。何より、あまりに危険でそんな事誰もしない。

 だが今のシクラーゼには、座標データがある。これさえあれば、迷う事も無い。目的地まで一直線だ。

 

「しかしご主人様。会社の重役だけじゃなく、議会連合にも協力させるなんて凄いっすね~」

 

 タギングがシクラーゼに言う。彼女の言う通り、今回の件はシクラーゼが所属しているオムデン・コロニー・カンパニーだけの協力じゃない。なんと、議会連合も今回の件に関わっているのだ。

 いくらシクラーゼが色々と動いているといっても、1人で出来る事には限界がある。そこで彼は、先ずオムデンの重役達に『地球圏のトップに立てる兵器』の情報を公開し、更にそこから議会連合の1部役人達にもその情報を公開。

 結果、彼らはそれに目が眩み、シクラーゼに惜しみない協力を約束したのだ。このガランシェールだって、議会連合から渡された船である。当然、自分達の会話が盗み聞きされないよう盗聴機器類のチェックはしてある。

 

「上の連中は、利益しか見えていないからな。それに議会連合に関しては、自分達こそ平和の守護者なんて本気で考えている間抜けの集まりだ。そんな輩には、圧倒的な力を手にできるという情報を渡せば、バカみたいに喜んで協力をする」

 

「ですが、実際にはあの力を渡す気はない、ですね?」

 

「当然だ。そもそもあんな連中には扱えんよ、あの力は」

 

 議会連合は、一応地球圏の平和を維持しているような組織ではある。しかし、そもそも戦争シェアリングを黙認している時点で、彼らに平和を訴える資格なんてない。それに、現在秘密裏にあんな物を建造している連中だ。そんな輩があれを手にしたら、それこそ300年前のような戦争が起きるかもしれない。

 だからこそ、彼らには渡さない。せいぜい最後まで、利用させてもらうとしよう。

 

「俺は先に寝る。お前達も適度に休めよ」

 

「わかりました!!」

 

「了解です。ご主人様」

 

 まだまだ到着まで時間がある。なのでシクラーゼは、今の内にしっかりと休む事にした。自分の仕事は、目的地に着いてからだ。それまでは、しっかりと体力を温存しておこう。

 

(だが、まだ油断は出来ない…そこにあるかどうかは、この目で調べないとわからないのだから)

 

 しかし、そこに自分の目的の物があるかはわからない。もしかすると、既に機能を停止しているかもしれない。だが結局、それもいかないとわからないので、このまま進むしかない。

 

(父さん、母さん。コウゾウさん、そしてノートレット。どうかあの世で見守っていてくれ。俺が、本当の自由と平和をこの宇宙に築くところを)

 

 シクラーゼは、既に亡くなった自分の大切な人達に祈るように言う。全ては、本当の自由と平和を手にするために。

 

 

 

 

 

 アスティカシア学園 地球寮

 

「はぁ…」

 

 放課後のモビルスーツハンガーで、ニカは整備道具の整理をしていた。しかし、その顔は随分と疲れているように見える。おまけにその速度も遅い。以前のニカならもっと早く整理できていただろうに、30分経ってもまだ半分も終わっていない状態だ。

 

(どうしよう…)

 

 原因は、三日月だ。今のニカは、もうずっと三日月を意識している。

レネと三日月が水着デートに行ってから、それは酷くなっていた。なんせ目を合わせるだけで胸がドキドキとうるさく、顔が熱くなる。

 更に授業中も、三日月の事ばかり考えてしまう始末。おかげで最近の授業の中身が、まるで頭に入って来ない。完全に恋の病状態だ。

 

(私に、そんな資格なんて無いのに…)

 

 これがもし普通の学生だったら、ニカもこんなに悩んだりしない。リリッケ辺りに相談して、背中を押されて告白とかして、それが受け入れられて三日月と付き合って、学生らしい明るい幸せな青春を送る事も出来たかもしれない。

 しかし、ニカは普通の学生じゃない。シャディクの仲間で、バルバトスやエアリアルの情報を渡しているスパイだ。そんな地球寮を裏切っている自分が、三日月に恋をした。こんな事、許される訳が無い。

 

(私って、本当に最低だな…)

 

 三日月や皆を裏切っている自分が、この恋を成就なんて絶対にダメだ。でも三日月への想いは、日に日に大きくなっているのが現状。初めての経験で、胸が苦しい。どうすればいいのか、自分じゃよくわからない。

 こんな事なら、人並みに恋ぐらいしておけばよかった。最も、ニカはそんな暇なんて無い人生を送っていたので、それは無理な話なのだが。

 

「何してんの?」

 

「っ!?み、三日月くん!?」

 

 そうやってため息をつきながら過ごしていると、後ろから三日月が声をかけてきた。ジャージ姿で少し汗をかいているので、恐らくジョギングから戻って来たのだろう。

 

「え、えっと、整備道具の整理してて…」

 

 ニカは三日月から少し目を反らしながら答える。今は、まともに顔を見れそうにないからだ。

 

「…もしかしてさ、ニカって最近体調悪かったりする?」

 

「え?」

 

 そんなニカに、三日月はそう尋ねる。

 

「オジェロも言ってたけど、最近ずっと授業中も上の空なんでしょ?お昼も皆と一緒じゃなく1人でどっか行ってるみたいだし、どっか悪いの?」

 

「えーっと…」

 

 三日月に体調の心配をされるが、言えない。言える訳がない。貴方の事を思うと胸が苦しくなっていますなんて、絶対に言えない。そんな事口にしたら、顔から火が出そうである。

 

「えっとね、実は最近少し悩んでる事があって…ずっとその事を考えちゃうんだ。だから体調とかは大丈夫だよ?」

 

 なのでニカは、そう誤魔化す事にした。嘘は言っていないので、そこまで罪悪感も無い。

 

「そっか。だったら俺に話してみる?悩みって人に話すだけでも楽になるって言うし、俺で良かったら聞くよ?」

 

「……」

 

 三日月が善意で言ってくれているのはわかっているが、その悩みの種に言われても相談なんて出来る訳無い。

 

「…ちょっとだけ時間頂戴?その、色々と整理つけたいから」

 

「わかった」

 

 そしてニカは未来の自分が何とかしてくれる事を信じて、その場はそう言って誤魔化した。問題の先送りとも言うが。

 

「ハッシュさん。ありがとうございます」

 

「いいえ。これが俺の今の仕事なんで」

 

 そうしていると、声が聞こえた。三日月とニカが振り返ると、そこにはバケツを持った

スレッタとハッシュがいた。多分、地球寮で飼っている動物達の世話を終えた後なのだろう。

 

「お疲れスレッタ」

 

「うん。三日月もジョギングお疲れ。もう体はいいの?」

 

「うん。体のバランスもちゃんと取れるし、もう問題は無いかな」

 

「そっか。よかった」

 

 既に三日月の腕には、それまであったギプスもアームカバーも無い。ようやく腕の感触が無い事に慣れて、普通に生活が出来るまでになった。そして事情を知らない周りの生徒には、これで腕の怪我が完治したと思われるだろう。

 

「お前、ちゃんとサボらずやってるんだな」

 

「そりゃまぁ…これをもしサボったりしたら、それこそ自分が許せないし、うちの寮にも迷惑かけるし…」

 

