悪魔と魔女の物語   作:ゾキラファス

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 これで書き貯めは終わり。3日連続投稿(正確には違う)は初めてでした。次回以降は、気長にお待ちください。
 そして何時も沢山の感想とお気に入り登録と評価、本当にありがとうございます。大変励みになっています。感想の方は、今度纏めて返信するので、どうかお待ちください。

 今回、まだイキリ御曹司だった頃の彼が登場。

 追記 感想にてご指摘があったので、1部を変更しました。


花嫁と決闘

 

 

 

 

 

 アスティカシア高等専門学園。

 地球圏の、フロント73区に存在する教育機関だ。ベネリットグループが運営し、在籍している生徒の多くがグループ内の企業の子供たち。パイロット科、メカニック科、経営戦略科の3つの科があり、特にパイロット科は一目置かれている。

 しかし学園と言われているが、普通の学校とは違い、どちらかと言えばベネリットグループの私塾に近い。内部はかなり広く作られており、通学用に電動バイクの使用が認められ、その他に通学用のモノレールやバスもある。

 

「うわぁ…凄い…」

 

「広いね」

 

 そんな学園にたどり着いた編入生、スレッタ・マーキュリーと、三日月・オーガス。2人は今、学園内のモノレールに乗り、パイロット科の実習の見学へ向かっていた。

 

「あ、モビルスーツだ。確か、デミトレーナーだっけ?」

 

「俺たち、あれに乗って授業受けるんだよね」

 

 モノレールから外を見て見ると、校舎のすぐ傍をブリオン社製のモビルスーツ『デミトレーナー』が歩いていた。アスティカシア学園のパイロット科の生徒は、皆あれに乗って授業を受ける。いわば生徒用の練習機だ。

 

「あれ?でも向こうにいるのはデミトレーナーじゃないね?」

 

 しかしそれ以外のモビルスーツも見受けられる。スレッタの視線の先には、全身が細く緑色で、腰に斧型の近接武器。そしてまるでハイヒールのような足をしているひとつ目のモビルスーツがいた。そしてその隣には、全体的に丸っぽくずんぐりむっくりとした、白とオレンジのツートンカラーのモビルスーツもいる。

 その2機が運搬用のトレーラーに乗せられて、どこかに運ばれて行っていた。

 

「生徒は自分のモビルスーツを持ってきてもいいから、あれもそれじゃない?」

 

「あ、そっか。私のエアリアルと、三日月のバルバトスみたいなものだね」

 

 アスティカシアには様々な校則があるが、その中のひとつに『生徒自身のモビルスーツの持ち込みを許可する』というのがある。これは学校に通っている生徒の多くがベネリットグループ傘下の企業の子供であり、その企業が自社製のモビルスーツのPRや、データ収集や改良を学園で行うために出来た校則だ。この校則のおかげで、スレッタと三日月はエアリアルとバルバトスを学校に持ってこられている。

 尤も、持ってきたモビルスーツは授業では使えないのだが。

 

「着いたよ。降りよ」

 

「うん」

 

 目的地についた2人は、モノレールから降りる。

 

 そしてモビルスーツの実習がされている、演習区画にやってきたのだ。

 

 

 

「わぁ…」

 

 つい口を開いてそう呟くスレッタ。演習区画には数多くのデミトレーナーと生徒がいて、授業を受けていた。

パイロット科の生徒やメカニック科の生徒や教師。ぱっと見ただけで100人以上はいる。水星にはこんなに大勢の若者なんていない。感動してしまうのも当然だ。

 

「……」

 

「あ、三日月。授業中なんだから食べちゃダメだよ」

 

 因みに三日月は、スレッタの横で火星ヤシを摘まんでいた。

 

「ところでさ。なんかさっきから視線感じるんだけど」

 

「あ。それは私も思った」

 

 スレッタと三日月が周りを見渡すと、幾人かの生徒が自分たちを興味深そうに見ている。

 

「何だろうね?」

 

「さぁ?」

 