 今度はハッシュに話しかける三日月。てっきり嫌になって逃げだすかと思ったが、彼は今のところちゃんと動物達の世話をしてくれている。おかげで少しだけ、三日月は彼を見直した。

 

「あと、もしサボったら…あのピンク頭に何されるか…」

 

 尚ハッシュがちゃんと仕事をしている理由のひとつに、チュチュが怖いからというのがある。

少しでもミスをすれば、容赦の無い言葉と拳が飛んでくる。最初こそ抵抗したが、普通にチュチュの方が喧嘩が強かったのでハッシュはボコられた。

 そして今ではすっかり、ハッシュはチュチュの子分のような立場になってしまったのだ。故に逃げ出せない。逃げたら多分殺されるから。

 

「まぁ、頑張れよ」

 

「うっす…」

 

 この期に、もっとちゃんと自分を鍛えなおそう。ハッシュはそう思い、今日帰ったらジョギングをする事に決めた。後ついでに、格闘技も習ってみようとかも考える。

 

「そういえば、今日ミオリネは?見てないけど」

 

 三日月はハッシュから視線を外し、再びスレッタに話しかける。彼の言う通り、今日1日ずっとミオリネを見ていない。婚約者であるスレッタなら、彼女の事を知っているだろう。

 

「あ、ミオリネさんなら今日は病院だよ」

 

「病院?どっか悪いの?」

 

「違う違う。今日はデリング総裁のお見舞いだよ。まだ退院まで少し時間かかるみたいだけど、会える内に会った方がいいからって」

 

 あのプラント・クエタの事件で、大勢の職員が死んだ。そしてデリングも、一歩間違えば死んでいたかもしれない。そういう経験をしたおかげか、ミオリネは時間が出来たらデリングと会うようにしたのだ。

 母親も、ミオリネが幼い事に死んでしまっている。もっとずっと一緒に居れらると思っていたのに、ある日あっけなく死んだ。もしかすると、父親もそうなるかもしれない。

 だからミオリネは、正直まだ父親の事は嫌いだけど、それでも会える時に会う事にしたのだ。人は、あっけなく死ぬ。

 そして自分の身近な人が死んだとき、もっと会えば良かったと後悔するのだ。そういう意味でも、ミオリネの行動は良いだろう。最も、デリングからは必要無いと言われているのだが。

 

「そっか。いいと思うよ。俺の親も、突然死んだしね」

 

「うん。そうだね」

 

 そのミオリネの行動に、誰もケチなんてつけない。これにケチつけるやつがいるとすれば、それはもう人でなしだろう。

 

「じゃ、俺はこれ片付けて自分の寮に戻ります」

 

「はい、お疲れ様です、ハッシュさん」

 

 そう言うとハッシュは、バケツを持って歩きだす。

 

「あ!いたーー!」

 

『ん?』

 

 その時、声が聞こえた。4人が声のした方を向くと、そこには見知らぬ生徒が2人立っていた。

 

「お兄ちゃん、見~つけた!」

 

 そしてその内の1人は、こちらに近づいたと同時に、三日月に思いっきり抱き着いてきたのである。

 

「会いたかったよ、三日月お兄ちゃん!」

 

「…誰お前?いや、この声どっかで…」

 

「え?私達は初対面だよ?」

 

「三日月、妹いたの?」

 

「いや、いないけど」

 

「だ、誰?」

 

「え?地球寮の生徒じゃ無いんすか?」

 

 突然の謎の来訪者の行動に、全員が首を傾げる。

 

 

 

 ムラサメ病院

 

「……」

 

「……」

 

 ムラサメ病院内で1番広々としている病室で、ミオリネは父デリングと一緒にいた。だが、2人の間に会話は無い。デリングは黙ったままタブレット端末を見ているし、ミオリネはその直ぐ傍の椅子に座って本を読んでいる。

 

(何か喋ってよ…そうすればそこから会話が広がるのに…)

 

(何か喋れ…でないと会話にならんだろう…)

 

 そしてこの2人は、全く同じことを考えていた。要するに、自分から何を話せばいいかわからないのだ。なので自分は待ちに徹しているのだが、相手も待ちに徹しているので会話にならない。本当に、似た物親子である。

 

(それにしても、ノートレットに似てきたな…)

 

 デリングはふと、ミオリネを見る。まだ幼さが少し残るが、亡くなった妻に随分と似てきた。そして、娘の妻の面影を見たデリングは思い出す。

 

『貴方ももう父親なんだから、偶にはこの子とお話してあげてね。ずっと仕事ばかりじゃ、いつかこの子グレちゃうわよ?』

 

『……努力はしよう』

 

 仕事を終えて帰宅し、まだ幼かったミオリネがノートレットの膝の上で寝ている時の事。妻と2人で軽い晩酌をしていたら、そう言われた。

 だが結局、それから間もなく妻は死に、デリングはその辛さを忘れるように仕事に没頭。

 

 いや、正確に言えばミオリネから逃げたのだ。

 

 デリングは勿論、ミオリネを大切に思っている。しかし人とのコミュニケーションが相当に不器用なデリングは、ミオリネとどう接すればいいかよくわからない。

 だからせめて、ミオリネの安全を守る為に様々な事をしてきた。例えミオリネから罵詈雑言を言われても、それがミオリネの為になると信じて。学園で行われている決闘も、そのひとつだ。

 しかし今、妻ノートレットから言われた事を思い出し、デリングは少しだけ娘ミオリネに歩みよる事にした。

 

「……最近、会社の方はどうだ?」

 

「……今はまだ営業許可が下りてないから、止まったままよ。ランブルリングがある日には許可が下りる筈だから、それまでは色々やってる」

 

「そうか…」

 

「ええ…」

 

「……」

 

「……」

 

 何とか会話をしたと思ったら、これだ。母親であるノートレットが生きていた頃は、まだちゃんと会話があった。彼女が死んで以来、殆どまともに会話なんてしていない。その結果、お互いコミュニケーションの取り方がわからないでいる。

 この場にスレッタがいれば、ノートレットの変わりに良い潤滑剤となって2人の間を取り持ってくれただろう。でもそのスレッタもこの場にはいないから、自分達でどうにかするしかない。

 

「私は、もう直ぐ退院できる。だからもう来なくてもいいぞ」

 

「私が来たくて来てるんだから別にいいでしょ」

 

 これはミオリネの本心だ。それをデリングも感じ取れたのか、それ以上は何も言わない。

 

「ランブルリング、参加するのだな?」

 

「スレッタはホルダーだしね。それに、三日月もやる気十分だもの。既に学園最強の名を持ってはいるけど、それはそれとして良い宣伝になるし、参加しない理由にはならないわよ」

 

 学園最強と最恐。既にスレッタと三日月のモビルスーツパイロットとしての腕は、誰もが認めている。

 しかし、ここでもっと活躍すればより良い宣伝になる筈だ。そもそも三日月も乗り気なので、参加しない理由も無いし。

 

「そうか。私は直接会場には行けないが、見とくとしよう」

 

「そ。じゃあ、地球寮が優勝するところをちゃんと見ててよね」

 

「ああ」

 

 何とか会話の糸口を見つけて、会話を試みるデリング。それに対してミオリネも、その会話を拒否する事無く続ける。そして気がつけば、2人の間にはちゃんと会話が続けられていた。

 

「ところで、例の食事会はどうするの?」

 

「まだ暫くは医者が用意した食事しか食べれないから、もう少し回復してからになるな」

 

「そりゃそうよね。何が食べないとかある?」

 

「私は特にこだわりは無い。それより、スレッタ・マーキュリーの好物を主軸に店を選ぶべきだろう」

 

「……あの子、基本何でも食べるのよね。好物って何かしら?」

 

 多分スレッタの今の好物は、トマトだろう。それもミオリネが作ったトマト。だったらいっそ、ミオリネが手料理を作ってそれを皆で食べるのもありかもしれない。問題があるとすれば、ミオリネは料理ができない事だが。

 

「じゃあ、そろそろシャトルの時間だから私帰るわね」

 

「ああ」

 

「ちゃんと元気になってよね。その、まだ経営の事とかで教わりたい事あるし」

 

「…ああ」

 

 そう言うとミオリネは、椅子から立ち上がって学園に帰る。耳が少し赤いのは、多分気のせいじゃないだろう。

 

「……ミオリネ」

 

「何よ」

 

「……いや、何でも無い。気をつけて帰れよ」

 

「……うん」

 

 病室から退室する直前、デリングがそう言うと、ミオリネは本当に僅かに嬉しそうにする。そしてミオリネは、そのまま病室から退室して学園行のシャトルへ乗る為歩き出す。

 

「ん?」

 

 その道中、ミオリネの端末が鳴る。画面を確認すると、相手はアリヤだった。

 

「もしもし?何かあった?」

 

『あーうん、ちょっと聞いておきたい事がね』

 

 もしかすると、株式会社ガンダム関係で何かあったのかもしれない。ミオリネは少し身構えながら、アリヤの言葉を待つ。

 

 

 

『なんか、地球寮に三日月を兄って呼ぶ入寮希望の子がいるんだけど、ミオリネ何か知ってる?』

 

「は?」

 

 

 

 でもアリヤの口から出たのは、想像とは全然違う予想外の事であった。

 

 

 

 アスティカシア学園 地球寮

 

 謎の来訪者の正体は、ノレア・デュノクとソフィ・プロメ。随分と妙な時期に編入してきた、パイロット科1年のアーシアンだった。そして現在、地球寮の談話室ではその話題で持ち切り。

 

「会社名は、イオタ工業ね」

 

「グループでも相当下の会社だな」

 

 オジェロとヌーノが会社名を検索してみると、しっかりと存在する地球の小さな会社だった。だが会社のランクは、なんとスレッタのシン・セーより下である。

 

「にしても、マジで妙な時期の編入だな?」

 

 オジェロが談話室の椅子に座っているノレアを見ながら訪ねる。確かに、かなり妙な時期だ。スレッタでさえ少し遅れての編入だったのに、ソフィとノレアはもっと遅い。

 

「例の、株式会社ガンダムの映像を見まして。それで一念発起して編入を決めました」

 

「マジか。あれでかよ」

 

 オジェロに対して、ノレアは答える。その答えを聞いた談話室にいた地球寮の皆は、一斉の明るい顔をする。普段よほどの事が無いと来ない入寮希望の編入生。

 それが2人も来てくれた上に、そのきっけかは自分達が作った株式会社ガンダムの映像。これは嬉しい。

 

「つーか、パイロット科なら自分のモビルスーツがあるだろ?それはどこだよ?」

 

 チュチュの言う通り、パイロット科であれば自前のモビルスーツは必須。しかしノレアもソフィも、モビルスーツを持ってきているように見えない。

 

「少し到着に時間がかかってまして。もう数日すればこちらに届くと思います」

 

「ほーん。そっか」

 

 でも理由は単純で、まだ学園に到着していないだけ。そういう事もあるかと思い、チュチュは納得する。

 

「いいんじゃないかい?仲間が増える事は良い事だし」

 

「何でてめぇはここにいるんだよ!!自分の寮に帰れよ!!」

 

「いや、俺も同じ会社の仲間でしょ?プラント・クエタでは仲間外れにされたけど」

 

 そうやってチュチュが食ってかかる相手は、エランだ。確かに彼はミオリネに雇われている状態。仲間と言えば、仲間だろう。

 

「あーしはまだ認めてねーからな」

 

「でも社長が認めてるんだよ?冷たい事言わないで欲しいな」

 

「ぐっ!」

 

 そう言われると、あまり強く言えない。チュチュはふてくされたような顔をして、そっぽを向く。

 

(それにしても、スレッタ・マーキュリーはいないか…折角彼の目を盗んできたのに…)

 

 無論エランが、仲間意識でこの場にいる訳ではない。ペイル社からの命令で、早めにスレッタと仲良くならないといけない。

 でも基本、スレッタの傍には三日月がいる。彼の偽物と本物を瞬時に見抜く目は脅威以外の何物でもない。なので彼の目を盗んで接触しないといけないのだが、これが中々難しい。今日は何とかここまでこれたが、その肝心のスレッタがいないのでとんだ無駄足だった。

 

(ま、切り替えて行こう。まだチャンスはあるさ)

 

 だがまだ時間切れではない。これからは、可能な限りスレッタと接触するよう行動しよう。

 

「アーシアンならうちは大歓迎だよ。寮生が増えるのは良い事だしね」

 

「そうですか。では、よろしくお願いします」

 

 マルタンにとって、同じ寮の生徒が増える事に対して断る理由は何も無い。むしろ歓迎すべきことだ。ただでさえ、地球寮は人数が少ないのだ。それが2人も増えるなんて、素直に嬉しい。

 

「というか、既に荷物持ち込んでるしね…」

 

「ソフィがすみません。勝手に」

 

「いやいや!別に責めてないからね!?」

 

 しかし実は、既にソフィが自分の荷物を寮内の部屋に沢山持ち込んでいるのだ。まるで最初から、地球寮の意見なんて聞く気の無い感じで。

 

「あ、あのー…」

 

 そこに、ソフィを部屋まで案内していたリリッケが戻って来た。

 

「リリッケ?どうかした?」

 

「すみません。誰か助けて下さい」

 

「え?」

 

 そして、談話室にいる皆に助けを求めてきた。

 

 

 

「ソフィさんが、三日月先輩と一緒のベットで寝るっていって聞かないんです」

 

『はい?』

 

 

 

 地球寮 男子部屋

 

「えー!なんでー!?」

 

「いや何でって言われても、それが普通だしなぁ…」

 

「でも家族は一緒に寝るもんでしょ!?」

 

「それはそうかもだが…」

 

 男子部屋で、ソフィは駄々を捏ねていた。最初はスレッタとリリッケに案内されて女子部屋に行っていたのだが、ソフィは三日月と一緒が良いと言って、勝手に男子部屋に行って自分の荷物の荷ほどきを始めたのである。

 おまけによる寝る時は、三日月と一緒が良いと言い出す。しかし、そんな事が許される訳が無い。もう子供じゃないのだから。

 

「俺は別にいいけど」

 

「いや三日月。お前が良くてもダメだからな?」

 

「そうなの?水星にいる時は、スレッタと一緒に寝たりしてたけど」

 

「……それいつの話だ?」

 

「去年とか」

 

「マジかよ」

 

 昭弘も弟と一緒のベットで寝た事はあるが、それは小さい頃の話。今はそんな事しない。

 