 見られている理由が思いつかない2人。制服もしっかり着ているし、髪型だって綺麗にセットした。歯もしっかり磨いたし、顔もちゃんと洗った。特に変な所なんてない筈だ。

 

「えっと、スレッタ・マーキュリーさんと、三日月・オーガスくん?」

 

 そうやっていると、後ろから声をかけられた。

 

「え?」

 

「ん?」

 

 名前を呼ばれた2人が振り返ると、そこには学生用の作業服に身を包んでいる水色のインナーカラーの髪をした、大人しそうな女生徒がいた。

 

「初めまして。今日の2人の実習の面倒を見る事になりました、メカニック科2年のニカ・ナナウラです。よろしく。わからない事があったら何でも言ってね」

 

 女生徒の名前はニカ・ナナウラ。どうやら今日、スレッタと三日月のお世話をしてくれる生徒らしい。

 

「よ、よろしくお願いします!」

 

「よろしく」

 

 2人揃ってあいさつをする。しかしスレッタの方は、やや緊張気味だ。

 

「もしかして、スレッタさん緊張してる?」

 

「え、えっと、学校来たの初めてで…少し…」

 

「そうなの?」

 

「水星には学校が無いからね」

 

「そうなの!?」

 

 三日月の発言に驚くニカ。いくら水星が辺境と言っても、学校くらいあるだろうと無意識に思っていたからだ。

 

「ところでさ、さっきから皆こっち見てない?」

 

 そんなニカに、三日月は早速質問をする。

 

「あ、ああ。それは2人が水星からの編入生だからだね」

 

「え?それだけ?」

 

「そりゃそうだよ。だって水星なんて凄く遠いところなんだし」

 

 どうやら自分たちが見られているのは、水星から来たかららしい。ここアスティカシアは、在籍している生徒の殆どが地球圏出身の者たちだ。火星や金星生まれもいるが、それでも水星なんてとても遠いところからやってきた編入生なんて今までいなかった。気になるのは仕方が無い事だろう。そんな時である。

 

「ねぇねぇ!水星からやってきた編入生ってあんたら?」

 

「え?」

 

 3人の女生徒が、話に割り込んできたのは。

 

「てかさ、水星って人住んでたんだ」

 

「だよねー。まさかそんな辺境から来るなんて」

 

「よくここにこれたね。ここアスティカシアだよ?」

 

 やや棘のある言い方でスレッタに一方的に話す3人。スレッタは少し困惑気味だ。

 

「専科は?」

 

「えっと、パイロット科です。私も、後ろにいる三日月も」

 

「へー!エリートじゃん!」

 

「エリート?」

 

「知らないの?ここのパイロット科はすっごく試験が難しいから、受かっただけでエリートって呼ばれるんだよ」

 

「あ…そう言えばそんな記憶が…」

 

 初めての学校に浮かれすぎて、その辺の話がすっぽり抜けていた。このアスティカシア学園のパイロット科を卒業した生徒は、エース部隊と言われているドミニコス隊へ入隊する事も可能なのだ、故にエリート。

 そういう訳で学外のパイロットも、アスティカシア学園のパイロット科の生徒の事をよく見ている。将来、自分たちと一緒に戦うかもしれないからだ。

 

「ていうかさ、2人ってどういう関係?」

 

 そうやって思い出していると、今度は別の質問がきた。内容は、自分と三日月の事らしい。

 

「えっと、関係って?」

 

「だから恋人とか」

 

「こっ!?」

 

 その質問に、声が上ずるスレッタ。

 

「ち、違います!三日月とは家族とか弟みたいなもので…!そんなんじゃ…!」

 

 スレッタは顔を赤くし、両手を横にぶんぶん振りながら否定する。

 

「お?その反応は少し怪しいかな?」

 

「無自覚な感じかも?」

 

「だったら意外と早かったり?」

 

「本当に違いますよ!?」

 

 スレッタの反応を見て面白がる3人。辺境の水星からやってきた男女の2人。しかもお互い距離感が近い。そして学生と言えば、恋バナだ。こうやって興味を持つのは仕方が無い。

 

 一方で三日月は、興味なさそうに演習区画を見ている。

 

「ねぇねぇ!2人って本当にどういう関係!?」

 

「幼馴染とか!?それとも許嫁!?」

 

「もしくはお嬢様と護衛のボディーガード!?」

 

「あ、あの…その…」

 

 スレッタは未だに3人に囲まれている。そして質問内容は、もっぱらスレッタと三日月の関係について。おまけに目を輝かせている。しかしスレッタは緊張して上手く話せずに、しどろもどろになってしまっている。

 

「あーー!?あの時の邪魔女!!」

 

「うえぇ!?」

 

 そうやって囲まれていると、突然スレッタは後ろから大声で叫ばれた。思わず肩がびくっとする。

 

「あ、昨日の要救助者」

 

「誰が要救助者よ!?」

 

 三日月が声の主の事をそう呼ぶ。その三日月の言葉で、スレッタは直ぐに思い出す。

 

「あ、昨日学校前で助けた子…」

 

「違う!助けたんじゃなくて邪魔したんでしょ!?」

 

「ひぃ!?ごめんなさい!?」

 

 それは学校に来る時に助けた、銀色の綺麗で長い髪をした美しい少女だった。

 

「み、ミオリネさん…」

 

「ミオリネ?それってあいつの名前?」

 

「うん。ミオリネ・レンブラン。経営戦略科の生徒で、ベネリットグループの総裁、デリング総裁の娘さんだよ」

 

「へー」

 

 ニカが三日月に少女の事を教える。その名を、ミオリネ・レンブラン。ベネリットグループ総裁、デリング・レンブランの1人娘である。容姿端麗、成績優秀な経営戦略科に所属している2年生。

 しかしこの容姿に似合わず、かなり口が悪い。一部では『黙っていれば儚い深窓の令嬢』と言われている。おまけに父親のある取り決めのせいで、絶賛反抗期の真っ最中だ。おかげで、学園では少し浮いている。

 

「もう本当に最悪!本当にあと少しだったのに!!あんた一体何がしたかったのよ!?」

 

「え、えーっと。助けたかったから?」

 

「何で疑問形よ!?本当に腹立つ!!」

 

 スレッタに対して、ギャイギャイと叫ぶ少女ミオリネ。そんなミオリネに巻き込まれないよう、先程までスレッタに話を聞いていた3人の女生徒は距離を取る。そしてニカも同じように距離を取っていた。

 

「……」

 

「え!?ちょっと三日月くん!?」

 

 しかし三日月は他の人とは反対に、ミオリネに近づいていく。

 

「ねぇ」

 

「何よ!?今取り込み中なんだけど!?」

 

「お前うるさいよ」

 

 そしてたった一言で、ミオリネを黙らせた。

 

「な、何…」

 

「だからうるさいって」

 

 ミオリネが反撃しようとしたが、三日月はそれすら黙らせる。三日月がこんな風にミオリネに言うのは、単純にスレッタにミオリネが噛みついているからだ。ミオリネにも何か事情があって昨日あんな場所にいたんだろうが、それはそれとしてこの態度はムカつく。折角助けたというのに、ここまでスレッタにギャイギャイ言う必要は無いだろう。なので少し黙らせる。

 

「ちょっ…!三日月っ…!!」

 

 スレッタが三日月を落ち着かせる。このままでは喧嘩になってしまうかもしれないからだ。流石に編入初日に暴力沙汰は見たくない。

 

「おいそこ!授業中だぞ!私語は慎め!!」

 

「っつ……ふんっ!」

 

 三日月と教師に言われたのと、周りの視線が自分を見ているのに気が付いたのか、ミオリネは口を閉じた。しかしその時、今度はけたたましい音が鳴る。

 

「これは?」

 

 それは何かのサイレンのような音。それが、演習区画全域に鳴り響く。同時に、外壁のモニターの映像が変更される。

 