「スレッタてさ、人を抱き枕みたいにするんだよね。偶に胸とか当たって息苦しい時があって」

 

「三日月?今すぐその口を閉じて?」

 

「わかった」

 

 笑っているのに笑っていないスレッタに言われ、三日月は速攻で口を閉じた。

 

「えっとソフィさん。とりあえずそういうのはダメなので、私達と同じ女子部屋で我慢してください」

 

「やだー!お兄ちゃんと一緒がいいー!!」

 

「いやそう言われましても…あと何で三日月をお兄ちゃんって」

 

 スレッタが何とか説得を試みるが、ソフィは聞く耳を持たない。

 

「こらソフィ」

 

「あた」

 

 そこに、ノレアがやって来てソフィの頭を軽く叩く。

 

「あんまり騒いだらダメでしょ。これ以上騒いだりしたら、追い出されるかもよ?」

 

「ちぇー。わかったよ」

 

 本当なら自分の思い通りにしたいソフィだが、ここでこれ以上騒ぎを起こすと自分の本当にやりたい事が出来そうにないので、今回は我慢する事にした。

 

「あ!じゃあさ!明日お兄ちゃんが学園を案内してよ!」

 

 でもそれなら、別のお願いをするだけだ。これくらいは許してくれないと、納得できない。

 

「それならいいよ」

 

「やった!じゃあ明日はよろしくね!」

 

 三日月も、それを断る事はしない。なんでソフィが自分を兄と呼ぶのかは知らないが、学園内を案内するくらいは普通にしよう。

 

「……ところでさ、何で俺の事をお兄ちゃんとか呼ぶの?」

 

「?お兄ちゃんはお兄ちゃんだからだよ?」

 

「?」

 

「?」

 

 尚結局、ソフィが三日月を兄と呼ぶ理由はわからずじまいであった。

 

「……」

 

 そしてノレアは、そんな三日月を静かに見つめる。心の奥底に、殺意を隠した状態で。

 

「……」

 

 同時に、そんなノレアをニカは黙って見つめる。まるで、観察するように。

 

 

 

 翌日

 

「ねぇねぇ!あれは何!?」

 

「デミトレーナー。授業で使うモビルスーツだよ」

 

「へぇ。私も乗っていいかな?」

 

「多分ダメだと思う。許可とか色々あるし」

 

「えー。そんなもの無視していいじゃん」

 

「ここはそういうのダメなところだから」

 

「ケチー」

 

 三日月は、約束通りソフィを連れて学園内を案内しながら歩いていた。ソフィは学園内の全てに目を輝かせ、興味が尽きない顔をする。そんなソフィを、三日月は逸れないようにがっちりと手を掴んで共に歩く。一部の生徒や教員からは、微笑ましい物を見ている顔をされるが、一部の生徒からは嫉妬の眼差しをもらっている。

 

「やっぱり、怪しい気がする…」

 

 そんな三日月とソフィを、ミオリネは少し離れた場所から不思議そうに見ていた。だって、いくら例のPVを見たからと言っても、こんな時期に編入なんて妙なのだ。もしかすると、エアリアルとバルバトスの事を調べにきたスパイかもしれない。

 そう思ったミオリネは、1度ソフィとノレアが所属している会社を調べてみた。その結果は、白。会社はダミー会社ではなくちゃんとあるし、その会社の社長に連絡も取れた。

 そして突然の編入に関しては、昨日ノレアが言った通りで、本人達がやる気を出しているからとの事。だからかなり無理をして、編入させたらしい。

 

「でもミオリネさん。調べた限りは問題無かったんですよね?」

 

「そうだけど、用心するに越した事は無いでしょ?ただでさえ地球寮には、ガンダムフレームっていう超希少なモビルスーツがあるのよ?だから石橋を叩くべきなのよ。徹底的にね」

 

「叩きすぎると壊れそうですけど」

 

「その時はその時よ」

 

 でも、やっぱり油断はできない。なので警戒だけは怠らない。万が一の時、油断していたら最悪の事になるかもしれないのだから。

 

「いや社長?それだと本末転倒になるよ?」

 

「黙ってなさいエラン」

 

「ひどいなぁ。ねぇスレッタ・マーキュリー。少し傷ついたから慰めてくれないか?例えば、今日の放課後にデートとか」

 

「ふえ!?」

 

「ちょっと?そういうのはせめて私がいないところでしてくれない?」

 

 しれっとスレッタの隣にいるエランが、そんな軽口を叩きながらデートに誘う。

 

「え、えっと!今はちょっと…ランブルリングの用意とかありますし」

 

「ありゃ。フラれちゃったよ。残念」

 

 しかし、残念ながらスレッタに拒否される。今は色々と忙しい時期なのだ。デートにうつつを抜かしている場合じゃない。それに、ミオリネが目の前にいるのにデートのお誘いを受ける事は流石にしたくない。

 

「何度も言ってますけど、私達はこの学園に学びに来てるんです。そこまで警戒しないでください」

 

 そんな中、メモ帳とペンを持ったノレアが口を開く。確かに妙な時期の編入生ではあるが、あくまでそれだけというのが彼女の言い分だ。

 

「悪いとは思ってるわ。でも、うちで扱っている物が物だから我慢して頂戴」

 

「そうですか。まぁ、いいですけど」

 

 ミオリネも、好き好んで疑っている理由では無い。しかし、地球寮にある物が物なのだ。少し神経質になるのも、仕方がない。

 

「あと、他の寮と問題は起こさないでよね?ただでさえ三日月のせいで色々と言われてるんだから」

 

「別に喧嘩なんてしませんよ」

 

 ここで他の寮と騒ぎになったら、本当に面倒な事になりかねない。今はランブルリング前で、色々とピリピリしているのだ。下手に騒ぎを起こすと、ランブルリングの参加を取り消されるかもしれない。それは困る。なのでこうして一応釘を指しておく。

 

「それにしても、ここは素晴らしいところですね」

 

 そんな釘を刺されたノレアが、学園内を見渡しながらそんな感想を口にする。

 

「循環された綺麗な空気。鮮やかさ空、瑞々しい緑。そして何より、皆笑顔で楽しそうだ。地球では見ない光景ばかりです」

 

「あ、わかります。私も最初学校に来た時、凄いなって思いましたし。ここは、本当に凄く良い場所ですよね」

 

「……ええ、そうですね」

 

 ノレアの感想に、スレッタが同意する。辺境である水星では、決してこんな光景は見れなかった。そしてそれは、アーシアンであるノレアも同じなのだろう。

 

(本当に、反吐が出る…)

 

 だが、実際はそんな事無い。むしろノレアは今、学園の人間全員皆殺しにしてやりたい気分なのだ。

 

 自分達は、毎日毎日必死になって生きている。食料どころか、水さえまともに飲めない日だってある。そして誰もが、こんな笑顔でなんて過ごしていない。長い間ずっと苦しんでいる自分達アーシアンと、楽園のようなコロニーで過ごすスペーシアン。こんなの、不公平にもほどがある。

 

(でも焦るな…今焦って行動を起こしたら、何もかも無意味になる)

 

 だが、焦って攻撃なんてしてはいけない。そもそもまだモビルスーツが用意されてないし、プリンスから聞いた例の兵器もまだ学園に到着していないのだ。今自分が怒りに任せて行動を起こしても、特に何もできず拘束されるのがオチだろう。