「何かの訓練?」

 

「違う。これは…」

 

 三日月の発言に、ニカがすぐに違うと言う。すると演習区画の天井に、誰かの名前がデカデカと表示された。そしてそれと同時に、演習区画のとあるゲートが開く。すると中から、それぞれ異なる2機のモビルスーツが、鍔迫り合いをしながら演習区画に入ってくる。

 

「何ですかあれ!?」

 

 まるで突然戦争でも起こったような事態に、スレッタは驚く。

 

「赤いディランザ…あれってホルダーの…」

 

「ホルダー?」

 

 ニカは、赤いモビルスーツの方は知っている様子だ。

 

『実習中失礼する。これは決闘委員会が承認した正式な決闘だ。立会人は、このシャディク・ゼネリが務める。各自手出し無用で願おうか』

 

 今度は男の声が聞こえる。よくわからないが、これは手出しをしたらいけないらしい。

 

「へぇ。あの赤い方、やるな」

 

 そして三日月は、その決闘と言われている戦いを見ていた。赤いモビルスーツのパイロットは、かなりの腕に見える。腕が良くなければ、あんな動きは出来ない。

 

「ねぇスレッタ。あれこっち来てない?」

 

「へ?」

 

 スレッタが突然の展開に驚いていると、2機のモビルスーツがこっちに向かってきた。正確には、赤いモビルスーツがもう1機のモビルスーツを押しながらこっちに来ているのだが。

 

「スレッタさん!!」

 

 ニカが声を上げて叫ぶ。何時の間にか、モビルスーツがスレッタの目の前に来ていたからだ。

 

「こっち」

 

「あ」

 

「ちょ!?」

 

 このままではモビルスーツに踏みつぶされるかもしれなかったが、三日月がスレッタと、おまけで直ぐ横にいたミオリネの手をひいて走り出す。

 そして走っている途中で、1機のモビルスーツが頭を破壊されて、地面に倒れ、土埃が舞う。

 

「大丈夫?スレッタ?」

 

「あ、うん…ありがとう、三日月」

 

 土埃が晴れた時、スレッタは三日月に抱きしめられるように倒れていた。どこも怪我なんて無い。三日月のおかげだ。因みにこの時、一部の女生徒から黄色い声が上がっていた。

 

「ちょっと!手をひいたのなら私も最後まで助けなさいよ!」

 

「あ、ごめん」

 

 おまけで手を引いたミオリネの方は、そのまま地面に倒れていた。少し制服が汚れているが、こっちも怪我は無い。

 

「見たかミオリネ!!このグエル・ジェタークの決闘を!!」

 

 安心していると、赤いモビルスーツのハッチから男が出てきて、ミオリネに向かって叫ぶ。

 

「俺はお前も会社も、全部手に入れてみせるぞ!!婚約者としてなぁ!!」

 

 そして堂々とした姿で、何やら凄い事を言い出した。

 

「あれが告白ってやつ?」

 

「た、多分!」

 

「違うわよ!!」

 

 妙な勘違いをしている2人に、ミオリネはツッコむ。

 

「こいつは俺を笑ったんだ。花嫁に夜逃げされた男ってな!今から虫の言葉で謝罪するからお前も見ていけよ!きっと傑作だぞ!」

 

 男が指さす方向には、破壊されたモビルスーツのパイロットがいた。地面に両手両膝をついて項垂れている。顔は見えないが、恐らく相当に悔しがっているのだろう。

 

「最っ低」

 

 そんな光景を見たミオリネは、その場から歩き出す。

 

「スレッタさん!三日月くん!大丈夫ですか!?」

 

 スレッタと三日月に、ニカが心配そうに話しかける。

 

「あの、ごめんなさい!私ちょっと行ってきます!」

 

「え?」

 

 そしてスレッタはそう言うと、急いで先ほどの少女の後を追った。

 

「俺も行くよ」

 

「ええ!?」

 

 ついでに三日月も、スレッタの後を追う。

 