 だから、今は何もしない。でも時がくれば、思う存分するとしよう。

 

(ふむ…案外この子とは気が合うかもね)

 

 そんなノレアを見て、エランこと強化人士5号は、その内情を読み取り、自分と気が合いそうなんて思ったりした。

 

 

 

 それからも、三日月はソフィと共に学校で行動をした。

 

「ねぇねぇお兄ちゃん!これ何!?すっごい美味しいんだけど!!」

 

「唐揚げってやつ。鶏肉を油で揚げた食べ物だよ」

 

「へー。地球じゃ先ず食べれないねこれ!おかわりしてきていい?」

 

「別にいいよ」

 

「やったー!」

 

 食堂では、初めて食べる唐揚げをソフィが気にいり、3回もおかわりをした。因みに代金は、三日月持ちである。

 

「あれは何してるの?」

 

「多分メカニック科の授業。俺も詳しくは知らない」

 

「そっか。お兄ちゃんも知らない事あるんだね」

 

「そりゃあるよ。俺はモビルスーツ動かすくらいしかできないしね」

 

 昼食後、メカニック科が授業をしているのを遠目から見学した。

 

「これ、欲しい。貰ってもいいかな?」

 

「あ、あの…これは僕のハロなんで…ちょっと…」

 

「あっちの購買部に売ってるから、それならいいよ」

 

「本当!じゃあ早く行こ!!」

 

 偶然通りかかったロウジのハロをソフィが気に入り、そのまま自分の物にしようとしたのを阻止したりもした。

 

 そんな感じで、割と普通に楽しげに過ごす2人であった。

 

 

 

「シャディク。あれは目立ち過ぎじゃないか?」

 

「確かに目立ってるかもしれないけど、まだモビルスーツも無いから騒ぎを起こす事は無いさ。そこまでバカじゃ無いだろうし」

 

「……」

 

 そんな2人の様子を、遠目から見ている者達がいる。シャディクとサビーナ、そしてレネだ。

 

 実は今回地球寮にやってきた編入生のソフィとノレア。この2人の正体は、シャディクが手引したプラント・クエタを襲ったアーシアンのテロリストである。

 シャディクはとある目的のために、態々あの2人を学園まで手引した。グループ内で序列が低い企業を丸ごと個人資産で買い取って、念入りな偽装工作までしてである。これなら、そう簡単に2人の事がバレる事も無いだろう。

 しかし、ノレアはともかくソフィが目立つ。今日は朝からずっと、三日月と共に行動をしている。これがもしソフィが1人で学園内を散策しているだけなら良いのだが、三日月と一緒というのが面倒だ。

 なんせ三日月は、今アスティカシアで1番有名な生徒。伝説と言われたガンダムフレームに乗り、これまでの決闘は連戦連勝の無敗。現ホルダーであるスレッタとこそ戦っていないが、その実力は誰もが認めるもの。それ故に知名度も高い。

 結果として、大勢の生徒があの三日月と一緒にいるあの子は誰だと思い、注目を集めるようになってしまったのである。

 

「念入りに準備をしたのに、ああも目立ってはどこかで作戦が漏れるかもしれないぞ」

 

「サビーナの懸念はわかってる。でも、あの子らもプロだ。そんなヘマはしないさ」

 

「だといいがな」

 

「チッ……」

 

 確かに目立ってはいるが、それでもあの2人はプロだ。そんな子供みたいなヘマはしないだろう。そう信じたい。

 

「ところでレネ」

 

「何?シャディク」

 

「いや、さっきからすっごい不機嫌そうな顔してるけど、大丈夫か?」

 

「べっつにー」

 

「いやすっごい不機嫌じゃないか」

 

 そんな中、レネだけはすこぶる不機嫌な顔をしていた。ずっと貧乏ゆすりもしているし、時々舌打ちもしている。これで不機嫌じゃないは、嘘でしかない。

 

「お前まさか、嫉妬してるのか?」

 

「……そんなんじゃないし」

 

「嘘だろそれ」

 

 サビーナの一言で、レネはそっぽを向く。別に三日月がソフィにデレデレしている訳じゃないし、

ソフィも三日月に色目を使っている訳じゃない。

 でも、自分の好きな男が別の女と一緒に、それもずっといるのは腹が立つ。自分の恋は終わらせたつもりで、もう未練なんて無いと思っていたが、やはりムカツク。

 なんというか、自分は相当に未練がましい女だったのだなと、レネは思った。

 

「私、帰るね。これ以上見てると、なんか手が出そうだし」

 

「そうか。わかった」

 

 そう言うと、レネは帰って行く。

 

「あいつ、ランブルリング大丈夫か?」

 

「まぁ、いざとなったらレネは不参加にしよう。あの作戦は、絶対に失敗できないしね」

 

 今度のランブルリングで、シャディクはとある作戦を実行に移す。そしてその作戦には、レネも参加する予定だ。だが今のレネでは、少々不安が残る。もしランブルリング当日もあんな感じだったら、レネは作戦から外そう。

 

 

 

 放課後

 

「……」

 

 地球寮の皆がオープンキャンパスに向けて色々と準備をしている時、ニカは1人で秘匿回線を使って地球との連絡を終えていた。ニカは、あの2人がシャディクの寄越した人物という事は既に知っている。

 例の2人が所属している会社だが、ニカが独自に調べた結果、自分が学園に来た時と同じような情報改ざん跡があったからだ。どうして態々学園までやってきたかは知らないが、絶対に碌な事じゃない。

 ただでさえ、最近はプラント・クエタの事件があったばかり。もしあんな事が学園で起これば、被害は尋常では無いだろう。

 

(でも、どうやって止めれば…)

 

 あの2人が何かする前に止めたいが、戦闘訓練なんてしていないただの連絡係の自分では、何もできない。間違いなく、返り討ちにされるのがオチだ。

 

(だけど、このまま黙っている訳にも…)

 

 何も見なかった事にして、黙っている事はできない。だって、どうしようもなく嫌な予感がするからだ。だからなんとかしたいが、そのやり方がわからない。

 

「はぁ…」

 

 いつまでも、ここで悩んでいる訳にはいかない。ずっといないと、地球寮の皆に怪しまれるだろう。とりあえず1度、寮に戻ろう。

 そうして機材を片付けて部屋から外に出た時、

 

「何してるの?」

 

「み、三日月くん!?」

 

 そこには、三日月がいた。

 

「ど、どうしてここに?あの、ソフィさんは?」

 

「お風呂入るってさ。流石にそこには俺も行けないから。で、少し散歩しようかなって思ったら、さっきニカがここに入るの見てさ。気になってついてきたんだよね」

 

「あ、そうなんだ…」

 

 マズイ。これはマズイ。もし三日月に自分の事がバレたら、終わりだ。

 

(でも、もういいのかも…)

 

 しかし、ニカはもう疲れていた。ずっと皆を騙してて、心が傷まない訳がない。常にニカの精神は、すり減り続けている。もういっそ、ここで全部喋って楽になればいいのかもしれない。

 

「…ちょっとついてきて」

 

「え?」

 

「いいから」

 

「う、うん…」

 

 でもその前に、三日月にそう言われ、タイミングを失ったニカは、とりあえず三日月についていく事にした。そして2人が暫く歩くと、自販機のある場所までたどり着く。

 

「はい」

 

「え?あ、ありがとう…」

 

 三日月は自販機で温かいココア缶を買うと、それをニカに手渡す。ニカはそれを開けて、すぐ近くにあったベンチに座って飲む。

 

「美味しい…」

 

「良かった。俺もこれ好きだからさ」

 

 三日月も、自分用のココアを買って飲む。

 

「それで、何があったの?」

 

 そして、ニカに単刀直入に質問をしてきた。

 

「えっと、何がかな?」

 

「だってニカ、今朝からずっと思い詰めてる顔してるでしょ?あれ、何か悩みがある奴と同じ顔だった。何かあったんでしょ?」

 

 鋭い。流石三日月だ。

 

「俺で良かったらさ、話聞くよ。話せば少しは楽になるだろうしさ」

 

 人は、ストレスを溜め込み過ぎると体調を崩す。誰かに愚痴を言うだけでも、それが緩和されるので、三日月の言う通り、話すというのはかなり大事だったりするのだ。

 

「……ううん、大丈夫だよ。心配してくれて嬉しいけど、私は大丈夫だから」

 

 しかし、三日月に相談なんてできない。だって、自分は言ってしまえば敵なのだ。それに、自分がシャディクに情報を渡したせいで、三日月は右腕に障害が残ってしまっている。

 そんな事をしておいて、今更どんな顔して相談しろというのか。だから、相談なんてしない。いや、できない。

 

「でもさ」

 

「本当に大丈夫だから!!」

 

 なおもニカに尋ねる三日月に、ニカはつい語気を強くして喋ってしまう。

 

「…ごめん。突然大声出して」

 

「気にしてないからいいよ。俺こそ、しつこく聞いてごめん」

 

 善意で心配してくれる三日月に、とても失礼な態度を取ってしまっている。本当に、自分は最低だ。

 

「ううん、三日月くんは何も悪くないから。でもね、大丈夫。だから心配しないで。ちゃんと私が片付けるから」

 

「片付ける?」

 

「あ、何でも無いよ。それじゃ。ココア、ありがとう」

 

 そう言うとニカは、飲み終えた空き缶をゴミ箱に入れて足早にその場から立ち去る。同時に、覚悟を決めた。

 自分に何が出来るかわからないけど、もしあの2人がこの学園でプラント・クエタのような事をしようと考えているのなら、それを阻止する。最悪、自分がフロント管理社に自首しよう。そうすれば、自分の首を対価になんとかなる筈だ。

 

「……」

 

 三日月は、そんなニカの背中をじっと見る。ニカが見えなくなるまで、ずっと。

 

「……やっぱり、気になるな」

 

 そしてこっそりと、ニカのあとをついて行くのであった。

 

 

 

 アスティカシア学園 宇宙船ドック

 

「それで、どうだったのソフィ。例の三日月・オーガスは気に入った?」

 

「最っ高だったね。優しいし、面倒見良いし。是非本当のお兄ちゃんになってほしいよ。これも買って貰えたしね」

 

「ハロハロ」

 

 学園内の地球寮が使用している宇宙船ドックでは、ソフィとノレアが秘密の会話をしていた。因みにソフィが今持っているハロは、三日月に買ってもらった物である。

 

「でもさ、あの時の殺意は全然感じなかったんだよね。そこはちょっと残念かなー」

 

「まぁ、戦場じゃないし、それは仕方ないんじゃない?」

 

 流石の三日月も、日常的にあんな殺気は振りまいていない。そもそも本気の殺意は、あのプラント・クエタの時くらいだし。

 

「それで、どうするの?あのガンダム、壊す訳?」

 

 ソフィの視線の先には、ファラクトが鎮座している。ペイル本社工場で修理を終えて、最近学園に戻ってきたばかりだ。そして今、エランは株式会社ガンダムの雇われパイロットなので、こうして地球寮が所有しているドックに運び込まれている。

 

「できればそうしたいけど、やめとく。今は可能な限り騒ぎは起こしたくないし」

 

「そっか。ま、もう直ぐウルとソーンが届くし、それまでの辛抱だね」

 

「そうだね。その時は、思いっきり暴れよう」

 

「ふふ!その時は、また本気のお兄ちゃんとバルバトスと戦えるねー!今から楽しみだよ!」

 

 だが、まだ今は耐える時。本当なら今直ぐ壊したいが、それが原因で騒ぎになっても困る。だから、今はまだ耐える。

 

「本当なら、今のうちにバルバトスとエアリアルを壊したいけど、流石にあそこまで警備があるとね」

 

 「だねー。あれはちょっと無理だよー。オルコットがいればいけるかもだけど」

 

 2人の言う通り、バルバトスとエアリアルの警備はかなり厳重。下手に近づく事さえできない。力尽くでできないことも無いが、そうなっては後が面倒だ。だから、今はそっちも無視する。

 

「今直ぐここから出ていって!!」

 

 その時、反対側から声が聞こえた。2人が視線を向けると、そこには端末を持ったニカが立っていた。

 

「あなた達の今の会話、録音したから!流石にこれを聞かれたら、あなた達もマズイ筈でしょ!?今なら見逃すから、この学園から出ていって!!」

 

 ニカはそう言いながら、端末を掲げる。これが、ニカが出した答え。相手の会話を録音し、それを交渉材料にする。まともな戦闘訓練なんて受けていない自分の、精一杯の抵抗だ。

 

「私も、地球寮の皆も、これ以上危険な事に巻き込まれたくないの!だから…!」

 

「話になりませんね」

 

「え?」

 

 だが、そんな事でソフィとノレアが止まる訳無い。

 

「それ!」

 

「っ!?」

 

 先ず、ソフィが手に持っていた買ったばかりのハロをニカ目掛けて投げつける。ニカはそれを、とっさに目をつぶったまま両腕でガード。だがその間に、ソフィは一気にニカに接近。

 

「よいしょっと!」

 

「ぐっ!?」

 

 そしてそのままの勢いで、ニカの腕に飛び蹴りを食らわせたのだ。

 

「つっ…あ…」

 

 ニカは端末を落とし、その場にうずくまる。折れてはいないだろうが、骨にヒビが入っているみたいだ。その痛みで、もう禄に抵抗できない。

 

「ダメだって。そんな柄にも無い事しちゃさ。そういうのは、もっと訓練とかしてからじゃないと」

 

 ソフィはニカの持っていた端末を踏み潰し、ニカを見下ろす。

 

「どいて、ソフィ」

 

 すると、今度はノレアが懐からナイフを取り出して、ニカに近づく。

 

「あ、始末するの?」

 

「こんな風に邪魔されたらね。死体は適当にゴミ処理場に放り込めば、明日には燃えて消えるでしょ」

 

 ノレアは、本気でニカを殺すきだ。そもそも、ニカはこちら側の人間。なのに、こうして邪魔をしている。こんなの、裏切り行為にほかならない。

 

「ま、待って…」

 

「待ちませんよ。そもそも、どうしてそんな被害者みたいな顔をしてるんですか?アーシアンの孤児が、見返り無しでこんな学校に通えると、本気で思ってました?」

 

「それは…!」

 

 そんな事、ずっと前から知っている。でも、それでもニカはもう嫌だったのだ。地球寮の皆と、三日月を裏切るのが。もう、この罪悪感に耐えられない。

 だから抵抗したのに、このザマだ。情けなくて、涙が出そうになる。

 