「あの2人共!?見学はーーー!?」

 

 1人その場に残されたニカは、そこで寂しく2人の背中を見ながら叫ぶのだった。

 

 

 

 

 

 学園内にある森林エリアの一角。そこには、横から見たら鉄アレイのような形をしているガラス張りの建物があった。その中には、色んな植物と赤い野菜が栽培されている。

 

「ただいま…」

 

 先程の婚約者の発言といい、脱走しようとしたら予定外の者に助けられたりと散々な1日を過ごしたミオリネは、小さな声でそう呟く。ここはミオリネが作った温室。学園内でほぼ唯一心が安らぐ場所だ。今はここで少し落ち着きたい。

 

「あ、あのー…」

 

 そんな場所に、あまり聞きたくない声が聞こえた。

 

「何か用?」

 

 ミオリネが振り返ると、自分の学園からの脱出を邪魔した赤毛の女スレッタと、先程自分に『うるさい』と言った、男子にしてはやや身長が低い黒髪の男子、三日月がいた。そして男子の方は、ポケットから何かを取り出して食べている。

 

「昨日は、ごめんなさい…」

 

 一方で女子の方は、頭を下げて謝罪をする。

 

「えっと、勝手に勘違いして助けて…」

 

「……もういいわよ。私も言い過ぎたわ。ごめん」

 

 先程までのミオリネは、自分が冷静じゃなかったと少し恥じる。彼女が学園からの脱出を邪魔したのは事実だが、そんな事を知らない赤毛の彼女は、善意で自分を助けてくれたのだ。

 確かにあれは傍から見れば、自分は宇宙空間に漂っている要救助者に見えただろう。そんな自分を助けてくれたのに、あの態度は酷い。あれじゃただのヒステリックな女だ。なのでミオリネは謝る。

 

「それにしても、凄いですね婚約者だなんて。私、そんなのコミックでしか見た事ないですよ」

 

「やめて!あんな奴を婚約者だなんて、私は認めてないから!!」

 

「へ?」

 

 ミオリネの発言を聞いたスレッタは、あっけに取られる。

 

「この学園ではね、生徒同士の大切な物を賭けて決闘をするのよ。お金、権利、謝罪、情報、モビルスーツ、そして結婚相手……」

 

「決闘?」

 

「あんたもさっき見たでしょ?あれよ。モビルスーツを使った戦い。勿論、死人が出ないよう出力は調整してるけどね」

 

 決闘。それがこのアスティカシア学園最大の特徴だ。ミオリネが言ったように、この学園では生徒同士の決闘が認められている。

 そして負けた方は、勝った方の言う事を何でも聞かないといけない。ただし、命に係わるようなのはダメだが。

 

「へぇ。わかりやすいねそれ」

 

「だ、ダメだよ三日月!そんな事言っちゃ!」

 

 なんともわかりやすいシステムに、三日月は共感する。そんな三日月に、スレッタは慌てて口を閉じさせる。だってミオリネは、明らかに決闘が好きじゃなさそうだし。

 

「あの、ところで…」

 

「あーもう!今度は一体なによ!?」

 

 ミオリネが温室の床にある冷蔵庫を開けていると、スレッタが質問をしてくる。そのスレッタの目線の先には、赤い何かがあった。

 

「もしかして、それがトマトですか?」

 

「は?見ればわかるでしょ?」

 

「ご、ごめんなさい…トマトって、本物見たの初めてで…」

 

「え?初めて?」

 

 スレッタの発言に、首を傾げるミオリネ。だってトマトだ。こんなの、どこにだってありふれている野菜である。それを見た事無いとは、どういう事だろうか。

 

「水星人って普段何食べてるのよ…」

 

「えっと、宇宙用のゼリーとか、クッキーとか、あとは、火星ヤシ?」

 

「火星ヤシって、随分マイナーな物を食べてるわね…」

 