「まぁ、安心してください。直ぐにあの三日月・オーガスも始末しますから。その時は、同じ方法で死体を処理してあげますよ」

 

「……え?」

 

 だがノレアのその言葉を聞いて、ニカは涙を全部引っ込めた。

 

「三日月くんを、殺す…?」

 

「そりゃ殺しますよ。彼さえいなければ、バルバトスはまともに動かない。バルバトスと直接戦って勝てないのなら、パイロットを狙うのは当たり前じゃないですか」

 

「ちょっとノレア!お兄ちゃんは殺さないでよ!!」

 

「我慢してソフィ。あいつに、プラント・クエタでどれだけ仲間が殺されたか忘れた訳じゃないでしょ?」

 

「まさか…目的は復讐?」

 

 ようやくニカは、合点がいった顔をする。どうしてノレアが、ずっと三日月にあんな視線を送っていたのか。

 その答えは、復讐。今の会話から察するに、ノレアとソフィは、プラント・クエタを襲撃した

テロ組織にいたのだろう。そこでバルバトスの圧倒的な力を見て、三日月自身の殺害を考えたに違いない。でないと、説明がつかないし。

 

「あなた1人が頑張ったところで、地球の状況は何も変わらない。現実、舐めてますよね?」

 

 ノレアはニカの眼の前まで来て、ナイフを持った手をニカに向ける。

 

「本当に、反吐が出る」

 

 そして、そのままのニカにナイフを突き刺そうとした。

 

 しかし、

 

 ガシッ!!

 

「っ!?」

 

「へぇ?」

 

 なんとニカは、ナイフが自分に刺さる直前で、無事だった左手でナイフを掴んで止めたのだ。当然、ナイフの刃の部分を掴んでいるので、ニカの左手掌からは血が流れ出る。

 

「だめ…それだけは絶対にダメ…!!」

 

 ニカは、激痛に耐えながらも抵抗を開始。自分が殺されるのはいい。でも、三日月を殺されるのは絶対に許容できない。自分がそんな事思う資格なんて無いが、それでもこれだけは絶対に許さない。

 

 例えここで殺されても、自分が好いてしまった人は守ってみせる。それが、今のニカの覚悟であった。

 

「抵抗なんてせず、さっさと死んでくれたほうが楽になりっ!?」

 

 その時だ。突然、ノレア目掛けて何かが飛んできたのは。とっさにナイフを手放し、ノレアはそれを避ける。

 

「レンチ?」

 

 ノレアが視線を動かすと、そこには工具であるモンキーレンチが落ちていた。そしてそれが投げられたであろう方向に目を向けると、

 

「ふっ!」

 

「くっ!?」

 

 ラチェットを持った三日月が、ノレアに攻撃をしてきた。ノレアはその攻撃を、なんとか避ける。

 

「あーもう!今は邪魔しないでよお兄ちゃん!!」

 

 それを見たソフィが、三日月後ろから蹴りによる攻撃をする。

 

「っ!」

 

「あ、避けられた。やるじゃん、お兄ちゃん」

 

 だがその攻撃が、三日月に当たる事は無かった。

 

「しっ!!」

 

「おっと!危ないなぁ!!」

 

 そして三日月は、すかさずソフィにも攻撃をする。でも、ソフィはその攻撃を避ける。

 

「死ねっ!!」

 

 今度はノレアが、隠し持っていたナイフで三日月を攻撃。しかし、

 

「ぐっ!?」

 

 三日月はそれを避けると、ラチェットをノレアの脇腹に当てる。かなりの鈍痛がノレアを襲い、手にしていたナイフを落としてしまう。

 

「ノレア!!」

 

 それを見たソフィが、ハロを再び拾って三日月に投げつける。だが三日月はそれをラチェットを叩きつけて、ハロを破壊した。寿命、僅か半日足らずである。そして攻撃に失敗したソフィとノレアは、1度三日月から距離を取った。

 

「み、三日月くん…」

 

「ニカ、大丈夫?」

 

「う、うん。少し怪我してるけど、大したことないよ」

 

「どう見ても嘘でしょそれ。手からすっごい血出てるじゃん」

 

 三日月の言う通り、ニカは今かなり我慢している。普通に凄く痛いからだ。そして三日月は、ニカを背中で庇うようにニカの前に立ち、ソフィとノレアを真っ直ぐに見据える。その目には、明らかに殺意がこもっていた。

 

「どうするのノレア。お兄ちゃん凄く強いよ?」

 

「……」

 

 ちょっと想定外だ。三日月は身長が低いし、そこまでじゃ無いと思っていたが、思ってたよりずっと強い。せめて銃があれば良いのだが、流石に学園に銃は持ち込めない。一体どうするべきか、ノレアは頭を悩ませる。

 

「……ああ、やっぱりそうか」

 

「は?何がですか?」

 

 だが三日月は、突然よくわからない事を口にする。ノレアとソフィが疑問符を浮かべていると、三日月は更に喋りだす。

 

「元々昨日初めて会った時から、ずっとどこかで聞いた声だって思ってたけど、今わかったよ。お前ら、プラント・クエタで俺達を襲ったガンダムのパイロットだろ

 

 そしてなんと、ノレアとソフィの正体を看破したのだ。

 

「ガンダムの、パイロット…?」

 

「うん。エアリアルとは違う感じのガンダムのね」

 

「…何の事ですか?」

 

「とぼけなくていいから。オープンチャンネルでお前の声聞いてたし」

 

 いくらなんでも、それはおかしい。確かに声は同じだが、あの戦場で聞いた声を覚えておいて、更にそれが自分達と一緒だなんて普通はわからない。

 

 しかし、三日月には天性の勘の良さと洞察力があるのだ。

 

 だから、声だけでも相手が誰なのかわかってしまう。もしノレアとソフィが、変装した状態で以前三日月と会っていたとしても、三日月はそれを瞬時に見抜くだろう。実際、エランと強化人士4号の違いを彼は一目で見抜いているし。三日月に正体を見破れないようにするには、徹頭徹尾姿を隠して置くしか無い。

 

「これまでは別に変な事してないから何もしなかったけど、お前ら、ニカに何したの?」

 

 そして三日月は、ゆっくりとノレア達に近づく。その手には、相変わらずラチェットが握られている。少々心もとないかもだが、これなら武器として扱えるだろう。

 

「羨ましいですね。まるで絵本に出てくる、お姫様を守ってくれる騎士や王子様じゃないですか。あなたに、そんな事される資格なんて無いでしょうに」

 

「っ…!」

 

 ノレアは、ニカに対して皮肉を言う。自分達の仲間なのに、ニカは三日月に守ってもらえている。そんな価値、無いはずなのに。別に羨ましいとは思っていないが、心底ムカツク。

 

「けどまぁ、そんな事はどうでもいいです。三日月・オーガス、そこから1歩も動かないでください」

 

 そして次の瞬間、ノレアは端末を取り出してそう言った。

 

「この学園の外壁に、爆弾を仕掛けています。それ以上近づいたら、この端末で爆弾を起爆させます。そうなったら、どれだけの人間が宇宙に放り出されるでしょうね?」

 

「何それ?そんな嘘に、俺が騙されると思ってるの?」

 

「試してみますか?こっちはいいですよ?」

 

 無論、三日月の言う通りこれはブラフだ。流石に学園に来て数日で、学園の外壁を破壊できるほどの

爆弾を用意も設置もできない。

 しかし、現状はこのハッタリで乗り切らないといけない。でもできれば、もう一手何かほしい。

 

「そうだ!ねぇお兄ちゃん、決闘しない?」

 

「は?」

 

 すると今度は、ソフィが思いついたようにそんな提案をしてきた。

 

「この学校ってさ、人が誰も死なないあのお遊び決闘に勝ったら何でもしていいんでしょ?だからさ、私達と決闘して、こっちが勝ったら私の本当のお兄ちゃんになってよ。その変わり、この場はお互い引かない?爆弾も起爆させないって約束するしさ」

 

「いやお前らを信用できないし、そもそもそれ、俺が勝ったらどうするの?」

 

「大人しく、この学校から出ていってあげる。そして、2度とお兄ちゃん達の前に現れないって約束するよ」

 

「知るかよ」

 

 ソフィはそう言うが、三日月はそれを聞く気はまるで無い。爆弾はハッタリだろうし、そもそも決闘なんてしなくても、この場で仕留めればそれで終わるからだ。なので無視して、そのまま踏む混んで2人を仕留めようとしたが、

 

「ダメ!!」

 

「ニカ?」

 

「ダメだよ三日月くん!爆弾が嘘か本当かわからないんじゃ、うかつに動いちゃダメ!!もし本当にあったら、スレッタが死ぬかもしれないし!!」

 

 ニカは三日月の腕を掴んで止める。なんせ、相手は本物のテロリスト。爆弾だって、本当に設置している可能性がある。それに、まだ他にも仲間がいるかもしれない。だから、不安要素のあるこの場は引くべきだ。

 

「だからお願い!ここは痛っつ…!」

 

「……わかった」

 

「ふふ、決まりだね」

 

 できればこのまま2人をぶちのめしておきたいが、ニカに必死に止められた上、そのニカ自身が血を流す怪我をして痛がっている。今は一応ソフィやノレアの言う事を聞いて、ニカの治療を行ったほうが

いいだろう。三日月はそう思い、武器として使用していたラチェットを下ろす。

 

「では、ソフィが言った通り、爆弾は爆発させません。そして、明日のランブルリングまで大人しくしておきます」

 

「何かしたら、今度こそ殺すから」

 

「そうですか。では」

 

「じゃあねーお兄ちゃん。また明日」

 

 そしてノレアも、端末をしまってその場をソフィと共に立ち去る。残されたのは、三日月と両手を怪我しているニカだけだ。

 

「ニカ、そのまま動かないで」

 

「うん…」

 

 三日月はラチェットを床に置くと、ポケットからハンカチを取り出して、ニカの左手に巻く。水星にいた頃、スレッタのレスキュー活動の手伝いをしていた時に覚えた事だ。これで一応、止血ができた。だが、所詮は応急処置。やはり直ぐにちゃんとした場所で、治療を受けないといけないだろう。

 

「ありがとう、三日月くん」

 

「別にいいよ。とりあえず、医務室行く?」

 

「うん…あ、でも、この怪我は道具を扱いを間違えたっと事にしておいて…その、そのままの事言っても信用されないし、何より事情があるから…」

 

「わかったよ。じゃあ」

 

 そう言うと三日月は、ニカを両腕で抱きかかえる。俗にいう、お姫様抱っこで。

 

「へ?」

 

「じゃ、これで医務室行くね」

 

 そして三日月は、そのままニカを医務室まで運びに行く。

 

「ちょ、ちょっと待って三日月くん!?流石にこれは恥ずかしいんだけど!?せめて背中におぶらせてくれない!?そもそも三日月くんはまだ腕が本調子じゃないでしょ!?」

 

「腕なら別にもう大丈夫だよ。それに、こっちの方が運びやすいし」

 

「で、でも!!」

 

「いいから。あと喋ると舌噛むから、ちょっと黙ってて」

 

「……うん」

 

 生まれて初めて、こんな事をされた。まるで学校に来てから初めて読んだコミックのような出来事。

それも相手は、自分が好きになった男の子。でも自分は、こんな事される資格なんて無い。

 だって、三日月が腕に障害を残してしまったのは自分の責任だ。それに、自分はシャディクの仲間。三日月にとっては敵もいいところ。そんな自分が、こんな事されて良い訳が無い。

 

(でも、今だけ、この少しの間だけは…)

 

 だけど、ニカは今だけその罪悪感から目を背ける事にした。別に自分が三日月と結ばれたいとは思っていない。ただ今この瞬間だけは、彼に甘えたい。それが、ニカのほんの少しの我儘だった。

 

 そうしてニカは、三日月にお姫様抱っこされた状態で、医務室に運ばれる。そこで適切な治療を受けて、大事にはならずに済んだのであった。三日月にお姫様抱っこされながら運ばれた場面を、誰にも見られずに済んだのは、幸運だったかもしれない。

 

 

 

「は?何あれ?あいつ何してんの?」

 

 

 

 しかし実は、その様子をとある女生徒だけは見ていたりする。

 

 

 

 

 アスティカシア学園 物資搬入用ドック

 

「全く、忙しくて嫌になるな」

 

 学園で働いているとある職員。明日に迫ったオープンキャンパスのせいで、彼はここ数日とても忙しかった。来客用の食事や、イベント参加用の道具。他にも様々な物が搬入されている。それらの対応をしないといけないので、最近は残業ばかりで疲れていた。

 

「は?何だあのバカでかいの?」

 

 そんな彼の眼の前に、かなり大きなコンテナが2つと、とても大きなコンテナが1つ運ばれている。大きなコンテナの方は、まだたまに扱ったりするのでわかるが、もうひとつのとても大きなコンテナは今まで見たことが無いくらい大きい。一体、何が入っているというのか。

 

「なぁおい。あの超でかいコンテナ、何だ?」

 

「あれか。学園の空調機がいくつか故障してるらしくてな。その空調機の新品なんだと」

 

「空調機?にしては、大きくないか?」

 

「そうか?何個か入ってるらしいし、あんなものだろ?」

 

 近くにいた同僚に聞いてみると、コンテナの中身は、空調機らしい。確かにコロニーなどで扱う空調機は大きいが、それでも大きい気がする。

 

「ふーん…で、これはどこに運ぶんだ?」

 

「とりあえず、学園最下層の使われていない格納庫だな。あそこ無駄に広いし。後は後日やってくる修理業者の仕事だ」

 

「わかった。じゃあ直ぐにコンテナ用のモノレールを用意する」

 

 そう言うと職員は、学園の外郭を走るコンテナを運ぶ専用のモノレールを準備する。

 

 こうしてとても大きなコンテナは、特に不審がられずに学園の中に運ばれた。

 

 

 

 その中身が、とても恐ろしい物だと知られずに。

 

 

 

 

 

 




 書いていたら、なんかニカ回になった気がする。
 矛盾やどこかおかしいところなどあれば言ってください。修正いたします。

 そしていよいよ、次回からランブルリングなんですが、その事でアンケートを設置しております。今後の参考にしたいので、可能であればお答えください。

 それでは、また次回。じゃあね。

ランブルリングの被害は、

  • 原作通り割と軽微
  • 原作以上に被害甚大
  • 三日月が超頑張って被害無し
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