 どうして水星で火星でしか栽培していない火星ヤシを食べているかはよくわからないが、他に食べ物が無いのだろうとミオリネは当たりをつける。以前授業で、水星は非常に過酷な環境だと習った。そんな酷い場所なら、野菜なんてまともに育たないのだろうし。

 

「あげる」

 

「あ、ありがとうございます…」

 

「あんたも」

 

「ありがと」

 

 流石に自分と同じ年くらいで、トマトを食べた事が無いのは不憫だ。なのでさっきの謝罪も含めて、ミオリネはトマトを2つ差し出す。

 

「あれ?ん?」

 

「これどうやって食べるの?」

 

「は?」

 

 しかし当の2人は、トマトの食べ方がわからないらしい。流石に『そんな人いるのか?』と口をあんぐりさせるミオリネ。

 

「……皮とか剥かずにそのままかぶりつく」

 

「あ、はい」

 

 まさかトマトの料理法じゃなくて、食べ方を教える日が来るとは思わなかった。そしてミオリネに言われた通り、スレッタと三日月はトマトにかぶりつく。

 

「ん!!美味しい!!これ凄く美味しいです!!」

 

「ん。確かに美味しい」

 

 初めて食べるトマトに感動する2人。三日月ですら笑顔で食べている。余程美味しいトマトなのだろう。

 

「それは私のお母さんが作った特別なやつよ。美味しいのは当たり前」

 

 少し満足そうな顔でミオリネは、トマトのものであろう種を棚にしまう。

 

「凄いお母さんなんですね。私のお母さんも凄い人で、そんなお母さんに、水星を豊かにする為に学校で沢山勉強をしてきなさいって言われて、そしてここに…」

 

「そう…あんたのお母さんは生きてるのね」

 

「…?あ!ご、ごめんなさい!!」

 

 どうやら、ミオリネの母親は既に亡くなっているようだ。その事に気づいたスレッタは、即座に謝る。

 

「俺は違うけどね」

 

「いや、じゃああんたはどうしてここに来たのよ?」

 

 ミオリネは、今度はトマトを食べきった三日月を見る。

 

「スレッタを守るため」

 

「なっ!?」

 

 三日月の発言に、ミオリネは驚きながら頬を赤める。なんという直球な言葉。ここではそんな事を言える生徒は先ずいない。新鮮だ。

 

「だから三日月!そういうのダメだって!!」

 

「?何が?」

 

「だからそういうの!!」

 

(え!?何この2人!?もしかしてそういう関係なの!?)

 

 ミオリネ、ついそう思ってしまう。そりゃいきなり『この子を守る為』とか言う男子がいたらこうも思う。ミオリネだって年ごろの学生なのだ。多少、そういう話に興味だってある。

 

「あーもう!ちょっと生徒手帳貸して!どうせ帰り道わからないんでしょ!?学園マップ入れてあげるから!!だからさっさとここから出てって!!」

 

 なんか聞いているこっちが恥ずかしくなってきた。さっさとこの2人にはここから帰って貰おう。そして2人から生徒手帳を借り、学園マップをダウンロードする。

 

「は!また土いじりか?」

 

 その時、ミオリネは聞きたくも無い声を聴いた。

 

「グエルっ…!」

 

 スレッタと三日月の後ろから、大柄で白い制服を肩から着ている男が現れる。どうやら、グエルと言うらしい。

 

「あ、さっきの…」

 

 スレッタも覚えのある顔だ。先程、赤いモビルスーツに乗って決闘というのをやっていた男だ。

 

「ちょっと!勝手に入らないでよ!!」

 

「良い事を考えてな。ミオリネ、お前は今日から俺たちのジェターク寮で暮らせ。そうすれば、もう脱走なんて真似できないしな」

 

 ミオリネはグエルに温室に入るなと言うが、彼はそれを無視。そして一方的に話し始める。

 

「私は認めてないからね」

 

「お前の父親が決めたルールだろう」

 

「あら?親が決めたら絶対なの?流石パパの言いなりなだけはあるわね、グエル?」

 

 そのミオリネの煽りにキレたのか、グエルと呼ばれた男は温室内にあったハンドシャベルを手にすると、周りの壁掛けプランターを破壊し始めた。

 

「何してんのよ!?やめて!!」

 

 ミオリネがそう言ってグエルを取り押さえようとするが、体格差がありすぎる。とてもじゃないが、取り押さえるなんて不可能だ。逆にグエルに突き飛ばされ、温室の床にミオリネは倒れる。

 

「ほらほらお嬢様。頑張って~」

 

「早くしないと温室が全部壊れちゃうよー?」

 

 取り巻きであろう女生徒2人も、笑いながらそれを見ている。髪を右手で弄っている男も何も言わない。冷めた目でその光景を見ているだけだ。

 

「え、えっと…!その…!」

 

「スレッタ。危ないから前に出ないで」

 

「で、でも…!」

 

 どうすればいいかわからないスレッタに、三日月は自分の身体を盾にしてスレッタを守る。

 

「どうやら俺は優しすぎたようだ。お前の未来の夫として、これからは厳しくいかせてもらう。お前は大人しく俺の物になればいいんだよ!」

 

「ぐっ…!」

 

 ハンドシャベルをミオリネに向けて、グエルは言い放つ。まるで横暴が服を着て歩いているような男だ。しかし、ミオリネは何も出来ない。悔しくてしょうがない。泣きそうになる。

 

「ごめん三日月」

 

「あ」

 

 そんな時、

 

「ふんっ!!」

 

「いってぇ!?」

 

 三日月の背中から出てきたスレッタが突然、グエルの尻を思いっきり叩いたのだ。

 

『は?』

 

 あまりに突然の出来事に、その場にいた三日月以外の生徒が異口同音する。

 

「お、お母さんから教わらなかったんですか!?人の嫌がる事しちゃダメって!!物を壊したらダメって!!食べ物を粗末にしたらダメだって!!」

 

 足を震わせながら、スレッタはグエルに説教をする。正直怖いが、この光景を見ている方が嫌な気持ちになる。だからスレッタは勇気を出して前に進んで、グエルを止めたのだ。

 

 「ぐ、おおっ……!?」

 

 一方、尻をスレッタに思いっきり叩かれたグエルは、尻を押さえて痛がっていた。というか痛い。凄く痛い。もの凄く痛い。とっても痛い。こうして痛がる声を出す程に痛い。こんなに痛い尻叩きは初めてだ。

 

「てめぇ、何しやがる!?」

 

「ひぃ!?」

 

 少し痛みが引いたせいか、グエルは怒りの矛先をスレッタに向ける。この自分に尻叩きをしたのだ。それも皆が見ているこんな場所で。結果、グエルは頭が怒りで染まってしまったのだ。

 そしてスレッタに対して、手にしていたハンドシャベルを思いっきり振り下ろそうとした。スレッタはそれにびっくりして、思わず目を瞑ってしまう。

 

「あれ?」

 

 しかしいくら待っても何も起きない。スレッタが恐る恐る目を開けると、

 

「がっ…はっ…!?」

 

「……え」

 

 そこには、グエルの首を右手で思いっきり掴んでいる三日月がいた。

 

「……」

 

 三日月は一切笑っていない。それどころか、グエルの事をまるで仇でも見つけたような目をしている。そして更に右手の力を強める。

 

「や、やめっ!!離せっ……!!がぁはっ!?」

 

「兄さん!?」

 

「グエル先輩!?」

 

「ちょ、離せよあんた!!」

 

 それを見ていたグエルの取り巻きと思われる生徒たちが、三日月をグエルから引き離そうとするがビクともしない。この小さな体のどこにこれ程の力があるのかわからない。

 そして今の三日月にとって、目の前で息が出来ずに苦しんでいるグエルは、スレッタに危害を加えようとした敵だ。容赦なんてしない。このまま首を折るつもりでいる。

 

「何よ…これ…」

 

 その光景を見ているミオリネは、つい後ずさりをする。

 

「三日月ダメ!今すぐ離してあげて!!」

 

「……」

 

「三日月!!」

 

「……え?何?」

 

「その人から手を離して!!」

 

「いいの?でもこいつは」

 

「暴力はダメって言ったでしょ!?だから離して!!」

 

「わかった」

 

 慌てたスレッタが、三日月に直ぐに離すよう言う。すると三日月は、スレッタに言われた通りにグエルの首から手を離した。

 

「がはっ…!かはっ…!!」

 

「兄さん!しっかりして!!」

 

 グエルは温室の床に足をつき、手で首を押さえて息を整える。幸い、首は折れていないようだ。

 

「このチビィ…!俺が誰だかわかってるのか!?」

 

 未だに首の痛みが引かないグエルだが、それはそれとして目の前にいる三日月を睨みつける。

 

「いや知らないけど。誰?」

 

「ぷっ」

 

 その三日月の反応に、後ろにいたミオリネが吹く。

 

「俺はな!ベネリットグループ御三家の御曹司で、決闘委員会の筆頭で、現在のホルダーのグエル・ジェタークだぞ!!」

 

「ホルダーって、何…?」

 

「こ、このチビ!そんな事も知らねーのか!?いや、ただの無知か?要するに、決闘で選ばれたこの学園ナンバー1のパイロットだ!!」

 

「ふーん」

 

 グエルが力強く言うが、三日月は全く興味が無い。それどころか聞く耳を持っていない。

 

「あ、あの」

 

「何だ!?」

 

 そんな三日月の横から、スレッタが出てくる。

 

「ご、ごめんなさい。三日月が首掴んじゃって…その事は謝ります。本当にごめんなさい。でも、やっぱり誰であろうと、こんな事はしちゃいけません。だから、ミオリネさんに謝って下さい」

 

 そしてグエルに謝罪をする。しかしその内容は、三日月がやった事は謝るが、グエルがやった事は許さないというものだ。

 

「バカかお前は。この学園ではな、何が悪いかどうかは全部決闘で決めるんだよ。どうしてもこいつに謝って欲しいのなら、俺と決闘でもして勝ってから言うんだな」

 

 グエルの言う通り、この学園では決闘で全てが決まる。例え人として酷い事をしたとしても、決闘で勝てば正義なのだ。なので無茶ぶりのように、スレッタに対してそう言うのだが、

 

「…し、します」

 

「……は?」

 

「だから、貴方と決闘…します!」

 

 なんとスレッタは臆する事無く、決闘に挑むと言い出した。

 

「やめて!あんたには関係ないでしょ!?」

 

 ミオリネが直ぐにやめさせようとするが、

 

「面白い。その決闘受けてやろう」

 

 グエルはミオリネを無視して、スレッタと決闘を進める。

 

「俺が勝ったら、お前とそこのチビを学園から追い出すからな」

 

「は、はい!やります!私が勝ったら、ミオリネさんに謝って下さい」

 

「よし。ラウダ!直ぐに決闘委員会に連絡を入れて準備をさせろ!」

 

「わかったよ。兄さん」

 

「~~~!!このバカ!!」

 

 こうして、スレッタとグエルの決闘が決まってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 




 1期で首を絞めるガエリオパターンか、2期の腕を掴む『なにこれ?』のハッシュパターンのどっちにするかで本当にかなり悩みました。3回くらい書き直した。でもまぁ、スレッタのおかげで少しは軟化しているとはいえ、凶器(スコップ)持った人がそれを投げようとしていたら、状況的に三日月だったらこうするかなって…
 もし不評であれば変更します。

 因みにグエルくん。本気でスレッタにスコップ投げつけようとしていません。近くに投げようとしただけです。でも三日月にそんな事関係ありません。



 次回、魔女と悪魔降臨。

 追記 アンケートにセセリアがいない!? 言われるまで気が付きませんでした本当ごめんなさい! 次回、もう1度新しく取ります。

もしも三日月が『可愛いと思ったから』と言ってキスするとしたら?

  • スレッタ
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